●腐った種に宿ったのは、悪意 壊れた心は、行動を蝕む。 味方を誰より大切にしなければならなかった少年達は、味方達が不幸に囚われるのを前に逃げ出した。 誰より力ある三人が、誰より先に心を捨てた。 それがどれほどの不幸であるかは彼らだって理解しており、それが蝕む無力感がどれだけ重いかは彼ら自身が痛感していた。 だからこそ、その『タスケテ』から逃げ出した自分達の愚かしさが死ぬほど悔しく、しかし生存本能は隠しきれず。 ――要は、その板挟みの果てで圧し潰されたにすぎない、愚者であったと認めざるを得なかったのだ。 “じゃあ、やめる?” 三人の少年に滑りこんできたのは、何処からとも無く心へと。 存在意義を喪いますかと、声は幽かに問いただす。 “それとも、こわす?” その声は幽かでありながら重苦しく、優雅でありながら劣悪なそれであった。 “たすけてあげる、すくってあげる、ちからをあげる。 だからそのからだと善意と意識と理性と――まあいいや、ぜんぶちょうだい?” 悪魔の取引だったのだろう。『天使のわけまえ』どころか、『悪魔のぼったくり』だったのだろう。 けれど、その甘美な要求を撥ね付ける勇気は、少年たちの何処にも残されては居なかった。 悲鳴が響く、音響が鳴る、鳴って止まって幾度でも。 鳴っては止みを繰り返すそれは、醜悪な生物の嚥下行為を見ているようで。 誰も許すとも許さないとも、言ってはくれなかったのに。 彼らは自ら、自身を許さないという結論に『逃げた』。 『こんにちは世界、そして死ね!』 景気良く、無邪気な意思が侵略し浸透する、それは最悪の種が芽生える予兆だった。 数日後、アークにもたらされた情報は三つ。 元リベリスタ、現「アザーバイド寄生体」の出現とその蛮行。 能力と特性、異常性。 達成条件として、彼らの殺害――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月05日(土)22:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Call,Call,Call and Dark 神様、神様。 あなたは希望がお嫌いですか? それとも絶望がお好きでしたか? 少年少女に与えるにはその結末は痛ましいとは思いませんか。 結論は余りに早急ではありませんでしたか。 こんにちは、そしてさよなら。もう誰も愛せないから、誰も彼もが壊れるだけで。 暗中に布陣するのは、語るべくも無くアークのリベリスタ達である。 アザーバイドに憑依され、殺害指定を受けた『元リベリスタ』の排除……決して気乗りしない者が多い任務であることは、間違いようのない事実である。 「…………」 ただただ静かに黙考するのは、『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)である。 だが、堂々巡りの思考を繰り返すうちにその事件の因果を見失いつつある彼女に、果たして『真実』が理解できるか否かは、語るべくもない。 そして、彼女に『真実』は必要ない。これもまた事実である。任務の完遂と勝利。それしか見えていないなら、尚の事。 『カドクラ コウヘイ、スズムラ カナメ、そしてハセ レン。以上三名が今回の“対象”です。気を抜くこと無く。データが少ない以上、何があっても保障はできません』 「……ありがとう、あの」 「夜倉、一つだけ聞きたい」 『……何度も言わせないでください。君達に与えられた任務で甘えを見せて、誰かが幸せになるとでも?Noですよ、それは』 幻想纏いの向こうから聞こえてくる『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の声に、ほぼ同時に問いを発したのは『希望の種を胸に抱き』滝沢 美虎(BNE003973)と『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)の二人だった。だが、返された言葉は辛辣且つ冷淡だ。恐らくは聞く耳も持たず切って捨てるという心持ちなのだろう。でなければ即答はできまい。 「運命とは時に残酷です」 だが、その状況をして冷静に、或いは冷酷に断ずることができるのは『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)の想いの先が常に一方向へ向いていることの現れでもあるのだろう。 ――尤も、それが冷酷というわけではなく。彼女は彼女なりに、それをたやすく断ずる事ができる自分達が果たして残酷ではないのか、という葛藤を抱えているのも事実であるが。 「今は目の前の事に集中しよう……」 救えなかった事実は重い。必ずしもハッピーエンドが訪れないことなど『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は痛いほどに理解していた。 だが、仲間の尽力で一度失われる命が救われ、そこから裁きが下されるのであればそれもまた事実として受け入れざるを得ないことを知っている。 少年少女は声も無く、告げるべき言葉を携えることはなかったとしても。確かに見たのだ、重苦しく痛々しい表情を。その目で。 「希望を謳った種は腐り果て残るは残骸のみ。結果がどうあれこうなったのはあくまで連中の自業自得だ」 ともすれば感情論が先に立つアークにあって、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の言葉は静かで重いものだった。 或いは櫻子よりも冷徹で残酷に聞こえるだろうが、その言葉は真意を知ったればこそ、理解できる点もあるというものだ。 だから、希望だけで現実を見なかった彼らの仲間に怒りもした。現実から逃げてアザーバイドに与した彼らを蔑みもする。 それが自身であることを理解しているからこそ、というべきなのだろう。 「自身が許せない以上に。見捨ててしまった仲間達に『許さない』って言われるのが怖くて逃げたんだろう」 そんなことは無いだろうに、と『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は思う。 実のところ、以前遭った『仲間』は、味方の精神的負荷にすら自分達にすら食って掛かる程だった。仕方のないこととは言え、だ。 「……この感情は、『はしゃいでいる』のでしょうか、活発な感じが……」 「はしゃいでる、にしてはかなり暴力的だと思うけどね。暴れつつ向かってきてる?」 櫻子の探知網にかかった感情は、リベリスタ達とは異なる波長の、軽快さを感じさせるもの。 あたかもそれが自然であるように真っ直ぐに向かってくる感情の波濤は、近付くものを飲み込むウロのようでもある。 同時に、終の聴覚を叩くのは路面を削り、或いは街頭を砕く音。順当に、彼我の距離は近づきつつあるのは理解できた。 あれでは一般人も近付きはすまいが、場合によっては、ということは十分に有り得る。 「私は諦められない、認められないんです」 不幸な結末をあるがままに受け入れるのは一般人であり、不幸を覆そうとして出来ずに終わるのは世の常である。 ただ不幸であるがだけで討伐し、投げ出した彼らが悪いからと割り切れるわけがない。『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は幾度と無く報われぬ戦いを見た。それでも目の前に可能性があるならば、捨てる気には到底なれなかった。だから、諦めは敗北を認めることだと知っている。たとえそれでどんな絶望を見たとしても、立ち上がるだけの気骨があるということか。 「でも、その運命って『平均的なリベリスタが準備をしないで真正面からぶち当たること』で決まる運命だよね?」 美虎が拳を固める。運命を書き換えられればそれ以上の僥倖はない。 諦めきれぬ者と、割り切った者との意思が交錯する。リベリスタの本質がそこにあるかのように。 「こんにちは、アザーバイド。これ以上のぼったくりは断念してもらおうか」 『こんにちはそちら側。挨拶代わりに死んでくれないかな』 義衛郎の声に応じるように、『ハリース』が一体、レイザータクトの躰を奪ったそれが笑う。 彼らに既に、語ることはないというように。 それ以上は時間の無駄だと諭すように。 「――任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 死を思わせる気配が夜気を裂き、激突音を響かせた。 ●But he say," " 「……その子達から出て行ってくれない?」 『聞けない相談だね! こんな玩具はそうそう見れないんだからね!』 終の拳に載った冷気に腕を封じられながらも、レイザータクト――ハセ レンと呼ばれていた個体は愉快そうに口の端を歪めた。まるでそれが大した障害ではないかのように。 その表情が余りにも狂気的で、且つ蠱惑的だと感じる。こうも感情の埒外にあるような表情はそうは見るまい。元より正義の毒に酔いしれた彼らでも、そんな表情は出来ないだろう。 ……つまりはそれだけ、変質してしまっているのだ。 「演算開始、逃げられると思うなよ」 『どっちの台詞かを確り噛み締めて言うことじゃないかな……言葉負けしても知らないよ』 櫻霞のモノクルの奥で、金眼が鋭く光る。だが、応じるアザーバイドはと言えば随分と落ち着いたものだ。 護りに特化したその姿身に僅かに灯る光は、寄らば打ち倒すと言わんばかりの勢いだ。 決して、正面からの打ち合いでは終るまいと感じさせるそれでもある。 「コウヘイ……アキも、マイも、わたしたちがちゃんと助けだしたよ」 絞り出すように声を上げ、縋るような瞳でその姿を見上げた美虎はしかし、見下された冷たい目に心が竦むのを感じていた。 言葉は通じていない。願いは届いていない。目の前に居るのはただただ、自分が助けようとした『仲間』ではなく『アザーバイド』なのだ、ということを理解した。 否、理解していても受け入れたくなかったのだ。だから救える。まだ戦える。その拳を緩めなければきっと助けられる――そう、思いたい。 口元に一筋の血が流れる。拳を弾き身を叩く痛みなど感じない。ただ救いたいから。 「御機嫌よう、ハリース。私達が貴方達の障害です」 指揮棒を高らかに掲げ、ミリィは戦場を奏でる。自らを狙えと、こちらを見ろと、アザーバイドを炊きつける。 それが果たして届いたかは別として、その言葉には確実に三名とも、理解しているようではあった。 指先から放られた閃光弾が地を掠め、光を撒いて暴れまわる只中を、しかし美虎と打ち合うクロスイージスは物ともしない。 ミリィの指先を、軽く痛みが返すが気にしては居られなかった。気にしているほど、余裕は無い。 (ホーリーメイガスから倒す。後は状況に任せ――) 『お姉ちゃん、その目……侮ってる、って目だね?』 「……!」 真っ向から『カナメ』へと拳を向けた結唯は、拳に対しカウンター気味に突き出された杖に反応出来なかった。 ホーリーメイガスは回復を主とする能力者であり、戦闘に於いては他の革醒者に頭ひとつ出遅れる。それが、彼女、ひいては一部リベリスタに於ける常識とすらなっていた。 だが、逆説的に考えれば神秘に特化したその身が攻撃に転じた時、神秘の打撃力は低くはない。正面から受け止めて、容易では無いダメージを受ける程度には。 魔力の矢が頭部を貫く。意識を一気に朦朧とさせる。倒れるには浅いが、凌ぐには重い一撃。 その影を縫って義衛郎が放った一撃は、会心のタイミングに快哉を上げたそれが避けるには絶妙に過ぎた。 (……確実に当てたが、感触が軽い) 護りが硬いというよりは、それ以外の要素が絡んでいるのは分かる。違和感というよりは、膨大なリソースのほんの僅かを削ったような、というべきか。 さしてリベリスタと差異があるように思えないことを考えるなら、別の何かが絡んでいるのだろうか。 「戦いは補給をいかに維持するかと補給線をいかに叩くかで勝負が決まる。基本だな」 『基本だろうけど、窮屈じゃない?』 達哉がしたり顔で気糸を放つが、意に介さぬように『コウヘイ』だったものが袖を払う。 狙い澄ましていたとしても、それを言葉にしてしまえば狙いは容易に理解できる。備えて避けられるものではないが、タイミングの問題でもある。 覚悟を決めていると言っても、その深奥で過去の意識が鎌首をもたげれば、それは弱く重く毒として浸透する。 窮屈ではないか、と言われれば嘘だ。任務を捨ててすら救おうとした希望があって、諦めをして叩きつけようとしている現実がある今であれば。 ああ、ああ、とても愉快だ。 この世界はこんなにも機知と意思と戦いにあふれた世界だったのか。 ここまで愉しむことが出来るなんて知らなかった。 憤怒を纏った魔物は笑う。救いを求めるリベリスタが底力が、自らの足を止めるに足るものであることに。 そして、自らが乗っ取ったそれもまた、同質の意思があることに。その底で蹲り蟠るそれを、嘲笑う。 「お前ら、その身体から出ていけぇええっ!!!」 魂の底から声が響く。拳が唸りを上げて吸い込まれる。それでも、黒き天上の星を纏うアザーバイドは倒れない。 美虎の声は届かない。絶対に。……絶対に? 「いつまで自らの殻の中に閉じこもっている心算ですか?」 「最後までリベリスタでいたいなら、あの時放棄した戦いを今再開しよう……?」 ミリィが、終が、声を紡ぐ。 願いは色濃く強く、少年たちの心へ届けと。 ――たとえそれが、勝率の低い賭けでもベットせずには居られない。リベリスタの本質は、救済を願うが故に。 「他人の身体を使うことしか能の無い臆病者はさっさと失せろ」 『臆病だなんて心外だね。僕達だってもう逃げられないし逃げる気もないように遊んでいるのに、ねぇ?』 櫻霞の挑発はしかし、ハリース達にとって響かざるものであったこともまた事実である。 自らの消滅の覚悟すら以て他者の生命を脅かす。それは子供のような言葉でありながらどこまでもまっすぐに相手を見ている証左ではないだろうか、と。 「やれるだけやって救えないのであれば諦めがつくさ」 達哉が、再びに気糸を練り上げるのとほぼ同時。 『カナメ』の杖の先端に、周囲の塵を凝集した物体が浮かび上がった。 それは人の営みに打ち捨てられた日常の残骸。平穏に裏打ちされた放置と忘却と風化の結晶。『ゴミ』というのはそういうものだ。誰もが目を背け逃げる物が溜め込んだそれは、ハリースが感応するに足る怒りを湛えていたのだろう。 だから、応じた。『九種集う悪意の棘(ナインオブイービルソーン)』の名と命に於いて、それは強かに弾かれる。 ●Prease, never say Good-bye 「ハリースと言ったか、貴様の好きにはさせん」 『もう好きなようには動いてるんだよ、おにいちゃん。これ以上のスキキライがあるの?』 無邪気さと残酷さは表裏である。昆虫を潰すように、彼らは下位チャンネルの存在をいたぶり殺し壊していく。同時に、世界の痛みを甘受する許容性すら持ち合わせながら、である。 「みんな、無事だから……だから……!」 搾り出された言葉は、まるで悲鳴のように。『コウヘイ』に拳を向け、或いは捌き、真っ直ぐに向けられた拳は宛ら彼女の吐き出し切れぬ祈りのようだと、見るものに感じさせた。 「お願いだから……お願いだから戻ってきてぇ!!!」 だから。美虎の叫び声はただただ虚しく、ただただ切ない。 胸部を強く打った一撃の手応えが確かなものとして伝わったことを、彼女も理解する。ああ、これはどうしようもない、と。殺してしまうと。 「 」 だからだろうか。最後、吐き出す呼吸に感じた声は、耳朶に吸い込まれ消えていく。 「誰かを救いたいからこそ、オレはオレのままでいたいんだ!!」 「ああ、全くクソみたいな展開だ。禁断の果実に手を出したことを後悔させてやるよ」 悲劇など見えない。最悪など知らない。何より悲しいのは悲劇に気を取られて何も救えない自分達であることを終は知っている。 だから、ここで決着を付けてこれから起きる悲劇を回避する、それしかない。 クソみたいな現実でも、確かに救える未来があるなら、それを護ることができるのだと、義衛郎は知っている。 力がなければ救えない。戦わなければ終わらない。諦めなかったから救えた過去があるのなら、諦めることで断ち切る不運だってあるのだと、彼は割り切れる人種である。 「癒しを届けましょう……」 柔らかな声で、小さく櫻子は癒しを告げる。幾度となく傷つけあう戦いに於いて、彼女無くては進まなかった。 運命を削り願いを凌ぐ戦いは、重い決意だけでは報われない。 戦いに足る力、敵を凌ぐ力、運命に抗う力……何に於いても、力が無ければ成立しない。非情にして非道でもある。 だから、結果は徐々に傾いていき、天秤が弾かれ皿からそれが零れ落ちた時こそが、戦いの終わりでもある。 殻の中から出るには、その命という外殻を砕くしか無いということを、美虎が証明した。証明『してしまった』というべきか。 レンも、カナメも、絶望の檻から自分を開放することを望まなかった。 毒々しい澱に汚され檻に囚われ、二度と浮かぶことのない奥底に留まってしまった。 故に。 『アンサング』を下ろしたミリィの眼前に広がる光景はただただ深い闇の中。 奏でられた戦場の名は『激戦』、リズムは乱調、結果は悪徳。だが、それは或いは変えようが無かったのかもしれない。 ただ、その亡骸が残されたことだけは幸福としか言いようがない。 「これで終わり、ですね……」 恋人の服を強く掴んで目を伏せた櫻子の表情は決して明るくはない。恋人と触れ合う多幸感よりも、現実を見た痛切な感情が重い。 「敗者は地に伏せるが定め、同情の予知は最初から無い」 対する櫻霞は、最初から目を瞑ることを徹底している。彼に出来ることはと言えば、その身を貸して顔をそむけることだけかもしれない。 「ふぐっ……うぐ……う~~~!!!」 顔を伏せ、膝をつき、声が枯れるまで。 救われない未来の為に尽くした少女の涙は枯れず。 世界は決断と試練を強いる。誰へでもなく救済者(リベリスタ)へ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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