●酔い惑う刀の錆音 プシュウ、とバスの間の抜けたブレーキ音が寒空に木霊する。 降りる者はひとり。そして、たくさん。 あまりにも多いからか、バスは何時まで経っても発車する気配がない。 バスの中は随分と赤い。正月が近いからか。外の雪とのコントラストは宛ら紅白模様である。 バスの走ってきた跡に鋲のように撒き散らされた赤色も随分と美しく見え。 バスの周囲は、ずっと赤く染まり続けて。 ざくざくざくざくと靴が雪を食む音が寒空に木霊する。 全身に血を塗りつけた男は、軽く体を揺らしながら歩いている。狂気に身を置いた笑顔の深さは、宛ら闇の奥のよう。 男一人が歩いたにしてはまばらな雪の散り方は、彼の得物の異常さにある。 数珠繋ぎになった刃。柄のない抜き身の刃が一本の鋼線で繋がれたそれは、蛇腹剣のそれを想起させるだろう。 だが、そうではない。この刃は、それぞれが本体。それぞれがひとつところの憎悪なのだ。 「…………ハテ」 男の腕が、掲げられる。螺旋を巻いて、根本の柄ある刃に吸い寄せられるように刃が集結し、男の腕に絡みつき。 刃に禍々しい毒の色を湛えて、輪唱のように音が響く。 「籠釣瓶は良く斬れるなァ」 ●国斬刃は夜笑う 「『籠釣瓶花街酔』。歌舞伎の演目のひとつとして有名ですが、そもあの作品で言及される『吉原百人斬り』なんてのは刀の特性からして有り得ません。何しろ刃なんてのは血と脂ですぐに切れ味が落ちるんです。本質的に、一本の刀に成し得るところはほんの僅か――」 「一般論を神秘に押し付けるな」 「……それを言ったらおしまいでしょうよ」 一言で喝破された事実に肩を竦ませ、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は当たり前のように告げる。 画面上の男が持つ装備の奇怪さは、リベリスタ達をして不気味な吸引力を持つ。 ああ、嗚呼。あれは人を殺すために作られた道具であると。 あれは、人の心を惹き込む暗い渦だと。 「アーティファクト『籠釣瓶双革(かごのつるべついのあらため)』。噂通りであれば、当の『籠釣瓶』が血と脂で劣化したものを打ち直したもの……とされています。奇しくも、崩れ朽ちても魔剣といったところでしょうか。打ち手にすら狂気の形に改めることを強要したとすれば、成る程感慨深い。刃を引けば血を見ずに居られぬ魔剣を、常に抜き身でいられるように打ち直す狂気は真似出来ませんね、実際」 「……本物か、というのは流石にくだらん質問だな。問題は」 「ええ。その性質と威力にこそあります」 画面の向こうにあっても人の心をさんざめく狂気に叩き落とそうとする刃が、実物として眼前に現れたらどうなるか。 「この刃の本質はその存在にあります。人の心を煽動することに特化したこれは、ひと目見れば害意を催し二目見れば殺意に変わり、三度見てしまえばそれは狂気と変わらない……そんな存在感が、この刃の恐ろしいところと言えるでしょう」 「つまり、対峙するのも一苦労ってことか。難儀だな」 異形を前に狂うなというのは無理な話であり、異常を前に憤るなというのもまた、リベリスタには無理な話だろう。 だからこそ、人の心を脅かす。 「で? 所有者の情報は?」 「はぐれのフィクサード……と、言いたいところですが。主流七派『六道』、アーティファクト研究機関所属『だった』手合いです」 「『だった』? 現状は違うのか」 「ええ。申し上げました様に、かのアーティファクトは人の心に左右します。それが、本質的に殺戮を好む本性を隠すものであればあるほどに。その極致にあったであろう『血行灯』夜通 烏頭忌の心を抉り、最大の相性を発揮した……どうでしょう、こんなところで」 「まあ、そういう筋書きってことにしといてやるよ。で? どうすればいい?」 リベリスタが問う。 「六道の厄介どころも現れます。彼らとしては武器を傷つけず、加えてあれを制御できる『血行灯』を殺さず捕縛したいと思っている。彼としてはただ好きに人が殺せれば文句はない。けれど邪魔をされる。ならば殺そう、となるでしょう」 「つまり」 「ええ。言ってしまえば三つ巴……より、悪いでしょうね。『夜行灯』は最初から殺人目的ですし、六道はそもそも目的のためなら一般的な被害など気にしないでしょうから」 「ところで、その『血行灯』は」 「特性があるとすれば『籠釣瓶双革』に依存する形ですが、彼固有の能力として特殊な移動を行えます。一対一であれば、相手をすり抜けることすらも」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月11日(金)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●悪性を研ぎ理性を裂く、獣 「……ああクソ。おい夜通の! お前少し見ねえうちに大分面白くキレるように成ったじゃねえか! なんでそのザマで俺らに喧嘩生んのよ、お前も俺も変わんねえじゃねえか!」 「廃品回収にしては勤勉だな? お前たちも長く無いのだから退けばいいものを。材料集めか」 「材料……ハッ、お嬢様の手遊びに使うには勿体無ェよ! 夜通のも、籠釣瓶もな!」 雨、と言うよりは氷雨に近いか。神秘が介在せぬ自然現象の中吼える『黒刈人』日早 暁と対峙しても、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の表情は変わらない。 狙いを確たるものにした筈の一撃を無言のうちに躱し、返す刀で放つ気糸はその皮膚を軽く削り取る程度の精度を持っていた。 狙うこと、回避することにある程度特化した彼女すら互角に渡り合うその男が、決して六道の端兵ではないことは明らかだった。 ……尤も、それ以上の戦力をアークは揃えてきているのだが。 「こちらの思い通りにはならないのだろうな」 「ハ、ハテ、サァ、ネェ。賢すぎる、と思ったことは無いかい」 「……何がだ」 「世界が、サァ」 カッツバルゲル――喧嘩用の名に違わず、接近時の鍔迫り合いを軸に作られたとされる刃で籠釣瓶の猛攻に向かいながら、『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は眼前に立つ男、『血行灯』夜通 烏頭忌の問いに首を傾げた。 世界が賢い、ということは世界の強制力について、ということか。西洋のリベリスタ組織から至り、現在まで身に沁みるほど味わったそれが彼を狂わせる一因だったとでも言いたいのか。 解らない。言語を知ることと思考を知ることは似ているが、全てを理解できるわけではないのだ。 「細かいこと、は、いい……戦意、があれば」 「『戦鬼』サマには解らないかィ。ソレじゃぁ死んで貰わなきゃァ」 問答など無用、とばかりに追撃に入った『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)を前にしても、やはり彼は動じない。狂っても研究者――眼前の相手を見る眼は、明らかになにかを考え、分析する眼だ。 何故このような男が殺戮に目覚めたのか。いや、それすらもどうでもよかったのだ。天乃にとっては戦う事が全てなれば、目の前の相手を打倒することが何よりも、真っ先に考えるべき事実。 故に、その戦いが始まった時から、ずっと。 刻限をわずかに戻す。 「カゴツリ……カゴノツ……カゴツルベ……止めだ、漢字はまだ良く分からん!」 「籠釣瓶……確か柳生の誰かの使ってた刀だよね」 漢字、特に日本文化になぞらえたそれの読みは、海外の基準に当てはめれば殊に奇怪であるというのはよく述べられる話である。 故に、ハーケインの反応は割と当然といえばまあ、そのとおりの反応ではある。 アークに至った経緯に近いものを持つ『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が日本語に堪能なのは個別の差というか社会性の差というか。 ただ、『籠釣瓶』自体が特殊な経歴の上にある存在であることを考えるに、彼らの反応は至極当然と言えなくもないのだ。 「良く斬れる武器ってーのは心惹かれるっすけど」 それで自らを見失うなら意味が無い、と『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は思う。長らく戦いを共にした知人の言葉ではないが、護るために振るえない剣などただの凶器だ。自らの意に沿わないそれに何の重みがあろうか。 壁に足をかけ、只管に確実に前へと進む姿からは、甘えのない決意があることを如実に感じさせた。 「六道、の動きを読む限り……夜通、と、当たってすぐ、後ろから狙われる格好……に、なる、はず」 接触までの時間はほぼ無いと言っていい状況下、五感全てを拡張させた天乃の探知網にあっては両勢力の動きを知るのは容易な話だ。 こと、烏頭忌に至っては既に多量の人の血を全身に浴びている。血痕も血臭も、さも見つけてくれと喚き散らす幼子と何の違いがあろうか。 「道具に魅入られて人殺しなど、心が弱いだけだ」 道具に如何な神秘的背景、魔力的重みがあろうと結果的に全ては同じところに帰結する。魔を孕む得物をそうせしめたのは何時であっても使い手だった。 『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は、天才である。本人がそう言う限りは、そうなのだろう。ままならぬ何かがあろうとそうあり続けることを自らに課している限りは、そこに欺瞞は無い。 ……ただ、言えることが在るとすれば。心をまっすぐに保つことが出来る彼には、恐らく知ることの出来ない境地もまた存在するということか。 「なんでもできる」ことは、「なんでもわかる」事ではない。理解すべき所に、在るべき何かがあること。それが無い者も居ること。強いものには弱いものが、またその逆が解らない。 示すことでしか、導くことは出来ないのだ。 「一般人しか斬れないのなら顔に書いておけば良いものを。そんな程度……っと」 冗句の様にユーヌが言葉を紡ぐのとほぼ同時。幾重に振るわれた斬撃は、空を割いて先行する天乃とユーヌへ向けて叩きつけられた。だが、当たらない。両者ともに、紙一重の間合いでそれを見切り、距離を置いていた。 「いや、締まらない顔つきで書いてあるな? 失敬」 「……ク」 リベリスタ達が最初に認識したのは、幾重に連なる火花の乱舞。一拍遅れて、それが連なって振るわれる刃が周囲を刻むことで発生したものであることに気付いただろうか。 鞭のように得物を撓らせ、絶えず周囲に叩きつけることで自分の空間を作り出すその姿は、宛ら誰も受け入れぬという拒否の姿勢の顕れだ。同時に、誰であっても切り刻むという殺戮衝動の顕れでもある。 醸成された狂気を見るに至り、ユーヌは己の認識がやや誤っていたことを理解するが……何分、それに思考を割くほどの時間が残されていないのが惜しい。 素早く烏頭忌に肉薄するリベリスタ達が行動を起こすよりも早く、背後から声が響く。 「楽しそうにやってんじゃねえの、ウチの飼い犬相手にサ……落とし前ぐらい、付けてくれるんだろ?」 背後を――六道の接近を警戒していなければ、確実に不意打ちを受けていただろうタイミングで、あらゆる攻め手が乱舞する。彼らも、それで決着を付けるつもりなど無かったのだろう。最初から外して上等、程度の狙いでしか無かったはずだ。 「求道の果ては仲間割れとは、六道とは度し難いな」 「そこのバカが底なしなだけだよ、一緒にすんじゃねえ……っ、と」 陸駆の放った閃光弾に両目を手で覆うが、暁の動きは精細を欠くものだ。 初手の不意打ち狙いでやや動きに余裕がありすぎたか、或いは陸駆の動きが速かったのかは解らないが……兎角、戦場は乱戦の様相を呈すこととなる。 ●狡猾な牙と堕ちた翼と 「…………ホウ」 息を吐くような、或いは呑む程の。一瞬の出来事が自らを襲った事は烏頭忌とて認識できた。だがしかし疾すぎる、ということも理解した。速力を捨てて一撃に賭ける彼に、今の一瞬を見逃さぬ自信はなかった。 速力に全てを預けたフラウの一撃は、戦場を弁えず常に圧倒的ですらある。だが、それでも息を吐く彼の気は削がれない。 「てめぇは血の匂いを漂わせすぎだ」 「血の匂いを纏ってるんじゃない。血の匂いが勝手についてくるだけだ。死んだなら語らなければいいだろうに、死んでも尚語りかけてくるんだ、声ではなく匂いで。……鬱陶しいったらない」 続けざまに肉薄し、全力の拳を向ける『黒腕』付喪 モノマ(BNE001658)の拳を籠釣瓶の柄で流しながら、狂人の声は流暢だった。狂っていると言われれば、そうだろうと笑って返す程度には。 「ならてめぇ自信の血を浴びりゃいい話だろうが……!」 「それは困る。籠釣瓶はよく斬れるし血も流す。けれど僕は傷が嫌いでね。自分の血というのはどうにも落ち着かないんだ」 これは最早狂気だ、と認めざるを得なかった。全身に血を浴びて意識すら遠のきそうな悪意を散らしながら、しかし自らの血を見ることが恐いとのたまう。恐ろしいのは彼自身だと理解せざるを得ない程度には、この手合いは殺し慣れ、殺しすぎて居る。 「夜通。お前が六道に捕まれば、連中が殺したい人だけを始末させられる、都合のいい道具になるだろう」 「ああ、それは余り我慢ならないね。そこまで俺も人形みたいじゃァ無いサ」 「……そうなっちまう前に、オレ達がお前を」 「『倒す』、かい。イヤイヤ勇ましいね、震え上がってそれだけで死んでしまいそうだ」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の静かながら強い口調に、しかし烏頭忌はくすりともせずに受け流す。 倒しに来るということは、それだけの覚悟があってのこと。自分を倒す理由も、六道との関わりを断つ為。成る程道理は立つ。目の前の彼が嘘を吐ける類ではないのは知っているし、烏頭忌としては興味がある類でもある。 「じゃァ君はどうだろう。君のソレとて魔物の類、理亡き得物だろうに。アークの為に振るい君等に仇する者を斬るそれを掴む君が、その危険性を語るのかい、可笑しいねェ?」 愉しむ様に踏み込み、直下から刃を振り上げた男と視線を交わす。だが、フツの瞳には一切の揺らぎは無い。 魔槍と呼ばれるそれと意を交わし声を聞いてきたのは僅かばかりの時間ではない。それを握ることを自らに課して、ただ戦いをこなしてきたわけではない。 陸駆の言葉ではないが――魔に呑まれる様な下郎と彼とでは、意思も力も決意も、そして徳も比べるべくもないのだ。 「それにしても――ねェ。俺を少し過信し過ぎじゃァ無いか」 「何、を……十分、警戒して、いる」 「イヤイヤ。暁を甘く見すぎてはいないか、と俺は言いたいのサ。あの食わせ物を、だ」 「悪いけど、あれを貴方たちに持っていかれるわけにはいかないんだよね。色々厄介だし」 「つってもな。ありゃぁ俺達が大枚はたいて確保したモンだ。それを夜通のに掻っ攫われてあまつさえアークが渡しません、はお前さん方が許しても道理と意地が通らねェんだ」 フランシスカの闇に正面から応じる様に、暁の気糸が錯綜する。アヴァラブレイカーの鋒を強かに叩いたそれは、角度を変え彼女の脇腹に突き刺さる。相手の狡猾さなどある程度は予測できていた。だからこそ、リベリスタ達は烏頭忌の迎撃に力を割いた。 それが仇になった気配は全く無い、が……さりとて、六道と烏頭忌、両面に気を割く事は不可能だ。ブロックに回る以上は、尚の事『前に目を向ける』必要があった。 「じゃじゃ馬を飼っておいて逃げられたら困るとは、躾がなっていない証拠だろう。手にする資格が無いだけではないのか?」 「言うねえ小娘。口だけ達者ってワケじゃねえのは腹立つぜ……ああでも、そこの黒い嬢ちゃんには教えといてやんな。後ろ見ながら前に立ったら首が折れるってな」 ユーヌの度重なる挑発に対し、暁は眉一つ動かさずせんとうを続けていた。尤も、配下達は全てがそうではないようで、回復の回転も決して高効率には動いていない。彼女の役割は十全に果たせているのだが、結局のところは数の問題でもあった。 「りっくんれいざー!」 ユーヌの挑発により僅かに崩れた陣形へ、陸駆の一撃が見舞われる。後衛に立つ者達にとって一溜りもないその攻撃は、一撃必殺ではないにしろ戦況を動かすに十二分の威力を誇っているとも言える。 だが、その攻撃動作を縫うように肉薄したデュランダルの剛撃が彼へ迫り、その手に握られた盾を押し込んで弾き飛ばす。高い士気を乾坤一擲の元に叩き込んだそれは、守りを固めていて尚ぞっとしない威力を見せつける。 しかし、それにしても、と陸駆は思案する。六道の目的が飽くまで烏頭忌の確保であるならば、もう少し狡猾に戦いを進めてもいいだろうに、とは思う所だ。リベリスタに対処できない策はそう多くはないが、それでも正面切っての戦いのみで押し通ろうなどとするのは愚かしいという他無い。 天才である彼を於いて上回る思考があろうとも思えないが、それでも奇怪な感覚を覚えざるを得ない。……或いは。彼らはアークの在り方を利用している可能性もある。 ぞっとしない感覚を覚えるが、しかしそれならば上を行く効率で叩きこめばいいだけだ。 ……刻一刻と迫るカウントダウンは、それだけ重いものを引きずって現れる、ということ。 ●恋焦がれて裂き乱れ 「……間抜けが。本当にうちを抜けるとでも思っていたっすか?」 「ハハ、君の守りを抜いたんじゃァ無い。君の仲間を割いたのサ」 大きく籠釣瓶を振るった烏頭忌の視線につられるように首を巡らせた先では、ハーケインが僅かに身を傾いだのが見て取れた。 十分過ぎる程度に戦ったと言わんばかりの笑みは、正しく狂人のそれだ。既に数合を経て自らの血も身を濡らし始めていることを、彼とて理解している。 「ちょこまかと……当たるまでブチ込んでやるぜぇっ!」 「俺がお前を倒してやる。だから俺を恨め」 「まだ、楽しめそう、だから……狂気より、戦意を、見せて」 モノマの拳が、フツの槍が、天乃の暗殺技能が次々と彼を裂き穿ち貫いて。 ぞっとするような赤い姿に、笑えない殺意を見せつける。この男はどこまでも狂気なのだ。きっと、引き際すらも忘れている。 「アア、イヤ、ここで死ぬのも楽しいけどね。味わうには足りないネ」 烏頭忌が、手首を捻り振り下ろす。柄から伸びる刃の群れが奇怪な動きにつられ落下し、振るわれる。 炎が舞う。多量の血を吸い脂を拭ったその身すらトーチにしてしまうような狂気の炎が黒く舞い、刃になって乱雑に振るわれる。斬撃を数えるのも難しい程に振るわれた後には、焼け焦げた身を払い周囲に視線を向ける一同が居り。 狂気混じりの笑みが遠雷のように響き渡る様だった。 「ああ畜生、あの馬鹿は土壇場で景気よく逃げるってか……!」 「僕達は、彼が逃げるのであれば追うことはない」 得物を構え直し、追撃の姿勢を取ろうとした暁を遮ったのは、陸駆を始めとし、未だ戦意高いリベリスタ達であった。 両面作戦を強いられた彼らには決して無傷の者は居まいが、彼らの『しぶとさ』は折り紙つきだ。無理に押し通ろうとして残された兵力を徒に減らす意図は、当然ながら暁には無かった。 「お互いこれ以上やり合うのは得策じゃねぇんじゃねぇか?」 「逃す意図があんのか、お前らに」 返答はない。だが、リベリスタ達の意思に統一性という言葉はない。 避けられるならば戦いは避けるべき、とも。 ここで断つべく構える、とも。 しかし、既に運命の加護を使わず立つ者が少ない状況下で果たして最後まで戦い通す事が賢いか否か……考えるまでもない事実である。 「……一つだけ覚えとけよ。夜通のは、元からネジが抜けてやがる。どうしてこうなった、なんて口が裂けても言えねえってこった。分かんだろ?」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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