●緊急事態です。 「港湾地区の広場へすぐに向かって。赤ちゃんを止めて」 万華鏡に入っていたはずの『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が部屋に駆け込んでくるなり、開口一番にそう切り出した。 「さっき視えたの。多分、今から1時間以内に起こる事件が」 『王の座』、というアーティファクトがある。 その能力は、巨大且つ強力な動甲冑の精製と、その核である操者のための玉座となること。 現代的な表現に言い換えるならば――建物を巨大ロボットに変えちゃって、そのパイロットシートになっちゃうんだぜ――となる。 神話で語られる巨人の逸話の中にはこの『王の座』の一つが、あるいは関係していた物もあったのかもしれない。 が、今はそんなことより…… 「港湾地区の広場で展示されてる全長15mくらいのロボット、しってるよね? 偶然に王の座を発動させてしまったタカシ君という赤ちゃんが、乗り込んでしまったみたいなの」 三高平市のとあるイベント会社が今から売り出そうと考えている、ご当地マイナーヒーロー、正義の騎士ロボット『アークナイト』。 イマイチ人気も芳しくないため、イベント会社はプロモーションの一環として現在、発泡スチロールを主に使った実物大アークナイトを広場に設置させてもらっているらしい。 そのアークナイトに現在タカシ君with王の座が融合し、ただの発泡スチロールを無敵の超合金製の騎士ロボットに変化させている最中だというのだ。 「警備の人にお願いして誘導してもらうから、広場に集まってる人たちの避難は間に合うだろうけど、 みんなが到着するころには変化も終って動き出していると思う」 最初は面白がって遊びまわるだろうけれど、親が見付からない寂しさと苛立ちから、しばらくすると暴れだす可能性も十分に考えられる。 「まだ、ハイハイがようやくできはじめたばかりの小さな子なの。誰かや何かを傷つけたいとは思っていない。 でも力も重さもすごくて気ままでワガママで、本当に怪獣みたいなものだから」 危険で、難しくて、そんなことをお願いしているのはわかっている。それでも―― イヴはペコンと頭を下げる。 「なんとか助け出して、無事におかあさんとおとうさんのところへ返してあげてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:仁科ゆう | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月25日(土)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●スタート! 事件の概要の説明後、リベリスタ達は早速行動に移った。 「今から1時間以内に……つまり、時間が無いという事ねそれなら……トラックを借りられるかしら?」 まずは足の確保。『Blue Rose』アニス・シード(ID:BNE002507)が作戦本部に掛け合ったところ、帰ってきた返事は 5分ください。何とか確保してみます、とのこと。 言葉どおりに、5分が経過する少し前に、戻ってきたアークスタッフがリベリスタ達を先導して物資搬入用スペースへと案内する。 物資搬入用に使用しているトラックです、というスタッフに。 「トラックは、最悪壊されても仕方ないかしら。できるだけ無事に返したいけれど」 地図でルートを確認しながら『プラグマティック』本条 沙由理(ID:BNE000078)が運転席でハンドルを握りながら溢した言葉にスタッフは半分泣きそうになりながら控えめに抗議の声を上げる。 なんとかがんばって用意したので、出来れば……その…… 「わかったわ。なるべく頑張ってみる……準備、ありがとうね」 笑顔でスタッフに答え、仲間達に乗って! と指示を出す沙由理は、全員が乗り込んだことを確認し、アクセルを強く踏み込んだ。 「それじゃ、ドライブに行きましょうか」 ●到着! ジリジリと気だけが急いていく。 主要道路を避け、また避難してくる車の流れを避けて通っていたため、どうしても大回りになり、到着に時間がかかる。 示された1時間があっという間に食いつぶされていくが、しかし急がば回れの言葉どおりに、これが最短の――最速のルートなのだと自身に言い聞かせて、臨海広場に到着するその時を待っていた。 やがて……1時間弱、ようやく海浜公園へとトラックは到着する。 先達て避難誘導がされていたためか、人影はない。 「さて、アークナイトは何処にいるのかしらね……名前にアークなんて付けるから厄介な事になるのよ……馬鹿ね」 アニスが助手席で広げていた地図を確認しながら、一人つぶやく。 「次は私をモデルにするといいわ……名前は『アニスSEED』って所かしら。後でイベント会社の社員に助言しておこうかしらね……」 確認していたイベントスペースである広場へと通じるルートを示そうとしたところで、にぎやかな声が同じ車内で響く。 「ふはー、巨大ロボだー!」 『ひーろー』風芽丘・六花(ID:BNE000027)がトラックの荷台から顔を出して、眼前に見える巨大な物体に指を向けて叫んでいた。 「良いな!すげぇな! 欲しいぞアタイ的に、ひーろー的にな!」 そこには、鮮やかな青と白で彩られた、どこかで見たことがあるような、はじめて見るような、そんな微妙に懐かしいデザインの巨大ロボット。 額のV字型のアンテナも凛々しい、あれこそがアークナイトである! 「ハイハイする15mの巨大ロボットかー。近くで見ると予想以上に大きいかな」 『魔天の翼』御剣・玲奈(ID:BNE002444)もその姿を見て、感嘆の吐息を漏らす。 まだ起動が完了していないのか今だ被害は出ていないものの、時間的にはいつ動いてもおかしくはない。 「それじゃ、俺はタカシの両親を探してくる。タカシの方の誘導は頼むな」 そういってトラックから飛び降りたのは『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(ID:BNE001406)だ。 広場へとトラックが鼻先を向けたところで、作戦通りに荷台から飛び降り、タカシくんの両親を探して駆け出す。 一般人は避難済みだけど、親なら比較的近くで心配しているんじゃないだろうか、そう考えての行動。 両親へ安心するように、そして両親の幻影を見せる場合に備え、その姿形を覚えるために。 「じゃ、あたしは予定通り避難誘導役に当たるわ。ロボの対策はみんなに任せた!」 同じく『ロストフォーチュナ』空音・ボカロアッシュ・ツンデレンコ(ID:BNE002067)がトラックから飛び降りる。 そのまま、アークナイトを誘き寄せる予定の砂浜へ向かって走っていく。 「退避勧告は出てても、事態を把握してない人間は必ず出るわ」 その声の裏で、(あたしの住んでる地区じゃない。ご近所さんには逃げて貰わないと!) という内心の焦りも交えながら海岸へと急ぐ。 6人を乗せたトラックは、無人の公園を突っ切り、巨大ロボットが鎮座する広場へと入っていく。 ●遭遇 広場へと入ろうとする6人の目の前で、アークナイトが突然前に傾いていく。 倒れる? そう思わせる挙動だったが、しかしアークナイトは地面に両手をついて4つん這いの姿勢になった。 「巨大ロボットかー。良いねぇ。乙女のロマンだよねぇ。アークナイトの制作会社にボク売り込めないかなぁ」 『戦うアイドル女優』龍音寺・陽子(ID:BNE001870)がその勇姿をうっとり見上げながら、ハタと気付いたように真剣な表情を見せる。 「って、そういった事は仕事が終わってから考えようっと。とにかく今は被害が出ないうちにタカシ君を安全な所に誘導しないとね」 「赤ちゃんを助け出すのもひーろーっぽいのだ頑張るのだー」 応えて胸をはる六花。 その言葉が聞こえたわけでもないだろうが、アークナイトは顔を上げると、やたら響く重低音で”だぁー”と声を上げて、ハイハイを開始した! ただし、街へ向かって! それを見て六花は持ってきていた各種にぎやかしようの太鼓とかカスタネットとかおもちゃのラッパを取り出し仲間達に手渡していく。 どんどんぴ~ひゃら~、派手な音を立てる楽器を背後に、トラックの上に立った六花はぽんぽこぽーんっ、とアークナイトに見えるように踊りはじめた。 ”だー……あー?” ズシン……ズシン……ズン……ズンズン…… その音と光景に引かれたアークナイトは、進路を変更しトラックへと向かってくる。重量感満点に。 そして、その巨大な手――掌だけで2mはある――がオモチャでも掴もうというかのように、ぐぐーっと伸びてくる大迫力スペクタクル。 しかし、アークナイトの手が1.5トンのトラックを掴もうとした瞬間、沙由理がアクセルをベタ踏みにし、急加速をして寸でのところで掴まれるのを回避する。 そのまま勢い余ってアークナイトはすってんころりん。 15mの巨体が広場で一回転する。当然、地面はボッコボコ。 「無垢ゆえに恐ろしい相手だな。赤子の扱いは難しいが、なんとか被害を減らしたいところだ」 アシーニ・フェイス(ID:BNE002412)がその様子を見て、額に一筋汗を浮かべながら呟く。 だが、怪我をした風もなくハイハイを再開し、走るトラックを追いかけてくる。 ”だーあだー!” むしろ、楽しげな声さえ聞こえてくる。 「うわ、近くで見ると15めーとるがはいはいして近寄ってきてコエーちょうこえー」 踊りながら六花が叫ぶと同時に、トラックの間近を巨大な手が通り過ぎる。 「巨人に追いかけまわされるのも、ぞっとしない話よね」 手を突いた地面が大きく弾け飛んでいるのが見える。このままここで暴れさせると被害が広がる一方だろう。 「沙由理さん、次のT字を右に」 アニスが助手席で誘導経路を指し示す。なるべく被害が出ないように見比べ選んだルートだ。 「赤ちゃんを助け出すのもひーろーっぽいのだ頑張るのだー」 六花が踊りを続けながら叫ぶと、荷台で何かの用意をしていた陽子がそのスイッチを入れながら叫び返す。 「タカシ君だけじゃなく、その両親の笑顔を守る為にも、三高平市、そしてアークナイトのイベント会社の為にもね!」 荷台に詰まれたスピーカーからは、大音量で教育番組のテーマソングが流れ始めた。 ●砂浜 「浜に引き上げてある漁船を待避させて! 警戒を怠らないで!」 携帯電話で船への退避を念のためにもう一度連絡をする空音。 通話を終えた彼女の前に、スクーターで現れるアウラール。 「両親とはあえたの?」 「タカシは俺たちが必ず助けるから落ち着いて欲しい事や、いざというときは協力をしてほしいと伝えて来た」 アウラールは空音の問いにそう答え、先ほどから響いてくる轟音の方へ目を遣る。 果たしてそこには、並木道をハイハイで進んでくる巨大なロボットの姿。 だんだんと、その姿が近づいてきて……一足先に並木道から砂浜へと一台のトラックが飛び出して来る。 そのまま砂浜の砂に足を取られて、タイヤが上手く地面をつかめずスピードが一気に落ちる。 伸びてくるアークナイトの腕。 危ない! その瞬間、陽子が飛び出し、アークナイトの腕を駆け上っていく。 面接着を使い、急な傾斜を物ともせず登ってくる陽子の姿に、アークナイトこと巨大怪獣タカシくんは、手を虫が登ってくるのを振り払うように思いっきりぶんぶか腕を振り回す。 アークナイトの腕に両手両足を付け、必死に吹き飛ばされないようにしがみつくのがやっとの陽子だが、この隙にトラックは距離をとっていく。 そして、先に砂浜に到着していたアウラールと空音と合流をした。 「逃げ遅れた人はいないだろうか?」 荷台から飛び降りたアシーニの問いに、頷き返すアウラールと空音。 アシーニは、自身も力強く頷くと、結界を展開し、一般人の不意の乱入してこないように備えた。 いないいないバーの要領で何とかタカシの気を引こうとアークナイトの装甲の上を動く陽子だが、流石に体格差と共に、動きの主体が相手にあるため上手く意図どおりに立ち回れずにいた。 アークナイト・タカシ自身はというと、4つん這いをやめ、どっしり砂浜に腰をおろし、座って身体の上を飛び回る陽子をなんとか払い落とそうと動いていた。 そして、背中に回ったところで、タカシは背中に虫が取り付いた時のようにイヤイヤと身体をゆすりながら、そのまま背中から倒れこむ。 このままでは地面と巨大ロボットの間で踏み潰されてしまう! その瞬間に、ハリウッド俳優のような見事な反応スピードとジャンプでなんとか抜け出す陽子。 アークナイト・タカシは結果に満足したように、またハイハイでトラックへの接近を再開する。 「こっちだタカシ!」 そう叫ぶのは、スクーターに跨ったアウラール。 幻影を使い、先ほど顔を見てきた母親の姿を作り出し、アークナイトに見せながらスクーターを発進させる。 ”あー! だー! まんま!” ハイハイスピードがアップ。 盛大に砂を巻き上げながら、迫り来るアークナイトに、フルスロットルで距離を開けようとするアウラール。 だが、やはり砂浜ではスクーターでは中々スピードが上がらない。 一気に詰まっていく距離に、アウラールが覚悟を決めた表情を浮かべるが、その瞬間別方向から爆音が響き渡る。。 「一緒にぴーひゃらしたり、穴掘ったり海の水をかけたり、砂の城作ったりしてあそぼーぜー」 フレアバーストで砂を吹き飛ばし、大きな穴を歩って見せた六花が踊りながら誘う。 流石に驚いたのか足を止めたアークナイトに対して、ここぞとばかりにアニスが、六花とアークナイトの間に立ちふさがる。 「相手は子供でロボの全長が15m? そんな事はこの私の前では些細な事よ」 なんとなく大物そうな威風堂々とした態度の上に、誘惑のスキルを用いて、そのタカシくんの意識を自分に向けさせる。 迫る15m。 「問題無い」 いいつつ、アニスは逃げ出した。 追いかけるアークナイト。 「助ける?」 「どーやって?」 「大体、こーした技術的常識無視の存在に、リアルロボの如き関節とかあるのも不明だから、関節狙いやら、センサー狙撃だのは全く効かないだろうしね」 冷静な仲間達の会話。空音は、実際のアークナイトの運動性能を見てヤレヤレと頭を振る。 「見守るより仕方無しだ」 「疲れて眠るのを待つにしても、ああやって走り回らせるのは有効かもな」 「ボクも、身をもってタカシ君をあやしに行くよ」 もう一度、幻影を作り出し、スクーターのエンジンを再度スタートさせるアウラール。仲間たちの元へと戻ってきたいた陽子もぐっと足に力を入れる。 こうして、3人vs巨大ロボット1体の追いかけっこが始まる。 ●命がけで遊べ! 「あとはまぁ、砂浜で好きなだけ遊んでもらいましょう」 ぜはぁ……ぜはぁ…… 先ほどまで命がけの追いかけっこを行っていたため荒い息をつ3人に、沙由理が声をかける。 アークナイトはといえば、今は砂浜で六花と共に砂遊びに興じていた。 たまに、振り下ろされた腕が、爆音と共に砂を巻き上げたり、悲鳴らしきものも聞こえたりしているが、タカシくんは機嫌よく遊んでくれているようだ。 それでも、仲間に危険が及びそうなら足止めを行うため、アシーニはいつでも攻撃を行えるように構えて監視をしていた。 今作っているのは巨大な砂の城。まさにサイズだけは小さな城と見まがう大きさ。 「ひょば、あいあんあーむで掴んだらイタイのだー、うぎぎ」 声に振り仰ぐと、砂の城の天辺にタカシの手によって飾られた六花の姿があった。 そこから抜け出すのは一苦労しそうな高さ。下半身も深く埋まっている。 「追いかけっこの第2ラウンド、いってみましょうか……」 ヤケクソ気味の言葉に、立ち上がったリベリスタ達は青春映画のように全力で砂浜を走りだした。 30分が経過して。 アークナイトがメインカメラを手で擦っている。 「よ、ようやく……眠くなったのかしら?」 アニスが期待を込めた表情でその様子を眺めている。 仲間たちも息を止めてその時を待つ。 やがて、しばらくの間巨体をふらふら左右に振っていたアークナイトが、轟音を立てて砂浜に倒れこんでいく。 もうもうと立ち上がる砂煙の中、仰向けに倒れこんだアークナイトの胸元から、光球が出てくる。 その中には、ベビーベッド――のように見える王の座――とその中で眠る赤ん坊の姿。 光が段々と弱まり……空中に浮いていた王の座は姿勢を崩し、赤ん坊が空に放り出される! 「あ、危ない!」「任せて!」 仲間の声に、陽子がアークナイトの体を駆け上り、空中で赤ん坊をしっかりキャッチして戻ってくる。 「タカシで間違いないな」 あらかじめ両親に姿を写メで確認をさせてもらっていたアウラールが大きく頷く。 疲労困憊の様子の陽子から、タカシを受けとった沙由理は怪我しないようにやさしく抱き上げ、その寝顔を覗き込む。 「ふふ、気持ちよく眠っているみたい」 「ちゃんとおとーさんとおかーさんのところに返してやるのだー」 「そうだね。それじゃ、帰ろうか」 ●ちなみに 「ロボから取れたらロボアーティファクトげっちゅー!」 ベビーベッドの上で、高らかに宣言する六花。 「こい、あーくないとぉ! これでアタイも大活躍なのだよ、ふぅーははーは」 はいはい、回収しますからね。 アークのスタッフにより、王の座はしっかり回収され、六花の野望はむなしく潰えたそうです。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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