● 「さて、皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンが今年もクリスマスの到来をお伝えします。どれだけ拒絶しても来るんですから楽しみましょう。あ、普通に楽しい人はそのままでいて下さいね」 一言多い『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)はいつも通りにそこら辺にいたリベリスタを捕まえて話し始める。 その手には小さなカード。 カラフルなそれに描かれているのは雪降る景色と雪だるま。 「スノーグローブってご存知です? スノードームの方が日本だと一般的らしいですけど、つまりあれです、丸っこい硝子の中に水と飾りが入ってて、揺らすとラメや雪に似せた白い飾りが降って来るやつです。あ、これ参考資料に借りてきました」 並べられたそれは大中小、形も中身も違うスノーグローブ。 とん。掌に収まるくらいの小さいスノーグローブには、半分開いたプレゼントボックス。 カラフルなラメパウダーが、箱から飛び出してきたかのように踊っている。 「で、ですね、これの市場……という程のものじゃないですけれど、これを取り扱う店舗が屋台形式で幾つか集まって催しをやるそうなんです」 クリスマスに関連したスノーグローブが多いが、並んでいるのはそれだけではない。 可愛らしい動物や花を模した飾りが入り、花びらや羽のパウダーが降るもの、或いは人気のキャラクターや映画の一場面を再現したもの、時期は過ぎたがお化けを閉じ込めた蝙蝠パウダーの降るハロウィンのもの。スノーグローブと言う名前上冬のものにも思えるが、硝子の金魚と涼しげな青の透明パウダーをあしらった夏向けのものもあるという。 「ぼく、普通の丸いのしか知らなかったんですけど、硝子の周りの装飾に凝ってるものも多いんですね。水晶を守るドラゴン、とか心弾みますよね!」 下にライトを仕込んだものもあるから、夕暮れ時を越えて見に行くととても綺麗らしい、とギロチンは笑う。 とん。掌サイズの中くらいのスノーグローブには、寄り添う男女。 銀色のパウダーが、優しく彼らの周りを舞う。 市場の近くにはおもちゃ箱のようにカラフルにライトアップされたクリスマスツリー、売店では寒さに負けないようにスパイス多めのチャイも売っているという。 あとはケーキ状のジンジャーブレッド。 一見するとブラウニーにも見えるそれは、プレーンとレーズン入りの二種類で、口に入れればショウガが香る。スノーグローブを模して丸く切られたジンジャーブレッドの中心には、クッキーのジンジャーブレッドマンが乗せられていた。 買う予定はなくとも、綺麗に輝くスノーグローブを見て、お菓子とチャイで温まるのも良いだろう。 とん。両手で丁度良いサイズの大きなスノーグローブには、大きな大きな雪だるま。 雪の結晶を模したパウダーが、さらさらと降り積もる。 「で、ここではオリジナルのスノーグローブの作成もできるそうですよ。当然あまり大きなものは作れないですし、素体自体はキットになっているので変わった形のものとかもできませんが、中に入れるものはある程度好きに選べるそうです」 サンタやトナカイ、雪だるまにそりにプレゼントボックス。 クリスマス期間だから、会場で用意してあるフィギュアはその系列のものだけ。 変わったものを入れたいならば、小さなサイズのものに限り許可して貰えるだろう。 「ね、本物の雪もいいですけど。掌に積もる雪も素敵じゃありませんか?」 だから遊びに行きましょう。 フォーチュナは笑って、小さなスノーグローブを振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月02日(水)23:16 |
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■メイン参加者 32人■ | |||||
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● 周囲の音を封じ込めしんしんと降る雪は、上がる湯気を際立たせる。 「……何故モツ鍋が」 「まあ、ほら、寒いし」 突然のモツ鍋空間。天乃の疑問を受け流し、快はその皿に鍋の中身をよそう。 フリー使用のテントの一角。視線の先には降り積もる雪と、青紫に染まった空の下で輝く光。 一年が巡り、再びこの季節に巡りあえた事は、リベリスタにとっては幸運なのかも知れない。 特に、熱心なリベリスタにとっては。 黙々とよそった鍋の中身を食べる天乃を眺め、快は呟く。 「お疲れ様。――相変わらず、傷だらけだな」 「……お疲れ、様。相変わらず、って言うのは……心外」 大きな案件。一つの因縁。共に挑み、それぞれの結果を得た彼らは、未だ死へとは踏み込んでいなかった。迫る死を聞きはしても、捕らえられてはいない。 無言の食事の間、再び快が口を開く。 「――黙っていなくなるのは、無しにしてくれよ」 「……別れ、を、告げる暇があれば、ね」 気のない様子で答える天乃の本質が、戦を求めるものであるのを快は知ってはいるのだけれど。 それでも、失いたくない、という理想を捨てる事はない。 例え彼女が、いつか快や仲間とも相対する事を願ったとして、それは変わりないのだ。 だからそっと、彼は天乃に酒を注ぐ。 ● 「はい。今日はこちら、スノーグローブを作ります」 「はい、ぺいじま先生」 突然の教育番組。 こじりと夏栖斗、息の合った恋人同士は軽い掛け合いをしながら席に着く。 並べた材料は、パステルパウダーに粘土。 粘土? と首を傾げた夏栖斗に、こじりは空のガラスを突く。 「ねぇ御厨くん、どうせだからお互いに似せた人形を入れましょう」 「あ、いいね、じゃあ僕こじり作るよ」 普段は虐げられたりもするけれど、それも結局は愛。なんだかんだで可愛い彼女に、夏栖斗はへらりと顔を緩めた。 こねて、こねて、ぐにぐにこねこね。 「……出来た」 茶色の粘土で、愛しい彼氏を作り上げたこじりは、眼差しを和らげ満足げに頷いて、 ごちゅ。 叩き潰した。どこからか出したハンマーで。 「なんで叩き潰したん!? 今死ねとか口の中で呟かなかった!?」 「気のせいよ。間違えちゃっただけだから。それより御厨くんは出来た?」 彼氏の突込みを気のせいでオールスルーして、こじりは手の中の『自分』を見やる。 夏栖斗ははっとしたように、その『こじり』を出した。 「できたよ! こじりちゃん(増量)!!!」 ごちゅっ。 こじりちゃん(増量)に、本日二度目の叩き潰しが入った。 「ね、なんで四つん這いなの……?」 「え? トナカイっぽくと思って。何なら赤鼻もつけましょうか?」 「いらないよ!?」 「冗談よ。……貴方が入る位大きな容器があれば楽なのにね」 「僕水中呼吸持ってないからダメだってば!」 「冗談よ」 ……どうやら完成までは、前途多難な様子である。 そんな息子は全く視界に入れず、虎鐵は張り切った様子で――というかテンションがおかしいレベルで盛り上がりつつキットを前に考える。 「娘の為に、拙者精一杯作るでござるよ!」 クリスマス用のフィギュア、雪が積もり入り口にリースが飾られたログハウス。 その前に立つのは、虎鐵と娘を模した人形だ。 散らすのは雪の結晶。温かみのあるログハウスに、二人仲良く並ぶ親子。 「ござふぅ……天使でござふぅ……スノーエンジェルでござふぅ……」 それだけ言えば微笑ましい情景なのだが、何故だろう。 ニヤニヤしながら呟く虎鐵の言動が怪しすぎて全然微笑ましい気分にならないのも事実である。 こんなに愛する娘へのクリスマスプレゼントは、当然もう準備してある。 けれど、プレゼントと一緒に置くのもいいだろう。 上手に見せるなら、なるべくオーソドックスな方が。けれど折角渡すのだから、多少難しくても拘りたい。 「ぬおおお! 拙者は! 頑張るでござるよ!!」 そんな相反する心を抱き、虎鐵は娘の笑顔を想像しながら無骨な手で人形を並べた。 「ミリィさんとこういう所を見て回るの、ちょっと想像できなかったわ」 「私も……糾華さんとこうしてお出掛けできる事になるなんて、ちょっと前までは考えもしませんでした」 顔を見合わせて、ほんの少し微笑みあった。 煌くスノーグローブは美しく、多数並ぶ姿は壮観。 年は近くとも、触れ合いの少なかった彼女達にとって互いは遠い人。けれど一度近付いてしまえば、こんな風に同じ時を過ごす事だってできる。 糾華の作るのは、黒い洋館に雪の結晶、銀のラメ。蝶々を愛する彼女は黒の蝶を入れるのも忘れない。 彼女らが過ごす、『黒蝶館』に似せたそれ。 「思い入れを形にするのも新鮮ね。……ミリィさんは?」 「……家族、ですね」 子供を真ん中に手を繋ぎ、仲睦まじく歩く家族の光景。 銀色のパウダーが、それを輝かせるように控えめに舞っていた。 暖かいその光景からそっと目を逸らし、糾華は口を開く。 「この間、……戦いの時ね。貴女が私を庇った時の攻撃は、本当に死に至ってもおかしくない一撃だった」 目の前で散った赤。倒れ込むミリィ。 「戦いの結果、私が死ぬのは仕方ないと思う。でも、私を庇って死なれると……その傷は癒えないわ」 ミリィは言葉に、目を伏せた。 「……私はきっと、臆病なだけなんです。失うことを恐れている。だから、恐れる余り、過ちを犯したのでしょう」 死を操る『楽団』の前に、危うく玩具を一つ増やす所であったそれ。 そんなミリィを、糾華は怒ってくれた。 少し嬉しかった、って言うと、変ですかね。怒られるのが嬉しいなんて。 はにかんだように呟くミリィに、糾華は淡く微笑んだ。 「もうやらないって言ったけれど。ミリィさん、貴女、本当に恐ろしい子」 喪失を恐れる少女等は、スノーグローブに降る雪に、目を映す。 一際賑やかなのは、ウラジミールにフツ、大和に優希、雅が集まるテーブルだ。 「スノーグローブって凄いなって昔から思ってたのよね」 「私達でも作れるものだったんですね」 「ね。驚いたわ」 見本に置かれた雪だるまのスノーグローブを振って真ん中に置く雅の言葉に、並べられた材料を眺めながら大和が答える。 ちらちらと降る雪は可愛らしいが、さて。 「このようなものは余り作った事はないのだが」 顎に手を当てて、ウラジミールは考える。 とは言え、別に工作の類が苦手な訳ではない。 工作用の汚れてもいい服に身を包み、髪が落ちないように帽子もしっかりつけている彼の装備はこの中で最も重装備と言って差し支えないだろう。 てきぱきと並べられる材料を隣に、優希は並べられたフィギュアからいくつかを選び出した。 「こういうのは想像力だな」 優希が並べるのは、サンタ、サンタ、サンタ。よく見れば、片方は服が黒く蝙蝠の羽も生えている。対するは、真っ白なサンタ。 『その荷は頂く!』 『全世界の子供達にプレゼントを配る邪魔はさせん!』 うん、こんな感じだろうか。 エキサイティングな情景を作り上げる優希と同じくサンタを手に取った大和。 帽子と袋を掴んで慌てて駆け出す姿の先には、無人のソリを引くトナカイ。 「慌てん坊のサンタクロースがいるくらいですから、寝坊しちゃうサンタクロースだっているかもしれませんね」 くすくす。絵本のようにコミカルな微笑ましい風景に、微笑む。 フツが準備したのは、アーク本部や学校のミニチュア。 「なあ、三輪達もミニ・三高平に取り込ませてもらっていいかい」 そう言って取り出したのは、青い蛇に赤い炎、黄色い猫にオレンジのカボチャ。 大和に優希、雅にフツ本人をイメージしたそれも加えて、作り上げる。 「凝ってるな、フツ」 「うむ、細かいものだ」 優希とウラジミールの賛辞を受けながら、小さな三高平市を掌の中に。 雅も、もう作るものは決まっている。 台座部分にツリーを立てて、並べるのは色とりどりのプレゼント。見付けて喜ぶ子供達。 「こういう風に、いつの間にかサンタのプレゼントがある、って感じにプレゼント貰ってみたかったな、昔……」 ぽつりと口にしてから、はっと首を振る。 「や、なんでもないや。それはそれとして、皆できた?」 並ぶスノーグローブは、大和の思う通りに十人十色。 「焔はサンタ同士の対決とはよく思いつくなァ」 「雅のは……ああ、クリスマスの朝は、こうだったな……」 「大和のは可愛らしいわね。流石。このサンタは絶対ソリの上で寝るわ」 雅が慌てるサンタを指差して告げた言葉に、零れる笑い。 寒さなど忘れる程に、それは暖かく。 光るトナカイの下、杏と真独楽は背を向け合ってスノーグローブを作っていた。 仲が悪い訳ではなく、互いに贈り合う為に『覗かないでね?』と可愛らしく告げた真独楽の為。 杏はスノーグローブを前に、軽く考える。 「テーマとしては、やっぱりあたしとまこにゃん、だと思うんだけど……」 真っ白な女の子と、女性のフィギュアだけではどうにも特色が足りない。 と、そこでふと思い付き、チーターの尻尾と天使の羽をそれぞれに。 顔や色がなくとも、これでしっかり誰だかは分かるはずだ、と杏は表情を緩める。 散らすのは、きらきら光る音符のパウダー。音楽が満ちる中、添う二人。 一方真独楽も、浮かべるのは大好きな一番のお友達。 ギターを持ったガラス製のサンタのパートナーは、ドラムセットとトナカイ。 それだけではなく、パウダーは銀の音符に、羽と黄色の雷。 青いリボンを結んだならば、それは杏をイメージした世界で一つだけのスノーグローブ。 「はい、杏!」 「ありがとう、まこにゃん」 出来上がったそれを交換しながら、笑い合う。 「音も出たらいいなって思ったんだけど……それは、杏の歌があるもんね」 「任せてよ。……まこにゃんの、すごく素敵だわ」 「杏のも! 来年も、たっくさん遊ぼうね!」 ● 下からの光に、ラメパウダーが反射した。 ゆっくりと七色に変わるものもあれば、青い光で幻想的な光景になるものまで様々だ。 「こんなに並んでいると圧巻ね。きれい……」 傍らのランディの腕を取って微笑むニニギアだったが、すぐにはっと別のテントへ彼を引く。 早く早く、と笑いながら手招く彼女に、ランディも目を細めた。 小さな鞄からニニギアがいそいそと取り出したのは、三頭身の小さな人形。 「ふっふっふ。私とランディなのです」 「おお。よくできてるなあ」 向き合わせて、両手を取り合う。 次はパウダーだ、と隣を向けば、僅かずつスノーパウダーを混ぜ合わせるランディの姿。 台座にいるのは、キャンディやクッキーが所狭しと吊るされたツリーと、人形。 「……私?」 「え、ニニに似てるか?」 見上げたニニギアに、視線を逸らし。実際の所、間違いなく彼女ではあったのだが、そんな事を言うのは大きな男としてちょっと恥ずかしい。 そんなランディの性格も分かっているのだろう。ニニギアは嬉しそうに笑って頷いた。 軽く振って見せれば、きらきらと輝くラメ。 「わ、きれい。想像以上にきれいでロマンティック! ね、ランディ!」 「ん。綺麗だな」 はしゃぐニニギアに向けた言葉は、スノーグローブではなく彼女へと。 「懐かしいな、小さい頃持ってたけど落としてブッ壊しちゃったっけ……」 記憶を辿るが、流石にどんなものかは覚えていない。 だから昔の再現とはいかないけれど、自作ができるのならば好きなもので作ってみよう。 そう考えたプレインフェザーが取り出したのは、小さな骸骨。メキシコの楽団、マリアッチ。 陽気なそれの元に降らせるのは、銀の粉雪。 さらさらとした雪に、一つ混じるは金の星。沢山あっては、大事なのが分からなくなるから。 だから、星は一つだけでいい。 「雪の中に、ドクロの楽団と、星一つ」 それはとてもシンプルなスノーグローブではあるけれど、思い描けるストーリーは無限大。 自分は、これを見た客人は、その時どんな話を想像するだろう。それを考えるだけで面白い。 「今度こそ、落とさないように大事にするか」 もう小さな子供ではなくなった、と、少女は掌のスノーグローブに笑う。 ソンブレロに、雪と星が静かに舞い降りた。 大きな瞳を瞬かせてスノーグローブを眺めていたそあらも、自作用のテントへ。 凝ったデザインのスノーグローブも、指先に乗りそうな可愛いサイズもいいけれど、折角だからオリジナルがいい。そあらが選んだのは、サンタ帽を被ったスノーマン。 「おうちからいちごを持ってきたのです」 取り出したのは、いちご好きなそあららしいデコパーツ。 マフラーを巻いたスノーマンにいちごを持たせ、帽子の縁にもあしらって、散らすのは白いラメと羽のパウダー。 イメージは、雪降る丘に舞い降りる天使。 うん、と満足げに頷いて、そあらはスノーグローブを振る。 「すごくよくできたですから、これはあとでさおりんの机の上に飾っておく事にするのです」 きっとこのいちごだけで、彼は製作者が誰だか気付いてくれるはずだから。 童心に返る。クリスマスならば、そんな事も許されよう。 「折角ですし、『自分の考える最強のスノーグローブ』を作って交換しません?」 「……スノーグローブに最強ってあるの?」 尤もといえば尤もな返事をしたエレオノーラに、ミカサは軽く頷いた。 子供っぽいですか、と問う彼に少し考えたエレオノーラだが、貴方らしいわね、と首を振る。 とはいえ、作るのも交換するのも吝かではない。 エレオノーラが選んだのは、雪の積もったログハウス。傍に歩くのは、キツネやトナカイ。 平和な森の中、ソリの横にはサンタクロース。きっとこれは、出発前の風景。 「ミカサちゃんはどんなの作ったの?」 振り向けば、その小さな風景に降るのは、煌く雪。 小さな天使に寄り添う猫、並べられた木々の足元には、無色透明のビー玉が光る。 輝くラメは、極寒の地で雪に混じる氷の粒にも似て。 「雪は好きだと、聞きましたので」 掌にそれを乗せたミカサは、彼の故国が雪の降る国だと知っている。けれど、それを恋しく思うのかまでは知らない。それでも、渡すならば好きであろうものを。 そんな気持ちを読み取ったのか、少女姿の老獪な彼は一つ笑う。 「うん。いいものね。でも、最強って言うからには判定が必要じゃないかしら」 「……断頭台くんにでも聞いてみますか」 問うた彼らが、『……スノーグローブの最強って何ですか?』とエレオノーラの最初の問いを返されるのは数分後。 「ふわー!」 「おっと、迷うなよミミルノ。こっちだ」 スノーグローブに負けないくらい目を輝かせて感激するミミルノの手を引くのは、竜一。 しっかり『お兄さん』な面を覗かせながら、竜一が取り出したのはサンタ帽を被ったピンクのくまさんフィギュア。言うまでもなく、ミミルノをイメージしたものだ。 おおー、とまた目を輝かせるミミルノの為に、寂しくないように動物のフィギュアも持ってくる。 「な、ミミルノ、他に何かあるか?」 「うーんうーん……あっ、ゆきといっしょにあめとかくっきーとかふってきたらみんなしあわせになるのっ!」 選んだのは、きらきら輝くスパンコールの様な薄いお菓子たち。 竜一が準備した雪の結晶と共に、動物達の元へと降り注ぐ。 「ほゎ~、ゆきといっしょにたくさんのおかしがくるくるうごいておいしそうなの~」 「ミミルノがこれからも、皆と仲良くたくさんの友達に囲まれるように、な」 竜一の言葉に頷くと同時、きゅるる。鳴ったお腹に、笑ってその頭を撫でた。 「完成したし、何か飲み食いしに行こうか」 「うんっ!」 元気の良い声が、テントに響く。 そんなミミルノとは逆に、冷静沈着――のように見えなくもない陸駆は、四苦八苦していた。 空気が入ってしまう、と考え込む陸駆を見ながら、鷲祐も首を傾げる。 「なんで俺は天才芸人小僧と一緒にこんな事してんだ。俺んちの庭で」 ちなみに鷲祐の家は公園にある。まあだからつまりここは庭だ。 この間は家を焼いたからな! 作り直してやろう! という剣呑というか明らかに割の合わない事を言い出した陸駆に連れて来られたのは、スノーグローブ作り。 不思議なのは、決してそれが嫌ではなく、まして余り関わっていないはずのこの少年に覚える懐かしさ。 それは、金の瞳が懐かしい誰かを思い出すからなのか。桃色の雪が降る自分のスノーグローブを置いて、溜息一つ。 「何やってんだ、ほら、ちょっと貸してみろ」 「む、いやできるんだぞ。ちょっと手こずっただけで……天才を困らせるとはこのスノーグローブも天才だな!」 「ああ、全く天才的スノーグローブだな」 その後も考え込みながら作る陸駆は、天才とは言うものの鷲祐にとって見れば案外可愛い子供。 ようやく出来上がったスノーグローブを差し出す陸駆が、ふと、掌に何かを触らせた。 「……それは」 いつかの記憶。誰かの記憶。彼らだけが共有する、知らぬ、知っている、その記憶。 「やれやれ」 唇の端に浮かぶ笑み。 「俺が最短距離で届けてやるよ。未来と、この天才の活躍をな」 「天才が活躍するのは当たり前の事なのだ!」 「はいはい」 全速力で駆けて行った『彼女』を思いながら、鷲祐は陸駆の頭に手を置いた。 「スノードームって名前は知ってたけど、スノーグローブなんて呼び方もあったんだな」 「俺はまず、そんな名称があったとは知らなかった」 友達の家にあったのを親にねだったのだ、と笑う木蓮に、龍治は目を細める。 スノーグローブのような可愛い小物を愛でる機会など、今までなかった。 けれど木蓮と一緒に居ると、そういったものをよく目にする。 人形を持ち込んだ、と笑う彼女に頷いて、傍で眺める。 「ふふふ、白い鹿と銀色の狼のセットだ。龍治の分もあるから安心してな!」 「……お前に任せる」 楽しそうに作業をするその姿を見るだけでも良いのだけれど、木蓮が楽しそうだから。 「な、龍治の方にだけ、白木蓮の造花入れちゃっていいかな」 「ああ。構わんぞ」 自分を示す花。頷いた龍治に、木蓮はまた微笑んだ。 「……そうそう。ねだったって話だけどさ、結局意味のない置物は邪魔になるからって却下されたんだ」 「……そうか」 「でもこれには、意味がいっぱい詰まってるから、俺様嬉しいぜ」 目の前に翳して呟く木蓮の掌に、映る光景。寄り添う鹿と、狼。 「……俺としても、意味があるものとなったからな」 だから、あの窓際に、ずっと飾っておくとしよう。 囁いた龍治の手を、木蓮が微笑んで、握る。 「スノーグローブって初めて作るのだ」 「まあ、初めてだが、何とかなるだろう」 少々そわそわした様子の五月とは対照的に、いつもの冷静さを保つのはユーヌ。 ちょっと自信がない、とへしょりと耳を下げる五月だが、頑張るのだ、と強く頷く。 「じゃじゃん、用意したのだ!」 取り出したのは、センタービルを模したフィギュア。五月が目指すのは、雪降る三高平市。 「ユーヌはどんなのを作る? やっぱり独創的なのだろうか……」 「いや? 普通だが」 そう言いながらユーヌが取り出したのはいきなり和風な野点傘と火鉢。 「サンタも老人、野点で茶を飲むのも良いだろう」 けれど、サンタだけでは少し寂しい。あまり表情には出さず考えるユーヌの目に留まったのは、五月。 「ああ。膝に黒猫が乗ってても和みそうだ」 「む? ……おお、ユーヌは器用だな」 正座して黒猫を膝に乗せた形にサンタを作り直すユーヌに目を輝かせる五月の手先はどうにも危なっかしく、手伝いたくはなるのだが―― 一生懸命作っている以上、手出しは最小限にするのがいいだろう。 真剣に作っているのを見ているのは、楽しい。 「な、ユーヌ、どうだろう!」 「よくできている。えらいえらい」 ただ。紆余曲折しながら自力で作り上げたその姿を、撫でて褒めるのだけは止められなかった。 同様に、細かい作業が得意ではなかったのはデュボワだ。 「地道に丁寧に積み重ねる、それがあたくしのモットーですものね」 苦手だからって逃げたりはしない。まずは挑んでみるのが大事。 まずは入れる飾りは何にしよう、折角クリスマスなのだから、奇をてらわずに時節のものを。 それにやっぱり折角なのだから、なるべく多く、賑やかに。 「中央にサンタクロースを置いて、っと……」 赤、金、青、オーナメントやジンジャーブレッドマンが飾られたクリスマスツリーに、リボンを巻いたプレゼントボックス。サンタの後ろに控えるのは、ソリとトナカイ。 雪の結晶とラメが降り始めれば、そこは雪降る聖夜の一幕。 「きゃあ、かわいい!」 努力の結晶のスノーグローブ。雪を降らせながら、デュボワは金の髪を揺らして微笑んだ。 ● 満ちるのはチャイを作る鍋と、ジンジャーブレッドから零れるスパイスの香り。 甘い冬の香り。 「三高平ではじめてのクリスマスだもんねー」 この、楽しげな雰囲気を是非残しておきたい。 そう考えた旭は、どーれーに、しーよーおーかーなー♪ と掌に残す記憶を探す。 中央に置くのは、笑顔のサンタ。 降らせるスノーパウダーに混じるラメのパウダー。 まるでサンタが振り撒いているかのように、一緒に小さなプレゼントも舞った。 「きらきら輝くクリスマスの主役はサンタさんだから」 謂れは知らない、日本で暮らす旭にとって、クリスマスとはそういうもの。 けれどこれは随分とよくできた、と思う。誰かに見て貰うなら……、と、動かした視線の先には、この催しに誘ったフォーチュナが凛子とスノーグローブを作っている。 「ギロチンさんギロチンさん! みてー、ほら、きれー!」 「あ、本当だ。凄いですね旭さん、賑やかで綺麗だ」 振られるスノーグローブを身を屈めて眺めたギロチンに、旭は誇らしげに笑う。 「ね、クリスマスってたのしーねぇ……♪」 「はい。ぼくも楽しいです」 また来年も、楽しいといいですね。笑うギロチンに旭も頷く。それはきっと、間違いない。 「で、断頭台さんはこういうのを作るのはどうなんですか?」 「やー、ぼくはそんな得意じゃないかもですねえ。センスがどうにも」 サンタとトナカイ、そして雪の積もる家を並べながら首を傾げた凛子に、ギロチンは笑って答えた。 並べるのは雪だるま、プレゼントボックスに雪の結晶。 シンプル同士のスノーグローブが出来上がった後はチャイの時間。 「クリスマスのお話をと思うのですが、何か思い出はありますか?」 「思い出……うーん、ぼく三高平に来る前は大体一人の人と一緒だったんで、こんなに多くの人が一緒だと楽しいですね!」 氷河さんは? 問い返すギロチンに、凛子は微笑んだ。 その後ろを、チャイを片手に、もう片手を繫いだ夏栖斗とこじりが、ジンジャーブレットを齧るミミルノと竜一が、過ぎて行く。 終は並ぶフィギュアを、片方の目を細めながら眺めた。 二体の小さなそれ。愛嬌のあるカラスと、愛らしい白うさぎ。 本来ならばあまり共には並ばないであろうそれが並んでいたのは、きっと、ただの陳列ミス。 それでも、終の目を引いたから、彼らは今ここにいる。 台座に二体を並べて、傍にはクリスマスツリー、プレゼントボックス。 とても楽しい、クリスマスの光景。 そっと上下に揺らせば、白い雪の結晶と、オーロラ色のラメが寄り添う二体に舞い落ちて、積もる。 「メリークリスマス」 微かに笑って告げる、届かない言葉。 天国にも、雪は降っていますか。 まだ終わらない彼に、返る言葉は未だない。 雪は、掌にも街にも等しく降り積もり。 世界を白く、輝かせて行く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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