●本気でこれ何かわかんねえな もふもふとした塊が、師走の街を辿々しく歩いている。 動物なのか、と聞かれても解らない。『塊』なのだ。 それは明らかに愛でられるために生まれてきたと言わんばかりにもふもふなのだが、得体が知れないので誰も近づこうとしない。 ……まして、それが群れを成していれば尚の事。 これに目ざとく反応したのは、可愛いものに目がない少女たち。だが、少女の一人が背後からそれを抱え上げ、軽く持ち上げ撫で付けると、どろりと緑色の液体となって溶け落ちた。 悲鳴をよそに、それはまた塊になる。 特に何をするわけでもなく、もふもふの疾走は続く。 ●まあ師走だしな 「このように、もふもふのアザーバイドです」 「おい」 「撫でると何か緑色の液体になります」 「こら」 「攻撃するとすごく硬くなります。ヘタこいたら手の骨が折れます」 「話を聞けよ」 「アザーバイド『もふか』。かなりの量が市街地を行き交っていますので、捕縛をお願いします」 「どうやって」 「誘導ですね。彼らの好物は小集団によって異なりますが、わたあめ、ココアパウダー、人参などが挙げられます。また、今回はバグホールがかなりの数発生しています。裏を返せば送還は比較的容易ですが、残しておくと悪影響です。対策をお願いします」 「人参ってもしかしてウサ」 「イイエ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月09日(水)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●アザーバイド引率ショウ もふもふもふもふもふもふもふ。 既に「も」と「ふ」がゲシュタルト崩壊してしまいそうなほどに、その存在はもふもふでふかふかだった。識別名がそもそも「もふか」である時点でアークの研究員はどうかしている。 「どういう環境に置かれたら、こんな進化をするんだ……」 バグホールを探しつて市街地を駆けまわる『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、出発前に確保しておいた地図を取り出し周囲を見渡した。 時折悲鳴とも嬌声ともつかない声が聞こえてくるところを見ると、アザーバイド『もふか』は決して少ないとは言えないらしい。何しろ小集団が七つである。一度に流入するアザーバイドの規模としては多い部類に違いはない。 加えて、バグホールの数が割と多い。油断していたら見逃してしまいそうなサイズが主であるのも大きいが、何分捜査を困難にしている原因というのはここにあると言えた。 ……因みに。その手に持つ買い物袋に感じるそこはかとない世間臭はなんて言うかその、仕方ないね。 「緊張すると堅くなり、安堵を感じると解れていく。まるで人の筋のようだ」 興味深げに笑みを深める『芽華』御厨・幸蓮(BNE003916)の様子は、余裕が……というよりは使命感より先に好奇心が来ている様に感じる部分が見受けられた。 尤も、それが悪いというわけではなく。動物型アザーバイドであっても一定の敬意を払っているフシが彼女にはあり、無闇にあれこれ、ということを考えないところも大きいのだろう。 あらゆる意味で用意がいい辺りも中々に本気度を感じさせる。 「融けたり……堅くなったりと……もふか、なんとも不思議な性質を持ったアザーバイドですね」 好奇心という点においては、『紅眼の銀狼』小鳥遊 麗(BNE000919)も割と似たような部類である。尤も、彼は純粋な好奇心が先に来る人間であるためか、我知らず尻尾が軽く揺れているのは愛嬌といったところであるが。 動物好きであるがために、遭遇した後の期待も膨らむというものだが……どうにも、探し辛い特性であることを考えるとなかなかどうして。 事前に聞いた好物以外であれば、甘味を多めに確保している辺りはデータから類推される定石に従っているようなのは、本件に関わっているリベリスタ共通の認識だったらしく。 「でももふるとどろどろになってしまうんですか……それは好きにしていいって事ですよね?」 取り敢えずなんて言うかこう、雪白 桐(BNE000185)の認識はどこから突っ込んでいいのか俺も解らない。 間違って無いっちゃ間違って無いんだろうけど、慎重に扱うどころかはっちゃけた扱いで何とかしようとか割とマジで思ってそうなのが恐い所。 さりげなく持ってきている着色料と香水の使い道にマジ不安しか感じないんだけど大丈夫なんだろうか。大丈夫なんだろうなあこの場合。 一応、探知に関しては秀でているわけなので問題無いということにしておこう。 「もふもふもふか。可愛らしい名前なのだ」 素直代表……という表現が褒め言葉かどうかは兎も角、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の表情には輝きが感じられた。 世の常、かどうかはさておき、少女というのは兎角もふもふがすきである。ぬいぐるみなどが代表例といった所。 世界の不自由さを知ったればこそ、世界に対し優しく接していたいと思うのだろう。それを我儘などとは誰も言うまい。 ここではない世界へも等しく接する彼女にとって、探すべき目標には優しくなければならないのだ。 「珍妙なものが流れ着いたものだな」 そんな雷音とは逆に、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は淡々と辛辣であった。 とは言え、彼女に常のような毒気があるわけでもない。ただ理解に苦しむので、それ相応の反応を返しているにすぎないのだ。 任務に応じる姿勢は十人並みに平静であるし、殊更相手に攻撃的であるわけでもない。救済を行おうという善性で動いているわけでもない。 ただ忠実に実直に、任務に赴いているに過ぎないのである。 「……溶ける毛玉?」 別行動ながら、ユーヌ以上に顕著なリアクションを示した『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の表情は怪訝なものだった。 崩界を促す要素は出来るだけ排除せねばならないのが世界のためではあるが、しかしここまで理解の外にある存在も珍しい、と感じたのだろう。常のような険はなく、むしろどういった反応をしていいか困っているフシさえ感じられた。 「……確認の為に言っておきますけれど、送還ですからね?」 「人を何だと思ってるんだ。今日は何も持ってない、戦う気分でもないしな」 そんな彼に釘を刺すのは隣を歩く『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)。なまじっか付き合いが長いせいか、相手が何を考えているのかを先読みして予め突っ込んでおく……ような感じなのだろう。 実のところ、櫻霞としては今回のアザーバイドに大して害意を示すようなことをするつもりはない。寧ろ、最低限友好的に立ちまわるつもりですら居るのだ。空のホルスターを叩く様子からも、その様子が見て取れる。 面倒だが。すっごく面倒だが。 「ところで。……バグホールから少し先までココアパウダーでも撒いておけばホイホイされそうですよねぇ……?」 「ヘンゼルとグレーテルって知ってるか? ……そもそも粉類を撒いた所で散るだけだぞ」 杏子の提案はある意味慧眼だったかもしれないが、或いは後片付けに困る事態にもなりかねないのでパス。 一応ちゃんと櫻霞が突っ込んでくれていてとてもありがたい限りである。 まあ、でろんとした液体が突如曲がり角から現れても驚かないで下さい。よくある。 ●こいつらちょれー発言禁止 僅かに浮遊しつつ先行していた雷音に向かって飛び込んできたのは、もふもふとした球体だった。 なまじ一般人には発音不可能な奇怪な声を上げるそれらだが、彼女にはそれらが「なでてー」だの「やさしいやつだー」だの何かこう、安心していいんだか笑っていいんだか分からないような雰囲気なのを感じる所だ。 取り敢えず、可愛い。 「こんにちは、異界のお客さん」 当然だが、雷音の反応はと言えば柔和なものだ。性質はともかくその実態はユキウサギめいた質感を持ち、敏感なばかりに少し触れただけでどろりと形状変化する素早さは、ともすれば繊細な神経を感じさせる。 愛らしい――保護者の如き感情を仄かに感じながらも、わたあめを差し出すと液状化していない方は盛んに跳ね、喜びを全身で表しているように見えた。 「ふむ、緑の液体が素の状態なんだろうか? 見た目は可愛いんだが……」 普通にしていれば可愛いのにコレジャナイ感がすごい彼らを見るにつけ、もしかしたら液体が素手はないかと考えだしたユーヌはちょっとぞっとしないものが背中を駆ける感触を覚えた。 雷音に撫でられ、液状化した個体は幾ばくもしないうちに再び常態に戻っているところを見るとその推論は違うのかもしれないが、そもそも違う世界の住人の場合、どうしても観察してしまうのは致し方ないところだろうか。 ……まあ。確かにここまで不思議な生命体もなかなか存在しない気がするが。 「食いつくと意外と可愛いな」 無表情でゴミ袋の口を開き、入ったところを縛り、あまつさえ硬化して抗議しようものなら軽く叩くユーヌのブレない態度には驚きを禁じ得ない。 ところで、袋越しにもふったらこいつら液状化するんだろうか。あとそのままバグホールに流し込んでいいんだろうか。排水口に流しこむわけじゃあるまいし問題ないだろうが、しかしいろいろとんでもねえ。 「こんばんわ。私達にもふもふさせて欲しい。一緒に遊ぼう」 幸蓮の広げた手に「もふもふなのー」「まじでー」と我先にと寄ってくるもふか達。どうでもいいけどこの集団すげぇフランクだな。 だが、やはり通りはそこそこ広く人目につきかねない。向かうとしたら路地裏に誘い込んでからの接待(仮)となるのは当然であった。 で、おもむろにゴムボートを広げる幸蓮を見て何事かと周囲が思う間もなく、その中に投入される好物候補。ボールを放られた犬のように即座に駆け寄るもふか。 どうやら、液状化したそれらを確実に運ぶためだったらしい。小集団によってももふもふ具合の好みや程度というのがあるのだろうか、彼女の手に触れられている個体が完全に液状化する様子はない。 撫でられた部分が微妙に緑がかっている気はするが。 「ふかふかですね」 完全に融けないのをいいことに、桐もまた軽くもふりにかかる。解らないでもない。魅力的な存在が眼前にあってもふるなというのも中々酷な話であるが故に、その状況は何かこう、わかる。 とは言え、やはり限度というものはあるもので。徐々にとけきった姿になっている個体が何体か見られつつあった。 「てい」 かちん。どろりとしても個体同士で混じらないのは種族特性か、おもむろに桐がデコピンをかましたら一体だけがピンポイントに硬化した。 状態変化の基礎原則とかそういったものがこの生物に限っては実に通用しないものだから面白いものである。 あと桐はもうちょっと異界のお客さんに大して行儀よくなさい。こいつらの親きたらどうすんだ。 「うーん……パッと見はフカフカしていそうで可愛いんですが……」 「ふかふかですよ」 「う……」 麗はと言えば、触りたい気持ちは重々あったのだが、液状化してしまうのを気にするとどうしても触れないでいたりもした。距離感って大事だねとか、そういう感じであろうか。 いや本当微妙なところですよね。義務感と好奇心の鬩ぎ合い。 因みに、ゴムボートを引っ張り歩くのはなぜか義衛郎。 「はあ、ぬくい」 片手に缶コーヒー。ちゃっかりしている。まあ冬だから適度に暖を取らないと凍えるからね。液状化して凍らないのかとか、そういう疑問はパスで。 (無害だと言うのなら放っておけばいいものを……) 「今、何か良からぬことを考えませんでした?」 「考えを読むな」 一方、杏子と櫻霞もまた、何とか確保した小集団をひきつれて移動を開始していた。既に市街地を練り歩いて居たからか、その風景に殊更異を唱える一般人は見当たらない。 と言っても、櫻霞の頭にのってるもふか、という構図はやはりインパクトがあるのか、物凄い勢いで写メられてる気がするが気にしてはいけない。笑ってもいけない。 「これで旗でも持っていれば……まるで引率の先生みたいな気分です」 杏子は杏子でバケツ片手に楽しそうである。まあ、中身は液状化したもふかなので、少ししたら自然とバケツから白い姿を現して彼の背後をついていくのだが。 なので、実はバケツリレー始めると幾ばくもなく中から脱走する彼らの姿が見れたので、それはそれで楽しそうだったのではと思う次第。 ちょろちょろと動きまわるその様子に櫻霞はげんなりした表情を見せているが、適度に好物をちらつかせることで何とか場を保たせているようでもあり。実際のところ、この青年は割とマメである。 (幼稚園程度の知能といったらこんなものだよな……) 年明け早々、達成が容易な依頼に駆り出されることに多少の面倒さとかそのあたりを感じなくもなかった彼だが、結局は自らの義務としてきっちりとこなしている辺りがなんとも言えぬ哀愁を誘う。 周囲もそのコントラストを楽しんでいるのだろう。敢えて声をかけたり手を出したりしない生ぬるい雰囲気は、飼育員に見えなくもなかった。 ●でも確かにそう見えるんだよなあ 「ボクの名前は朱鷺島雷音。君たちの名前がききたいな」 そう笑って手を差し伸べる雷音に、もふか達はそれぞれの名前を我先にと名乗り合う。まあ、文字にできない発音の名前であることが残念でならないわけだが、それを聞き入れる雷音にとっては個性があって佳い名として響いたのではないだろうか。 数も多いし個性も豊か。広い視点で見るとそう個性がないように見えるのだが、細かい毛並みなどに微妙な個性が見て取れることを雷音は知っている。 無論、話し方や好みもそれぞれ違うことを探索中に知ったわけだが、やはり違う世界と接すると言うことは奥が深いものなのだとつくづく感じていることである。 「大掃除の延長戦をやってる気分だな。まぁ、何時もと大して変わりはないか」 アザーバイドだろうがエリューションだろうがフィクサードだろうが、ユーヌの前では等しく掃除すべき対象なのかもしれない……と考えると、なんとも微妙な気持ちを禁じ得ないが、しかし彼女は割としっかりしているので大丈夫だろう。 もふか達が非難の声を上げているような気がするが気のせいだろう。きっとユーヌに袋詰になったことも貴重な体験としてそのうち笑っている程度には気丈なのだ、彼らは。 ときに。幸蓮達のほうがどうなっているかというと………………アッハイ、青少年のなんかはちゃんとまもられてます。なにももんだいありません。 幸蓮が全身で液状化したもふかを愛でているけれども下に着ているのは水着だし、路面でやってたら明らかに変な人だけどゴムボート上でやってるしなにしろバグホール側の路地裏なので何も。ええ何も。 「むこうに帰ったらもてると思うのですよ?」 と、まあ。こちらはこちらでどろりとした個体ごとに香水やら着色料を混ぜ込んだりする桐の『個性』がどう働くかは兎も角として、確かに香水みたいなものなら多少はインパクトがあるのかもしれない。 ……もてるかどうかはさておき。究極的には善意から行なっていることなのでなんとも言えない。 「こういうお仕事なら、ある意味で平和なのですが……」 ほのぼのとした雰囲気が漂うこの状況をして、呑気に構えていられる分麗は幸福だったのかも知れず、しかしもふもふする間もなく仲間が堪能しているのを見るのは若干の不幸を感じたかもしれない。 こうなってしまうならいっそもふってしまえばよかったのだろうか、など考えるのは当然だとは思う。だがなんかどろどろしたままバグホールに吸い込まれていく彼らを見るにつけ、それはかなわぬ祈りであったことを思い知るのである。 何か後半だけ切り取るとノスタルジックだが、そんなこともなかった。 「もう団体で迷って来るなよ、後始末が面倒だ」 言っていることはなんて言うかこう非常に辛辣な響きなのだが、しかしやっていることは明らかに気遣い十分にもふか達を送り返す行為であった。 いちいち語尾が厳しいのにここまで丁寧に作業をしているところを見ると、やはり櫻霞は根はマメなのではないか、と思うわけで。 杏子の表情に微妙に、本当に微妙な範囲で生温いものを見るような光が見えた気がするがそんなことはないだろう、多分。 一応付き合いがある以上はそういう性格は把握しているだろうし。 「『すごいきらきらでひえひえのおもしろいところだったからまた来たい』、って言ってたのだ」 「ああ、また来る気でいるのか。次は計画性を持ってきて欲しいものだがな?」 最後のひとグループに別れを告げ、最後の言葉を聞き届けた雷音のそれを聞いたユーヌの表情にややうんざりとした色合いが見られたのは分からないでもない様子だった。 冬はまだいい。夏はちょっと液状化されると鬱陶しくなりはしないか、と。 遠くから、仲間たちがこちらへ歩いてきているのが見える。 義衛郎の手にはコンビニのものと思しきビニール袋。ユーヌならば、それが缶コーヒーと中華まんをがそれぞれ入ったものであることに気付いただろう。 心憎い気遣いである、などと感じたかは定かではないが……少なくとも、寒空の下手を擦りながら寒々しく帰る必要はなさそうだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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