● 夜闇の中でも煌く、青い鱗。 喰らいついたモノを形も残さない程に、噛み砕きそうな牙と強靭な顎、そして全てを引き裂く鋭さを持った爪。 稲妻を迸らせ、光り輝く大きな翼。 目を合わせた者が思わず竦みそうな殺気を湛えた、黄色い眼光。 ――そして6mはあるだろう、巨大な身の丈。 雄々しきその姿はまさしく、ドラゴン。 大地を踏みしめた後に残る大きな足跡が、巨龍の雄大さを物語る。 ズシリ、ズシリ。 巨龍は羽ばたかず、ゆっくりと、だが確実に1歩ずつ、前へ前へと進んでいく。 供として2匹の龍を従えた、『皇帝』のようにも見える龍の行進。 その力強い行進を前にすれば、行く手に存在する小さな山の宿に待ち受けるのは踏み潰され、消え去る運命を辿るのみ。 『グルルル……ガァァァァァ!』 天にまで届く怒りの咆哮は、人間達への攻撃の狼煙か。 人の文明の発展によって棲家を無くした動物達の怨念が『エリューション・フォース』となり龍の形を成した存在、雷龍皇帝が今、人に怒りの鉄槌を下す――。 ● 「辰年の終わりに、ドラゴンですね」 本来、『辰年』といえば中国の『龍』を指すが、どう見てもこのエリューションはドラゴンだと『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は言う。 四神の青龍に近い見た目ではあるものの、青龍は春を表す存在で、今が真冬である事を考えればズレてはいるが……あぁ、そんな事はどうでも良い。 「とにかく、この3体のドラゴンを止める必要があります」 問題は、ドラゴンの進む先に小さな宿がある点だろう。 もちろんそこに至るまでには時間的余裕があり、今から向かえば宿から離れた場所で迎撃を行う事もできる。 「ただ、このドラゴン達はかなり厄介な存在でして……条件が満たされた場合、それぞれのドラゴンは特殊な行動を取ります」 雷龍皇帝と、その供の闇槍竜は、火力が非常に高い攻撃を。そしてもう1匹の供である光刃竜は、攻撃をある程度跳ね返すバリアを展開するようだ。 さらに和泉は『雷龍皇帝の攻撃だと、一撃で全滅しかねません』と言い切り答える。 ただし、その攻撃を放つためにはある一定の条件がある。 特に雷龍皇帝の一撃は、倒れた者を再び立ち上がらせることを許さない強力な一撃。耐え凌ぐか、発動する前に勝負を決める必要があるだろう。 「今からでも宿に宿泊している人々を逃がす時間は、十分にあります。その対応をした上で、雷龍皇帝の行進を止めてください」 和泉はそう告げると、リベリスタ達の背を見送る。 人的な被害は対応1つで0となるだろう。 後は物的な被害を抑えるために、雷龍皇帝の歩みを止めるだけだ――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月31日(月)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●行進する雷龍 ズシン、ズシンと大きな足音を立て、雷龍皇帝は進む。 棲家を失った動物達の怨念の結晶であるこの存在の目的は、人に怒りの鉄槌を下し、付近の山々を取り返すこと。 ドラゴン達の行軍の前に、山に点在する人の文明など紙のような存在でしかない。 「近辺で不発弾が見つかり、急ぎ撤去する必要があるので一時避難を」 その紙のような存在――山にある小さな宿に電話をかけ、『薄明』東雲 未明(BNE000340)が危険を告げる。 いきなりの、しかも寝静まりかけた夜の電話を、宿の女将は訝しげに思ったのだろう。未明の声も年相応のものである事が、より悪戯電話だと感じさせたらしい。 「直接行った方が良かったのかもしれんな」 「かもしれないが、ここはアークの職員に任せよう」 電話という手段が良くなかったのかと考える『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)と『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)ではあったが、2人はすでに未明がアークに避難の援護を頼んでいる事を知っている。 もしも電話がダメだったとしても、アークの職員がさらに訪れれば信じてもらえる可能性は高い。 「不発弾っていうのも、あながち嘘でもないんだよね……」 実際に爆発するような爆弾ではないが、雷龍皇帝もある意味ではそれに近いだろうと考えるのは『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)だ。 理由はなんであれ、宿に危険が迫っている。 それがしっかりと伝わって宿にいる人々が避難さえしてくれれば、そこに至るまでの過程などはどうでも良い話。 「最近は山が切り開かれて住宅地になったりしてますからね。餌場が少なくなって畑を荒らせば、害獣扱いされて駆除されるわけですし」 そしてこんなエリューションが生まれたきっかけは人間にあると、『蒼輝翠月』石 瑛(BNE002528)は言う。 人の発展が、他の生物の棲家を奪う。 その逆襲を、人は力で制する。 動物がドラゴンのエリューションに置き換わっただけで、リベリスタ達の今回の戦いはその構図と何ら変わりはない。 「結局は人のエゴ……ですかね。エリューションである以上、倒さなければなりませんが」 鳴り響く足音が近づいてくるのを感じ、『親不知』秋月・仁身(BNE004092)はそっと手にした魔弓に矢をかけた。 ゆっくりと、確実にドラゴン達は近づいてくる。 その存在は雄大にして強大。行く手を阻むモノを全て薙ぎ倒す存在。 リベリスタ達は、そんなドラゴン達の歩みを止める壁となれるだろうか? 「……避難が完了したみたいよ」 そんな折、宿の方の対策は出来たと未明が告げる。加えて瑛が結界を展開した事で、彼等の後ろに憂いはない。 後は――。 「ドラゴン! しかも3体も! テンション上がるのだわ!」 真っ先に『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)がその姿を視界に収めた、現れた倒すべき相手を倒すだけだ。 「敵には申し分なしだ! アークの外道龍がひと暴れさせて貰おう。さぁ行くぞ! 名も無き龍たちよ!」 ミリーも、そして『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)も、強き存在との戦いに、ふつふつと闘志が湧いているらしい。 いや、それは彼女達だけではなく、 『ガァァァァァァァ!!』 「……良い雄叫びだ、存分に轟かせるがいい。さあ、死闘と行くとしようか」 ドラゴンの空気を裂くような雄叫びにも臆せず構えた優希や、他のリベリスタ達も同様で。 リベリスタか、動物か。 人か、エリューションか。 言うなれば、この戦いは生存競争の縮図でもあるのだろう――。 ●龍の咆哮 「俺達はしっかりと戦うとしよう。作戦通りに行くぞ」 いかに速度に長けた闇槍竜とはいえ、翔太の素早さには及ばない。一番最初に地を蹴った翔太は雷龍皇帝へと走る。 「わかっている。皆は皇帝からは離れてくれ」 後を追う優希と翔太のコンビが、いかに雷龍皇帝を羽ばたかせないか。リベリスタ達の作戦は、まずそこから始まった。 「それじゃあ、御伽話よろしく竜退治としますか。確実に、1秒でも早く取り巻きを殺す」 仁身は言う。陣形を整え、然るべき態勢を整えながら、1体ずつを迅速に確実に倒そうと。 そのためには、羽ばたいた突風で陣形を乱されない事も重要だとリベリスタ達は考えたのだろう。 「強そうな相手……ううん、強い相手か。辰年が終わろうという時に竜の相手ってのも良いかもね」 闇槍竜が放った闇の槍に耐えたフランシスカの暗黒の瘴気が、闇槍竜を、そして光刃竜を包み込んでいく。 しかし異常と言えるレベルの数で放たれた闇の槍は、速度に長けた翔太や優希であっても避け切る事が出来ず、しかもじわりとリベリスタ達の力を奪うもの。 「いきなり力が抜けたけど、久しぶりのドラゴンだわ。倒すわよ!」 フランシスカの瘴気も、そしてたった今ミリーが放った炎を纏った拳も、そのせいで威力を僅かに削ぎ落とされてしまっていた。 何とか優希だけは翔太が庇って事無きを得たものの、この火力の低下はある意味で被害が大きい。 『グルル……』 それに加えて相手に衝撃を与える光刃竜の光の剣が、そして雷龍皇帝の羽ばたきがリベリスタ達へと襲いかかる。 「くそ、近付けられなかったからか」 運良く光の剣では誰も衝撃を受けなかったものの、優希を庇う事を最前提に動いていた翔太はこの時、雷龍皇帝に近付ききれてはいなかったのである。 吹き荒ぶ風から優希を守った彼の後ろでは、仁身と御龍が派手に吹っ飛んでいく姿が目に止まった。 「やられる前にやる! 小細工が通らないなら、最大火力で正面からつぶす!」 もう少し傷が抑えられていれば、クイックドローから相手を撃ち抜く事を考えていた仁身ではあったが、3匹の龍はそこまで甘い相手ではない。それどころか、無策で突っ込めば敗北必至の相手だ。 出し惜しみをしている余裕など初めから存在しないと認識した仁身は、自身が傷を受けることも厭わず断罪の魔弾を撃ち、 「我にその血を浴びさせよ! 我に力を見せつけよ! 跪き朽ち果て、我龍の礎となれ!」 彼と同じく後方に吹き飛ばされた御龍は、ミリーの近くに移動しながら全身に闘気を漲らせ次の攻撃に全力をかける態勢を取る。 「まずは攻撃ね。次は態勢を整えないと」 「援護は任せてください。それにしてもりっぱなドラゴンですねー」 続けて大きく跳躍した未明が上空から闇槍竜めがけてバスタードソードを振り下ろすと、少し悠長な言葉と共に仲間達の体を守る結界を展開する瑛。 とは言え、彼女は決して相手を侮ってはおらず、自身の行動が仲間達の命運を左右する事を理解している。少しでも気持ちに余裕を持つ事が、焦りやミスを誘発しない事に繋がると考えているのだろう。 『……グル?』 ふと、雷龍皇帝の目が地を駆ける小さな存在を、ゆっくりと見渡していく。 近付いて来た翔太も優希も、自身を攻撃しようとはしていない。翔太は優希を庇う態勢を取り続け、優希は闇槍竜に攻撃を仕掛けている。 『グワァァ!』 攻め立てられる闇槍竜が声を荒げ抵抗を続ける中、王は自身がどう動くべきかを模索しているようだ。それは決して知性や戦略性からくる模索ではなく、獣としての攻撃本能のなせる技。 ミリーと御龍。 フランシスカと瑛。 そして、未明と仁身。 先に攻撃してきた優希達を見れば、2人ずつ固まって行動している事がわかる。 『……ガァァ!』 「優希はやらせん!」 試しに近い位置にいる彼等に爪牙で襲い掛かってみるものの、翔太が庇い防ぐだけで攻撃を仕掛ける気配は無い。 ほぼ同時に光の刃を放った光刃竜に対しても、同様だ。 「同時にぶっこむわよ!」 「ほう、威勢のいい嬢ちゃんだ。いいぞ! 後ろは気にするな! 我に構わずどんどん攻めろ!」 そうしている間にも、首裏に飛び乗ったミリーと御龍の攻撃が闇槍竜に大きな傷を残す。 一方では衝撃を受けながらもじっと構えた未明が鋭い目で相手を見据えながら集中し、 「そろそろ来ますかね? かなりボロボロです」 福音を響かせ仲間の傷を癒す瑛は、その闇槍竜の傷の深さに、警戒していた攻撃の到来を予感したらしい。 「かも知れないな、気をつけろ」 「大丈夫です、既に準備は出来てますよ」 それについては雷龍皇帝の傍から真空の刃を蹴り起こした優希も同意見だったらしく、彼の注意が仲間達に飛ぶ。彼に答えた仁身は既に『来る』と判断していたらしく、未明を庇うように彼女の前に立っていた。 その動きを注視していた翔太は、闇槍竜の体がより黒く澱んだ瞬間を見逃しはしなかった。 ほんの一瞬だけ光刃竜の体が光り輝いた瞬間は、目立った事もあったせいか全員の目に映っていた。 (予備動作は、殆ど無いっか!) 見てわかるほどの変化から、次の動作までには殆どラグはないと感じた翔太。目視で判る材料は、どうやら『傷』だけと言う事か。 そして飛び交う闇の雨の威力は、それまでの闇の槍の比ではなく――、 「まだだ、まだ、倒れられないっ!」 一時的に闇に絡め取られた仁身が、堪らず膝を突く。即座に立ち上がった彼がそのまま闇の呪縛から解き放たれたのは、幸運を味方につけたおかげだろう。 他のリベリスタ達も倒れはしなかったものの、瑛やミリー、フランシスカの傷はかなり深い。 「くそ、動けぬか」 さらに御龍は闇の呪縛に動きを封じられているため、その被害は甚大だと言える。だが、危機の中にチャンスもあった。 「上手く……通ったみたいね」 展開されたばかりの闇槍竜のバリアを未明のバスタードソードが砕き、かつその巨体をよろめかせたのだ。 その動きに明確な理由を持たせるとするなら、ダークレインの発動条件を大幅に超過して傷を与えていた――即ち、闇槍竜は最早瀕死に近い状態なのである。 「頑張ってください、もう少しですよ!」 可能な限り戦線を立て直そうとする瑛の歌声が響く中、配下をやらせまいと雷龍皇帝の羽ばたきが突風を巻き起こす中、 「これで仕留めるわよ!」 「この痛みは倍にして返しますからね!」 ミリーと仁身の左右からの攻撃が、遂に闇槍竜を地に伏させた。否、実際にはまだ動いていたが、「気を抜かないで!」とフランシスカが放った瘴気がトドメを刺すに至っていた。 「次はアイツ……だね」 完全に闇槍竜が動かなくなった事を確認し、次の目標となる光刃竜をフランシスカは見やる。 残る2体のドラゴンの攻撃は、避けやすいと言う点で考えれば闇槍竜程の厄介さはない。気をつけるのは、雷龍皇帝のサンダーボルトだけだ。 「翔太、交代するぞ」 「あぁ、わかった」 ここで初めて、優希と翔太の攻守が入れ替わる。 「少し出遅れたが、ここからだ」 と同時に御龍も闇の呪縛から抜け出し、火力『だけ』は元の状態に戻ったリベリスタ達。 しかして彼等の被害は相当に甚大だ。如何にここからの被害を押さえ、雷龍皇帝との戦いに望むかが勝敗を左右する。 ●迸る雷 その強大な姿を前にすれば、勝てる気など起こらない。その殺気には絶望すら覚える。気を抜けば、体が動かなくなりそうだ。 そんな絶望に包まれながらも、光刃竜に炎の拳を叩き込んだミリーは歓喜していた。 「そう……そうよ! ドラゴンは強いのよ!」 彼女がそう言う通り、個々の実力では3匹のドラゴンは圧倒的にリベリスタ達を上回っている。 「そうだ、強い。だからこそ、我に食われる価値がある!」 「実力の差は戦略で埋める、と言ったところですかね」 吼えた御龍の全身の闘気を爆発させた一撃が光刃竜を仕留め、仁身はその様をそう言い表した。 戦略。 あぁ、そう言って確かに間違いではないだろう。 闇槍竜を倒した後、リベリスタとドラゴンの戦いはしばし膠着状態に陥っていたのだ。 攻撃に長けた竜を失ったドラゴン達は、どうしても決め手に欠けていたのである。そしてリベリスタ達の受けた傷は瑛が必死に癒し続けていたため、闇槍竜の撃破時からの傷は決して多くはない。 「……これでやっと対峙できるわね」 ようやく本命に辿り付けたと、構える未明。 「後は耐え切れるか、だけですねー……」 雷龍皇帝の攻撃を考えれば、サンダーボルトを耐え切れば何とかなるはずだと瑛は言う。しかし彼女にはもう、後1度程度しか歌声を上げる余力は無い。 「短期決戦っか。ここで引くわけにもいかないし、行くぞ」 ならば取れる手法は1つだと、翔太が地を蹴り強大な龍へと飛び掛っていく。 「ここは皆を信じて、俺達のやれることを貫くしかないな」 そしてここまで攻守を分けて動いていた優希も攻撃に加わり、リベリスタ達の攻撃力は今、まさに最高潮へと達していた。 特にこの2人は互いが互いを庇い続けていたおかげで、最も傷が浅い。時折に雷龍皇帝が羽ばたいたため、完全に爪牙を受ける盾とはなりきれなかったが、それでも最も余力があると言えよう。 「こっからが勝負よ!」 光り輝くバリア――随分と前に光刃竜が展開した光の壁は未明によって砕き散らされ、 「御龍!」 「応!」 僅かな言葉だけを交わしたミリーと御龍が、それを機だと判断して同時に仕掛ける。 「これが最後の回復ですよー……」 激しく吹き荒れる突風を耐え凌ぎながら、最後の力を振り絞って瑛が歌う。 「竜鱗を纏っているのは、そっちだけじゃあないですよ」 自身が倒れそうなほどの傷を負っていても、仁身は果敢に攻め立てていく。 互いに引かぬ攻撃の応酬。 じわじわと雷龍皇帝に傷を負わせる最中、猛攻に耐え切れず、仲間に後を託し崩れ落ちる瑛と仁身。 しかし2人が最後まで諦めない姿勢を貫き通した事が、この先の勝敗を左右したのだろう。 バサリ、バサリと翼が羽ばたく。 『クァァァァァァ!!』 天まで届く咆哮がリベリスタ達の鼓膜を揺らす。 それは雷龍皇帝が放つ必殺の一撃の合図。その一連の動作から次に至るまでに、タイムラグは殆ど存在しない。 「大丈夫、構えられてるのだわ!」 その動きが発生する少し前に、ミリーがなんとか状況解析に成功したおかげで、リベリスタ達の大半は構えることが出来ていたのだ。 翔太を優希が。そして御龍をミリーが。 「あなたは私が守るわ」 「未明さん!」 守るべきパートナーが倒れてしまったフランシスカに対しては、未明が彼女を庇いにかかっている。 迸る雷鳴は、全ての敵を薙ぎ払う。 烈火の如く走る稲妻は、雷龍皇帝が王となりえた力の奔流。 苦痛に耐えるリベリスタ達の呻き声も掻き消しながら、サンダーボルトはありとあらゆる存在を薙ぎ払っていく。 ――はずだった。 「……無事か?」 「俺は何とかな」 稲妻が収まった事を確認し、倒れそうになる体を必死に立ち上がらせた優希は、翔太と互いの無事を確かめ合う。 「龍の名前を冠する者としては、意地として負けられぬ!」 眼前で崩れ落ちたミリーを抱きとめ、御龍は勝利のためにと剣を強く握る。 「まだ終わってないわ。さぁ、続けましょう?」 「そうだね。ここからだよ」 そして直撃を受けた未明も必死に姿勢を保ち、フランシスカと共に傷だらけの王を見据える。 本来ならば優希と未明は、倒れていただろう。そこに幸運の力が働いたおかげで、彼等は何とか倒れずに済んでいた。 雷龍皇帝が放った必殺の一撃。 その一撃は幸運を味方につけたリベリスタを相手に、ミリー1人しか倒す事が出来なかったのである。 ●生存競争の勝者 ここまで来れば、どちらが勝ってもおかしくはない。 最早、リベリスタも雷龍皇帝も立っているのがやっとの状態だ。 「攻めきるしかねぇ、やり切ってやる」 だが天秤は、エリューションには傾きはしないようだ。距離を取って攻撃する翔太にとって、ただ吹き飛ばされるだけの羽ばたきならば、まだ耐える事が出来る。 「1手でも多く拳を喰らわせてくれる」 それは雷龍皇帝を内部から破壊する拳を打ち込む優希や、 「アークの狼龍は狡猾で冷徹だぞ? それが我の戦い方だ」 下がりながら攻撃を続け、居合いで風の刃を生み出した御龍も同じである。御龍の放った刃はそのまま雷龍皇帝の首に大きな傷を残し、激しく血を噴出させていく。 王が倒れるまで、後どれだけの攻撃が必要なのだろうか? 「ううん、そんな事を考える必要はないわね」 これまでも相手を観察しながら戦ってきた未明はその考えを払拭し、遠く離れたところから一足飛びでさらに傷を与える。 グラリ……。 雷龍皇帝の体が、王の体が揺れた。 何時倒れるかなど、考えるまでもなかったのだ。 「その怒りの心ごと……斬り裂くよ!」 棲家をなくした動物達の怒りの思念の集合体――雷龍皇帝。 2匹のドラゴンを従え暴れ狂った怒りの思念ごと、フランシスカの暗黒の刃が王を両断する。 「……やった、やったよ!」 確かに相手を斬り裂いた感触を感じ、震えるフランシスカではあったが、彼女にもまともに余力は残ってはいなかった。 その場に誰もが座り込み、ほうっと息をつく。 喜びを分かち合う気力すらも無くなるほどの辛勝を収め、彼等はただひたすらに迎えを待つ。 ふわりふわりと舞い降りる雪は、敗北した雷龍皇帝に対しての自然からのはなむけか。そんな事を、思いながら――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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