●彩雪の世界 聖なる夜と呼ばれる日が近付く或る日。 「みんな、一緒にクリスマスの世界に遊びに行こうぜっ!」 『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)は元気の良い声でアーク内に集った仲間たちに呼び掛ける。尻尾を全力で振る少年は期待に瞳を輝かせ、皆に誘いの概要を告げた。 「雪が降っててさ、ツリーも景色も物凄く綺麗なんだ。ええと、それからさっ」 喜々として語る耕太郎だったが、内容は断片的で要領を得ない。 その様子を見兼ねた少年フォーチュナ、『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)はやれやれと肩をすくめ、部屋にあるモニターの電源を入れた。 「まぁ、先ずはこれを見て貰った方が早いね」 画面に映し出されたのは、しんしんと雪が降り積もる光景。 そして、色鮮やかな電飾やオーナメントで飾られたクリスマスツリーがある小さな広場だ。 それは通称VTS、仮想現実を作りあげる体験装置内の映像だという。 耳を澄ませば、空間内には何処からクリスマスめいた鈴の音も響いている。 「ツリーと雪しかない静かな世界だけど、ごちゃごちゃ煩い街中よりも雰囲気が良いと思わないかい?」 「そう、だから名付けて『クリスマスの世界』!」 タスクが何処か得意気に告げ、耕太郎も大きく頷く。 仮想の世界ではあるが、穏やかな夜を過ごすのには絶好のロケーションと場所だ。雰囲気を楽しむのも良いし、散歩をしても良い。大きなクリスマスツリーの下でささやかなプレゼント交換をするのも悪くないし、やろうと思えば雪合戦なども行えるだろう。 何より、現実と違うのは空間内に振る雪だ。 「ほら、皆もよく見てみろよ。この雪、仄かに光ってるんだぜ。すげーよな!」 モニターを指差した耕太郎は雪を示して見せる。 よくよく見れば、降る雪は桜色や氷色、更には金色や銀色などの淡いひかりを放っている。仮想の雪なので、元から積もっている白い雪以外は地面などに触れた時点で消えてしまう。だが、まるで小さな蛍のように光を放ち、ツリーや地面を飾っていく雪彩はとても美しく映る。 「所謂、ロマンチックな光景ってやつだね。俺も嫌いじゃないよ、そういうの」 暫し画面を眺めていたタスクも感想を零し、薄く口許を緩めた。 「そういうわけで皆も俺たちと一緒に来いよ! な、良いだろ?」 明るく笑んだ耕太郎は誘うように手を差し出す。 その表情は実に快く、巡り来るクリスマスへの期待と楽しみが籠められているように思えた。 雪降る夜。小さな世界で過ごす時間。 淡いひかりと祝福に満ちたひとときは果たして、どのような思い出に変わるだろうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月29日(土)22:13 |
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■メイン参加者 23人■ | |||||
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● 降る雪はしんしんと、淡い光を宿して景色を彩る。 一面の白雪に染まる世界は本物のよう。この場所が幻想だとしても、冬には冬らしい格好をするのが良い。何より、女の子二人に寒い格好をさせてはいけないというのが竜一の心情だ。 コートにマフラー、手袋に帽子。完全防寒に身を包み、竜一は気合いを入れる。 「作るぜぇ、でっけぇあひる……じゃなくて、アヒルな雪だるまを創るぜぇ!」 「でっかいアヒルの雪だるま! 皆で、とびっきり大きなの作りましょっ」 あひるも手袋ごと掌を握り締めて雷音と一緒に意気込む。そうなれば、先ずは雪玉作りだ。 「うむ、アヒルさんの形だな。嘴があって、はねがあって……」 ころころ、ぺたぺた。雷音は完成後の姿を思い浮かべ、雪玉をたくさん作っていく。身体の細かい部分を考えていくと、とてもすぐには出来上がりそうにない。 だが、それも雪だるま作りの醍醐味。あひる達は楽しげにはしゃぎ、次々と小物を用意していく。 そんな中、力仕事は任せろと大玉を作っていた竜一が土台を完成させた。 「よーし! あとは二人が作った雪玉を飾るだけだ」 彼が前寄りに土台の雪玉に乗せ、雷音とあひるも嘴や羽を雪玉に飾る。そして――。 「ひとつ完成だ」 出来上がったのは雷音の背と同じくらいの大きなアヒル雪像。 愛嬌のある顔立ちはとても可愛く、三人で力を合わせた結晶として申し分ないほどのものだ。 「上出来だ。物凄くまるっこいアヒルだな」 「あっ、あひる! まだそんな食べてないから、まるっこくないよ!?」 竜一の言葉にあひるが慌てて頬を両手で覆う。だが、それはちょっとした勘違い。 「いや、あひるが丸っこいってわけじゃないからな……!」 なーんだ、と少女が頬を膨らませるが、何だかその表情は雪のアヒルとそっくりに見えたのは竜一達の小さな秘密。そこに雷音が呟きを零す。 「……なんだか、ひとりきりではさみしそうだ」 屈んだ雷音は仲間を増やそうといって新たな雪玉を丸めはじめた。二人も少女の意見に頷き、小さなアヒル雪だるまがどんどん増えていく。 「わ! 皆上手に作ってる」 「はは、俺のスピードに追い付けるかな?」 「むむ……気がつかないうちに大家族になってしまっているのだ」 ほんのり光る雪の中。アヒルたちが可愛くて、何よ要りも友人と過ごす時が煌いていて――雷音の口許に笑みが宿る。この雪も世界も消えてしまうけれど、思い出は心の中に大事に仕舞っておこうと誓い、少女は楽しい時間に身を委ねた。 雪やこんこ霰やこんこ、犬は喜び雪原を駆け回る。 「何処までも続く雪が綺麗だなぁ」 快が見通す先、まさに雪歌が相応しい光景を繰り広げるのは虎鐵と耕太郎達。子供のような二人は今日一日を雪まみれで遊び尽くす気満々だ。 「折角なんで超巨大雪ダルマを作るでござるよ!!」 「よっしゃ、この雪原で一番でかいのを作って皆を驚かせようぜ!」 耕太郎も俄然乗り気で雪玉を転がしていく。すぐに大きい雪塊が出来たが、二人が目指すのは超弩級の雪だるまである。 「もっと気合いを入れるでござる!」 そして、気力で巨大雪玉を作りあげた虎鐵は最後の仕上げとして顔の部分を抱えた。狙うのはジャンプからの頭部設置。力を発揮した虎鐵は見事に巨大雪だるまを完成させ、満足気にガッツポーズを取った。 その光景を見守っていた快がぱちぱちと拍手を送る。 「俺も仲間に入れてくれるかな? ロマンチックな時間は恋人たちに任せて、俺達は遊び回ろうぜ!」 「おー!」 快の誘いに耕太郎が同意し、一同は雪原を駆け出した。 光る雪を蹴って全力で走り回れば、いつしか気分も晴々としてくるというもの。鬼ごっこに雪合戦、何気ない遊びだって時を彩る楽しさに繋がる。 「いっそ、この雪の中を泳げないかな?」 「それ面白そうだな。雪原クロール! 行っくぜー!」 快の提案に少年も表情を輝かせ、新たな遊びがはじまった。童心に帰って全力で駆けて、飛び回り、転がって――。そうして、息を吐いて雪に倒れ込んだ快は天を仰ぐ。 見上げる夜色のソラはとても心地良い景色に思えた。 沙羅が声をかけたのは同年代の少年。 話し相手になって欲しいと申し出た彼にタスクも頷きを返す。そして、自己紹介を終えた沙羅が先ず問うたのは、胸の裡に抱いていた疑問だ。 「アークは良いところかい?」 「……悪くない所だよ。俺にとっては、だけどね」 君はどう感じるのだろうね、と向けられた言葉は沙羅に対する挑戦のように感じられた。 「面白い物言いをするね、タスク君」 「君こそ。俺は沙羅みたいな奴は嫌いじゃないよ」 「その言葉は本当かい。ボクは嘘吐きは嫌いだよ?」 本質は計り知れないで居れど互いに何かを感じあったのだろう。少年達は意味ありげな視線を交わしあい、互いに双眸を細めた。 ● 色とりどりに光る雪。 クリスマスツリーの下、ロマンチックな情景を想像したそあらが作るのは小さな雪だるま。しょんぼり(´・ω・`)とした雪だるまは、自分の気持ちを表したもの。 「あ、これかわいいのです」 けれど、以外に愛らしく出来た雪像にそあらは小さな笑みを零す。 そうして着々と作り上げられる色々な雪像がツリーの下に並んでいく。きっと、これだけ居れば寂しくない。光る雪の下、此処にあの人がいればと思うそあらは一人で想いを馳せた。 愛らしい装飾が加わった木の近く、多汰理も彩雪を静かに見上げる。 「仮想とはいえ、こんな世界があるとはな……」 元気に遊びまわる者もいるようだが、ここでゆっくり見物するのも良い。しんしんと降る雪の中、多汰理は白く染まる景色に心を委ねた。 ツリー近くの雪原にて、終は雪像作りに励んでいた。 「目指せ超大作! 取りあえず雪をかき集めるとこから☆」 ずざざ、と勢いよく雪を集めて駆け回った終は意気揚々と雪で人型の形を取る。作ろうとしているのはアーク内の有名人でもある二人。スコップを使い、慎重かつ大胆に作業をする終の様子は芸術家のようだ。 「意外に難しいな。ここをこうして……あ、削りすぎた!」 試行錯誤を重ね乍も形が整えられていく。 そうして完成した雪像は若干鼻が低かったりなどもしたのだが、十二分な出来だ。VTSの中で終わらせるには勿体無いと記念撮影をする終の表情は満足げなものだった。 『えいえん』のトワと名乗った少女に、少年は『佑ける』のタスクだと名乗り返す。 「雪ってお好きですか?」 永遠は問い掛け、自分は儚く消えていく雪が好きだと語った。 想いの終わりや世界の終わりが形になったようだから。少しばかり詩的な表現過ぎたかと恥ずかしげに零す彼女に対し、タスクは首を振る。 「不思議な捉え方だね。永遠の考え方、面白いと思う」 「ありがとうございます。同意して下さったなら、とても嬉しい」 礼を告げる永遠だが、会話が得意ではない故に話が続かない。隣のタスクもぼんやり雪を見ており、会話が無い事はあまり気にしていない様子だ。無言ながらも決して悪くはない心地が流れる中、永遠は大切なことを言い忘れた事に気付いて、意を決して口を開いた。 メリークリスマス。あなたが幸せで有りますように、と――。 その言葉を聞いた少年は意外そうな顔をした後、ほんの少しだけ、微笑みを返した。 雪玉の悪戯に雪合戦、童心にかえったような少年達の遊びは無邪気なもの。 「今おまえスキルつかって避けただろ! ずりぃ!」 「へへーん、さっきの悪戯に比べればまだ許されるレベルだぜっ!」 雪を投げあう耕太郎と夏栖斗。全力で戦った二人はいつしか雪原に倒れ込み、雪の絨毯の上で仮想の空を見上げる。そんなとき、ふと夏栖斗が呟く。 「一年前の今頃、死んだ友達がいるんだ。……あの星の一つになってんのかな?」 遠い空の向こう。二度と逢えない友を思った言葉に耕太郎も耳を傾けた。御伽話めいていて笑えるだろうかと彼が言えば、少年はぶんぶんと首を振る。 「笑わねーよ! その気持ち、何となく分かるしさぁ……」 真剣な言葉に夏栖斗は一瞬だけ心弛んでしまうが、すぐに明るい笑顔を湛えた。 「これ以上、誰も死なないように頑張るしかないな」 「ああ、俺も頑張る!」 そうして交わされた少年達の思いは、白い雪の中で確かなものとなる。 ● ちょあー! という愛らしい声と共に雪がばさっと舞う。 「わ、なんだ。ミーノか!」 「ミーノもゆきのこ、きつねのこっ! ゆきあそびではまけないの~~~っ!」 驚く耕太郎の背に回り込み、びしっと両手を上げたポーズを決めたのは雪まみれの少女だ。ぽふぽふと雪玉を投げるミーノに耕太郎もお返しとばかりに雪飛沫を散らし、雪遊びが始まる。 「にふふ~たのしいね~♪ りゅみえーるもこっちおいでよっ!」 そんな中、ミーノがリュミエールを呼ぶ。雪国育ちの彼女は雪景色に感慨は覚えなかったが、この雪原を最高速度で駆け巡ったらどれくらい吹き荒れるのか思案していた。 「遊ぶのか。手加減はしねーよ? フルボッコする勢いでヤルベキダヨナー」 「何か、ヤな予感がする」 リュミエールの双眸が妖しく光った気がして、耕太郎が後退さる。 その様子を見つめていたタスクは「ご愁傷様」と呟いていた。だが、ミーノは彼の存在を見逃さない。 「たすくくんもいっしょにあそぼっ!」 「……え」 無邪気に手招くミーノの瞳は純粋だ。断ることも出来ずにタスクはたじろぐ。リュミエールから滲む殺る気(やるき)を見た少年達の表情が蒼白になっている事にミーノは気付かず、彼らの手をしっかりと握る。 そうして、ある意味で熾烈な雪遊びが始まり――その後、どうなったかは本人達のみぞ知る。 綺麗な色の雪に魅せられ、ジズは空を見上げた。 「私、雪だるまを作りたいのです」 小さな決意を固め、少女は早速制作に取り掛かる。目指すは三段重ねの雪だるま。 一段目には緑色、二段目にはアイボリー、三段目は桃色。懸命に雪を並べるジズは途中でふと二段の物も作りたいと思い立ち、黙々と作業を進める。そして――。 「……私、頑張った」 晴々と達成感に満ちたジズの足元にあったのは、どう見ても大きな花見団子にしか見えない三色雪と見事な鏡餅だった。 しかし、季節の先取りも悪くないだろう。何よりも本人が満足しているのだから良いに違いない。 巡り来る春の彩を夢見て、冬の仮想世界で敢えてミュゼーヌ達が選んだのは春の装い。 くるくると雪上を舞ったり、柔らかな雪の上に仰向けに倒れ込んでみたり、と子どものように無邪気に笑いながら二人は雪の景色と心地を楽しむ。 「この雪……ほのかに光っていて、とてもきれいです」 三千が見上げた空から降り落ちる雪。淡い彩雪は指先に触れれば消えてしまうもの。 「一年中、降ってても良いくらいだわ。天然のイルミネーションでお伽話の世界みたい」 ミュゼーヌの思いに同意した三千も笑む。しかし、三千はふとした拍子に自分の本音を零した。 きっと、どこまでも続く雪景色に自分一人だけが居るのは怖かった。本物みたいで、本物より綺麗な雪。そこに吸い込まれてしまう気がして綺麗だと思う余裕なんてなかったかもしれない。 「……でも、ミュゼーヌさんがいてくださるから安心です。なんて、子供っぽいでしょうか」 はにかむ三千に対し、ミュゼーヌは首を振る。 その気持ちが分かる気がすると告げた彼女は三千の掌を握り、双眸を緩めた。 「私も貴方が一緒だからこそ、現実という帰るべき場所を見誤らないでいられるわ」 だって、貴方の本当の身体に抱きとめて欲しいから。 言の葉と共に贈られた思いは仮想ではない、本物の気持ち。手を繋いだ二人は微笑み合い、雪の彼方を目指してみようと歩き出す。きっと、二人なら何処までも行ける気がした。 黄桜とタスク、二人の出会いは偶然の邂逅から始まる。 ツリーの傍、何気なくタスクの隣に座ることを決めた黄桜が不意に口を開く。 「ヘッドフォン君は未来視する事が使命なんだってね。黄桜は悪を滅ぼす事が使命だと思っているの」 「……そうなんだ」 少年の返答は素っ気無いが、話は確りと聞く心算らしい。黄桜も相手に構わずに話し続ける。 「悪が消えれば未来視もいらない。だから、黄桜はその使命をいつか奪ってしまうかもしれない」 「ふぅん。ま、俺が生きてるうちに君がそれを為せるかは分からないけどね」 返されたのは挑戦的でいて、何処か好意的な言葉。 そもそもが儚い夢。そう語った黄桜とタスクの視線が不意に重なり、二人は幽かに笑いあった。 目指すのは、煌びやかなツリーの下。 壱和が雪の上を歩んでいく中、先にツリーに辿り着き、両手を振ったジャンは不意に照れ臭そうに微笑む。 「一人ではしゃいじゃってごめんなさいね?」 「いいえ、ボクも楽しみにしていたので大丈夫です」 そんな彼に対し、首を振った壱和はくすくすと笑った。 そうして、二人は其々が用意したクリスマスプレゼントをツリーの下で交換することに決める。 「じゃーんっ! アタシからはこれよ。うふふ、可愛いでしょ?」 ジャンから手渡された箱の中には、水晶を刳り貫いて作ったスノードームが収められていた。中心のツリーの隣に居るわんこが壱和に似ていると思ったから、と告げられたドームの中の犬は、確かに愛らしい顔をして此方を見上げている。 「ありがとうございます。すごく嬉しいです」 その可愛さに和んだ壱和が代わりに手渡したのは、お洒落な腕時計。 シルバーチェーンがベルト代りになっている時計は文字盤から中のゼンマイや歯車が見える仕掛けになっている。どうぞ、とジャンの腕に銀鎖を巻いてやった壱和はにっこりと笑んだ。 その笑顔につられ、ジャンも心底嬉しげな笑みを返して時計を雪のひかりにかざしてみる。 「今年はありがと、壱和ちゃん。大好きよ!」 「ボクこそ……ジャンさん、大好きです」 雪降る中、贈り物と一緒に心からの気持ちを重ねた二人の周りには、寒さに負けない程の温かな気持ちが巡っていた。 ● 雪彩の光景を仰ぎ、旭が無邪気にはしゃぐ。 「きれーだねぇ。タスクくんはこーゆーのすきなんだ」 掌の上で消える雪を掴もうとする少女の傍、タスクは静かに頷く。覚えておこ、と淡く微笑んだ旭は小さな箱を取り出し、少年へのプレゼントだと言って手渡す。その箱の中身は鈍色の銀環が縁取るアンティーク時計。針が巡る頂に添えられた緑玉髄を見て、タスクは何処か嬉しげに口許を緩めた。 「すきなもの分かんなかったから、好みに合うかわかんないけど」 「いや、気に入ったよ。ありがと。……でも、参ったね」 旭への贈り物は用意してない、と残念そうに告げた少年がポケットに手を入れて俯く。 しかし、首を振った旭は気にしないで良いと言った。其処へ「頭に雪が付いている」と告げたタスクが彼女の髪をそっと払ってやる。 「えへ、別に良いんだよ。タスクくん、めりーくりすます♪」 「……メリークリスマス」 向けられた笑顔に対し、少年は悪戯っぽく双眸を細める。 そんな旭の頭上。その髪には何時の間にか、雪色の硝子花が飾られた小さな簪が添えられていた。そのことに少女自身が気付くのは、もう少し後の話――。 神秘的な光の雪は、幻想の世界を彩る。 綺麗な雪ですね、と素直な感想を零し、リンシードは隣を歩く糾華のをじっと見つめる。どうしたのかと首を傾げる彼女に向け、リンシードは色とりどりの雪をふわりと散らせた。 「す、すみません……お姉様を雪で彩ったら、もっと綺麗かな、なんて思って……」 恥ずかしげに俯く彼女の様子に笑みを零し、糾華は微笑ましい心地を覚える。そして彼女は降り積もった雪を抱えると、セラフィーナとリンシードに思いっきり被せた。 「ふふっ、光のシャワー! 二人とも綺麗よ」 「きゃっ!? もー、おかえしですっ」 セラフィーナも反撃として雪を散らして無邪気に笑った。仮想世界の景色を通し、自分達の生きている世界がとても素敵なものだと実感する。何より、今がいつもより楽しく思えるのは皆と一緒だからかもしれない。 そして、もっと遊びましょうと駆け出したセラフィーナに続いて二人も雪原に踏み出した。 雪合戦に雪だるまや雪うさぎを作り。一通り遊びつくした後は寒さもいつしか消え、心地好い気持ちが巡っていた。 やがて、一日が終わりに近付いた頃。 「ありがとうね、ふたりとも。とっても楽しかったわ」 普段は大人びていると言われているからこそ、糾華は子供である自分を大事にしていきたいのだと語る。だから、来年もいっぱい遊ぼうと話す彼女に対し、二人もしっかりと頷く。 「はい、私も楽しかったです。セラフィーナさんも、楽しかった……ですよね?」 「もちろんです。でも、まだまだ遊び足りません」 リンシードもセラフィーナも心からの言葉を紡ぎ、糾華と共に微笑みあった。 来年と云わずに年末までずっと永遠に遊んでいたいような。重ねた想いが同じであることを感じながら、少女達は雪の世界を大いに楽しむ。 また今日のような日が巡ることを願いながら、繋いだ手と手には確かな温もりが宿っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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