● AM2:00 『この家にある芸術品は呪われている』 なんて話を聞いても、普通の人間は信じないだろう。俺だってそうだ。眉唾物としか考えちゃいない。 だが、興味が湧かないわけではなかった。 「面白そうじゃないか」 もしもそんな呪われた物が存在するなら、一度は見てみたい。不思議な事ではあるが、百聞は一見にしかずって言うだろ? だから俺は、こんな夜遅くに忍び込んでみたってわけだ。 随分と長い間、人が住まなくなった洋館。 あぁ、これだけでも『呪い』があるとか噂が立つような雰囲気はあるな。 しかも住んでたヤツが芸術家で、色々と作品を作っていたらしいが、どれもこれもまったく日の目を見ることはなかったらしい。 そうなりゃ、己が認められない悔しさを胸に死んでいった。とかいう話になっても、おかしくはないさ。 洋館はもう荒れ果てているが、そんな気色の悪い噂があるせいだろう。 今のところ、ここから美術品を持ち出そうなんて気を起こすヤツはいなかったらしい。どこを見渡しても、ソイツが作り上げた芸術品がゴロゴロ転がってやがる。 「……まったくわかんねぇな」 描かれた人物画は、素人目に見ても綺麗なタッチで描かれているが、どこか不気味な感じがする。 転がってる石膏像は、恐怖心をあらわにしたような表情すら浮かべているぜ。 こんなモン、誰も欲しがるわけもないわな。 1階も2階も、そんな『わけのわからない』芸術品の山だ。芸術家の家っつーより、肝試しで使われる家じゃねぇのか、こりゃ。 地下室もあるようだが、分厚そうなコンクリートの壁に、ご丁寧に電子ロックのかかった鉄の扉と来たもんだ。しかもこの電子ロック、まだ電池が生きているようだ。 (どうせなら見てみたいもんだな) この時、そんな事を思わなきゃ……俺はこんな目には遭わなかっただろうよ。 電子ロックのパスワードは4桁。他の部屋を探索した時に見かけた数字が、そのパスワードだった。 だけどその扉が自動的に閉まった時、俺の運命は決まっていたんだろう。 鎖の巻きついた石膏像がその鎖を伸ばして、俺の動きを今、止めている。 悪魔の描かれた絵画からは、その悪魔が半身を乗り出してケタケタ笑ってるじゃねぇか。 くそ……下手な好奇心なんざ……持つモンじゃねぇな……。 ● 「彼にとっては、その好奇心が不幸の始まりだった……という事でしょう」 感知した未来の事象を告げた後、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は少しだけ目を伏せた。 男性が襲われるのは、少しだけ未来の話。そう、少しだけ――。どう急いだとしても、彼を助ける事は出来はしない。 彼の視点で未来が垣間見えたのは、それだけ無念だったということなのだろう。 「……待ち受けるのは絵画のE・ゴーレムが1体と、石膏像のE・ゴーレムが6体です」 説明を続ける和泉によれば、絵画も石膏像も、一切その場から動く事はないようだ。 しかしその周囲には妙な力場が発生しているらしく、動かない=避けないと言うことには繋がっていない。 ただ『移動しない』というだけで、他は普通のエリューションと戦うような状況を想定したほうが良いだろう。 「地下室はかなり広く、広さは40m四方ですね。絵画が扉とは逆側の最奥に。石膏像はそれよりも手前に並んでいます」 即ち入り口から10mほどは踏み込まなければ、基本的にエリューションに攻撃は届かないのだ。 さらに電子ロックの扉は10秒ほど開いた後、自動的に閉まる。再び電子ロックにパスワードがパスワードの入力を受け付けるまでには、60秒はかかると和泉は言う。 「扉は相当に分厚いため、破壊は相当難しいと考えてください。ピッキングマンならば解除はいつでも可能ですが……」 確かに、こういう扉の解除にはピッキングマンは有効ではある。だが和泉の様子を見れば、どうも別の方面で問題が発生するらしい事はわかる。 「一度でも扉を開いた後に攻撃範囲に誰もいない状態が発生すれば、E・ゴーレムの全てが自身を強化してしまいます」 もしもピッキングマンがあったとしても、戦闘エリアから離脱すれば、敵も態勢を整えてしまうと言う事か。 幸いな点があるとするなら、石膏像がどれもフェーズ1である点だろう。 「戦い方は皆さん次第です。ですが、一気に攻めきるくらいの気持ちでいくと、良いかもしれませんね」 苦戦は免れない戦場。 それでも、ここに集まったリベリスタ達ならばきっと勝てるだろう。和泉の瞳には、そんな気持ちが浮かんで見えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月28日(金)22:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呪いの真実 「呪いの正体何とやら……ってね」 問題の洋館に入り込み、そこかしこに転がっている芸術品の数々を眺めながら『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)は言う。 『この家にある芸術品は呪われている』 まことしやかに囁かれる、この洋館のこんな噂。 雰囲気は確かに呪われていそうな感じもあり、知らずに入り込めば確かに呪われていると感じる事だろう。 「エリューションと分かってしまえばコッチのモノ、殴り飛ばすだけよ」 だが蓋を開けてみれば、エリューションがいただけという事実。「……べ、別に呪いとか信じてないし?」と付け加える焔は、何やらホッとした様子ではある。本人は「ホントよ!」と付け加えてはいたが。 さておき、そのエリューションの手によって既に1人の一般人が犠牲となった。 「いろいろ怪しげな絵画を扱った事はあったけど。流石にこーいう事件はなかったな」 「動かないエリューションも案外、珍しいよね」 自身の経験を思い返しても、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)にこういった類の事件の記憶は無い。四条・理央(BNE000319)の言葉を聞く限りでも、どうやら相当に特殊な事例ではあるようだ。 「認められなかったことへの怨念か、あるいはそもそもこういう作品を好んでいたのか」 一方では『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)が居並ぶ美術品に触れ、作者の趣向を考えていた。 不気味な感じのする絵。 恐怖をあらわにしたかのような表情の石膏像。 そんなモノが眼前に転がっている上に『呪いの噂』までもが流れていれば、赤い絵の具ですら血に見える事だろう。 「倒す事には変わりないけど、どうしてエリューション化したのかな?」 などと言う理央ではあるものの、『認められない悔しさが現実化した』とでも考えた方がしっくり来るだろうか。 「生きているうちに評価を得られる芸術家は少ないがな」 当の芸術家は認められない失意の中でこの世を去ったが、ハイディ・アレンス(BNE000603)の言うように、死後に認められる芸術家も多い。 もしも生きていたら、こんな事にはならなかったのかとリベリスタ達は誰もが思うものの、芸術品は既にエリューション化し、動き出している。 「決して詳しい訳ではないのでそれらに芸術的価値が有るかどうかは知らないが、エリューション化し害を為すのであれば……作者には悪いが、最早破壊するしかないな」 ならば『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)の判断は正しく、破壊する以外の道は無い。 「手が及ばず助けられませんでした、けど。これ以上の被害が出ないように、なんとか、しなければ」 既に被害者が1人出てしまっている事を苦々しく感じている『Sword Maiden』羽々希・輝(BNE004157)は『絶対に倒す』という気持ちを胸に秘めて。 リベリスタ達は、エリューションの待つ地下室の扉の前に立つ。 『電子ロックのパスワードは4桁。他の部屋を探索した時に見かけた数字が、そのパスワードだった』 聞いていた情報の通り電子ロックが厳重に扉を守っているが、ここに来るまでの道すがら見かけた数字がパスワードならば、鍵など無いも同然だ。 「じゃあ、行くぞ」 ハイディの手により、ゆっくりと打ち込まれていくパスワード。ガチャンという音と共に鍵が解除されれば、エリューションとリベリスタを隔てるのは僅か扉1枚。 その扉を開けば、そこはもう戦場である。 「博物館には収められそうもありませんからね。今宵芸術は只のゴミになる」 果たして『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の言葉通り、美術品のエリューションをゴミと化す事は出来るだろうか? いや、してみせる。 確かな気概を胸に、リベリスタ達は扉を開いた――。 ●侵入者を捕らえる縛鎖。 ドアの開放と同時に明るくなる室内を見れば、自家発電でもしているのだろうか。 そんな中でピカピカと光る石膏像の目が侵入者、即ちリベリスタを睨み、射抜く。その周囲に視線を移すと、犠牲になった男性の遺体が目に留まった。 「分かっていても、悔やまずにはいられないわね。だからせめて、貴方の仇ぐらいは私達が取ってあげる」 真っ先に部屋に飛び込んだ焔は、その遺体を目に誓いを立て、 「ま、喰われちまった奴は半分自業自得だけどさ。次が来ないとも限らねーし、危なくねー様に綺麗に掃除しときますかね」 彼女より前に飛び出した和人は、遺体を一瞥すると同時に手近な石膏像に近づく。それが、まず最初の標的だ。 「ええ、こういう時こそ掃除屋の出番ですね」 そして3番手に入り込んだあばたに続き、続々と地下室へ突入するリベリスタ達。 この突入と同時に理央は守護結界を展開し、ハーケインは和人の近づいている石膏像を暗黒に包み、戦端は開かれた。 ……いや、まだだ。 「境界最終防衛機構が一員にして、遊流癒龍運送社受付、姫宮心! いざ護らせて頂きますのデス!!」 心の名乗りをもって、戦端は完全に開かれた。名乗りって大事ですよね。 ジャラリ……と鎖が動く。 誰かが握っているわけでもない、ただ石膏像に絡みついただけの鎖が、独りでに動く。それがエリューションとなった石膏像が得た能力でもあり、攻撃手段でもある。 「真っ向勝負! ――当たって、砕いてやるわ!」 その鎖が絡みつく前に勝負を決めればと、炎を纏った焔の攻撃が石膏像の顔を殴り飛ばす。 さらに攻撃が続けば、鎖が飛ぶ前に1体くらいは倒せていたかもしれない。 だが、焔の後に続いたのは仲間の攻撃ではなく――。 「少しは楽しませてくれそうだな……来るぞ?」 和人がそう言うが早いか、鎖がリベリスタ達に牙を剥いた。半分は絡みつくように。もう半分は薙ぎ払うかのように宙空を舞う。 「くっ……結界が!」 「厄介な鎖ですね……」 絡み付く鎖に捕らえられたハイディと輝の身を包む結界が消え去り、縛鎖がその身に絡みつき。そして残るリベリスタ達は縛り上げられはしなかったものの、それぞれが手傷を負うに至る。 加えて絵画から伸びた闇の針が、前に飛び出している和人や焔を襲い、さらに彼等の身にじわりじわりと傷跡を残していく。 「しっかりと準備しても、鎖が絡めばこうなるんだね……」 そして消滅した守護結界を施した理央は仲間の傷を癒しつつ、鎖の厄介さを目の当たりにし、小さく呟いた。こればかりは石膏像の攻撃が攻撃であるだけに、運に左右される問題ではあるだろう。 「ならば全力で砕いたほうが、早いかもしれんな」 「確かにそうだね。でも……」 そんな会話を交わし、攻撃に転じるハーケインとあばた。だが精密すぎる射撃の軌跡を描いたあばたは、何やら気になることがある様子だ。 「石膏像の弱点ってどこだよ……」 どこを狙って砕けば良いか。それが彼女の悩みらしい。 「いいや、基本に忠実に正中線を撃ち抜いてやる。割れてしまえ」 「そうよね、それで良いと思うわ」 結論、全部叩き割る。あばたの判断に焔も頷き同意を示したところで、彼女の悩みは吹っ切れた事だろう。 その時、1体の石膏像が和人の手によって今、砕け散った。 「数は後5つだ、気を抜くんじゃねーぞ? 回復は任せたぜ」 後ろを振り向いた和人は鎖に縛られたハイディを、次に輝を。最後にその鎖から仲間を解き放つ役目を担う心に視線を送り、言う。 「任されたのデス!」 ドンと胸を張り、邪気を討ち払う光を放った心の手によって、ハイディと輝を縛り付ける鎖が解け、2人を解放していく。 前を行くリベリスタ達を支える心と理央。2人の存在は、この戦場において重要――生命線だと言っても過言ではない。 「出遅れたが……ここからだ」 「……私に勇気を貸して。私の力、【凍てつく乙女】」 鎖を外してくれた心に礼を言いつつ、2体目の石膏像へと攻撃を仕掛けるハイディと輝。彼女達が前線に出た事で、一層戦況は楽になるだろうか。不安要素である美術品達の方が動きが早いと言う点さえ、どうにかクリアできればだが。 「――ドイツもコイツも景気の悪い顔してるわね。だったら今からその顔を面白い顔に作り変えてやるわ!」 先んじてハイディ達が攻撃していた2体目を見やった焔の手よって、面白い顔(?)に作り変えられる石膏像。 「お前達の実力はこの程度か? もっと来いよ、存分に相手をしてやる」 直後にハーケインの挑発が飛ぶものの、美術品達は人間の言葉に耳を貸すことも無く、まして感情など持ち合わせてもいない。ただ粛々と、侵入者を排除する事だけが目的なのだ。 ヒュン……! そこへ先程と同じく石膏像の鎖が飛び、今度は最後尾に立っていた心が鎖に絡め取られてしまう。この時、和人には心の鎖を解き放ちにかかる選択肢もあった。だが彼は心が自身で戒めを解くだろうと信じ、攻撃する事を選ぶ。 理央にもその手段があったものの、和人が自由に動いている状況だからと使用を躊躇ったようだ。 それはリベリスタ達の戦略に生じた、僅かな隙。 ほんの小さな綻びではあるが、積み重なれば破綻する可能性もなくはない。 「面白い顔か。しかし、面白いというよりは……な」 そんな中、数体の石膏像を纏めて暗黒に包んだハーケインが焔に対して何やら言いたそうだ。2度の攻撃を受けパラパラと破片を散らばらせる石膏像は、面白い顔というより、 「……砕けてますよね」 鋭い射撃で石膏像を砕いたあばたの『砕けた』という表現が正解か。彼女に対しては絵画の影の槍が勢い良く飛び貫くものの、それは後ろに控える理央に癒してもらえば良い。 「まぁ良いんじゃねーの? どうせ全部こうなるんだろ?」 ぶっちゃけて言ってしまえば和人の言う通りにはなるだろうが、はたしてそう上手く行くだろうか。 「そうだな、このまま押し切るぞ。――外が硬いなら内側から破壊するのみ!」 いや、行きそうだ。和人が攻撃を加えてヒビの入った3体目の石膏像が、ハイディの拳によって内側から破裂するように砕け散っていく。 「この剣に気持ちを込めて……行きます」 転がる男性の遺体に軽く視線を移した後、輝が鞘から横一文字に剣を抜き放った刃から生じた風が、4体目の石膏像に浮かぶ一筋の傷。 いかに鎖に動きを止められようとも、大半のリベリスタが攻撃一辺倒で動いているのだ。それを考えれば、和人の言葉が現実になる時は近い。 「石膏像にご退場いただくまで、そうはかからなさそうデスね! それまでに鎖をなんとかしないとデス……!」 「そうだね。なら、私達も気を抜かずに行こう。支援は任せて、しっかり支えてあげる!」 何とかして鎖から抜け出そうともがく心と、その近くで再び透き通った歌声を上げる理央が見守る中、1つずつ着実に石膏像は破壊されていく。 唯一問題があるとするならば、鎖に絡め取られた心が何時動けるようになるかという部分だけだ。 彼女が動き出さない限り、縛鎖からは自力で抜け出す以外に方法はない――。 ●影を操る絵画 「後は絵画だけだな」 苦戦しながらも6体目の石膏像を叩き割った後、ハイディは最後に残った絵に視線を移す。 確かに絡みつく鎖は厄介な攻撃であり、戦いの最中、ハーケインが先程身に纏った闇の武具や、理央の展開した守護結界などはほぼ全て打ち消されてしまっていた。 加えてリベリスタ達が受けた傷も、そう軽んじる事が出来るレベルでもなくなっている。 「抜け出すのに時間がかかってしまったのデス……」 心が自由になったのはつい先程の事。それが彼等の傷がより深くなった現実をもたらしていた。時として、運というモノは非情で残酷と言う事か。 「今の私には全力を尽くすしかありませんから。我が身を省みる余裕は、ありません」 中でも体力的に最も劣る輝の傷は深い。それでもここまで倒れずに持ちこたえている点では、かなり善戦していると言えるだろう。 「速攻で一気に畳み掛けんぞ!」 「目玉でも額縁でも脳天でも、好きなところに穴を空けてやる」 だが攻撃態勢を崩さない和人とあばたにとって、その程度はどうという事はないようだ。 『ゲラゲラゲラ……!』 対する絵画のエリューションは、あばたの言葉に『やってみろ』と言わんばかりに笑う顔を見せている。 「まずは私からっ! ――アンタ、見た目可燃物なのに絶対者とかどんな詐欺よ! だったら、コッチよ! ……ぶっ飛びなさいっ!」 しかも絵画のエリューションであるクセに、この絵画は燃えないのだ。焔がその部分を『詐欺』だと感じるのも無理は無い。 (鈍い……っ!) その場から決して移動しない美術品。かといって攻撃が当て放題というわけではなく、その周辺には妙な力場が形成されている。 先程全て破壊した石膏像も同じように力場を展開してはいたが、焔の感じた手応えは石膏像のソレよりも強力な『何か』を殴ったような、ぐにゃりとした感覚。 「流石はフェーズ2か」 その強さは石膏像の比ではない。打ち込まれる影の針に力が抜けていくハーケインも、その確かな実力を肌で感じ取っているようだ。 (態勢を整えるなら、今だったかな) 最後尾で戦況をしっかりと見ていた理央は、守護結界を展開するなら今のタイミングだったかと思うも、今は傷を癒す事が重要ではあるだろう。 「その程度で止まる程ヤワじゃねーし、俺」 彼女の眼前では力が抜けながらも和人が強引に攻撃を仕掛け、あばたも何度目かの1$シュートを撃ち込んで賢明に攻め立てていく。 もしも下がってバリアフィールドを絵画が展開していたら、もっと大変な事になっていただろう事は想像に難くない。 「……引くわけにはいきませんね」 「あぁ、殺された人のためにもな」 ここで引けば、逆に危険だ。殺された男性の仇を討つためにも、絶対に引けないという気持ちを持って、攻撃を続ける輝とハイディ。 例え僅かでも少しずつでも、攻撃を当てていかなければ、リベリスタ達に勝ち目はないのだ。 「石膏像みたく辛め取られる事はないのデスが、流石に簡単にはいかないデスね……」 ハーケインや和人を蝕む闇の力を必死に解除しつつ、心はどうにか絵画に直撃を与えられないかと考えをめぐらせ、 「今が頑張りどころだよ、チャンスを見よう」 仲間達の傷を癒しながら、理央が助言を飛ばす。そう、焦っても仕方が無い――と。 さらに言えば、石膏像のように動きを封じられるわけではない。 「ああ、回復してもらうまで待てば良いのだからな」 少しだけ。そう、心の放つ浄化の光が飛ぶまで待てば、ハーケインのように全力で攻撃を打ち込む事も可能なのだ。 果敢に攻め立てるリベリスタと、必死に抵抗する絵画の攻防。 「この身が運命に愛されている限り、戦えます。まだ戦い続けます!」 絵画の槍に貫かれて崩れかけた体を、手にした【Freeze Maiden】を床に突き立てて持ちこたえた輝が吼える。 「無理はするな。だが、だいぶ押し込めてはきたな……」 彼女にそう告げたハイディは、突入時より明らかに絵画がボロボロになっている姿に、もう少しで勝利が見えてくると感じているらしい。 否、実際に手の届くところまで届いている。 「もう少しだよ、頑張って!」 そして最後となる歌を理央が歌う中、その瞬間は遂に訪れた。 「少しはマシな顔付きになったじゃない。でもサヨナラよ?」 拳を叩き込んだ焔が、絵画に別れを告げる。 笑い顔を苦しむ顔に変化させ、描かれた悪魔はその動きを止めた――。 ●呪いの終焉 「終わったなー」 絵画の消滅を確認し、勝利を実感する和人。 砕け散った石膏像の欠片と、ボロボロになった額縁だけがエリューションがそこに『居た』証か。 「何故このような所に来たのかは、分かりませんが……貴方も運命に見捨てられた方。誰にも気付かれないまま逝くほど、寂しいこともないでしょう」 もう1つだけ証があるとするならば、殺害された男性の遺体だろう。 彼の遺体に近寄った輝は「せめて弔いはしてあげたい」と考えているらしく、それを拒絶する者もいない。 「……助けてあげられなくて、ごめんなさい」 「……御免ね」 静かに祈り、救えなかった事を悔やむ輝と焔。 しかしエリューションが倒れた今、これ以上の被害が出る事は無いのだ。 「これで、ただの心霊スポットになったかね」 不気味な絵や像の並ぶこの洋館は、和人の言うようにいまやただの心霊スポットと化したと言える。 「だとは思うがな」 「肝試しにはちょっと早いかな?」 とは言え、今は真冬。ハーケインや理央が「まだ少し早い」と考えるのも無理の無い話だった。 「まぁ良いじゃねーか。好奇心旺盛な奴ってのは止め様がねーからな。安全にお楽しみください、ってな」 そんな事は些細な事だと笑い飛ばした和人を先頭に、リベリスタ達は帰路につく。 主の居なくなった洋館は、エリューションと言う主を失い、再び『そこに存在するだけ』の存在となった。 そして男性の遺体はアークが回収し、後に丁重に葬られたようだ――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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