●没頭 とある家族の光景。 コタツに入った4人は黙々と金属の楊枝で殻の中を探り、細い肉質の身を穿り出していく。 或いは殻に鋏を入れ、ばきりとかち割れば白い肉が露となり、滴る肉汁が食欲をそそる。 さぁ準備は出来た。家族は待ち遠しかったこの時へ全力で貪りつく。 そして死んだ。 ●悲惨な一品 「せんきょーよほー、するよ!」 『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)と、兄、紳護が出迎える。 何処となく嗅いだ事があるような匂いを感じるリベリスタ達は、何だろうかと辺りを見渡す。 「今日はね、皆に食べてもらいたいものがあるの」 ノエルが彼等に見せたスケッチブックには、赤色の山が描かれていた。 よく目を凝らすと黒い点が幾つか。形も特徴的な部分がある。 鋏らしき両手があることだ。 「このカニさんね、かくせーしたカニさんで、普通の人が食べるとあぶないから、みんなでたべてほしいの」 そして紳護が問題の蟹を大きな更に乗せて持ってくる。 山盛りに詰まれた蟹、まだ生なので茹でるもよし焼くもよし。 獲れたてなので生もいけるらしい。 「でもね、このかにさんを食べるときには気をつけないといけないんだよ? しーんとしてると美味しくなくなっちゃうの」 はてと首を傾げるリベリスタ達に、紳護が説明に入る。 「この蟹は革醒した影響なのかとても美味いらしい。だが、黙って食うと一気に味が劣化し、この世のものとは思えない不味さに変化する」 何ともはた迷惑な蟹である、しかし不味くなるだけと何処か安心しているように見える彼等に、紳護は言葉を続けた。 「……ノエルが見たのはその不味さにショック死する家族の未来、リベリスタですら耐えるのも大変な酷い味になる予想がついている」 幾ら不味いといえど、殺人級の不味さなんぞ体験したくはない。 一瞬にして青ざめるリベリスタ達を尻目に、紳護の説明は終らない。 「ただ騒がしければ良いわけではないらしい、談笑しているのが分かるぐらいに自然な会話をする必要がある。食べつつだ、全体の会話が落ち着いた瞬間、殻を剥き終えた蟹は空前絶後の不味さに変貌しているだろう」 一般人に理解し易い様に言うであれば、炭酸に醤油を入れ、サルミアッキを溶かしたモノを混ぜ、スパイスにクサヤを少々。 氷代わりに眠○打破を凍らせ、浮かべた味と言えば分かるだろうか? つまり、すこぶるマズイ。 因みに食べる場所はこのブリーフィングルーム。少々調理を加えたいのであれば、火災報知機に掛からぬ様にとの事。 茹でるぐらいはカセットコンロと鍋が既にあるので問題ない。 「ねぇねぇ、ノエルもカニさん食べたい~!」 ぴょんぴょん跳ねておねだりをするノエルを、紳護は優しくなでる。 「……そうだな、これならノエルでも大丈夫だろうし、お手伝いしてもいい」 花咲く様に微笑むノエルを撫で、すっとリベリスタ達に向けた視線は明らかに何時も違う。 「不味くさせたら、大変な事になりそうだな?」 お兄さん、こっそりと殺意を放たないで下さい。 二重の死を抱えさせられたまま、リベリスタ達の蟹宴が始まる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月17日(木)23:10 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「生の蟹さんだけですとお腹を冷やしそうですから、まずは茹でましょうか♪ 他の皆さんも茹でた蟹さん、召し上がりますか?」 うきうきと準備を始める『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)が蟹を鍋に沈め、コンロに火を点す。 勿論と頷くリベリスタ達の返事に、鼻歌交じりで準備を進める。 ご機嫌な彼女と一緒に蟹を鍋に入れていく『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は正反対に静かだ。 (「予想通りだな」) そんな彼を見やる『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は、心の中呟く。 考えていたプランで行くしかないと、即決であった。 「ところで初めての人もいるよな、俺は草臥 木蓮、よろしくな。こっちは雑賀 龍治」 何か言えと肘で小突く木蓮に推され、龍治が口を開く。 「……よろしく頼む」 とても無骨な挨拶が零れた。 「よろしく頼むぞ!」 元気良く『悪を滅するもの』ミャウニャ・テニャニィゼ(BNE004034)が返事を返す。 「えーとな! あたしはミャウナっていうぞ! まだリベリスタになって日は浅いが、今後ともよろしくたのむ!!」 彼女の元気良い自己紹介から続き、賑わい始める。 「皆さん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いしますね。私は那由多・エカテリーナ、那由多とお呼びください」 しかし、彼女の本名は『残念な』山田・珍粘(BNE002078)である。 姿勢を正して、丁寧な挨拶につられて姿勢を正す者もちらほらと。 「さて、堅苦しい挨拶はこれで終わりして、蟹を食べましょうか?」 茹であがった蟹も並び、早速メインの食事のスタートだ。 「ほら、どんどん食べろよ? 酒もあるからさ」 「……うむ、これは旨い。酒が進むな」 木蓮が蟹を剥き、皿に移すと、今度は酒を次ぐ。 「皆様は蟹はどんな風に食べるのがお好みですの?」 『戦場に咲く一輪の黒百合』紅先 由良(BNE003827)が持ち込んだ酢飯で蟹寿司を拵えつつ問い掛ける。 「私は柚子胡椒がオススメです、蟹さんと合うんですよね♪」 オススメの味付けのお披露目となり、テーブルには色んな調味料が並んで行く。 由良からはマヨネーズとケチャップ、櫻子からは更にポン酢、七味、醤油、そして先程の柚子胡椒。 「調理は事前に調べましたけど、食べ方も色々あるんですね」 『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が調味料を一瞥し呟く。 フライパンの蟹に気を配りつつ蟹の殻を剥こうとしているのだが、上手くハサミが入らない。 「関節や殻の裏、白い部分が脆い」 ナイフを使い、手順をゆっくりと見せる紳護。 それをなぞる様にしてハサミを動かす壱和、すると先程よりも楽に殻が割れて行く。 「ありがとうございます」 その傍で同じく那由他は殻を紅い部分から切り裂いていた。 「神秘属性の蟹ですから、硬いのかと思っていましたけど意外と楽に殻が剥けますね」 その様子を見やる紳護の視線に気付いた那由他が首を傾ける。 「……力の入れ方が上手だな」 その頃、壱和は向き終えた蟹を水に沈め、白身に花を咲かせていた。 「見てくださいノエルさん。カニさんが花びらみたいですよ」 冷気に蟹身が広がり、姿が変わるのを覗き込み、ノエルが感嘆の声を零す。 「すごーい! ノエル、初めて見たの」 どうぞと差し出されるそれを美味しそうに頬張るノエル。 そんな妹を微笑ましく眺めていた紳護へ、壱和が焼き蟹を差し出す。 「いつもお疲れ様ですから、いっぱい食べてくださいね」 「……ありがとう」 一旦ナイフを起き、焼き蟹を受け取る紳護も熱で濃縮された蟹の味を楽しむ。 「ところでオウルさんは大丈夫でしたか?」 紳護のチームメイトである狙撃手の事である。 以前の任務で重傷を負ったが、壱和達の手を借り、無事生還した男だ。 「入院したが看護婦の尻を追っかけるほど元気だ」 飄々としたところは相変わらずらしい、壱和の表情も明るかった。 ● 「私達、対象的だと思いませんか……? 色合いが」 『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がノエルへ問いかけるもキョトンとしている。 「たいしょーてき?」 「裏と表とかそういう意味だ、暑いと寒いとか」 紳護が解説をいれ、ノエルが頷く。 「私は水、黒で……ノエルさんは、桃、白。目の色は全然違いますけどね……私は濁った灰色ですが。ノエルさんは綺麗なクリスマス色ですね……羨ましいです」 「えへへ、ありがと~」 褒められ、ノエルは嬉しそうに微笑む。 「でもね、ノエルもリンちゃんが羨ましいの。おしとやかで可愛いの。だからいいな~って、ノエル、落ち着きがないって学校で言われちゃう」 人懐っこい性格の所為か、既に親しみ篭るあだ名をつけていた。 ストレートなノエルの言葉に、うっすらと彼女に微笑みが浮かぶ。 行きつけのゴスロリ服の店や、髪のセットの話とリンシードは質問を続ける。 「……私って、これ以外にどんな服が似合いますか?」 じぃっと彼女を見つめるノエルは、ぽんと手を打つ。 「ノエルみたいなのもあうと思うの。パパがぎゃっぷ は くりてぃかるきる って言ってたの」 何の事だと首を傾げるリンシードへ、紳護がちらりと視線を向ける。 「スイカを食べる時にあえて塩を掛けるだろ? 真逆のモノを纏う事で色香が増すとか父親が言ってたな」 娘に何を吹き込んでいるのやら。 苦笑いを浮かべるリンシードの隣には、屈託無い笑みを浮かべるノエルがいた。 「おいしぃ~」 「美味しいですね」 同じものを食べ、同じ感想を口にするノエルとリンシードだが、表現の温度差は凄まじい。 お子様全開にはしゃぐところを撫でるリンシードへ、ノエルはじゃれ付く様に飛び込む。 「はぅっ、ノエルさん可愛いですぅ♪」 ノエルの素の反応に心を擽られた櫻子がノエルの頬を撫でる。 相変わらずご機嫌のノエルの笑顔は絶えない。 「あ、コレも召し上がりますか? マヨネーズと醤油の組み合わせも美味しいですよ~」 「ありがと~さくらお姉ちゃん♪」 櫻子から差し出される蟹を口に運び、その旨みを堪能する。 マヨネーズは万能調味料。 「おいしぃ~」 そして櫻子はノエルを撫でくり回す。 「ところで、なゆたお姉ちゃんはたべないの?」 先程から蟹を調理し続けていた那由他へ、ノエルが首を傾げて問う。 「美味しい蟹を食べて嬉しそうにしている子を見るのが重要ですから、喜んで頂ければ私は満足なのです」 珍粘、否、那由他の目的はここにいるリベリスタ達からはかなり離れている。 美女、美少女の喜ぶ姿を眼福と目に焼き付けんが為に尽力する、改めて考えてみると危険だ。 「えへへ♪」 無論、ノエルがそんな想いに気付く筈は無い。 「次はあーんしましょうか、あーんを」 剥き終えた蟹を差し出す那由他、ノエルは身を乗り出してパクリと喰らいつく。 「ノエルさんは、小さくって可愛らしいですねー。私、可愛い子って大好物なんですよ。ギュッと抱きしめて離したくない位に」 そして許可を求めるように那由他の視線が紳護に向かう。 彼が怖い目で見ていたら諦めるつもりであった、見ているだけでも十分満足しているからだ。 しかし答えは意外なものだった。 「別にいいぞ? 抱きしめるぐらい……寧ろ放っておくと誰彼構わず飛びついてじゃれ付くぐらい――」 「ノエルさーんっ!」 「きゃーっ♪」 言葉を食う様に飛びつく那由他を見やり、紳護は苦笑いを浮かべる。 ノエルも嬉しそうで何よりと、再び殻を剥き続けていた。 「紳護さん、可愛らしい……いい妹さんをお持ちですね。……ちょっとお持ち帰りしたくなるくらいです」 再び意味深なフレーズが流れる、今度はリンシードからだ。 「1日くらい……貸していただけませんか……?」 勿論駄目だろう、彼女もそう思っていた が。 「要するに一日一緒に遊びに行きたいということか? そういう事なら別に構わない。俺としても同じ年頃の友達と遊んでくれるのは嬉しい事だ、それにリベリスタが友達となればいざと言う時に頼りになる」 妙に話せるお兄さんである、というよりは那由他やリンシードが悪さをすると思っていないのだろう。 「ありがとう御座います……。その、いきなりなんですけども紳護さん、いずれかお嫁に行ってしまうんですよ、妹さん」 妙なシスコン臭を感じたか、リンシードが探りの言葉を掛ける。 しかし紳護は柔らかに笑みを浮かべ手を止めた。 「そうだな。でも、それまでは俺が面倒を見て、しっかりと守ってやらなければならない」 とりあえず駄目なシスコンでは無さそうだと彼女の中で納得したかもしれない。 ● 「はふはふ……やっぱりカニは美味いな!! 美味いけどなんか食べづらいよなー、殻とか面倒だよな」 ミャウナの可愛らしい嘆きに、その通りと頷く頭が幾つか。 尤もその所為で今回の依頼が成り立ったというのもある、面倒な殻を剥くのに集中しすぎて酷い味に変化してしまうのだから。 「もっと食べやすい姿形になってくれないものかな」 具体的にどんなものか、筆者として浮かんだのは蟹カマだがまったく関係ない。 「そうだよな、まだ蟹は調理が楽なのが救いだけどよ」 酒を煽りつつ鍋から蟹を上げる龍治を見やり、木蓮が零す。 その先を問う様に、壱和の視線が向かう。 「パンケーキの牛乳と水を間違えて大惨事になったことがあるんだ、初歩的なミスは皆も気をつけろよ」 身に覚えがあるのか、紳護が小さく頷いていた。 「そうですね、私もうっかり焦がしちゃった事がありますし」 頷くならそれを口にしろといいたいところだが、今は自分で剥いた蟹を貪っている紳護であった。 ノエルの方は那由他や櫻子が見てくれている様なので、今は一休みである。 (「最近何かと物騒ですわね……」) 由良の言葉の理由は、壱和が紳護と話していた件と繋がっている。 楽団の一件で命の危機に瀕する事件が幾つも起きていた。 (「でも今は」) 貴重で少ない平和な時間、戦いの記憶は今は忘れよう。 言葉数が減りつつあった彼女に壱和が気付く。 「ところで年末は何をして過ごしていましたか?」 由良の記憶にあるのは婚約者との記憶。 こんな今でも安らげる、唯一の陽だまり。 それを思い出せばフードの下の表情は柔らかくなる。 「婚約者と過ごしていましたわ」 一生を誓った存在、そんな甘いフレーズに喰らいつくのが女子と言うものだ。 質問攻めの末、気付けば恋話へと話題がシフトしていく。 「皆は好きな人とかいるか? いないなら好みのタイプとかさ」 具体的な部分に切り出す木蓮、言いだしっぺと言う事でそのまま告白へと繋げる。 「へへー、俺様は龍治が超好きだぜ、クリスマスに婚約したんだ」 その証拠に、ふにゃりと頬が緩んでいた。 「んっと……糾華お姉様、です」 続けて告白したのはリンシード、しかしここで堂々と同性の名を口にする彼女に一瞬時が止まる。 「好きな人かーかぁちゃんに とうちゃんに じーちゃんに ばーちゃんに アークのみんなも大好きだ」 ミャウナも続き、何故か愛の場が親愛の場に変わっていく。 「……なーんてな。あたしだってそこまでバカじゃないぞ、好きな人ってあれだろ、いちゃいちゃちゅっちゅしたい人って事だろ」 ミャウナの茶化した言葉に方向は元に戻っていく。 「まだそういうのはいないぞ。好みのタイプとかもわからないなーリンシードちゃんはどうだ?」 幼き少女はこの先に期待、そして改めてリンシードの本命を問う。 「好みのタイプは……えぇと……筋肉質な人、ですかね」 つまりそういう想い人がいるのだと筆者は理解しました。 次とリンシードの視線は櫻子へ。 「好きな人、ですか? 勿論、恋人が一番大好きですよ♪」 満面の笑みでの返答、 ここにも幸せモノが。 「それと好み、好みのタイプ~……普段は凄くいぢめっこなんですけど、いざという時は凄く優しい人が好きです」 照れつつ誤魔化すように蟹を口にする櫻子へ紳護が首を傾げる。 「要するに恋人がそういうタイプということか?」 新語も真顔で言う事ではないが、恥ずかしそうにしている櫻子は被りを振って誤魔化すがまんざらではなさそうだ。 「ところで紳護はあれから変わりないか? また何かあったら助けに行くから安心しろよ」 龍治へ蟹を移し、酒を注ぎと作戦進行中の木蓮が問いかける。 小さく頷く紳護は薄っすらと笑みを浮かべた。 「おかげ様で大丈夫だ。また何かあったら頼りにしている」 にっと笑みで答える木蓮だが、ふと何かを思い出す。 「また話変わるけど、ノエルは11歳だよな、紳護は何歳なんだ? もしかして俺様と年近い ?あ、俺様これでも18歳な!」 彼女の歳を耳にして、何処となく驚いた様子が見える。 「婚約と聞いたから、もっと年上かと……俺は16だ」 彼女の予想より上か下か、ともかくとして木蓮の笑みが何処と無く意地悪げに変わっていた。 「ふふふ……そうかそうか~。さて、質問と安心したついでに好みのタイプでも答えてもらおーか!」 コイバナの爆心地に引きずり込まれる紳護だが、恥らうというよりは困ったように笑っている。 「強いて言うなら、家庭的なところがある人がいい。後はあまり気にしない、その時に感じたモノに素直に答えたいと思う」 随分と堅実な答えが返ってきた。 そこはしどろもどろ答えるのが王道だが、完全にぶっちぎっている。 「紳護、いつもあんな感じなのか?」 「そうだよ?」 ノエルも、さもあらんといった様子だ。 妹が妹ならば兄も兄である。 ● (「この面子では……こちらから語る事などないな」) 時は少々遡る。 龍治は賑わう女子勢を遠目に眺め、木蓮のお酌と蟹を楽しんでいた。 徐々にギアを変えるように、お酒のペースを上げていく木蓮。 だが、龍治はそれに気付かない。 (「ああ、何だか気分が高揚してきた」) それは酔っているだけです。 木蓮が狙っていたのはこれ、口下手な彼も酒が入ると饒舌になる事は知っていた。 それに伴い発生するデメリットもそうだが、背に腹は変えられない。 (「今ならば、この女だらけの場でも上手く渡り歩けそうな気がする……!」) 「……ツマラン奴だな、ここは一つ面白い事をいうのがセオリーだろう?」 紳護の真面目なコイバナ返答へ茶々を入れ、がしっと首に腕を回して引き寄せた。 唐突な行動に目を白黒させる紳護に映ったのは、以前の記憶にあった鋭い目をした狙撃手ではない。 半目閉ざされ、酒気の混じった息を吐く酔っ払いである。 「俺の好みはぁ、まさに木蓮だ。最高にいぃ女だ」 若干呂律の回らない口調で語り始め、グラスを傾けていく。 更に酔いを深め、蟹を貪る。 「あまり冷たい飲み物と蟹を合わせると、お腹に来ますわよ」 助言をする由良へ濁った視線だけが向かう。 「大丈夫、大ぁ丈夫だぁ」 いえ、大丈夫では無さそうです。 透き通る骨だけとなった蟹を更に転がし、うっすらと笑みを浮かべる。 「恋の話といえばな、6月の時だが~仕事の流れとはいえど、結婚式をしたわけだ。あの時の花嫁姿といったら……もう、な?」 思い出す様に、しみじみと語る姿はある意味実年齢とかみ合うのかもしれない。 見た目としてはまったく噛みあわないアンバランス差が、何処と無くおかしくて皆をクスリと笑わせる。 「だからな、結婚式は大事だぞっ? 皆もいい式を挙げてくれぇ?」 ゆらゆらと揺れる人差し指を突き出すが、狙いが定まっていない。 恐らくここにいる女子に対してではあろう。 「あぁ、それにしても木蓮は性格もいいし、見た目も良いし最高だ。 あと、俺としては……特に む」 「そ、その話だけは帰ったらな!」 酔いに任せ、コイバナではなくてイケナイ話にシフトしそうなところで木蓮が遮る。 紳護から龍治をひっぺがし、胸元に顔をうずめさせて口を塞ぎ、頭を撫でまわす。 「あの、木蓮さん、もし良かったら剥いて差し上げましょうか?」 「た、頼む」 由良のフォローに木蓮が即答を返す。 蟹の量もあと少し、ここは酒と蟹で押し切り不味い話を塞ぐのがよさそうだ。 最後の蟹身を由良が楽しみ、殻の山にまた一つ赤が積みあがる。 「家族じゃない人たちと蟹を囲んでお話しするの初めてでしたわ」 こうして蟹は全滅した。 「みんなで食べると、やっぱり美味しいですね」 壱和も頷き、満足そうに笑みを浮かべるとご馳走様と両手を合わせる。 「美味しかったですわ……あ、蟹味噌貰い!」 目ざとく残っていた蟹味噌を確保する由良。 ここまで楽しまれれば蟹も大満足してくれた筈だ。 「もう、腹には入らんのだ……」 酔いも満腹感に押し潰され、ぐったりと寝そべる龍治。 こうして蟹の宴は幕を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|