●Keep no more cats than will catch mice. (鼠を捕る猫以外の猫は飼うな) ――英語のことわざ ●ワンダービースト・イズ・カミング・アゲイン 2012年 12月24日 階層(チャンネル)のどこかで どこかの世界の、どこかの場所。 『彼』はこの日も巡り続けていた。 幾多の次元の壁を超え、幾多の世界を巡る。 『彼』の目的は誰にもわからない。ただ、彼が訪れるのを待つ者は様々な世界に存在する。 彼がこれから通り過ぎるのも、そんな彼の訪れを待つ者のいる世界の一つ――青き惑星。 そして、その世界は『彼』がかつて訪れた場所。 一年前のこの日、雪明かりと月明かりに照らされた道を通って現れたこの場所へ、『彼』は再び通りかかろうとしていた。 ●ノートリアス・ビースツ・シーク・ア・ターゲット 2012年 12月24日 アーク、ブリーフィングルーム 「集まってくれてありがとう」 アークのブリーフィングルーム。 そこに集まったリベリスタたちを真白イヴは出迎えた。 「今日はとあるアザーバイドがらみのことで、頼みごとがあるの」 そう切り出すと、イヴは端末を操作する。 ほどなくしてスクリーンには映像が映し出された。 映像はとある夜のもののようで、雪明りと月明かりが画面を淡く照らしている。 そして、映像の中心には、とても特徴的で美しい生き物が映っていた。 姿は馬に似ているだろうか。 ただし、額には一本の見事な角があり、その姿はただの馬というよりユニコーンに近い。 それだけではない。 透き通った氷の身体に、純白の霜のたてがみ、そして額の角も輝く氷柱だ。 無論、普通の動物ではない。 ――幻獣。 この生き物はそう呼ばれる存在に違いない。 「雪降る月夜の幻獣フロステューン。12月24日、それも満月でありながら雪が舞う珍しい天気の日の23時から24時のたった一時間だけ現れるという幻のアザーバイドにして、ちょうど1年前のこの日、この世界を訪れた幻獣――それが『彼』」 イヴが語るのに合わせるかのように映像は進んでいく。 やがて、フロステューンがスポットライトのように射す月光に足をかけ、まるで坂道のように上っていった。 「フロステューンは次元から次元を駆け抜け、様々なチャンネルの異世界を巡るアザーバイドで、害は全くないわ。それに、その姿を見た者には幸せが訪れると言われているわ」 フロステューンを見つめるイヴの瞳は優しげだ。 「そして、あの日からちょうど1年後の今日――『彼』が再びこの世界にやって来るわ」 そう告げるイヴの表情や声音は相変わらず感情が控えめだが、今は心なしか嬉しそうにしているようにも思える。 「本来ならば、アークが介入する事ではないのだけれど――」 イヴが前置きすると同時、タイミング良くフロステューンの映像が終了する。 代わってイヴがスクリーンに表示させたのは、別の生き物の画像だった。 ネコ科の生き物と中型の肉食恐竜――ヴェロキラプトル等を足して二で割ったような外見の生き物。 細身で俊敏そうなその生き物が後脚を踏ん張り、鋭い爪の生えた手のような形の前脚を振り上げている。 「つい最近発生したエリューションビーストみたいで、アークは『フェリダプトル』っていうコードネームで呼んでる。凄まじく凶暴で、人はもちろん、それほど強くないエリューションやアザーバイドにまで襲いかかるほど」 イヴは更に端末を操作した。 すると今度は、複数のフェリダプトルが集まっている画像が表示される。 その中心には身体が一回り大きく、まるで鬣のように首周りの鱗が張り出した個体がいる。 どうやら、その個体をボスとする群れのようだ。 「そして、このエリューションビーストは一体だけじゃない。このエリューションビーストにはで狩りをする性質があることが判ってる」 先程とは打って変わって、今度は心なしか沈痛そうな様子でイヴは、また別の映像を再生した。 今度の映像は細部がぼやけており、フォーチュナが見た予知の映像だとわかる。 そして、映像の中ではフェリダプトルの群れがフロステューンへと襲いかかっていた。 「今年、フロステューンが現れる条件を満たす場所は一箇所だけ。でも、その場所は偶然、フェリダプトルのテリトリーと重なってしまったの」 映像を停止したイヴは、リベリスタたちへと向き直る。 「このままだと、フロステューンはフェリダプトルに襲われてしまう。いずれにせよ、フェリダプトルは近いうちに討伐依頼を出すつもりだった、そして何より……フロステューンが襲われるのを黙って見てはいられない」 集まったリベリスタたちを見上げたイヴは、ゆっくりと言葉を唇に上らせた。 「せっかくこの世界に、それもまた来てくれたんだもの……お願い、フロステューンを守ってあげて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月07日(月)22:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ワンダービースト・カミング・トゥ・タウン・アゲイン 「今年もフロステューンがやってきたんだ」 12月24日の23時。 月光と粉雪が降り注ぐ空を見上げながら、『』四条・理央(BNE000319)は感嘆の声を上げる。 射す月光のスポットライトの上を歩くようにして、今年もフロステューンはやって来たのだ。 静かに地面へと降り立ったフロステューンをしばらく見つめていた理央は、ふと苦笑して呟く。 「去年はフィクサードに狙われて、今年はE・ビーストに狙われるなんて、ちょっと不運だね」 理央はフロステューンとは逆の方向を振り返ると、味方に守護する結界を張った。 そして彼女は、夜闇の向こうへ向けて堂々と宣言する。 「ここは通さないよ」 その宣言に呼応するように、夜闇の向こうからやかましい鳴き声がいくつも聞こえてくる。 鳴き声とともに現れたのは八匹のフェリダプトルから成る群れだ。 ボスがやかましい声でひと鳴きすれば、後ろの七匹は即座に臨戦態勢に入る。 だが、臨戦態勢に入ったのは彼等だけではなかった。 「私もフロステューン様をお守りしたいです」 理央と同様、予めこの場にて待ちかまえていた『紫苑の癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は毅然とした態度で歩み出た。 「幸運は望みません。皆様がご無事であればそれが一番。何気ない日常が続いていく事……強いていえばそれが願い――」 フロステューンを庇える位置まで歩きながら、シエルは静かに告げていく。 「――その為にも、誠心誠意癒し続ける事で己が役目を果たしましょう」 決意を感じさせるように言い切ったシエル。 彼女に続いてフロステューンを守りに出たのは、『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)だ。 「幸せか。憎しみも悲しみも無く世界が平和であればどれ程いいか」 一人ごちると疾風は、一度振り返ってフロステューンを見つめる。 「それに、フロステューンには来年も来て欲しいしね」 見つめたのは僅かな間。 すぐに恐竜たちへと向き直った疾風は幻想纏いとして使用しているアークフォンを取り出した。 「無事フロステューンを別世界へ送る、変身!」 高らかに掲げて叫び、幻想纏いを起動した疾風は一瞬で装備を纏う。 次に現れたのは『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)。 終は戦闘が終わるまでは幻獣に興味がある様な素振りは見せない様に注意するよう自分に言い聞かせており、殊更その視線を恐竜たちに集中していた。 「あんたの相手はオレ達だよ! 余所見しちゃやーよ!!」 少しでも恐竜たちの目を引こうと、あえて終はありったけの殺気を、恐竜たちへとあからさまに叩きつける。 それが効いたのかどうかはわからないが、恐竜たちはまたも例のやかましい鳴き声を次々に上げて騒ぎだす。 「あ? やんの? オレ達とやり合っちゃうの? 上等じゃん!」 終は終でここぞとばかりに恐竜たちを煽りにかかっているせいで、場はますますやかましくなる。 そんな彼等とは対照的に、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は静かに歩み出ながら、フロステューンへと近付いていく。 「ごきげんよう。お目にかかれて光栄だわ」 フロステューンは氷璃を振り返り、じっと見つめる。 「私達に貴方の邪魔をする心算は無いけれど。貴方を狙う獣がいるようだから護らせて頂戴?」 安心させるように氷璃がそう言うと、フロステューンは静かに頷いた。 頷いた時に霜のたてがみが擦れ、綺麗な音を鳴らしたフロステューンに頷き返す氷璃。 「雪降る月夜の幻獣、中々良いものが見れたわ」 次いで氷璃は、恐竜たちへと目線を移す。 「『彼』を眺めるだけなら見逃しても良かったけれど、聖なる夜の一幕を楽しむ所か彼を狩ろうだなんて。身の程を弁えない獣には相応の罰を与えましょう」 どこか呆れたように言うと、氷璃は決然と言い放った。 「さぁ、狩られる覚悟は出来て?」 夜闇の中で澄んだ金属音が小気味良く鳴った。 「フェリダプトル、さしずめ猫強盗とでも訳せば良いのかねぇ」 ややあって今度は控えめな擦過音が聞こえ、夜闇に小さな明りが灯る。 「何だか可愛らしい響きだが、現実は残念ながらだな」 明りに目を引かれて一斉に振り向いた恐竜たちの視線を感じながら、潜んでいた『足らずの』晦 烏(BNE002858)はオイルライターで煙草に火を点けた。 美味そうに煙を吐き出した烏は、ゆっくりと物陰から現れ出てきた。 だが、今日の烏は頭や腕に包帯を巻いており、しかも包帯はどれもが血濡れだ。 どうみても酷い怪我を負っているが、それでも戦いに出てきたということだろうか? 一方、恐竜たちにしてみれば、自分たちの最も得意なタイプの獲物が現れたことに他ならない。 烏に視線を集中させたまま、更にやかましく鳴き声を上げて色めき立つ。 「あー……もう……うるさいわねっ!」 その時、少女のものと思しき声が、やかましい恐竜たちを一喝した。 突如として一喝され、恐竜たちは思わず一瞬だけ静かになり、声のした方を見る。 しかし、すぐにまたやかましくなる恐竜たちに向け、声の主――『』芝原・花梨(BNE003998)は人差し指を突きつけて言い放った。 「この世界に、あんた達キモ恐竜の居場所なんてないのよ。さっさとあたしにボッコボコにされちゃいなさい!」 フロステューンを守るべく現れ出た七人のリベリスタ。 現場に先行し、予め潜んでいた仲間たちが全員出揃ったのを確認し、最後に『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が現れ出た。 「全員、準備は完了しているようだな」 ウラジミールは、落ち着き払った声で仲間たちに向けて告げる。 「今回の任務はフェリダプトルの撃破及び、フロステューンの守護だ。フロステューンの件なしに、フェリダプトルは危険な存在だ。被害を出すことなく速やかに任務を遂行する」 そして最後にもう一度仲間たちの状態を確認すると、ウラジミールは軍人然とした声で合図をかけた。 「行くぞ――現時刻をもって任務を開始する」 「ボスの存在が厄介だ」 殺気立つ恐竜たちを油断なく観察しながら、疾風は恐竜たちのボスへと視線を集中する。 「その通りだ。しかし、逆に考えれば指令塔は奴一匹――あの個体さえ撃破できれば一気に集団としての機能の低下が見込めるだろう」 疾風の言葉に相槌を打ちながら、ベテラン軍人らしく冷静に状況を分析するウラジミール。 ほんの僅かに考え込んだ後、殆ど即決に近い形でウラジミールは決断した。 「予定していた作戦に変更はない。第一段階として宵咲女史と晦氏が陽動だ」 冷静に指示を出すウラジミール。 それに応じ、まずは氷璃と烏が動き出す。 「良くてよ」 「あいよ」 手始めに氷璃は、小動物を支配し、五感を共有する術をかけたペットを放す。 手近な茂みに放り込み、敵の気を惹く為に鳴きながら走り回らせたペットはすぐに恐竜たちに目に留まった。 やかましく鳴きながら一斉に飛びかかろうとする。 だが、ボスの鳴き声が一つ響くと、一匹を残して他の個体は再びリベリスタたちに注意を向けた。 そしてボスがもうひと鳴きすると、また別の一匹が烏へ向けて駆け出しる。 「第二段階だ。若月女史は後衛にて回復支援、中衛にて四条女史は遠距離攻撃による支援を、芝原女史はフロステューンの護衛だ」 ウラジミールの言葉を受け、シエル、理央、花梨の三人は即座に位置へとつく。 「承知致しましたわ」 「了解だよ」 「任せなさいよっ!」 三人が位置へとついたのを素早く確認し、ウラジミールは恐竜たちの観察へと戻る。 「そして自分と鴉魔氏、祭雅氏の三名は前方の敵集団に攻撃を行う――状況開始」 終と疾風の二人に合図を出すと同時、ウラジミールは地面を蹴って走り出した。 「やったろーじゃん!」 「わかった。俺も行こう」 終と疾風も前方の敵集団に向けて走り出す。 それに対し、ボスは二匹を自分の護衛に回すと、残る三匹をフロステューンへと差し向ける。 即座に三匹の進路をブロックしようとするウラジミールたち三人だが、そうはさせまいとボスと護衛の二匹が更にブロックしにかかった。 恐竜をブロックすべく飛び出した三人に横合いから襲いかかる三匹の恐竜。 この瞬間、三人と三匹は交戦状態に入った。 「とうっ!」 威勢良く声を出して気を吐いた疾風は、素早く抜き放ったナイフを繰り出した。 恐竜のほうもナイフのような爪を繰り出し、疾風に応戦する。 互いに鋭利な武器による初撃同士は、双方命中という形に終わった。 ナイフと爪、互いの刃物は互いの肩口を切り裂き、血をしぶかせる。 鋭利な刃物によってざっくりと切り裂かれたこともあって、そのダメージは決して小さくはない。 裂傷のダメージで苦しげに荒い息を吐く疾風。 だが、同程度のダメージを受けているはずの恐竜はまだ余裕が残っているようだ。 弱い者しか狩らない程度の強さとはいえやはり肉食動物。体力には優れているようだ。 相手が弱っているのを察した恐竜は、途端に嬉々として爪を振り上げた。 やはり嬉々として恐竜が振り下ろす爪を、疾風は必死にナイフで受け止める。 ここぞとばかり恐竜は爪を何度も振り下ろし、疾風の体力を削りにかかった。 「このままではジリ貧か……!」 焦る疾風に向け、またも爪が振り下ろされる。 爪を受け止めた瞬間、疾風は咄嗟に活路に気付いた。 「はぁっ!」 気合いと共に力を振り絞り、ナイフに雷撃を纏わせる疾風。 刃にしっかりと触れた爪を通し、恐竜の身体には凄まじい電流が流れ込む。 感電して痙攣する恐竜に向け、疾風はナイフを振り下ろす。 延髄へと突き立ったナイフを伝導体として再び流し込まれた電流により、恐竜は身体中から煙を吹いて絶命したのだった。 その頃、終も配下の恐竜と格闘していた。 ウラジミールと同じくナイフを得物とする終は、ナイフのような爪を振るってくる恐竜と剣戟を繰り広げていた。 両手に持つナイフを振るう終に、両手の爪を振るう恐竜。 互いに間合いを計りながら、時折行われるナイフそのものと、ナイフのような爪を打ち合う二人。 ひとたび距離が近付けば鍔迫り合いが起こる。 人間と恐竜が戦っていることに間違いはないが、その光景はさながら刃物を持った人間同士の戦いのようだった。 しかも、互いにスピードを活かした戦いを得手とするとあってか、一人と一匹の勝負は思いのほか好勝負の様相を呈していた。 だが、決定的な違いが一つある。 恐竜がただ腕二本分の爪を振るっているに過ぎないのに対し、終は二本のナイフを扱う為に洗練された武術を介しているということだ。 着実に相手の動きを覚え、癖を読み、防御とフェイントを巧みに織り交ぜていく終。 拮抗していた勝負は次第に終の優勢となり、遂には完全に終に流れが傾いた。 いつしか傷だらけになり、今にも倒れそうな恐竜に終は静かに告げた。 「あんたとの戦いじゃ、どうやら終われないようだからね」 そして終は、恐竜の喉元をナイフで一閃し、とどめを刺した。 指令塔自ら攻撃へと打って出たボスからの攻撃を受け止めるべく、ウラジミールはコンバットナイフを抜いた。 ナイフのような爪をコンバットナイフで受け止めながら、ウラジミールは足を踏ん張って組み敷かれるのに抵抗する。 「どうしても必要な時は思い切った判断もする――指揮官としては悪くないか」 冷静に相手の技量を図るウラジミール。 一方、ボスはというと闘争心による興奮からか、どこか歓喜にも思える鳴き声とともに大口を開けてウラジミールを喰い殺しにかかる。 頭部に噛みつかれる寸前、数センチの距離でウラジミールは相手の顎を押し留めることに何とか成功。 更にウラジミールは、しっかりと軸足を固めた状態から全身に力を込め、そのままボスの顎を押し戻した。 「どうした、自分たちは止まらんぞ」 押し戻しながらウラジミールは平然とした顔と余裕を感じさせる声でボスへと語りかける。 相手にプレッシャーをかけるという心理的作戦だ。 それによって焦ったのか、はたまた癇に障ったのか、ボスは不用意に体重をかけ、とにかくウラジミールを押し倒そうとする。 一方のウラジミールはその時を待っていたとばかりに身体の向きを変え、自分の体重移動と相手の体重を利用してボスの足を払った。 軍格闘技の応用でボスを転倒させたウラジミールはそのままコンバットナイフを振り下ろした。 コンバットナイフは急所に深々と突き立ち、ボスはもはや鳴き声というより異音に近い悲鳴を上げる。 そしてボスは、もはや動くことはなかった。 ここぞとばかりに襲ってくる恐竜から逃げようとするも、怪我でひきずる烏の足では難しい。 ほどなくして追い付かれた烏は銃を出すも、構えるより早く恐竜に跳びかかられ、組み敷かれてしまう。 負傷している烏にも容赦なく噛みつこうと、恐竜が大口を開けた瞬間だった。 突如、まるで怪我が嘘のように俊敏な動きで烏は近くに転がっていた銃を拾い、そのまま恐竜の口に銃口を突っ込んだ。 そして烏は躊躇なくトリガーを引き続け、恐竜の頭部を蜂の巣にする。 明らかに致命傷の恐竜はもう動く筈もない。 重くのしかかる恐竜をどけると、烏は平然と立ちあがって包帯をとった。 包帯の下から現れたのは、怪我ひとつない肉体。 「おじさんの演技も助演男優賞くらいは貰えそうなもんかね」 包帯を捨て、烏は言うのだった。 ――自分より弱い相手を狙うという敵の性質は利用できる。 そう考えた氷璃が放った囮のペットにまんまと引っ掛かった恐竜は、ボスが倒れたことに驚き動きを止めた。 そして、動きを止めたのが致命的だ。 この隙を逃さず、低空を飛行していた氷璃が恐竜の不意をついて黒鎖を絡ませた。 黒鎖で腕を口を縛られた恐竜へと、氷璃は魔力の炎を浴びせる。 魔力の炎の中でもがいていた恐竜だったが、やがて動かなくなった。 「なんて動体視力と反射神経……まさに野生動物ね」 低空飛行する氷璃によって上空から放たれる黒鎖、そして理央による正面から放たれる魔力の砲撃。 縦と横から迫る射撃を紙一重で回避しながら突っ込んでくる三匹の恐竜に、理央は驚きを隠せなかった。 防衛線を突破した三匹がフロステューンに爪牙を立てる直前、鉄槌を振りかざす花梨が割って入った。 「あんたたちなんかボッコボコよ!」 豪快に振りまわした鉄槌で三匹を殴りつける花梨。 だが三匹も黙ってはいない。 花梨を敵とみなし、三匹は総攻撃をかける。 総攻撃に晒され、花梨は深手を負ってしまう 花梨にとどめを刺そうとする三匹。 「えいっ!」 その時シエルが懐中電灯の光を向けた。 目眩ましを受けた三匹の動きが止まったのは僅か一瞬の間。 だが、その一瞬が勝敗を分けた。 「この距離なら外さないし……みんな巻き込めるよ……!」 花梨に集中攻撃を仕掛けるべく横一列に並んで密集した三匹の横へと回った理央は、すべての魔力を込めて超至近距離から渾身の砲撃を放つ。 砲撃は三匹を貫通。 それによって三匹は活動停止したのだった。 ●シー・ユー・アゲイン・ワンダービースト 「雪降る月夜に訪れる幸福の使者か~なんかお伽噺に出てきそう! 超頑張って幻獣さんと仲良くなるぞー☆」 戦いを終えて終は、びっくりさせないように武器をAFに収納すると、フロステューンに駆け寄った。 「わ~☆ 氷のユニコーンみたいだね~綺麗だね~☆」 感嘆の声をあげる終。 「……オレ、フロステューンと一緒に飛んでみたい☆」 ふと呟く終。 『彼』が嫌そうではないのを感じた終は、そっと隣に並ぶ。 すると『彼』は終の気持ちを察したように、ゆっくりと上空へと舞い上がった。 『彼』に続き、終も術を使って空へと舞い上がる。 しばらく一緒に飛んだ後、終は一人で地上へと戻る。 だが、『彼』はそのまま去っていかず、もう一度地上へと目を向けた。 そして、理央の前に降り立つと、『彼』は自分の額をそっと彼女の額と触れさせる。 額と額が触れた瞬間、理央に伝わってきたのは守ってくれた感謝、そして再会を喜ぶ思念だった。 「ボクのこと……覚えてて、くれたんだね」 喜びを共有する理央に頷くと、『彼』は月光のスポットライトに足をかけ、今度こそ空高くへと向かっていく。 「ことしのクリスマスは悪物退治……来年こそは誰かとわいわい騒げるようなクリスマスを過ごしたいわね……」 シエルに傷を癒してもらいながら花梨は呟いた。 「理央の結界がなければ危なかった……ぞっとするわ……」 痛みに顔をしかめる花梨を癒しながら、シエルは『彼』を見つめる。 「御元気で。またお会い出来ます様に。今度来て下さる際にはゆるりとお寛ぎ頂けます様に」 シエルが言うと、『彼』はたてがみを鳴らして答える。 「ボトムに遊びに来てくれてありがとー☆ 君の旅に幸いがありますよーに☆ また来てね~☆」 手を振って『彼』を見送る終。 やがて完全に『彼』が次なる世界へと旅立った後も、終はいつまでも手を振っていた。 一方、烏は動画を撮り終えたカメラをしまい込んでいた。 「動画で幸運になるかは判らんがね。イヴ君にも幸運の御裾分けだ」 すべきことをすべて無事終え、ほっと安堵の息を吐く仲間たちに、ウラジミールは穏やかな声で告げた。 「任務完了だ」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|