● 雪が降る。一つ、二つ。 視界を覆われる事は無い、肌寒さも何れか動けば失われて行くだろう。 周辺に人の気配は無かった。『聖夜』なのだから家でパーティーで大騒ぎ、と言うところだろう。 「寒い……」 『彼女』は一言でいえば家出少女であるからして、家で楽しく一家団欒など夢のまた夢。そもそも屋根がある場所できちんと過ごす事自体が夢であるのだから。 確かに少女は寂しかったのだろう。帰ればいい話だ。 今更帰れない、と言うのも彼女の言い分としてぴったりだろう。 「……帰る理由が出来ればなぁ……」 家から盗み出したアーティファクトに視線を送ってから、ため息をつく。 ――コレ使って悪い事したらアーク来るかな。来るよねえ。正義の味方だもんね。 少女は立ち上がり、何故だか公衆電話に駆けこんだ。因みに所持金は50円だけだった。 ● 「一つお願いしたい事があるのだけど、喧嘩してきてくれないかしら」 聖夜だなんだと大騒ぎの真っ最中、『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)がハッキリと宣言したお願いは突拍子もない物だった。 「喧嘩……?」 「ええ、簡単に言えば家出少女がお家に帰るきっかけを作ってあげて欲しいの」 ますます良く分からない。 資料を捲くる予見者の離しを簡単にまとめてしまえば、フィクサード主流七派のひとつ『剣林』に所属する雨宮という一家が居るという。その一人娘の『宙』が現在家出中。彼女は『剣林』であるから、『誰かに負けたら帰る』などと公言してしまっているらしい。 「――で、その話しがなんでアークに?」 「アーティファクト、持ってるの。『あたしに勝ったらアーティファクトをくれてやるわ!』とか何とか、コンタクトとってきた訳で……」 アーティファクトを持たしておくと後々面倒だから今のうちにアークで回収しときましょう? 現金な事を口にする予見者が中学生に見えるほわほわ少女から初めて大人の女の顔をした――気がした。金とは矢張り毒なのだという事を実感する。 「と、まあ。宙ちゃんと彼女の友達が『あたしの持ってるアーティファクトで悪さしてやるんだからね』とか何とか言ってるので是非止めて欲しいわ。 注意点は……そうね、一つ。家出少女だけどかなり強いってところかしら。 あと、お天気を変えて『皆困っちゃえ』ってしてるので、お仕置き交えて一発ぶん殴るってのもお忘れなく」 家出少女でも『剣林』のフィクサード。実力には自信があるのだろう。本人としてもアーティファクトを使うのは不本意なのだろうが『帰る』きっかけが(実際はかなり)欲しい事と好奇心で『つい使ってみちゃった☆』――と言うところだろうか。 簡単な地図をリベリスタに手渡しながら予見者はにこりと微笑む。 「私が言うには似合わないかもしれないけど、存分にぶん殴ってらっしゃいな! 遠慮はいらないわ!」 手を振って見送る予見者は何処か楽しそうだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月30日(日)22:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ハローハロー。デートのお誘いありあとー!」 へらりと笑った『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)はアホ毛を揺らして剣林のフィクサードへと手を振った。 剣林に家族ぐるみで加入している天宮一家。その一人娘たる宙はクリスマスにお父さんにもらったプレゼントがサキイカだった――という何とも珍妙な理由で、これまた珍妙な行動力を発揮して家出を行っていたのだった。 「し、思春期の乙女にサキイカ……」 本気でツッコミを入れたくなる『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は何処からか来る頭痛を押さえる様に眉間に指をあてる。思春期の乙女にサキイカ。その事実だけで家出をしてしまったのであれば家へ帰す為の努力を惜しむ事はしない。 「ふふ、初めまして、宙ちゃん、それに友達の皆さん。自分は天風亘と申します。 お互い全てをぶつけ……いえ、この喧嘩、全力で挑ませていただきます」 「全力で! いいね。いいねっ! どうぞ、よろしくね? 天風!」 きらきらと瞳を輝かせる宙に何処となく気が合いそうだと感じる亘の暴れる準備も万端だ。楽しげなぐるぐや亘をさて置いて『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)等は小さく溜め息を漏らさずには居られない。 「……家出、ですか……」 家庭の事情――クリスマスプレゼントのサキイカ――で剣林自体に苦労を掛けることはアークとしては別に如何ってことは無いのだ。それで、周囲に何らかの影響を及ぼしてしまうとなればお仕置きが必要になるのだ。呆れを浮かべながら、カムロミの弓にほっそりとした指先が触れた。 「……剣林に然程興味はありませんが――若くして才能ある相手、というのは興味が尽きませんね。お相手願えれば、と」 尤も、『√3』一条・玄弥(BNE003422)はお仕置きを越えて儲ける為に殺すかなとも考えてはいるのだが、周囲の意向には沿わない様で強面ながらも気の優しい『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)がブリーフィングルームを出る前にこっそりと殺しは駄目ゼッタイと止めていた等と言う裏話もある。 「いやあ……気の抜ける仕事だな、オイ」 GANGSTERを握りしめながらも肩から力の抜けた隆明は、それでも『天候操作』を出来るアーティファクトが掛かっているのだとやる気を振り絞ろうと必死になっている。 そんな彼らを余所に、人形の様な美貌に解る人なら解るであろう喜びを曝け出す『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)の視線は『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)のそれと絡まった。 久々に『お姉さま』と一緒の依頼なのだ、ちょっとでもいいところを見せなければと俄然やる気が湧いてくる。其れはどうやら糾華も同じ様で。カッコ悪い所は見せられない、と赤い瞳に強い意思を湛えていた。 両者やる気は十分の中、何処か無気力さを前面に押し出した『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は幼いかんばせにはっきりと呆れの色を滲みださせる。 「……面倒な。子供らしく烏が鳴いたら帰れば良いものを。家族が恋しくて泣きそうならば、な」 「こ、恋しい訳じゃないしっ」 「やれやれ……変な意地でも張りすぎて負け犬根性でも身につけたか?」 態々、負けたいとは――犬の方が素直で可愛いのかもしれない。何処か宙と『空』の機嫌が悪くなりそうな中、くる、っと回るトリックスターは色違いの瞳に歓喜の色を浮かべた。 「さあ、いっぱいあそぼーね!」 ――パチンッ。 ぐるぐだよ、と楽しげに笑いお花の手品(EX)を披露する。飛び出す花に宙の瞳が小さく輝いた。 「さぁさ、楽しく気持ちよく思いっきり遊びましょ!」 ● 「最初から全力で行きますよ!」 なんたってこれは喧嘩だ。体内のギアを全力で回転させて亘はAuraを握りしめたまま、一直線に飛び込んだ。自身と同じ力を宿している葛瀬の前へとものすごい速さで飛び出した亘はにやりと笑う。 開戦の意味を込めたそれは、光の飛沫をあげて葛瀬のナイフへと克ち当る。その飛沫に一度視線を揺らし、澱み無き連撃を繰り出す。続く様に、人形の様なかんばせに『慈愛の笑み(イメージ)』を浮かべたリンシードが前線へと立つ。 「中学二年生……色々と複雑なお年頃ですよね……よく、解らないですが……」 小さく首を傾げる。それでも、アーティファクトで悪戯はいけないことなのだ。黒よりもやや濁る灰色の瞳は、細められる。慈愛の笑みはある意味ではご褒美なのだろうか。ロリコンの皆さんの心をわし掴みである。 「……悪戯は、めっ、です。……お金に、困ってるんですよね……?」 ばさあ、と振りまかれるのは『子供銀行』だ。お金、とキラキラした瞳で見つめる宙(月のお小遣いは五百円)の目の前に風に吹かれて千円札が舞う。 『子供銀行 ※使えないよ』 何て書いたる其れに、宙の瞳に何とも言えない気持ちが宿る。リンシードの慈愛が段々と邪悪な、見下すかの様な表情に変わった。 「……その程度の事で、アーティファクトを無駄遣いする子供には此れで十分です」 挨拶がわりのアッパーユアハート。十分の威力を発揮したのだろうか。カッと怒りを浮かべる葛瀬などは目の前の亘にまごまごとしている。先に行けない。 手品を披露までしたぐるぐの脳の集中領域は圧倒的だ。L・ドッペルガンナー(EX)を手にしたぐるぐはR・コラージュ(EX)を自身の行く先を邪魔する東眞に向かって振るう。相手の急所を瞬時に見抜く其れは、東眞の隙を的確に付く。ぐるぐの目は真っ直ぐに宙へ――否、『あめのち』へと注がれていた。 「ねーぇ! 天気を変えるアーティファクトって最高じゃん!」 そういうのしゅきー。ぐるぐの瞳がきらきらと輝いている。ちらりと視線を遣り、リンシードの背後で糾華はとん、と地面を蹴る。一歩、舞う様にスカートを揺らした。 「良いじゃない。家族が居るのでしょう?」 常夜蝶は宙へと届く。頬を切り裂く其れに、糾華の言葉に含まれる物を感じとったのか瞬いた。家族が居るのでしょう。其れが良い事だというならば――どういう、と聞く前に糾華は髪を掻き上げる。 「まあ、これに懲りたら、もう少し大事にする事ね」 蝶々が全てを切り裂く中で宙の瞳は真っ直ぐに糾華へと注がれたままだった。同世代。自立心と反抗心が芽生えるのはこの辺りだと彼女は知っていた。何処となく戦う事に一生懸命であるだけで普通の少女である雨宮宙にとってはそんなこと考えた事すらなかったのだけれど。 糾華は知らないのだ。親に甘える方法も。親への対抗も。そんな物、とっくに『一人』だったから。 「貴女、さみしい?」 「さあ。取り敢えず、サキイカには同情の余地があるわね。 けれど、アーティファクトに手を出したのは看過できない。だから、勝負に一切の手加減はないわ」 手加減、もとよりそんな技術を知らない宙は頷いた。彼女が繰り出すのは糾華と同じハニーコムガトリングだ。 「えー! 宙ちゃーん、『宙ちゃんの技』を見せてよ!」 ぐるぐからのブーイングに視線を遣っては宙は笑う。彼女が楽しげに笑っているからであろうか、天候は『晴』だ。星が瞬く空の下、普段の辛辣な言葉とは違い、温かな気持ちをその胸に滾らせるユーヌが黒髪を揺らした。 「まぁ、遊ぼうか? 折角だ」 きな臭い相手ではない以上、温かい気持ちで温かい戦いを。こんなにも温かな戦いを行えるだなんて何時振りだろう。小物の様な彼女に本気を出す事自体が間違いなのかもしれないともユーヌは思う。 前衛へと飛び出して、此方へと向かう前のデュランダルの動きを封じる。足場の不安定さを感じないながらも彼女の体重はハッキリとした重心の元移動していた。 「ふむ、選手交代だな。同じ相手では飽きるだろ?」 「おら、おいちゃんと遊べや、おぃ」 ユーヌの言葉に続く様に金色夜叉を手にした玄弥がケケケと笑う。初期では剣林フィクサードをぶっ殺して銭ゲット作戦だったのだが、ストップが入っている以上は殺さない。 肩を竦めて「あっしはリベリスタ様には逆らいやせん」とへこへこと低姿勢で唾を吐いて引いた彼を視界の端で捕えながら隆明は間を縫って奈河へと一直線だ。 彼の銃を受け止めるのはダークナイトの末吉。動きを止める様に立つ其れに、視線が一度交わる。熱感応式暗視装置で覆われた彼の顔を視て、末吉が何処か怯えたように肩を竦めた。 「こんな事もあろうか、ってな」 宙の手が『あめのち』へと掛けられる前に紫月の焔が舞い踊る。 「焔獄、舞いなさい――!」 撃ち抜かれる其れに、宙の目が、ぎっと紫月を睨みつけた。勿論、彼女の隣に居た回復役たる奈河が悔しげにしている様子など正に『子供』だ。緩く笑みを浮かべて、紫月お姉さんは「それまでですよ」と彼女らを見つめる。 「これ以上悪戯をするなら、やる事やらせて頂きますよ」 拳骨でも喰らわされるのかと紫月を見つめる少女達の表情が変わる。着物を纏うと何処かの旅館の若女将の様に見える紫月お姉さんだが実際は高校生の年齢だ。鮮やかな紫の瞳は慈愛を――リンシードとはまた違うもの――を湛えて細められている。 「風宮紫月――お相手願えますね?」 参りましょう、と弓を引くほっそりとした指先。剣林に油断はしない。彼らは『武』を追い求めるのだ。故に、油断も、容赦もない。ただ、託されたその弓を引くのみだ。 合間を縫う様に動き回る玄弥は一季の動きには過敏に反応する。皆殺しだヒャッハー!などと世紀末な彼に何故か戦闘馬鹿な剣林は楽しくなってきたのか「イエーイ」等と返している。殺されるのはお前だ、と呆れの色を濃くするリンシードの姿も見られた。 足元を狙う玄弥の攻撃に慌てて避ける一季。降る蝶々と炎。接いで、今日はする目の前の悪い人。もう何だかてんてこ舞いだ。注意力が一瞬散漫となった。くけけ、と笑いながら、真っ直ぐに赤く色付く武器で抉りこむ。 「てめぇがうごけんせからじり貧やなぁ、おぃ」 目標は『じわじわだが確実に相手を葬ること』。なんとも可哀想な一季だった。涙ぐむ彼の隣をピンクの小さな生物が横切る。真っ直ぐに――其れこそ其れしか見ていないとでも言いたげにぐるぐは「宙ちゃん!」と飛び込んだのだ。 「ね! ね! ぐるぐさんね、それ欲しい!」 きらきらと輝く瞳はアーティファクトと宙が編み出した技に注がれている。勿論、アーティファクトは代償が不明である以上宙に何らかの効果を与えてはいるのだろう。普通に使うのは危険なので友人らに止められてはいるのだが。 「ね、ね! 天気変えてみて!」 晴れから曇りへと変化する。其処に副次効果は無いけれど、少なくとも天気が悪くなるのかな、洗濯物、と一般人は思う事だろう。其れを見て、嬉しそうなぐるぐはもっともっととはしゃぎ回る。 遊んでる様にも思える中、他のリベリスタたちは全力を注いでいた。糾華などはくすくすと笑いながら目の前に接近する咲月に対して死の刻印を刻みこむ。消耗も大きいリベリスタだが、その穴を埋める様にユーヌは立ち回っていた。 「ちょっとした薬箱とでも思ってくれ」 「ええ、有難う。――負ける事が出来れば帰れるのでしょう? 喜びなさい。私達は強いわよ」 糾華の言葉に宙の体が震える。寒さでは無い、戦う事に対する本能の喜びだ。リベリスタ。強いと聞いていた。剣林のフィクサードたる彼女は幸せそうに笑うのだ。 ぐるぐを前に戦闘を行っている宙の視線は一度亘へと向けられる。視線が克ち合った。眼鏡越しに優しく笑う亘は宙と戦う事を楽しみにはしているが、未だ、其処には到達できていないのだ。 「全てを出し尽くし、戦いたいですね。ふふっ、高鳴りますね、燃えますね!」 彼のナイフが三行を切り裂く、羽を広げ低空飛行から一気に降り立つのだ。その翼を目掛ける様な三行の蹴りすらも気にはならない。アクロバットに、己が全てを掛けて彼は戦闘を行う。 「……逃がしませんよ……?」 魔力剣を手にリンシードは只管にフィクサード達を呼びよせていた。彼女が呼ぶ度、ユーヌや亘、糾華が一人ずつ攻撃を加え、紫月が全体を射ているのだ。 隆明に至っては「気持ちは解るんだよ」と宙へ一生懸命に語っている。 ダイジェストでお送りするなれば「プレゼント楽しみにしてたのにサキイカとか渡されたら普通にキレるよな? 我慢できねぇよな? それに中学生で月の小遣いが五百円とか少なすぎだろ? 何をしろと、どこで遊べと」と言ったふうだ。 宙が隆明に何故だか感動を覚えている。因みに彼女はサンタさんを信じる派であった。 「家族が嫌いな訳じゃねぇんだろ? だけど家出したらしたで、意地が邪魔になって帰れなくなるしなぁ……」 困った様に呟いた隆明の言葉も尤もだ。だからこそ此処で全力を出している。呆れる同年代のリンシードや糾華が似がするつもりが無い様に、逃がさずお家にきちんと帰すのが目標だ。 思えば、彼女のお友達達ももう十分に傷ついている。そろそろ、喧嘩は終いの時間だ。 「ほら、頭は冷えたか? 冷え過ぎて風邪をひかないようにな? ……ああ、馬鹿だから引かないか」 その声と共に、真っ直ぐにユーヌが氷を纏った拳を叩きつける。後ろの方で宙の馬鹿じゃないと拗ねたように返す。正直ユーヌは馬鹿だとは思っているが敢えてそれを口にはしないままだった。 ぐるぐが盗人雨を模倣する前に、終いが近づく。貪欲なまでに其れを望むぐるぐに宙は、またね、と小さく呟いて紫月へ対抗する様に炎を降らせる。 「ほら、此れがクリスマスプレゼントですよ?」 其処まで喧嘩馬鹿かしら、と思いながらも引かれる弓の先は真っ直ぐに宙を向いていた。 ● 膝をついて涙を浮かべた宙を見つめながら糾華はやや埃被ってしまった「夏夜星」を手袋で包まれた指先で叩く。 「アークに来たら家出少女でも元気でやっていけるわよ? ソースは私」 戦いの最中、家族の存在があることだけでも良いと言った糾華に宙は何かを感じ取ったのか瞬きを繰り返した。 アークは確かに良い所なのだろう、それは喧嘩相手の様子から十分に感じとれている。けれど、彼女の家族は全てが『剣林』だ。この宙とて『脳筋』だと一言で言い表せてしまえる。 「……その、あの……」 「まあ、好きにしたらいいわ。……ああ、喧嘩相手としてなら、受けて立つわよ?」 勿論、いつだって。悪さをするならば止めるのがアークだから。白銀の髪をなびかせる糾華に小さく頷いて、俯く宙にユーヌは何時も通りの無気力さを取り戻し、なあ、と小さく声を掛けた。 「暴れて気は済んだか?」 「馬鹿だから、風邪はひかないけど……頭は冷えた」 む、とした様に言う宙にユーヌはそうか、と小さく笑みを浮かべる。学校のクラスメイト等で有れば十分に仲が良いと思えるレベルの問答。何処か心が温かくなりながらも隆明は宙の目の前にしゃがみ込む。 「ほら、これで友達と何か食ってから帰りな。喧嘩したくなったらまた付き合ってやるぜ」 財布から抜き出した札を見つめて宙の顔色がサッと変わる。三万円なんてお正月にお年玉で貰う総額レベルだ。――彼女の場合、全て『お母さんが預かって置くからね』となってしまうのだけれど。 「……いいの?」 そろそろと手を伸ばし、瞳を輝かせた宙は急いで小さな頃から使い古したキャラクターものの財布の中にお金をしまう。ポケットに大事そうにしまった財布の中身は三万円飛んで三十円だけだった。 「……いいですか? これに懲りたらもう少し後先考えなさい。最近は『何かと』物騒なのです」 呆れながらも箱をさっと差し出す紫月も優しげだ。首を傾げる宙にケーキですよ、としっかりと両手に持たせた。 ちょっと不憫だと見つめていたリンシードもそっと人形を差し出す。アークでの報酬を封筒に入れ人形に持たせた物を「今度は本物ですから」と困った様に差し出した。 子供銀行じゃない事に何処か気まずそうに――年下の女の子だからというのも大きいのだろう――受け取って有難う、と小さく呟いた。 「お土産、という訳でもないですが。……叱られた後にでもゆっくりお食べなさいな」 叱られる、という言葉にしょんぼりとした表情を浮かべる宙へと亘が慌てた様に近づく。ええと、とポケットの中から取り出したのは手作りのクッキーだ。宙とその友人へ人数分のソレはクリスマスプレゼントの代わりにはなりませんかと優しく笑う。 「友情の印です。もうすぐ年明けですし……、帰ったら友達や家族の方と楽しく過ごすんですよ?」 ウィンクした亘に宙は頷く。もういくつも数え無くとも年が明ける。雪が頬を撫でる。『あめのち』で操作した訳でもない雪だ。 思わぬサンタクロースの登場に両手に抱えた其れを大事そうに見た後、宙は「また遊ぼうね」と子供らしく笑った。 ――彼女が歩く先で、赤鼻のトナカイが色違いの瞳をして真っ直ぐに追いかけてくる。ぐるん、と先回りし、その目の前で赤いサンタに変化した。 「やあ、お嬢さん。メリークリスマス!」 何処かで聞いた様な声だった。ぐるぐだと気づく前に彼女の両手いっぱいのプレゼントの上に置かれたのは可愛らしいマフラーだった。 「風邪に気をつけてね」 瞬間、また赤鼻のトナカイに変化して『ぐるぐ』は居なくなる。アークの怪盗は色違いの瞳を細めて去って行ったのだ。 「……サンタさん、やっぱりいたんだ」 冷え切った指先へと吐き出した息は白かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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