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☆<迎春2013>新春カルタ大合戦!

●元旦遊戯
 新たな年を迎えた或る朝。
 今日この日、特務機関アーク内にて熾烈な戦いがはじまろうとしていた。

 アーク内の一室。
 正月らしい格好をしてきて欲しい、と告げられ集った者たちが案内されたのは畳敷きの広い和室だった。部屋の中には正月飾りのついた鏡餅や破魔矢、注連縄などが豪華に飾られており、新春の訪れに相応しい様相となっている。
「あっ、来た来た! 皆、あけましておめでとう!」
 そこでリベリスタ達を迎えたのは、三高平市の紋付き羽織り袴を着て、嬉しげに尻尾を振っている『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)だ。
 その背後には同じくして紋付き袴を身に纏ったフォーチュナも居り、何やら札のようなものを床に並べている。そして、よくよく見れば和室の奥には達筆な筆文字で『新春アークカルタ大会!』と記された垂れ幕が掛かっていた。
「やっぱり皆も参加しに来たのか。へへー、カルタ大会と聞いたら黙ってるわけにはいかねーよなっ!」
 耕太郎はリベリスタ達に明るく笑いかける。
 仲間である皆も今日ばかりはライバルだと挑戦的な態度を見せる少年だったが、訪れた内の何人かが催しの内容を知らずに訪れたことに気付いて、きょとんとしてしまう。
「へ? 知らないで来た奴も居るんだ。それじゃ俺がみんなにルールを教えてやるぜ!」
 そう言って自信満々に胸を張った耕太郎は今回のアーク式カルタ大会の概要を説明しはじめた。

●伊呂波歌留多の乱
 ――室内遊戯、カルタ。
 それは、いろは歌の文字に乗せた読み札と絵札に分かれた二種類の札を使い、読み上げられた札をいかに速く手中に収めるかを競う、日本古来から続く伝統的な正月遊戯である。

 今回の大会で使用するのは『犬も歩けば棒に当たる』という読み札で有名な江戸カルタ。
 しかし、ただ用意された札だけでは面白みに欠けるということで、今回は特別な追加ルールがある。
 それは、ひとりにつき一枚、オリジナル札を用意してカルタに混ぜること!
 読み札の最初の文字はいろは歌内の47文字であれば何でも構わない。絵札も参加者の自由で良いらしく、センスや頓知が問われるだろう。
 また、通常であれば取った札1枚につき1ポイント換算として勝敗を決めるのだが、オリジナル札のみポイントが違っている。自分の札ならば5ポイント、他人の札ならば3ポイントとなるのだ。
 それゆえにカルタが苦手な人や初心者であっても逆転のチャンスは大いにある。

 それに加え、無視してはいけないのが景品の存在だ。
「なんとっ! 決勝まで勝ち残って、上位三位に入れば『お年玉』が貰えるんだぜ」
 ぐっと拳を握り締めた耕太郎は瞳を輝かせる。
 お年玉の中身は公表されてはいないが、お年玉というのだから期待しても良いだろう。なかには紙のアレがたくさん詰まった大入り袋も用意されているらしく、期待に添う内容であることは確かだ。
 それゆえに、この催しが示すことはひとつ。
 血気盛んなリベリスタが集うのならば自ずと導きだされる経過。それは、このカルタ大会が激しいバトルの場と化すことだ。もちろん普通にカルタ取りを楽しむために参加しても良い。だが、うかうかしていればあっという間に予選落ちしてしまうだろう。
「悪いけどさ、俺も容赦しねーからな! いざ、勝負だ!」
 耕太郎は仲間に向けてびしりと指先を突き付け、宣戦布告を行った。
 それを開会の宣言とするようにして、気合いの入ったリベリスタ達も並べられた札の周りへと着席してゆく。静かに大会の開始を待つ者、緊張気味に表情を強張らせる者、意気揚々と優勝を狙う者。それぞれの思いを胸に、リベリスタ達は己の勝利を誓った。
 そして今、新年を飾る催し――お年玉を巡る『カルタ大合戦』の幕が開かれる。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月16日(水)23:22
あけましておめでとうございます。
犬塚ひなこです。今年もよろしくお願いします。
新春ということで、お正月らしくカルタ大会開催でございます。

■ピンナップについて
 当シナリオは『ピンナップシナリオ(β版)』です。リプレイ返却後、その内容に沿う形で
 担当の『ソガ』VCにより参加者+NPC全員の登場する大きなピンナップが作成されます。
 ピンナップの納品時期はリプレイ返却後一ヶ月程が目安になります。
 ※バストアップが無いキャラクターは描写されませんのでご注意下さい。
また服装にこだわりがある場合は必ずプレイングに明記してください。

●概要
 一言で表すと「お年玉争奪カルタ大会」です。
 内容はごく普通のカルタ。広げられたカルタ札の周囲に七名が座り、取った札の枚数とポイントで勝敗を争い、上位三名にはアークからの素敵なお年玉が贈られます。

 基本ルールは通常カルタと同じ。おてつきは一回休み。
 一気に全部を確保してしまうという荒業や、明らかな反則行為は認められません。

●内容
 リプレイは決勝大会から描かれます。
 皆様は熾烈な予選大会を勝ち上がってきた猛者という扱いです。
 ここまで来れば目指すは優勝。新年を飾る、仁義なきカルタバトルの幕開けです!

 上位者は意気込みやカルタに対しての作戦などのプレイング内容で判定致します。
 レベルに準じる能力判定はありません。「おてつき覚悟の速攻勝負!」や「慎重に札を見極め確実勝負」「配置された札の暗記を試みる」など、作戦が具体的かつ有効であり、皆様それぞれのキャラクター性に合っていればいるほど有利です。
(例:スピード重視の耕太郎が慎重な作戦を行うと実力が発揮出来ずにボロ負けします)
 ある意味でバトル系の雰囲気ですが流血沙汰はご法度。
 他者の妨害は禁止されていませんが、常識的な範囲・ギャグで収まる程度でお願いします。緊張感や真剣さを抱きながらも賑やかで楽しい雰囲気になれば万々歳です。

●オリジナルカルタについて
 プレイング内に一人一枚分の追加したい札内容を明記してください。
 通常札は1P。他人のオリジナル札は3P。自分のオリジナル札を取れば5P換算。
 なので、札をちゃんと作って来ないと自ずと不利になってしまいます。

(例)
「は」札で「春待ちの、桜の宴に焦がれし季節」(絵札:雪と桜の絵)
「き」札で「君のハートをブレイクゲート」(絵札:カッコイイ自分の絵)
「ま」札で「マジ天使 真白イヴたん マジ幼女」(絵札:イヴの写真)などなど。
 五七五の俳句でも、語呂が悪くてもOK。形式にこだわらなくても大丈夫。公序良俗に反せず、読めない程長いものでなければ自由です。他人を惑わすために札に変な絵を描いても良いですよ!

●NPC
 犬塚 耕太郎(nBNE000012)が参加します。
 紋付き袴を着てお正月気分も全開。勿論、カルタ大会で負ける気なんて微塵もありません。今日ばかりは皆様のライバルです。反射神経がとても良いので強力な敵になる半面、すぐに気が逸れてしまうのが弱点です。
 札の読み手はフォーチュナの少年(斑鳩・タスク(nBNE000232))ですが、読む事に集中しますのでリプレイ本文には出てきません。公平を期しますのでご安心ください。
参加NPC
犬塚 耕太郎 (nBNE000012)
 


■メイン参加者 6人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
ソードミラージュ
出田 与作(BNE001111)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
プロアデプト
★MVP
エリエリ・L・裁谷(BNE003177)



 正月遊戯カルタ。
 それは、新年早々繰り広げられる仁義なき戦い。
 畳敷きの和室には今、或る意味で神聖な空気が満ちていた。ある者は実力。ある者は運と気合い。ある者は策略を巡らせ――。今、ここに集っているのは数々の参加者を打ち破り、勝ち抜いてきた猛者。カルタ大会の頂点を決する七名の者たちだ。
 まずは一人目、白の晴れ着に身を包む『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003) 。彼女はいつものツインテールとは違い、正月らしく清楚な感じに髪を結い上げている。その黒髪と白の晴れ着は相反していながらも、凛とした雰囲気に満ちていた。
「少しは大人っぽくみえるかな? 似合うかな?」
「らいよんちゃんよく似合うです。大人の色気もばっちりなのです」
 その傍ら、雷音とお揃いの晴れ着を身に纏っているのは『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020) だ。金の髪に結わえたのは花の髪飾り。右手の薬指にピンクサファイア入りの銀環、耳には苺に天使の羽のついたイヤリングが飾られている。そあらは友人を褒めると同時に、更にエレガントになるようにと雷音をイメージした白い羽の髪飾りを添えてやった。
 こうして微笑み合う親友同士が決勝で戦うことになったのも運命か。
 隣同士で座った少女たちは、互いの装いを褒めると同時に勝負への決意をあらたにする。
 一方、赤を基調とした振袖を着ているのは『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)。花椿の髪飾りと結い上げた銀の髪は普段と変わらぬままだが、実によく似合っている。
「ついつい熱くなってまったけど……まさか、決勝戦まで残れるとは思わへんかったわぁ」
 決勝がはじまる前、椿は思う。カルタや百人一首は昔からよくやっていた。それゆえに、これが俗に言う昔とった杵柄というものなのだろう。ぐっと掌を握った椿に対し、隣にいる『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎 (nBNE000012)が視線を送る。
「アネキも気合十分なのか? だけど、俺だってすっげー燃えてるぜ!」
「可愛い弟分とはいえ、手加減はせぇへんよ!」
 紋付袴姿の耕太郎が明るい笑みを向け返すと、椿も笑みと眼差しを返す。
 そんな二人を見遣った『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273) は微笑ましさを感じて穏やかな笑みを湛えた。決勝を待つ者たちが纏う雰囲気は格別。
「流石は予選を勝ち上がってきた方々です。されど、やるからにはわたしとて負けませんよ!」
 ここまで来た以上、すごすごと引き下がるなど大和の矜持が許さない。上位を競う宿敵ともなるリベリスタたちを見渡すと、不意に『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177) と目が合う。
 蜘蛛巣や髑髏模様の黒い振袖を着た少女は、目が合った大和へと不敵な笑みを向けた。
「天才邪悪ロリであるわたしとて、敗北する気はないのです」
 漆黒の瞳に宿るのは野望めいた意思。
 この為に作戦を考えに考え抜いたのだ。抜かるはずがない。エリエリは胸中で勝利を確信し、はじまりの時を待つ。そんなとき、紋付羽織袴の『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111) がふと呟いた。
「まさかここまで勝ち残れるとは……ちょっと面映いけど、うん。嬉しいね」
 与作は改めて勝負への思いを募らせる。
 事前にお茶を用意しようと考えていた彼だったが、振袖の女性の事を考えると札がびしょぬれになり、妨害どころかゲーム続行不可になるという理由で下げられていた。それも致し方ないかと頷いた彼は、これから始まる戦いへの決意を強く持った。


 七名が互いに対面する合間に、いろはカルタが用意される。
 次々と並べられていく札は無作為。どの札が自分の前に並ぶかも勝負の別れ目だ。高鳴る鼓動を抑え、雷音は目の前の札を見据えた。
 いろはにほえど散りぬるを――。
 五十の音に言葉と気持ちを閉じ込める。不思議と満ちる空気が神聖にすら感じるのは、日本情緒溢れる催しだからだろうか。
「目指すは勝利! なのだ!」
 雷音が気合いを入れた時、読み手が読み札を持ち、決勝大会がはじまりを迎える。
 緊張が走る中、はじめに発された音は――『と』。
『年の初めの寿ぎを』
 短くも終わりを告げた読み札に対し、素早く動いたのは与作だ。はい、と自分からやや離れたエリエリの前に置かれた札に手を掛ける。絵札には墨と筆で描かれた富士と鷹と茄子。そして、謹賀新年の文字が書かれていた。
「悪いね、うん。さっそく俺の札だったみたいだ」
 自分の混ぜた札を手に取った与作の笑みに、エリエリが目を細める。
 一手目を取れた事による心理的優位は彼が取った。だが、エリエリにとってそれは想定済み。自分の札を取れるのは当たり前。それにまだ慌てるような時間ではない。
 次は『犬も歩けば棒に当たる』。
 はいッ! と元気良く札を取ったのは耕太郎だ。反射神経を利用した少年は得意気に札を握り締めた。そんな彼に愛らしさを覚え、椿はくすくすと笑いを零す。
「流石やなぁ、耕太郎さん。けれどうちだって!」
 身構えた椿が畳床を見渡した。すると、『知らぬが仏』の札が読まれる。ここぞとばかりに腕を伸ばした椿は『し』の札を華麗な手捌きで弾き飛ばす。勢いの付いた札は宙を回転しながら舞い、カーブを描いて椿の手に収まる。
「すごいのです。油断できないのです」
「アネキ、何なんだ。もしかしてその道のプロ……?」
 そあらたちから称賛の声があがる中、椿は偶然だと笑ってみせた。そうして、次々と札が読まれ、取られていく最中。大和は他の者よりも一歩出遅れていた。けれど、大和は諦めてなどいない。
 どんなに遠くにあっても、どうしても取りたい札があった。
 それは――『ありふれた 平穏こそが 宝物』。
「はいっ! これだけは……絶対に、絶対に誰にも渡しません」
 大和がいの一番に取ったそれは、見慣れた我が家の縁側と見慣れた人達が描かれた札。ありふれた日常だけは守りたいと願う彼女の切なる思いが籠められた一枚だった。大和は大切そうに札を仕舞い込み、新年への思いを強く抱く。
 今年も変わらぬ日常を紡いでいくために。それが大和の願いであり、心からの思いだ。
 そんな風に、譲れないものは誰にでもある。
 そあらには先程から気になって仕方がない札があった。それは雷音が描いたらしき、いちごの絵札。いちご好きな彼女にとっては魅惑の一枚である。そんな中、読み手が「いちご……」と発した。
 刹那、そあらと雷音が弾かれたように動く。
 同じ目標を狙い手を伸ばす二人。書いた本人がわずかに有利と思いきや、雷音の手が札をしっかりと押さえているそあらの手と重なってしまう。はっとした雷音が手を退ければ、そあらが嬉しげに札を拾い上げる。
「ボクの負けなのだ、そあら」
 苺に対する反射神経に乾杯を認め、雷音は小さく息を吐く。だが、その表情に悔しさは滲んでいない。『いちごいろ 春めく季節の 香り待ち』と描いたのは親友と共に新たな季節を迎えたい気持ちの表れ。だから、悔しくなど全然ないのだ。
 そうしている間にも札争いは熾烈を極め、一進一退の攻防が繰り広げられてゆく。


 次に読まれた『めざせ優勝! ホームラン!』という札の主は耕太郎。
「うわー、俺の願いを籠めた札が!」
 だが、運よく目の前に札が置かれていた大和によって奪われてしまう。酷く悔しがる耕太郎を宥めようとした椿だったが、次に読まれた札に瞬間的反応を見せる。
「うちのが来た! 誰にも取らさへんよ!」
 記憶と速さを発揮した椿が問ったのは『気をつけよう お酒は急に 止めれない』という札。
 絵札には満面の笑みでお酒のグラスを掲げている椿と、止められず飲み過ぎた結果――つまり教訓的な姿が描かれていた。実に個性が出ている札に一同が納得し、妙な一体感が生まれる。
「おお。アネキらしいな、ほんと」
「まさに気をつけようということだね。教訓もしっかり入れているなんてすごいね」
 耕太郎に同意し、与作も深く頷く。椿は見事に自分の札を手に入れられた事に気合いを入れ直し、更なる勝利への思いを燃やしていた。だが、個性が出ていると云えば、そあらもだ。
 ――さおりん大好き 愛してゆ 一途な思い 貴方に届け(はーと)。
 それが読まれた瞬間、そあらが光の速さで動いた。距離をものともせず、彼女が押さえたのは愛する人のイラスト(キラキラ三倍増し)が描かれた自分の札だ。読み手が読むのを恥ずかしがるほどの想いは、きっと何にも勝る。
「すごいのだ。いちごの時よりも輝いていた気がするぞ」
 思わずぱちぱちと拍手した雷音。友の褒め言葉に淡く微笑んだそあらはぐっと拳を握った。
「らいよんちゃんの分まで入賞目指して頑張るです」
 大好きな人が傍に付いた今、思いは更に燃えあがる。
 現時点、自分の札と他人の札を取ってリードしているのは大和とそあらだ。取られてしまった耕太郎と雷音も何枚か札を持っているものの、今から逆転するのは難しい。そんな中、不意にエリエリの札が読まれる。
(――来ました)
 『邪悪ロリ世にはばかる』の通り、その絵柄は両手の穴に物干し竿を通されたエリエリが干されている様子だ。与作と争いながらも身を乗り出し、難なく札を自分のものにしたエリエリはそっと顔を上げた。
「そろそろ手筈が整いました。覚悟すると良いですよ」
 そこには不敵な笑みが湛えられている。
 札に書かれた言葉通り――邪悪ロリがはばかるのだとばかりに、快進撃がはじめられようとしていた。
「覚悟するのはどっちやろなぁ。うちも引き下がる気はないんよ」
「俺だってそうだよ。最後まで楽しまなくちゃね」
 無論、椿や与作も負けてはいない。火花が散るような対抗心の中、勝負は先が見えない。
 張り詰める空気の中、大和は高揚感を覚えていた。
 繰り広げられる戦いは厳しくとも、巡るのは純粋な楽しさ。皆、それが分かっているからこそ空気が温かいのだ。大和は口元に浮かぶ笑みを押さえられず小さく口元を緩める。
「まだまだこれからです。さあ、続きを始めましょう」
 そして、真剣に向けた双眸には不思議な心地が宿っていた。


 抜きつ抜かれつ勝負は続く。
 並んでいる絵札が通常のものばかりである今、後は正確さと速さがものを言う。鋭く張り巡らされる視線。読まれると同時に伸ばされる腕。弾き飛ばされる札。そして、駆け引き。
「やーん! お手付きしちゃったのです」
「直感で行ったは良いものの間違ってて……まぁ、なんや、ごめん」
 逸早く動いた椿の動きに乗せられ、つられて手を伸ばしたそあらは一回休み。間違えたことに気付いた椿は寸でのところで札をかわし、かわりにそあらがお手つきをしてしまったという具合だ。その間にエリエリが正解の札を取り、また一歩リード。
 与作も気持ちでは負けていなかったが、ついつい争いの中で態勢を崩し掛けた者のフォローをしてしまうため、なかなか点に繋がっていかない。しかし、耕太郎もまだ勝負を諦めていない。素早さを生かして戦い続ける彼に対し、雷音は妨害工作に出た。
「ところで耕太郎、お腹が空かないか? あとでボクの手作りのクッキーでも食べないか」
「えっ、クッキー?」
「ん? 駄目だよ耕太郎君、今はカルタに集中しなきゃ」
 思わずつられて尻尾を振ってしまう耕太郎だったが、そこへ与作が注意を向ける。
 そういった遣り取りが交わされる中、読まれる『花より団子』の札。椿と大和がすかさず札を狙って動く。交差する視線、迫る手と手。次の瞬間――僅かに早かったのは真っ向勝負を仕掛ける堅実な大和だった。
「ありがとうございます。こちらは頂きますね」
 微笑む彼女に対し、椿も小さく頷く。強敵だと感じる以上にその速さは侮れない。
 だが、エリエリも虎視眈々と次の手を狙っていた。彼女が先程、整ったと言っていたのは誰にも明かしていないエリエリ自身の作戦だ。少女もまた、力強くまっすぐ取りに行くスタイルを取っている。しかし、その中には徐々に自分の方へと寄せるように調節していたのだ。
(勝負の震動で動くのは不可抗力です。それに、怒られない程度ですしねー)
 ふふん、と悪い笑みを湛えたエリエリはじわじわと上位争いの枠に迫って来ている。何よりも、最初に手札をスルーして動かなかったのは札を少しずつ記憶する為の作戦だったのだ。

 札は段々と少なくなり、残すところ三枚となる。
 一同の間に緊張感が走る中、そあらは先手必勝とばかりに速攻勝負にでることにした。
『鬼に金――』
「鬼さんはこちら、なのです!」
 金棒、と読まれ終わる前に少女は目の前の札を狙う。だが、椿も即座に札を弾こうと動いた。
「うちもそれに目ぇ付けとったんや。今度は競り負けへん……っと!?」
 その瞬間、タイミング悪く腕を伸ばした耕太郎と椿がぶつかる。手を滑らせてしまった椿は倒れまいと反対の手を突く。だが、運悪く手は別の札を押さえてしまい――。
「あ……アネキ、お手付き」
「今のは可哀そうだけど、紛れもないお手付きだね」
 申し訳なさそうに尻尾を下げた耕太郎に続き、与作は冷静な判断を下す。その間にそあらが正解の札を手に入れ、雷音に嬉しげに見せた。頑張るのだ、と告げた雷音もそあらを応援してはいるが、自分だって取れるチャンスを窺っていた。
 その気概の通り、次に読まれた札は雷音が華麗に押さえ、手中に収めることになる。
「どうだ、ボクにも意地があるのだ」
 戦いを諦めぬ獅子の如く。雷音が皆に見せた札には『油断大敵』と書かれていた。エリエリが唇を噛み、大和も改めて己を律する。
 これで残る札は一枚。
 ここまで稼いだポイントはそあら、大和、エリエリが同点。つまりは三人のうちの誰かが一点を奪取すれば優勝となる。それでも椿とて、あと一点さえ取れば四人と並ぶことが出来る。単独優勝は狙えないが、まさかの四人同時入賞という展開にはなるかもしれない。
 真剣な空気が満ちる中、リベリスタ達は身構える。
 最後の札は『ちりも積もれば山となる』。その一文字目が発された瞬間に動くことさえ出来れば、後は純粋な速さの勝負となるのだ。与作も幸太郎も、もちろん雷音だって諦めてはいない。
「……勝ってみせます」
 大和が静かに口を開き、ゆっくりと息を吸った。
 読み手もタイミングを計るように周囲を見渡し、そして――最後の札の一文字が発される。
 瞬間。殺気すら感じさせる気迫が部屋に満ちた。
 札が勢い良く弾き飛び、弧を描いて畳の上に突き刺さる。
 一瞬の内に終わった勝負の結果。それは――。
「わたしの勝ちなのです」
 エリエリが立ち上がり、胸を張る。誰もが死力を尽くした結果、見事に勝負の頂点に輝いたのは策略と作戦を立てた上で真っ向から勝負を掛けた彼女だった。


 こうして、大会はエリエリの優勝。
 次手は大和とそあらが同着。そして、僅差で椿。続いて与作、雷音、最下位は耕太郎だ。
 景品、もといお年玉が与えられるのは上位三名。神棚には三つのお年玉袋が並べられており、どうやら上位の者から好きなものを選ぶ形式らしい。
「どれにしようか迷いますが、やはりこれです」
 勝者エリエリが選んだのは何十枚もの紙が詰められているだろうお年玉袋。
 他は少しの厚みがある袋と薄っぺらい袋であるからして、それを選ぶのも当然だろう。そして、エリエリは期待を込めて袋開けた。
 だが――入っていたのは、大量の「かたたたきけん」。
「…………」
 あまりの結果に言葉も出ない。
 天才邪悪ロリ、勝負に勝って心理的に大敗した瞬間である。
 そうして同着二位のそあらたちは、話し合いで仲良く残りの袋を手に取った。二人同時に袋を開ければ、そあらの方には三高平商業地域で使える商品券が入っていたようだ。
「これでらいよんちゃんとお買い物できるです」
「良かったな、そあら。あれ、ボクも一緒でいいのか?」
 ほくほくと喜ぶ彼女の言葉に思わず雷音が驚くが、そあらはもちろんだと満面の笑みを浮かべた。
 微笑ましい少女たちの遣り取りを眺めていた大和も袋を開ける。すると、そこには商品券と同額のお年玉が入っていた。
「まぁ、諭吉さん……」
 驚く大和の傍、エリエリが羨ましげなジト目を向ける。耕太郎もがっくりと肩を落として落ち込んでいたが、見兼ねた椿がやさしく肩を叩いて慰める。
「まぁ、勝っても負けても耕太郎さんにはお年玉あげる心算やったし」
「えっ! やった、アネキ大好き!」
 現金に尻尾を振る少年が可愛らしく思え、椿は思わず笑いを堪えた。そんなとき、何かを考え込んでいた大和が提案を投げ掛ける。
「こうして集えたのも何かの縁です。良ければ皆さんで一緒に何処かに繰り出しませんか?」
 大和が軽く掲げて見せたのはお年玉の袋。
 楽しかった分は還元しないと、と微笑んだ彼女は心からカルタを楽しんだようだ。良いね、と賛同した与作はふと思い立ち、持参した一眼レフのカメラを取り出す。
「折角だ。今日の記念に撮影をしても良いかな?」
 そう与作が誘えば、正月飾りの前に仲間が集う。今日の記憶を写真という絵に残し切り取る。まるでカルタの札のようだ。そんな思いを込めた与作がカメラタイマーを押した。
 そして――皆が其々の笑顔や思いを湛える中。
 今日という記憶の一幕の終わりを告げるように、シャッターが下りた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
あけましておめでとうございました。
お年玉を巡るお正月カルタ大会バトル、お楽しみ頂けたでしょうか。大会結果はああなりましたが、気持ち的には楽しんでくださった方々みんなが勝利したような形です。
皆様が今年も良い年を過ごせるように、ささやかにお祈りさせて頂きます。

今年もどうぞよろしくお願いします!