● 「さて……ここからが本番。『メインディッシュ』とやらか」 擦る音と共にマッチに火をともし、男は咥えた煙草に火をつけ呟く。 ここまで到達するのに、さして手間はかかっていない。あぁ、移動の手間はかかったか。だがここから先は、その手間すら楽しいものとなるだろう。 「……楽しんでますか?」 「あぁ、それなりにな。こいつの芸術的な姿は、人に見せてやるべきものだ」 ふっと笑みを浮かべた男は、燻らせた煙草を片手に、傍にいる異形を見やった。 空を見上げるかの如く、咲いた一輪の薔薇。 その薔薇の花を支えるのは、内部から破裂したような人間の体。 そして地面を這う根の代わりに、薔薇の棘が生えた鞭を体のいたる所から生やした大蛇がとぐろを巻く。 「確かに、良い花が咲いたものですね」 「だろう? 箱舟の連中がコイツを見た時の顔が楽しみだ。――さぁ、行くぞ。『兇姫』殿に本懐を遂げていただくために」 会話を交わし終えた2人の男が行く。 異形の花を伴う彼等の目的は、『研究』のさらなる『発展』のため――。 ● 「三ツ池公園に敵襲です。もちろん、その敵とは六道紫杏の一派です」 あまり時間もないのだろう。『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)は纏めた資料を手渡し、迅速に説明を開始する。 六道紫杏一派による、三ツ池公園への攻撃。その目標は、もちろん『閉じない穴』だ。 「敵は薔薇のエリューション・キマイラと、六道のフィクサードが2人ですね。彼等は今――」 トン、と和泉は地図の一点を指で押す。 「花の広場にいます。そこから『閉じない穴』を目指して突き進む心算のようですね」 突き進む。確かに突き進むつもりではあるが、この2人の六道のフィクサードは、キマイラをリベリスタ達に見せ付けたいとも思っているようだ。 確かに、前へは進むのだろう。 しかしその『見せたい』気持ちがあるせいだろう、彼等はそれ以上にアークとの交戦を望んでいるフシがある。 「キマイラの方は広範囲への攻撃を得意とし、フィクサードの方はその援護を得意としています」 和泉が言った傾向を噛み砕けば、敵はキマイラを戦略の中心にしていると見て間違いない。フィクサード2人よりもキマイラの方が強いのだから、それはまぁ当然の話ではあるが。 フィクサード達はキマイラの援護と、撃ちもらした敵を倒す事を主目的に動く。 全体的に見れば、彼等の行軍はリベリスタの戦力分散の役割もあるのだろう。 「迎撃に失敗すれば、それだけ『閉じない穴』が六道紫杏の手に渡る可能性が高くなります。なんとしても、勝ってください」 多方面からの、同時攻撃。 1つ1つの戦場で勝利を重ねることが、最終的に完全な勝利を得る事に繋がるのだ。 戦地に向かうリベリスタ達を送り出した和泉は、ただ彼等の勝利を願う――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月26日(水)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夜の闇に花は咲く 「今日のお前は最高に美しい」 夜空に輝く星達も、夜闇にあって大地を照らす月でさえも、妖花を見つめる紫杏派フィクサード、神崎にとっては愛する『研究成果』を煌かせるアクセサリーでしかない。 それもただの添え物であり、アンティパストですらない。 メインディッシュはもちろん、彼等のリーダーである六道紫杏が『閉じない穴』を確保し、崩界度を上げる事。否、その先にある『研究』の更なる発展か。 ともすれば、アンティパストは――。 「進行方向はあっちのようです。先回りするなら……」 千里眼で見通した敵の行く先を指差し、『生真面目シスター』ルーシア・クリストファ(BNE001540)は先回りが出来そうな道を示す。 「あっちだな。遊びの森―ーか。何もなければボーっとするのに良い場所なんだけど……な」 彼女の示した先、即ち遊びの森に目をやった『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)の脳裏に過ぎるのは、平時の情景。 しかし今現在は戦時であり、 「これほどの数のキマイラを実戦に投下するということは、今回の六道はかなり力を入れているということなのだろう」 全力だとハイディ・アレンス(BNE000603) が評するほどに、三ツ池公園のあちこちをキマイラが闊歩している。 「相も変わらず悪趣味だな。人間を使ったエリューションの何が芸術だ」 「まったくね。趣味が悪いにも程があるわ」 それも、この世のモノとは思えないレベルの見た目のものばかり。『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)と『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)がほぼ同時に『悪趣味だ』と言うのも無理は無い。 まずは自分達の相手とするキマイラを、確実に撃退する事。多々ある戦場の1つで勝利したとしても大局に影響はしないが、その勝利の積み重ねならば影響する。 「せっかくの清しこの夜……。何もせずにお帰り下さい……と言っても無駄なのでしょうな……」 当然ではあるが『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)がそう言うように、紫杏派フィクサード達とキマイラの歩みは止まりはしない。 故に阻止する事が重要であり、そのために彼等は走る。お爺ちゃんも走る。 ――走る。お爺ちゃんも。 (大丈夫でしょうか) ルーシアが滅茶苦茶心配そうな視線を送っている中、頑張れお爺ちゃん。 さておき、攻める神崎達と妖花にとってのアンティパストは、彼等リベリスタである。防衛の壁となるリベリスタに妖花を見せ付け、かつ勝利する事がその目的なのだ。 「防戦は私のもっとも得意とするところなのデス!」 そして得意げに『超守る空飛ぶ不沈艦』 姫宮・心(BNE002595)がそう言った僅かの後、リベリスタ達は妖花の前に立ち塞がる文字通りの『壁』となった。 ピシャン、ピシャン。 前に現れた壁に、体から伸びるソーンウィップを何度も大地に叩きつけ進む妖花が、ぴたりとその進みを止める。 「仰々しいものを作り出してくれたものだ」 「美しいだろう?」 妖花の茎。即ち『内部から破裂したような人間』の腕がブラリと揺れる様を見やり言う『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)の言葉に、ややオーバーアクション気味に手を広げて見せる神埼。 その美しさの前では、月も星もただの添え物。 リベリスタとの戦いこそが、妖花を最も美しく彩るファクターなのだと言う神崎の顔は、狂気の笑みに満ち満ちている。 ピシャン、ピシャンと再び大地を薔薇の鞭が叩く。 『ソーンウィップは、まともに受けると吹き飛びます』 あぁ、そんな事を和泉が言っていた。 (苦手なタイプなのデス!?) それを思い出した心は、内心でダラダラと汗をかいているようだ。 だが戦場で合間見えた今、苦手ではあっても戦わなくてはならない。勝たなければならない。 ――添え物と神崎が一笑に付した、月明かりの下で。 ●綺麗な薔薇には鞭がある 「丁度、貴様らの悪趣味な展覧会にも飽いたところだ」 紫杏派フィクサード達の美的意識を悪趣味と否定した櫻霞が、放った気糸でキマイラを十重二十重と縛り付けていく。 「俺の目の前にエリューションなんて代物を連れてきたことを後悔させてやる。さあ、覚悟は良いな?」 「まぁ、そう嫌わずに見て行けよ」 覚悟を問う彼の言葉を受けても狂った笑みを崩さずにいる辺り、神崎は妖花に対して絶対の自信を持っていることが伺える。 プツリプツリと絡みついた糸が薔薇の棘に断ち切られていく様を見れば、その自信もどうやら夢想の類ではないらしい。 「うし、それじゃ行くか」 「ああ、こんな所で立ち止る訳にはいかんからな」 気糸を放った櫻霞とは別の方向からは、翔太と優希が紫杏派フィクサード2人に対して肉薄しようと前へと飛び出す姿も見え、優希が放った蹴りの起こす真空の刃が、神崎の頬を掠めていった。 左には櫻霞、ハイディ、雅。右方向にはルーシアと心、小五郎が展開し、戦闘態勢を取っている。 「――3手に分かれたか」 「どうします?」 「吹き飛ばしてやれ、それがご希望のようだ」 なるほどと言った表情を浮かべた神崎の小川の問いへの答は、それ自体がキマイラへの指示でもあった。ポイズンカノンを警戒しての布陣であるならば――と。 ズルリと地を這い全てのリベリスタを射程に収めたキマイラが、言われた通りに放つ薔薇の棘を擁した鞭の一撃。 「きゃあっ!!」 大半のリベリスタは衝撃を受けながらも吹き飛ばない中、唯一吹き飛んだのはルーシアだ。 「では、私も行きますか」 キマイラに続けと光弾を小川が放つ一方で、 「ははは、まずはあのシスターだ!」 吹き飛んだルーシアに狙いを定め放った神崎の鋭い矢が、彼女へと飛ぶ。 2人のフィクサードにとっては倒しやすく狙いやすい相手に見えた事だろう。だがリベリスタ達にとっては、ルーシアの存在は生命線でもある。 「させないのデス!」 それ故に放たれた矢は心が身を挺して受け止め、ルーシアへの追撃を許さない。 「守りを固める事が大事だと言う事ですのぅ……」 さらには小五郎が仲間達と防御動作を共有する事で、リベリスタ達全員の構えがやや洗練されたようだ。 出来うる限り回復を担うルーシアを守り、さらに態勢を少しでも整えつつ、全ての敵を撃破する。オーソドックスではあるが、この戦場、加えてキマイラとフィクサードの戦い方を考えれば、十二分に通用する作戦だと言えるだろう。 「間近で見るとより気持ち悪いわね! もうちょいと見た目何とかしたほうがいいんじゃない!」 「見るに耐えんな。その花、散らしてやるぞ!」 その作戦を忠実に遂行した雅の魔力銃が火を吹き、ハイディの蹴りが空気の刃となりてキマイラへと襲い掛かる。 「少しでも多く、皆さんの傷を癒さなければ……」 そして心にしっかりと守られたルーシアは今しかないと体内の魔力を循環・活性化させて、次から放つであろう息吹をさらに力強さを持たせるに至っていた。 「なるほど……なるほど、なるほど! そういう事か!」 不意に、神崎が大きく口を開き、笑う。 「何がそういう事だ」 「余所見している暇は与えんぞ」 ほぼ同時に攻撃をかけた翔太と優希によって傷を負いながらも、神崎の笑みは止まらない。 「お前達は、こちらを攻撃するのだろう?」 翔太と優希を指差し、狂気の男は言う。 「あっちの3人は妖花を狙い――、向こうのシスターのいる方が援護の担当か」 その指摘は狂気の中にありながらも冷静で、わずかな変化も研究データとして採取する研究員ならではの読み。 半分は間違えているものの、客観的に見ればほとんど正解と言っても良い観察結果を、男は口にした。 「それがどうした。ここからが俺の本領発揮だ」 あまりに不遜な態度を続ける神崎が癪に触ったのか。その頭脳を超集中状態にまで高めた櫻霞が、間髪を入れずに「少し黙っててもらおうか」と神崎や小川、キマイラの弱点を狙い撃つ。 絡み付いた気糸に動きを阻害され、一気に動きを鈍らせる神崎達。 「中々にやりますねぇ」 しかし鈍ったからとは言え、構えた攻撃まで遅くなる事は無い。再び光弾を小川が放つ傍ら、神崎の読みはキマイラのアシッドカノンと言う結果をリベリスタにもたらす。 狙いは当然、 「痺れるのデス!?」 「むにゃむにゃ……」 最も脆いと判断されたルーシアや、彼女を庇う心、傍でぷるぷるしてるお爺ちゃん、もとい小五郎だ。 元々ぷるぷるしてる小次郎が動きを止めたかは一目では判別がつかないが、心の動きが止まった事だけはわかる。 「ははは、これでもう庇えまい?」 輝く光弾でリベリスタ達を撃ち抜きつつ、してやったりと言った顔の神埼。 「まずいな……だがその読みは、半分ハズレだ」 確かにハイディの言う通り、ルーシアが孤立した部分は状況としてはよろしくない。それでも半分ハズレであると続けて彼女は言う。 それはそうだろう。さらに前に出たハイディの狙いはキマイラではなく神崎や小川で、 「生命線をやらせるわけにゃあいかないねえ」 孤立したルーシアに対しては、同じく神崎を撃ち抜いた雅がいつでも援護に入ろうという姿勢を見せていたのだから。 「あぁ、面白い。お前達はやはり、アンティパストとしては最高だよ――」 自身の予想を上回るリベリスタ達の行動に、笑みを絶やさない神崎の頬を汗が伝う。遂に、彼の顔から余裕が消えた――。 ●妖花散る しばらく続く、一進一退の攻防。 否、一進一退の攻防というのは間違いか。紫杏派フィクサードやキマイラに傷を癒す手段はなく、 「私は私の役目を全力でこなすだけです……!」 対するリベリスタ側には、生命線と雅が称したルーシアの存在がある。 徐々にではあるが、確実に勝敗の天秤はリベリスタの側へと傾き始めていた。 「エリューション風情が、俺の前に立つな」 しかも時折、櫻霞の手によって妖花の動きが封じられてしまうのだ。すぐに拘束を引きちぎって動き出すとは言え、神崎にとっては予想外の苦戦である事に違いは無い。 忌々しい。あぁ、忌々しい。 何故にこうも押される? 何故にこうも苦戦する? 「焦っているのか。このままではお前達の美しい芸術品を、俺達が破壊してしまうぞ? 死ぬ気で壊してやるから、死ぬ気で守って見せろ」 先程までの余裕と不遜な態度はどこへやら。顔にはっきりと焦りの色を浮かべる神崎に、小川を地面に叩き付けた優希の挑発が飛ぶ。 「お前らの自慢のキマイラは中々に強力なヤツだしな。こっちは厳しいぜ」 続いた翔太の言葉はもちろん誘いであり、元来は冷静な神崎がその誘いに乗るような事はない。乗れるはずもない。 「よく言う。こちらの劣勢は明らかだ。それもこれも――」 憎しみを込めた神崎の視線が向いた先には、ルーシアの姿。どれほどの傷を与えても、次の攻撃が始まる時にはじわりじわりと傷が癒えているのだから当然だ。 「あの女さえ何とか出来れば……!」 何度も何度も光弾を放ち、彼女を守る心が倒れないかと狙う小川は、最早限界が近付いている。 「そう簡単にやらせないために、ボク達がいるんだ」 「ええ、そうね。だから大人しくやられなさい?」 飛び交う光弾がルーシアを捉え切れずに心に着弾する最中、その小川がハイディと雅によってガクリと膝をついた。 「まだです、まだ……!」 何とか必死に立ち上がろうとする姿からは研究員らしからぬガッツを感じるが、立ち上がらない方が小川にとっては良かったのかもしれない。 「これでまず1人デスね」 「ですが、まだ油断は禁物です」 光弾から守るべき相手を守った心と、守られたルーシアの僅かな会話。 「次はあの神崎と言う人ですのぅ……」 様子を見守りながらも呪力の雨を降らせ、肌に刺さるような寒い空気にさらに冷たさを持たせた小五郎も、既に小川の命運を悟っていたようだ。 「いい加減に倒れろ……邪魔だ」 気迫をもって立ち上がったところを、櫻霞の放つ気糸が彼にトドメを刺したのである。 「惰弱、惰弱! なんという無様な姿だ。だが……」 生命の鼓動を止めた小川を一瞥し、無様と言い放つ神崎自身も、この時に己の命運を感じたのだろう。 執拗に攻め立てる翔太と優希を侮り、かつ妄信ともいうレベルで妖花に自信を持っていた事が災いしたのか。 「俺は優希の盾」 「そして俺は翔太の鉾」 見事過ぎるまでの連携を見せる2人に、神崎の命運は尽きていた。 「ここまでか。だが……俺はお前達の手では、死なん!」 ふと、死に物狂いで最期の光弾を放った神崎がキマイラに視線を送る。リベリスタの手にかかって死ぬような事になるならば――。 ヒュン! 周囲を薙ぎ払い、吹き飛ばすキマイラのソーンウィップが、ありとあらゆるものを拒絶するかのように振り回されていく。 小川の遺体も、瀕死の神埼すらも、巻き込んで。 「自爆か?」 あまりにも予想外の出来事に、ハイディの目が一瞬丸くなった。 「違うわ、それがあいつの最後のプライドだったんじゃない」 何事かと言う彼女の言葉に対して、恐らくこうではないかと雅は推察し、答える。 自らが死ぬその時まで妖花に絶対の信頼を持ち、その死すらも妖花の手でと求め、神崎は死した。 「後はキマイラだけデスけど……ここからが問題デスね」 だが2人の紫杏派フィクサードの死は、ある意味で大変な問題を起こすと感じる心。 「どういう、事ですか?」 「制御をなくした……と言う事ですのぅ」 何が起こるのかと問うルーシアに対する小五郎の返答に、回復を担う少女は「あっ」と声をあげる。 神崎と小川が何らかの手段でキマイラを使役していたのならば、その2人が欠けたことで妖花は糸の切れた凧となったのだ。 「どう動くかわからない、か。しかし――」 そんな状況の中でも、櫻霞は至って冷静に妖花を気糸で撃ち抜き、言葉をさらに紡ぐ。 「問題は無いだろう?」 その言葉は別に仲間達を鼓舞するために発したものではない。彼にはそう言うだけの自信があった。 「だな」 恐ろしいまでのスピードをもって妖花に突撃した翔太も、 「これまで通りにやれば良いのだ」 妖花の花弁を勢いよく大地に叩き付けた優希も同意見であるらしい。だがそれは当然と言えるだろう。 『クァァァァァァ!』 破裂した『人間』の茎が、根の代わりとなって地を這う『蛇』がおぞましく聞くに堪えない声をあげて暴れたとしても、 「とっとと沈め!」 「この公園は色んな人にとって大事な場所なんだよ、それを手前みたいなバケモノに渡してやるかってんだよ!」 変わらずに魔力銃から弾丸を放つ雅や、妖花に肉薄して氷を纏った拳を叩き込むハイディに、否、リベリスタ達の行動は全てこれまでと同じで良いのだ。 「そう、これまでと同じで良いのですじゃ……」 妖花の身を凍てつかせる雨を降らせる小五郎も、それで良いのだと頷いている。 「デスね。私も最後まで気を抜かないのデス!」 「すみません、お願いします。私も頑張りますから……!」 ならば最後までルーシアを庇うだけだと体を張る心も、彼女に守られながら仲間の傷を癒すルーシアも、動きに変化を見せる事はない。 攻め立てるリベリスタと、ボロボロになりながら暴走する妖花。 2人の紫杏派フィクサードが倒れた時点で、勝敗は既に決していたのだろう。 終わりの時は、不意に、だが決定的な形を持って訪れた。 「む……?」 内側から妖花を破壊する拳を叩き込んだ優希の手に、それまでと違う感触が伝わる。 ピタリと暴走する妖花の動きが止まり、そして――ドロリドロリと、蕩け始めていく。 それは『狂った美的意識』の中で美しいとされた花の、『醜悪』な終焉――。 ●小さな1勝 花を散らせ、消え行くキマイラ。 「なんとかこちらの戦場は制圧できたようですね」 それはルーシアが言うように、リベリスタの勝利を意味する。大きな戦場の中で得た小さな1勝ではあるが、積み重ねるべき勝利の1つである事に違いはない。 「六道もさっさと潰れてくれないかね。唯でさえ楽団が五月蝿いというのにな」 ふわりと煙草の煙を吹かし『閉じない穴』の方向を眺め、櫻霞は他の戦場では『死体を使役する』楽団員が現れているらしい報告を思い返していた。 この場には現れていないものの、依然として予断を許さない状況ではある。 「まぁ、これでは楽団もキメラの屍は使役出来ないな」 だがハイディの眼前で妖花は蕩け、もはや原型を留めておらず。いかな楽団員とはいえ、こうなったキマイラを使役する事は流石に不可能だろう。 「これでキマイラとの戦いは終わると良いんだけど、な」 「そうだと良いがな」 翔太と優希はキマイラとの戦いの終結を願うが、果たしてそれは叶う願いなのだろうか? その答は、全ての戦いに決着がついた時に出るはずだ。今の彼等に出来る事は、アークの勝利を祈る事。そして――。 「この近くに楽団の方がいないとしても、三ヶ池は神秘の温床……放置はできませんじゃ……」 残った紫杏派フィクサード、神崎と小川の遺体を楽団に渡さないためにも、運ぶ事だと小五郎は言う。 「確かにその通りね。では移動しましょう」 頷いた雅のみならず他のリベリスタ達も、その提案を否定する必要性を感じてはいない。むしろ必要だと考えていた。 「楽団関係者と鉢合わせしない様に、注意が必要ですがのう……」 注意を促す小五郎を先頭に、勝利を収めたリベリスタ達はそっと遊びの森を後にする。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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