● 空間が其処にあった。『三ツ池公園』は広い。 別に男は散策しに来た訳ではないのだ。『目的』がある以上、此処で公園が広い事に関して感動を覚えている暇はない。 ――♪ 夜の公園に響くにしては陳腐な音色だった。幼稚とも言えようか。『リコーダー』を夜の公園で奏でるという余り遭遇しないシチュエーション。 「あら……。貴方、お暇なのかしら」 丸い瞳を向けて少女は嗤う。夜色のドレス。楽器を手にした『外人』――ケイオスが率いる『楽団』の娘だろうか。男の奇異の目を向けられて少女は楽しげにくるくると舞う。 「こんな良い夜なのよ。奏でるにしては丁度良いでしょう?」 だって、この場所って、とってもとっても素敵なんですもの。 男は『六道紫杏』の援軍であった。少女の名前はフュリ。彼女と親愛なる『インスティゲーター』が行った侵攻に触発されて戦う事を決めた六道の姫君の援軍。 嗚呼、全ては教授の仰せのままに。 ● 「『楽団』で忙しい中ごめんなさい。お願いしたい事があるの」 真面目な顔をして『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は集まったリベリスタに告げる。 「皆に向かって欲しいのは三ツ池公園。ここの西門周辺よ。 お願いしたい事は……まあ、簡単に言えば六道紫杏の用意した『メインディッシュ』の妨害かしら」 『前菜』の次は『メインディッシュ』――紫杏の用意したコース料理の準備は段々と整えられてきたのだろう。 六道紫杏の目的は『閉じない穴』だ。穴を使って手っ取り早く崩壊度を上げるつもりだろう。主流七派『六道』。探求者集団の姫君たる紫杏は自身の研究に手を抜く気などさらさらない事など考え無くとも解る。 「三ツ池公園は最近、バロックナイツの一人であるケイオスの率いる『楽団』の一派が攻撃を行っていたわ。 其れで警戒を強めている所に、何故今『紫杏が仕掛けるのか』と言う事なのだけど」 何処か言い辛そうに言葉を紡ぐ予見者は、アシュレイさん曰く、とあの猫の様な魔女の名前を呟く。 「競合するライバルの存在が彼女を焦らした――とも思えるのだけど。 紫杏には自信過剰な性格を更に加速させるきっかけがあったの。彼女の『教授』ってご存知?」 「教授?」 きょとんとしたリベリスタに予見者はハッキリとした声で言う。 「ええ、彼女の『教授』は『犯罪界のナポレオン』と呼ばれるバロックナイツの一人として数えられるジェームズ・モリアーティよ。彼の『力添え』があるみたい」 『力添え』。その言葉にはどの様な意味があるのだろうか。世恋の言葉にはまた別の意味が含まれている様に思えた。 「六道紫杏には『援軍』が居るわ。教授が彼女の為に送り出した援軍『倫敦の蜘蛛の巣』の部隊。 彼らの事については余り分からないの。正に、倫敦の『霧』の中に隠されてるって感じかしら」 冗談めかして微笑んでは見たものの彼女は緊張を解かないままに、「倒して頂きたい対象は」と続ける。 キマイラを相手にしろと言うでもなく、ただ『援軍』の話しだけをする世恋に段々と違和感を感じ始める。 「――対応して頂きたいのはその『援軍』よ。英国の敵である以上、その戦闘力は未知数だと言えるわ」 さあ、目を開けて。常と同じ言葉を漏らしながら、予見者は祈る様に呟いた。 「皆の帰り、お待ちしているわ。どうぞ、ご武運を――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月26日(水)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● この音色を何と喩えようか。 余りに幼稚なソレに重なる様にして掛けられた男の言葉。 「君、コンダクターの所のお嬢さん?」 「貴方こそ、『教授』の所の?」 互いが互いを認識し合う。嗚呼、けれど其処から紡ぐ言葉は無い。楽団の少女と援軍の青年の視線が交わって外される。彼らの他に『介入者』が居たからだ。 研ぎ澄まされた空気の中で、じゃり、と砂を踏みしめて『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は赤い瞳を彼女の敵に、『楽団』と『倫敦の蜘蛛の巣』に向けた。 「楽団、それから六道――ましてやヨーロッパからの増援だなんてね」 「状況が厄介な方に進んでる気がしてならねぇぜ……」 愛用の銃に指先を添えたままに『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)は溜め息をつく。厄介。六道紫杏の存在だけで合っても『厄介』だと云えるというのに其処にヨーロッパからの増援があるというと状況は最悪だ。 「バロックナイツの関与、か。六道の兇姫の強行もそうだが、日本以外でやって欲しいものだな」 呆れを浮かべアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)はラージシールドに手を添えたままに真っ直ぐにローゼオ・カンミナーレを見つめる。バロックナイツの一つに数えられる『教授』の直属組織。その援軍たる男が彼女らの目の前に居るのだ。必ず喰いとめる、そう決意を固めて彼女は闇を纏う。 「どーも、お久しぶり……でもないですねえ」 双子の月を握りしめた『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)の瞳は真っ直ぐにリコーダーを手にした少女に向けられる。この場所――三ツ池公園の西門で一度でも戦いを繰り広げた相手が其処に居る。 「またお逢いしたのね、黒いお姉さま」 黎子の足元から伸びあがった意思は彼女を補佐する様に黒く揺らめいた。へらりと笑う浅黒い肌の少女のその『楽しげな様子』に声にならない声で名前を呼ぶ。 「――フュリ……」 胸がざわめく。怒りと悲しみと、言葉にも出来ない想いが『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の胸中を侵食する。許せない――けれど、何処までも子どもだった――少女の名前はミリィの胸の中で波となるのみ。 震える唇は今すぐにでも心に渦巻く思いを紡ぎそうになる。その想いにふたをして、ミリィはじっと前を見据えた。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう?」 アンサングは指揮官たる少女が戦場を奏でる為のタクト。掲げられた其れに合わせて響いたのは皮肉にも幼稚なリコーダーだった。 ● 「閉じない穴、が目的と言うのは――当然と言えば当然ですわね」 状況を確かめる様に紡いだ『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)はディオーネーに手を添えて仲間達の背に小さな翼を与える。後衛位置に存在する彼女の視線は戦場全体を見回せていた。 「小さな翼を皆様の背に……。これは保険ですわ。決して高く飛ばれませんよう」 何かが合っても、保証できない。危険な任務だという事を櫻子は重々承知していた。六道紫杏が研究熱心であればある程に此方のリスクは向上して行った。尤も、櫻子にとっては『教授』がいなければ事を為せない我儘な姫君でしかないのだが―― 「……私は自分の仕事をするだけですわ。皆様、参りましょう」 生きて、帰りましょうとそう祈る様に彼女は両指を組み合わせる。彼女の声に耳を傾けながら『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は自分の掌に拳を叩きつけ蜘蛛の巣のフィクサードを見据える。 「よぉ、倫敦の蜘蛛の巣、ねぇ。前にキマイラとの戦いを見られてた事もあったが…… 実際の実力はどんな物か、試してやろうじゃねェか!」 年若い少年は自分の想いを溢れさせながらも彼と蜘蛛の巣の間に存在している楽団の少女と怨霊へ向けて蹴撃を放つ。虚空を裂くが如く一直線に向かう其れは怨霊の体を切り裂いていく。 「開幕一発、派手にやるとしますかねぇ!」 「いいね、これはメインディッシュなんだよねぇ。メインね。メイン」 ここで如何にかしてあげよう。にんまりと笑った『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)はデスサイズを握りしめて怨霊へ向かう。外見が『ホーリーメイガスっぽい』というセレクトの攻撃は電撃を纏い勢いよく放たれるがその力を全力では発揮できていなかった。 「また会ったわね。死体操りの笛吹き屋。これ以上、貴女の為に上がる幕は存在しないわ」 カツ、とヒールが鳴る。糾華が舞う様に投擲する常夜蝶は少女に向けて放たれた。蝶々はフュリを庇う様に位置する怨霊の額を切り裂く。実体化した其れからは血が流れるし、勿論肉体が抉れる。 「此れから先は遊びたいだけのお子様にはシゲキが強すぎるわ」 穏便に帰って頂戴、とは糾華は言わなかった。年に似合わぬ落ち着きを纏う少女はあくまで『力づく』で帰らせる事の身を目的としている。糾華の背後からすり抜けて、GANGSTERを握りしめ隆明は神速の早撃ちを繰り出した。バウンティダブルエス。 「まーた遊びに来たのか? 嬢ちゃん。言った筈だぜ?」 忘れたのか、その言葉とともに放たれる弾丸はフュリの頬を掠めた。一度でも腹を掠めた事がある同じ攻撃にフュリは怯むことなくゆるりと笑う。 「五重奏の次はソロを聞いて頂けるなんて、光栄だわ。お兄さん」 浅黒い肌、鮮やかな瞳を細めてフュリは黒いゴシックロリータのドレスを揺らす。リコーダーを庇うように持ち、楽しそうにステップを踏む彼女の周囲から怨霊が現れる。この場に残る『生命の残滓』は少女の遊び道具だった。 「忘れたのならもう一度言ってやるぜ。俺らと遊んだら無事にはすまねぇぞ!」 「あたしだけで、よろしくって?」 彼女は後退する。三角形の形になった陣形では、リベリスタの視界にハッキリと倫敦の蜘蛛の巣のフィクサードが捕えられていた。広がる閃光がその身を焼く。痛みに顰めた表情のまま都斗は自身の体が重くなった事に気づく。 回復役としての櫻子の目の前にはミリィが立っていた。三つ巴――糾華の想定した最悪のパターンが此処に在る。蜘蛛は狡猾な生き物だ。自身の巣に獲物を絡め取りゆっくりと其れを捕食する。楽団員を一斉に狙うその『隙』をつく事だって彼らにとってはお手の物だ。 得策ではない三つ巴の状況に、糾華の整った顔に少々の焦りが浮かび上がる。櫻子の危機に身を挺するミリィは糾華に視線を送る。彼女だって解っているのだ『この状況が最悪のパターン』であると。 「問いましょう、蜘蛛の君。 アークと楽団……混戦の末に死人の軍勢に加わるか、貴方はどの選択を選びますか?」 ミリィの問いにローゼオの視線が一度フュリへと向けられる。ローゼオだって知っている。曲がりなりにも彼だって『倫敦の蜘蛛の巣』――ジェームズ・モリアーティが率いる組織の一員だ。ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが率いる『楽団』の事は『世界で最高の頭脳』を持つ男なら情報を持っていると踏んでの言葉だろう。 「……それは、どういう意味で?」 「私達と此処で戦い無用なリスクを得る必要はないという事。聞き入れて下さらないなら、此方にも考えはあります」 アンサングを構える。指揮棒が如き其れにローゼオは笑った。自身が退く事は無いが、確かに『指揮官』たる少女の理論は面白い。 「考えってのはな、こういうのを云うんだ。生憎だが、ここは通行止めだぜ? とっととお帰り下さい、だ!」 踏み出したままに雷撃を纏う。まるで演舞だ。拳はフィクサード達の体へと捻じ込まれる。公園の砂が舞い上がる。猛は蒼い瞳をす、と細めて笑う。 「高みの見物、ってのはよぉ……されるのも、するのも俺は大っ嫌いなんでな!」 彼に向って放たれるギガクラッシュ。同じ雷撃にも猛は怯まない。猛の攻撃により体力を削られて行くフィクサードにも回復手は存在している。全体を見回し回復を施す櫻子と違い、その動きの遅さを生かして前衛で奮闘する猛個人を癒す事を定めていた都斗のサポートにより猛は未だ蜘蛛の巣達とは対等に戦いを行えている。 その場に邪魔する様に怨霊が――元はフィクサードである彼らがその力を表した。ホーリーメイガスの力を顕現させるそれに対して蝶々を放つ糾華はくすりと笑った。 「余所見? いけないわね……」 投擲された蝶々がフュリの頭をかすめる。はらりと散った髪に少女は目を剥いた。『戦闘意欲』が目に見えてない彼女にとっては『遊戯』での負傷は恐怖に近いのだろう。少女はあくまで少女なのだ。スイッチが入り切らない死霊の遊び手。 「次は当てるわよ?」 「お前らが公園に居るのは厄介だ、さっさと帰って貰うぜ?」 放つ早撃ちがフュリのアーティファクト――コン・センティメントという名前をつけたリコーダーを狙い撃つ。少女の目の色が変わる。黒いレェスとフリルを揺らし、甘い声音から一転した少女は霊魂の弾丸を放つ。周囲へとばら撒かれたソレは黎子やアルトリアをも巻き込んでいく。 「あたしの楽器に触らないでよッ!?」 「それなら、さっさと逃げて頂きましょうか。此処は沢山の人が戦って死んだ場所……だそうです。 だからこそ、何度も来ているんでしょうけれど、これ以上荒らすのは許しませんよ?」 踏み込んで、黎子は笑う。三つ巴は分が悪いと考える仲間とは裏腹に全てを分けることなく斬れる事に黎子は余裕に似た物を感じていた。纏めて相手にするならば『全て』を攻撃できる。一歩、二歩。大鎌を振り回す。赤と黒が雲隠れする月と『忌みしあの月』を表す様に鈍く光る。 「出来る限り仕留めてやりたいんですが――其れは望まないでしょう?」 へらりと笑った黎子にフュリが唇を噛み締める。序曲は未だ続いている。彼女のカプリチオは未だ途切れる事を知らないのだ。 「改めて。御機嫌よう。フュリ・アペレース。貴女の再開楽しみにしてました。とても、楽しみに」 「……指揮者サン。あたしも楽しみだったわ。勿論貴女だけじゃない。お兄さまも、お姉さまもね」 フュリの視線が黎子、隆明、糾華にも向けられる。カプリチオで、五重奏で遊戯を共にしたリベリスタ。 「ですが、今宵は彼等との先約があるのです。共に遊ぶのは次の機会としませんか?」 「次――嗚呼、そうね。リベリスタ! 次こそあたしの演奏を聴いて頂戴!」 蓄積した恐怖を一心に表し、少女は叫ぶ。襲い来る怨霊を踊る様に切り裂く黎子も、蝶々の弾丸を放つ糾華も、早撃ちを行う隆明も少女の甲高い声を聞いた。リコーダーから口を離す。 怨霊の動きが止まる。月に溶けるが如く少女は、背を向けた。視線は――倫敦の蜘蛛の巣と、ローゼオと交わって、解けた。 ● 「倫敦の蜘蛛の巣たる貴公らなら、コンダクターの事も楽団の事もしっているのか」 ちらりとアルトリアが向けた視線にローゼオは肩を竦める。楽団が存在している事のリスクは彼女が語らずとも解っていたのだろうか。死体を手駒とする為にどちらをも相手にするであろうことも彼らは解っていた――だが、彼らにとっては『楽団』を相手にするよりも『リベリスタを手っ取り早く無くす』方が利にかなうのだ。 「閉じない穴――ですわよね」 六道紫杏。彼らの敬愛する『教授』の教え子が欲しがった其れ。ソレを手に入れるのに楽団は今は邪魔にはならないからだ。勿論、紫杏は自身の計画に想わぬ横やりが入った事に憤ってはいたが其れは其れでこれはこれだ。 「でもさぁ、安心したよ。両陣営が手を結んでないだけましだね」 状況を利用したりする事は簡単だ、そう都斗は想う。回復を行っていたフィクサードに向かって大鎌を振り回す。ホーリーメイガスを庇う様に位置するデュランダルの存在に都斗がむ、としたと同時に、入れ替わる様にミリィの眩い閃光が放たれる。その攻撃に動きを止めたフィクサードへと黎子が死の運命を選び取る。舞うカードの中からの一枚。それはデュランダルの死だ。 「不運と悪運がお似合いな私以外に、貴方も似合うんですねえ」 にんまりと笑う。飄々とした態度のまま、双子の月を振るう。ローゼオの目の前に立ちはだかったアルトリアはレイピアを彼へと突き刺した。一突き――けれど、其れには怯まない。ローゼオが握りしめた大ぶりの剣がアルトリアの肩口から引き裂いていく。 「今、癒して差し上げますね……」 楽団の玩具に為らなくとも、仲間だから。祈り続ける櫻子によりリベリスタの傷は治癒されて行く。蓄積される痛みに都斗が運命を燃やしても、彼女の祈りは耐える事は無い。 「ねえ、何が目的で此処にきたのかしら? そう簡単には奪わせないわ。国に帰って教授に泣きつきなさいな」 「さあ、目的はなんだろうね?」 何処か含みある言葉に、先ほど少女と交わっていた視線を想い返す。全力で戦いを仕掛けてくる蜘蛛の巣のフィクサード達に糾華は「何が目的なの」ともう一度問うた。それには男は応えない。 蝶々を投擲する。繰り出し続けるハニーコムガトリング。抉る様に、全てを屠る様に穴をあけて行く。隙間を作り出す糾華の弾丸の様な蝶々。間を縫って猛が電撃を孕んだ拳を付きつける。 「私は貴方達の目的も何も知らないわ。でも知っている事が一つある」 「それは?」 「――それはね、六道紫杏が行う事はとても許容する事はできないという事」 糾華の赤い瞳がす、と細められる。猫が好きだという少女はまるで猫の様に目を細めた。意地悪なチェシャ猫。何かを含む様なその笑みにローゼオは笑う。 彼が繰り出すデッドオアアライブがアルメリアの腹を刺す。だが、アルメリアは盾だ。闇に塗れても、盾として――正義の盾はその痛みに挫ける事などなかった。 「ここで食い止めさせていただくのが、正義だ」 彼女の言葉に呼応するように隆明が繰り出す早撃ちは蜘蛛の巣を抉る。彼は顔を上げる。血を流すフィクサードと目が合った。回復を安定させてると言えど三つ巴形式で怨霊との戦いを得たリベリスタ達も傷ついている。おぞましき呪いを受けた攻撃が彼の体を劈いた。 「ッ――来いよ! 丁寧に磨り潰してやんぜ!」 叫ぶように、銃から離れないままの指先は弾丸を繰り出した。抉る様にダークナイトに向かって放たれる其れ。続いて流れる血を気に止めずに死の運命を選び取る黎子は双子の月を振るった。 嗚呼、赤と黒が揺れる。黒で固めた少女の肌から流れる赤。まるでそれは『双子の月』に似た色合いではないだろうか。 砂埃が立ち上る。繰り出される攻撃に、黎子の運命が削れる。庇い手として立ち回るミリィの体力は櫻子が懸命に癒し続けた。戦場を奏でる指揮官はぎゅ、とアンサングを握りしめた。この演奏は誰が為か――生き往く人の為。 「言ったろ? ――通行止めだってな!」 猛の拳は荒れ狂う。この場所から決して通す気が無いというその決意と共にフィクサードの腹にめり込んだ。血が流れる。前衛に特攻する猛は運命だって支払った。 ――決めているのだ。此処からは通さないと。 「お前らが踏み込んでいい場所じゃねぇんだ! とっとと立ち去りなぁっ!」 纏った電撃はフィクサードの意識をも刈り取った。放たれる弾丸が、蝶々と銃弾が混ざり込み、フィクサードを襲う。アルトリアの相手をしていたローゼオを癒す手ももはやなくなってしまっている。 「なあ、あんたらさ、只の援軍だろ? ……少なくとも、単純に六道の支援をしに来た、って訳じゃねえよなあ」 猛の視線が、ローゼオに向けられた。彼は応えないままだ。口にする言葉は「全ては我が教授が為に」。 けったいな忠誠心だ。だが、猛は怯まない。ぐ、と拳を固め、砂を踏みしめる。雷撃を纏う拳はフィクサードに向けられたまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「どうする? まだ、戦うかよ」 にんまりと、男は笑った。 ● 周囲から響く音は戦闘が続いているからだろうか。癒しを乞うて仲間達を励ます櫻子の猫耳はピン、と立ち周囲を確認するように揺れ動く。 銃声が、叫び声が、血が流れて行く戦場の気配がする。リベリスタ達の目の前からは蜘蛛の巣のフィクサードは立ち去っていた。正に『霧の中』なのだろうか。何処か、不思議な雰囲気を纏った倫敦の援軍は何も喋ることなく立ち去った。 くすくすと都斗は笑う。メインディッシュの一部分は美味しく平らげられなかったのだ。此れが痛手に繋がればいいのに、そう願って笑うのだ。 撤退を促した猛は小石を蹴る。実力を確かめるために拳を合わせた。手ごたえは確かにあった。だが『霧』に隠されたかのように本当の事は解らずじまいだ。 痛み分けだった。フュリという少女が立ち去ってからは遠慮なしの激戦となっていたリベリスタだが、其方の消耗も非常に大きい。 ミリィの心へと杭を打ち込んだ少女。視線を揺れ動かす先で糾華はただ、佇んでいた。 「……フュリ、出来る限り仕留めたかったんですけどねえ」 困った様に紡ぐ黎子に頷きながらも隆明は銃を下ろした。六道や楽団は彼にとっては『理解』出来ない物だった。芸術も学術も解らない。武に乗っ取る剣林の方がましなのにな、と頭を掻いた。 「胸糞悪ィ、連中だな……」 思惑が分からないという事に隆明はぽそりと漏らす。深追いしないままだった彼らに櫻子は癒しを送る。この場所は未だ危険だ。 「――まだ、終りじゃありませんものね……」 先を思い、ふるりと震えた体を抱きしめた。誰も死ななかった事に安堵を覚えつつアルトリアは盾を握りしめて園内を仰ぎ見る。 嗚呼、まだ、夜は深い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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