●12/24は振休 -Shine ba iinoni- 鈴が鳴る。 嗚呼、鈴が鳴る。 鈴の音は死への呼び水。葬送の調べ。 嗚呼、今年も、奴らが来る。 真紅に染め上げた衣が地平を埋めて、星空に混ざる朱の色が、まるで飛沫のようでいて。 「めりぃ……」 「りぃりぃ……」 「めりい……」 赤き軍勢の雑踏が、ギュッギュと雪を踏み固める。 軍勢の最奥で腕を組み、堂々と構えたるは指揮官めいた威風ある老人。 チャリオットを引くは、雑兵などとは比べ物にならない程、巨大で重厚なツノを持つ獣。 「め、り、ぃ……」 威風ある老人は、おもむろに立ち上がる。手刀のように揃えた形の掌を、手首の所で直角に振って合図を出す。 合図と同時に、赤い軍勢はめいめいチャリオットに乗り込み、鞭を振るう―― 「「「「めりぃ! くりすまああああああす!」」」」 地を揺さんばかりの、怒号が響き渡った。 ●ストイックに過ごしたい貴方へ -Battle X'mas- 「仕事だ。リベリスタ諸君」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は静かに言った。 恐るべき映像を目のあたりにしたリベリスタ達。ブリーフィングルームに響き渡るは、息を飲む音に唾を飲む音。音、音、音。 「見ての通り。巨大な角の生えた真っ赤な鼻の獣に雪上用の車を引かせ、一般家庭の住居に忍び込んで寝ている子どもを覗きこみ、傍にある靴下に大小様々な物体を無理やりねじ込む変質者の軍勢と戦ってもらう!」 デス子が手刀をズバッと水平に切る。 人類(主に恋人がいない)の宿敵とも云え軍勢である。 「敵は、陸軍に空軍と見事な連携を見せる。 陸軍は対物ライフルをチャリオットに標準装備。クロスイージスとて油断はならん。 空軍も機関銃を装備して掃蕩してくるものである。後衛も安心はできない」 しんっと、静粛が支配して、リベリスタ達は各々顔を見合わせる。そして―― 「上等だ……」 ニヤりと鮫の様な笑みを浮かべながら、一人のリベリスタが言葉を発する。 「戦場はどこだ?」 そう、ここで廃れては人類ではない。 世界を維持するリベリスタとして終わってしまうのである! 「場所は三高平。――ATSだ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月10日(木)22:45 |
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■メイン参加者 29人■ | |||||
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●勇者が集う日 -12/24 12/25- 赤き軍勢、その赤き地平を眺めながら、勇者達は肺を空にして白い吐息を吐き出した。 この日、集った勇者の数は30。対する赤き軍勢は、およそ500では数え足りぬほどの大軍。1/10にも満たない絶望的な物量を目の前に、体温を奪うは冬将軍。 「めりい」 「めりい」 「めりい」 「めり、い」 「めりい」 「めりい」 『絶望』が、ただただ、粛々に、赤き軍勢から唱和される。 それを目にして、それでも―― 「よろしい。ならば嵐だ!」 ――勇者達の目は死なない。 ベルカは、腕を太刀の様に振り下ろした。 ピンッと立てた四本の指が、赤き軍勢へと向けられた刹那に、30名の勇者達は各々得物を携えて、『敗北へと向かう戦い』に駆けだした。 開幕の射撃戦。 硝煙の嵐が吹き荒れて、鼻をくすぐり、耳に突き刺さる銃声と雄々しき音。 「あはははhahahahhhhh! 見渡す限りのサンタサンタサンタ! サンタサンタサンタッ!!」 エーデルワイスは硝煙をぶちまけるように銃を乱射した。 乱射、といえども正確にサンタの眉間を貫き、チャリオットの要を砕く。 「クリスマスなんだから、綺麗な華を咲かせなさいよ、真っ赤にね!!」 ふと眼前に、サンタが放った砲弾が、点の様に現れ爆発四散する。 「行け! 同士ベルカ! 同士与作! 同士弐升! 近接しろ!」 隆明は硝煙の煙の合間から、赤き衣の目標が見えるや、即座に銃を抜き打ち、声を張り上げながら"赤"を撃ちぬいた。 「一度で駄目なら十、十で駄目なら百、千、万と撃ち込み全てを撃滅する! 鉄風雷火の限りを尽くしこの白銀の世界を真の赤に染めてやろう!!」 赤き暴風。乱射に次ぐ乱射。練磨に練磨を重ねた隆明の射撃の腕前。 対する敵勢は、しかし、その隆明の技量をあざ笑うかの様に、何もかも飲み込まんばかりの圧倒的な物量で、砲弾の雨が降り注ぐ。 爆発が、隆明を飲み込んだ。 「隆明さん……くっ!」 煙幕のように与作が駆ける。 単騎駆けこそが兵の華。サンタが眼前、手の届く領域に入るや、残幻を生じさせて短剣を振るう。 「俺の仕事は、陸軍の掃討――」 接敵、即座にサンタの喉笛を掻っ切って、次々に血煙を起こす。死体を乗り越えて、後続のサンタが無限のように湧いてくる。 「掃討には少しばかり骨が折れそうですね。何とも厳しい。ならば――」 一人でも多く撃墜する事。同士ベルカは『必ず必要になる』と胸裏に抱き、短剣を握り直せば、全身に再動の活力が湧く。空を見る。手が届きそうなチャリオットを確認する。目掛けて跳躍する。切り落とす。 「じんぐるべるである!」 与作の着地地点には赤き軍勢が待ち構える。待ち構えていた。 弐升が、獣の様な唸りを上げるチェーンソーを片手に、周囲の軍勢をなぎ払う。「ハァ……」とため息をつくその胸裏は何か。弐升が拓いたそこへ、与作が着地する。 「その赤い衣装、もっとどす黒い赤色で染め抜いてやんぞゴルァアアア!」 割と本気である。渦巻く灰色の嫉妬を糧に、切り開かれる突入口。 「……悪いが、早々簡単に包囲はさせん!」 火迅。 拓真が迅速なるリロードに次ぐリロードでもって、嵐のごとくに弾丸を放つ。 自動拳銃から昇る硝煙を、片手の白金のきらめきが切り裂けば、裂けた煙の間を通す様に更に銃が高鳴らせる。深く切り開かれた突入口。突入して行くは炎陣と迅雷。 拓真の微笑、尻目と微笑で応じる迅雷――悠里。手甲からぱちりと電撃を跳ねさせて。 「合わせるよ火車!」 悠里が声を発し、雷と化してが駆け抜ける。群れを黒く焦がす。 「敵は須く潰す! それだけだろ!」 炎陣――火車が、雷を追うように駆け、その最奥のサンタの顔面を掴む様に掌底を打ち、そのまま燃やし、握りつぶす。 「二人だけで倒してくれるなよ、俺の相手が減ってしまうからな」 後ろから拓真の声。 「そんなに心配しなくても、よっと! 拓真にもしっかり働いてもらうよ!」 後ろからの悠里の声。 「へっ! 相手が欲しい? 欲しけりゃ手前で分捕りなぁ!」 火車は憎まれ口を二人に投げる。労いは無用の間柄。三人は次の獲物に視線をやった。 突入口は深く深く切り裂かれ、後続に控えた勇者をなだれ込ませる。 「後れを取るな、葛木。この戦場は一瞬の隙が命取りとなる」 優希は、相棒とも腐れ縁とも、悪友ともつかない、背後を預けた相手に忠告を飛ばした。 優希は、サンタからの無数の砲弾を受け、その赤い髪と同じ色に全身を染めていた。赤き液体が得物を伝う。握り直す。赤き気魄を更に昇らせる。 「はっ、そういうお前もな──!」 猛は、優希と撃破数で勝負をするという取り決めをしていた。負けるわけにはいかない。 青き電光を携えて、拳を握りなおす。一歩も引かず、ほとばしらせる蒼き雷光。 敵陣に深く踏み込んで守りを固める事。 悪態だけで事足りる間柄。その連携は、次に突入口を切り開く為。 死守せねばならない頃合いを察し、二人は"息のあった死守"を見せる。 ――ここへ、天空から弾丸が降り注いだ。 それは勇者達を支援するものではなく、掃討するかのように。 入り乱れた戦況である事も辞さずに、同士撃ちも辞さずに、空に在るチャリオットの群れの一斉放火が注がれる。敵の空戦部隊である。 勇者達が精一杯に耐え切れば、弾丸の次には癒しの光が降り注ぐ。 メイの癒しの光。 「1500機の敵を30機ちょっとで迎撃する気分だと思ったけれど……」 だいたい的を射ていた。と空に在ったメイは胸裏に響かせる。空から眺める圧倒的物量差。しかしそれに立ち向かう勇者達を回復する。 回復をひと通り施し、程なくして、一斉放火の合図を出したサンタを見据えた。向こうからも、こちらを凝視しているかのような視線を感じる。ちりちりとうなじが焼かれる様な殺意を覚え。 殺意の視線からメイを守るようにして、黒い影が飛び出した。その黒い影はハエたたきの要領で、サンタを叩き落とす。 「落ちるまで暗黒飛ばしまくってやるぅぅぅぅ!!!!」 フランシスカだった。 風車の様に次々と、闇一色の斬撃を八方に飛ばし、サンタの首を次々攫う。攫う。攫―― ぱしっ 奇妙な音がフランシスカの耳に入った。 巨大な黒き剣を、まるでキャッチャーフライを捕るような形で、素手で掴んだ存在。 黒き風車の風が止まり。見れば、身長が1mにも満たないサンタが一人。 "ソレ"は背骨は大きく曲がり、ずんぐりとした体躯。しわくちゃな顔でフランシスカを見上げながら、大きく口を開き。 「HO! HooW! Hoo!!!! メリイ、HAHAHAHAHAHA――――!!!!」 陸にて、二度目の吶喊。 赤き軍勢に大きく切り込んだ勇者達は、たった一人の存在に足を止められた。 長身のサンタが、ゆらりと上体を上げる。その身は物理も神秘も遮断する結界に包まれている。 「め、りぃ――」 幽鬼の様にやせ細り、青黒い肌をした"ソレ"は、尋常ではない気魄を放ち、ひょろりとした人差し指を勇者達に向ける。 左右の目は別々の方向を向いている。歯の無い口が、弧を描くように釣り上がり、頬肉を醜く撓ませ。 「め、り、いひひひひギギギひひひひ!! めりい! りい! めりい!」 陸と空。 奇怪な長身のサンタ。その笑い声が地上に響き渡った。 奇怪なずんぐりとしたサンタ。その笑い声が空に響き渡った。 それぞれに在る勇者達の胸裏に、脅威が疾走った。 ――幹部か! 「ヘマこいちまったか、俺はもう、ここまでだ……頼んだぜ、ベル…カ」 隆明は携えた銃をベルカに差し出す。 「地から届くチャンス……概ね遂行しました」 与作の手からは、地対空を遂行した短剣が。 「些事だ。二人の死すら、些事として。屍は踏み越え征かん。作戦は続行だ……。続行! 捻り潰せ、悉く。悉く!」 与作と隆明の目を、撫でる様に伏せながら、ベルカは激を繰り出す。 結界に守られし長身のサンタと真っ先に対峙するは拓真。 「……生憎と、俺にはそれは通じんよ」 狙いすました貫通弾で、長身のサンタの結界を砕く。 今だ! という拓真の声に、悠里が応じて奇怪なサンタに吶喊する。 「よし、行くよ二人共!」 再び電光。長身のサンタの全身を穿ち、その奥のサンタすらなぎ払い。 「その面、丁寧にぶっ潰してやるからなぁ?」 火車が、長身のサンタの頭を挟みこむような形で、両拳を打ち合わせる。 ぶじゅりと血味噌が漏れでて、それでも笑う長身のサンタは、結界を張り直す。自分ごと砲弾を撃ちこむよう部下に『めりい』と指示をだせば、砲弾の嵐と爆音が集中して、硝煙の霧が生じる。 ここで狙いすました様に、ベルカが神秘の閃光弾を放つ。 宵闇に光る閃光。これが皮切り。 「袋が無いならば身に付けているもの全て! 最後に魂と命をもらおうかしらね?」 エーデルワイスが、長身のサンタの心臓部を弾丸で貫く。 「なにゆえ戦うのか。戦闘こそ我が喜び。刻まれる者こそ美しい……」 弐升は、聖夜に相応しい詩的な言葉を紡ぎながら駆ける。 「さあ、このチェーンソーでバラバラになるがよい!」 二人の同士、否! 同志の仇。 チェーンソーを真っ直ぐに突き出し、エーデルワイスの穿った部位を更に抉り、そして一撃離脱する。 「俺達を本気で怒らせた事。それが奴らの敗因だ。奴を叩き潰すぞ、フラムブルー!」 「あんな『めりいめりい』笑う奴に、舐められて終わるんじゃねえぞ、クリムゾンレッドォ──!」 弐升が離脱したそこに、優希の一撃。次ぐ猛の拳。 奇怪な長身のサンタの胴体は真っ二つになった。 ●巨獣グレイト・クリスマス -Great X'mas- 闇の中に赤々と飛び交う赤き軍勢の圧倒的物量は、敗北へ向かう戦い。 この戦いに、勝利と呼べるものがあるならば、たったひとつしか無いのである。 戦場にかき鳴らされる怒号。 熱狂と悲鳴と痛みと昂揚の混ざり合った熱い空気を、冷たい空気を引き裂く咆哮。 ――――ブオオオオォォォOOOOOhhhhhhhhh!! それは、たった一歩歩むだけで、地を揺らした。 それは、突入口を切り開いてきた勇者達の目前に、『現実』が非情である事を教えていた。 それは、そびえ立って額に迫る程に強大であった。 「……どこのバイデン軍団だよ、コイツ等」 切り開かれた血路を抜けたツァインが、笑みを浮かべながら"それ"――グレイト・クリスマスを見上げた。 グレイト・クリスマスの向こう側には、巨大なチャリオットが存在し、その頂点に立って腕を組んだ老人がチラチラ見える。 「このデカブツより先に、キングサンタやっつけたら俺らの勝ちじゃねーかな?」 アキツヅが煙草を咥えながら誰ともなく呟く。見れば、『へのへのもへじ』なグラフィックの、アシュレイの様な格好をしたバーチャルな人物が、グレイト・クリスマスと対峙している。 「そう……持ちそうにないな」 ここでどれだけ時間を稼ぐか。稼げるか。ここはそういう戦いであると確信する。 「人類(主に恋人がいない人)の天敵を倒します。えへへ」 かれしのいないさみしいマリスが、ツァインが目視したもの『後続』に一斉中継する。 グレイト・クリスマスの横を抜けて、チャリオットへと『後続』は駆けるのを見送った4名。グレイト・クリスマスと対峙する事を決めた4名。強靭にして堅牢なるクロスイージスが3名に、支援をするレイザータクトが1名は―― 「いくぞ皆の衆、突撃じゃあ!」 正宗は、組んだ腕を解き、声を張り上げた。 各々が得物を携え、吶喊する。 全霊を防御を固める時間は、アシュレイめいたバーチャル人物のお陰で十分にある。 そして全身の筋肉が裂けようとも辞さない全力を叩きこむには十分な時間がある。 「ここが手薄いな。多少に手伝っても良い」 デス子が乱入する。じぶんの誕生日にかれしのいないさみしいデス子が乱入する。支給品のグレートソードをグレイト・クリスマスの足に深々と突き立てる。 ――――ブオオオオォォォOOOOOhhhhhhhhh!! グレイト・クリスマスの前足が宙を泳ぎ、その蹄を地面に叩きつける。 アシュレイもどきが消し飛び、衝撃が近接していた正宗とツァインを襲う。 「ワハハハハ! これでこそ闘争よ!」 「へ、300秒が、なんだってぇ!?」 耐え切る正宗とツァイン。ついでにデス子が戦闘不能とあいなる。 「って粋狂堂ぉー! 何真っ先にリタイアしてんだ! メディーック!」 あっさりとやられたデス子に、ツァインが狼狽する。 「やっぱりこの巨体。範囲攻撃で来たか」 アキツヅは親指を立て、人差し指をピンと伸ばした形の手を、真っ直ぐにグレイト・クリスマスへ向けた。 「ばぁん!」 アキツヅが正宗とツァインに施した浄化の鎧。グレイトクリスマス自身が放った振動が連続して反射し、木霊し、共鳴してグレイト・クリスマスへと返っていく。 マリスが戦闘指揮とマスターテレパスを紡ぐ。 『多少でも食い止められるように動きます。後は任せました』 この声が『後続』への最後の連絡となった。 ●温度感というもの -Temperature sense- 「ずずず……」 前線基地。 御龍は、戦いの様子を見ながら茶を啜っていた。 敵とは言えサンタもプレゼントを運送する存在。 運送業者を営む手前、何とも親近感があり、今回の演習はとても乗り気ではなかったのである。 「ずずず……」 「……こんなにあっさりと……不覚」 丁度、デス子を担ぎ込んできた所だった。 演習とはいえ、割と冗談じゃない難易度をマジに設定した張本人は、その本人すら手に負えない勢いに、しくじったと歯噛みする。 「デス子さんあんなに勢い良かったのにあっさりやられちゃってぇ……持ち前の変態兵器はどうしたのよぉ……ずずず」 「クリスマスなど大嫌いだ。クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされる悲しみなど分からんだろう、貴様、遠野」 既に与作と隆明は担ぎ込まれて、七面鳥を毟っている。 突入口を切り開く為に尽力し、そして果てた英雄である。 フランシスカもそのへんで目をぐるぐる回している。サンタ空軍を相手に流石に多勢に無勢にも程があった。無念である。 「ずずず……。ああ、お茶がおいしいねぃ」 こたつに蜜柑。 ガスストーブの上で、ヤカンが呑気に湯気を出していた。 ●最期の戦い -vs King Santa- 『後続』は布陣した。 サンタ軍団を相手に、血でもって路を切り拓いた勇者達。 悠然と立ちふさがったグレイト・クリスマスを、ただただ抑え続けている勇者達。 意志を受け取り、その意志を託された彼らは、巨大な獣を尻目に、次に巨大なチャリオットを見上げ肺を空にした。白い吐息。深呼吸。ピリピリとした戦場の空気が、冷たく肺臓を満たしていく。 「じんぐるべーるじんぐるべーる」 ウーニャはミニスカサンタの姿で、愉快に朗らかに生誕祭を祝う歌を唱える。 「プレゼントひとりじめだあああ と思ったら、なんなの!? デスサンタだった!! 責任者出てこい!!! デス子! デス子どこいった!!」 元凶はとっくに運び込まれているのである。 『め、り、いっ』 ウーニャの明るい声を覆う様に、重厚でいて響き渡る声がした。 勇者達は巨大なチャリオットから飛び降りる赤を見る。 それは、勇者達の眼前に盛大に雪を飛沫の様に舞い上がらせながら降り立ち、雪飛沫の中から威風堂々と恰幅の良い腹を揺らして現れた。3m程の巨人が―― 『めりい……』 鋭き真紅の眼光。重厚で真っ白な髭。 沸き立つほどの血中クリスマスが、気化して口から洩れている。 何かが大量に詰まっていそうな袋を軽々と担ぎ、恐るべき殺意を勇者達に惜しげも無く撒き散らす。 ――キングサンタ。 「まあいいわ……せっかくだから血のクリスマスといきましょうか」 ウーニャが殺気を返礼とばかりに得物を向けると、キングサンタの胴体はみるみる膨らみ。 『め! り! いッッッッ!! クリスマァァァァスッッッッ!!!!』 キングサンタの怒号が、勇者達の何名かを一気に跳ね飛ばした。これが勇者達の気魄を、心の臓を高ぶらせるには、十二分な戦闘開始の合図であった。 キングサンタは驚異的に動けるデブであった。 怒号即座に、担いだ袋を降ろし、両の腕を地面に叩きつける。グレイト・クリスマス並の超振動が駆け抜ける。衝撃が吹き荒ぶ。 怒号に耐え切った夏栖斗が拳を構える。 「せっかくの大将首。バッチリ倒さないとだな」 怒号に耐え切ったDT・快が護刀を構える。 「3DTを仕掛けるぞ! これは演習だが遊びではない。繰り返す――」 前足を力強く踏み出して、揺れる地面を。抜ける振動を。抑えつけるようにすれば、後列より最速。鷲祐が跳ぶ。 「……前線に出る捨て駒に、語る言葉などない」 鷲祐はキングサンタに肉薄する。絶対に勝つと。未来とともに、明日の栄光とともにと。そして―― 「「「「そあらさんが「ころすのです」と言ったから、今日はキングサンタの命日!」」」」 夏栖斗とDT・快と鷲祐が唱和する。 心はひとつ。キングサンタへの哀れみを抱きながら、駆け出す! 一方そあらは「あたしは純白ぴゅあなホーリーメイガス」と、ピュアっぽくきらきらと癒しのぴゅあソングを歌い、ピュアっぽく皆を支援する。ピュアっぽく「ころす係りは皆さんにお任せするのです」と、実にピュアっぽい。 ――ぴゅあ殺す。 ――癒し殺す。 鷲祐が風の様に翔け赤を更に赤く切り刻む。夏栖斗の拳がキングサンタの腹に、波紋を生じさせる。 『め、り――「俺は、トナカイだ! 千里を駆ける名トナカイだ! マリルたんを羽ばたかせるトナカイなんだ!」 キングサンタが苦しみの『めりい』声を、突如、竜一の咆哮がかき消した。 サンタ衣装を着たマリルを背に、漢が吠えて一直線にキングサンタへと吶喊する。 「ロリコン竜一は、あたしをあそこまで運んでいくといいですぅ」 マリルは手に蜜柑の皮を持ち、キングサンタをキリリと睨む。 『め、り、い』 キングサンタの眼光が眼前。 「キングサンタめぇ! あたしのウルトラ必殺『破滅のオランジュミスト』をくらうといいですぅ!」 ――蜜柑の汁。であった。 かつて、ぬこまくら、という何とも枕なのかぬこなのか、解しかねるアザーバイドを一網打尽にした、必殺の一撃をキングサンタの爛々とする目に叩きつける。 『め、り、い!』 よろける様にキングサンタは、目を抑える。 「今ですぅ!」「ああ、今だ!」 竜一は合図を発しながら即座に上を見る! マリルのスカートを覗きこむ。 「バカな……ガハッ!」 ――驚愕。マリルはスパッツであった。 認識した瞬間、竜一は自壊して血味噌となる。 「竜一!」 DT・快が叫び、次に歯噛みする。 「くそ……、キングサンタめ……」 「ヒャッハアアアア!!! サンタは消毒だーー!!」 ウーニャは衝撃で弾き飛ばされた即座に、手をついてくるりと着地する。闘志十二分。 「子供の夢を壊すわるーいサンタさんはしょーどくだー☆」 終が二本のナイフを器用にくるりと回し、握り直す。 「こんな恐ろしい王様がいるだなんて、サンタ様の国はとても危ない場所だとまおは思いました」 かげやもりさんならぬ、テラーオブシャドウを展開し、まおは気糸を生じさせる。 「\みんないくよっ! わるいサンタさんをやっつけるのっ!/」 後ろに控えたミーノが右手をえいっと高らかに応援をする。マスターファイブ。空から不穏な影が生じているものの、まだ到着まで時間はある。ミーノの戦闘指揮。害獣と一緒。わるいサンタを消毒するという胸中は一つ。応援が走り抜けた即座に、害獣"以外"が吶喊した。 「あらやだ☆ おじさまったらおひげがぼうぼうよ! オレが剃ってあげるね!!」 終のナイフを振り抜く。キングサンタの髭が平らになって白き毛がぱらりと散る。刃に伴った音速の衝撃がキングサンタの帽子を吹き飛ばせば、キングサンタの頭部が横目に見える。 「あらやだ☆ おじさまったらあたまにもおひげがはえてるわ!」 もう片手のナイフの刃を内側に向けて引き切る。 「動きを少しでも止めるのがまおのお仕事です」 まおがよじよじ、もぞもぞと、3mの巨体を上り、気糸をシャーっと絡める。ねっぷりと張り付く。 「やもりが、すきです」 かげやもりさんならぬ、テラーオブシャドウを伴いわらわらと、ぎちぎちと、そういう完成する。 「みんな、がんばって! うーにゃんもがんばる!」 目をキラキラキラキラさせながら、ウーニャは汚く中衛から傷癒術を投げた。害獣は汚くてなんぼである。色々と実際汚い実際汚い。 「狙うはやはり大将でござる!」 虎鐵が重厚な得物を納刀したまま、トンッ、とキングサンタの眼前に推参する。裂帛の気合でもって抜刀。次ぐ納刀。続く抜刀が、雪飛沫の中に白い鋼の煌めきを生む。 「疾風、居合い斬り」 ――キン、と鯉口を鳴らし後方へ跳ぶ刹那に、キングサンタの全身から爆ぜる紅牡丹。 「ふ……つまらぬ者を斬ってしまったでござる……」 摩訶は、借りてきた猫の様にぷるぷるしていた。 「ええ、正直周りの顔ぶれが豪華すぎてとっても萎縮していますとも! 認めますわあ!」 然して日を置かない内に、演習ならばと参加したこの場、この祭り。周囲を見れば、堅牢なるDT、波紋を生じさせる程の土砕掌、神速、竜一、破滅の蜜柑の皮、\ぶれいくひゃー/、髭剃りシングルヘル、やもり、汚い害獣、紅牡丹。 「力不足は承知の上、せめて足止め役になれれば上々!」 全力で放った魔氷の拳がキングサンタの腹にズボリとめり込めば、キングサンタが氷漬けになる。 『め、り、――』 キングサンタの動きが止まる。 「あれ……固まった?」 夏栖斗は狼狽した。 本来、夏栖斗の読みは当たっていたのであった。様々な状態異常から即座に復帰してしまう程の強大な力をキングサンタは持っていた。それでも、ほんの僅かな可能性が勝った結果。それが眼前に在った。 「なんだか知らんが、一方的に殴れるチャンスという訳か。――刻め、神速斬断! 『竜鱗細工』ッ!!」 「竜一の仇だ」 竜一はマリルのスパッツ共に死んだ。 「HO! HooW! Hoo!!!! メリイ、HAHAHAHAHAHA――――!!!!」 空の幹部が介入し、本格的に戦いは激化した。 勇者達の一斉攻撃がキングサンタへと注がれ、グレイト・クリスマスが嘶き、残り時間がない事を告げる。キングサンタの復活。次々と倒れる仲間達。 グレイト・クリスマス対応に向かった面々が稼いだ時間すら費やして。 何度目かのまおのデッドリーギャロップが放たれる。 「皆様とてもやるきまんまんDEATHので、まおも頑張ります。あれ、今英語をまおは話しましたか?」 デッドリーギャロップをほんの少し、きゅっとして。ぴらりとピンク色の獣めいた道化のカードが舞う。 「真打・鬼影兼久が我が魂。我が全霊! ぶっ飛べでござる!」 虎鐵の白き鋼色が煌めいた刹那。 『め、り、いいいいいいいいい!!!!』 キングサンタの血中クリスマスが沸き立ち噴火する。 秘されしサンタ魔法最大の術が開放されるのか。 勇者達の視界は白光に閉ざされて―― バーチャルな空。バーチャルな寒さの中。 白光の向こう側の空には、文字がただただ呑気に浮かんでいた。 Congratulation! Happy Christmas! presented by Suikyo-do |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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