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よく晴れた日のティータイムには赤いジャムを沿えて

●ようこそ、私のティータイムへ
 丸いカップ。
 お揃いのソーサー。
 でこぼこトレーに白いパン、そして赤い、赤いジャム。
 テーブルの脇には二十の赤い小花をつけた木を。
「ふふっ」
 思わず笑みが零れる。だって楽しみなんだもの。
 時間もぴったり午後三時。適度にお日様もぽかぽかしていて、天気もばっちり。あとはお客様を待つだけ。ここでの歓談は、きっと……いえ、絶対に楽しんでもらえるに違いないわ。
 ああ、まだかしら。楽しみ、楽しみ――。
「あら」
 やだ。
「あらあら」
 これは、もしかして。
「……いやあああああああああ! 汚らわしい! こんなものを呼び寄せるなんて、また失敗作っ! 失敗作よっ!! お客様に出せるわけないじゃない!」
 
 ぐしゃっ。ぐちゃっ。びちゃっ。ぐちゃっ。
『彼女』がそれを力任せに踏みつけるたび、赤い飛沫が宙を舞う。

●良い趣味をお持ちのマドモアゼル
「そのティーセットは、全て人体で作られている」
 モニターの一点一点を順に指し、端正な容姿を持つ男が述べる。
「カップは眼窩。ソーサーは頭蓋骨の頭頂部。トレーは肋骨と皮膚を組んだもの。パンは脳のスライス。赤いジャムは内臓。二十の小花を持つ木は……さて、人の指は合計いくつだったかな」
 あとはご想像にお任せする、と『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は肩を竦めた。お任せするとは言ったが、想像を勧める気も毛頭ないようだ。
「このお茶会の主催者はアザーバイド。『午後三時のジョゼフィーヌ』、とでも呼ばせてもらおうか。外見は上品で可愛らしいマドモアゼルさ――いや、本人の感覚では内面も『上品で可愛らしい』と言えるんだが。俺達の感覚が通じないだけでね」
 世界が違えば、文化も当然違う。
 茶と歓談を愉しむという『こちらの感覚』では文化的に見える行動も、その実、非常に猟奇的なものという場合もある。決定的な違いは如何しようもない。
「彼女はこちらへ迷い込み、このチャンネルを『素敵なお茶会をセッティングするための魅力的な材料が数多く存在するところ』と捉え、心躍らせ……既に数人が、その礎になっている」
 ふい、と伸暁が顔を向けた先。モニターの一つには、廃墟を改造したらしい真っ赤な部屋が映し出されていた。天井からは拳大の何かが数個釣られているのが解る。
「これ、心臓ね」
 伸暁が呟き、トンと自身の左胸を叩く。完全に血が抜けたその臓器達は一見してそれには見えず、ただの肉の塊のような、もしくは作り物のような非現実さを湛えていた。
「ランプのつもりで吊り下げたんだろう、たぶん。壁は血液で塗りたくり、床は殺した人間の皮――特に、顔部分。それを剥いで敷き詰めているのさ。言うなればフェイス・カーペット」
 良い趣味をお持ちだろ、と冗談めいた言い方をする伸暁。しかし顔は笑っていない。
「彼女にとって殺戮は全く特別なことではなく……そして、虫が大の苦手でね。虫、及び虫っぽいものを見つけた途端、ヒステリーを起こすんだ。相手は彼女一人だが、かなり強力だ。体力は高く、回復力にも優れている。長期戦を選ぶ場合は相当長いだろうな」
 現場には、状況が状況だけに小さな虫もしばしば現れる。仮に彼女の虫嫌いを利用するとしても、注意は必要だろう。
「彼女にとって、お前らはただの材料だ。カフェカーテン、スプーンにフォーク……まあ、何でもいいが。どう振舞っても客としては扱われない。彼女は来ない客をいつまでも待ち、ティータイムのセットに不足がないよう心を注いでいる」
 チャンネルを間違えちまっただけで、純粋な子なのさ――伸暁のその感想は本意か、それとも洒落なのか。だが、この世界において彼女は排除すべき危険因子でしかない。
「彼女も不幸だが、既に殺された人間にとってはとてもそんな一言で片付けられない話だ」
 ――どうかこの、クレイジーなお茶会に終焉を。そう添えて、伸暁は「ああ、そうそう」と続ける。
「紅茶にジャムってのは結構合うんだぜ。まず渋めの紅茶にロゼワインあたりを……」
 狂想ティータイムを語る最中にあっても、彼は狂わない。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:チドリ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月24日(金)22:55
 お世話になっております。チドリです。
 紅茶飲みながらオープニング書いてました。
 彼女のティータイムにご同席下さい。

●成功条件
 アザーバイド「午後三時のジョゼフィーヌ」の討伐。

●現場
 廃墟の一室。学校の教室くらいの広さです。オープニングにあるような具合に改造されています。
 あるものは『彼女』が作ったものや放置されていたソファ、テーブル、棚等。床はあれやそれが敷き詰められているため大変滑りやすくなっております。普通に地に足を付けて戦う場合、回避、命中にややペナルティが付きます。『彼女』も同様です。
 状況が状況のため、蝿等の小虫がしばしば現れます。
 一般人は来ないので心配は要りません。

●敵
「午後三時のジョゼフィーヌ」
 ただひたすらお茶会を愛するアザーバイドです。
 外見は二十代前半のほっそりとした女性。ふわふわとした短い栗色の髪に生成りのワンピースを纏っており、上品で可愛らしい印象を与えるでしょう。
 ティータイムを演出する素敵な小物やインテリアについて常に考えています。人体という材料に強い魅力を感じています。会話に似た言動はしますが、まるで会話になりません。性質上、元のチャンネルに帰って頂くことは無理だと思います。
 非常に体力が高く、防御面にも優れています。

<攻撃方法など>
・甘酸っぱいオレンジピール
 遠全、ダメージ(小)、呪殺
 オレンジピール(スライスした眼球等)を撒き散らします。
・ケーキカット
 遠全、ダメージ(中)、出血
 何本ものケーキ用ナイフ(鋭利に削った大腿骨)を投げつけます。
・アカシアの蜂蜜
 自付、HP回復(大)
 お料理にもよく用いられる蜂蜜(胃にあった消化中の粘性の物体)をつまみ食いします。
・害虫駆除
 近範、ダメージ(大)
 虫が大の苦手で、発見次第ヒステリーを起こします。この攻撃をする時のみ足場のペナルティを完全無視し、虫を発見した周辺へ駆け寄り、ヒールでめったやたらに踏みつけます。

 彼女のことは『ジョゼ』と略して頂いて構いません。字数削減に。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
雪白 音羽(BNE000194)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
インヤンマスター
龍泉寺 式鬼(BNE001364)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
ナイトクリーク
心刃 シキ(BNE001730)
デュランダル
虎 牙緑(BNE002333)
マグメイガス
御剣・玲奈(BNE002444)


 今日は新しい茶葉を用意したのよ。良い香りでしょ?
 ――『こちら』では、それを『人毛を刻んだもの』と表現する。

 出来たてのナッツマフィンもあるのよ。自信作なんだから!
 ――『こちら』では、それを『丸めた脂肪に砕いた歯を混ぜたもの』と表現する。

「……とんでもねぇ女だな」
 口から吐き捨てたものは、言葉のみではない。
 胃の底からこみ上げる不快感。それを素直に顔へ映し、『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)はゆるりと首を振る。目の前にはワンピースに身を包む女の姿があった。
 否、女ではないのかもしれない。性別があるのか、そもそも生物と分類出来るのかさえ定かではない。
 ただ、確実なのは――。
「よく……解らない」
 その思考、感覚。理解の及ばぬ物事は存在するということ。
 異なる世界の住人を前に『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)の声は困惑に震えていた。戦へと上げた足にぐにゃりと血肉が絡みつく。在るのは厚い化粧の痕を残す少女の顔だ。街中でよく見る、しかし別物にすら見える、それ。
 ――グロい。
 気持ち悪い。気持ち悪い。
「手早く終わらせましょう。……気持ち悪くなってきたわ」
 たまらず、脳内と口で同じ言葉を何度も連ねる。『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)はゆるく巻かれた銀髪を揺らして異邦の女へ目を向けた。
「あら、素敵な色! そうだわ、ティーコゼーがまだ無かったのよね」
 糾華の髪から頭皮にかけて視線を巡らせる『午後三時のジョゼ』。華やかなカタログでも眺めているような気分なのだろう、その笑みに邪気はなく、そして柔らかい。
 対して『みす・いーたー』心刃 シキ(BNE001730)は片手に纏う爪をかちゃりと鳴らし、気だるさを宿す視線で周囲をゆっくり撫でた。最後にジョゼを目に留めて。
「最高のお茶会にしたいの? なら――」
 問うた。しかし返事の有無は関するところではない。
 シキは――難易度の高い極上の素材は、しかし捕食者の瞳をもってジョゼへ再び問う。
「逆に、喰われるのも覚悟で手に入れてみる?」
 赤い瞳の中に映る白いワンピース。それは捕食者の問いに答えぬまま、材料調達のために翻る。


 ジョゼの周囲に白いナイフが並ぶ。それらは放射状に真っ直ぐ飛び、『材料』達を切り裂いた。
「うわっ何それ! なにでできてんの?」
 ぎりぎりで飛びのき直撃を免れた『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が、不快さと一縷の興味を示す。
 ナイフは白。所々に赤い線が混じる、白だ。人体を成す機構の中でも特に硬質なそれは、無論この場に集ったリベリスタ達の体内にも存在する。異邦の女が好む赤をたっぷり含んだ彼らはそれを証明するよう次々と傷を抱いて赤を滴らせた。
「赤いジュースに、まだ明るいけど白ワインを飲みたい方もいらっしゃるかも」
 問題は、彼女が今思い浮かべているものを『こちら側』では血球と血漿と呼んでいることだ。
 ――お茶繋がりで受けてみた依頼だったんだけど。
 先日、知人から美味しい紅茶を振舞われたばかりの牙緑としては期待する部分もあったのかもしれない。しかし眼前には血、血、そして血。ここには自分の知る優雅なティータイムが欠片も存在しない。
 羽音が皮膚や髪で彩られた床を遠慮がちに踏む。ぐしゃ。しゃくしゃく。どう踏んでも、床は素敵さと縁遠い音で鳴いた。持参した布団をばさりと広げても、即座にシーツに血肉が滲む。
「これの、どこが素敵なの……? 最低なお茶会、だね」
 破壊の闘気を抱くと同時に挑発も含めた彼女へジョゼははたと視線を留めた。
「そうよね、お茶をしてる間にお手紙を書きたい方もきっといるわ」
 ジョゼが見ていたのは、羽音の、
「細くて可愛い、素敵なペンも用意しなくちゃ」
 指だった。
 シキは傷を負いつつも構わず精神を集中させていた。狙いを外さぬため、じっと耐えジョゼの動きを見定める。
「こんなに散らかしてたんじゃ、蝿が寄って来るのも当然……」
 しかし、彼女にとってこの部屋はとても趣味が良いものなのだろう。
(私は、元の廃墟のままが好きだけど)
 刹那の間のみ思考に耽り、絆創膏で隠した蝶のタトゥーを撫でる。
 西洋の茶会はよう解らぬと言いつつも、『鬼出電入の式神』龍泉寺 式鬼(BNE001364)の関心は零ではないようだ。道力を纏い浮遊する剣の陣を展開し、思う。
(しかし、まさかアレを任務で使う日が来るとはの)
 仲間をちらりと見やる。この場にいる数人が、ジョゼの気を引くために何かを隠し持っていた。
 先に詠唱により魔力を高めていた雪白 音羽(BNE000194)も、それを忍ばせる者のひとりだ。床から足を離す程度に低く飛ぶ彼は、部屋の奥に佇むジョゼの足元へ炎を呼び起こす。
「あんた、こんな部屋に居て鼻が曲がらないか?」
 ワンピースが火に飲まれる。それでも女は平然と笑み――傍らのテーブルが吹き飛んだのを見、悲しげに眉を寄せた。
 彼女の目には、レースのカバーがかかった天板が折れてしまったように見えるのかもしれない。
 リベリスタの目には、肋骨を互い違いに組んで髪を編みこんだ板がずるりと崩れる図が映っていた。
「大変! 急いで新しいものを用意しないと」
 女の顔から悲哀が消える。次は四つ足のローテーブルにしましょうと、一際身体の小さな式鬼に向けるのは惚けたような瞳だ。その様子を見、達哉は吐き捨てるように息を吐く。
「……吐き気しか感じないね」
 相互理解は不可能と聞いていた。死体愛好家に付き合う気もなく、即ちセットの仲間入りをする気もない。
 達哉は神秘の糸を繰り精密な軌跡をもって女へ放った。糸は細い胴へ深く絡みつき、女の顔を怒りに染める。激情に満ちた瞳が達哉を睨んだ時、その視界を牙緑が自身で埋めた。
「こんな部屋でお茶会とか……ありえないだろ!」
 全身のエネルギーを託す斧から繰り出される渾身の一撃は、ジョゼの腕にごく浅い切り傷を残す。確かに感じる力量差に歯痒さを覚える。
 さらに、とろみを含んだ床は滑りやすく、ジョゼも同じとは言え無視できぬ障害となっていた。
 ついでに言えば、そもそも心情的に踏み荒らしにくい。『魔天の翼』御剣・玲奈(BNE002444)は一度俯いた顔をついと上げ、音羽と同じく天使に見紛う羽を広げて浮かび上がった。天井に着かぬ程度に足を浮かせ、戦いに差障りが出ない高度を保つ。
(私はここで、虫が出ないか見張ってなくちゃ)
 力を高める詠唱を行う玲奈。式鬼と上下から部屋全体を見渡し、小さな客の出現に気を配っていた。
 何せここは死体まみれなのだ。死体に群がる生物の来訪を拒むことは出来ない。ジョゼをリベリスタらが理解出来ぬよう、彼女もまたこの世界を理解していない。
 羽音に続き、糾華も持参した布団を広げた。床に敷かれていた顔の一つがぬちゃりと布団へ張り付く。駅のホームで毎朝見かけそうな初老の男性の顔だ。
 彼の不恰好な鼻が、まるで取れたての苺のようにも見え始め――いや。そんなことは断じて、ない。
「こんなティーパーティ、ありえないわ……」
 搾り出した言葉は糾華の心境を髄まで物語る。それに呼び起こされるよう、僕として影が糾華の周囲へ寄り添った。
 怒りに頬を染めていたジョゼの表情が、一転して清々しい笑顔へ変わる。気糸の憤りから抜けた彼女は部屋に集った『材料』達を順に見、声を弾ませた。
「こんなに……忙しいわ。すぐに支度しなくちゃ」
 高揚を隠さず、彼女は懐に忍ばせていた薄く切ったものを撒き散らす。いわく、オレンジピールと称するそれ。
 準備の途中でお客様がいらしても、口寂しいままお待たせすることのないように――その心は淑女に他ならないが、行動は『材料』達の傷をさらに抉る牙となって襲い掛かった。血の滴る箇所へ加わる呪いの如き痛みは一切の防御を無視して突き刺さる。
「くっ……、さっさと、終わらせるよ……!」
 い羽音がジョゼの懐へ飛び込む。感情の発露が穏やかな羽音の顔も、苦痛に僅かに歪んでいたが、堪えて力を大剣に籠め、振るう。シキがさらに集中を重ねる間、式鬼は味方を護る結界を展開させる。
 ジョゼは『材料』達の攻撃行動をどう見ているのだろう、ひたすら微笑むばかり。その様子のみならず、彼女の頑強さに苦々しさを覚える者も少なくない。
「……いた!」
 現れた小さな蝿を、玲奈が杖で叩き落とす。
 時折現れる小虫は玲奈と式鬼が迅速に潰していた。決して広くない部屋で、ジョゼの癇癪に大人数が巻き込まれてはたまらない。
 牙緑が抜群のバランス感覚でジョゼの周囲を賭け、相手を吹き飛ばさんと強烈な打撃を加えた。彼女は易々とそれを受け止めてみせるが、故に一瞬の隙となったのか。
「いっ……いっ、いやああああ!!」
 ジョゼが一瞬動きを止め青ざめていく。顔を掻き毟り叫ぶと同時、床へ何かが転がった。黒く塗り、羽をつけ、錘を仕込んだ――セミの抜け殻が。
「へへっ。そんなにゴキっぽかったかねー?」
 鋭いヒールで部屋の隅に幾つもの穴を開ける女を音羽が眺める。
 アレが役に立つとは。式鬼が目を瞬かせ援護に勤しむ間、音羽は続けて複数の魔術を組み上げ、四色の強力な光を女へ突き立てる。
 ひとしきり暴れ、荒く上下する肩を女はすぐに整えた。虫はもう居ない。彼女は再びあの穏やかな笑みを浮かべ、お茶の時間へと思いを馳せているようだ。
「……早く、終わりたいのに」
 羽音や糾華が持ち込んだ布団。初めこそ幾分か足元を安定させたが、程なくして血肉に染まりほぼ同化してしまった。破滅のオーラで戦っていた糾華は小さく舌を打ち、張り付いた皮膚ごと布団を隅へ押しやる。血と脂はすぐ拭き取れず、やはり難しいかと糾華は顔を背けた。
 シキが重ねた集中を解き、糾華と同じ黒い気をジョゼの頭部へ浴びせる。黒は彼女の頭を確りと包み込み、強大な威力と共に死を宣告し――しかしその笑みは崩れない。
 途方もない体力、そして防御の力。ティータイムには未だ終わりが見えなかった。
  ――さて。次のリクエストは何かな?
 達哉が幾度目かの癒しの歌を響かせる。愛用の楽器から導かれる音楽は、総じて洗練された美しいもの。それだけに、戦いへ専念しづらい足場であることや、中盤で歌うための力が尽きたことは惜しかった。広範囲に及ぶ癒しの歌は、有用故に消耗も早い。
 ワンピースが翻る。彼女は害虫を駆除する時こそ虫しか見ていないが、それ以外の攻撃は室内全てを覆うものだった。偽の虫で気を逸らす策は功を奏していたが、広くない室内。ごく一部が巻き込まれることは避け難い。
 式鬼が仲間達へ再び守護の力を齎した頃、彼女自身、そして玲奈が赤い床に沈んだ。だが、その前。玲奈が最後に放った魔力の弾を受け、ジョゼの身体はほんの少し傾いで見えた。
「今日は忙しいわね、お腹が空いちゃった」
 少々のお行儀の悪さに目を瞑り、ジョゼは蜂蜜……と称するものをぺろりと舐めるが、傷は癒えない。糾華とシキが加え続けた黒きオーラが、癒えを許さない。
 だがこちらの息も短い。攻撃を担う者としての気概を一層強め、羽音と牙緑がほぼ同時に駆ける。
「いくぜ、蘭さん!」
「このままなんて、あんまりだから、ね……!」
 既に人の体を成さぬ死骸。羽音は彼らを悼むばかりだ。
 羽音は大剣、牙緑は斧。それぞれに自身が持つ力を凝縮し、女へと振り下ろす。くの字に折れた女の身体は部屋の壁へ叩き付けられた。
 シキが崩れたテーブルに足をかけ、再度精神を集中させる。達哉が最後の力を振り絞り気糸を放ち、糾華がまたも黒いオーラでジョゼを捕えていた。高い命中精度を誇る彼女により齎されるそのオーラは異邦の女の身に再び呪いを刻み、女は諦めてかあのナイフを並べて放つ。余力に乏しかった牙緑もついに膝を折る。
 問題は、ジョゼの目的が人体であることだ。既に倒れた玲奈と式鬼の身体にもナイフは注がれ、さらに傷を深く抉る。動かぬ身体ながら悲鳴が上がり、残る面々の顔を驚愕に染めた。
「……世界が違うとここまで違うもんかねぇ」
 音羽が苦く笑う。
 詠唱に伴い現れた魔法陣。彼の力も残り僅かだが惜しんではいられない。魔力弾を受け、ジョゼは身を震わせた。羽音も女を睨み、糾華のオーラと併走して一撃を叩き込む。
 戦いは長い。三人が倒れ、残る者達も戦う力を尽かせ始めている。癒えの手段を失って以降、ティータイムは消耗戦となっていた。
「やだっ、また……どっか行ってええええ!」
 招かれざる客、小さな虫を駆除せんと、ジョゼは周辺を滅茶苦茶に踏みつける。巻き込まれた糾華がついに膝を折り――しかしこの床に倒れたくない一心か、奇跡的に意識を引き戻す。
「……シャワーを浴びたいわ」
 痛みと腐臭に脳が揺れ、それでも心は正直だ。
 癒えぬ傷を抱えたままジョゼは震え続ける。見れば、周囲の『素敵なセット』は殆どが見る影もなく崩れていた。
「どうして、かしら。お客さん、来ない、わ……」
 悲しみに暮れる女へ少女が語る。
「淑女のおねーさん」
 顔を上げる。シキが真っ直ぐ女を見ていた。。
「誰も寄り付かないのは、楽に狩れる材料ばかりを使っているからだよ」
「私ったら、迂闊だわ。ローズヒップを切らしてたのに今気付くなんて」
 ジョゼが見るのはシキの赤い光彩だ。
 伝わらぬ事は承知。シキは視線を床へ投げ、真っ直ぐ駆けて女の首筋に食らい付いた。その血は通常の人間とほぼ同じ味がする。なのに、どうしてこうも違うのか。
 女の身ががくりと、崩れるように倒れこんだ。自ら狩った『材料』達に埋もれ、白いワンピースが赤に沈んでいく。
 待ち人の来ぬティータイムは、ようやく幕を閉じた。


「少ししか出来なくて……ごめん、ね」
 羽音はほうと息を吐いた。廃墟近くの空き地に何人かの遺体を埋め、せめてもの供養と花を添える。
 傍らで、達哉も線香を供え目を閉じていた。夥しい死は確かにそこにあるが、もう犠牲者が増えないという事実も同じ。
「さて。良かったら僕の勤める店で、きちんとしたお茶会はどうかな?」
「悪くないわね。でもその前に、シャワーを浴びさせて」
 疲労を隠さず糾華はゆるく笑む。達哉は彼女を労るよう笑みを返し「準備しておくよ。僕が腕によりをかけて作ったお菓子の数々をご賞味あれ」と告げた。
 牙緑はすっかり憔悴した様子で飲食を遠慮するが、式鬼は深い傷に目を細めつつも興味を示す。
「ふむ。流石にちと疲れたが、茶会はわらわも好いておるでの」
 とは言え彼女が知るのは日本茶限定だ。西洋の茶の飲み方への興味は尽きない。
「しかし、茶にジャムとは。今度わらわの茶にもひとつ入れてみ……」
 言いかけ、ふと知人に止められたような気がして口を噤む。彼女の入れる茶は、何とも微妙であると評判らしい。だがそのようなやり取りもティータイムを楽しむ一つの形だ。
 少し遅れて、二度目のティータイムが始まる。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 セミの抜け殻にお布団6点セット……だと……。
 発想の広さに脱帽致しました。他にも有効と思える試みは複数あり、タイミング等の面から全て描写出来ず心苦しい限りです。

 以後、ジョゼフィーヌの手により殺戮が広がることはありません。
 有難うございました。お疲れさまでした。