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<三ツ池公園大迎撃>殺戮の魔狼

●神を、殺せ
 咆哮と共に無数の牙が生えた口が地面を抉り、大木を粉々に打ち砕いた。
 巨大な獣は、怪物は……怒り狂ったように天に吼え、鋭い鉤爪で大地を抉る。
 ありとあらゆる総てを憎悪するような咆哮が空気を震わせ、大地や草木にすら怒りをぶつけるかのように牙が、鉤爪が、一帯を荒らし尽した。
「……キマイラ、ですか。大したものですね?」
「本当に、あんなのに襲われたら大変ですわ」
 公園の大地を傷付けるようにして移動する巨大な怪物を眺めながら、落ち着いた口調で一人が呟けば……どこかのんびりとした口調で無邪気な声が応じる。
 遠目から見れば白い狼のようにも見えるその怪物は、咆哮をあげ猛り狂いながらも、時に野生の獣のようなしなやかさも漂わせながら……地を駆ける。
 そうかと思えば鮫のようにも見える口が、付近の物体を次々と……ボロボロで粉々な何かへと変えてゆく。
「『アレ』か、『アレと戦うアークの奴等』か。どちらだったとしても強力だな」
 もう一人が、鼻を鳴らしながら呟いた。
「とはいえ序曲である事、充分に意識しての演奏を心掛けましょう」
 最初の人物の言葉に、2人が頷く。
 すべては、我らが指揮者の完全なる楽曲の為に。

●兇姫、動く
 フィクサード主流七派『六道』首領六道羅刹の異母兄妹・『六道の兇姫』こと六道紫杏。
 彼女が造り上げたエリューション生物兵器『キマイラ』
 最初に姿を現した、エリューションでもアザーバイドでも無い『それ』は……時間の流れと共に戦闘力を、完成度を高めていった。
「戦った事がある方もいると思いますが、今回はそのキマイラ達が、六道紫杏と共に三ッ池公園へと多数出現しました」
 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう言って、スクリーンに公園の地図を表示させた。
 先日、ケイオス配下の楽団員たちの襲撃を受けて公園の警戒は以前より強化させている。
「このタイミングで仕掛けてきた理由は判明していませんが、敵側にはキマイラや六道のフィクサードだけでなく、援軍として派遣されたバロックナイツのモリアーティ教授の組織の者もいるみたいです」
 因みにバロックナイツに関しては、塔の魔女アシュレイからの情報である。
「六道紫杏の狙いは『閉じない穴』だと思われます」
 キマイラ研究の向上の為、彼女の更なる野望の為、穴を使って迅速に崩界度を上げるつもりなのだろう。
 己が道を究める為に妥協を許さぬというのは、如何にも六道的である。
「敵の攻撃は奇襲とはなりませんでしたが、現状アークも『楽団』への対処を行っている最中ですので……」
 余裕は無い。
 だが当然、彼女等の好きにさせる訳にはいかない。
 大規模な戦力を結集して『本気で攻め落とす』心算の紫杏派に少数で対抗するのは不可能に近い。
「結果としてアークは纏まった戦力を、どうしても大きな動きを余儀なくされます」
 これらを全く察知されないように動かす事など、更に不可能事に近い……となれば。
 ケイオス指揮下の楽団員たちが動かぬ筈がない。
『楽団員』の動きを見ればその目的たる『序曲』が、恐怖を撒き戦力を増強することにあるのは明白だ。
 六道かアークか、どちらであれ『強力な死者が生まれ得る状況』が発生するのであれば、これを見逃す筈がない。
 必然的に三ツ池公園には三つの勢力が集う事になるだろう。
「幸いというべきか敵の動きを察知するのが早かった為、此方は相手側より早く公園への布陣を行えそうです」
 幾人かのリベリスタたちは、昨年の戦いに参加した者たちは……何かを想わずには、いられなかった。
 歪夜十三の第七位、ジャック・ザ・リッパーと、その配下達との戦い。
 彼時も聖夜に近い頃ではなかったか……?
 あの時と攻防を入れ替えて、リベリスタたちは戦いに臨む事となる。
 敵は紫杏派、キマイラ、そして……機会を窺う、楽団員たちだ。

●殺戮の魔狼
「皆さんには此方を担当して頂くことになります」
 マルガレーテはそう言って、公園の西方面の地図を拡大させた。
「花の広場付近まで1体のキマイラが突破してきます。この個体の撃破をお願いします」
 画面が切り替わり、1体の獣がスクリーンへと表示される。
 剥き出しになった筋肉は、石灰に似た白色で……遠目には、白灰色の毛皮で全身を包まれた狼のようにも見えた。
 体躯は大きく、5mは超える。高さの方も2mはあるだろうか?
 どこか鮫を感じさせる頭部には目は無く、口には溢れんばかりに無数の牙が生えている。
 体に巻き付き、或いは突き刺さり引きずっている様に見える複数の鎖は、実際はその獣の一部だった。
「完成に近付きつつあるキマイラの中でも、かなり強力な個体です」
 呼称は、フェンリル・プロト。
 高い耐久力に加え、ほとんどの異常を無効化する絶対者の如き耐性。
 並のリベリスタ、フィクサードでは耐え切れないほどの攻撃力。
 高い機動性と、一呼吸で2度、3度の攻撃を行える程の機敏性。
 そして……それらを活かしてあらゆる存在を殺しつくそうとする、絶対的な凶暴性。
「周囲にフィクサードたちはいません。敵はこのキマイラのみとなります」
 単体で充分な戦闘力を持つということか、それとも周囲に味方が居ると危険なのか。
 どうであれ、危険な相手であることは間違いない。
「このキマイラの攻撃は、3種類が確認できました」
 1つ目は周辺一帯に真空の刃を発生させる攻撃である。
 犠牲者に咬み付いたような傷が発生するので、刃というよりは牙と表現した方が正しいかも知れない。
「威力も充分に脅威ですが、直撃を受ければ酷い出血を伴います」
 傷付けることに特化した能力といえる。
「対して2つ目の攻撃は、直接的なダメージは与えません」
 体の一部である鎖のような存在を周囲に放つ事で動きを封じ、同時に付与の力を解除する。
 攻撃力という点では脅威ではないのかも知れない。
 だが、その攻撃のもたらすものを考えれば……寧ろ並の攻撃より余程危険といえるだろう。
「3つ目の攻撃は、その牙で付近の敵を攻撃します」
 巨大で無数の牙が生えた口は、数人を纏めて容易く咬み砕けるだけの破壊力を持っている。
 強靭な顎は装備をも傷付け、無数の牙の一部は獲物にそのまま突き刺さる事で対象の回復を妨げる。
「さらに、対象の生命力を奪う事で自身の生命力を回復する能力も持っています」
 そう言ってから、フォーチュナの少女は表情を歪めた。
「……すみません。あと、もう1つ……能力があるみたいなんですが、確認できませんでした……」
 どういった能力なのかは、残念ながら片鱗すら分からない。
 攻撃なのか、別の能力なのかすらも、不明。
「イメージなのか、単語なのか……『神々の黄昏』という言葉を、何らかの形で確認できたんですが……」
 悔しげに呟いてから、曖昧な情報ですので気にし過ぎないで下さいと言って……マルガレーテは表情を引き締めた。
「それよりも、危険で確定的な情報があります。ケイオス指揮下の楽団員たちが、隠れて皆さんの戦いを窺おうとします」
 場所の特定はできませんでしたが、戦況を窺おうとするのは確実ですとフォーチュナは断言する。
 目的は楽団の戦力強化と考えて間違いないだろう。
 ギリギリの戦いで、更に不確定要素が加わる事になる。
 どうか……必ず帰ってきて下さい。
 そう口にするのは……命を懸けて事に当たろうとする人たちに対して……失礼だろうか?
 言って良いのか分からず……言葉を、呑み込んで。
「充分に、お気をつけて。お帰り、お待ちしています」
 お願いでもするかのように。
 少女は深々と、頭を下げた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:メロス  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月29日(土)23:02
●重要な備考
『<三ツ池公園大迎撃>』はその全てのシナリオの状況により『総合的な結果』が判定されます。
 個々のシナリオの難易度、成功数、成功度によって『総合的な勝敗』が決定されます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がございますので予め御了承下さい。



オープニングを読んで頂きありがとうございます。
メロスと申します。
今回は三ッ池公園の一角で、楽団への警戒を行いつつキマイラと戦う事となります。


■戦場
西門方面から突入してきたキマイラを、花の広場付近で迎え撃つ形になります。
来襲によって一帯は荒れますが、その事により障害物等は無くなり開けた戦場での戦いとなります。


■キマイラ『フェンリル・プロト』
耐久力、速度、攻撃や回避に関しての機敏性。
全てにおいて高い能力を保持しており、1ターンに3回の戦闘行動が可能です。
また、絶対者に似た能力を所持しています。
知性は低くありませんが極めて凶暴であり、目の前に敵がいれば問答無用で攻撃を仕掛けます。
離れた目標より付近の目標を優先する性質があるようです。
攻撃能力は以下の3種類。

・惨殺の嵐(神・遠2・全) 威力:高  BS:出血、流血、失血
・ありえない鎖(神・遠・全) 威力:ダメージ無  BS:呪縛  [追加効果]ブレイク
・魂刈牙の群(物・近・域) 威力:極高  BS:虚弱、圧倒、致命  [追加効果HP回復

またそれ以外の能力を1つ持っているようです。
『神々の黄昏』という単語だけはフォーチュナが感知しましたが、詳細は不明です。


■楽団員たち
ケイオス指揮下の楽団に所属するフィクサード。
戦いに巻き込まれぬように潜伏し、戦況を窺っています。
目的は戦いによって発生する死体の奪取、楽団の戦力強化です。


キマイラを撃破する事ができれば依頼成功となります。
それでは、興味を持って頂けましたら。
宜しくお願いします。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
クリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
クロスイージス
シビリズ・ジークベルト(BNE003364)
クロスイージス
日野原 M 祥子(BNE003389)
■サポート参加者 2人■
クロスイージス
ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)

●終焉の名
 フィンブルの冬に始まり、生き物は死に絶え
 天星は地に墜ち、大地は崩壊する
 神々と巨人は相打ち、炎が世界を焼き尽くす
――神々の黄昏、ラグナロク

「その名を、フローズヴィトニルを模したキマイラが纏いますか」
 冷たい空気に染み入るように、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の声が冬の公園に響く。
(悪趣味な六道にしては趣味の良い題材だけれど……)
「……神話の獣の練成を目指している者が居る、という事かも知れませんね」
「神殺しの狼……名前負けはしてないんでしょうね」
『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が彼女の言葉を引き継ぐように口にした。
(このままだと六道の研究が捗るだけだし、楽団の事も気になるけど)
「まずは目の前の脅威を何とかしないとね」
 神ではなく、リベリスタたちを殺す為に存在する……創られた何かを、打ち倒す。
「それはオオカミなのかしら?」
『心に秘めた想い』日野原 M 祥子(BNE003389)は静かに問いを発した。
 人間も動物も、生きて子孫を残すために捕食して。
 自分や子供の身を守るために敵と戦う。
(元が動物なのかノーフェイスなのかわからないけど、創造主を満足させるためだけに戦う生き物を作るなんて)
「相変わらずえげつないことするわね」
 内では留め切れなかった言葉が、唇から零れる。
「あたし、命に敬意を払わない人ってキライなのよ」
 だから、絶対に……負ける訳にはいかない。

●幕は、上がる
 今宵、月は出ているか
 我も狼、血が滾る
「まがい物とは言え神を殺した狼と相対できるとはな……くくく」
『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)の顔に浮かんでいるのは、紛れもなく『笑み』だった。
(侮るわけではないが所詮はまがい物)
「神話にはさせぬよ」
 我が、殺してやる。
 誓うように、祈りの言葉か何かのように、彼女は内に言葉を響かせる。
「嗚呼……実に愉しい」
 さて狼同士、命懸けの語り合いと行こうじゃないか?
 彼方に咆哮のようなものを聞き、彼女はいっそう笑みを深めた。

 フェンリル

「あぁ神話の怪物か」
(最高神すら呑み込むその名を冠するとは……さて実力はどれ程のものか)
 自身の内で何かに火が付き、燃え上がっていくのを感じながら……『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は呟いた。
 試してみよう。
「さぁ狼との闘争だ」
 内を感じさせぬ、淡々と、穏やかな口調でそう告げる。
「フェンリルとはまた仰々しい名前を付けましたな」
(……まあ流石に伝説に謳われる強さではないでしょうけど、充分に厄介な力を持ってはいるようですのう)
『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)も、仮面の内の表情を感じさせぬ調子で口にした。
「やれやれ、おっかない事です……まあ撃ちますけどな」
 その言葉には一欠片も、緊張や怯えは含まれていない。
 とはいえ無論、楽しげという訳でもない。
 対して御龍は、本当に嬉しそうだった。
「イッツショぉータぁーイム」
 愛車の真・龍虎丸のライトで、電色も全開にして、照明代わりにと場を照らす。
 楽団員たちがいないかと周囲を見回してから、『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は、近付いてくる轟音の元へと視線を向けた。
「北欧神話では、ラグナロクでオーディンを飲み込んだ怪物でしたっけ?」
(ここで食い止めないとろくでもない事になりそうな気がします。やーん)
 冷たいものが、背筋を伝う。
『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)と『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)も、援護を行うべく戦闘態勢を取った。
 六道の創りし異形が、公園の大地を抉りながら突進してくる。
 その怪物を、或いは自分達を狙い……隠れて様子を窺っているであろう、楽団員たち。
 どちらにも何ひとつ、譲る気はない。
『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)は構えを取ると、静かに口にした。
「魅せつけてやろうじゃないか。今宵は、俺達が演者だ」

●戦いの序曲
 鷲祐が自身のギアを最高速へと切り替え、エルヴィンが周囲の魔力を取り込み始める。
 九十九は視界がコマ送りに感じられるほどに動体視力を強化し、彩歌は集中によって脳の伝達処理能力を向上させた。
 ノアノアの方はというと、接近してくるフェンリル・プロトに対してエネミースキャンを開始する。
 イスタルテは味方全員へと翼の加護を施した。
 御龍は全身に破壊の闘気を巡らせ、シビリズはエネルギーを防御に特化させ、完全なる防御態勢を整える。
 祥子は世界から借り受けた癒しの力を、前衛たちへと付与してゆく。
 そして……戦闘態勢を整えたリベリスタたちへと近付いてきた異形の獣は、一旦足を止めると全てを憎悪するかのような咆哮を発した。
 草木が、空気が、怯えでもするかのように震える。
 だが、リベリスタたちの中に其に怖気付く者はいなかった。

 鷲祐が囮として、防御の姿勢を取りながら前進する。
 その直後、巨大な……狼に似た獣が、動いた。
 空間そのものが牙持つ無数の顎と化したかのように、見えない牙が大地を、草木を、リベリスタたちを引き裂く。
 続いて狼の身に纏わり付いた無数の鎖が、リベリスタたちへと襲い掛かった。
 傷付き、幾人かは血を流し、幾人かは鎖によって動きを封じられ、或いは付与した力を打ち砕かれ……更に魔狼は牙を剥き、囮となった鷲祐を噛み砕こうとする。
 その残酷な顎の洗礼を、鷲祐は限界近くまで高めた動きによって回避した。
 一連の怪物の攻撃は、それだけでチームの戦力を大きく減退させていた。
 破壊力もあるが、最も問題だったのは鎖による呪縛である。
 それを解除すべく、エルヴィンは邪気を寄せ付けぬ神の光を生みだすと、一帯を……仲間達を包みこんだ。
 光は呪われた鎖を解き、傷口から流れる血をも押し留める。
(くっくっく、コマ送りの世界では、貴方の動きも止まったようなもの)
 エルヴィンの傍らに位置した九十九は、攻撃を終えた魔狼へと銃口を向けた。
「後は、そこに当てるだけ……私の弾丸を受けてみると良い!」
 魔力によって貫通力を増した銃弾が獣を貫き、その傷口から体液が流れ出す。
 ノアノアも囮役として前進し、狼の足止めをするように位置を取った。
 十字の光を放っては見たものの、どうやら狼を刺激する事はできなかったようである。
(楽団が何を企んでいようとも、兎も角フェンリルを討てばこの場は終わります)
「故に、フェンリルを討つ事に全力をかけるのみ」
 ユーディスも十字の光を、こちらは牙の攻撃範囲の外から放って魔狼を攻撃した。
 念の為にハイバンサーで姿勢を安定させつつ、彩歌は後衛からフェンリルへと狙いを定める。
 その位置であれば、近距離攻撃の心配は無かった。
 全身から伸ばした気の糸を操ると、彼女は精確に対象の防御に劣る箇所を狙い撃つ。
 攻撃は正確に魔狼を捉え、癒せぬ傷をその身に刻み込んだ。
 もっとも、フェンリルは重圧は受ける事なく、その機敏な動きを維持し続ける。
(一体に使うには燃費が悪いけど、再生と回復は封じていかないと不利になりそうだし)
 効果を確認した彩歌は内心で呟きつつ、あと何度撃てるかを確認する。
 イスタルテは仲間全員を回復範囲内に収められるように注意しつつ、敵の移動近接攻撃を受けぬ位置取りを心掛けていた。
(威力はともかく回復を使えるわけですし……)
 彼女は仲間が倒されぬ事を最優先として行動する。
 今の処、味方の負傷は彼女の想定したものより軽そうだった。
 ならば、とイスタルテは自身が何をするべきか状況を確認する。
 翼の加護の方は先程の魔狼の鎖で半分以上が打ち砕かれたらしかった。
 であるならば、消耗に値する効果は望めない。
 考えた末に彼女はフィンガーバレットによる早撃ちで攻撃を行った。
 続く御龍は真っ直ぐに、鉄塊の如き巨大な剣、真・月龍丸を振りかぶる。
 為すべき事は、唯、ひとつ。
 全身の闘気を爆発させ、彼女は爆裂する斬撃をフェンリルの身に叩き込んだ。
 祥子は癒しの福音を周囲に響かせ、シビリズはいつでも囮役を替われるようにと前衛たちの状態を確認しつつ、後衛を庇うように位置を取る。
 敵の攻撃は強力ではあったが、リベリスタたちは慎重に状況を確認し、作戦通りに戦いを進めていった。

●花の広場を血に染めて
 魔狼の身体から放たれリベリスタたちを呪縛しようとする鎖を、エルヴィンが放った光が浄化していく。
 幾度かの攻防の末、フェンリルは効果に乏しいと判断したのか、鎖の力を使わなくなった。
 その分、近接する前衛たちへの攻撃が行われるようになったもののエルヴィンも回復に専念できる状態となる。
 フェンリルの動向に注意を払いつつも、九十九は楽団員への警戒も行っていた。
 後衛で魔狼と直接相対していない自分だからこそ可能と考えての事である。
 熱感知を使用して探りはするものの、敵の姿は簡単には発見できない。
 とはいえ、何かあればすぐに察知できるように。
「火事場泥棒なんてさせませんぞ」
 小さく呟きつつ、九十九は精密射撃と威力を高めた銃弾を交互に使い、消耗を押さえつつ攻撃を行ってゆく。
「おうおう、神話の怪物かい。ならこれを防げば私は魔神ってワケだ」
(精々堪えさせて貰うぜ?)
 打ちこんだ拳から相手の生命力と精神力を搾取しながら、ノアノアも前衛の一角を固める。
 ユーディスも引き続き十字の光を放ちながら、いつでも前衛の者たちへと交代できるようにと気を配った。
 脚部や口内等を狙って気の糸による攻撃を続けながら、彩歌も熱感知を使用して楽団員達の姿を探す。
 イスタルテは他の癒し手たちと声を掛け合い、皆の状態を確認しながらの回復を心掛けた。
 御龍は戦いながら相手の動きを確認し、必要に応じて動きを窺い攻撃の精度を高めて斬撃を放つ。
 暫く戦い続け、回復を受けても負傷が蓄積してきたと判断した彼女は、仲間と連携し後退した。
 交代するように前進した祥子は、敵の意識を自分達に留めるべく霜月ノ盾を振るう。
 シビリズもノアノアの負傷が蓄積していると判断し、交代の為に前衛へと移動した。
 そのまま重く巨大な槍をキマイラへと向け、全身の膂力を爆発させ突きを放つ。
 防御を固めつつ魔狼の動きに意識を集中していた鷲祐は、機を見出し獣の懐へと踏み込んだ。
「縮限の連撃蹴――夏は来たるッ!!」
 そのまま速度を殺す事なく、連続の蹴りと魔力の籠められた刃による斬撃をフェンリルの顎へと叩き込む。
 前衛の負傷の蓄積を確認したユーディスは、鷲祐と交代するように前に出た。
 前衛たちは交代で、ローテーションを組む事で囮役を果たしていた。
 フェンリルの牙の攻撃は強力ではあったが、これによってリベリスタ達はダメージの分散に成功していたのである。
 回復役への負担も、それによって軽減されていた。
 勿論、それでも消耗しない訳ではない。
 癒し手は無論、全員が……無限機関を用いれる者であっても強力な技の連続使用によって消耗していった。
 その状況で、フェンリルの最後の力が発動する。

●神々の黄昏
 巨大な怪物は、天に向かって三度咆哮した。
 その一度の咆哮のたびに、獣の身に巻きついていた鎖が砕け、欠片のようになって宙に舞う。
 三度の咆哮が終った時、フェンリルの身に絡みついていた全ての鎖が消滅していた。
 増大した不気味な気配と殺意に怯むことなく九十九が精密射撃を行い、ユーディスも破邪の光を重槍の穂先へと宿し突きを放つ。
 鋭い一撃が魔狼を捉えた瞬間、失われた鎖の一部が再び獣の身に絡みついた。
 彩歌は牙による敵の回復を阻止しようと、気の糸による攻撃を行い続ける。
 狙いを定めていたイスタルテも、フェンリルを狙って射撃を行った。
 スキルは使用しない。
 この為に、彼女は武器をカスタマイズしていたのである。
 直撃した銃弾から放たれた電撃は魔狼の力によって弾かれたものの……解除の力は発動し、消え失せていた鎖の一部が、更に怪物へと絡みついた。
 後退していた御龍は斬撃を飛ばして攻撃し、祥子は攻撃を耐える為にと防御の姿勢を取る。
「如何な物であろうと乗り越えるのみ」
(覚悟で耐え切り意思で刃を届かせる)
「狼よ。そのそっ首、今から頂く」
 耐久力を活かし防御を固めつつも、シビリズはヘビースピアを揮ってフェンリルを牽制した。
「悪いが、遅い相手には慣れているッ!」
 回復を終えた鷲祐が、交代するように前に出て流れるような動きで連続攻撃を仕掛ける。
 咆哮によって再び鎖の一部を砕くと、フェンリルは牙で前衛たちを襲ったのちに惨殺の嵐を創り出した。
 更に強烈な、殺意に溢れた存在しない牙が、一帯全てをズタズタに引き裂こうとする。
「引き裂かれようがもがれようがその首を取るのはこの我だ」
 御龍は血に塗れたまま、傷の痛みを消し去りながら宣言した。
 執念深く、しぶとく、冷静に、仲間と協力して……群で。
「狼とはそういうものだ」
 狼の意地として、負けられぬ。
 腕に力を籠め、己の牙を握り締める。
 仲間達を癒す為、エルヴィンは詠唱によって高位存在の息吹を具現化させた。
 魔力の籠った九十九の射撃が直撃し、鎖の一部が魔狼を捕える。
 ユーディスの槍によってフェンリルは再び鎖に絡み取られ、彩歌は無限機関によるエネルギーの生産を行いながら、気の糸を操って敵の回復を阻止すべく攻撃を行い続けた。
 イスタルテは回復を行いつつ狙撃の態勢を整え、御龍は回復を終えると交代して前に出る。
 運命の加護によって何とか攻撃を凌いだ祥子は、守りを固めつつ後退した。
(たとえ虫の息でも生きていれば何とかなるわ)
 せめて死なないように、意識を失う前に。
 生きていれば、戦えれば、何かができる。
「ここからが私の本番だ」
 限界に近付いたにも拘らず、寧ろ動きに力強さと機敏さを増して、シビリズが重槍に光を宿して反撃に転じる。
 渾身の力を籠めた刺突が、穂先と化した戦士の一撃が、魔狼の胴を抉る。
 続くように鷲祐も、最後の力を使い光の飛沫を迸らせながら攻撃に移った。
 全身の骨を軋ませ、筋肉を限界まで酷使して……蒼の猛禽が地を駆け、魔獣へと襲いかかる。
 それら全てを薙ぎ払うように、フェンリルの牙の嵐がリベリスタ達を咬み砕き、引き裂いた。
(生きて帰るし犠牲も出さない)
「人が造った神殺しなんかに負けている余裕は無いのよ」
 彩歌は運命の加護で生み出した力で再び無数の気の糸を造り出し、御龍も加護で耐え凌ぎながら獣の身体に剣の狙いを定める。
「神話において、フェンリルはグングニルの槍を受けて尚オーディンを飲み込んだという」
(仮にも主神とその武器を相手にその振る舞い、恐ろしい話ですが……)
「グングニルには遠く及びませんが――貴方にそれが出来ますか、偽りの狼!」
 ユーディスの穂先が魔獣へと突き立てられ、気の糸が、銃撃が、斬撃が、フェンリルへと叩き込まれる。
 運命を手繰り寄せる事で力の一部を取り戻したシビリズは、再びヘビースピアに破邪の光を宿した。
(この輝きは私が放つ至高の一撃だ)
「砕けろ狼」
 傷付いた魔狼はそれでも身をよじり直撃を避けようとはしたものの、耐え切れず断末魔の咆哮をあげ……巨体を荒れ果てた大地に、横たえる。
 傷を気にせず御龍は天を仰くと、遠吠えのような……勝利の雄叫びを、響かせた。

●閉幕、幕間へ
「楽団に利用されても困りますしな」
 使い物にならない位、破壊しておけば良いんですかのう?
 九十九の言葉に、幾人かが頷く。
 ユーディスや鷲祐、他の者たちも協力し、リベリスタたちはフェンリルの死体を破壊した。
 倒した怪物は以前とは異なり、融けたり消滅したりしなかったのである。
 鷲祐が顎を引き裂いた直後……エルヴィンやシビリズらは発見した人影の視界を遮るように位置を取った。
「おっと此処から先は通行止めです。覗き屋さんはお帰り願いますな」
 そう言いながら九十九が銃口を人影に向ける。
 リベリスタたちを警戒しているのだろう。
 3つの人影は射程には踏み込まず距離を置いて、一礼した。
「あら、こんなにされてしまって」
 残念そうに人影の一人が呟いた直後……裂かれた巨大な死体が、それぞれ別の生き物のように動き出す。
「楽団、か」
(余力が無ければ致し方あるまい)
 シビリズはそれ以上口にはせず、皆と目配せを交わした。
「漁夫の利は気に入らんな、溝鼠共」
 鷲祐が人影達に、その名を問う。
「俺は、アークの神速」
「これは、御丁寧に」
 フルートを手に、3人は再び一礼した。
「レヴァンテ(東風)のオクタヴィアと申します」
「アウストロ(南風)、コルネリアですわ。お見知りおきを」
「ポネンテ(西風)、アグリッピーナだ……数人、聞いた名がいるな」
 挨拶と共に……死体の魔狼が不自然に動きながら唸り声をあげる。
 リベリスタたちに余力はない。
 だが、敵側にも攻める気は無いようだった。

 自分達に被害は無く、キマイラの撃破には成功したのである。
 それで良しとすべきだろう。
 負傷者に手を貸し、リベリスタたちは素早く広場から撤収する。
 追撃は無かった。
 戦いは、邂逅は、終ったのである。
 生者たちは戦場を後にした。

 次なる戦いに、備える為に。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼の方、お疲れさまでした。
前衛たちがローテーションを組んで囮役を行い、敵に近接攻撃を多用させるという戦法は有効でした。
攻撃はかなり強力ではありましたが、ダメージを分散する事で耐え易く、しかも回復役の負担も軽減する効果が見込めました。
無論、ダメージやBSに対する回復の充実(麻痺無効等の用意含め)や致命を与える事による回復阻止、ブレイク付きの攻撃を持っている方が複数いた事等も大きかったと思います。
終盤回復がほぼ尽きた為に負傷者や重傷者が出ましたが、敵を考えれば軽微な被害と言えるでしょう。
楽団員への対処も、強気ではあっても落ち着いたものであったように思いました。

御参加、ありがとうございました。
戦いはまだ終わっていないようですし、どうか充分にお気をつけて。
皆様の御武運、お祈りしております。