●太陽を受ける岩場はヒトを寄せず ざんっと波が鳴った。 日が無い内から漁に出かける漁師達は、日の出と共に顔を上げる。 この地方の者達ならば皆そうしてきた。何故ならその視線の先に、神がおわすと言っても過言ではない場があったからだ。 それは岩場。 ただし、到底ヒトが辿り着けない聳え立つ岩山。 元は山だったのだろうか。しかし周りは波に削られ、岩が剥き出しになっている。故に、最早ヒトでは登れない。 その天辺には小さな森が残っている。 海の上に聳え立つ岩に残る森。それだけでも神秘的に見える。 その上、その天辺には一つの岩盤が微かに見えていた。 小さな森から小道が続き、そこへ誰かが座するように整った岩盤が鎮座する。そこに陽が照るのだ。 漁師達はぱんぱんっと両手を叩く。 そうするだけで不思議と清々しい心と為れる。 ふと漁師達は顔を上げた。 今日は岩場が薄もやに覆われている。時折ある光景だった。もやがかかれば、傾いた一本の木が影を作り、それが天に吠える様な姿を写しだす。だからこそ余計に美しく、神々しい。 「新年だからなぁ。ありゃあ神サンだ」 誰かが言った。見上げればいつもは無い、湯気の様な二本の影も見える。 船人達は不思議と思わなかった。今年の干支はへび。 天候神にして太陽を照らす干支であれば尚更の事、ただ有難く心を満たす。 「違ぇねえ」 そう目を伏せる漁師達を、揺らめく影は見守る様に存在し続けていた。 ●ヒトと共に在り 「新年、君達はどう過ごす?」 年末も近づき、すっかりと新年気分の『あにまるまいすたー』ハル・U・柳木(nBNE000230)は、先ずそう切り出した。 エリューションが、神秘がある限り休みの無いリベリスタ達。 このブリーフィングルームに集まったのも、そういう事実を示している。それを解って問うたハルは、ごめんごめんと小さく謝った。 「でも今回はそう悪くない依頼だよ。初日の出……とはいかないけど、新しい年の夜明けに相応しい」 ピッとハルはモニターの画像を変える。 海の中に聳える岩場。天辺に存在する小さな森と、平たい岩盤。 朝日を浴びるその光景は、厳かで居て、それでいて神秘的だった。 ――ゆらり、ゆらりと、その岩場をもやが包む。 誰かの残念そうな声が聞こえたのも束の間、そのもやの中に影が一つ生まれた。 まるで天に向けて吠える様なその影は、しかし確かに実体を持っていた。 「エリューション・フォース」 それは誰かの想いが半実体化したものの総称。 リベリスタ達も勘付いた。 あの場になら神様が居ても可笑しくない。そこから見守っていてくれるだろう。 太陽の光を受けて、太陽の化身の様に。 「いや、でもそれ―――」 リベリスタの一人が口籠もる。幻が創り上げたとは言え神を摸す存在を相手では、新年早々罰当たりではないかと、場所が場所だけに萎縮する。 ハルは小さく笑った。 「ヒトが生み出して存在する――とは言え、このエリューションは自然を崇める想いから生まれたのも事実。そこに辿り着ける人間が居たなら、彼なりに歓迎してくれるだろうさ。彼なりにね」 海というのは荒々しい。波が押し寄せ、嵐が起こる。 襲い掛かるそれはまるで試練の様。 「神様と初手合わせが出来る。そう考えると、違った見方が出来そうじゃ無い?」 そして嵐が開ければ海がもたらすものは豊穣。 岩場へ登れる人間――リベリスタの特権と思ってとハルはリベリスタ達を促した。日の出と共に現れる神秘的な光景と共に、一年の息災をかけて。 「いってらっしゃい、リベリスタ諸君。良い年明けを」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月10日(木)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●海上の岩 夜明け前の海上をリベリスタ達は往く。 飛沫は冷たく、海風の寒さが頬を刺す。 「……冷えるな。平気か? 木蓮」 この寒さを見越して防寒対策を整えてきた『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)に声をかける。同様の防寒具を受け取っていた木蓮は「ああ」と頷いた。 新年早々の仕事だったが、新しい年明けに相応しくも思える依頼にその表情に曇りはない。 「龍治と一緒に初日の出、拝ませてもらうとするか!」 その様子に『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)はからりと笑みを零す。 「そうだな。それに明けて早々に神さんと会えるたぁ、縁起の良い」 かくも現世は死人の騒乱の最中、不浄の及ぶ前に挨拶といこうと、陽の未だ来ぬ海を見続ける。 ざんっと波が岩に当たる音を聞いて、リベリスタ達はその場が近い事を知った。 「さて、俺の出番だな。フリークライミング、いやトラッドというべきか」 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は暗闇の海上に聳える岩山を見上げて言う。 自分が為すべきは登り切る事。クライミングの基本は、足場の確保と体重移動。自分の体重を四肢に分散しつつ、いかに登っていけるかが肝要だと、脳内でシミュレートする。 固定具を打ち込む方法を竜一は選択しない。これから相手取るのは自然を崇める想いから生まれた存在。と、なれば竜一が選ぶべきは一つ。 「自然に対し、敬意を払って、ナチュラルに! 唸れ、俺のハイバランサー!」 「イケメン師匠さん、マジイケメン!」 『第31話:新婚さん、ごちです!』宮部・香夏子(BNE003035)の声援を背に、竜一は一人岩山を登り出した。その直ぐ隣をもう一つの影が並ぶ。『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)もまたバランスを取ってよじ登る。 竜一の補助も兼ねるとにっと御龍は竜一に笑いかけ見上げる、岩の上の森。 御龍の中に潜むのもまた狼の血。神を相手と思えば気が引けるが、同じ狼として容赦をする気も無い。 ガツッと岩の上の土に手が触れれば、竜一も御龍も一番乗りでその地に触れた。感慨に耽る間も惜しんで仲間達へとロープを垂らす。ゆらゆら揺れるロープを見て、くるりと振り向いたのは香夏子。 「香夏子先に行ってもいいですか? 暗いところも見えてるので平気です」 「そりゃ頼もしいね。では自分はその次に行こう。一応この予備のロープも頼んでいいかい」 香夏子に予備のロープを手渡して、小烏は小さく翼を振るう。翼でロープは登りにくいだろうが、自分のバランス感覚も信じるに値する。「マジ、イケメン!」とかけ声を掛けながら登り切った香夏子を見て、リベリスタ達は岩山に続いた。 次に『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が続き、残る風見 七花(BNE003013)と木蓮、龍治は顔を見合わせる。 「もし良ければ、私最後に残って登るお手伝いをしようと思いますが……」 七花の提案に、木蓮と龍治は最後を願い出る。 「森で最後列に立つからな。最後に行かせてもらうとする」 その理由に七花は頷いてロープを握った。なるべく先に登った仲間の動きを模倣し、下を見ない様に。決して、決して見ない様に。 その先にはおおカミが居るのだから、崖なんかに負けられない。 (エリューションであれ本物であれ、真偽の程は別として。新年初めの神遊び、私では役者不足かもしれませんが務めさせていただきます) そう登る手に誓うものの、七花はこっそりと頬を綻ばせる。もう一つ、思う所の所為。 「……もふもふしてみたいなぁ、おおカミさん」 よっと到達した森はまだ暗く、小道の先にはまだ何も見えない。 木蓮に手を引かれ龍治が登ってくるその時まで、櫻霞は岩場を見続けた。 新年だろうと神秘は待ってくれない。それは自分にとって腕が鈍らないと思えば良い事となるが、さて今回は有名な神を真似ての姿だとフォーチュナは言った。確かに神々しい物があるのだろう、しかし。 「だがそれがエリューションである以上、倒さなければならないのもまた事実」 櫻霞は一人、不敵に笑った。 ●始まりの陽 もやがかかる。森を覆う。暗い海も何も見えなくなる。 一歩踏み出せば落ちてしまう岩山の上をもやが覆えば、リベリスタ達はその地にあった配置に各々並んだ。 岩場の前に御龍が、香夏子が、竜一が。 その後ろに七花が、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が櫻霞が。 三列目に『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)と小烏が並び、四列目に龍治と木蓮が並んだ。 「……やり切った感が強いが、本番これからじゃん」 岩山の功労者、竜一が肩を竦めれば、香夏子がすりよって「そうですよ」と頷いてみせる。 肌寒い夜明け前も、イケメン師匠こと竜一が居れば寒くない。香夏子はもふもふされながら時を待った。 ―――陽が昇る。 厳かなる蜃気楼を伴って、霞の向こうに光が灯る。 じわじわと地平を照らし給う陽が昇り行けばリベリスタの前に陽炎が揺らめいた。 海上の海に棲まい人を見守る、天吠える樹木のおおカミ。 海に雨を、再生を示す十二獣が一つ、水の様なヘビが二体。 其の姿、幽玄なるかな。 「地元の者でもないが、今日参賀できた事を光栄に思う」 小烏は思わずほうと息を吐く。流儀はそれぞれ、ここは自分の精一杯相対する事が礼儀と見た。故に。 「では、いざ」 カカっと笑ったのは御龍も同じ。正面から其の姿を見れば、巨大な鉄の塊と見紛うつるぎ、真・月龍丸を手にして豪快に笑った。 「ご来光か。我は巫女だった故、舞を舞ってしんぜよう。破壊という名のな――狼の龍とは我の事だ!」 人が生み出したるおおカミが、ゆるりとその尾を振るう。 霧もやの中に包まれるリベリスタ達、その中で、もう一つの太陽と、もう一つの嵐が生まれ出でた瞬間。 「さあ、開戦だ。同志諸君!」 ベルカの銃声が一戦を告げる。―――いざ、開幕。 おおカミ達は動かない。まるで見定める様に岩場に座する。 その後ろに放たれた閃光弾が一瞬眩くもやを走り、ヘビの一匹が頭を下げた。その閃光に押された様に動きを止める。 「景気良いねえ」 手応えに笑う小烏の周囲に浮かぶ刀儀陣。手には白兎を、手には赤烏を。 「蛇も太陽も、再生の象徴だったかね」 奇しくも今、この国には死人が溢れかけている。利益をいただけるんならこれ以上ない相手だろうさ。 そう思わば無様な姿は晒せないこの闘い、小烏は翼を打ち鳴らす。 香夏子は隣の竜一をちらりと見てぐっと気持ちを引き締めた。 「行きますよ、イケメン師匠さん!」 「おう!」 香夏子が影を形作る隣で、竜一もまた自らの枷を外す。生命力すら戦闘力に変換する、そんな竜一とは逆に櫻霞はひた状況を、エリューションを、可能性を分析する。 熱くならず冷静に。それが櫻霞の戦い方。 「例え人の思いの結晶だとしても。所詮はエリューション、……悪く思うな」 おおカミは見る。唯、見つめるだけ。 初手には攻撃の手を加えず、皆ひたすらに自己を高める。 御龍はその最たる闘気。 「神だろうがなんだろうが容赦はせんぞ!」 狼同士、感じる高揚感に御龍は満たされていく。早く互いの牙を重ねたいとすら思う、御龍のつるぎ。 「ふふ、皆さん、盛り上がってますね。一番手ではありませんが、私も参ります!」 七花はその手に魔導書''Rousalka''を開く。 蛇神を越えておおカミを覆う雷はしかし届くか―――届かない。蛇を撃ち抜くに留まった雷に、七花は苦笑する。 (さすがですね) 悠然と其処に在る白いおおカミ、七花はグリモアールの頁を捲った。 その音を聞きながら木蓮と龍治は頷き合う。龍治は狼の耳で感覚を研ぎ澄まし、木蓮は大切な人を守るべくして銃口の照準を“神”等に定めた。 セッツァーが指揮棒を振る様に声を乗せる。 「回復手はワタシが担おう。さあ、往こうではないか」 おおカミは、蛇神は、その全ての決意を見定める様に静かに在り、漸くその身を動かした。 全ての準備を整えたリベリスタ達へ、霧の中で陽光が生まれ肌を焼く。そして続く嵐が雨となり降り注ぐ。 其れが、かの幻の始まりであった。 ●其の姿、再生為れば 「ふむ……流石に未だ回復手は必要ない様だな」 小烏が満遍なく見渡せば、太陽に焼かれた者数名居れども、畳み掛けた蛇神が選択したのは大雨。重傷には至らないならば、今は攻めるのみ。 「はぁぁ!」 ばしゃっと水が弾ける。 ヘビの身体は水そのもの。しかし殴ればその身がくねる。 不思議な感覚に飛沫を受けながら、破壊的な一手がかすってしまったのを御龍は舌打ちする。 「……なかなかヘビーな相手だな、蛇だけに!」 竜一のドヤっとした冗句が重なった同じ攻撃法は今度こそ蛇神を穿ち、ばしゃんと水が跳ねる。 楽しむ様な攻撃法に櫻霞はモノクルの奥の瞳を細めながら気糸を放った。ぎりぎりと絡む糸がおおカミを、蛇神を締め上げる。 「水、……と考えたならば質量がありそうだがな」 そうマジメに竜一の冗句に言を返す。気糸に絡め取られた蛇神を狙いに、雷から魔方陣へと切り替えた七花の前でおおカミが再び尾を揺らめかせた。 「来る……きゃあっ!」 「ぐッ!」 足下から生まれ来る樹木が御龍と七花へ突き刺さる。吠え声一つ上げない、海上の狼が茂らせる自然の猛威。 「やってくれる……!」 御龍が流れる血を拭って顔を上げれば、頭上には雷雲が待っていた。 「危ないで……わわっ!」 落ちる雷は再び御龍を、そして隣の香夏子を直撃する。立て続けに喰らってしまった御龍はびりびりと痺れを感じながらも、逆に闘争心は燃えていく。 傷など痛くも無い。しぶとく冷静な、それが御龍という狼。 ド、ドンと重なり響くのは木蓮と龍治の二つの弾丸。雷雲を放った蛇神を撃ち抜く射撃の手は一つもぶれを感じさせない。 「香夏子も! 派手にいきますよー!」 あえて最後手を選んだ香夏子が生み出したのは、カミ達の頭上に赤い月。 恵みの陽と一切が異なる不吉な光がカミへ平等に降り注ぐ。おおカミをすり抜けて、蛇神へと。香夏子はそれで充分とグリモアールを握りしめた。 「七花、小烏!」 「はいよ! 風見の嬢ちゃん、自分が先に」 その間に木蓮が御龍の鈍りを叫べば、先に翼を振るえた小烏が全ての仲間を光で包む。 「なら私も支援しますね!」 続く七花が風を起こせば柔らかく御龍を包み込む。クっと笑みを獰猛に変えた御龍が再び真・月龍丸を振るえばそのつるぎが空を薙ぐ―――水が弾けて、消えた。 「まず一匹ぃ!」 続けて放たれる櫻霞の気糸は決して外さない。必ず当てるとその黄金と紫暗のオッドアイは神等を射貫く。 動けずに居た残りの蛇神も漸く頭を擡げれば、再びざあっと降り注ぐ大なる雨。 「防寒対策をしておいて良かった。しかし……気を抜けんな」 龍治は小さく呟く。彼等の太陽は、雨は全てに降り注ぐもの。気付かず体力を消耗し続けていればやがて一つのミスで風向きは逆転する。 (……確かに自然そのものだ) 龍治は火縄銃を蛇神に向けた。隣は見ずとも解る。木蓮の銃口も同じ方向を向いている事。 「へいやー! 次はこれです!」 香夏子は重ねて重ねて不吉を招くべくカードを投げる。水の身体にカードを食い込ませながら、再びざあっと被る雨。 「木蓮が風邪でも引いたら大変だ。一気に行くぞ!」 「へ、あ!? ああ!」 水滴を零しながらの銃口、雨粒の向こうから龍治の弾丸が蛇神に迫る。 先ずは一発。 自分の感覚を信じて撃たれる、狼が描かれたガンケースにいつも収まる木蓮の愛銃が蛇神に迫る。 そして二発目。 「――――!」 形作る幻が弱ったかの如く水を滴らせる蛇神の隣で、おおカミが太陽を呼んだ。 「うあっち!」 竜一を中心に焦がす力に焼かれながら、竜一の二刀がもう一匹の水を弾けて消した。 「ようやく向き合えるなぁ!」 蛇神からおおカミへ、意識を向けていた御龍がこの時へと溜めた一撃をぶち込んだ。 其の威力たるや、表情も変わらぬ幻影が揺らいで見えた程。 改めておおカミ一匹其処に居れば、太陽を背に透ける身体の縁取りが陽に灯る。 (太陽を射る様な気持ちだな) 木蓮はふふっと小さく笑みを零した。それでも、躊躇わない。 「俺様達からの、新年を祝う祝砲だと思ってくれよ!」 ヒトの決意を受けたおおカミは再びゆるりと草木を愛でる。いけない、とセッツァーが歌を響かせる前に木々の枝は竜一、櫻霞を重ねて貫いた。 「師匠さーん!」 はっ、と短い息を吐いて膝をつく竜一に触れて、香夏子は悠然と構えるカミを見る。それは怒りの頂点か、もしかしてそうではないかもしれないけど。 ぬるりとした血を拭いながら櫻霞が見れば、竜一の体力は見て危ない。櫻霞が竜一を留めて、自らの身も顧みず最前列に踏み出した。 「無理をするな。俺が入れ替わろう。――久しぶりの前衛は慣れんがな」 見上げるおおカミは一体どの程度立ち続けるのか、それでもリベリスタ達は、ヒトは後に退かない。 「畳み掛けて最期と行くぞ!」 小烏が翼を振るう。百の符を鳥に代え、続いた七花の魔法が白い身体を魔力で撃つ。 「喰らえです! イケメン師匠さんの、仇――!!」 放たれたのは香夏子のカード。 ちょっぴり本気を出した香夏子がカミへ刻んだ「不吉」は読んで字の如くヒトが縁起の悪さを謳うもの。 「やるじゃん、香夏子! 俺死んでないけど!」 竜一は突っ込むのも忘れない。その傷の深さに一時櫻霞に庇われながらではあるものの、その闘志は雨に消えず。 「天を照らすその加護、俺等が頂こう! 未来の為にも!」 カミといえど運には勝てぬ。むしろそれすら引き寄せるのがヒトではないか。 ここぞと放たれたベルカの弾丸に、浴びる様な木蓮と龍治のコンビネーション。 「せっかくのもふ、もとい神遊びです。負けてなんどいられませんから!」 七花の魔法を受けて陽光を呼び出そうとしたおおカミの手がぶれる。御龍は一歩踏み出した。 「ご利益、もらったぁ!!」 楽しげにすら見える狼の遊戯。噛み千切る牙の様にそのつるぎが突き抜ければ、幻の終りとリベリスタ達は知る。 「………っ!」 七花はそれを見て走り出した。 消えゆくオオカミ、その幻に、最後そっと手を伸ばす。 柔らかく、暖かく、心を満たす余韻をその手に残して太陽を摸した幻は霞と消えた。 ●座する太陽 その光景は誰の心をも澄み渡らせた。 闘いの後に日の出を拝むのも妙な話と櫻霞は思うものの、苦笑にその思考を乗せて消す。 「神も神秘も信じてなどいないが……」 新年ぐらいは祈っても悪くないだうさ。そう、瞳を伏せて。 「やぁーちょっと感動したぁ!」 実直に声を上げる御龍。その表情は晴れやかでいる。 「今年初の仕事が神様を倒してさぁ、しかも狼! それに――日本にもまだこういう所あるんだねぇ」 しみじみと見つめる先の神秘的な光景に、御龍はパンパンっと両手を奏でる。 倒した狼も太陽、しかし今昇るのもまた太陽。其れ即ち、 「日はまた昇る、だな」 小烏は丁寧に二礼二拍一礼を。その隣で七花も並んだ。 初日の出には遅くても、色々苦労して辿り着いた日の出の光景を忘れない様に目に、記憶に焼き付ける。 カメラがなくとも七花の心の中に灯る光。それに、そっと触れたあの感覚も。 「今年も一年、天の事はよろしくお願い申し上げる。地上の事は自分等が何とかせんとな」 小烏もかかと小さく笑った。なぁとベルカに笑えば、清々しく迎えられた新年にベルカの口端は笑みに上がる。 歌を響かせたセッツァーもまた日の国、この光景を視界に納め、そうしながら竜一の声もまた岩場に届けられた。 「今年も良い一年でありますように!」 その身に仲間の癒やしを受けた竜一が、香夏子を再びもっふもふしながら願う。が、しかし、腕の中の香夏子は既に眠気でうつらうつらとしてしまっている。 「イケメン師匠ー、早く帰ってカレーを食べて寝ましょう。はりーはりーです!」 木蓮はその様子にくすりと笑いながら、そっと足を踏み出した。 人々の想いが幻の神を産んだ場所、その岩場の上。 靴が乗れば鼓を叩く様な音がする。見渡せば海。太陽が照らし、所々見えるは人々の営み、船、地平に広がる光の粒。 人に見られたら変な信仰対象になりやしないかと思った木蓮も、正面に浮かぶ太陽を一杯に浴びながらその景色を見続けていた。その隣に龍治が寄り添って囁き、言う。 ――今年一年も、良い年となれば良い。 願わくば、全てのリベリスタへも、太陽の加護在らん事を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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