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もどかしくて、惑う道


 あなたの事を愛しています。
 いつしか、口にする事さえ憚られなくなった言ノ葉は
 しずかにあなたに降り積もるのみなのでしょう。
 てが届くうちに、と何時もあなたの事を求めています。
 いまでは、あなたが好きで好きで堪らないのです。
 まるで、想いは底なし沼でした。
 すきです。あなたが、誰よりも、なによりも。

 いつか、あなたが私の手を取ってくれる日が来るならば
 つづく未来を想う事も出来るのでしょう。
 まだ、臆病で怖がりな私は
 できるだけ、あなたに近づける様にと手を伸ばして
 もういちど、何度も、あなたに愛を告げるのです。
 
 ――あいしてます、いつまでも。


「本当に、好きな人がいたとしたら、どうする?」
 集まったリベリスタを一瞥し『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は微笑んだ。
「私達革醒者は人とは違うのかもしれない。姿形は一般人と違って、肉体も強化される。
 ――幸か不幸か、それでも私達は『ヒト』というカテゴリーのなかにあるのね。
 ……お願いしたいのはそんな『ヒト』が別の種に恋をした話。
 彼女は年齢は不詳。外見で云えば20代位かしら。まあ、彼女はね、恋に落ちたの」
 桃色の瞳を伏せり、小さくため息をつく。詩を綴る様に並べられる言葉にリベリスタは首を傾げた。
「一目惚れだったの。彼女は一人の少年に恋をしたの。少年は確かに彼女の想いを一度は聞いたわ。
 彼女は革醒者だから、人よりも頑丈な体を持っていて、身体的にも人とは違う部分があった。けれど、彼は――少年はそんな彼女を受け入れていたわ。受け入れていたけれど、此処からはよくある悲劇のお話し」
「少年が、何か?」
 リベリスタの問いに予見者は頷いた。
 愛おしいと手を伸ばし、その両手に一度は手に入れたであろう心の行く先。
「少年はアザーバイドだった。フェイトを得る可能性はゼロ。惚れた革醒者はフォーチュナだったの。
 革醒者の名前は垣村・真。何処かに所属する事も無く、唯、ぼんやりと過ごしていた彼女にとって最初で最後の恋だと思ったのでしょうね。幾度か逢瀬を重ねて彼女は少年を愛したけれど少年はまだ『若かった』の。彼女の愛に応えるには、まだ、若かった」
 一言、言葉を区切ってお願いしたい事があるの、と予見者は続ける。
「少年は確かに真を愛してるから彼女を護ろうとするの。それが愛の形かしら?
 お願いしたい事はね、彼女と、彼を護って欲しい。彼女たちに襲いかかる『時計』から、護って欲しいの。
 彼の帰る先は確かに存在してる。彼を殺す必要はないわ。けれどね、真は今回決めている事があるの」
「それは――?」
 桃色の瞳はただ、寂しげに細められるのみだった。
「恋を、諦めるのですって」
 届かないままでは辛いから。少年と共に行くことだって考えた。最初で最後の恋だから、其れほどまでに思いつめた。けれど、その決心はつかないままだった。決心できなくて、迷うだけなら『諦めればいい』のかと、そう彼女は思い至ったのだ。
 後押しをするのは皆次第よ、と予見者は笑う。悪い夢を醒ましてね――そう常の言葉を紡いだ後に視線は床へと向けられた。
「独り言だけれど、よく似た物語は常に良くある悲劇で彩られているのね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月08日(金)23:38
こんにちは、椿です。選択肢は常に皆様の手に。心情依頼です。
麻子ST「戻して止めた、時計の針」と同テーマ依頼となりますが、内容・攻略は関連しません。

●場所情報
小さな池の存在する自然公園。池の周辺には季節外れの桜の花が咲いています。枯れ木の間から月明かりがあり、光源の心配は有りません。

●革醒者『垣村・真』
ジーニアス×フォーチュナ。20代中盤辺りの外見をしています。年齢不詳。
革醒仕立ての頃に出逢ったアザーバイド『留季』と恋に落ち、彼を一心に愛しています。彼の住む世界に行くか行かぬかを迷い、その恋すら諦めてしまおうとしています。庇う必要有。

●アザーバイド『留季』
外見年齢は十代半ば。人間の体に蜥蜴のしっぽを持ち、水掻きを持ったアザーバイド。
真の事を愛してはいますが、彼女の迷いを敏感に感じ取り言葉を発する事を辞めてしまっています。意思疎通は可能(バベル不要)。戦闘能力はレベル10のリベリスタ程度ですが戦闘方法をあまり知りません。

●『時計』×4
E・ゴーレム。フェーズは2。他人の時間を閉じ込めたものであり人の想いを一心にぶつけてきます。範囲攻撃を得意としているようです。

●『時示す針』×5
E・フォース。フェーズは1。時計に閉じ込められた人の想いの結晶体。非常に素早く、単体攻撃と回復を得意としているようです。

時に、想う事を辞める事もあるのでしょうか。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
クロスイージス
姫宮・心(BNE002595)
ダークナイト
逢坂 黄泉路(BNE003449)
★MVP
マグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
覇界闘士
片霧 焔(BNE004174)
マグメイガス
蔵守 さざみ(BNE004240)
ホーリーメイガス
宮部 春人(BNE004241)


 言葉にする事さえも憚られなくなった愛情を何と称るするか。ソレは未だ『恋』を知らぬ『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)とってはまだ知らない事だった。
 誰かを好きになって見たい、誰かを愛してみたい、そう思う事は数えきれない位にあるけれど、それでも『ホントの恋』をした事がない自分はきっと夢見る少女のままなのだ、そう焔は自覚していた。
 だから、『恋』を語るには焔にとって難しさを感じられずには居られない。それは『バイト君』宮部 春人(BNE004241)も同じなのだろう。未だ幼さの残る――年齢より幼く見えるかんばせに浮かべた春めく気持ちを抑え、紅潮した頬に手を遣った。
「異世界の恋かぁ……」
「また難儀な恋じゃな」
 唇に指を当て、悩む様に呟いた『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の言葉に焔と春人は瞬いて、俯いた。
 難儀な恋。アザーバイドと革醒者。この種が違うと言う事は何にも変えようがない。運命の悪戯か、『運命』が彼を愛さなければ、彼は愛しの人を愛する事さえも出来なくて。叶う事のない悲恋等、よく或る物語で片付けられてしまうのではないか。
 瞬いた『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は小さく溜め息を漏らした。恋愛小説を嗜むと言う予見者の言葉に共感できる気がするのだとシエルは一人、仲間達へと語りかける様に漏らすのだった。
「問題はお二方にどんな想いが残るのか……或いは手を取り……いいえ」
 其処から続く言葉は出なかった。恋愛小説の中では何時も綴られるハッピーエンド。其れを望む事が出来るかできないか、シエルにはその先は想像出来なくて。目線をあちらこちらへと動かした。その目線の先、大きな赤茶色の瞳を瞬かせていた『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)の悩ましげな横顔に首を傾げる。
「どうかなさいましたか……?」
「いいえ、生死は問わないと言われた事は、ありますが、護れと言われたのは初めてデス」
 ソレがアザーバイドの事を指している事に『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)も頷いた。最初に彼がブリーフィングに足を踏み入れた時も『アザーバイドの討伐』を予見者よりお願いされるものだと思っていた。それは心も同じなのだろう。
「これって、アークの命令でしょうか? それとも月鍵さんの意思?
 ――どちらにせよ、超守る空飛ぶ不沈艦、姫宮心。その任務しかと承りましたのデス」
 護れ、と言われるならば護るだけ。それが姫宮心と言う少女だ。幼少の期にエリューションに助けられた時以来『護る』ことに全力を注ぐ騎士。小さな身体で精一杯胸を張り、心は仲間達に行きましょう、と声を掛けたのだった。


 時計の針が進めば進むごとに失うという感覚が大きくなるのだ。どうにかしなければ、と思うたびに臆病になってしまう。それが未来を視る力を得た垣村真という女だった。外見だって何も気に為らなかった。違う種族であれど一心に彼を愛する事が彼女には出来ていたのだから。
「ねえ、留季はもう帰ってしまうのでしょう」
 その声に変える言葉がなく、季節外れの花が散る公園でぼんやりと真は座っているだけだった。あと少しで如何するかを決めるからと言ってから少年は言葉を発する事を辞めてしまっていたのだ。
 ちくたく、と耳障りな音が聞こえ視線を移した真の眼が見開かれる。神秘知識のある彼女であるからこそ、これがエリューション事件に巻き込まれたということに直ぐに気付いたのだろう。
「人生の岐路に立ってるって感じかな」
 その言葉がぴったりだとも思える情景に苦笑を禁じ得ない四条・理央(BNE000319)がその体を滑り込ませる。留季の目の前に立ちソーサリーヴァンガードを握りしめた理央は「こんばんは、アークです」と背後の女へと告げる。突然の乱入者に瞬く彼女の手をぐん、と引いたのは心であった。
「お助けに参りました。絶対、絶対に守って見せますから、少しの間、どうぞ私の影に」
「護るって――」
「勿論。あそこの男性も」
 ブロードソードを握りしめた心の言葉に真は小さく頷いた。緑の長い髪を揺らし、マジックガントレットで包まれた拳へと視線をやった蔵守 さざみ(BNE004240)はその体全てに意識が行きわたる様にと目を伏せる。体内へと廻る魔力が指先まで行き渡った事を確認し、時を刻む『時を示す針』の目の前へと立ちはだかった。
「周囲のお掃除をしないとね。とにもかくにも、それからよ」
 その言葉が『自身の此れから』を指している事に真は気付いたであろうか。かちかちと音を立てると系の目の前へとその体を滑り込ませ、乙女の拳に炎を宿す。燃え上るのは己の心だ。赤く長い髪を靡かせ、真っ赤な瞳を細めて、瞬間的に周囲を薙ぎ払う様に燃やし尽くす。
「――ほら、燃えたでしょ?」
「とても素敵に燃えました♪ ……我が身に友を守るご加護を」
 きゅ、と指先に力を込める。北極紫微大帝乃護符へと祈る様にシエルは呟いた。回復手でありながらも、何事かがあった場合は前衛へと出る覚悟を決めたシエルへと周囲の魔的な力が次々に供給される。息を吐いて、仲間達を癒せるようにと決意を固めた。
 繰り出した炎が焔のものと重なる。焔の物が赤々とした『明るい』炎であればシェリーのものは黒々とした正に地獄を表すかのような炎であった。
「紅蓮の顎門に食われるが良い」
 刻む針の音に耳を傾けて、何かの物語の様だ、と黄泉路は感じた。恋路に悩む女性と少年。想いを攻撃とする時計。二人の想いにエリューションが反応した様にも見えるのだ。時を刻むとは何と酷なものだろうか。無情にもそうして居れば時が過ぎ去っていくと『時計』が告げる様に彼女らにその現実を思い知らせている様にも見える。
「何れにせよ、後悔ない選択が出来ると良いが……」
 その背に真を隠しながら、心はその小さな体で全ての攻撃を受け続ける。腕に揺れるのは彼女が所属する境界最終防衛機構の腕章だ。傷を負う、頬が切れる。血が滴っても護ると決めたから。
 ――なんだって護ると決めた。
 それが拘りだった。それこそが姫宮心と言う少女の信念だったのだ。絶対に守り切る。とにかく、ずっと護り切ろうと思っていた。自分が危険に陥っても、自分の身を削っても。一歩たりとも退く気は無かった。
「真さん、私、仲間のフォーチュナさんから多少はお話し伺ってますのデス。まあ分かってる事なんてないんですが」
 へへ、と明るく笑う少女に庇われながらも真は瞬く。傷を負ってもそれでも気丈に振る舞うその姿に真は手を伸ばし掛けて収める。
「私は恋に疎いのデス。だから、何も言える事はありませんデス。真さん、答えは今から考えても良いと思うのです。答えを出すのは私じゃなくて、貴女でしょう」
「そう、逢瀬の邪魔しちゃって御免なさい。留季、貴方は真を守るだけの覚悟はある? あるなら、それを見せてよ」
 見せて、魅せて。それなら納得できる。前へと飛び出した留季の姿を見て上出来だ、と焔は唇を歪めた。フォローは万全に行うつもりだ、前へと飛び出す彼を見つめながら燃え滾る拳を時を刻む針が刻む事が出来なくなる様にと突き上げる。
「……素晴らしき時間よ、永遠であれ。嗚呼、誰しも思う事でしょうね。でも、時を刻まなくなった時計にどれほどの価値があるというのかしら?」
 詩的に紡ぎながら、焔の炎が届かぬ場所から奏でるのは四重奏。さざみの四色の魔力が奏であげるソレを横目に焔がくす、と笑う。
「私程度じゃ巻き込まれただけで消し炭だもの。それは御免蒙りたいわ」
「ふふ、もっともっと燃えるわよ?」
 炎が、周囲に広がる。その炎に合わせて斬射刃弓「輪廻」が振るわれ、黒き瘴気が周囲へと広まった。黄泉路の黒き瘴気が辺りを包み込む。眼帯で隠された瞳を伏せ、対象を定める。
 黄泉路だって分かっているのだ。此処で真が恋を諦めたとて責める事はできないのだ。彼女は運命に愛された。だが、その身に宿ったのは自身の身を守る能力では無い。未来をその目に映す能力だったのだ。異なる法則で成立する『別の世界』にその身を投じろと言われて不安にならない方が無理だ。
「真、お前には留季がいるんだ。お前がどれだけ留季を愛してるか俺には分からんが、彼を信じるのだって、選択だろう」
 時計が、時を示す針が、攻撃を繰り出すそれに苛まれながらも癒しを謳う春人からの援護を受け上手く立ち回る。前線に余り出る事のない黄泉路であれど、背後には護るものがあるのだろう。
 じゃきん、と弓が刃に変化する。刻む時を、今だけは留めておくように――留める季節を望む様に、刃は真っ直ぐに己の痛みを繰り出した。
「俺には、アイツらがお前に後悔のない選択をさせない様に此処にやってきたようにみえるんだ。
 未来への不安は留季と共に解決できても、過去への後悔だけは消す事はできないんだからな」
 赤い瞳が細められる、真っ直ぐに繰り出した攻撃に反撃する様に齎される傷にも黄泉路は耐える様に笑みを浮かべた。前へと飛び出した留季に気を配りながら、詠唱で広がった魔法陣の中心から砲撃を繰り出す。
 眼鏡の奥で青い瞳を瞬かせ、長いみつあみを揺らした。留季が前線へと飛び出したことで、焔がその補佐に回っている。弱弱しい攻撃にも回復手が十分に存在している為に、戦闘は滞り内容に思えた。尤も、庇う動作が多い中で、戦力的に長期戦に持ち込まれるリベリスタらは傷つき運命を代償にする事だってあった。
 理央は困った様にずれた眼鏡の位置を直して、不運を占った。ソーサリーヴァンガードを振るい、古びた盾で針を、時計を受け止める。
「道ってのは沢山あるんですよ。でも、後悔だけは絶対にして欲しくないな。そう、想います」
 傷ついて、震える膝を立たせ、伊達眼鏡の奥で瞳を細める。危険となったならば留季を庇える位置にとしっかりと地を踏みしめた理央を援護する様にシエルは祈った。
「――私の力……今宵この時は……魔矢となりて敵を穿て!」
 この時計が、この針が、二人の未来への苦悩を映し出す物なのだとしたら、其れさえも通り越して、幸せが欲しいから。飛び出した矢は光を纏い、針の動きを止めて行く。
「私……bad endって嫌いなんです」
 シエルとて思い人が居る。あの人が居るならば、何処にでも行くと決めているから。けれど、愛しい人が来ないでほしいと言うならば、それは『共に行かない』というのも選択肢のうちなのかもしれなかった。
「生きて居れば再会の機会もございましょう。だから、諦めないで、というのは私の傲慢かもしれませんが」
 けれど、その選択が、如何なる結果であれど幸せであるなれば。そう祈らずには居られなかった。前線での攻撃に後退しがちな仲間を補佐する様にさざみは四つの光を飛ばし続ける。動きを止め、刻まれる事の無くなった時が、ただ、そこには存在して居る様に見えた。
 消えて行く針を見つめながら、さざみはもう一人の当事者――元の場所へと戻ると言う留季というアザーバイドへと声を掛ける。
「留季は、どうしたい?」
 さざみの声に前線に居る留季の動きが鈍くなる。援護する様に黄泉路が己の傷を力に変え、焔が炎で周囲を薙ぎ払う。声を出す事を辞めてしまったアザーバイドが手を伸ばす、光が伸びて、敵を滅するように広がる閃光。
「黙ってるだけでは、何も進まない。垣村一人の気持ちでは出せない答えがある。彼女が迷い決めれないのはお主の言葉と想いをはっきり伝えないからではないか?」
 ふるりと留季の唇が震える。シエルを援護する様に立ち回っていたシェリーの長い髪が靡く。真っ直ぐに月進む魔力弾が敵を呑み込んでいく。唇を歪めて、『塵も残さず分解する』様な彼女の魔力は時計を飲み干していく。
「二人が心を重ねて初めて出せる答えがある。おぬしは誓えるか? 彼女を幸せにすると、自信が持てるか?」
「僕は誓う。……真と一緒が良いよ。護るって、そう、決めたから」
 その言葉に、瞬くだけ。目の前の時計に対し、敵を滅する様に斬射刃弓「輪廻」を振るった。切り刻む様に、己の得た傷の全てを込める様に、力強く、与える攻撃。かしゃん、と音を立てて、落ちる時計を見つめて黄泉路は小さく息を吐く。
 只管に庇い続けていた心が手を下す。息を吐いて、振り向き真に対して優しく微笑んだ。答えを選ぶのはいつも『当事者』でしか出来ない事だから。精一杯、行ってらっしゃいと送り出す様に微笑んだ。
 池の畔に優しく降り注ぐ月光が、リベリスタ達を照らしている。彼の目の前には季節外れの桜がひらひらと、舞い降りてきた。


 しん、と静まり返った公園で、季節外れの桜の花を見つめながら、嗚呼、まるで雪の様だと春人は思う。あの、と声にするのもためらって、流した視線のその先に、ひとつ、花弁が舞い落ちる。
「あの……僕は恋とかしたことないので……あまり気の利いた事は言えないんですけど……でも」
 必死に、何か伝えられるなら、と言葉を絞り出す。恋をした事無いけれど、けれど、恋に憧れない訳ではないから。続く此れから、得れる筈の幸せを、探す事はできるだろうから。
「別れて得られる者なんて後悔しかないと思います。けど、信じる人がいるならどんな困難でも乗り越えられると……
 すみません、生意気、言いました。でも、お二人には後悔しないような道を選んで欲しいんです」
 俯いた春人の隣で、舞い散る桜を見つめて、月へと視線を移したシエルは瞬いた。金に輝く其れは何処かの本で読んだストーリーを想いださせた。指先を真っ直ぐに伸ばす。
「月へ、行こうとし、叶わなかった人は数知れず。されど本当に叶わなかったのでしょうか?
 互いの想いが、場所を越え、追い付き道交わる事も或いは……」
 謳う様に紡いだシエルの隣で不安げな留季は、真の服をつい、と引っ張る。全ては彼女が判断する事だから。留季の言葉を聞いても迷いを隠せずに居る真に対し、シェリーが一歩、前へと歩み出る。
「諦める事を勧めよう」
 一言、シェリーの言葉に驚きを隠せない様に真はえ、と声を漏らした。共に行くか行かないか。諦めるか諦めないか。これが最後の恋だと真は告げていた。それを簡単に諦めろと告げるのだ。ふるり、と真の唇が震える。噛み締め、白くなる唇に色違いの瞳を向けてからシェリーは視線を逸らす。
「諦める事を諭されてなお、彼についていくと言う強い想いがなければ恋心だけでは、いずれダメになる。
 違うか? この先ずっと共に生きて行くのだ。それこそ伴侶として見知らぬ世界に、人間は自分一人だ」
 それは或る意味では死刑宣告に近かった。その背を押す事は簡単なのだろう。その背を見送るだけというのは何よりも簡単なのだろう。だが、シェリーはそうしなかった。諦めろ、と告げたのだ。
「で、でも……私は……」
「今、おぬしと親しい者達全てと決別し、それでも残してきた者達の為におぬしは彼と共に幸せにならなければならない。
 その自信がおぬしにはあるのか?」
 ――続く言葉は、でなかった。
 ぐ、と拳を固めて、揺らぐ想いに真は瞳を揺らせる。シエルが留季の傷を癒している様子を横目に見つめ焔は赤い髪を揺らし、真の目の前へと歩み寄る。未だ幼い少女の瞳は燃える様に、あかい。
「あのね、真、彼は貴女を守る覚悟を確りその胸に秘めていたみたいよ。後は、貴女の気持ちの問題。
 彼と別れるのも、彼の住む世界に一緒に行くのも、貴女次第なのよ。
 ――ただ、忘れないで。此処で彼と別れたら、本当にソレまで。想いを言の葉に乗せて伝える事も、触れ合う事も二度とできない」
 それでも、いいの、と問いかける少女に真は答える事が出来なかった。焔にとって『垣村真』の恋が最初で最後の恋だと言うならばソレを叶えてやりたいと思っていた。哀しい恋の結末なんて誰も望まないからだ。もしも誰かがその恋を否定したとしても焔は『望んだ幸福』を与えてやりたいと思う。
 だからこそ、燃え滾る意思を胸に拳を振るった。だからこそ、恋に素知らぬ振りをせず少女は少女らしくハッキリと言ったのだ。
「真、私は貴女の意見を尊重する。今度は貴女が覚悟を見せる――魅せる番よ?」
 言葉少なに、手を取って真が留季へと向き合った。さざみは言葉を口にはしない。行くも帰るも、迷い迷い続けて、その結論に口出しすることなんてさざみには出来ないから。
「どうか、お幸せに」
 共に取り合った指先が、これからの幸せを約束してくれれば、とそう祈って。ただ、どんな未来があっても、幸せであればいいと、そう思う。
 最期を見守る様に、黄泉路は視線を落とす。足元に散らばる薄桃に色づいた花を見つめて、小さく笑った。嗚呼、後悔しない未来が其処にあればいいと、そう思う。
 共に行く事を選んで、真はシェリーへと小さく笑ったのだ。恋心を否定されたのは初めてだ、と。応援されるだけではきっと決心できなかったから。
 ねえ、と小さく零した言葉に続くのは、ありがとう、と優しい五文字。やけに小さく見える背中に視線を向けて、理央は緩やかに笑って、手を振った。
 シエルの手が、ゲートを壊す。壊れたその先を見つめて、紫の瞳を伏せる。月に隠される思い人を離すことなく、ただ、己が望むままに進めます様に、と。嗚呼、何処にでも或る物語だけど何処でもある悲劇を喜劇に変えることだってできるのだから。
「――お二人に、幸在れ」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまで御座いました。
 心情なのでした。選択肢は無数にあってどれを選び取るか、というのは非常に難しい所だと思うのでした。皆さんの『恋』に関するお気持ち有難うございました。とても素敵でしたっ!

 MVPははっきりと想いをぶつけてくださった貴女に。誰かに言われて、それで惑うものはきっと最善のものではないのでしょうね。素敵で御座いました。

 ご参加有難うございました。