●Tableware is dress of dish. (食器は料理の着物である) ――とある偉人の名言 ●ミステリアス・ディッシズ・メイク・ディッシズ・デリシャス 2012年 12月某日 日本国内某所 「すごい……!」 とある料理店の厨房。 空になった食材のストックと、多額の売上金を見ながら一人の青年――成樹は驚きの声を上げた。 個自営業の小さな料理店ではあるものの、今日一日だけでストックされていた食材がすべて食されるほどの繁盛。 かつてない自体を前に、成樹は未だ興奮冷めやらぬ状態だった。 それもひとえに、食器を新しくしてからだ。 つい先日、食器を買い替えようと考えていた成樹。 そんな時、販売者が営業終了するとかで、綺麗な状態にも関わらず投げ売りされていた食器の在庫をまとめ買いしたのだ。 偶然手に入れた食器の数々。 それを用いて料理を供するようになった途端、急に客足が増え始めた。 聞けば、急にこの店の料理が美味しくなったという噂が立っているらしい。 それもちょっとやそっとの美味しさではなく、名店並の美味であるという噂だそうだ。 その噂には他ならぬ成樹本人が驚き、実を言えば半信半疑だった。 しかし、根も葉もない噂というわけではないようで、訪れた客の誰もが満足そうな顔で帰っていく。 中には感動して涙を流している客もいて、そうした光景を見た成樹は、噂があながち嘘ではないということを実感した。 成樹本人にも理由はわからない。 だが、料理が美味しくなったという事実は確かに存在する。 ――ならば、それでいいではないか。 その結論に至った成樹は、もはや理由よりも、また来てくれるであろう大量の客のことで頭が一杯になっていった。 ●ミステリアス・ディッシズ・コールザ・ファントム・アッピアード・フロム・スタヴェイション 2012年 12月某日 アーク ブリーフィングルーム 「集まってくれてありがとう」 依頼を受けて集まったリベリスタたちを真白イヴは出迎えた。 「今回の任務はアーティファクトの回収。これが……正確にはこれらが、そのアーティファクト――『美味なる気配ピアッタ』」 淡々と説明しながら、イヴはスクリーンに画像を出した。 ややあって現れたのは、食器の数々を写した画像だ。 「ちょっと前までは在庫として倉庫の奥に眠っていた食器類だった。でも、察しの通り、他チャンネルの侵食因子の影響を受けてアーティファクト化したの」 皿をはじめとして丼や小鉢など、五種類が五つずつ。 都合二十五個の食器類が写っている。 「一言で言えば、この食器類に料理を盛り付けると、とても美味しそうに見えるの」 映像を指さしながら、イヴはそう言った。 「逆に言えば、美味しそうに見えるだけ……といえなくもないけど。とはいえ、不味そうに見えるのを食べるのと、美味しそうに見えるのを食べるのでは、実際はたいぶ違う」 イヴがそう語るのに合わせ、何人かのリベリスタが同意見であるとばかりにうんうんと頷く。 「主たる効力はそれだけ。ただし、神秘の力に触れたこともなければ……そもそも存在自体を知らない一般人は、この食器類の恩恵を受けた料理を、本当に美味しい料理だと心の底から信じ込んでいるし、リベリスタの中にも効果が表れる人がいるかもしれない」 そこまで語ると、イヴは再びスクリーンに画像を出す。 新たに表示されたのは、料理人の格好をした一人の若者だ。 「彼がこのアーティファクトを手に入れた一般人――皿家成樹(さらいえ・しげき)」 リベリスタたちが画像から目を戻すのを待って、イヴは説明を再開した。 「しばらく前、彼は念願叶って遂に自分の店を出す事ができたの。それからは細々とやっていたようだけど、アーティファクトを手に入れてから、次の目標だった『店を人気店にする』というのを達成したわ」 そこで一旦言葉を止め、イヴはスクリーンにまた別の画像を出す。 今度は建物を外から撮った画像のようで、画面には個人営業の中華料理屋が映っていた。 本当にイヴの言う通りなら、そこそこ強い力を持っているアーティファクトということになる。 しかし、効力自体は人畜無害なものだ。 話を聞いていたリベリスタの何人かは、ほっと胸を撫で下ろすと同時に、どこか拍子抜けしたような表情になる。 それを察したのか、イヴはすかさず、それでいて口調は決して焦らずに告げた。 「確かに人畜無害な効力かもしれない……ただし、あくまで主たる効力はだけど」 何か含みのある言い方が気になったのか、リベリスタたちがイヴを見る。 「このアーティファクトには副次的な効果があるの。そして、それこそがこのアーティファクトの持つ恐ろしい効力」 リベリスタたちの顔が再び引き締まった所で、イヴは端末を操作した。 すると今度はスクリーンに画像ではなく映像が表示される。 映像は細部がぼやけているのを見るに、フォーチュナが見た予知の映像だろう。 その映像の中では、群れを成して襲い来る無数の思念体に成樹が襲われていた。 鬼気迫る形相で奇声を上げながら襲い来る思念体は、半ば実体化しているようで、大口を開けて成樹に噛みついている。 次々と群がってくる思念体に身体中を噛みつかれ、ほどなくして成樹の身体は骨だけとなる。 肉はもとより、皮や筋の一本すら付着していない骨が床に転がる。 さながら骨格模型のように綺麗な骨がしばらく転がるだけとなったが、思念体の群れは去っていく気配を全く見せない。 そして、思念体は骨にまで噛みつき始めた。 ややあって骨のひとかけらも残さないまで徹底的に喰らい尽くすと、ようやく思念体の群れはどこかへと去って行った。 衝撃的な映像に、何人かのリベリスタがしばし絶句する。 彼等にイヴは落ち着いた声で告げた。 「あのアーティファクトはしばらく使っていると、餓死した魂から発生したエリューションフォースを次々に引き寄せてしまうの。そして、使用者はその群れに襲われてこうなるわ」 事情を理解した様子で頷くリベリスタたち。 彼等に頷き返すと、イヴは告げた。 「今から行けば彼が襲われる少し前に現場へ到着できる。彼を犠牲にしない為にも、力を貸して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月14日(月)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「すみません。今はまだ準――」 ドアが開く音に素早く反応した成樹に、すかさず『足らずの』晦 烏(BNE002858)は名刺を差し出した。 「お電話致しました探偵の晦と申します。準備中で御忙しい中、急な訪問で申し訳ございません」 探偵という建前で来ている為、今日の烏は覆面をしていない。 とはいえ、烏と一緒にいる一人の男と三人の女性が気になるのか、先程から成樹はちらちらと見ている。 「彼は晦先生の相棒で彼女達二人は助手。そして、私は助手兼ボディガードといったところだ。今回は重要な案件なので、事務所総出で参った次第」 気を利かせた『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)の説明を、成樹は特に訝しむ様子はない。 そのまま成樹は烏たちに椅子を勧める。 烏たちが席につくと、成樹は冷水機からグラスに注いだ水をテーブルに置いた。 「ありがとうございます」 礼を言って烏が座ると、タイミング良く『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)がホッチキスで留めたA4用紙の束を成樹の前に置いた。 今日の寿々貴は格好は眼鏡とスーツで事務職っぽくし、髪型も合わせて弄ってある。 A4用紙の束は全員分用意してあるようで、寿々貴は烏たちにも手際良く配っていく。 「これは……?」 全員にA4用紙の束が行き渡った頃、成樹がページをパラパラとめくる。 「倒産した飲食店四件分の経理資料です」 成樹の質問に寿々貴が答える。 資料の意図が今ひとつわからず、困惑した顔をする成樹に向けて、烏は切り出した。 「単刀直入に申し上げます。皿家さんが先日入手された食器は代々の持ち主が変死を遂げており。その為、業者に格安の値で掴まされた物です。我々はその様な曰くつきの食器を回収、処分を行うのが仕事でありまして、回収前に渡ってしまった件の食器を買い取りたく、本日は参りました」 いきなり『変死』や『曰くつき』という単語が出てきたせいか、成樹は驚いた様子だった。 話の内容が内容なだけに、成樹が烏たちを見る目も段々と怪訝なものになっていく。 だが、烏はそれを気にした風もなく、はっきりと言い切った。 「もし、お疑いならば販売業者に今直ぐ問い合わせてみれば判る話です。また、営業に支障を出さぬ為、同じだけの食器もお渡し出来るよう、こちらで代替品を用意してあります」 その言葉を合図に、『√3』一条・玄弥(BNE003422)が大型のトランクを開け、中に収納された食器類を提示する。 「その皿の代りのやつや」 耳を揃えて提示された代わりの食器を見た成樹は、ややあって烏たちをしっかりと見た。 「お話はわかりました。でも、お断りします――」 即答に近い返事。 しかし、玄弥はそれをある程度予想していた。 彼はアークのブリーフィングルームで見た予知の映像を基に、変死事件の状況を、恐怖感を煽るように語り始める。 玄弥はどちらかというとダーディに脅し、すかして、交渉を行っていく。 「まあ、にいちゃんが死んでから回収でもええちゃええんやけどなぁ」 玄弥が仕上げにもう一度脅しつけるが、それでも成樹は首を縦に振らなかった。 「どうしてそう意地をはるんかねえ?」 水を向ける玄弥に対し、成樹は躊躇いがちに答えた。 「あの食器類には何か不思議な力があるようなんです……だからあれがないと不安で」 「故人いわく、『病は気から』、『心配事は猫を殺す』、『頑張れ頑張れできるできる』――とまあ気持ちと言うのは大切な要素だな。店を持てるほどの料理人ならば、大丈夫だとは思うが」 ベルカが励ますと、続いて寿々貴が資料を手に持って強調しながら話しかけた。 「『料理の味を明確に変える食器』。そんな物に、何のリスクもないと、本気で思いますか? 曰く云々がないとしても。料理に影響が出ているのは事実」 寿々貴は資料と店の現状から少しずつ理解を求めるつもりだ。 その一環として、寿々貴はあえて食器の効果を誇張する。 探偵の助手として振舞っている為か、今の寿々貴は口調もそれらしく硬めだ。 「誰がどんな料理を食べても、確実に美味い。どれ程の異常か、料理人なら分かるはず。年々食品の衛生管理も厳しくなっていますよね? 誰かが倒れてからでは、遅いですよ」 一気に畳みかける寿々貴。 だがそれでも成樹は迷っているようだった。 黙って成樹を見つめていたミリィだったが、やがて意を決したように真摯な面持ちと声音で語りかけた。 「今回、私たちが交渉に赴いたのは過去に変死した持ち主の遺族から、同じ被害者を出さないように……そう、頼まれたからです」 ミリィの口にした『変死した持ち主の遺族』という言葉に心を痛めた素振りは見せるものの、それでもまだ成樹は了承しようとしない。 成樹が食器に執着しているのをミリィは確信した。 「皿家さん、貴方が料理を作る理由はなんですか?」 「俺が、料理を作る理由……」 問われて成樹は思わず黙り込んだ。 言葉を選ぶように、成樹がじっくりと考え込んでいる時、それは起こった。 「……!?」 店の外から聞こえてきた大きな音に驚き、成樹は顔を上げてドアの方を向いた。 ● 「さて、交渉は進んでいるかな?」 烏たちが店に入って行った直後、外で待っている『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)は呟いた。 「……食器は料理の着物である、か。色々と考えさせられる言葉だな。料理と言えど、人間と同じ。着飾る服飾あってこそ生える物というのは、確かに存在するのだろう」 葛葉は店のガラスドアを見つめる。 ドアは店名が大きくペイントされており、ガラスではあるが店内は断片的ににしか見えず、交渉の具合はわかりそうにもなかった。 「今回の問題は、その服飾事態に問題があったこと……さて、上手く事を解決出来れば良いのだが……」 葛葉の呟きに『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)が相槌を打つ。 「アーティファクトの力で繁盛してもなぁ……さて、料理人自体の腕はどんなもんかね。交渉は俺のナリじゃちっとアレだからな。烏さんたちに任せるしかねえが、やっぱ気になるっちゃ気になるな」 E・フォース出現の気配に注意しつつ、隆明は周囲を観察する。 「いくら繁盛したってバケモノどもに喰い殺されちゃしょうがないぜ……そういや、吸い寄せられてくる連中って、もとは餓死した魂だったよな。そうした魂だからこそ、あのアーティファクトに集まってくるんかね」 誰にともなく問いかける隆明。 それに答えたのは、同じく店の外で待っている『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)だった。 「ふむ、飢餓ですか。これが一般人なら同情しますが、相手がエリューションなら知りませんね。骨まで食べられるのなら、今回は弾丸を食べてもらいましょう」 ベルベットが無表情で言い放ったのがおかしかったのか、隆明は小さく笑う。 「そいつぁいいぜ。なら、鉛玉をたらふく食わしてやるか」 小さく笑みを浮かべていた隆明だったが、やおら真剣な顔つきになる。 「――!」 それと同時、葛葉とベルベットも不穏な気配を感じ取ったようだ。 「お喋りはここで一旦休みだ。来たぞ――」 「ええ。そのようですね」 真剣な顔になった葛葉は手早く結界を張っていく。 その横で、相変わらず無表情のままのベルベットも構えを取った。 「おぅおぅ、上等じゃねえか」 葛葉とベルベットのどちらとも違い、隆明は再び笑みを浮かべていた。 ただし今度は先程のような笑みとは違う。 荒事慣れした者が鉄火場の気配を感じて浮かべる好戦的な笑み。 準備万端で店の前に立つ三人。 彼等の視界に飛び込んできたのは、半実体化した思念体の群れだった。 彼等を、そして店を挟撃するように、左右の路地から思念体の群れがなだれ込んでくる。 鬼気迫る形相で奇声を上げながら襲い来る思念体は、まるで何もかもを喰らい尽くそうとするかのように、大口を開けて襲いかかってきた――! 「来やがったか! 鉛玉でも食らってろや!」 先手必勝とばかりに隆明が思念体の一発に発砲する。 銃弾が直撃した思念体は、半実体化していることもあってか、身体に大きな穴が開く。 それでも前進を止めない思念体に、隆明は何発もの銃弾を撃ち込んでいく。 「オラオラオラ! たらふく食いやがれ!」 大量の銃弾に身体のあちこちを吹き飛ばされ、もはやボロボロになりながらも思念体は突っ込んでくる。 「デザートだ、コイツも食っとけ!」 自分のすぐ前まで接近してきた思念体に向けて、隆明は気迫に任せたケンカキックを叩き込む。 靴裏で叩き落とされ、更には踏みつけられ、ようやく思念体は動きを止めると同時に消滅していく。 「強い飢餓を感じるな――これは生半可な攻撃では止まりそうにもないか」 油断なく思念体の群れを見据える葛葉の表情は冷静な者のそれだ。 しかし、それとは裏腹に葛葉は群の前へと飛び出し、熱く激しい戦いぶりをみせる。 両手に神秘の力を集め、凍てつく冷気を纏わせる。 冷気を纏った両拳で構えを取ると、葛葉は周囲を飛ぶ思念体へと次々に拳を叩き込んでいく。 思念体にめり込むほど拳がクリーンヒットし、確かな手応えを感じる葛葉。 殴られた思念体は後方へと吹っ飛ばされ、押し戻されるようにして店から遠ざかる。 だがやはり思念体はその程度では止まらずに前進を続けようとする。 「そう簡単には止まってくれそうにないか――なら!」 改めて向かってくる思念体に向け、葛葉は再び拳を放つ。 今度は拳をすぐには離さず、じっくりと押しつける葛葉。 それにより神秘の冷気で思念体は凍結する。 直後、葛葉は凍結した思念体を拳で叩き割った。 その後も同じ要領で葛葉は次から次へと思念体を叩き割っていく。 「皆様のために食事をご用意してあります。もっとも、食べられるならの話ですが」 ベルベットは幻想纏いから小麦粉を取り出すと、袋ごとその場にぶちまけた。 基本的には、件のアーティファクトの所持者を優先して狙う思念体の中にも、例外はいるのだろう。 群れの中から何体かが離脱すると、ぶちまけられた小麦粉に群がってくる。 「お気に召したようですね。なら、こちらもどうぞ」 更にベルベットは幻想纏いから幾つもの弁当を取り出すと、それを路上に並べた。 食材である小麦粉に続いて、料理が出てきたということもあってか、群の中から離脱してきた思念体の数は更に増える。 いつしか少なくない数の思念体が群がってきたのを見て取ったベルベットは、無表情でアームキャノンを構える。 「小麦粉、弁当、そして最後はこちらをお召し上がりください――」 無表情のままで告げると、ベルベットはアームキャノンを発砲する。 至近距離からアームキャノンの直撃を受けて、思念体の一体が四散する。 だが、他の思念体は同族が木端微塵になったというのに無視して、あるいは気付きすらしないで小麦粉や弁当に夢中だ。 それをどんな思いでベルベットが見ているのかはわからない。 ただ、彼女はやはり無表情のままアームキャノンを発砲し続けた。 各々の戦い方で、着々と敵を倒していく三人。 だが、やはり多勢に無勢。 そして敵が傷つくことを全く厭わずに襲いかかってくるせいか、三人は少しずつ反撃をくらい、いつしかそのダメージは積み重なっていた。 「二人とも、大丈夫か?」 「私は大丈夫ですが、隆明様が」 葛葉の問いかけに答えながら、ベルベットが隆明を見る。 荒々しい戦い方で戦果も上々な隆明だったが、その反面、一番反撃をくらっていた。 身体中に喰らい付かれ、気付けば立っているのが不思議な深手を負っている。 それでも、隆明の闘志は些かも衰えていなかった。 「心配ねえぜ! 鉄火場で真に必要なのは殺す覚悟と倒れぬ意地……そのどっちも失くしちゃいねえからよ!」 だが、遂に思念体の何体かが三人の防衛線を突破し、店へと入っていった――。 ● 「ひぃっ!」 驚き、震えながら店の外の様子を見ていた成樹は、遂に思念体の何体かが店に入ってきたことに声を上げた。 「キミが金儲けに拘った結果がこれ。満足できたら、死ぬか食器手放すか選んでよ」 もう、それらしい口調を演じることもなく、寿々貴は告げた。 「言ったでしょう、持ち主が次々と変死を遂げていると。これがその変死の正体です。貴方が手放す覚悟を決めない限り、彼等は止まりません。 ―改めて問います。皿家さん、貴方が料理を作る本当の理由はなんですか? ただお店を繁盛させる、それだけが理由なのですか? そうだとしても命が潰えてしまえば、それすらも叶える事が出来なくなるのですよ!?」 一気に畳みかけるミリィ。 「笑顔になってもらいたいからです。食べてくれた人はもちろん、俺のことを応援してくれた人、常連さんになってくれた人、俺が料理で笑顔にできる人にはみんな笑顔になってもらいたい――だから、俺は料理を作るんです」 はっきりと言い切る成樹に、烏は頷いた。 「交渉中も店内の清掃状態、厨房の状態などを確認させてもらいましたよ。貴方が真摯にお客に食事を楽しんで欲しいと思っている人物なのか、この目で確かめさせてもらいました――だからこそ、貴方の様な客の笑顔の為に働けるような人物を失う事は避けたい」 烏の説得に続いて、ベルカも言葉を重ねる。 「そう。料理が美味い事に相違は無いのだ。食器に曰くがあろうと無かろうと、そんな事は関係ない。己の力を信じずしてなんとするのか」 最後のひと押しとばかりにベルカは言い切る。 「大丈夫だ、貴様は既に一国一城の主! それを成さしめたのは何よりも貴様の実力だ! 食器に頼らずとも、真っ向勝負できるはずだろう。少なくとも、私はそう思う。料理に対する真摯な想いが、味わいを深くしているのだ」 各々なりの言葉を成樹にかけた四人は、思念体を迎撃するべく武器を取り出す。 店の中を壊さないように気を遣いつつ戦っているとはいえ、それを差し引いても思念体はやっかいだった。 なにせ傷つくことを厭わず突っ込んでくるせいで、四人は苦戦を強いられている。 四人が手一杯になった所で、また新たな思念体が店内へと侵入。 こともあろうにノーガードの成樹へと向かっていく。 「ひ、ひぃっ!」 当の成樹はというと腰を抜かして動けないようだ。 動けない成樹に思念体はまっしぐらだ。 「言うた通り、にいちゃんが死んでから回収でもええんやけどな――もし、値引きしてくれんゆうたら考え直したるわ」 玄弥は成樹にそう持ちかけた。 「しますっ! 値引きしますから助けてくださいっ!」 成樹が声を張り上げて即答すると、玄弥は嬉々として叫ぶ。 「交渉成立や、ひゃっはー」 躊躇なく玄弥は暗黒の瘴気を叩きつけ、成樹に襲いかかろうとしている思念体を倒す。 そして、その思念体が倒れたのを最後に、新たな思念体の出現も途絶えた。 ● しばらくして残る思念体の掃討を終えた烏は、成樹に微笑みかけた。 「わかって、くれたんですね」 成樹がアーティファクトの所有を心の中で放棄したことで、もう思念体は吸い寄せられてこない。 その後、素早く食器類の引き渡し作業を終えた烏たちはテーブルについていた。 せっかくなので成樹の料理を食べていこうということになったのだ。 「どうせなのでメニューの上から全部で。8人いれば食べられるでしょう。多分。美味しければよし、不味ければ転職を勧めます。私は正直者なので」 「いいね、それ。払いは上様でいいんでしょ?」 早速、ベルベットがメニューの上から下までを指でなぞりながら言う。 それに真っ先に同調したのは寿々貴だった。 「おじさんは麻婆で一つ」 穏やかな笑みを浮かべて烏が注文すると、ベルカも続く。 「私は青椒肉絲が好きだな。ちゃんと肉が入っているヤツだぞ」 料理が来るまでの間、ミリィは呟いた。 「彼が料理に真剣に取り組んでいるのなら、少しでも手助けをしたい……いえ、こうして私が確認している以上に、お客さんはきっと彼の事を見ている筈です。彼等は料理人の鏡でもある筈ですから」 「彼が、今と同じ様な店の人気を継続できるかは解らんが、少しくらいは彼の手伝いを出来ればな、と思う。口コミサイトや、そういった場所に彼の店に関しての良い評価を流す様に動いてみよう。些細な事だが、彼の実力が本物なら……」 葛葉が言うと、丁度良く料理の数々が運ばれてくる。 そのどれもが見事な味で、彼等は成樹が本物の料理人であることを確信した。 ベルベットが頼んだ品々以外に、玄弥は自分で何皿も頼んでいた。 そのどれもが高い料理だ。 ケチな彼にしては珍しい――そうした仲間たちの視線を感じた玄弥は「くけけっ」と笑って答える。 「無論、アークのツケでくってかえるで。仕事の後のただ飯最高やねぇ」 食事を終え、帰り際に隆明とミリィは成樹に声をかけた。 「うん、普通に美味いじゃねぇか。ま、これからは変なモンに頼らないで自分の腕で勝負するこったな。これから店の人気がどうなるかはあんた次第だぜ?」 「貴方なら大丈夫。だって、とっても美味しかったですから!」 その言葉が偽りでないことは、彼等の満足した顔が何より雄弁に物語っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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