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フィクサード脱出物語

●君を覚ゆる
 男は窓からそれを確認した。
 誰が見ても気づかないごく普通の光景にまぎれた小さな印。けれどそれは男には懐かしくも思い出したくない日々の残滓。
 部屋の中に目をやる。視線が絡んで、毛糸を編んでいた彼の妻が不思議そうに微笑んだ。もうすぐ産まれてくる我が子の服を作るその姿は幸せいっぱいで。
 妻の名は夜渡瑠香。――いや、春に式を挙げた時から彼女の苗字は男と同じものになっている。
 男の名は瀬戸家継。元フィクサードでありながらリベリスタであった瑠香と手をとり、幾多の壁を越え愛し合った二人の障害はもはやない。
 ――そんなものは幻想だ。
 わかっていた。わかっている。ツケはくるものだ。
 俺は元フィクサード。人を不幸にしてきた俺が、幸福をいつまでも享受できようものか。
 妻になんでもないと笑いかける。不器用な彼らしくもない自然な作り笑いはその覚悟ゆえ――

 ――その夜。
 男は手馴れた様子で物音ひとつたてずプロテクターを装着し終えた。戦いから離れていたからといって、戦いを忘れたわけじゃない。まして、いつかこんな日がくるとわかっていたのなら。
 昼間見た印は男がかつて所属した組織の合図。そしてそれは、彼自身が手引きし壊滅したはずの組織が復活した証でもあった。
 組織は明日にでも動き出すだろう。俺と、身重の瑠香を狙って。
 ――瑠香を護る。産まれてくる我が子を護る。刺し違えても、それだけは必ず!
「今までありがとう……愛してる」
 寝息をたてる妻の顔を十分に焼き付けて――男は背を向ける。決意の矛持って帰らぬ旅路へと。
 彼が立ち去った後で。目を閉じたまま音もなく……女は涙を零した。


●脱出物語
「……今回シリアス!?」
「お前は突然何を言っているんだ」
 思わず叫んだリベリスタに、冷めた目で『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)が吐き捨てた。
「コノ二人の婚約から結婚までアークは関わってきマーシたが、ソレより以前、家継はフィクサード組織に所属していマーシた」
 過激なテロリスト集団。家継は幼少時に組織の手で行われたテロ行為で両親を失い、革醒したことで組織に連れ去られ育てられた。幼い頃から仕込まれた彼はいつしか組織でNO.2の実力者となり――
「ですがそのハートは決して堕ちず。リベリスタを手引きし組織を壊滅に導きマーシた」
 その彼が今命を落とそうとしている。彼が心から渇望し、ようやく手に入れた家族を護るため。
 その彼の想いを知っているから。どんなに強い想いかを知っているから。引き止めたかったけれど。一緒に戦いたかったけれど。……瑠香はお腹の子と共に家継を見送った。
 そして瑠香は――
「瑠香はアレだけ嫌っていた父親に電話で懇願しマーシた。家継を助けて欲しいト」
 それを受け、リベリスタ業界にその名を轟かす戦闘集団である夜渡家の面々が家継を追った。そして、万華鏡によって家継の危機を察知したアークも今、こうしてリベリスタを召集した。
「……わかった。今回は夜渡家の連中と共闘して組織から家継を護るんだな」
「イーエ、夜渡家と組織の両方から家継を護ってくだサーイ」

 ――

「……はい?」
 間の抜けたリベリスタの声に、呆れたよーな薄笑いを浮かべたよーなロイヤーの声が重なる。
「お前はあいつらに何を期待しているんだ」

「ひゃっはー! これってアレじゃん! 合法的に家継ぶっ殺せるじゃん!」
「傷心の姉さんに俺がその子の父親になるよフラグキタコレー!」
「よくわからんが全員倒せばいいんだな? まかせろー(バリバリ)」
「私の計算によれば恐らくまたアークが来る! 邪魔されないよう入り口を封鎖するんだ!」
 身振り手振りでちょび髭つけたりマジックテープのサイフを開いたりしつつ一通り語り。
「以上が夜渡家の考えデース」
 ロイヤー笑顔でサムズアップ。
「もうこいつら始末していいよね。完全にフィクサードだよねこれ」
「例の如くダメデース。これリベリスタだから。多くのリベリスタに影響する名家だから」
 心から納得いかない。
「とにかく、家継の救出を任せましたよヒーロー」
 護られるべき家族のためにと背中を押して。急いでねとロイヤーはウィンクで見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:BRN-D  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月07日(月)22:47
夜渡家は今日も平常運転です。


●場所
 時刻は真夜中。工場地区の一画、放棄された工場に組織の残党が集まっています。周辺に人は存在しません。
 中は一辺が40m程の正方形で、そのちょうど中央に家継がいます。
 入り口は二つありますが、裏の入り口は外からは巧妙に隠されています。非戦スキルを活用しないと発見に時間がかかります。
 入り口は表のものは三人が並べるほどの大きさで、行動順で同チームの三人が封鎖を宣言した場合は別チームは通り抜けできなくなります。別チームの場合は宣言した順に互いをブロックした扱いになります。
 裏の入り口は二人が並ぶ程度です。


●位置関係
 40m正方形の工場の中心に家継。すでに組織の兵隊5人と接近しています。
 その15mほど奥に組織の幹部と兵隊5人。更に奥5mの壁に裏の入り口があり、兵隊5人が塞いでいます。
 表の入り口には夜渡家と、表に向かったアークリベリスタが同時に到着します。突入は速度順になります。

 参考速度順
 礼門>家継>利史>No.3>兵隊>房雄>玖也


●成功条件
・家継を工場から無事脱出させる。
 (家継はフライエンジェの為、外に出さえすれば脱出は難しくありません。)


●失敗条件
・家継が重傷を負う。


●人物
 夜渡家は基本的にバーサーカーです。短気で脳筋なバトルマニアゆえ、頭に血が上ると常識は通用しません。
 戦いを止めろ、平和的に解決しろと言っても「あいつぶっ殺したら平和になるじゃん!」とか言います。(3回目)


・家継
 元フィクサード。組織の幹部でしたが裏切った過去を持ちます。妻と産まれてくる我が子を護る為に戦いに赴きました。

 『不器用な男』瀬戸家継:クリミナルスタアのフライエンジェ。この戦場において礼門と互角の高い実力を持ちます。しかし瑠香の家族には一切手を出しません。
  万能型で低い能力はありませんが、【暴れ大蛇】【ギルティドライブ】など反動を伴うスキルばかり多用します。不器用ですから。


・夜渡家
 基本的に瑠香命。瑠香が近くにいたので今まで手を出せませんでしたが、このチャンスを逃さないハンター共です。

 『脳筋1号』夜渡礼門:インヤンマスターのヴァンパイア。脳筋パパ。娘命。
  超回避力・高命中を誇ります。【式符・鬼人】【式符・影人】などを使用します。

 『脳筋2号』夜渡利史:プロアデプトのヴァンパイア。脳筋長男。自分すごい。
  超神秘火力・高命中力を誇ります。【ピンポイント・スペシャリティ】【超頭脳演算】などを使用します。

 『脳筋V3』夜渡玖也:クロスイージスのヴァンパイア。脳筋次男。バトル主義。
  超HP・高物理防御を誇ります。【パーフェクトガード】【リーガルブレード】などを使用します。

 『脳筋マン』夜渡房雄:デュランダルのヴァンパイア。脳筋三男。姉さん萌え。
  超物理火力・高物理防御を誇ります。【戦鬼烈風陣】【ハードブレイク】などを使用します。


・組織
 家継がかつて所属していたテロ組織。裏切り者の始末にきました。No.1はまだ潜伏しているらしく、今回はNo.3による行動のようです。

 No.3:ジーニアスのマグメイガス。家継襲撃を指揮する組織の幹部の老人。地味ですが強敵です。危険になれば脱出を優先します。
  【マグスメッシス】【魔陣展開】を使用します。

 組織の兵隊:ビーストハーフのクリミナルスタア。15人おり、5人ずつに分かれて固まって行動しています。実力は低く、家継への攻撃は全員分のダメージよりも反動の方が高いくらいでしょう。
  Rank1の遠近スキルを使い分けます。


●補足
 『フィクサード嫁取り物語』『フィクサード結婚物語』の続編となります。
 詳しい過去の経緯はそちらをご参考下さい。

 夜渡家の一人一人がアークトップランカー相当の実力者です。
 彼らを含めて敵の全滅を狙う場合はよほどの力がないと不可能でしょう。
 
 夜渡家と組織は協力はしませんがわざわざ攻撃はしません。
 しかし家継に逃げられた場合、夜渡家は瑠香への言い訳に組織の兵隊を壊滅させますので脱出後の後始末は必要ありません。

 それではご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
プロアデプト
逢坂 彩音(BNE000675)
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)
ナイトクリーク
宮部・香夏子(BNE003035)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)

●脱出不能劇
 ――廃工場に火線が走る。狙う標的はたった一つ、対して射手は15人。一方的な虐殺劇。
 廃材に隠れ息を殺す。――15の射撃をかいくぐり、組織のリーダーを打ち倒す。なんという難易度。ハードミッションではすまないなと不器用な男は自嘲した。
 一対一なら勝てるだろう。だが組織の兵隊は異常な忠誠心を持っている。こちらの攻撃は全て部下の献身が引き受けるだろう。勝ち目は……
 そこまで呟いて男――瀬戸家継は首を振った。考えても無駄だ、今更後には引けないのだから。
 瑠香を護る。子供を護る。刺し違えてでもと誓ったなら――必ず!
 リーダーの号令を受け兵隊が一斉に動き出した。家継もまた覚悟と共に飛び出して――

 ――破壊音が響き渡る!
「なんだ――っ!?」
 背後からの爆音に誰もが取り乱したこの瞬間、戦場は侵入者達の狩場と決まったのだ。
 ただし、どちらのかは――


●シリアスするって本当ですか
「不器用とか便利な台詞だけど、正直アレ言い訳ですらないよね。自分大好きなだけだよね」
 工場の裏手側。見通す目で工場内の様子を確認しながら、辛辣にして真実の言葉を投げかけたのは『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)だ。
 女を泣かせて不器用だからも何にもない。何の言い訳にもならない言葉だ。ことさら、死ぬ理由になど。
「まぁそう言わないでやってくれ。彼も必死なのだよ」
 言葉を否定はせず、けれど彼なりの考えを認め『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)は言う。
「それで、連中の位置は」
 問われて翔護が息を吐き集中を解いた。建築物などを透過して千里の先も見据える力も、深く集中を必要とする為当然疲れる。翔護は目の周りをほぐしながら工場を指で示した。
「あの辺り。連中が固まってるねー」
 工場内の敵の位置を指し示し、じゃあ後は任せたよーと軽い口調。大まかな当たりをつけるのに最善な力も、隠された扉を探すのは難しい。だがその為に――
「うん、任かされたの」
 次は自分の番とばかりに示された場所に近づき、『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)が壁を探る。
 ほんのわずかな違和感を調べ、感じ取っていく観察眼。隠されたものを見つける最善の力も、広い工場では当たりをつけた先の力があってこそ。メンバーが揃ったからこそのアドバンテージだろう。
 彩音と手分けして探していたルーメリアが小さく声をあげた。仲間に合図し、同時にアクセス・ファンタズムに声を投げかける。通話先では別の場所から突入した、相方と言える少女がこちらの情報を待っているだろう。
 突入は迅速な判断を求められる。ここまでを探索を得手とする仲間に任せ、休息を取っていた『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)が口にしていたカレーを脇に置いた。
「とりあえず家継さんを護るお仕事ですよね」
 よっこらしょっと声をあげ、気楽な調子は気負っていない証。手馴れた動作で制圧型防弾カレールー(本当に)を身につけ突入準備を整える。
 リベリスタ集団夜渡家との関わりはないけれど、友達が関わっているならそれを支える。いつも通り、当たり前のことだから。

 突入の為に偽装された壁を剥がしていた翔護だったが、ルーメリアの緊迫した声によって遮られた。
「香夏子ちゃん達が夜渡家を見つけたみたいなの!」
 AFでの通話は向こう側の行動開始を持って断ち切られた。急ぐ必要があるねと翔護が再び手を伸ばせば――
「どいてくれ――こちらの方が早い」
 声をかけられて手を引っ込める。途端に気の奔流が神秘の衝撃を伴って――扉を破砕した!
「……ひゅー」
 工場内で慌てる兵隊の声。意外に物騒だねと翔護がもらせば、埃を払って彩音が小さく笑った。
 中を見渡せば数を揃えた兵隊達。その奥の家継、まだ見えないが夜渡家――
「とりあえず私としては、家族というのは大切にしてほしいわけでだね」
 組織など眼中にないとばかりに踏み出す。
「娘の旦那なら家族なんだから仲良くしろといいたいのだよ!」
 ゆえに家継は殺させない。その為の邪魔は排除しよう――口上を述べ、彩音は弓を構えた。弓は希望の輝きを――


 ――脳筋共と打ち合うのは好みではないが……仕方あるまい。
 口の中の呟きは走りながら行われた。打ち合いが決して不得手だということはない。数多くの任務をこなした『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)の名と実力は多くのリベリスタが知るところだ。
 言葉は状況に身を置く際に、確実に優位となる一手を望むゆえに。高い実力を持つ相手ならば、それを過小評価など絶対にすべきではないのだから。
「裏からもすぐ突入するそーです」
 AFで裏から回った仲間と連絡を取り、『第31話:新婚さん、ごちです!』宮部・香夏子(BNE003035)の伝える情報を背中で聞き――オーウェンは強く踏み込んだ。脚甲の両側に装着されたブースターがその速度を引き上げる。
 すでに目標を視界に捉え、迷うべくもない。初めからない。工程を思案はしても、求める結果は一つならば。
「――アークかっ!」
 横手からの乱入者に目を剥いたのはリベリスタの中で相当の実力を持つ夜渡家、その筆頭たる当主――その動きをオーウェンはわずかに上回っていた。
 表口を封鎖し構える。気の奔流は暴風の牙を押し返すために。
「わしを抑えるつもりか? 勝てると思うか小僧ー!」
 暴風さながらに詰め寄る礼門に小さく笑って――
「お前さんの相手は俺じゃないのでね」
 激流が呑み込んだのはすぐ後ろをついていた長男。不意を突かれた利史の身体が弟達の所まで押し戻される。
 驚き足を止める礼門。では自分の相手は――疑問の答えはすぐに出る。
「……また貴様か、アホ毛ロリー!」
「香夏子はアホ毛ロリなんかじゃありません! 香夏子は……アホ毛カレーです!」
 飛び掛った小さな影。三度目となる遭遇。香夏子は礼門の身体をしかと掴みながら訂正を求めた。

「たった2人で俺達を足止め? 舐めやがる」
 不敵に笑い、3人の息子達が動き出す。目標は家継の首。妨害がこの程度ならば物の数にも――
「残念、3人いる。で、これはお土産ね」
 言葉と共に投げ込まれた物を、へぁ? とか言いながら思わず受け取る。
 ――眩い閃光が彼らの目を焼き甲高い悲鳴を上げさせた。
 オーウェンが長男を押し込んだ為に生まれた連携。重なった彼らの行動を縫いとめたのは。
「何でも1人で解決しようとする、不器用男と脳筋家族のせいでキサ達の仕事がよりめんどくさくなる。不具合」
 ため息を吐いて『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が彼らの正面に立つ。その一人一人を見据えて――


●一方的って本当ですか
「さて、突破口を作らせていただこう」
 怒号をあげ詰め寄る兵隊、それらの身体が不可視の気の爆発によって投げ飛ばされた。敵の動きを観察し、仲間の阻害を出来ぬよう彩音は理想の形を組み立てていく。清流の如く、濁流の如く。気の奔流に兵隊はただ流されて。
「馬鹿者! 家継までの道を開けるな!」
 指揮を執る組織のNo.3が叫ぶ。この強力な助っ人共は兵隊では抑えようもなかろうが、負傷した家継を始末する時間さえ稼げればそれでいい。
 隊列を組む利点。別の組がフォローに入れば突破は出来ない。家継の元にはたどり着けぬ――
 何かが横を通り抜けた。男と家継の間に入り、その重厚な盾扉で遮る。
「君は――」
 見知った顔に家継が言葉を漏らした。ならば、この乱入者達は――
「前もこんな状態でしたね」
 かつて結婚式場で夜渡家の攻撃から家継を守り抜いた少女。敵は違えど再び同じ形を取る。それが少女の役目であるならば。
「い、一体どうやって!」
 焦る男の疑問は後方の彩音が答える。
「仲間を吹き飛ばしたのは初めてだよ」
 小さな笑いに目を剥く。次々迫る兵隊を相手にしながら、そのような判断を取れるものか。大胆さと精細さを織り交ぜた支援を受け、幼い少女は不敵に笑う。
「ええい舐めるな! 小娘一人さっさと片付けてやるわ!」
 数多くの活動を行ってきたテロ組織のNo.3、その実力は自身を庇う兵隊さえいれば容易く家継を追い詰められるほどには高いのだ。
 収穫の鎌が少女を切り裂く。一撃、ついで二撃! 魔術の粋を極めた自身の力、いかな者とて耐えれようか。
「なるほど……言うだけありますね。確かに『痛い』ですよ」
 馬鹿な、その程度で済むはずが……男の狼狽にビン底メガネの奥を光らせて。『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)が強気に口上を唱える。
「ですがそれでは足りません。さあ砕いて見せて下さい。ねじ伏せて見せて下さい。この絶対鉄壁を!」

「さあ皆さんご一緒にぃー、キャッシュからのー……パニッシュ☆」
 救出に動く仲間を援護し、翔護の連続する銃撃が裏口に殺到する兵隊を撃ち抜く。馴染んだ銃は手脂もべったりだ。
「おせっかいかもしれないが助けに来させてもらったよ。早くこっちへ」
 彩音の弓から放たれる無数の気糸が敵を薙ぎ払い安全な道を作る。有象無象を物ともせず、後は家継を無事に脱出させることだけだが。
「……まだ退けない」
 ヘクスに庇われ、それでも家継は足を動かさない。
「組織を壊滅させなければ来た意味がないんだ。家族の為にも、刺し違えてでも――!」
「そんなの家族の為じゃないの!」
 声が廃工場に響き渡る。清らかな祈りを紡ぎ家継を癒していたルーメリアが、我慢ならないと叫びをあげた。
「ここで貴方が大怪我負ったら、お嫁さん、お腹に赤ちゃん抱えたまま無理することになるの。貴方が死んだら、家族も死んじゃうの!」
 言葉を失った家継が周囲を見渡す。これだけのリベリスタが、自分を……俺達家族の為に集まったのか――
「裏口を奪取しろ! 癒し手を潰せば数で押せる!」
 リーダーの指示に多くの射手が構える。家継を、仲間を癒して回る献身の少女を目標に。
「え、ひゃあ!」
 十を越える火線が走る! 小さなルーメリアの身体ではひとたまりもない集中砲火。廃材が巻き上げる埃と煙が一帯を覆い――金物の光が目に眩しい。
 右手にスプーンを。左手にフォークを。カレーを食べる道具であるそれは、仲間を守る防具でもある。ルーメリアを狙った銃弾の全てを小梢は受け止め、受けた傷は毛の一本ほどもない。
「んー、家継さんはヘクスさんが鉄壁鉄壁言ってるから、私はルメ子さんを護ろうかな」
 ちょっとカレー作ってくると言わんばかりののんびりした口調。それだけの余裕が間違いなくあり、兵隊達が唖然と銃を降ろした。

 ヘクス、ルーメリア、そして幾度も夜渡家との間を仲裁してくれた香夏子。自分を守るために動く幼い少女達。
 ――俺がいつまでも残れば、彼女達の負担を大きくするだけか――
「組織壊滅はルメ達に任せて欲しいの……赤ちゃんのためにも、お願いなの!」
 ルーメリアの言葉に家継が頷く。
「ありがとう、君達に任せる」
 無理はしないでくれと続けて裏口へと走り出す。その背中をヘクスが守れば、兵隊にやれることなど何一つ存在しなかった。


「ええいたった3人を相手に何を手間取っている! それでも最凶と謳われる夜渡家の一員か!」
 負けフラグを吐きながら自身の影人を生み出していく礼門。常ならば敵を抑え、突破口を開く優秀な力も――
「倒さなくていい、避けるだけ」
 綺沙羅の生み出す影人が抑えこんで行く。礼門は吸血による回復を量産の前提にしているため、短期の量産力では綺沙羅の方が一枚上手だ。
 そして数が揃ったところを――
「いきますよー……ヘイヤー!」
 刻まれた呪力のステップ、集中と共に高められたそれを香夏子が雄叫びと共に解き放つ! 影人だけを狙った赤い月が、影を溶かし霧散させた。
「わ、わしの影人が……全滅?」
 呆然とする礼門に、綺沙羅の視線が冷たく刺さる。
「可愛い娘の一生のお願いを無視するんだね……最低。もう孫を抱くこともない、それどころかお父さんとすら呼んで貰えなくなるだろうね」
 仕方無いかと少女が冷たく吐き捨てれば。絶望に打ちひしがれた顔を、綺沙羅の影人達が呑み込んだ。

「ち、父上ー! ……よし、次の当主は私だ」
 長男利史の本音語り。
「野心は結構だが……そんな余裕があるのかね?」
 足を止めた利史の身体をオーウェンの蹴りが捉える。本来利史と房雄の範囲火力コンビが揃えばリベリスタの封鎖を打ち破ることは難しくないだろうが……
「支援はないぞ?」
 目の端で捉えれば、未だ閃光が焼きついて行動を取れない房雄が見えた。
「……我々は大した傷を負っていない。突破が不可能とは思わないな」
 自信は夜渡家としてリベリスタの筆頭に数えられてきたゆえに。気糸を振り回せば影人を蹴散らし、リベリスタを苦しめることは事実可能だろう。
「ふむ。我らを皆殺しにするか。アークはこの一件を瑠香嬢に報告するだろうな」
 顔が引きつった。
 で、仕掛けてくるかね? 余裕の顔を見せるオーウェン。その横に並んだ綺沙羅が後を告ぐ。
「瑠香の懇願を無下にして、家継を亡き者にしようとしたとばれたらどうなるか……」
 冷たく冷たく、ことさら冷たく告げる一言。
 ――オマエナンカカゾクジャナイ、シネ。
 ――コウフクサセテイタダキマス、ハイ。

「おーおー、親父も兄貴もやられたのか」
 面白くなったと声をあげて玖也が神秘の浄化を施した。それによってようやく視界が回復し、房雄が苛立ちの咆哮をあげて走り出す。
「玖也、戦う気皆無の家継と戦ってもつまらないでしょ。テロ組織の幹部は結構強いらしいし、そっちと戦った方が面白いよ」
 綺沙羅がその戦闘意欲を利用しようとするが。
「おお、家継も強いが組織の幹部も強いらしいな! でもアークだって強い! 俺は全員と戦いたいぞ!」
 思った以上に脳筋だった。本人としてはたぶん最後に立っているのは一人だけのバトルロイヤル気分だろう。
 ……脳筋めんどくさい。
 綺沙羅はため息を吐いて、鈍足の玖也に延々と閃光弾を打ち込む用意を見せた。

「房雄さん、こんなところで遊んでいて良いんですか?」
 猛進する房雄の二刀を受け止め、涼しい顔で香夏子が続ける。
「今なら家継さん出し抜いて組織の連中ぶっ倒して、瑠香さんに武勇伝聞かせるチャンスなのに」
 ――ついでに強そうなお爺さんともバトれますよー。香夏子の言葉に房雄は鼻を鳴らして答えた。
「勘違いしてるようだから訂正しておくぜ。姉さんは俺を愛しているんだ。姉さんはツンデレだから俺を焦らす為に家継といるんだよ。俺は間違いを正す為に、姉さんの愛を正しい場所に戻す為に」
 一呼吸。
「家継を殺すんだよおおおお――っ!」
 病んでた。
 まずは姉さんありき、脳内ではすでに孫に囲まれながらもまるで新婚さながらのラブラブ姉弟夫婦としての生活(妄想)を堪能している壊れた男であった。
「わかりました」
「わかってくれたか!」
 興奮する房雄に、頷く香夏子はとりあえず人間を見る目じゃなかったとか。


●脱出不能劇(陣地作成的な意味で)
「ご家族の方が抑えてくれてるうちに、さあ早く」
「気持ちはありがたいが無理がある」
 翔護の棒読みに苦笑する家継。さっき「家継を殺すんだよおおおお――っ!」とか聞こえたし。
「撤収完了! 連絡よろパニッシュ!」
「後は正面の仲間に任せるの!」
 AFで連絡しながらルーメリアが兵隊に叫んだ。当方に余力ありと、追撃を阻止する効果を期待して。

「すまない――恩に着る」
「お礼はカレーでいいですよ」
 小梢が笑って工場外へと家継を送り出した。
「さて、そちらの目的は失敗に終わったわけだが」
 彩音の言葉をヘクスが告ぐ。
「では、一網打尽にさせていただきますね」


 スキルを駆使した素早い突入。迅速な説得と見事な行動阻止。圧倒的な勝利はリベリスタの連携が生んだ結果だ。
 だからといって、易々捕まるわけではない。
 組織への忠誠心の高さは身を犠牲にしてでもリーダーを逃がさんとする。
 ましてこの場所は組織がアジトとして利用していたものならば、逃げ道の一つも用意できていた。
「ふん、次の機会を待てば良い。復活した『堕ちた者の楽園』の組織力を持ってすれば、挽回など容易なものよ」
 廃材の横に隠された隠し戸を開ける。
 ではな諸君――っ! 高笑いと共に穴へと身を躍らせ――
 たすっ……と、見えない障壁に着地した。

 ……

「逃がすわけないじゃん」
 冷たい綺沙羅の声。陣地作成まぢ怖い。
「任務完了ですね。では先生方、お願いします」
「さて、我々は帰るとするか」
 香夏子、オーウェンと剣を交えていた夜渡家。だが状況の変化は見ての通りだ。
「まぁ戦えればそれでいいしなー」
「姉さーん! ごめんよ姉さーん!」
 家継に逃げられた今、瑠香のお仕置きを免れる方法はただ一つ。
 影人に取り押さえられていた礼門が解き放たれる。獣の如き咆哮をあげて――
 さて、これより繰り広げられる狩猟劇をのんびり見やり。
 香夏子は働かないのです――そう呟いて。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
ぼっこぼこにされたのです。

今回敵が弱く見えるのはあくまで素早い突入が生み出した結果です。
従来ならば夜渡家の正面突入が先に行われ、家継の傷もより深く、組織の乱入者に対する陣形も整っているはずでした。
結果生み出される乱戦は多くの重傷者を生み出したでしょう。

今回のポイントは非戦の活用、逃げようとしない家継への説得、夜渡家の行動阻止となります。
非戦スキルを駆使した素早い突入。迅速で丁寧な説得とそれぞれの性格を見抜いた見事な行動阻止。
そして後々再利用するはずだった組織の幹部の捕獲。
圧倒的な勝利はリベリスタの連携が生みだした結果でしょう。

それではご参加ありがとうございました。