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僕が望む『明日』と、君の居る『今日』

●明日
 明日は、君の誕生日――――だった。
 その日が来たら、君にプレゼントを贈ろうって決めていたんだ。
 クリスマスメロディーの流れるオルゴール。
 喜んで貰えるかなっていう期待と。
 いらないって言われるかも知れない不安と。
 期待と不安が入り混じって、凄くドキドキしていたんだ。
 もし、君がプレゼントを喜んでくれたなら。
 ずっと言えなかった気持ちも、勇気を出して言えるかもって。
 ねぇ、理子。
 今日は君の誕生日なんだよ?
 どうして、目を開けてくれないの?

●今日
「例えばの話、そう――例えばの話だけれど」
 ――過去をやり直せる。
 そんな事が出来るとしたなら、貴方達はどうするかしら?と。
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は問いかけた。
 誰だって、やり直したい過去の一つや二つ、あるものだ。
 もし、とかたら、とかれば、だとか。
「失ったものを取り戻そうと、過去の一日を繰り返し続ける少年がいる」
 少年――歩(あゆむ)の傍には、いつも一人の少女が居たのだという。
 少女の名は理子(りこ)。
 歩と理子は幼馴染で、共に泣き、笑い合う良い友達。
 互いの年齢が上がり、中学、高校生となっても其れは変わらない尊いモノだった。
 『だった』と言うのは……と、イヴは言葉を続ける。
「数日前、事故があったわ。これは、その時の記事」
 イヴがテーブルにそっと広げた記事の中には、
アーケード街の一角に突っ込んでしまったトラックに高校生の少女が轢かれ、
死んでしまったと書かれていた。事故の犠牲となった少女の名前は、理子。
 先程、イヴがリベリスタ達に説明していた名前と同じもの。
「この日は、理子の誕生日だったそうよ」
 歩は、誕生日をお祝いする為に其処で理子と待ち合わせをしていた。
 肩にぶら下げたバッグの中に、理子の為の誕生日プレゼントを入れて。
 でも、その誕生日プレゼントは理子に贈られる事は無かった。
 誕生日を祝う相手は、プレゼントを渡す相手は――居なくなってしまったから。
 そう告げるイブの双眸は、何処か物悲しい儚さに揺れて。
「彼女が死んだ事、歩は認めたくなかったのね。だから――革醒したのかもしれない」
 歩が理子に渡す筈だったプレゼント――小さなねじまき式のオルゴールは。
 彼女が死んでしまった事を認めたくない歩の為に、静かに革醒した。
 未だ名前すら無いそのアーティファクトの力は、
優しくも残酷な夢を魅せる特殊な空間を創り出す力を秘めていたのだ。
「何度演奏が止まっても、またネジを巻けば始まる様に」
 彼が望む限り、ネジは何度でも巻かれ続ける。
「歩は、理子が事故に遭ってしまった日をずぅっと繰り返しているわ」
 何とか、彼女が死なない様に出来ないか。
 待ち合わせ場所を変えてみたり、時間を変えてみたり。
 でも、とイヴは言う。
「オルゴールには、既に起こってしまった『結末』を変える力はない」
 だから、例えどんな事をしたとしても。
 理子がその日死んだという事実と、歩がプレゼントを渡せなかったという事実――結末は覆らないのだ。
 そして、現実の歩はオルゴールの創り出す空間に居続ける限りまるで植物人間の様に昏睡状態に在るのだという。
 まるで優しくも、残酷な夢を見続ける様に歩は一見すれば眠り続けている。
 決して変える事の出来ない一日を繰り返しながら、歩の時間は無情に浪費されていくのだ。

「アーティファクトに触れれば、貴方達も歩の居る特殊空間に行く事が出来る」
 これ以上、歩が過去に囚われ続けない様に。
「お願い、アーティファクトを破壊して歩を助けてあげて」
 其れはきっと、誰にとっても辛い事になるのかも知れない。
 でも――現実は何時だってそうなのだ、優しいばかりではないのだ。
 それ以上は何も言わず、イヴはリベリスタ達を送りだしたのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ゆうきひろ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月03日(木)23:25
どうも、ゆうきひろです。
過去をやり直せるとしたら、貴方は過去を変えますか?それとも。
それでは、今回の依頼概要を説明致します。

■成功条件
アーティファクト『オルゴール』を特殊空間内にて破壊し歩を助ける。

歩が眠ったまま、通常空間で破壊する事も可能ですが
その場合は歩は昏睡状態のままが続くようで失敗となります。

■歩(あゆむ)
幼馴染の理子(りこ)という少女を事故で亡くした少年。
彼が理子に渡す筈だったオルゴールが革醒し、現在は特殊空間に囚われており、
傍目には自室でオルゴールを抱えながら、ずっと眠っている様に見えます。
何度も起こってしまった結末を変えようと奮闘する彼は、何故諦めないのでしょうか。

■アーティファクト『オルゴール』
革醒して間も無いねじまき式のオルゴール型アーティファクト。
使用者、及び望む者を特殊空間に閉じ込め「望む世界」を何度でも見せる力を持ちます。
ただし、どんな世界を望んでも既に起こってしまった事実を変える力は持ちません。
特殊空間では、基本的にオルゴールは歩が所持しているバッグの中に入っている模様。
歩が理子を助ける事が出来なかった際に、一日をリセットして同じ一日を再開しようとします。

■特殊空間「揺らめきの一日」
歩が望む、理子の誕生日という一日を延々と繰り返している空間。
情景としてはクリスマスムードに浮かれるきらびやかなアーケード街で、人通りも多いです。
また、この空間に存在する人間は歩以外は基本的には、オルゴールが創りだしたエキストラです。

彼等エキストラはそれぞれフェーズ1のE・フォース同等程度の力をもっており、
歩の邪魔をしようとする者に対し攻撃を行う事も在るようです。その場合は単純な近接攻撃を行います。
無理やりに歩からオルゴールを取り上げようとすれば、面倒な事になるかも知れません。

情報は以上となります。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
デュランダル
★MVP
新城・拓真(BNE000644)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
クロスイージス
シビリズ・ジークベルト(BNE003364)
プロアデプト
ステラ・ムゲット(BNE004112)
覇界闘士
片霧 焔(BNE004174)

●揺らめきのセカイ
 其れは、優しくも残酷な
 陽炎の様に揺らめく幻の一日。
 揺らめくセカイで揺るがずに変わらないのは、変える事の出来ない『結末』のみ。
 
「揺らめきの一日、か」
 既に過ぎ去ってしまったXmasの準備に浮かれる仮初の街並み――揺らめきの一日。
 其処は、歩が望む一日。
 綺羅びやかに街を彩るネオンライトとイルミネーション。
 街を行き交う人々は皆、楽しげに談笑を交わしている。
 理子の誕生日を永遠に繰り返し続ける其処に、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は居た。
 彼の手には、事前に入手したある日記が握られている。
 其れは、彼が理子の家に行き、託されたものだ。
 その日記の中身を、拓真は未だ知らない。
 きっとその中に記されているであろう内容は、歩自身が知るべきものなのだから。
 今は静かに、そのまま胸に仕舞いこんだ。
「此処で、彼――歩は、醒めない夢を見ている」
 拓真の隣で同じ様に、周囲の光景を眺めながらそう呟いたのは『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)だ。
 大切な人を、理子を助ける事が出来ない。
 或いは、まだ出来ていないと思っているだけなのか。
 どちらにせよ、其れは歩にとっては悪夢以外の何物でもない筈だ。
 でも、と凛子は言葉を続ける。
「例え、悪夢と解っていても……諦めきれないから悪夢を見続ける」
 どの様な夢も、いつかは覚めるものだというのに。
「過去を何度でもやり直せる。やり直しが利く、か」
 例え百万回繰り返して無駄だろうと。
 成したい事があるのなら、其れすら苦行では無い者は居るのかも知れない。
 歩も、その一人かも知れないなと『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は言う。
 もし、そうであるとすれば。
 例え其れが他人から見ればどんなに度し難い程に不毛であろうと。
 盲目に、只一心に、繰り返し続けるのかも知れないと。
「だが、例え過去をやり直せたとしても其れが望む未来に続くとは限らない」
 そう、呟いたのは『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)だ。
 過去をやり直せるという、甘美かつ甘い悪魔の囁きに乗ったとしても。
 其れが、彼が本当に望む未来に続くとは決して限らないのだ。
 未来に行くためには、過去ではなく”今”を変えなくてはならないのだと。
 その為に、終わらない悪夢を終わらせる事を氷璃は誓う。
「――失ったものの大切さは失ってから気づく」
 ありふれた言葉。
 けれども、其れが真実なのだと呟いたのは『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。
 今日が終われば、其処には絶対に明日があって。
 晴れ晴れとしていた空が、突然の土砂降りに襲われる様に。
 思い通りに行かないことなんか何度もあるものだ。
 世界は時として、残酷であり非情……優しくは無いけれど、けれども。
 救いは確かに其処にあるのだと彼女は思うのだ。
「うん……世界はいつだってこんな筈じゃなかった出来事の繰り返しって」
 其れは以前、誰かが言った言葉。
 けれど、正しくその通りなのだと雷音の隣で『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)が言った。
 大事な幼馴染が誕生日に死んでしまうなんて。
 きっとこんな終わり方、彼も彼女も、誰一人として望んではいなかったのだろう。
 もしも、自分が歩と同じ立場だったら?
 そう思うと、焔は立ち止まってしまいそうになる。
 自分達は、神秘の力を知っているから何度繰り返しても無駄な事を知っている。
 でも、彼は……歩は只の神秘とは何の関係も持たない、何も知らない一般人なのだ。
(だって、彼が本当に伝えたかったことは。……想いは、きっと)
 喉元まで来た其の言葉を、しかし今は焔は口には出さず、静かに噤む。

●繰り返す。
 止まってしまったオルゴールのネジを回して、何度も何度もリピートする様に。
 僕は何度だって、繰り返す。
 何千回、何万回でも僕はきっと、繰り返し続けるのだろう。

「初めまして、歩さん」
 かけられた声に振り向いたのは、小さなカバンを背負った一人の少年……歩だ。
 彼が振り向いた先には、『小さき梟』ステラ・ムゲット(BNE004112)を始めとしたリベリスタ達。
「初めまして、君……いや、君達は?」
 年齢も服装もバラバラな、自分に声をかけてきた人達を見回しながら歩が言う。
「オレは、焦燥院 フツ。オレ達はお前さんが想いを伝える、その手伝いをしにきた」
 フツに続く様に、リベリスタ達もまた各々の名前を歩に名乗って行く。
「僕の手伝いを……?」
「歩さんは、理子さんにプレゼント……そのカバンの中のオルゴールを渡したくて、何度も同じ一日を繰り返しているのだろう?」
 自分達が、その手伝いをするために此処を訪れた事。
 そして、この世界が歩が持つオルゴールによって作られた偽りの世界である事。
 ステラが歩に対し、説明を続ける。
「そしてオレ達は、こういう不思議な事件を解決するのが役目なんだ」
「だから、僕や……理子の事を知っているんだね」
 成程、と合点が言った様にフツの言葉に歩が頷いた。
「此処が、僕が彼女にあげるオルゴールに創られた世界でも……現実でなくても、それでも構わない」
 僕は只、彼女を――理子を助けたいだけなんだと歩は言う。
「現実世界で、もう何日も経ってしまっているとしても?」
 そう言うのは、氷璃。
 同じ一日を延々繰り返す内に、現実の時間は無常に過ぎ去りつつ在ると彼女は言う。 
 現実の歩は、今も眠り続けている。
 其れを心配しない人が居ないわけでは無いだろう。
「”夢”であれ、なんであれ彼女を殺してでも君は諦めない。……何故、そこまでするんだ?」
 そう、投げかけるのは拓真だ。
「お前にとって大事な者はもう、過去にしか存在しない」
 だが、其れでは駄目なのだと。
 其れでは……目を閉じたのは死者ではなく歩自身なのだとシビリズが言う。
「――伝えたい事が、あったのよね? きっと」
 不意に、そう問いかけたのは焔だ。
「後悔が、貴方にこの一日を繰り返させ続けている。そしてその一番の後悔は……」
 凛子が焔に続く様に、言葉を紡ごうとする。
 其の、一番の後悔を彼女が言うよりも早く――。
「好き、だったんだ」
 うつむきながら、歩が言う。
 ずっと、言えなかった気持ちがあった。
 だけど。
 漸く振り絞ろうとした勇気は、伝える為の機会は奪われてしまった。
 そんな歩の手を、凛子の手が優しく……強く包み込む。
「皆さんの気持ちは伝わりましたか?」
 真摯に真っ直ぐに、歩の眼を見ながら凛子が言う。
「この世界でも、現実世界でも起きた事は覆せない」
 歩が、理子に会ってプレゼントを渡す事も。
 理子が死ぬという結末を変える事も、決して出来ないのだと氷璃が告げる。
「でも、個人的に私は抗い続ける人は嫌いではないのよ。だから」
「諦めないのならボク達も君に付き合うよ」
 氷璃の言葉に続く様に、雷音が言う。
 何度付き合ったとしても、決して結末は覆せない事は雷音も勿論理解している。
 だけど、だからといって自分達がオルゴールを破壊しては意味が無いと彼女は思うのだ。
 歩自身が、繰り返す日々の中で気付かなければならないのだから。

●Repeaters
 陽炎の様に揺らめき、繰り返される一日。
 其の『結末』を何とか変える事は出来ないのかと。
 或いは世界に愛された、フェイトを持つリベリスタ達が関われば何かが変わるかも知れないと。

 そんな中、リベリスタ達が提案したのは、理子への想いの伝え方だ。
 電話やメールであれば、プレゼントを直接渡す事は出来なくても。
 自分の気持ちを理子に伝えることが出来るのだはないだろうかと、フツは言う。
「オレは、信じられないかも知れないが死者と会話する事が出来る。彼女はお前を待っていると言っていた」
 其れは、半分は本当で半分は嘘だ。
 フツが死者と話す事が出来るのは本当の事だ。
 だが、理子とフツは未だ話した事は無い。
「この世界でやる事をやって、無事抜けだしたら現実の彼女に想いを伝えて、弔ってあげてくれ」
 小さく頷いて、歩が理子へと電話をかけ始める。
「これで、上手く気持ちが伝えられると良いけど……」
 恋に恋するお年ごろ、だからだろうか。
 目の前で、電話越しとは言え行われようとしている愛の告白に少しだけ焔が興味のある素振りを見せる。
 気持ちだけでも伝える事が出来れば、歩もこの世界から現実世界へ帰る事が出来るかも知れない。
「――これで満足出来るなら、俺たちも万が一の手段を取らずに済む」
「歩さんも、これ以上理子さんを殺し続けなくてすむしね」
 シビリズやステラ達が見守りながらそんな事を呟いた。
「あ、り……理子? 僕だけど」
 長い、長い着信音の後漸く出た相手に歩が慌てながら話しかける。
『――歩? どうしたの、ずっと待ってるのに来てくれないなんて』
 電話越しから聞こえてきたのは、少しだけ拗ねた様な少女――理子の声。
 そんな理子をなだめるように謝りながら、歩が会話を続ける。
「ずっと、言おうって思ってたことがあるんだ」
『? 誕生日のお祝いじゃなくて?』
「うん。理子、僕は君のことが――」
 好きだ、と。
 そう、歩が告げようとした其の刹那。
 突然、受話器の向こう側から聞こえてきたのは耳を劈く様な、鉄柱の落下音。
 それから少し遅れて、誰かの悲鳴やサイレンの音が受話器から聞こえ始める。
「理子? 理子!? ……やっぱり、駄目なのかな」
 理子が、今の通話中に死んでしまったのだと。
 そう、理解したのか項垂れ、立ち尽くす歩にリベリスタ達が声をかけようとした時。
 不意に。
 街全体がまるで、蜃気楼の様に歪み始める。
「良いんだ。また、繰り返せばいいんだから。別の方法を試せばいいんだから」
 カチリ、と。
 巻かれたネジが止まった様な音と共に。
 歩と、そしてリベリスタを取り巻く世界がピタリと静止した。
 そして、一瞬遅れて今度はまるでビデオを巻き戻す様に、世界がぐるりと回転し――眩い光に包まれる。

●繰り返しOne Day
 光が消え、リベリスタ達が瞼を開いた時。
 目の前に広がっていたのは、変わらぬ談笑に浮かれる街並み。
「――巻き戻されたか」
 一番最初に、この特殊空間に入った場所に立ちながら拓真が呟く。
「気持ちを伝えようとしただけで、死ぬなんて」
 或いは、単純に死を迎える事件が訪れたのか。
 兎にも角にも、成程理不尽だと氷璃は思う。
「とにかく、歩を見つけて別の方法を試しましょう」
 それから、もう一度リベリスタ達が歩を見つけるのにそう時間はかからなかった。
 「今度は、オレ達が理子を殺そうとする障害を何とかする」
「一人では届かなった現実を、今度こそ覆せる様に……私達が貴方を彼女の元へ届けます」
 フツや凛子を始めとしたリベリスタ達が次に提案したのは、理子に訪れる”死”の障害を自分達で食い止めるという案だ。

「初めまして、理子さん……で合ってるかしら?」
「そうだけど、貴方達は?」
「ああ、御免なさい驚かせちゃったわよね。私達、歩の知り合いなの」
 突然かけられた声に振り向いた理子の前には、私服姿になったフツと、焔。
「到着が遅れそうだから、貴方の話し相手になってくれって頼まれたんですよ」
 此処は人通りが多いから、貴方がナンパでもされないかと心配なのだと。
 周囲には、他のリベリスタ達が理子へ襲いかかる危険に対して警戒をしている。
 勿論、フツや焔もまた周囲の要因への警戒を怠りはしない。
 変える事が出来なくってもね。理不尽に抗うのが人間なのだからと胸に想いを秘めながら。
 が。
 結末から言ってしまえば、その作戦もまた無意味なものに終わる。
 理子が生き延びる、という矛盾を生み出さない為か。
 おおよそ現実では考えがたい様な、有り得ない死でさえ彼女には訪れるのだ。
 だから、例えステラが上空から何か危険が訪れないか監視し。
 飛び込んできたトラックや、落下してきた鉄柱、はては通り魔から理子を庇っても。
 何度、色んな方法を繰返しても――理子が死ぬという結末を覆す事は出来なかったのである。

●明日へ
「……解っただろう。このアーティファクトに、オルゴールに“事実”を変える術は無い。俺達が協力しても、だ」
 何度目かの繰り返しを経た後。
 拓真は眼前に立ち尽くす歩を見ながら、そう言った。
「そろそろ、閉じた目を開ける頃じゃないのか? それとも……君は”アレ”が理子だと、そう思うのかね」
 例え理子の姿をしていたとしても、この世界に存在する理子は、紛い物だと。
 そんなものが君が大切にしていた人だというのかと、シビリズが言う。
「生物は生き返らないぞ。少年。思うのは勝手だが、思うのならば」
 そろそろ死なせてやれと。
 生き返らせて、また殺すなと言葉を付け加えながら。
「歩。君がこのセカイから抜けれないのははっきり言おう、君がもう理子の死の悲しみを麻痺させているからなのだ、違う麻痺したいだけだ!」
 だから、何度でも繰り返すのだと。
「誰かを失ったその気持ちはボクも知っている」
 心がどんどん摩耗していく感覚を、雷音は知っている。
 そして摩耗したその心を、麻痺させてしまえば楽になる事も。
「君が望む明日は来ない。だけど――」
 其の想いの中では生きていると。
「だから、これ以上理子を殺すな! 君の心の中の恋心と共に生かせてやってくれ!」
 歩の、本当の心を理子と一緒に殺すなと、雷音が想いを全てぶつける様に歩に言う。
 綺麗事だと嘲笑われるかも知れない。
 だけど、それでも――歩の思い出の中の理子が笑顔になれるように。
「明日に歩み、踏み出すんだ!」
 まっすぐに歩を見つめながら吐き出した雷音の言葉に、他のリベリスタ達も強く頷く。
「死んだ人間を憶えておくのは良い。だが、進まなきゃ行けないんだ、俺達は」
 そう歩に伝えながら、拓真が一冊の日記を懐から取り出し歩へと手渡す。
 其れを彼が望むかどうかは分からなかったが。
 だが、其れでも渡しておかなくてはならないと思ったから。
「これを読む勇気があるなら、手に取ると良い。彼女の、日記だ」
「理子の……?」
 受け取った歩が、リベリスタ達が見守る中理子が綴っていた日記帳を読み始める。
 其処に、何が綴られていたのかを拓真達は知らない。 
 だが、一ページ、一ページ、ゆっくりと時間をかけられて真剣に、捲られる日記帳と。
 自然に零れ落ちた歩の涙が、其処には確かな思い出が詰まっていた事を示していた。 
「何で、今更になって泣いているんだろう」
 何度も何度も繰り返して、その度に理子を殺しておきながら。
 おかしいよねと言う歩に。
「おかしくなんて、ない」
 ふわりと、羽根で包み込む様に雷音が歩を抱きしめた。
「大丈夫、悲しいときは泣いて喚いて、世界に理不尽を叫んでもいいんだ。みっともなく涙を流して喚けばいい」
 泣きじゃくる歩を包み込みながら。
 悲しみに泣けなかったからきっと彼は囚われたんだろうと雷音は思う。

●終わるセカイ
 少しだけ、理子と話がしたい。
 歩がリベリスタ達に提案したのは、最初にフツが提案した電話での会話だ。
 無論、既に試された方法故に理子の死を覆す事は出来ないし、プレゼントを渡す事も叶わない。
「”昨日”にお別れを言う為に、そして明日に歩む為に」
 歩が静かに携帯電話に手をかけ、理子へと最後の電話をかける。
『――歩? 今何処?』
 電話越しに聞こえてきたのは、あの日聞いた彼女の声。
「ねぇ、理子。君に伝えなきゃいけない事があるんだ」
『?』
「有難う、理子の事……ずっと忘れない」
『え、ちょっと歩!?』
 静かに歩が携帯を切る。
「……いいの? もう少し、話せるかも知れなかったのに」
「そうだよ。少しくらいなら……」
 凛子やステラの気遣う声に、歩は首を横に振りながら応える。
 そうして、カバンの中から歩が取り出したのは小さなオルゴールだ。
「其れを私達が壊すのは簡単よ」
 でも、出来るなら貴方自身に壊して欲しいと氷璃が言う。
 氷璃の言葉に、歩が小さく、しかし強く頷いた。
 やがて意を決した様にオルゴールを掴んだ腕を振り上げ。
「おやすみ、理子」
 そのまま、地面へと強く叩き付けた。
 地面へ叩き付けられた衝撃で、オルゴールが砕け飛び散ると同時に。
 ピシリ、と。
 閉じられた世界そのものに亀裂が入り、そのまま砕け散っていく。
「君のコームが奏でる最後の音は何よりも綺麗だった。君は、優しすぎたんだ」 
 砕け散ったオルゴールの欠片を握りしめながら、終わる世界にリベリスタ達が想いを馳せる。
 
 其れが、終わりの無い繰り返しの世界の終わり。
 長かった”昨日”は終わりを告げ、少年の”今日”はこれから始まるのだろう。
 そして”明日”は、少年に取って辛くて苦しいものなのかもしれない。
 だけど、彼はもう立ち止まる事は無いだろう。
 もう戻らない昨日が――掛け替えの無い過去が、大切な人との想い出が、歩み続ける勇気をくれるのだから。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
夢は何時か必ず醒める様に。
”昨日”は終わり、”今日”が始まり、そしてその先には”明日”が必ずやってくるものです。
歩が読んだ理子の日記に何が書かれていたのかは、あえて詳しくは書きません。
きっと、其処に書かれていたものは何てことの無い下らない、けれど大切な、掛け替えの無いものだったのだと思います。

MVPは、非常に悩みましたが明日へ進む勇気をくれた一人である新城・拓真様へ。

それでは、皆様本当にお疲れ様でした。
またお逢いする機会があれば、宜しくお願い致します。