◆「消える」人々 人々が忽然と姿を消す、という怪事件が相次いでいる。 ある者は家を飛び出し、ある者は運転していた車を突如側道に寄せて歩き去り、またある者は勤務中にも関わらず、仕事を投げ出して居なくなったという。 高齢者、若者、男性、女性。対象となる年齢層や性別はまったく関係性はなかった。共通しているのは、行方不明となる人々が、いずれも単身での生活を営んでいたこと。 暴力団の抗争の被害者か、カルト団体による拉致か、あるいは集団自殺サークルのような所謂「闇サイト」か……様々な憶測が飛び交っていた。 そんなある日。時刻にして、深夜2時を回るか回らないかといった頃合。 酒を飲んだ帰り道、終バスも逃してしまい、仕方なしに徒歩での帰宅を決意したサラリーマンが、40~50分ほどの時間をかけて寒空の下を歩き通し、幅の広い川を渡す大きな橋の中程に差し掛かっていた時。 ここを超えればいよいよ自宅……といったところだった。何の気なく、夜風に顔を当てて酔いを覚まそうとしたサラリーマンが、立ち止まり橋の手すりを掴み、下を流れる川をぐるりと見渡した。 そこから彼は、一部始終を目撃することとなった。 ◆「見た」人 「その彼は、何を見ることになるんだ?」 「……人が「消える」ところを」 リベリスタの問いかけに答えた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、瞳を微かに曇らせた。 「続けるね」 前置きし、イヴは状況の説明を始めた。内容は、以下の通り。 サラリーマンが橋の上から見た光景は、川原に人々が集まっている光景だった。夜の闇の中、街灯という頼りない光の下でも、かなりの人数がそこに集まっていたことがわかった。 早朝の体操でもあるまいに、一体何の目的で、そんな時間にそんなところに集っているのか?酔いの抜けないサラリーマンであっても、そうした感情を抱くほどには不審な光景だった。 橋を渡ったあとは、河川敷を見下ろせる堤防を歩いて帰るのが最も近い。そんなサラリーマンは好奇心から、通るついでに集団が何をしているのか少し見てみようという考えに至った。 橋を渡り、小高い堤防を歩きながら、サラリーマンは横目で河川敷の集団を見た。暗がりとはいえ、近づくにつれてそのシルエットははっきりと見えてくる。人数はおよそ十数名といったところだった。 しかし、彼らはそこに「集まって立っている」だけに見えた。特に何か大きい動きを見せるでもなく、互いに言葉を交わしているようでもなく。集団でぼんやりと立っているだけ。 結局、近づいたところでそんな様子。正体も知れない、薄気味の悪い集団。それ以上の印象を持てなかった。 ――とっとと帰って寝よう。寒いし。 そう思ったサラリーマンが視線を外そうとした刹那、そこにバラバラと立っていた十数名が一瞬で吸い寄せられるように一箇所に集まったかと思うと、そのまま一直線に飛んだ。ように見えた。 縄で縛られるかのようにひとまとめに集まった十数名は、さながら銃弾のような速度で、サラリーマンが今しがた渡ってきた橋の下へと吸い込まれてしまった。 その間、わずか数秒。 何が起こったか理解することを拒み、サラリーマンは一目散に逃げ出したのであった。 ◆「消した」もの 「……これは、もちろんエリューションの仕業。どうやら、少し厄介な奴」 イヴが曇らせた瞳の理由は、これだった。 川を渡す大きな橋の下。日中でも光の差し込まないこの場所は、夜になるといよいよ暗闇に飲み込まれる。ここに、大型のエリューションビーストが潜んでいるというのだ。 「形状は、カメレオンに近いけれど、少し……いいえ、かなり違う」 第一の違いは、そのサイズだ。鼻先から尻尾まで、全長は10mにも達する。体高、体重、及び身体能力も、それに伴い激増している。 第二に、爪や歯に含まれる毒。獲物の体を破壊し、直接毒を注入できる、極めて有害な能力である。 第三に挙げられるのは、頭部の「袋」。ある意味では、これが最も異質な点だといえる。 「こいつは、河川敷に集まっていた人たちを、食い殺したわけではないの」 ネズミが餌を頬袋に貯めこむように、舌で絡めとり一瞬で口に入れた人々を、口内の「袋」に生きたまま入れているというのだ。 その目的はまったくもって不明であるが、ここ最近起こっていた集団行方不明事件と今回のケースは符合する点が多い。恐怖は、断ち切らねばなるまい。 この人々が捕獲されるまでには間に合わない可能性が大だが、エリューションがその場から離脱する前には到着できる見込みだという。イヴは手早く資料を配布した。 「エリューションの詳しい攻撃方法は、これを確認しておいて」 もはや一刻の猶予もない。作戦は道中で立てると決めたリベリスタたちは、現場へと走りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:クロミツ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月13日(日)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● モクテキ、タッセー。 シュウカク、ジューニ、ニン。 アト、モドル、ダケ。 「到着致しました。皆様、ポジションにお付き願います」 「演算開始。何であろうと、逃しはしない」 ……ダレカ、キタ? ナカニ、イレラレルノ、アト、ハチ、ニン。 「確認させて。行動の順序は、まずカラーボールで見えるようにして、次に一般人の救出。安全を確保してからの撃破……だよね?」 「ああ。兎にも角にも、巻き込んではいけない対象が中にいるのに、見えなくては話にならんからな」 ニンズー、ハチ、ニン。 チョード、イー。 デキレバ、ゼンイン、ツレ、カエル。 デモ、ココカラ、マダ、トオイ。 「後衛に偏っている。おぬしの負担が大きくなるが、無理を重ねぬようにな」 「私は、ひたすら耐える役! なに、いつものことなのデス」 ヒトリダケ、マエニ、デテキテル。 マズ、ヒトリ、イタダキ、マス。 シャッ。 ● 「こ、心っ!」 「クソっ、まだこんなに近くに居たのか!」 くっきりと空に浮かんだ月の光か、それとも歩道や橋に設置された街灯か、どちらにせよ、弱々しい光が注ぐ夜の河川敷。音もなく12名の人間が消え、それを見て声も立てずにサラリーマンが走り去り、依然として深夜の静寂に包まれていたその場所。静けさを破ったのは、リベリスタ『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)と『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の焦燥にかられた声。 12名の一般人を消した、もとい口内の頬袋のような器官にしまい込んだとされる、巨大なカメレオン型のエリューション。これを討伐し、捕われた人々を救出するために集った8名のリベリスタ達。 役者が揃った、まさにその直後。皆の壁として前に大きく進み出てきた『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)の姿が、小さい「シャッ」という音がしたかと思うと、何かに縛られるように動きを封じられ、一瞬にして橋下の暗がりへと引っ張りこまれてしまったのである。 彼女を消したのは、当然ながらエリューションに他ならない。街灯の明かりすら届かない橋の下で、保護色によって周囲の色に溶け込んでいたため、リベリスタ達が彼の位置の認識を誤ってしまったことが原因となる。 また、前衛の役割を担っていたのが彼女だけだったこともこの状況を生んだ原因のひとつといえた。鉅も前衛よりのポジションであったが、心よりもわずかに進み出るタイミングが遅かったため、舌の射程距離に入らずに済んでいた。 「心、大丈夫? 私の声、聞こえる?!」 リベリスタに翼の加護を与えながら、レイチェルが大声で心に呼びかける。しかし、暗闇の中からは心の返事がない。エリューションの器官の中で、彼女は一体どうなってしまっているというのか。 「暴食カメレオンの位置は凡そ見当をつけられました。心様。申し訳ございませんが、お助けするまで、今しばらくお時間を頂戴致します」 冷静沈着にそう口にしたメイド服の少女(女性)の名は、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)だ。狙撃を正確に行うために発動していたプロストライカーの効果によって、心が捕われる瞬間を、スローでしっかりと捉えていたのである。 「心は重装備だ。12名も捕えている上に彼女を口へと含めば、いよいよ素早く動けまい!」 モニカの示した方角を受け、『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)が凛とした声で言い放ち、持参したカラーボールを振りかぶって全力投球した。超頭脳演算を既に済ませていた彼女の投球フォームは、極めて無駄なく、美しく。彼女の手を離れたカラーボールは、ブレのない直線軌道を描いて飛び……橋下の空間に飛び込んだ瞬間、「ばしゃ」と破裂した。 勢い良く飛び込んだカラーボールの赤いインクが、暗がりの中でもぞもぞと蠢いているのが微かに見える。それはつまり、カラーボールがエリューションの身体の一部に命中したことを意味するわけで、どの程度かは分からないまでも、既にこの時点でエリューションの保護色は大きくその効果を減らしたことになる。 「おぬし、足のつき難い運搬能力は見事といえるかも知れぬが、妾達の前には不十分よな。さて皆、少し眩しいぞ」 碧衣のカラーボール投擲から間髪入れず『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が、膝のあたりまで伸びた長い白髪をさらりと揺らして銃を取り上げ、橋下に向け発射した。そして次の瞬間、パッと放たれた弾丸が強い光を放ち、周囲を明るく照らしだした。閃光弾である。 「あそこですね。もはや見失いようもありません。鉅様、私達もカラーボールを」 「分かった。これで姫宮も救出対象も、出してやれる」 メイド服に身を包む長身の女性、『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)が、暗闇に浮かび上がった巨大なカメレオンのシルエットをしかと見据えて鉅と同時にカラーボールを投擲した。果たして、2つのカラーボールは見事命中。カラーボールが直接当たった箇所、飛び散った飛沫がかかった箇所……まだら状ではあるが、ほぼ完全にエリューションの姿を照明の中に浮かび上がらせていた。 姿形は、完全にカメレオンのそれだった。事前情報の通り、尻尾を含めた全長は10m以上にもなりそうな恐ろしいサイズではあるが。前足と後ろ足にはそれぞれ鋭い爪があり、リベリスタ達を威嚇するように開けた口の中には、これまた釘のように尖った牙がぎっしりと生え揃っていた。このいずれにも、毒が含まれているため、警戒をしなければなるまい。 さて、エリューションとしても、このまま黙ってやられているつもりは毛頭あるはずはなかった。ポジションから判断すると、最初に捕えられた心の次に前に出ていたレイチェルと鉅に狙いがつけられていてもおかしくなかった。 しかし現状、リベリスタ達の行動に対して、まったくといっていいほど無防備な状態となっていた。それは、凡その位置がモニカから指示されるのとほぼ同時に、エリューションの周囲に気糸が張り巡らされ、一時的にではあるが、行動を制限していたことによる。 「色が着き、動きの速さも把握した。こうなっては、最早ただの的だな。あとは皆を救い出して……」 こいつを殺すだけだな。トラップネストを使用していた『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は、最後の言葉こそ付け加えなかったが、目は確実にその意志を宿らせていた。黄金と紫暗のオッドアイは、閃光弾の明かりをうけ、より眼光を鋭く演出する。 彼の最大の目的は、エリューションを始末することに他ならない。もちろんエリューションを撃破するのは等しく全員の目的であるが、その中でも、心の底で憎悪の炎を燃え上がらせる櫻霞はひときわエリューションにとっては危険な存在だと言っても過言ではないだろう。 「もう逃げられません。捕えた方々を、お出し願います」 モニカが、大型の重火器『九七式自動砲・改式「虎殺し」』の引鉄を引いた。落下する1¢硬貨さえ撃ち抜く精密射撃は、極限の集中によって更に一部の狂いもなくなっていた。闇をつんざく爆音とともに放たれた弾丸は、超高速で回転し、無慈悲に、正確に、エリューションの左前足へと吸い込まれ、皮膚を貫き、筋組織を蹂躙し、骨を砕き、なおも勢いを止めること無く反対側へと突き抜けた。 一瞬で脚の一本をぐちゃぐちゃに破壊したその一撃は、エリューションの想定をはるかに超える大打撃だったに相違ない。「ぎゅう」とか「ぎゅええ」といった言葉に表し難いうめき声をあげたかと思うと、1秒ほど後おもむろに口を開け、勢い良く、吐いた。 1つではない。2つ、3つ……合わせて8つの人影が、4~5m程宙を舞い、どさどさと地面に墜落した。 墜落した6つの人影のうち1つがすぐさまがばっと跳ね起き、すぐ近くに落ちた2人を、引きずるように引っ張り、移動を始めた。それが誰であるかは、言うまでもないだろう。 レイチェルと櫻霞、碧衣が一般人のフォローに駆け寄る。 「心、大丈夫? 怪我はない?」 「ありがとうございます! 私は大丈夫デスから、吐き出された他の人を!」 駆け寄ったレイチェルに一般人2人を任せると、心はその場でぐるりと反転し、エリューションに向き直った。エリューションの器官の中で、同じ袋の中に詰め込まれていた一般人達の腕に自分の腕をがっしりと組ませ、本来吐き出されるはずだった人数よりも多く、体内から救出したのであった。 飲み込まれる時と吐き出される時にエリューションの口内を経たため、唾液とみられる液がべったりと付着しており、その不快感は相当なものだろうと推察されるが、気にせず、動じず、再び皆の壁になるように立ち塞がった。身体こそ小さいが、その迫力は、まさに鉄壁。 櫻霞は、1人1人、また1人と抱え上げて大きく後方へ放り投げ。放り投げられた一般人3人は、ごろごろと地面を転がって更に5mほど離れた。雑な扱いと言ってしまえばその通りではあるが、エリューションがまだ舌を使える状態にある以上、あまり隙を作るのは危険なため、致し方無いとも言える。それでも顔から落ちるなどしないよう、背中から落ちるように気をつけて投げていた。 一方、碧衣は2人を抱え上げてその場を離れようとしていた。両手が塞がり、移動速度も制限された彼女は、エリューションにとっては良い的となり得る。そして実際に、エリューションは碧衣を含めた3人を、再度舌で絡め取ろうと口を開けた―――。 が、側面から見たエリューションの状態は、隙だらけのほかの何でもなかった。確かに舌そのもののスピードは非常に速いが、はっきりと姿が見えている今、口の開閉や顔の向きなどから、容易に行動が読める。 「どうやら相手が纏まっていなければ、対処しきれないようですね」 「最初から纏まって立ってた一般人達は、こいつにとって都合の良い対象だったって言うわけだな。纏まって立ってた理由は知らんが」 その隙を狙わない手はない。鉅の全身から放たれた気糸が、瞬く間にエリューションの全身に巻き付き、再度動きを封じた。 こうなれば、いよいよもって、良い的である。ベルベットのアームキャノンから放たれた砲弾が、ピンポイントにエリューションの左目に直撃し、砲弾が「ぐぁん」と空気を震わせ炸裂した。 その衝撃、同時に目を襲った激しい痛みに、エリューションは行動を中断せざるを得なかった。そして今の一撃は、エリューションに言いようのない激しい「憤怒」の感情を抱かせたようだ。こみ上げる「吐き気」を抑えこむように口をぐっと閉じ、橋下から這い出した彼は、左前方……1人、アームキャノンの砲口を向けているベルベットを睨んだ。 「目先のことしか眼中にないようだし、な。ほれ、妾はこっちぞ?」 反対方向から飛来したマジックミサイルが、エリューションの右前足に次々と直撃した。周囲に展開された魔陣で威力が更に増強された魔力弾は、左前足と同様に、皮膚を焼き、肉をえぐり取った。 両の前脚がそのような状態になっては、5人分の重量が加わった身体の姿勢を保てるはずもない。血を吹き出しつつ「ずしん」と顎、胴を地に落とした。より一層こみ上げてくる「吐き気」をこらえるような素振りを見せながら。 「我慢は良くないのデス。迷惑なかめれよん!」 歩行能力を失ったエリューションの正面。遠距離攻撃の隙に間合いを詰めた心が、ブロードソードを大上段に振りかぶって言った。「かめれ『よ』ん」になっているが、まったくもって、問題なし。全身の膂力を爆発させた一撃を、エリューションの顔面に振り下ろした。 これが、最終的なトリガーとなった。 我慢していた分、吐き出す勢いは一度目よりも強かった。 残った5人を一気に大放出。5人は、一歩飛び退いた心の上を飛び越え、10mも飛んだだろうか。ベルベットの手前に揃って墜落した。 先に吐き出された7人のフォローは完了。後から吐き出された5人については、ベルベットがエリューションとの直線上から移動するだけで十分だった。すべての一般人を吐き出し終えてなお、エリューションは残った右目を怒りに燃やし、ベルベットにまっすぐ向けていたからである。 「さて、あとはお前を殺すだけだ」 櫻霞の言葉こそが、今この瞬間の、すべて。 ● チクショウ、イテエ。 メ、ウッタ、ヤツ。 アイツ、ユルサ、ナイ コ、ロ、ス!! コ、ロ、ス!! グァ!! ● 追い詰められたエリューションは、口を大きく開け「グァ!」と唸り声をあげた。前脚が使い物にならなくなり、片目を潰され、顔を大きく切り裂かれ、大きく動きが制限されたとはいえ、まだ生命を奪うには至らない。 ベルベットより【怒り】を付与されたことにより、舌を使って「捕らえる」つもりはどうやら無くなったようで、牙を剥きだしてリベリスタ達を威嚇している。 だが、機動力を失った今、その毒牙をどのようにして突き立てられるというのか。 誰もが、そう思っていた。しかし、エリューションが出し抜けに取った行動は。 ぐわっ、と尻尾を垂直に振り上げたかと思うと、地面が大きく凹むほどの恐ろしい力で、一気に振り下ろした。その地面に向けて放たれた強力な一撃は、同じ力の反動をエリューションに与え……。 大きく、前に、全長10mの巨躯を跳び上がらせたのである。5m程の高さまで達した彼は、放物線を描き、重力に従って落下した。その落下予測地点に居るのは、怒りの対象。 「くっ……危ない、ベルベット!」 身軽になったエリューションの動きは、非常に鋭く、速かった。避けられない、そう思ったレイチェルが切迫した声で叫んだ。上空から毒牙がベルベットに襲いかかるまさにその瞬間、小さな影が割り込んだ。 「心さん!」 「間に合ったの、デス! ……っ」 自慢のラージシールドで、心が毒牙の一撃を防いだのである。しかし、防げたのは「牙がベルベットに刺さる」ということだけ。宙から襲いかかった巨体の、勢いに任せた激突は、シールドごと、心とベルベットを後方に吹き飛ばした。 地面を転がる2人に向け、エリューションは、今度こそ牙を突き立てるべく、飛び上がろうと尻尾を振り上げた……が、振り上げられた尻尾が下ろされる前に、一直線に飛来した2本の気糸が、貫いた。 「視野が狭いな、学習能力も無い」 「それだけに、動きを読むのも簡単だ。少し驚かされたが……もう、思い通りに動けると思うな」 碧衣のスーパーピンポイント、櫻霞のピンポイント。2人の攻撃は、尻尾の動きを完全に止めた。 「そこは、所詮爬虫類といったところですね。さて、あとは遠慮無くブチ抜きますよ」 「念には念だ。しっかり固定しよう」 尻尾を使ったジャンプも奪われ、エリューションの移動手段は既に後足の力だけで這いずる程度のものしかなかった。その移動手段も今、鉅のデッドリー・ギャロップによって封じられた。そこへ、モニカが再び重火器を構え、櫻霞はエリューションの残った右目に狙いをつけた。 右目から突入した気糸が脳を貫くのと同時に、爆音とともに発射された弾丸が顔面に直撃。体内を徹底的に破壊し、背まで貫通して飛び抜けた。 迷惑極まりない暴食カメレオンの一生は、かくして幕を下ろしたのであった。 ● 「終わったな。俺は、先に帰らせて貰おう」 櫻霞はそう言い、武器を仕舞い歩き出した。エリューションを倒す、という最大の目的を達成した以上、長居は無用なのだ。 「はい、これでよし。……大きい怪我にならなくて良かったわ。特に心は飲まれちゃったし」 ベルベットと心の聖神の伊吹による回復と、応急処置を終えたレイチェルが、ほっと一息ついた。 「ありがとうございました、心さん」 「なに、守りは私の本分なのデス!」 元気そうな2人を見、安堵感からレイチェルの頬が自然と緩んだ。 その話し声を聞きつつ、4人は救出した12人とエリューションの死体を見やる。 「しかし、こいつの目的は何だったのか。その場で餌としない以上、目的は数えるほどしか無さそうだが……さて」 「誰も目を覚ましそうにありませんから、彼らに聞くこともできませんね。何とも申し上げられません」 「何やら、愚劣な輩の蠢動を感じるが、な」 「ひとまず、彼らはアークに任せよう。天城に続いて、俺たちも引き上げるとしようか」 鉅の一言に一同は頷いた。 戦場となった河川敷に、いつもの静寂が戻った。 後日、意識を取り戻した12名の一般人について、共通点が幾つか存在していることが分かった。 一つ目。老若男女問わず、単身で生活をしていること。 二つ目。あの場所に集まった日、日中に「ラジオ」を聞いていたこと。 三つ目。チャンネルはバラバラだったにも関わらず、全員、同じ「言葉」を聞いたこと。 四つ目。その言葉を聞いた直後からの記憶が、全くないということ。 五つ目。その言葉。「ハロー!僕の親友たち!」若い男の声だったという。 詳細については、引き続き調査を行う必要があるだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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