● 「嗚呼、良い夜。世界の綻びの気配が満ち満ちてるわ」 厚めの唇に引いたルージュ。くすくす、楽しげに笑う度に揺れるのは、緩やかに巻かれた栗色の髪。くるくる、回って、死の残滓が漂う公園で楽しげに踊った。 愛すべき『教授』の名の下に。半年間蠢き続けたこの極東のお姫様に手を貸そう。世界の綻び――『三ツ池公園』。そこに大挙して攻め入った『六道の兇姫』六道紫杏及びその部下の友軍として戦場に立った少女は楽しげに眼を細める。 噂によれば、彼の『楽団』の木管パートリーダー『モーゼス・“インスティゲーター”・マカライネン』も此処を狙ったらしい。 それに触発されたのだろう。侵攻を決めた彼女の指示を思い返しながら、少女は微笑む。 「うふふ、今日の『お仕事』は楽しそうね。素敵素敵」 ころころと笑い声を立てた。視線の先にある、異界に通じる綻びの気配。アレを広げれば世界は壊れるだろう。狂ったお姫様の望みは世界の崩壊。そして、愛しい愛しい『研究成果』の更なる進化。 己が道を究める為に妥協を許さぬのは、流石『六道』と言うらしいモノの血族だ。 歩き出した。軽やかな足取りで向かうのは、任されたらしい持ち場。今から聞こえる血で血を洗う気配に身震いがした。サンタさんは良い子にしかプレゼントをくれないって言うけどそんなのは嘘だ。だって。 「――楽しみだなぁ」 こんな私にも、素敵なプレゼントをくれるんだから。 ● ざざっ、ノイズ交じりの通信音が『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)の懐中時計から漏れる。 『――聞こえてる?』 「ええ。……人は集めました、状況を」 通信相手、『導唄』月隠・響希(nBNE000225)の声は既に真剣みを帯びていた。移動中の車の中。無機的な音声だけが響く。 『……六道紫杏が動いた。場所は『三ツ池公園』。……先日の襲撃以降警戒は強めたけど、『本気で攻め落とす』心算の相手には少数精鋭じゃ対応出来ない。 だからちょっと大がかりだけど動いて貰ってるのよ。……今回あんたらに相手してもらうのは六道紫杏についてくるフィクサードじゃないわ。――『倫敦の蜘蛛の巣』って、知ってるかしら」 バロックナイツのジェームズ・モリアーティ『教授』。彼が率いるフィクサード集団『倫敦の蜘蛛の巣』。それが動いている、とフォーチュナは告げる。 『紫杏にとっての『先生』がモリアーティなのよ。で、彼女の呼びかけに応じて蜘蛛の巣は動いた。……要するに、あんたらはその、動いてる蜘蛛の巣を撃退してくれればいい。 敵は9名。リーダー格の少女はアリス・メトカーフ。フライエンジェ×マグメイガス。残りはジョブ雑多。ホーリーメイガスとダークナイトは分かってる。……まぁ、とにかく戦って、撤退させて』 ふ、と漏れる吐息。無言で聞いていた男が微かに視線を上げる。 「……他に情報は」 『特にないわ。……激戦が予想される。くれぐれも気を付けてね、――帰りを、待ってるわ」 少しだけ不安げに揺れた吐息。それを最後に通信は途絶える。蓋を閉じた時計ををそっと仕舞って。男はエンジンを切った車から降りる。 「今回は私が同行します。――最善を尽くしましょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月28日(金)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 遠くから流れてくるのは、錆びた鉄の様で、胃の奥の不快感の煽る様な、生臭いにおいだった。 吐いた息は白い。悴む指先をゆっくりと握り込んで。『鷹蜘蛛』座敷・よもぎ(BNE003020)は緩やかに瞼を伏せる。冷え切った空気は胸の奥まで冷たくするようで。 緩やかに開かれた翠玉が仄かに煌めく。揺らめくのは常の凪ではなく、静かに燃え立つ闘争心。遮蔽物は何も無い。灯りの心配もない。嗚呼、まさに戦いにはおあつらえ向きの場所だ。 「悪くないね。……この力、尽くさせて貰うよ」 艶やかな黒髪がふわりと揺れる。未だ幼いと言っていい手には不似合いな剣が鈍く光を弾く。彼女の隣では、リオン・リーベン(BNE003779)が群青を伏せる。戦場を見渡すのは赤紫。敵を待ち構えるその姿は歴戦の軍師。 よくもまぁ、こんな大規模な作戦を行ったものだ、とその瞳は冷やかに笑う。全て完遂出来ると思っているのだろうか。させる訳もないのに。 マントが舞う。時の流れと共に冷え込みを増す空気を、裂く様に。かつん、と響いたのは、ヒールがぶつかって跳ねる軽い音。栗色の髪がふわりふわり。歩く度に揺れていた。 「素敵な夜ね。皆さん御機嫌如何?」 ひらひら振られる手。甘く微笑むその顔が何か告げる前に。リオンは既にその『戦闘指揮』を開始していた。微かに眇められた瞳が行うのは解析と、同調。全てを最適に。己が持つ最も優れた戦闘形態を。 「同調開始。攻撃態勢指示、一気呵成」 時間はかけていられない。戦場を走る瞳に応える様に、現れた英国の淑女の指先が描き出す魔術のライン。一気に展開された陣が、魔力を高めていく。御挨拶もしてくれないの? 傾げられる首。 視線が交わる。優雅に微笑みを返して。『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)の纏う漆黒が、魔力の煽りを受けた様に舞い上がった。 「グリュースゴット、アリーセ。――私の名はアーデルハイト・フォン・シュピーゲル」 「まぁ、『お揃い』ね」 僭越ながら、女王陛下の庭を荒らす蜘蛛を散らしに来た。月明かりの瞳は美しく、けれど何処までも冷やかに微笑む。視線を交える少女は楽しげに笑い声を立てた。 アーデルハイト。アリスと同じ意味を持つそれを冠す彼女はしかし、鏡の国を駆け回る無邪気な少女ではいられない。 鏡だ。冴え冴えと光を零し、夜闇の中で心の虚実を映すもの。高潔で美しい、貴族たる吸血鬼。 「――さあ、踊りましょう。土となるまで、灰となるまで、塵となるまで」 英国紳士淑女に恥じぬ振舞いを。大陸の貴族は何処までも冷やかに微笑む。飛んでくる淀み無き連撃を、前衛を受け止めるのが見えた。滴る紅。仲間が少しでも傷を負わないようにと。震えながらも正確で精密な防御行動を編み出し、同調。 『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)は震えながらも確りと地を踏みしめた。何処までも温和で穏やかな面差しはしかし、人生と言う名の経験を誰より積んだものの鋭さが微かに滲む。 「……このまま何もせずにお帰り頂く事はできませんかのう……?」 殆ど聖夜と同日のこの争いだ。若い少女がはしゃぐ気持ちは分からなくもないけれど。それは決して看過出来るものではない。困ったものだ、と呟く彼の前で、よもぎの刃がダークナイトのそれと交わる。 弾ける様な高い、硬い音。掠めた刃に鮮血が散る。それを厭わずに。緩やかに目を伏せて、身体のギアを切り替える。透ける翠が前を見据えた。 「忙しいところ悪いね、アリスくん」 この手この力は未だ未熟だけれど。日本の『蜘蛛』の相手をしてくれるか。すぅと口角を上げて見せれば、少女は楽しげに片目を伏せてくるくると回って見せた。 指先を覆う、シルクの手袋が艶やかに。素敵だわ、と微笑む彼女に視線を投げて。形容しがたい感情を飲み込み切れず表情を歪めたのは『意思を持つ記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)。 何を考えているか、わからない。理解が出来ないものをどれ程思おうと、それは何の意味もなさない。だから。すべきは徹底的に抗う事だけで。答えなんて、必要ない筈なのだけど。 己が身さえ傷付ける程に。無意識にかかる箍を外して、背筋をぴん、と伸ばして、唇を引き結んだ。そうしないと、どうにも出来ない感情が零れ落ちそうで。微かに、眉を寄せる。 「わたくしはわたくしの仕事を! スマートにいきましょう!」 振り下ろされた、全力の刃をすり抜けて。執事たる青年は己を奮い立たせる様に声を張る。 ● 大量の紅が、一気に地面を染めた。飛んで来た魔力の砲撃。触れただけで皮膚を裂く様なそれに、『見習いリベリスタ』柊・美月(BNE004086)の膝が崩れかける。 けれど。その身体は地には沈まない。燃え立つ運命の残滓。緩やかに上げた頬を伝う紅を、確りと拭った。 数は互角。ならば、自分が立っているというその事実はそれだけで大きな意味を持つ。浅く、息を吐き出した。 「……ある意味、こんな夜も似つかわしいのでしょうか」 聖なる夜の血なまぐさい逸話なんて、きっと掃いて捨てる程存在する。肩で息をする美月の浅くはない傷を癒したのは、何処までも優しい癒しの微風。ふわり、と銀色の髪が舞い上がる。 魔力を伝わせれば、白銀の煌めきはより鮮やかに。幾重もの文様が刻まれた鍵を翳して。『リベリスタの国のアリス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)は幼くも愛らしい面差しに、僅かな硬さを滲ませていた。 倫敦の蜘蛛の巣。遥か西の島国で母親から聞いたその名を冠すものが、今目の前にいた。同じ名前の少女と、一瞬だけ視線が交わる。傷を負いながらも、中衛位置で立ち続ける彼女の力は決して侮れるものではなかった。 「私もリべリスタの一員です……くい止めなきゃ……!」 「あなたの相手はこっちです!」 力を込める。けれど、彼女自身も決して無事ではなかった。『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)が敵を弾き、前衛に立つリオンやヘルマンが抑えに回っては居るものの、前に立つ数に負ければ如何しても後衛に攻撃が回るのは避けられない。 リベリスタの尽力によって癒し手が既に倒れ伏していたのは、何よりの戦果だっただろう。癒しを受けられないのなら、早期決着を狙わざるを得ない。一気に攻勢に転じた敵状況を見据えながら。 『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)の不可視の殺意が、執拗に敵の頭を狙う。命を奪う為の一撃にも躊躇わず。無機質な瞳がひとつふたつ。瞬きをして首を傾けた。 「殺し合い、お望みですか?」 「ええ。素敵じゃない? 血と血を混ぜ合うなんてまるで男女の交わりの隠喩だわ」 てらてらと。紅を塗って艶めく唇が笑った。それにも大した感情を覚えず。何処までも己を自律兵器と思い込む少女は表情一つ動かす事無く、頬に付いた泥を拭った。 悪くない。殺し合いたいなら乗ってやろう。相手がフィクサードである以上、ベルベットの心には遠慮と言う言葉は微塵も存在しない。血で血を洗おう。但し。 「その血を用意するのは其方です。……『倫敦の蜘蛛の糸』であろうと」 全力で台無しにしてやろう。唇だけを微かに上げた。そんな彼女の目前で翻る夜の色にも似た、滑らかなマント。護りの加護など無視して深々とめり込む掌底。咳き込み吐き出した鮮血と運命が、痛みの代わりにその膝を折らない力を与える。 「悪いな、身体を張ることには慣れているんだ」 まだまだ。付き合って貰おう。凄絶なまでに悠然と。笑って見せた。その背後。蠢いたのは、怖気を覚える様程の冷たい魔力。真白い指先零す紅の帯が、漆黒の鎖へと姿を変える。 纏った夜より暗いそれが、拡散した。切り裂き縛り付け縫い止める。荒れ狂う魔力の中で、アーデルハイトはその優美な笑みを崩さない。 「此方の御持て成し、ご満足頂けそうですか」 「素敵素敵、もっと楽しみましょうね」 傷ついた頬から滴る血を拭う手。動きを縫い止められた仲間の中で唯一動ける少女の指先が齎す荒れ狂う雷撃。撃ち抜かれて、ベルベットの意識が遠のく。運命が削れ飛ぶ気配がした。神経を焼き続ける筈の痛みは遮断して。 膝に力を込める。倒れる事無くその身を保った彼女の無事を確認しながら、小五郎が紡ぐ呪いの印。冷え切った空気よりさらに凍てつくような。魔力の冷気が、氷の雨に姿を変えて降り注ぐ。 「実に困ったものですじゃ……」 遠くから聞こえる戦闘音。争うのは此処ばかりではなくて。だからこそ、流さないで済む血は流したくない。優しげな瞳が気遣う様に仲間を見遣る。 交わる剣と剣。血の匂いが増す戦場に、終わりの気配はまだ遠かった。 ● 「アリス君、質問があるんだけど良いかい?」 「はぁい、構わないわよ?」 振るった刃が放つ淀み無き連撃。紅色を滴らせながら崩れる敵を一瞬見遣って。よもぎは、未だ立ち続ける少女と目を合わせた。倒れたのは、2人。絶妙に攻撃よりも『自分が倒れない』事に力を入れている様に見える敵の様子。あと一歩、余裕を崩さない。 そんな相手だ。どうせ、有益な情報は得られない。それを理解した上で、よもぎは緩やかに首を傾けた。 「きみ達にとって教授とはどういう人物なんだろう」 向けるのは敬愛。ならば、其処に至るだけの何かがあったのか。そんな問いかけに、少女は曖昧に微笑んで目を細める。応える気はないとでも言うのだろうか。合わなくなった視線を気にする間もなく。アリスの癒しの微風が、敵のおぞましい呪詛が飛び交う。 その只中で。荒い息をつくヘルマンはその身一つで目の前の敵を抑えながらも、徹底的に後衛へと流れた敵へ攻撃を加えていた。しなやかに振り抜かれた足が描く紫のライン。生み出された鎌鼬が、敵を裂く。 目の前の敵を倒さなければ、自分が傷つく。けれど。それでもヘルマンは常に、後衛に迫る脅威を最優先する。どれだけ傷ついても。その瞳は常に、仲間を気に掛ける。 だって当然だ。彼らは、自分を、前衛を信じて援護をしてくれる。互いが互いに抱く信頼の情。それを知っている。そして、知っているなら。 「我々は何をどうしたって立ち上がって! あの人たちの盾にならなきゃいけないんだ! どいてろゴミ虫野郎ッ!」 応えなくては。煌めく刃の一撃に、意識がぐらついた。柔らかな金髪は血に塗れて赤銅色。それでも倒れられない。その意志は運命の気まぐれを呼び寄せる。苛烈な戦場の中でも一際ドラマティックに。微笑む運命が背を支えた。 臆病で、優しい紫に揺らめくのは、凛と張った強い決意。その様子を眺めていた少女へと。飛んでくるのは、煌めく弾丸。 「それは希望という名の光の力!」 その力が未だ、遠い星の煌めき程であったとしても。抱き続ければそれは確かな力に姿を変える。少女の手には不似合いな武器がきつく握り締められた。負けない。負けられない。 彼女の横から、敵の少女へと飛ぶのは執拗なまでの不可視の殺意。白い肌が切れて、流れ落ちる紅い色。ベルベットは無表情に手をひらつかせて見せる。 「弾丸のプレゼントは如何ですか?」 御礼はその命でも。明確な殺意はしかし、少女にとっては喜びにも似たなにかを奮い立たせるものに過ぎないようだった。 精神を交える。同調して流し込む力の源。癒し手たるアリスにその力を分け与えながら、リオンは色違いの瞳を細めた。戦闘指揮者。自分が出た以上、この戦いに約束されたのは勝利だ。 不敗を誓う彼の瞳が不敵に笑う。紡がれた詠唱が齎す、血の黒鎖が荒れ狂った。傷ついた敵の手から零れ落ちた、銀色の何か。すぐ拾い上げられたそれが見知った録音機器である事に、アーデルハイトは微かに眉を寄せる。 「消耗の心配はするな。全力でかかれ!」 かかる声。気に掛かったそれは頭の隅に置いて。アーデルハイトは再び戦場へと目を戻す。ふわり、舞う気糸。正確無比に執拗に。弱点を叩くそれを纏う漆黒の指先。 援護があるからこそ、全力は振るえる。完全に攻撃へと重きを置き全力を振るう狩生の姿を横目で見て。よもぎは微かに、息をついた。日頃言葉を交わす彼とは違う空気と表情は、彼もまた、歴戦のリベリスタである事を教えてくれる。 「――怪我はありませんか」 気遣う声に頷いた。失血と疲労で冷たくなった指先に力を込め直す。大丈夫。まだやれる。負けてはいられない、と深く、息を吸った。 「私が出来ることに全力を出していくよ。……気を付けて」 視線を交えた。心配ないと微かに笑う青年の横合い。脅威を打ち払う破邪の閃光を放った小五郎は、震える声に力を込めて、娘さんや、と呼びかけた。 此方を向く、翡翠色。瞬いて傾げられた顔に穏やかながらも強い視線を向けて。小五郎は静かに、口を開き直す。 「命こそが何よりも尊い贈り物……それのみを抱えて今日のところはお引き取りを……」 回復が残るリベリスタに比べて、フィクサードの損傷が軽微でない事は誰が見ても明らか。ならば、引く、と言うのも選択の一つではないか。持ちかけられた言葉に、また幾度か瞳は瞬いて。 口角を上げた少女は可笑しくて仕方ない、と言いたげにころころ笑った。 「そう、そうね。帰れなくなっちゃうものね。嗚呼残念だわ、もっともっと遊びたかったのに。誰かの命が潰える所も見れないし。でも、帰れなくなったら先生に怒られちゃう」 宿題があるの。猫の様に。目を細めて少女は笑う。その様子は何処までも楽しげで。甘ったるい少女同士の他愛無い言葉遊びの様な軽さで、それは人の痛みを、死を、望んで求めて。 鎌鼬が駆け抜けた。栗色の毛が飛ぶ。大事な大事な手。商売道具と言うべきそれを、きつくきつく握り締めて。漏れるのは、吐き出し切れない激情と困惑。 「あなた、何を考えてるんです? 何がしたいんです?」 何が楽しくて、笑っているのか。問いかけたけれど、答えがほしくはなかった。理解出来ないから。きっと、丁寧に説明されたって分かってやれない。 相容れない。それが嫌と言うほどわかった。混沌を。人の痛みを。こんな風に喜ぶものなんて理解出来る筈もない。したくもない。 「Just kidding! ほんの戯れだわ。どうしてそんなに怒っているの?」 まだ誰も死んじゃいないじゃない。不思議そうに傾げられる首。嗚呼心の底から相容れない。嫌になる程に異なるその感覚。機械の指先が軋みを上げる程に握られた。 「わたくしにはわからない。混沌を喜ぶあなたたちのことが、全然、一切、理解できません。だから――」 負けて、泣け。優しく穏やかな瞳には不似合いな程。其処にあるのは純粋な怒り。必ず負かす。そんな彼の決意だけではなく。リベリスタから向けられる感情の色に気付いたのだろう。 少女は緩やかに、首を振った。帰らなくっちゃ。囁くような声。くるり、踵を返した。 「ごめんね、オヒメサマの為に死にに来たんじゃないんだわ、私」 出された『宿題』は、きちんと期限を守らないと。笑う少女の手の中。見慣れたICレコーダーがひらひら揺れた。見逃して頂戴ね。仲間の死体を背負い上げて。その姿はゆっくりと、夜の闇へと消えていった。 ● しん、と。戦場に静けさが残る。追おう。そんな声も上がったけれど。倒れたものは居なくとも、リベリスタの傷は決して浅くない。 多くが運命を削った状況の深追いは得策ではない。戦闘指揮者たちの冷静な言葉に、その足は留まった。血の匂いが濃い。各地で行われる戦闘は、激化しているようだった。 「アリス……」 小さく小さく。自分と同じ名前を、アリスは呟く。楽しそうに戦う少女。もし、もしも違う場所で会っていたなら。同じ名前だね、何て笑い合って友人となる事は出来たのだろうか。 もしもなんてなんの意味も無い事だけれど。何処までも優しい少女はそっと目を伏せる。嗚呼出来るなら。もっと別な形で、出逢えて居たならよかったのに。 傷を癒す。全員の無事を確認しながら、美月は静かに、フィクサードが消えていった方向を見つめた。 組織を蜘蛛の巣と言うのならば。構成員は蜘蛛なのだろうか。そんな事を考えて。益虫と呼ばれるそれを、ぼんやりと頭に思い描いた。 「……あなた方は益虫になりえるのかしら、ね?」 呟く。銀色の髪が流れた。彼らの存在は、この戦場にどんなものを齎したのか。到底想像も出来なかったけれど。 決して、益ではなかったのではないか。そんな嫌な予感ばかりが冷たく冷たく胸に満ちる。彼らの存在。この戦場ではなくて、その先。もっと暗い何かに繋がる様な気がして、気のせいであって欲しいと首を振った。 夜は明けない。電球が切れかけたランプがちかちかと瞬いた。 戦闘の音も、消えない。リベリスタ達の防衛線のおわりは、夜明け以上に遠いところにある様に思えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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