●四体の龍 その日、四体のアザーバイドがDホールを潜り抜けてやってきた。 「我が武技は三歩必殺。余計な手数など不要也」 龍の刺青をもつ男が、腕を組む。鍛え上げられたその腕は、必殺を豪語するほどの硬く、そして鋭い。 「アタイの背中の龍が、強敵を求めているのさ!」 木刀と学ラン。その背中には龍の刺繍。木刀もこの世界とは異なる物質で出来ているのか、軽く薙いだだけで樹木が横に斬れる。 「んふふ。この世界にはおいしいものがあるのかなん? タ・ノ・シ・ミ」 頭部に六本の角を生やし、下着同然の鎧を身に着けた女性が唇をなぞる。皮膜の生えた羽は、コウモリではなく爬虫類的な何かを思わせる鱗が生えていた。 「みんな、無茶はしないで欲しいドラ。偶然つながった『穴』なんだから、いつ閉じるか分からないドラよ」 直立するトカゲのようなアザーバイドが体をほぐしながら言う。身長2メートルほどある巨躯。全身を覆う緑色の鱗。力強さを感じさせる体つきだ。 「構わぬ。そうなればこの地に住まうのみ」 「喧嘩が出来ればアタイはどこでもいいさ」 「おいしい料理もあるといいわん」 「まったくの人たちは……今周囲を調べるドラ。動くのはそれからドラ」 四体の『龍』を想像させるアザーバイドはゆっくりと動き始める。 特筆すべきは二点。 我欲を満たすためなら、彼らはこの世界の命を軽視すること。 そして彼等がフェイトを得ていないこと。 ●箱舟 「年の瀬に竜退治。そんな景気のいい依頼はどうだ、お前たち?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。 「敵はアザーバイド四体。今のところ動きはないが、『万華鏡』は遠くない未来にこのアザーバイドが騒動を起こすことを予知している。非常識かつ好戦的な輩が町に入れば、神秘の秘匿も含めてグレイトなプロブレムだ」 非革醒者への暴行、デパートの食料強奪、その様子がWEB上に暴露されるなど。規模は小さいが、それはあくまで『今予知できる段階』だ。放置する時間が増えれば、その被害は拡大する。アザーバイドの実力を考えれば、大量虐殺もありえるのだ。 「対応は早いに越したことはない。忙しいとは思うがアザーバイドをDホールに追い込んでくれ。Dホールは近くにあいている。可能ならホールの処置も」 「分かった。それで相手の情報は?」 リベリスタの言葉に伸暁はモニターを操作してアザーバイドの姿を移す。 「まずコイツ。龍の刺青を持つ異界の拳士だ。一撃必殺を信条とし、高い攻撃力を持つ。 その分防御力は低い」 まぁ、上半身晒してるからなぁ。 「次、龍の学ラン。一世紀ほど前の女の不良だ。タイプとしてはソードミラージュが近い。とにかくすばやい動きをする。 性格は猪突猛進だ。詳しくは資料を見てくれ」 何その情報、と思っていたリベリスタは、幻想纏いに送られた情報に驚きの顔を見せる。 「次、ツノ女。ファンタジーだね。コイツも龍っぽく暴食だ。 投げキッスに気をつけな。メロメロになるぜ」 何その情報、と思っていたリベリスタは、幻想纏いに送られた情報に驚きの顔を見せる。パート2。 「最後、ドラゴンヒューマン。硬くてでかくて厄介だぜ。 殴ってこないから安心しな。もっとも、そのほうがよかったかもしれないがな」 面倒だなぁ。露骨にそんな顔をするリベリスタ。 「相手は連携をとって行動してくる。経験達者な戦士達(ウォーモンガー)だ。 最も経験ならこちらも負けてないだろう? ボトムチャンネルの戦士の実力を見せ付けて、異界人たちをゴーホームしてきな」 伸暁の声に促されるように、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月04日(金)21:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ヤヨイってあんたよね?!」 先手を取ろうとしたヤヨイの出鼻を挫いたのは『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)の一言だった。 「一足先に楽しみましょ!」 「へぇ。一対一(ヤ)る気かい? 粋だねぇ」 ミリーの挑発に乗る形で二人は少し離れた場所で対峙する。 「初めまして。異世界の拳士と戦う機会なんて滅多にないからね。君との戦いは楽しみだよ」 同じく『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)がユンロンに向かう。 「ユンロン。タルバの宿龍者だ」 「宿龍者? 異世界の拳士の名前かな? だったらこっちも名乗るよ。覇界闘士、設楽悠里です」 共に徒手空拳。その間合いを測りながら二人は対峙する。これ以上の言葉は要らない。力尽きるまで殴りあうのみ。 「あーあ、二人の世界に入っちゃったわん」 「……となると、そっちはこう来るドラ」 ドーガとフェダスンがリベリスタを見る。六人のリベリスタがこちらの方を向いていた。 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)と『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)が後ろに下がり、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)と『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)と『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)と『娘一徹』稲葉・徹子(BNE004110)が前に出る。 『ドーガを庇うフェダスンを風斗が吹き飛ばし、ドーガを孤立させて殴る』 リベリスタの取った作戦はこうである。つまり最初の風斗の動きが戦いのキモとなる。 その風斗が動くよりも先、ドーガの口付けが放たれた。その口から三種類の吐息が吹き荒れる。こちらに向かってくる前衛の四人に。 「……くっ!」 炎と氷と雷。それらが交じり合ったブレスに足を止めるリベリスタたち。回避に劣る風斗と徹子がこのブレスで動きを封じられる。 同時にフェダスンがドーガを庇い、盾を構える。難攻不落の壁がそこに出来上がっ―― 「どーぞ。美味しいですよ?」 「こちらにも和菓子がありますよ」 「わー、おいしそう」 うさぎと大和が持ってきたから上げ弁当と和菓子にあっさり釣られ、前に行くドーガ。肩をコケさせてフェダスンがツッコむ。 「もー、僕から離れると危ないドラよ」 「んー? 大丈夫。避ければいいだけよん」 その間に氷の拘束から逃れた風斗と徹子がドーガとフェダスンに迫る。 「それに、ブレスにフェダスン巻き込んだら大変でしょん?」 ドーガを囲むように風斗とうさぎと大和が迫り、徹子がフェダスンに向かって木刀を構える。 「徹子の徹は徹すの徹。名前の通り、打ち徹します!」 祖父に教えてもらった武術。革醒した後でもその動きは徹子のベースになっていた。正眼に木刀を構え、すり足で移動する。相手の動きをしっかりと見据え、相手の動いた隙を逃さず打つ。木刀があたった瞬間に力を加え、文字通り『打ち徹し』てフェダスンに直接衝撃を与える。 「おおっと、きついドラ!」 防御に長けた盾役のフェダスンにとって、徹子の一撃は堪えたようだ。 「少し予定とは違ったが……招かれざる客には、とっととお帰り願おう!」 風斗が剣にオーラを乗せる。それに呼応するように『デュランダル』と呼ばれる剣が赤く輝く。そのまま全身の力をこめて、剣をドーガに振り下ろした。一撃必殺。出し惜しみなどする気はない。 「お前に食わせるものはこの剣くらいだ! 遠慮なく食らっていけ!」 「デコボコ4人組って所ですか。個人的には……見てて楽しいんですけど」 うさぎがアザーバイドの関係に感心しながら『11人の鬼』を構える。複雑な角度の破界器に、夜の凶手の技を乗せてドーガに切りかかる。傷の回復を妨げ、死に近づける一撃。 「でもまあ、私達だってデコボコぶりじゃあ負けませんけどね?」 「美味しいものが食べたければ、私達をまず先に平らげる事ですね」 「OK。遠慮なくいくねん」 大和の挑発にドーガが答える。ドーガを拘束するように、大和の手から糸が伸びた。気で出来た糸は回避に長けるドーガの動きを上回り、その足に絡まり動きを封じる。 「喰らえるものなら、喰らってみなさい! 逆に喰らい尽くして差し上げます!」 「熾竜伊吹。この世界の銘も無き一無頼に過ぎぬ」 竜の名を持つものとして伊吹は名乗りを上げる。フィンガーバレットを指に構え、ドーガの頭部に向けて弾丸を放った。動いた、と思ったときにはすでに弾丸は命中している。圧倒的な速度の射撃。 「無粋なもてなししかできずすまんな」 「ドラゴンって、それだけでファンタジーでもあるけれど、なかなかロックよね」 杏は楽器を奏でながら魔力を練る。派手な音と軽快なリズム。少しずつ速くなるビート。それが最高潮に達したとき、魔力が稲妻に代わりヤヨイ以外のアザーバイドを貫く。にぃ、と笑みを浮かべてアザーバイドたちを見た。 「あなたたちの世界のロックも聞きたいわ」 「僕もこの世界の文化に興味はわくドラが、聞き入ってる余裕はなさそうドラ」 フェダスンが盾を構えながら応じる。予想以上の猛攻に、アザーバイドたちに余裕の色はない。 無論、リベリスタにも余裕は無い。ユンロンの拳やヤヨイの木刀、ドーガのブレスで少しずつ体力が削られていく。 ● 金の如く体を固め、悠里は攻める。左腕を曲げて盾のようにして氷の右手を突き出す。かと思えば構えを変化させて円を描くように移動して相手の側面から払うように稲妻の裏拳が放たれた。眼鏡の奥で相手の動きを見ながら、その都度ごとに動き回る。 (見ろ見ろ見ろ。人の体である以上、構えも歩法も重心の動きも同じはずだ) 刹那の動きに反応して体を動かす。集中が途切れれば手痛い拳が飛んでくる。気の抜けない戦いだが、悠里は自分が高揚しているのを感じていた。 「ユーリ。我が拳の真髄、食らってみるか?」 「君の最強の技、見せてもらうよ!」 ユンロンの拳に応じるように悠里は相手の動きに集中する。逃げる、という発想はない。その様子に笑みを浮かべ、ユンロンは足を動かす。 3。大地を踏む音が、やけに大きく聞こえる。 2。大気が震える。竜巻の中で立つ様な錯覚。 1。時間が止まったような錯覚。音も色もない世界で、悠里とユンロンは拳を突き出す。 0。――! 「ユンロンのヤツ、ノリノリになってるようだね!」 「こっちだって負けてないよ!」 ミリーの拳に炎が宿る。灼熱の拳が突き出されたかと思うと、その勢いを殺さぬように足に炎を纏わせてヤヨイの頭を狙う。頭を引いて避けたところに突っ込んでいき、ヤヨイのお腹に赤の拳を叩き込む。 ヤヨイは距離を離すべくミリーを蹴って飛ばす。そのまま木刀を振り回した。 「血の一滴まで燃えて燃やせる楽しい闘いをしましょ!」 地面に炎を放ち煙幕をうむミリー。ヤヨイの視界がかく乱されたのは一瞬。その一瞬でヤヨイの間合いからさらに踏み込み炎の拳を、 「つかまえた!」 叩き込む前に胸倉をつかまれ、ヤヨイの頭突きがミリーに叩き込まれる。負けじとばかりにミリーも頭突きを返す。鼻がぶつかりそうになるほどの至近距離で、二人はにやりと笑う。 「――そんなわけでボトムチャンネルは上位階層の影響を受けやすいんです」 「ホントごめんドラ」 徹子はフェダスンに打撃を加えながら、今の状況をフェダスンに説明していた。フェイトを持たぬアザーバイドがこの世界に与える影響などを。徹子の打撃はフェダスンの硬い防御など関係なく伝わり、時折フェダスンの骨まで響いてその動きを封じていた。 「いえ、謝らなくても……。あとこの世界の人たちは私達みたいな例外を除いて争い事は好きじゃないのです。お相手しますから、満足したらおかえり下さい」 「うーん……。逆にそれを言うと『例外』を求めてこの世界を旅しそうドラ」 フェダスンは目の前の徹子を攻撃するわけではなく、仲間を回復していた。この世界の人には悪い気はするが、仲間の方が大事なのだ。 「ひゃん!」 ドーラが如何に回避性能に優れるとはいえ、五人のリベリスタの攻撃を避けきるのには無理があった。 「出し惜しみなしだ!」 風斗の剣が大上段に振るわれる。全身の力をこめて、繰り返された鍛錬と同じフォームで振り下ろす。基本に忠実な、一撃必殺の形。それを叩き込む。 「しかしドーガさん好き勝手ですねぇ。それでいて仲間と喧嘩をするでもない。うらやましいものです」 うさぎの破界器がドーガの肌を裂く。刻まれた傷がフェダスンの癒しを阻害し、傷の治りを遅くしている。じわじわと体を蝕む毒も、時間がかかれば無視は出来ない。 「丁度良い機会です。傍迷惑な龍退治ついでにアーク流干支の引き継ぎ式と参りましょうか」 大和はドーガの動きを封じることに専念していた。冬の空気を裂いて飛ぶ糸。高速で迫り、蛇のように絡まってドーガの動きを封じる。 「彼等にはこの世界は壊さない価値のある物があるって事を思い知っていただきましょ?」 杏の稲妻が戦場を駆ける。奏でる音を通り道にするように稲妻が疾駆した。タイマンを行っているミリーとヤヨイに手を出さないのは杏の性分――いや、ロックか。 「無粋なもてなししかできず、すまんな」 目元の傷をなぞり、伊吹がドーガの回避先を読んでいたかのような動きでし、弾丸を放つ。衝撃でゆれるドーガの体。これが息吹流のアザーバイドのもてなし方。説得で帰らぬ以上、力で排除するのみ。 ドーガも周りにいるものにブレスを吐いてダメージを蓄積していく。時折オーラを吸って体力と気力を奪うが、吸収した以上の攻撃が叩き込まれる。 「引き継ぐ側が倒れてどうしますか」 体力が低い大和が膝を折りそうになるが、運命を使って立ち上がる。 「これで終わりだ!」 裂帛と共に放たれた風斗の一撃が、ドーラを地に伏した。 ドーラの胸が呼吸で上下しているのがわかる。とどめを刺すのは簡単だが、風斗はそれをせずに他のアザーバイドに向かった。その耳に、 ズドン、という重い音が響く。 ユンロンが拳を収める構えをして、その足元に悠里が力尽きていた。 ● 「見事であったぞ」 倒れた悠里に賞賛の言葉を送るユンロン。その手は稲妻で焦げた腹部を押さえていた。 こちらの拳を突き出した瞬間を狙って、悠里は拳を突き出したのだ。十字に交差する腕は互いの速度が加味されて互いの肉体に叩き込まれた。 「さて次の相手は」 「待て」 次の目標を探すユンロン。それを押しとどめたのは伊吹だ。 「彼はまだ終わっていない。戦いを途中で放棄するのが龍の世界の嗜みか?」 「なに?」 「やっぱり、拳を放つ瞬間に隙があったようだね」 拳のあたった場所を押さえながら悠里が立ち上がる。運命を燃料にして気力を持ち直した。 「手ごたえはあったのだがな。あれで立てるというのは面白い」 ユンロンはその事実に驚くではなく、笑う。 「まだ負けてないよ」 「その言葉、拳で証明するがいい」 悠里もまた笑みを浮かべ、拳を思いっきり握った。 「コイツでトドメだ!」 ヤヨイの木刀がミリーに叩き込まれる。叩きつけられるように地面に倒れるミリー。 「いっ、たーい!」 飛びそうになった意識を運命を燃やして復活する。炎を燃やし、立ち上がる。 「選手交代です。……あ、でも連戦はキツいから勘弁して下さい、って言うなら無理はしなくて良いですよ? ヤヨイちゃん」 倒れたミリーを見てうさぎがヤヨイに声をかける。こういう言い方をすれば向こうも乗ってくるだろうと見越しての挑発だ。 「は! 無理かどうか試してみるかい?」 案の定、ヤヨイの矛先はうさぎに向く。かと思いきや、 「待った! ミリーはまだまだやるよ!」 それに静止をかけたのはミリーだった。せっかくのタイマンバトル。邪魔なんてされたくない。 「火力の問題でゴールドさんが倒れられると困るんですけどね」 言いながらうさぎはミリーの再戦をとめることはしなかった。 指一本動くなら。炎がかすかでも出るのなら。 ミリー・ゴールドにあきらめるという文字はない。 「カモン、ドラゴン!」 炎を龍の形に変えて、ヤヨイに叩きつける。 「意地の張り合いなら異世界最強だろうが負けないわよ!」 「いいねぇ。最後まで付き合うよ!」 「お疲れ様。信じた甲斐があったわ」 杏が徹子に声をかける。フェダスンの押さえがうまくいかなければ、ドーガ殲滅はもう少し時間がかかり、後衛にも被害が来ていただろう。リズミカルに呪文を唱え、稲妻をアザーバイド達にたたきつけながら、杏は笑みを浮かべた。 「戦闘狂か。剣林やバイデンたちなら気があったんだろうが」 風斗が最後の気力を振り絞って剣を振り上げる。生半可じゃないフェダスンの装甲を打ち砕くには、こちらも全力で挑まなければならない。戦闘の才能のない風斗が何度も何度も繰り返してきた剣の動作。それをフェダスンに叩き込む、 「その厄介な鱗、打ち砕きます!」 大和が『止水』を手にして精神を研ぎ澄ます。静かな水面のように雑念を消し、防御の要を見つける。見えてしまえば後は容易い。刃を振るい、その要を切り裂くように振るうだけ。前面に出された龍の鱗は音もなく崩れ落ちた。 「うわっ、ちょっと困ったドラ」 「『武』とは『矛』を『止』めること。龍の暴挙、止めさせてもらいます!」 徹子の一撃は押し徹す一撃。幼いころから祖父に教わった動きと、心。それを樫の木刀に載せてフェダスンに突き出した。小手から突きにつながる二連撃。盾と鱗の硬さを透過して、直接衝撃がフェダスンに通じる。 「ここまでドラ……」 目を回し、地面に伏すフェダスン。 「二度目はないか」 ユンロンは今度こそ動かなくなった悠里を見て、顔を伊吹の方に向ける。 「…………」 交差する視線。言葉は要らない。ユンロンも伊吹も同時に拳を構え、突き放った。ユンロンの攻撃が直線的な槍兵なら、伊吹の動きは歴戦の経験によって生まれた変幻自在な熟練兵。アークに来て得まだ間もない一兵卒を名乗るが、その動きはアーク内でも上位に入る動きだ。 突き出されるユンロンの拳を致命傷でない角度で受け流し、相手の虚を突くように拳を放ってユンロンの肩を穿つ。 「すまんな」 伊吹の言葉と同時に杏の稲妻がユンロンに落とされる。その衝撃で生まれた隙を逃さずに、伊吹がユンロンの懐にもぐりこむ。跳ね上がるようなアッパーがユンロンの顎に当たり、仰向けに倒した。 「俺はお前達のような者にはこのような遇し方しか知らんのだ」 拳を納めながら伊吹が息をついた。残るは―― 三度目のパチキ。ミリーの意識はそれで完全に絶たれた。 ヤヨイは髪を手櫛で梳いて、倒れ伏したタイマンの相手に笑みを浮かべる。いい根性してるじゃない、といいたげな笑みだ。 周りを見回せば自分を囲むリベリスタたち。その前にヤヨイは……木刀を手放した。 「負けだ」 「さすがにこの数には勝てない、ということですか?」 「ちげーよ。負けたのはこのミリーにだ」 気を失ったミリーに視線を移し、ヤヨイは肩をすくめた。 「こいつ、最後の最後まであたいにビビらなかった。おかげで体中ぼろぼろだ。 異世界にも分かるやつはいるんだねぇ。スカッときたよ」 そのまま座り込んで胡坐をかく。 その姿には戦意も殺意もまるで見られなかった。 ● 「まことにお騒がせしましたドラ」 「いいえ。強さを求める心は私も理解できますのでお気になさらずに」 フェダスンが頭を下げてリベリスタたちに詫びた。徹子が頭を下げるフェダスンに言葉をかける。 そんな竜人の苦悩を知ってかしらずか、ドーガはうさぎと大和の持ってきたから上げ弁当と和菓子を食していた。 「傍迷惑な稀人ではありましたが、ここまで来て手ぶらで帰るのも辛いでしょう」 とは大和の弁。食べている間は無害なのか、手づかみでどんどん口にしている。 「良い一打であった。我が拳の威力を知ってなお引かぬ覚悟、見事であった」 「純粋な勝負なら喜んでやるよ」 リベリスタとしては容認できない相手だが、長期滞在せず破壊をしないのならまた会いたい相手だ。悠里は拳で打たれた所を押さえながら、ユンロンと握手する。 「また闘りましょうね!」 「あっはっは。そん時は今日よりもキッツい一撃をかましてやるよ!」 どこか通じ合ったのか、ヤヨイとミリーは腕を交差させて再戦の約束をしていた。 「ねえ、貴方たちの世界にもこういう楽器ある? あるんだったら次来たときは持ってきてよ」 「いいわねん。楽しい宴会が出来そうだわん」 杏が楽器を手に異世界の龍たちにセッションしようと持ちかける。答えたのはドーガだった。打楽器のように膝を叩く。 「さて、そろそろお帰りいただこうか」 「もう二度と来るんじゃないぞ!」 伊吹と風斗に促されるようにDホールを潜るアザーバイドたち。偶然開いた異界の穴。その穴が神秘の力で閉じる。 「ふぅ、無事終わりました。アーク流干支の引き継ぎ式終了です」 辰を終わらせ、巳年になる。蛇神を祀る一族の大和は、巳年に引き継げて笑みを浮かべた。 「それじゃ、お元気で」 うさぎを始め、複数のリベリスタが手を振ってアザーバイドを見送った。世界の敵ではあるが、けして憎める相手ではなかった。 願わくば、次は平和な邂逅を―― 「やだ! ミリーは負けたままじゃ終われないわ!」 「次こそは僕が勝つよ!」 ……まぁ、そういう友情もあります。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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