●煙のような……。 一瞬で、それは姿を消した。 真昼の空き地。誰か人が立っていると、覗きこんだ1人の子どもが覗きこんだ瞬間、さっきまで空き地の真ん中に立っていた人影は、ゆらりと煙を吹き消すように消え去った。 「あれ……?」 なんて、首を傾げ少年は空き地に足を踏み入れる。 次の瞬間、空き地は濃い霧に包まれた。数秒の後、霧が消え去った後には誰も立っていなかった。少年も、人影も、誰も……。 煙のように。 一瞬で。 少年はどこかへ消え去ってしまったのだ。 少年が消えた後、再び空き地に誰かの影が現れる。それは、身体のほとんどが煙でできた老人の姿をしていた。口に咥えた葉巻からは、紫煙が漂っている。 彼は、ただそこに居るだけだ。 彼が待っているのは、自身に娯楽を提供してくれる存在。 そして、彼の意に沿わない者は、濃霧に包まれどこへともなく、消し去られるのだ……。 ●人でない何か……。 「E・エレメント(紫煙)と、E・エレメント(濃霧)が、住宅街の空き地に現れた」 煙に曇った空き地を、モニター越しに見つめ『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、顔をしかめる。 「紫煙は、身体の半分ほどが煙でできた真っ白い老人の姿をしている。主な攻撃は、煙を爆発させること。彼は娯楽を求めているわ。フェーズは2」 最も、なにに対し愉悦を感じるのか、今のところはわからないようだが……。 「一方、濃霧に関してはバッドステータスを付与するタイプの攻撃を得意としているみたい。数は4体で、空き地のあちこちに散らばっている。こちらはフェーズ1ね」 画面一杯を埋め尽くす濃い霧全てが、恐らく(濃霧)なのだろう。 「濃霧の本体は、霧の中のどこかに居る。真っ白い人型をしているわ」 とは言うものの、霧に覆われた空き地の中での捜索は容易ではないだろうけど。 紫煙と濃霧、合わせて5体で戦場はさほど広いとも言えない空き地だけ。とはいえ、地の利は敵にあるようだ。 「濃霧は、少しずつ広がっている。数ターンで空き地から出て、住宅街に広がっていくと思う。E能力の有無に関わらず、捕まえた相手を霧の中のどこかに転送させる事ができるみたい」 下手をすると、自分がどこへ飛ばされたのか、視界が悪くて分からない、ということにもなりかねないだろう。 「先程消えた少年も、空き地のどこかに居る筈……。助けて来て」 どこかまでは、分からないけど。 そう言って、イヴは表情を曇らせた。少年はまだ、生きているだろう。とはいえ、意識不明。居場所不明。戦闘が始まった場合、それに巻き込まれないとも限らない。 「目に頼りすぎない方がいいかも……」 そう言って、イヴは仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月31日(月)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●煙に巻かれて……。 閑静な住宅街。その一角にある空き地は、今現在濃い霧に包まれていた。まるで、その一角だけ別世界になってしまったような光景だった。濃い霧の中、ぼんやりと人影が見える。 人影は全部で5つ。1体は、紫煙という老人の姿をしたE・エレメント。残る4体は、濃霧という名のE・エレメントだ。 そんな濃霧を、遠巻きに見つめる影が8つ。アーク所属のリベリスタ達だ。 「煙に巻くって言葉はあるけど、まさにそんな感じのE・エレメントだな」 そう呟いたのは『覇界闘士-アンブレイカブル-』御厨・夏栖斗(BNE000004)だ。霧に包まれた空き地を楽しげに眺め、笑う。 「私も同じような事を考えていました。戦うにしても、手応えが無さそうで、どうにも戦いにくいですね」 そう言って、ほう、っと溜め息を吐いたのは『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)だ。空き地から溢れて来た霧に手を伸ばし、そっと掻き乱す。 「視覚に頼らない戦闘って難しそうだけど、頑張らなきゃいけないわよね……。さて、結界も張ったし、そろそろ行きましょう」 宇佐美 深雪(BNE004073)が、その長い兎耳を揺らしてそう言った。鉄甲に覆われた脚を軽く曲げ、調子を確かめる。懐中電灯や作業灯に火を灯し、霧に踏み込む8人。 その瞬間、霧の奥で誰かが笑った……。そんな気がした。 ●白い世界……。 空き地の中は、予想以上に視界が悪かった。懐中電灯の明かりが無ければ、誰の姿も発見できないのではないか、とそんな気さえしてくる。霧に覆われた空き地を進みながら、ハイディ・アレンス(BNE000603)が眉をひそめる。 「視界が不自由。時間経過と共に範囲も広がるとは、なんともやりづらいモノだ」 鉄甲に覆われた拳を握り、敵の襲撃に備える。 「さて、仕事納めと参りましょうか……。オペレーター銀咲嶺、状況を開始いたします」 そう宣言し『絹嵐天女』銀咲 嶺(BNE002104)は足を止める。灰色の翼を広げ、周囲に視線を走らせた。霧の奥に、敵の気配を感じる。 「あっち……。というか、空き地の四方に散るようにして、濃霧が居るみたいですね」 敵が居るであろう場所を指さす嶺。だが、悲しいかな濃い霧の中では、誰もそれに気付かない。気を取り直し、向きと角度で敵の場所を知らせる。 次々に、仲間達から返事があったのだが……。 「あのぅ……。なんだか、足りなくないですか?」 透視を使い、周囲を見回す『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が、そう言った。嶺の言葉に対し、返って来た返事は5つ。嶺を合わせて5人。どうも2人ほど足りないようだ。 いつの間にか……。 霧の中はぐれたのか、或いは、濃霧に捕まって何処かにワープさせられたのか、それは分からないけれど……。 この霧の中、合流するのは手間だと、一同そう思うのだった。 本体は、仲間の不在に気付いたその頃、当の本人も遅まきながら現状を把握し、足を止めた。 「はて面妖な……」 鎧のフェイスガードを押し上げて『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)がそう呟いた。恐らく自分は、濃霧によって仲間から引き離されたのだろうと彼女は判断する。しかし、それにしては、奇妙だとも、思う。 「即に害をなしてくる相手でもなく……」 ワープさせられたということは、一度は敵に捕まったということだ。それなのに、特に攻撃らしい攻撃はされていない。その事が、腑に落ちないでいた。 ううん、と首を傾げた、その時。 「怖くなんてないわ。わたしは平気。……大丈夫」 なんて、呟く声がすぐ近くから聞こえて来た。その声の主は『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)だ。どうやら彼女も、濃霧に捕まってワープさせらたらしい。 「その声は、淑子さんデス? そこに居ます?」 霧を進み、淑子のもっていた懐中電灯の明かりを頼りに、2人は合流した。心の姿を確認した瞬間、淑子が、ほっと小さく溜め息を吐いた。 「さぁ、行きましょう? 女の子は優雅に、凛としていなくちゃ」 なんて、胸を張って淑子は言う。 次の瞬間……。 音も無く忍び寄った紫色の霧が、2人の周りを取り囲んだ。 心と淑子が濃霧に襲われていた頃、本体に残った6人は霧に捕まった少年を探していた。はぐれた仲間のことは心配だが、まずは一般市民の安全が優先だと判断したのだ。 しかし、そんな6人の周りを黒い霧が取り囲む。這い寄ってくる霧を避け、ハイディが唸る。 「どんな状況であれ、全力を尽くすのみだ」 握りしめた拳に冷気が纏わりついた。しかし、敵の居場所は不明。攻撃に打って出るには、情報が足りない。ギリと歯噛みするハイディ。闇雲に攻撃しては、仲間を巻き込みかねない。 「右に45度、3メートルほど先です」 ハイディの背後から、嶺が声をかける。嶺の指示に従って、ハイディが駆ける。霧を掻きわけ、敵の姿を発見した。そこにはまるで、霧が擬人化したかのような白い人影が立っていた。慌てて霧の中に身を潜ませようとする濃霧を、ハイディの拳が打ち抜いた。 命中したのだろう。僅かな抵抗の後、水の中に手を突っ込むような抵抗感。霧の身体が、ハイディの拳を中心に飛び散る……が、しかし。 「天女の羽衣の舞、お気に召してくださいました?」 霧の中から、銀、赤、黒の3色で彩られた杖が飛び出す。嶺の放った正確無比な鋭い突きが、濃霧の頭部を射ぬく。濃霧はそのまま、崩れて消えていった。今一手応えはないものの、これで1体、討伐完了だろう。 「捜索しても霧がありませんね。霧だけに」 神妙な面持ちで、イスタルテがそんな事を言う。佳恋が困ったような苦笑いを浮かべて、小さく首を振った。イスタルテの発言は聞かなかったことにしたのだろう。夏栖斗がコホンと咳払いをして、口元に手を当てる。 「おーい、助けに来たから安心して、もう大丈夫だから。声出せるなら出して!」 そう叫ぶ夏栖斗。彼の声が霧の中に木霊する。しかし、返事は無かった。代わりに、夏栖斗目がけ、霧の中から何かが飛び出した。咄嗟にそれを受け止めようとした夏栖斗だが、間に合わない。飛び出して来た何かが、夏栖斗の腹を貫いた。白い霧の中に、紅い鮮血が飛び散った。 飛び出して来た何かは、霧で出来た槍だ。 槍が飛んできた方向へと、深雪と佳恋が駆けていった。 その間に、イスタルテが夏栖斗の傷を手当する。淡い燐光が、夏栖斗の傷口を包み込む。 「出来るだけ、急いで救出しないといけませんね」 夏栖斗とイスタルテの元に、黒い霧が迫りくる。冷や汗を垂らしながら、イスタルテはそっと眼鏡を押し上げるのだった。 「あまり戦いやすい環境とは言えませんが、戦いようが無いわけではないです、ね」 長剣を大上段に振りあげて、闘気を溜める佳恋。視線の先には、白い人影。佳恋が闘気を溜めている間に、霧を掻き乱しながら深雪が飛び出していった。 「目に頼り過ぎるなって道場で教わったのを思い出すわ」 なんて、薄く笑って飛び上がる。深雪の脚に、業火が纏わりついた。踵落としの要領で、濃霧へと飛びかかった。炎を纏った深雪の脚が、濃霧を蹴り飛ばす。 「う……っぐ!?」 しかし、呻き声を上げたのは深雪の方だった。見ると、彼女のふとももから血が流れていた。着地し、膝を付く深雪。いつの間展開したのか、濃霧の周囲には何本もの霧の槍が突き出ている。そこに飛びこんだ深雪は、槍で脚を貫かれたのだ。 だが、これで敵の場所は分かった。敵までの間にあった槍も、深雪の蹴りに巻き込まれ、焼失している。 そこへ、佳恋が飛びこんだ。長剣を振りかざし、身体ごと濃霧に切りかかる。濃霧の中、深雪の脚に灯った、炎を目印に飛んだのだ。 「はぁぁぁぁぁ!」 気合い一閃。佳恋の剣が、濃霧を真っ二つに切り裂いた。濃霧は、文字通り雲散霧消して消える。 その頃、心と淑子もまた、濃霧との戦闘中だった。濃霧の放つ霧の槍を、心が盾で弾き飛ばす。その隙に、と濃霧に駆け寄った淑子が大斧での一撃を濃霧に叩きつける。幸い、というか2人共ブレイクフィアーを使えるので、状態異常の心配はひとまずないようだが。 しかし、ゆらゆらと霧に隠れ攻撃してくる濃霧に、手を焼いていた。 そんな中、淑子があることに気付く。 濃霧のすぐ後ろ、空き地の壁を背にするようにして、ぐったりと座り込んだ人影を見つけたのだ。恐らく、霧に囚われている少年だろう。 「少年、見つけました!」 淑子が叫ぶ。 「少年を守るのデス!」 盾を構え、心が前に出る。腰に下げた剣を引き抜き、いつでも攻撃に移れる体勢を整える。 じりじりと、左右から濃霧に迫る心と淑子。 濃霧の槍は、貫通攻撃だ。場合によっては、2人とも巻き込まれることもあるだろう。それを警戒しての接近だが、あまりのんびりしている時間はない。 周囲には、濃霧の撒き散らした黒と紫の霧が漂っているのだ。少年がそれらに巻き込まれた場合、無事でいられる保証はない。 仕方ないか、と呟いて淑子が大斧を肩の上に担ぎあげる。身体を大きく後ろに逸らし、勢いを付けて飛び上がった。濃霧目がけて、大上段から斧を叩きつける。 濃霧の放った槍を叩き壊し、斧が濃霧に迫る。濃霧は、ゆらりと後ろに下がることで、斧の一撃を回避して見せた。 だが……。 「境界最終防衛機構、姫宮心! ここから先には行かせないのデス!」 背後から濃霧に剣を突き刺す心。水を貫いたような中途半端な手応えが返ってくる。剣に貫かれたまま、濃霧は腕を上げ、心へと槍を放とうとする。 瞬間、心は盾で濃霧を薙ぎ払った。気迫の籠った、重い一撃。 その隙に、淑子は少年を肩に担ぎあげる。 「時間がかかったわ。何とも歯痒いことね」 なんて、呟いて方位磁石に一瞬、目をやる。空き地の外の方角を確認して、一目散に駆け出した。逃げる淑子を追おうと濃霧が動く。 そんな濃霧の眼前に、盾を掲げたピンクの鎧が立ち塞がった。 「通さないのデス!」 片手に剣を、片手に盾を。瞳には覚悟を。 横目で、少年と淑子を見送って、心は更に1歩、前に出た。 「おおっら!」 棍に似た武器を振り回し、濃霧を討ち払う夏栖斗。そんな夏栖斗の後ろでイスタルテがフィンガーバレットを構える。撃ち出された弾丸は、正確に濃霧を貫く。 しかし、濃霧はそれでも止まらない。手を伸ばし、夏栖斗とイスタルテを掴む。瞬間、2人の姿がその場から消えた。霧の中のどこかへとワープさせられたのだろう。 「心配ですけど、まずはこちらから処理しましょうか」 「そうだな。武を以て語るのみだ。考える前にまず行動だ! 結果は後からついてくる! ……気がする」 拳を打ち合せ、ハイディが言う。視線の先には、濃霧が1体。今の所、姿は見えないが、きっとすぐに深雪と佳恋も合流してくることだろう。 濃霧の放った槍を、ハイディの拳が受け止める。 霧の中に、一瞬火花が散ったように見えた……。 ●娯楽に飢えた、煙の老人 「うむ……」 なんて、葉巻を咥えた老人がそう呟いた。老人の周りは、不思議と霧が薄い気がする。夏栖斗とイスタルテは、急に目の前に現れた老人を見て、目を丸くするが、すぐに現状を把握した。 どうやら、自分達は濃霧に捕まり、ワープさせられたらしい。 それなら、と夏栖斗は笑う。 「かけなおしますね」 そんな夏栖斗に、イスタルテが翼の加護を付与。夏栖斗の背に、光の翼が現れる。その様子をじっと見て、老人(紫煙)は、うん、ともう一度頷いた。 次の瞬間。 紫煙の身体が、ゆらりと蜃気楼みたいに揺らぐ。霧に紛れ、葉巻の香りが漂っている。その香りに気付き、イスタルテがハっと目を見開いた。 「下がって!」 イスタルテが叫ぶ。夏栖斗が後ろに飛んだのと、煙が爆発したのは同時だった。更に漂ってくる煙を、イスタルテの撃ち出した弾丸が相殺する。 「……ほう?」 一瞬、紫煙の口元が笑みの形に歪んだ気がした。今度は、拳を握って殴りつけるような姿勢を取った。ふわ、っと軽い風圧。一瞬遅れて、煙草の臭い。イスタルテと夏栖斗は、咄嗟に空へと舞い上がった。2人の足元で、爆発が巻き起こる。 爆風に飛ばされ、2人は別々の方向へと弾き飛ばされた。 「う……。この!」 空中での戦闘に慣れてない夏栖斗は、そのまま地面を転がっていく。一方、イスタルテはなんとか体勢を立て直し、フィンガーバレットを紫煙に向けた。 弾丸の雨が降り注ぐ。紫煙は、自分の身体を爆発させてそれを防ぐ。 土埃が舞い上がった。土埃の中を、影が駆け抜ける。棍のような武器を両手に持った夏栖斗だ。低い姿勢で紫煙に寄ると、両手の棍を同時に叩きつける。 「おっちゃん、炎が好きだね。じゃあこういうのはどう?」 紫煙に棍が当たった瞬間、炎が飛び散った。紫煙の身体が揺らぐ。そのまま、流れるような動作で、更に追撃を加えていく夏栖斗。 だが……。 「爆発しますよぅ!」 イスタルテが叫ぶ。次の瞬間、紫煙の身体が爆ぜた。夏栖斗の背の、光の翼が砕けて消える。夏栖斗は爆風に押されて、地面を転がっていった。 「うむ……。中々、良いモノだ」 と、紫煙は呟いた。 飛び跳ねるように起き上がって、夏栖斗は笑う。 「いいじゃん。楽しいよ僕も」 悪戯っぽい笑みを浮かべ、夏栖斗は武器を構え直した。夏栖斗の隣にイスタルテが着地する。煤に塗れた夏栖斗に、治療を施そうとして、辞める。そんなことをしている暇はなさそうだと判断したためだ。代わりに、フィンガーバレットを紫煙に向けた。 紫煙もまた、先ほど同様に拳を握る。 「霧が晴れてきましたね。爆風のせいか、濃霧を全滅させたからか……」 分からないけど、そろそろ終わりが近いのだ。イスタルテは、銃口を紫煙の頭部に向けて、狙いを定める。 「いい時間だ……」 紫煙が呟く。霧の向こうに見えるその顔は、実に好々爺然としたもので、悪意の欠片も見当たらない。心なしか、うっすらと笑っているようにも見える。 ぶん、と紫煙が拳を振るった。風圧、煙草の臭い、一拍遅れて煙が爆ぜる。と、同時にイスタルテの放った弾丸もまた、老人に迫る。 爆発に巻き込まれ、イスタルテの身体は後ろへと吹き飛ばされた。 弾丸に貫かれ、紫煙の頭部が煙となって爆ぜた。 紫煙の頭部が、再生する。ダメージは受けたとしても、元々は煙でしかない。崩れてもまた、再生できる。だが……。 「楽しかったよ!」 再生した紫煙の視界に映ったのは、満面の笑みを浮かべた夏栖斗の姿だった。 「……ほう?」 感心したように、紫煙が呟く。次の瞬間、紫煙の上半身は煙となって飛び散った。夏栖斗の放った、超高速の蹴りによるものだ。紫煙の背後にあった空き地の壁も、ついでとばかりに砕け散る。虚空と呼ばれる、技である。 飛び散った煙は、一度だけ老人の姿に集まる。 しかし、それで終わり。 そのまま、足元から順に、紫煙の身体は崩れていった……。 「若者の頑張る姿は、良いモノだな」 そう呟いて、紫煙は消える。 笑顔と、賞賛の言葉を残し紫煙は消失してしまった。 まさに、煙のように……姿を消したのだった。 霧が晴れた空き地の中で、8人は意識を失った少年を見降ろしていた。 「大丈夫ですか? 顔色があまり優れていらっしゃらないようですが?」 心配そうな顔で、嶺が少年を覗きこむ。一応、救急車を呼んでは居るのだが、もう暫くは到着しそうになかった。 「結局、ご老公の楽しみはなんだったのデス?」 紫煙に会うことができなかった心がそう問うた。 「楽しいことは、待っていたってそう簡単に来るものではないわ」 なんて、そう呟いたのは淑子だった。困ったようにイスタルテは苦笑いを浮かべている。 「たぶん、若者の成長を確かめることだったんじゃないの?」 そう答えたのは、夏栖斗だ。空き地に残る爆発の痕を見て、やりすぎだけど、と続ける。 なにはともあれ、紫煙も濃霧もすでにいない。答えを確かめるすべは、もうないのだ。 「霧は完全に消えたみたいですね」 「少年以外には、捕まっていた人もいなかったわ」 「これで、任務は完了だな」 周囲の様子を見に行っていた、佳恋、深雪、ハイディが戻ってくる。全員揃ったのを確認して、リベリスタ達はその場を立ち去ることにした。 空き地の真ん中には、意識を失った少年の姿。 濃霧も、紫煙も、煙のように消え去って。 元々何もなかったように、空き地も住宅街も普段通りの光景だ。 煙に巻かれたような、という言葉がしっくりくるな、とそう思いながら8人はその場を後にしたのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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