● フィクサード主流七派『六道』首領六道羅刹の異母兄妹・『六道の兇姫』こと六道紫杏、彼女が造り上げたエリューション生物兵器『キマイラ』。 それらが神秘界隈の闇で蠢き始めて早半年以上。時間の流れと共に戦闘力・完成度を上げていったキマイラと交戦した者も多いだろう。 そのキマイラ達が、大将である紫杏と共に三ッ池公園へ大挙して押し寄せてきた。 直前に三ッ池公園は『楽団』の攻撃を受けており、アークが警戒を強化したのが幸いして、奇襲の効果は今回殆ど無かった。競合する『ライバル』の存在が彼女を焦らせたのはあるだろう。しかし、自信を強める彼女には『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)曰く、「バロックナイツのモリアーティ教授の組織が援軍を派遣している」という。 加えて、アークも『楽団』一派の攻勢に苦労させられているから好都合という話でも無い。紫杏の狙いはおそらく『閉じない穴』。キマイラ研究の向上の為、六道紫杏の更なる野望の為に穴を使って手っ取り早く崩界度を上げるつもりのようだ。 大規模な部隊を編成して『本気で攻め落とす』心算の紫杏派に少数で対抗するのは困難だ。アークも大きな動きを余儀なくされる。 そして、第一バイオリンのバレット、歌姫シアー以下『楽団員』が、六道、アーク問わず『強力な死者が生まれ得る状況』を見逃す事はあるまい。 必然的に三ツ池公園には三つの勢力が集う事になるだろう。どう転んでも良い事は起こらないのは火を見るよりも明らかだ。 斯くして、紫杏派と教授の連合軍に先んじて三ツ池公園に布陣したリベリスタ達。敵はキマイラ、そして虎視眈々と機会を伺う『楽団』も然りである。何の因果か、かつてここを占領したジャック・ザ・リッパー達と同じく聖夜を前に敵の迎撃をする事になるのだった。 ● 「みんな、集まってくれたな。今日は緊急事態だ」 集まったリベリスタ達に対して、真剣な表情で『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は切り出す。その気配にリベリスタ達は尋常ならざるものを感じた。 「あんた達もご存じの、『六道の兇姫』六道紫杏が開発した生物兵器『キマイラ』。それが三ツ池公園に大挙して攻めてくることが判明した。あんた達にお願いしたいのは、三ツ池公園の防衛だ」 『キマイラ』――リベリスタ達にとっては耳に馴染んでしまった名前だ。 複数のエリューションの特質を併せ持つ、最悪の怪物だ。この化け物を作るために、様々な場所で悲劇が引き起こされた。 「先日、ケイオス一派『楽団』の木管パートリーダー『モーゼス・“インスティゲーター”・マカライネン』の襲撃があってな。警戒を強化していたのが功を奏した。何でこのタイミングを選んだのかは定かじゃないけどな」 しかし、状況的に有利なのは不意打ちを避けることが出来、防衛戦の準備が出来ることだけだ。アシュレイによると、六道紫杏の背後にはバロックナイツのモリアーティー教授がいる。彼の組織、『倫敦の蜘蛛の巣』が援軍として付いているのだという。 「おそらく、彼女の狙いは『閉じない穴』。キマイラ研究の向上の為、穴を使って手っ取り早く崩界度を上げるつもりのみたいだな。己が道を究める為に妥協を許さいっていうのは如何にも六道らしい話だぜ。もちろん、こんなことを見逃すわけには行かない」 そこまで言って、守生は機器を操作すると三ツ池公園の地図が表示される。 「あんた達に守ってもらいたいのはここ。西門から入ってすぐの所にある2本の通路だ。ここに向かってくる敵を撃退して欲しい。本来であれば、もっと数を要請したい所なんだけどな、タイミング的に手数が足りない」 守生が示すのは並んでいる2つの通路。ここに二手に分かれた敵の部隊がやって来るのだという。通路の間は行き来出来なくもないが、実質2つの戦場が出来上がると思っておいた方が良い。 「やって来るのは『六道』派とその援軍としてやって来た『倫敦の蜘蛛の巣』のフィクサード達。それと……『キマイラ』だ」 守生が機器を操作すると、スクリーンに『キマイラ』の姿が表示される。フォルムは人間を思わせ、今までの『キマイラ』と比べて技術が進歩していることが伺える。頭部は非対称。右半分は狼を思わせ、左半分は鴉を思わせる。特徴的なのは巨大な右腕。鋭い鉤爪を装着し、これが主武装であることを伺わせる。背中に生えた翼は鴉のものだろうか。 「識別名『クリムゾンクロー』。ノーフェイスとE・ビーストを掛け合わせたものらしい。元になったノーフェイスは、過去にアークとの戦闘経験がある。極めて高い戦闘力を持つ『キマイラ』に改造されたようだ。十二分に気を付けてくれ」 説明する守生の口調は普段よりも暗い。 『クリムゾンクロー』は元々、フリーのリベリスタだった。戦いの中で運命の加護を失い、強制進化の果てにノーフェイスへと変貌してしまったのだ。そして、アークとの交戦を生き延びた後に、『六道』派により『キマイラ』へと改造されてしまったのだという。 あまりと言えばあまりに悲惨な巡り合わせだ。そして、この場にいるもの達は皆、一歩間違えば同じ道を歩んでいたのだ。それを思うと言葉も出ない。 しばらく皆が押し黙る中、リベリスタの1人が先を続けるように守生を促す。 「あぁ、すまない。これだけでも厄介な状況だが、加えて『強力な死者が生まれ得る状況』を聞きつけて、『楽団』の連中も紛れ込んできている。正直、かなりやばい状況だ」 守生のただでさえ鋭い目付きが一層鋭くなる。 放置すれば六道紫杏は『閉じない大穴』を手に入れる。 戦えば『楽団』に死体を提供する結果になる可能性は高い。 それでも、リベリスタ達は戦わなくてはいけない。この世界を護るために。 「説明はこんな所だ。資料も纏めてあるので目を通しておいてくれ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 ● 「そうした話に意味は無い。援軍があろうが無かろうが、我々に与えられた任務は単にここを突破することだけだ。よしんば、彼らが非協力的だったとしても、『クリムゾンクロー』1つで事は足りる」 そう言って、『六道』の研究員、軽木(かるき)は機械に覆われた右手でパソコンを弄りながら部下の意見を一蹴する。彼は紫杏の部下の中でも、取り分け忠実な男として知られている。命令に対して疑問を持たず、唯々諾々と従うだけ、とも言えるが。 部下の男は援軍として現れた『倫敦の蜘蛛の巣』のメンバーが気に入らないのだ。即席の連合故仕方ない所もあるのだが、あからさまに自分達を見下す態度を取っている。すっかりペースは狂わせられっぱなしだ。もっとも、人の態度を気にも留めない上司だからこそ、彼らをチームメイトとする作戦の指揮を任されているのだろうが。 「そんなことよりも、『クリムゾンクロー』のストレスの数字には気を付けておけ。自我は完全に消失、今まで行った全てのテストもクリアしているが、今日の任務は万全の態勢で臨まねばならんのだ」 『クリムゾンクロー』の元となったリベリスタは、幾度か『六道』と交戦経験があった。それ故に、命令に対して多大なストレスを感じる可能性がある、というのは改造当初から持ち上がっていた懸案事項だ。もっとも、軽木の言う通り、初期段階で自我を手術で喪失させてある。あえて実験体の確保など、非道な作戦に投入することで、命令通りに動くことは確認済みなのだが。 「さて、そろそろ定刻だな。ロンドンから来た連中にはポイントBに向かってもらう。我々はポイントAだ。『クリムゾンクロー』を起動させるぞ」 軽木は白衣を翻すと、部下達に指示を飛ばす。 すると、バンに載せていたカプセルが開き、キマイラが姿を現わす。 狼と鴉、2種の狩猟者の因子を備えたキマイラ。 そして、世界を護ろうと願った戦士のなれの果て。 「アォォォォォォォォォォォォン!!!」 目覚めたキマイラは、夜空に向かって空虚な雄叫びを上げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月30日(日)23:45 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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● 近くからガトリング銃が弾丸を吐き出す音が聞こえてくる。 ここは三ツ池公園西門近辺にある森の一角、アークと『六道』と『楽団』、様々な組織の人間が密やかに争う戦場である。今日も日常を生きる人々は、年の瀬の忙しさに追われて、神秘の世界で命を賭けた戦いが繰り広げられていることなど知らないのだろう。 ましてや、神秘の世界に生きる者達は、常に破滅と隣り合わせで生きていることなど。 2つの世界が混じり合うことは無い。 2者が交わるということは、単に別の道に変わるというだけの話でしかないのだから。 「攻める方が好きだが守るのも嫌いじゃねえ。ガチンコでぶつかりながらってのなら尚更だ」 無骨なデザインの銃――はっきり言って黒い鉄の塊にしか見えない――の調子を確かめながら、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)は呟く。傍から見たらのんびり銃を弄っているようにしか見えないが、本人は至って真面目なのだ。 三ツ池公園におけるアークと『六道』の戦いは熾烈を極めていた。 そして、フォーチュナの予知によれば、この場にも間も無く敵がやって来るはずだ。『万華鏡』の予知によって、やって来る敵に対して万全の準備を行うことが出来る。それがアークの強みではある。しかし、「万全」というのは割くべきリソースが十分に存在してこそ成立する言葉だ。 この戦いは「予想通りの不意打ち」である。紫杏派による三ツ池公園襲撃は予想し得る事態ではあったが、あまりにも性急な攻撃であった。結果として、一部には割ける人員の少ない戦場が発生し、この場にいるリベリスタ達はもう一カ所、別の歩道の戦場との連携で防衛を行うことになった。 「あっちでもこっちでも異型な生き物がうろついているのです。ハロウィンはとっくに終って今年も終わるというのにはた迷惑なのです」 『ぴゅあわんこ』悠木・そあら(BNE000020)は身を縮め、震わせる。寒さに、ではあるまい。今起きている戦いに、そしてこれから始まるだろう戦いに、である。 そんなそあらを励ますように、『おかしけいさぽーとにょてい!』テテロ・ミーノ(BNE000011)は両手を大きく上げて、せくしーに(本人談)いつものポーズを決める。 「わんだふるさぽーたーミーノさんじょうっ! こんかいもおたすけするよっ! そあらさんとばんじゃくでかんぺきなかいふくちーむなのっ!」 「ありがとうなのです。あたしだってデートの約束があるのですからさっさと終らせたいのです」 ようやくそあらの緊張が解ける。 しかし、逆にテテロが緊張を走らせる番だった。 彼女の耳がぴこぴこと揺れる。超人的な彼女の五感が敵の気配を捉えたのだ。 「来たの!」 悠然とフィクサード達は歩いてくる。 その背後に従うように浮かぶのは、鳥とも獣ともつかぬ顔を持つ人型のキマイラ。 報告書で聞いた、リベリスタを元にしたキマイラだ。 顔に入るラインが涙に見えるのは気のせいだろうか。 「来やがったな。あんなに立派な人を侮辱しやがって……何がテストだ。全部ぶっ潰してやる」 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の表情は髪に隠れて見えない。しかし、声で十分に分かる。普段は激情を露にすることの無い男は、リベリスタの誇りを踏み躙ったフィクサードに対してこの上なく怒っている。 「キマイラの材料となるか、楽団の人形になるか、真剣に検討するといいのです」 「そんな検討に意味は無い。私が検討するべきは、君らを捕獲して実験体に供する余裕があるかどうか、だ。我々にも任務があるものでね」 無機質な声で『六道』のフィクサード、軽木はリベリスタ達の様子を伺っている。 暗がりにも関わらずサングラスのようなものをかけており、彼の表情も微妙にうかがい知れない。しかし、それを理解してやる義理など、リベリスタには無い。 「何だか知らんが……」 軽くウォームアップ代わりにジャンプし、『神速』司馬・鷲祐(BNE000288)は全身に血を巡らせる。 ナイフを抜き、戦うべき相手、「クリムゾンクロー」に狙いを定める。キマイラもその殺気に気付いたのか、鷲祐を睨み返してくる。 「何が無意味かを決めるのは貴様ではない。さぁ、俺達を『理解』できるかな?」 鷲祐は大地を蹴り、キマイラに向かって飛び立った。 ● その頃、もう一方の通路でも戦闘が発生していた。 六道紫杏の増援として現れた『倫敦』のフィクサード達との戦いだ。 バロックナイツの直属と言うのは伊達では無い。アークのトップクラスと比べても遜色の無い実力者達である。しかし、アークのリベリスタ達もまた、『極東の空白地帯』で戦い抜いてきたリベリスタなのだ。 「あたし達を……甘く見るな!」 『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)の放った気糸がフィクサード達に襲かかる。その精確無比な攻撃は、ロンドンに巣食う蜘蛛達の動きすら捉える。 蜘蛛の相食む巣の中で、颯爽と刃を振るうのは『毒絶彼女』源兵島・こじり(BNE000630)。『倫敦』のフィクサードと数合渡り合っている彼女は既に返り血に塗れている。まるで、帰るのが遅れてしまったサンタクロースのようだ。 「貴方達、此処まで来る時に門を通って来たでしょう?」 唐突に歌うように問い掛ける女の言葉に、『倫敦』のフィクサード達は戸惑いの表情を浮かべる。 「ようこそ、羅生門へ」 言霊を気魄へと、そして破滅の力に変えて、こじりは巨大な刃を振り下ろす。 人として生きるか、鬼として生きるか、その分水路が羅生門。この蜘蛛共が門を通ることを選んだのであれば、それは容赦無く戦える証左だ。 「『守る』戦いは慣れんが……精々やれるだけやらせてもらう」 続けざまに『罪ト罰』安羅上・廻斗(BNE003739)の持つ赤と黒の刃がフィクサードへと襲い掛かる。 誰の罪で誰への罰なのか。 圧倒的な威力でフィクサードを暗黒の魔力が苦しめる。その反面、廻斗への反動も強い。まるで、自身が死ぬことを望んでいるかのようだ。しかし、彼が死ぬことは許されない。彼を死から守る翼がある限り。 「戦い、守りましょう。嘗て戦い、殉じた者に報いるために」 『紡唄』葛葉・祈(BNE003735)の祈る声に応じて、戦場を癒しの息吹が満たしていく。 『閉じない穴』を抱えた三ツ池公園がフィクサードの手に渡るということは、世界に対して大きな影響を及ぼすことを意味する。六道紫杏のような、倫理が欠落したタイプであるならなおさらだ。 この場所は去年、多くのリベリスタ達が命懸けで手にいれたのだ。死人だって出ている。 そして、それ以降も多くのリベリスタ達が必死に守って来たのだ。それを今更、こんな所で奪われる訳には行かない。 傷を癒すと、廻斗は再びフィクサードに切りかかる。 「さあ、行くぞ!」 ● 「服が汚れるのは……出来れば少なめにしてーけど! 全員纏めて掛かってこいや!」 指をちょいちょいと動かして和人はフィクサード達を招く。その挑発に当てられて、フィクサード達は和人に一斉攻撃を仕掛ける。不沈艦たる男を沈めるには至らない。 もっとも、和人の心中は見た目ほどに穏やかではない。さすがに、如何に自分が頑丈と言えど、数に圧されてしまっては立っていられないのは良く知っている。それでも、余裕を崩さないのが伊達と言うもの。女を心配させるというのは、彼の流儀に反するのだ。 「俺は退かん。さぁ答えろ、お前の名は!?」 鷲祐は空を駆けてキマイラと切り結ぶ。倒すための攻撃ではない。牽制し、相手の動きを封じるための攻撃だ。最大火力と最速回避、革醒者達が目指す「最強」の在り方が冬の夜空でぶつかり合う。 「残念だが、彼の自我は存在しない。話すだけ無駄だよ」 「お前には聞いていない!」 フィクサードの言葉を黙殺して、目の前の元リベリスタに意識を集中する。少なくとも、1人で相手し切れるものではないが、時間だけは稼ぎ切ってやるつもりだ。 \ぶれいくひゃー!/ ミーノの言葉と共に、リベリスタ達の身を焼いていた炎が鎮まって行く。 精神年齢は子供だが、ミーノの支援能力はアークでも屈指のもの。生半な攻撃では突き崩すことなど出来はしない。 (三好さんを助けに来たんです。さっさと退け……) 七海は傷ついた体を引きずって、キマイラに呼びかけると弓を番える。 (ノーフェイスが現れそうだから必ず倒してなんて自分にはとても言えません。だけどせめて貴方の願いを叶えてみせましょう) 同じリベリスタとして、目の前の元リベリスタへは尊敬の念を覚える。だからこそ……全力で葬り去る。 「のこのこ前に出てきやがって!」 和人の挑発に乗らなかったデュランダルが七海に向かって剣を振り下ろしてくる。しかし、七海はそれを避けようともせず、むしろ自分から当たりに行く。 相手に勢いが付き切る前に当たってしまった方が、結果としてはダメージは少ない。そして何より、この場所が攻撃には最適だ。 「その程度……バイデンよりは怖くないしもっと重かった!」 そして、黒白の剛弓から天に放たれた矢は、業火となってフィクサード達に降り注ぐ。 「ほう……これは戦闘プランをシフトするか……」 気糸を手繰っていた軽木が戦場を見渡し、一点で止める。その先にいるのは、必死で仲間の回復を行うそあらだ。 「見た目に寄らず、アークでも有数の癒し手……ということだったな」 「え?」 リベリスタ達の防御の隙を突き、軽木は一気にそあらとの距離を詰める。そして、嬲るように連続攻撃を開始した。 「や、止めるのです……!」 「抵抗は無意味だ」 「てめっ、嬢ちゃんに何しやがる!」 「ここを守りきるまで倒れる訳にはいかないのです……この後待っているデートの為にもっ」 「大人しく倒れたまえ。下手に逆らうと、恋人に振り向いてもらえなくなるような怪我をすることになるぞ?」 「さおりんはそんな人じゃないのですっ!」 リベリスタ達は急いで救出に向かおうとするが、目の前の敵はそれをさせてくれない。ただでさえ、数はこちらが劣るのだ。仲間が来ればまだしも、この状況では厳しい。 そあらは愛する人の顔を思い浮かべると、運命の炎を燃やして、必死に襲い掛かる痛みに耐える。 あのクールな横顔。 自分を撫でてくれる手の温かさ。 それを思えば、まだ自分は戦える。 ● 『六道』と戦うリベリスタ達が苦戦している頃、もう1つの戦場にいるリベリスタ達もまた苦戦していた。こちらの戦場にはキマイラのような単体で戦場を構築できる戦力は存在しない。しかし、『倫敦』のフィクサードが行う連携は、予想以上に強固だった。リベリスタ達が連携を封じるべく放つ攻撃の狭間で巧みに動き、戦線を維持していた。 「女を引き留める上に、女の顔を傷付ける……最悪に最低の男達ね、まったく」 ようやく1人を切り伏せて、怒りの籠った眼でこじりはフィクサード達を睨みつける。 そう言う彼女の後ろでは、祈とプレインフェザーが頭から赤い糸のようなものを垂らして倒れていた。こう着状態に陥って焦れたフィクサード達が攻撃を行ったのだ。 「お前ら……」 廻斗の表情は変わらない。 しかし、普段以上に目つきは鋭く、殺気を放っている。 と、そこを倒れた祈が呼び止める。 「か……廻斗……」 廻斗の足が止まる。しかし、振り向かない。 しかし、祈の言葉は続く。 「ねぇ、廻斗。あの日の約束を、覚えている……? 私は……忘れない、あの日の誓いを」 運命を燃やしながら見守りたいと思った青年への言葉を紡ぐ。 「貴方が死を求めるなら、私が死を阻む翼になる。……生きて、帰りましょう?」 祈の身体は運命の加護が無ければ息絶えてもおかしくない重傷だ。にも関わらず、自分よりも青年の命を気遣う。そして、廻斗は背中で応える。 「忘れるものか。俺は死ぬ為に戦っている」 廻斗の剣が赤く染まる。相手の血を吸い肉を喰らう、悪魔の剣へと変貌したのだ。 「だが……葛葉、お前は俺を死から護る翼になるのだろう? ならば、お前が護る限り、俺は決して死ねないだろうな。死なずに……戦い続けられるだろうな」 罪と罰が廻斗の身を苛む。 しかし、それでも剣は振り抜かれ、フィクサードは倒れる。さすがに、相手の回復も打ち止めのようだ。 「まだ続ける? そこまで六道に義理がある様には見えないけれど、やると言うなら……」 「いや、あんた達と違って、魔力も尽きてる。レイナードも……いや、一緒に来た仲間も退いてるようだ。倒れた仲間を回収させてくれるなら、喜んで退くさ」 残った支援役、ホーリーメイガスは首を振る。あれだけの長期戦だ。支えるスキルが無い以上、彼らの気力だって尽きている。レイナードとはたしか、『倫敦』から来たフィクサードの1人だったはずだ。 フィクサード達の浮かべる薄ら笑いには何か不穏なものを感じる。 しかし、リベリスタ達の立つ戦場もまた薄氷の上。 こんな所で手間取っている暇は無い。 そして、言葉の通りにフィクサード達は去って行った。 「合流するぞ、思いの外に時間を食った」 「あ……あたしも、連れて行って……」 傷の浅い2人が戦場を移動しようとすると、プレインフェザーが呼び止める。 怪我は重く、とても戦える状態ではない。 しかし、彼女には為すべきことがあった。 「後悔してた……また会えたらって思ってた……きっと…今がその時なんだ」 プレインフェザーはあのキマイラの元になったノーフェイスと交戦をしたのだ。 だからこそ、行かなくてはいけない。 その言葉に頷くと、倒れた彼女を肩で支え、新たな戦場に向かうのだった。 ● 「どうかね、アークの諸君? 我々のキマイラは」 自信満々に軽木は笑う。 支援を封じられたリベリスタ達は窮地に陥っていた。なんとか七海が敵の戦闘員達を倒したものの、キマイラの戦闘力は極めて高い。 「すこしでもほんのすこしでも、いしきがのこってるなら、みよしさん、もどって! きっとおもいだせるはず! だっていちどはせかいのためにたたかおうとしたミーノたちのなかまだったんだもんっ!!」 テテロの目じりに涙が浮かぶ。 キマイラの顔にも、同じように涙が浮かんだと思ったから。 「待った? まあ、良い女は人を待たせるものよ」 その時、もう1つの戦場からリベリスタ達が現れる。諧謔に富んだ言葉と裏腹に、こじりの瞳は真摯だ。 作戦通りの流れではある。 しかし、いずれも満身創痍。立っているのが不思議な程の状態だ。 「これ以上の戦闘は無意味だ。その状態で勝てると思っているのか?」 「うるせーな……」 「なんだと?」 「俺はお前らに殴られに来たんじゃねーんでな。一発殴らせろや!」 和人の言葉と共に、リベリスタ達の攻撃が始まる。 鷲祐の身体が瞬く光と化して、キマイラの全身を貫く。 廻斗の放つ暗黒の刃が、キマイラの魂を傷付ける。 こじりの刃を受け、キマイラの首から派手に血が噴き出す。 和人に殴られ、キマイラは幾ばくか動きを緩める。 しかし、フィクサード、軽木の分析が正しいと言わざるを得なかった。キマイラの猛攻に耐えるには、リベリスタ達はあまりに傷付いていた。既に戦闘力を失っているメンバーが半分を超えているのだ。しかし、リベリスタ達は諦めず、その刃を振るう。 その中で、プレインフェザーはキマイラの、いやリベリスタ三好航太の精神に呼びかける。 (お袋さんのコロッケの事、まだ覚えてるか? ……あの時は本当にゴメンな。お前のことちゃんと殺してやれなくて。世界を守れ、理不尽な力に苦しむ人を出すなって、約束、守れなかったな) 炎が戦場を包む。 痛みに紛れて、意識を失いそうになる。 (お前が大嫌いだった連中、世界を脅かす存在に、これ以上お前を良いようにはさせない。今日こそあの日の約束守るぜ。お前と同じリベリスタとして) 「ふはははははは! やれ、クリムゾンクロー! このリベリスタ達は、きっと良いキマイラになるぞ! ……ん? どうした?」 快哉の声を上げていた軽木の動きが止まる。 キマイラの動きも、何かに耐えるかのように止まったからだ。 「えぇい、従え! 何故従わない!」 「その意志は、身体や自我なんて安いところには眠らない……。その技の意味、価値! 連ねて、撃ち放てッ!」 鷲祐の刃がキマイラの心臓を穿つ。 (証明してやる、無駄などないと。『クリムゾンクロー』三好航太……) 限界など、とうに超えている。それでも、攻撃を止めない。 その時、プレインフェザーは 見た、キマイラの細胞が自壊していく姿を。 「不合理だ! あり得ない!」 軽木が叫ぶ。しかし、現実は変わらない。 鷲祐が限界を超えて大地に倒れた時、キマイラの肉体は消失していた。 鷲祐は心の中で呟く。 最後まで共に戦えなかった仲間に対して、そして、最後の最後で共に運命へと抗った仲間に対して。 (絶えんよ、その意志。俺達の在る限り……) |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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