●モノクロフライ 『うらのべ? う・ら・の・べ! いっちにっのさーん!!! いぇーいどんどんぱふぱふ。さて今夜もやってまいりましたうらのべラジオ! DJはいつもの、でもいつもよりちょっぴりハイテンションなわたし、『びっち☆きゃっと』の死葉ちゃんでおとどけしま~す』 『さむい季節だねー。みんなは風邪とかひいてないかな? 血塗れのままだと風邪ひいちゃうし匂うから、ちゃーんと綺麗にしてなきゃ駄目だよー』 『あ、そーいえば一二三とーさまが楽器を持った外国人は見かけたら吊るせって言ってたよ。楽団とか暴れてるし、最近物騒で怖いねー』 『楽団の見分け方は殺して死ななかったら楽団メンバーみたいだよ。確認出来たらちゃんと死ぬまで殺そうね』 『さてじゃあびっくにゅーすのお時間です。わたしの弟の重クン主催の『裏野部ダーツ大会』の開催が決定しましたー。あはー、重クン頑張ってるね!』 『参加者は7つ武器のみなさんで、なんでも飛行機をハイジャックして目標地点に落とす競技みたいだよ。あはー、はでだねー』 『ラジオを聞いてるみんなは、是非是非だれが一番高得点を出すかを予想してわたしに送ってね。正解者から抽選でだれかにすっごいぷれぜんとあげちゃうよー。じゃ、明日もまたこの時間にね。DJは死葉ちゃんでしたー。またねー』 ザ、ザ、ザー…………。 ピッ。 『うらのべ? う・ら・の・べ! いっちにっのさーん!!!』 「黒たーん、いつまで聴いてんの」 録音された音声を繰り返す携帯音楽機のイヤホンが引っ張られ、消えた音と入れ違って隣から飛んできた声に、黒スーツの男:黒鏡面はは黙したまま隣に座る兄の白鏡面へと振り返った。酷くゆっくりとした動作。白鏡面の手からイヤホンを奪い返す事なく、彼は肘掛けを握り締める。 そのつるりとした機械の顔面――尤も、周りに居る『ただの人間』からすれば怖ろしく生気のない男の顔に見えるだろうが――に映るのは、夜空だった。地上から見える様なそれではない。雲の上。端的に言えば飛行機の窓から見える空。 「……、」 「お? どったの黒たん? 酔った?」 「……兄、さん」 「なぁに」 「……これ……落ち、ない……よね……?」 「ブハッ、ブヮーーーハハハハハハハハハ! ナニ言ってんのお前、『落とす』んでしょーが俺達が」 飛行機に乗った事がない者にはどうも、『飛行機=墜落』というイメージがあるらしい。「あ、そうか」と頷いた弟に兄は爆笑しながらその肩を叩く。 「つーかお前はよォ! 乗る時もおま……あれあれ! 金属探知機! ったく幻視とか何なりで誤魔化しゃーいいものを颯爽と通るんだから! んもう! お馬鹿さん! 揚羽ちゃんにガッツリ見られてたぞひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」 「……う、るさい、なぁ……」 一つ溜息。返ってくるのは馬鹿笑い。そんな二人に、「そろそろ時間よ」と。女の囁き。 「……うん。……それ、じゃ、」 頷いた黒鏡面が掲げるのは、義手となった右手。『恐るべき殺人武器』が仕込まれたそれ。 「――伏せて、ね」 振り払う。一閃。血を求める飢えた刃が、余りにも多くの首を刎ねる。 赤。赤。赤。 ごろごろごろごろごろり。 『うらのべ? う・ら・の・べ! いっちにっのさーん!!!』 ざーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。 ●ダーツの旅 「緊急事態です。えぇ、これを『緊急事態』と呼ばずして何を緊急事態と呼びましょう」 事務椅子をくるんと回し、一同を見渡した『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)の顔に浮かぶは――果たして、苦渋。 「裏野部のフィクサード達による事件の阻止、それが今回皆々様に課せられたオーダーですぞ」 裏野部――日本において活動するフィクサード集団の内、最も大きな七つの組織『主流七派』の過激派。暴力を擬人化した様な連中の組織である。 そんな彼等が今回引き起こした『事件』とは。 「4機の大型旅客機をハイジャックし、それを『ダーツ』に見立てて墜落させる。場所は――あぁ、何処だろうと悲劇中の悲劇ですな。 旅客機は既に空の上、フィクサード達はその中に。えぇ、当然、地上から止めたいならドデッカイ高射砲やら衛星からの特殊レーザー光線とかが必要でしょうな。しかし生憎、我々にその様なシロモノは御座いません」 ではどうするか? メルクリィは 「高速の輸送機が準備済みですぞ。ハイジャックには間に合いませんが、墜落させられる前には間に合います。輸送機からワイヤーを打ち込みますので、それを伝って旅客機に侵入して下さい。 皆々様には4機のうち1つに向かって頂きます。他は、逆貫様、ギロチン様、響希様担当の皆々様を信じましょう。 自分で言っておきながら言うのもなんですが……とんでもない作戦だと思いますよ。ですが、そうでもしないと――止められぬのです」 リベリスタを、深く深く信じているからこその言葉。真っ直ぐに視線。不安と心配を押し殺し、締め括る。 「フィクサードは曲者揃いの実力者。欠片も御油断なく。決して侮ってはなりませんぞ。 ……皆々様なら、きっと大丈夫! 私はいつもリベリスタの皆々様を応援しとりますぞ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月08日(火)23:28 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●xxxの國のア○ス Down, down, down. Would the fall never come to end? 「I wonder how many miles I've fallen by this time?」 落ちて落ちても尚落ちる。 ソコは暗いぞ恐ろしい! ●ボン・ヴォヤージュ 落ちたら死ぬ。エリューションだろうが死ぬ。なんて、子供にでも分かる位の高度だった。 嗚呼、これが楽しい旅行ならどれほど素敵な事だろう。雲海の上は満天の星空、奇麗な月が見下ろして。 「高度のあるところで無茶させるよー。寒いよー」 くちゅん、と『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)のくしゃみが響く。彼女を含む十人リベリスタは互いに協力し合ってそつなく旅客機への侵入に成功し、後方の貨物室へと辿り着いた。 垂れる鼻水を啜り――侵入は本当に大変だった、容赦なく吹き付けてきた風の冷たいこと冷たいこと――アリステアは体内の魔力循環を強力に活性化させる。 「ダーツだか何だか知らないっすけど相変わらず面倒臭い連中っすね」 「えぇ全く、裏野部は相変わらずイカれてますね」 後頭部に手を組み溜息を吐く様に言い放った『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)に、脳内電気を強力に高める『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)が表情を変えずに同意の頷きを見せる。 「気に食わないな、悪党にゃ悪党なりの仁義ってのがあるもんだぜ?」 マスクの下で苛立ちを吐き、『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)は大双銃GANGSTERを握り締めた。自分も世間で胸を張れるような立ち場ではないが、あいつらは、あいつらは駄目だ。許しちゃおけない。愛銃を握る手に力が籠る。 「……俺の学んだ仁義ってやつが潰せって言ってやがんだ」 冷たい輝きを放つ銃身を額に当て、奥歯を噛み締めた。 「僕も昔はフィクサードをやってましたが、七派ともなると矢張りスケールが桁違いですね」 同じく、と『親不知』秋月・仁身(BNE004092)が応える。空のド真ん中にある旅客機に侵入させる任務をオーダーしたアークも滅茶苦茶だが、裏野部は相変わらずそれ以上に滅茶苦茶だ。 「まぁ何にしてもアレっすよ、油断はしねー。最速でぶっ潰す」 一つの目には手にする刃が如く鋭い戦意、身体のギアを頂点に高める。その傍らで仁身は手に矢を一本、それを自らの腹に突き立てる。気が触れたのでも被虐趣味でもない、驚く仲間達に「大丈夫だ」と言う仁身の狙いは『痛みを火力に変える断罪の弾丸』の為である。 「人命をゲームに使うとは、相変わらず腐った根性をしているな」 「あぁ。……いかれてる」 紅蒼の双眸を憂いに伏させた『花縡の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の言葉に、猟犬並の嗅覚で周囲を警戒する『玄兎』不動峰 杏樹(BNE000062)は「よくも、こんないかれた遊びを思いつけるな」と言葉を続けた。 きっと、愛しき主は、あんな奴らにでも平等に愛を向けるんだろう。全く以て平等に。その手から零れた血でさえも。 「神様。どれほど手を伸ばせば、その血を掬えますか?」 敬虔にして不敬の徒は仰ぎ問う。嗚呼、こんなにも『天上』に近い所なのに、答えが分かる気配もなくて。 守りたい、護りたい。それは遥紀も同様だった。壊したくない。壊されたくない。ただ笑って居られる筈の人々の明日を。 「血を被るのは俺達だけで充分だ……!」 厭わしくも愛おしき世界の為。湧き出る言葉と共に体内魔力循環を活性化させる。 そんな二人と、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の気持ちは同じだ。成功させる訳にはいかない、こんな非人道的な行為を。このちっぽけな手に何が出来るか分からない。それでも、それでもだ。『必ず止めてみせる』と握り締める拳。 「ついこの前死にそうな目にあったってのにゆっくりもさせてくれねえ……とんだ働き者だよな、アークも裏野部もよぉ」 はぁ、と吐く息の後に『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)は毒突く。だがまぁ、なんだ、ぶん殴ってやりたい相手がいるみたいだし――ゴキリと鳴らす拳。準備はどうかと仲間達へ振り返る。続々と頷くリベリスタ達。アリステアもまた彼等に続き、まだまだあどけなさの残る相貌をキッと引き締めた。 「私の力は、誰かを守る力。――さあ、行こう」 一歩、前へ。 ●出発進行 裏野部一味は先頭側に居るらしい。後部座席では、正に『異変』に感じ始めている真っ只中であった。 「おい、アンタら! 死にたくなけりゃ頭下げてな!」 「身を低くして、後ろに下がるっすよ!」 「詳しい説明は後でします! 今は私達の言う事に従って下さい!」 張り上げた瀬恋とフラウの声、唐突な出来事に驚く人々に杏樹が言葉を重ねる。 だとしても、ざわめいている。そんな馬鹿な、と。寧ろ君達の方がハイジャックみたいだ、と。嗚呼、何も知らないからこそ。 「座席に伏せて、絶対顔あげないで。皆無事にお家に帰れるようにがんばるから!」 アリステアも声を出すも、誰もが半信半疑であった。人は誰しも災害や犯罪の事を知りながらも『まさか自分が当事者になる訳がない』と思う生物だ。それに自分達に「逃げろ」というのは年若い少年少女ばかりで、乗組員でもない。 だが。遥か前方から聞こえてきた断末魔には顔色を変える。そう言えば先程「様子を見てくる」と行ったきりCAも戻ってこない。 「お願い、信じて!!」 「……大丈夫、俺達は貴方達を守りに来ました。落ち着いて、後ろへ下がって頭を低くして物影へ行ってね」 遥紀と共にそこへ重ねられる言葉。ざわつく機内。一人、一人が席を立つ。それでもまだ周囲の様子を窺いながらで―― 「いいから全員死にたくなきゃ黙って伏せて後ろに下がれ! 走れ!」 響く隆明の怒鳴り声がまごつく人々の尻を蹴り飛ばす。 更に断末魔が響いて、そこからはもう、我先と。 阿鼻叫喚。 人混みの濁流を簡易飛行で躱しつつ、彼方を見据える杏樹は顔を顰めた。濃密な、濃密な死の臭い。血の臭い。 前方――そこには、通路の真ん中を悠然と歩く『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の姿があった。湧き上がる烈火の様な苛立ちを隠そうともせず、舌打ち一つ。 「コイツ等懲りずにいけしゃあしゃあ……またお得意のゲームかコラ」 ゴキリゴキリ、拳を鳴らして。 「あぁ、そうだわ、確かにあん時ゃ総合的にオレ等の負けだわ。だがよォ――」 辿り着いたそこ。腹癒せのままに血に染まった手近なシートを蹴り飛ばしぶっ壊し怒鳴り声を上げた。 「知らんヤツ含めて全員! アークにぶっ飛ばされた連中じゃねぇか!! えぇ!? 良くもオメオメ出てこれたモンだなァ恥ずかしくねぇのか!?」 武器を手にして今まさに人々へ襲い掛からんとしていた裏野部一味が火車へと視線を集める。イチノセ、ヨツバは「あの宮部乃宮か」と目を見張り、エドナは「ボク、威勢がいいのねぇ」と微笑み、白鏡面はへらへらしており、そして――火車が指差した先。黒いメタルフレーム。 「居たな。特にテメェ。覚えてんぞ黒坊」 「……」 「あの時あの場でぶん殴ってやったろうが……何ヌケヌケ出しゃばってんだ、ブチ殺すぞ……?」 「……出来、るの……?」 「はいはい、待ってろ? 今丁寧にぶん殴ってやからよぉ!!」 拳に業炎、地を蹴り走り出す。周囲に居るのはもう死体ばかりだ、神秘秘匿の糞もあるか。 だが黙ってやられる裏野部一味でもない。イチノセ、ヨツバが鈍器を構えて躍り出る。 「させるかよ――」 「おっせぇんすよ」 一番乗り、敵と接触したのは弾丸の様な速度で飛び出たフラウだった。ヨツバの目前、間合いに入った瞬間にはもう、高速で生み出された残像による攻撃が『終了していた』。 「へいノロマ、あーたの相手はうちっすよ。うちは此処だ、『此処』に居る。ヤルならよーく狙ってみろ!」 親指で示したのは左胸。唇に大胆不敵。見せ付けるは最速の証明。上等だ、とヨツバが雷撃の武舞と共にネイルハンマーを振り翳す。 一方で、イチノセの前に立ちはだかったのは論理決闘専用チェーンソーをド派手に吹かせる弐升だった――振り抜いたのは荒々しい一撃とは裏腹に鋭い解析に基づく状況最善手。イチノセの肩口の肉を抉り取る。 「さて、ゲームの始まり。愉しく踊りましょ――群体筆頭アノニマス、いざ推して参るっと」 「ヒャハハッ! バット一筋25年、イチノセ参るゥ!」 振り抜かれた魔改造チェーンソーとフルスイングの金属バットが搗ち合った。凄まじい量の火花が散り、暴力と暴力が拮抗し合う。最中、男の肩越しに見えるのは――何処ぞで見た顔がちらほら。なんてしている間にバットがチェーンソーを無理矢理押しのけて振り抜かれて、弐升の腹を捉える。ミシリと云う音。嗚呼、痛いなー、なんて思いながらも。 「ま、全部殴り飛ばすのでどうでもよろしい」 血唾をペッと吐き、駆動音を激しく鳴らす。これが論理決闘だ。 銃火が奔った。 白鏡面が5体のEエレメント俺の奴隷を生み出すと共に炎の弾丸を周囲に降らせ、エドナの散弾銃から血液の玉が強力な光弾となってリベリスタ達に襲い掛かる。 それと交差する様にリベリスタ側から放たれたのもまた弾丸、宙に浮かび上がった杏樹の魔銃バーニー、卓越したバランス力で座席に立つ隆明のGANGSTER、三銃口が乾いた呻り声を上げて全く同時に神速の連射を撃ち放った。 「慈悲も許容も与えはしない」 「語るべきことはねぇ、さっさと死ね」 弾丸、弾丸が襲い掛かる。或いはぶつかり合って砕け散り、或いは座席をブチ抜いて、或いはリベリスタを、フィクサードの身体を穿って。赤い色を散らせる。飛び散ったそれは、既に赤い色を吸い込んでドス黒くなった座席や足場に染み込んだ。バサリと二体の藁人形が倒れ、幾つかの散弾が血に還る。 そんな足元を、『眼下』に。弾丸に裂けた頬から流れる血が『額へと』流れて行くのを拭いもせずに、瀬恋は駆けた。面接着。天井を足場に、重力に逆様に垂れる黒髪を靡かせて――瀬恋の予想通り、白黒鏡面兄弟はすぐ傍に居た。立ち位置を詳しく言うならば、イチノセヨツバ俺の奴隷が前衛、黒鏡面が中衛、その他が後衛、と言ったところか。 「久しぶりだね。新年早々テメェらを殴れるなんてちったぁツイてるな」 「オッス坂本! オラ悟k あっいや白鏡面! 俺ちゃんも新年早々でらべっぴんにお会いできてマジ嬉ちぃぴょ~んあけおめことよろですよーーっ!」 「……」 物凄い早口で捲し立てた白鏡面、対照的に何も喋らず身構える黒鏡面。ふざけた連中だ――黒鏡面に躍り掛からんとしたその瞬間、黒い男がぼそりと喋る。 「……兄さん、エドナさん、僕の、わ、分かんない、とこに、いて……ね」 合点了解、なんて言葉を発する代わりに名前を呼ばれた二人が笑んだ瞬間。黒鏡面が右腕を振るう――『孤独の破軍』。数多の血を吸い吸い吸わせ、貪欲に暴食に血を求める様になった魔斧。 それは有り得ない軌道を描いて『黒鏡面が認識できていない者全て』を切り裂いた。射程内全てを敵味方問わず薙ぎ払うそれは攻撃対象が多い程火力を増す。そして戦場には散弾に藁人形にEエレメントにイチノセにヨツバにリベリスタ達。 決して軽視出来るレベルの威力ではなかった。 だが瀬恋にとっては初めての手品ではない。両手を交差し防御して直撃は回避し、獅子の如く咆哮を上げて躍り掛かる。『カタギ』は、もう、死人だ。ならばもう躊躇の必要は欠片もなく。空中。振り被る殺意の奔流。 (悪ぃね……でもな、落とし前だけはキッチリつけさせる!) 「ぶち壊してやらあああああああッ!!」 殴り付ける。言葉通りの暴力。周囲のEエレメントをも巻き込んで。圧倒的な力のプレッシャーに黒鏡面は半歩下がるが――そこで踏み止まった。まだまだ、まだ始まったばかり。躍り掛かる二つの黒。 その片方、裏野部の方、嘗て戦った相手を鋭く見据え。座席の上に立ったアンジェリカが人差し指を突き付ける。 「前に都市を沈めようとした奴だね……。お前の思い通りになんかさせないよ……!」 怒りの眼差し。付きつけた手を広げれば、そこに抱かれるのは紅い月。疑似的に再現された崩界が、満ちる。迸る。 「だらァアアボケ糞共がァアア!! 邪魔すんなら潰すぞボケぇ!」 襲い来る俺の奴隷に遠慮なく拳をめり込ませる火車は、アンジェリカのバッドムーンフォークロアによって数が減った俺の奴隷の残りを蹴り飛ばすや只管に前進する。燃え上がる拳の炎が、怒りに滾る瞳を照らした。 「その斧片刃どうした? 部屋引き篭ってメソメソ研いでろ根暗ぁ……」 「……」 「喋れねぇんか? スグ叫ばせてやっからな!」 「……」 黒鏡面はやはり何も言わない、しかし肉薄する瀬恋を拳で殴り飛ばすとその手で中指を突き立てた。やれるものなら、と。裏野部式の『リップサービス』だ。 「上等ォ……その黒面殴らせろやぁ!!」 火力急上昇、拳をゴギンと鳴らして吶喊する。 巻き上がる暴力、其処彼処に於いて。 それを真っ向から否定し『無かった事』にするのは、アリステアと遥紀が紡ぐ詠唱が顕す白き魔法である。 「「主の慈愛よ、来たれ」」 少女と青年の声が紡ぐ聖譚曲。それは至上の福音と成りて戦場を吹き抜ける。目に見える奇跡。傷が塞がり、痛みが消える。 だが二人はすぐに頭を引っ込め、そして銃声鳴り響く最中を隠れ這って移動する必要があった。血だらけのシートに両手を突くこの恰好を、戦いを好む者は『みっともない』と罵るだろうか、だが生き残った者こそが勝者で正義。そして回復手とは仲間と任務遂行の為には何が何でも生き伸びなければならぬ。 「ひっ……」 アリステアが隠れていた座席が魔斧によって派手に切り裂かれた。飛び交う弾丸が肌を裂いた。激戦の音は未だ止む気配はなく、銃声、怒声、悲鳴、殴打音。 「大丈夫?」 「平気。私だって、頑張るんだから……!」 状況を見るべく顔を出せば執拗に回復手を狙う的後衛の射手達に目敏く見つけられてしまう。傷付きながら、血に汚れながら、神聖術は詠唱を繋ぐ。 それはリベリスタを強力に鼓舞し、癒し、支えるが――裏野部のイチノセ、ヨツバにその加護はない。孤独の破軍に巻き込まれ血だらけになりながらも馬鹿笑いをして武器を振り回してくる。 2人が黒鏡面達から『仲間』と思われているのかも、何故このような作戦になろうとも『ゲーム』に参加したのかも、リベリスタ達は知る事は出来ない。だが、これだけは分かる。彼等は『裏野部』、そしてそのルールとは『死んだ奴が悪い』。 「「ハッハー! 踊れ踊れー!」」 白鏡面と弐升の台詞が被ったのは何の奇跡か。そんな声を聞きながら――イチノセとヨツバと同じ位に血だらけなのは仁身だ。敢えてギリギリまで回復されないよう仲間に伝えている為。ただ、『ギルティドライブ』という技の為に。放たれた断罪の弾丸はエドナへと唸りを上げて飛んで行くが、しかしそれは寄り集まって盾と成った散弾が防ぎ相殺してしまった。 視線が合う。 「貴女と僕、どちらの血が強いか勝負して頂けませんか、綺麗なお姉さん?」 「あらあら、ボク、御上手ねぇ」 「ストライクゾーンど真ん中だから戦闘スタイルも似てるし是は運命だと思いませんか? 僕は思う!」 「運命? やだぁ、おねえさん困っちゃうわ」 笑って、射抜く視線。彼の血と魔力を奪い取る。虚脱感。されど震える膝に力を込めて彼は立った。 ゴキリ。 稲妻を纏うヨツバのネイルハンマーがフラウの胸に振り下ろされた。ミシリ。嫌に軋る音が体内に響く。込み上げる胃液を堪え切り、噛み締めた唇でフラウは微笑を形作った。 瞬間。 「Amen」 銃声。鳴かない兎が鳴いた声。或いは神に挑む獣。 杏樹の決然とした声と共に撃ち出されたBullet-666-が的確にヨツバの片手の甲を貫いた。顰められた顔、呻き声、飛び散る血――が、落ち着る前に。 ヒュン。閃いた刃。たった一振るいに見えて、何十もの連撃から成る速撃を。 見開かれたヨツバの目に映ったのは、刃を振り終えたフラウ。そして、ぶばっと己の喉笛から吹き上がる、鮮血。 「ノロマが、ソレでホントにヤル心算あるんすか」 吹き上がる血のシャワーを浴びながら、フラウは一つの翠眼でヨツバという名の男の人生が終わる瞬間を見届けた。 次だ。地を蹴り鋭いスピードでフラウが向かった先、急ブレーキをかけたのは瀬恋の前。 「ヨォ、坂本のネーさん。まだくたばっちゃ居ないっすよね?」 「ったりめぇだろ? アタシは『坂本瀬恋』だ」 身構える。薙ぎ払われる斧に立ち向かうのは、振り被られた拳と刃。 そんな激戦の中、目配せし合ったのはアンジェリカと隆明と仁身だった。皆孤独の破軍や敵射手の掃射に傷だらけだが、まだ戦える余力は残っている。 「っしゃ、往くぞ!」 隆明が牽制射撃を繰り出しながら走り出した。アンジェリカ、仁身もそれに続く。 「道は作ってやる。全力でぶちぬいて行ってくださいな」 「頼んだよ、皆」 進む三人を支援すべく、二升は轟とチェーンソーを振り回して刃の戦陣を生み出し、遥紀は癒しの息吹を召喚した。すれ違い様――隆明はサムズアップを、アンジェリカは目礼を、仁身はただ前を見て。 進む、進む。三人の目標は、操縦室。 「おっとっとーそう簡単にはいかせらんないのよねん!」 黒鏡面にイチノセは三人を無視したが、白鏡面とエドナはそうはいかない。銃口が火を吹く。鼓膜を劈く。肉を穿つ。 それでも、止まってなるものか。 「ぐっ……運命よ、そこをどけ。俺が通る……!」 ここで諦めたら母親に会わせる顔がない。傷を引きずり、先を消費し、仁身は駆けた。 斯くして一番に操縦室へ辿り着いたのはアンジェリカ、物質透過によって密かに操縦室の様子を窺う。そこにいたのは三人、一人が操縦し二人が周囲を警戒し―― 「! お前――」 「っ、」 気付かれたか。一人がナイフを構えて先手攻撃を撃ってくる。振り払われる切っ先が、操縦室に侵入したばかりのアンジェリカを切り裂いた。それをキッと睨み返しつ少女は牙を剥き男の脚に喰らい付く。血を啜る。 苦痛の声を上げた彼がアンジェリカを振り払って後退すると、直後に隆明がドアを蹴り開けて突撃し仁身がその肩越しの間隙からギルティドライブを撃ち放った。 「邪魔するぜ!」 黒の戦士、銀の詐欺師。隆明が振り上げたゲテモノ拳銃が仁身の猛撃に怯んだ覇界闘士を殴り付ける。 驚く裏野部フィクサード達の目には、全身の傷をモノとせずに両足で決然と立つ3人のリベリスタ。ここまで気やがったか、と操縦する者が舌打ちし、残りの二人が身構える。 それに応える様、アンジェリカはブラックコードを展開させつ言い放った。 「地上の罪無き人の為、最後まで絶対諦めないよ!」 「あぁ、この状況をどうにかできんのは俺達だけだ、諦められねぇよなぁ! 止めて見せるぜ、拳に懸けて、銃に懸けて、意地でもなあああああ!」 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。隆明が強く地を蹴った。 ●ブラッディ旅行 「ゲームはまだ終わっちゃいねぇ。まだコントローラーは投げねぇぞ」 二升は血を吐き捨てる。激化する戦い、じりじりと互いを削り合い喰いあってゆく。 孤独の破軍。振るわれた暴力に遥紀が鮮血を噴き出しながら倒れ伏し、二升と対峙するイチノセもまた背中から赤い血潮を奔らせた。 ぐら、と血を失い過ぎて蹌踉めいたその身体に。二升は容赦なくチェーンソーを突き立てる。 「ぎッ ぎゃッ あ゛ああああアアアアアッ!!」 ばるばるばるばる。最大の特徴は三枚刃。背中側にまで突き抜けたチェーンソーが回り回る度に引き裂かれた肉が飛び散り血と絶叫が噴き出してスプラッタ模様を作りだす。 赤い、赤い、辺り一面。そして死体がまた増える。 その上で交わされるのは、相も変わらず生々しいまでの暴力だ。 「あん時のヤツぁどんなヤツでもぉ……! 残さねぇ!」 エドナの光弾に貫かれた肩口から盛大に血が滴って、火車が構える鬼暴の『爆』の字を赤く汚した。しかしそれ如きの攻撃で彼を止める事は能わず。活火山の様に燃え盛る火は、焼き尽くす対象を求めてただひたすらに暴力的であった。 ――あの場所を荒らすだぁ……? 噛み締める奥歯。剥きだした歯列。脳裏を過ぎるのは、赤い、赤い―― だから、男は踏み出す。目の前の敵を只管に殴り倒す。 「さっさと這いつくばってろぉおおああッ!!」 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。極めて単純明快で、それ故に手に負えない。 叩き付けられる拳に黒鏡面が半歩下がり、孤独の破軍を振り上げた――瞬間、身を低くした二升が彼に突撃する! 「そういや、それ一回半壊したらしいですね……論理決闘の所以、見せてやる」 パーフェクトプラン。両手に全力を込めて、叩き込む相手は片刃が欠けた斧。ぶつかり合った。だが、それは壊れない。狂った鍛冶師が造り上げた狂った武器だ、頑丈さは折り紙つき――寧ろあの時にこの刃を欠けさせる事が出来たのは、あの時のリベリスタが命と誇りを賭けた末に掴み取った奇跡なのだろう。 自分達の周囲に集まって来たリベリスタに、黒鏡面はポツリと兄を呼ぶ。返ってきたのは銃声と笑い声、白鏡面が前に出た。 仲良く処刑してやるよ。 構える斧、構える銃。凶器が熾烈に暴れ回る。執拗に、残酷に、何度でも。 「――!」 鮮血が迸る――その直後、放たれた弾丸が黒白鏡面の額付近を掠め裂いた。 「その目は壊したつもりだったけど、治ったのか。メタルフレームは便利だな」 立ち上る硝煙の奥から敵を見澄ますのは杏樹、彼女の言葉に黒鏡面がゆるりと反応を見せた。とん、とん。あの時壊された目を指先で叩き。 「……義眼」 「『次は俺がテメーの目ン玉えぐっちゃる』だってよぉ杏樹た~~ん! てめーは俺様の可愛い黒たんのオメメをぐっしゃーした奴なのでころすです!」 「喧しい。神様もお前等も大嫌いだ。その顔面ぶっ飛ばしてやる」 再度、狙う。 「負けないよ、負けないで!」 前に前に出る仲間達全てを救う為、アリステアの居る位置はほぼ中衛とも言えた。怖いが、仲間達の為ならば。奇跡を紡ぎ歌う。時折白鏡面に魔力を奪われるも、その膨大な魔力の泉は未だ枯れ果てていない。 見守る、視線の先。 「おいおい、アタシ一人も落とせねえのか面白兄弟? バトルマニアの割りには随分へなちょこだな?」 血唾を吐きかけ、瀬恋は兄弟へ中指を立てた。黒鏡面は変わらず無言、白鏡面は歓声を上げる。だが感じ取れたのは『ならもう一度擂り潰してやろう』と、殺意。 「何度見せりゃ気ぃ済むんだド無能がぁ! オォら黒坊テメェの得意技だぁ! 坂本ォ!」 「あいよ宮部乃宮ニーサン! ちっと痛ぇぞ?」 「知るかぁ!!」 踏み込む脚の、強い足音が重なった。 暴れ回る、ぶつかり合うのは黒白鏡面の執拗な処刑兄弟と瀬恋の暴れ大蛇。特に後者は傍に居た火車を巻き込む事も厭わずに全力で。 簡単に言えば挟み撃ち。火車の胴から、背から、盛大に吹き上がる血。 少々意識がグラッと来たが、運命を燃料にその焔は燃え上がる。 「見せてやる……オレの決意を……!」 憤怒の仁王が如く立つその姿。倒れる事はない。伸ばした手で白鏡面を引っ掴み。 「おぅクソカス」 「なんだいチンカス」 「近くで見れば益々邪魔で下品な白面だな」 「やかましーわチューしてハグしてくわしゃんぺろぺろすーはーもふもふくんかくんかすんぞこら」 「ちょっと何言ってんのかわかんねーよ死んどけ。つかテメェのガンつけ全然じゃねぇか?」 「マジでか」 「いいかガンつけってのぁなぁ……こういうもんだマヌケぇ!」 ブチ殺さん勢いで、メンチ切り。刹那。抉る様なド級の頭突きがその顔面を吹っ飛ばす。 「ぶっはマジ痛っ! 痛い! デコ割れたわろたくわしゃんゆるさない」 「文句あんなら黙らせて見ろ壊れラジヲ」 「きー! いったわねーぷんぷん怒髪天~☆」 態らしい言動。見ていて益々不快感。あぁ、殴ろう。そんで殺そう。 やれ黒たん、そんな白鏡面の笑い声に孤独の破軍が唸りを上げる。それに切り裂かれ、痛みを奥歯を噛んで噛み殺し、躍り出た杏樹が牙を剥いた。その牙を、黒鏡面の腕に突き立てる。 蹴り飛ばされて振り払われたが、彼女が倒れる事はない。意地でも倒れてやるものか。銀の如く堅い意志、リロードされた魔銃を向ける。 「私がやるべきはその顔面をぶっ壊すことだけだ」 ここは無法領域。無法こそが絶対唯一の法。制圧せよ。 流れた血をこの血と彼等の血で贖う為に。 エドナの放つ光弾を、白鏡面の放つインドラの矢を切り裂くように、銃声。銃声。 「我が身が最速である事を今此処に証明する――!」 弾丸はもう一つ。文字通り弾丸の様な――否、それよりも速い――スピードでフラウが繰り出したのは、速さを火力に返る技巧。撃ち倒す。前進する。 その時、機体が一瞬だけグラリと揺れた様な気がして。直後リベリスタの通信機に飛び込んで来たのは隆明が大きく張り上げる声だった。 ●グッドフライト 「――おい! おい、聞こえっか!? 操縦室は確保した! 今から『何とかする』ッ」 ガスマスクの奥で苦しげに咳き込みながらも隆明は仲間への通信を終了すると共にその扉を固く閉ざした。 視線を戻せば、操縦室――何とか裏野部フィクサード3人を倒す事ができた彼等であったが、消耗状態の支援なしで全く消耗していない相手との戦闘。強敵ではないとはいえ、決して『楽』ではない仕事だった。 しかし操縦室を制圧出来た事は大きい。 「で、だ。どうすりゃいい!?」 「これを……」 息を整える隆明に、血だらけで壁に座り凭れているアンジェリカが幻想纏いよりノートパソコンを取り出した。起動するその中に入っていたのはこの旅客機の資料、構造、フライトシミュレータのゲームソフト。どれがどのスイッチかはこれで解る筈だ、と。 「僕も、協力しよう」 壊れた眼鏡を拾い上げつつ仁身が言う。彼は予め本を読み計器類の見方、操作方法を確認していたのだ。 良し、と隆明は頷き、操縦席に着席する。深呼吸一つ。この手に仲間と莫大な数の人間の命が懸かっていると思えば、意図せずとも心拍数が上昇し冷や汗が滲み出てきた。 大丈夫だ。 大丈夫だ。 仲間を信じ、手を伸ばす―― 「……」 先ず反応を見せたのは黒鏡面だった。 「……兄さん」 「お? お~おぉおぉ」 主語も述語もない会話でよく意思疎通できるものだ。それも双子故か――飛び下がった白黒鏡面。 「おいコラテメェ等! なぁに勝手に下がってんだ!」 「ビビってんのかい? ハッ、情けねぇな!」 殺意を隠す事なく火車と瀬恋が踏み出し、フラウが駆けて杏樹が狙う。逃げるつもりか、逃がすものかと。 激。叩き込まれた攻撃。だが、それは―― 「…… えっ?」 白黒鏡面が左右からエドナの腕を掴み。躊躇なく、『盾』にした。 「!!」 拳に、刃に、弾丸に。頭を胸を腹を砕かれ切り裂かれて破壊されて。血飛沫を散らしてエドナが頽れる。何故だ、と仲間を振り返る事すら能わずに。 「死んじゃったか~良いオンナだったんだがにゃ~まぁ『殺されて死ぬ方が悪い』よねっ! ねっ! 尊い犠牲だ! 礎だ!」 げらげらげらげら。笑った白鏡面と、その弟は更に後方。機体の壁をブチ壊し、その穴から脱出する。 その、最中。相も変わらず喋り続けな兄の一方で、黒鏡面は指差していた――リベリスタ達を。それは『次は殺す』とも受け取れたし、『またゲームしよう』とも取れたし、『覚えていろ』とも取る事が出来た。 「逃げ脚だけはイッチョマエっすね」 期待に空けた穴から脱出したフィクサードは自殺したのではない、逃亡。フラウの皮肉が響き、火車の溜息が盛大に吐き出され、瀬恋の舌打ち、ややあってアリステアがそろりと顔を出した。 進路は既に手近な場所へ不時着の予定。ダーツはどこにも刺さらない。 作戦の成功と、仲間の命の無事を確認したアリステアはホッと胸を撫で下ろした。それから、言う。 「皆、お疲れ様……!」 笑顔を向けるも、被害や一般人の使者が出たのは事実。労う言葉を紡ぎながらも、少女は心の中で呟いた。 助けられなくて、ごめんなさい。と―― 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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