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<三ツ池公園大迎撃>呑口、闇に開く

●三ッ池公園大迎撃
 2012年12月。三ッ池公園は再び死の香りに包まれた。
 フィクサード七派のひとつ、六道。その首魁、六道羅刹が異母兄妹、『六道の兇姫』六道紫杏。彼女が生みだした混合エリューション――『キマイラ』。
 その『キマイラ』が軍を為して三ッ池公園を襲撃する。その狙いは、かつての戦いで開いた『閉じない穴』。紫杏は更なる野望の為に『穴』を利用して崩界度を上げるつもりだ。
 当然、彼女等の好きにさせる訳にはいかない。
『キマイラ』軍に対抗すべく箱舟のリベリスタは全力で迎撃に向かう。何の因果か、聖夜を前に再び三ッ池公園で決戦が繰り広げられるのであった。

 ――そして『楽団』がその戦いを虎視眈々と見ていた。有力な革醒者の死体を労せず得ようとするために。

●四元素と呑口
 三ッ池公園の戦いは熾烈を極めた。
 ある戦場では勝利を収め、またある戦場では敗北を喫する。
 リベリスタチーム『四元素』はキマイラの猛攻に屈し、いま撤退していた。怪我人を背負い、後方支援チームの待つ場所まで走る。アシュレイの所まで逃げれば安全だろう。
「――こっちだ!」
 遠くからかかる声。紺の作務衣にスキンヘッドの男がそこにいた。九条・徹。味方の姿に安堵し、誘われるままにそちらに向かう。
「きゃああ!」
 突如足が引っ張られ、空中に逆さづりになる。そのまま四肢を拘束されて、身動きが取れなくなった。見れば巨大なゼリー状の『キマイラ』が触手を伸ばして『四元素』のメンバーを飲み込もうとしていた。
 助けを求めようと徹の方を見れば、驚いた様子も無く笑みを浮かべている。まるでこのエリューションに飲み込まれるのを良しとするように。
「……え?」
「ケタケタケタ! 触手とローションプレイだゼ。精々抵抗シロヨ。その方が需要があるんだからナ!」
「――ッ! あなたは!」
 触手にとらわれたリベリスタの目の前で、徹の姿がチャイナ服を着た少女の姿に変わる。聞いたことがある。六道のフィクサードで誰にでも変身できるフィクサードがいたという。その二つ名は――
「『チャプスィ』!」
「ケケッ! ソーイウことダ。お前らはココで御終いなのサ!
 じわじわと自分の体が溶けていくのを見ながら、果てちまいナ」
 あわててすでに取り込まれた仲間達を見る。彼らはすでに『キマイラ』に飲み込まれていた。呼吸が出来ているのかどうかすら怪しいゼリー状の体内。『チャプスィ』の言葉が本当なら、じわじわと体を消化されていくのだ。その死に方を聞いて、恐怖するリベリスタ。
「怨むなら『楽団』を怨みナ。死体を残せばあいつ等の兵隊になるんデナ。燃やしても骨が残るし、骨まで溶かすのが一番なのサ。
 相手が死体を操ると分かってるのナラ、対策を立てるのはトーゼンだからな。ケタケタケタ!」
 体が『キマイラ』に沈んでいく。自らを包むその感触に嫌悪感を示すが、抵抗することが出来ない。底なし沼に沈むようにゆっくりと体が沈んでいく。
 首まで沈む。助けは来ない。
 鼻まで沈む。もう悲鳴を出すことすらできない。
 目まで沈む。あのフィクサードは楽しそうに笑っている。
 そして全てが沈む。意識さえも。このままこの『キマイラ』に沈んでいく。

●アーク
「――未来予測後、緊急連絡を回していますが『四元素』への連絡は間に合いませんでした」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちに早口で説明する。
「サインによる確認と幻想纏いの通話でこれ以上の被害は押さえられるでしょうが、油断は出来ません。
 確実な被害防止の為に『キマイラ』の打破を。可能なら『四元素』の救出もお願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月27日(木)23:39
 どくどくです。
 いやらしいやつが暗躍しています。えろーい。

●重要な備考
『<三ツ池公園大迎撃>』はその全てのシナリオの状況により『総合的な結果』が判定されます。
 個々のシナリオの難易度、成功数、成功度によって『総合的な勝敗』が決定されます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

◆成功条件
『キマイラ』呑口を全て撃破すること。
フィクサード『チャプスィ』、リベリスタチーム『四元素』の生死は成功条件に含みません。

◆敵情報
『キマイラ』呑口(どんこう)(×2)
 酸のEエレメントに色々合成した存在です。見た目は5メートル程の巨大なゼラチンです。
 触手が伸びて獲物を捕らえたり、のしかかって押しつぶしてきます。自意識があるとは思えませんが、統制の取れた動きをします。ゼラチンの内部に大きさ3センチほどの<核>があります。
 体躯が大きいため、ブロックには二人必要になります。
 緑色の呑口が三人、灰色の呑口が一人、『四元素』を飲み込んでいます。

 攻撃方法
・触手 物遠2単 触手を伸ばし、相手を捕らえます。ダメージ0、ノックB
・融解 物近範  取り込んで飲み込もうとします。麻痺、呪い、死毒、致命、呪殺。
・再生 P     取り込んだ者を消化し、栄養にします。リジェネレート(飲み込んだ人数×50)
・呑口(EX)   物近単 戦闘不能に陥ったものを飲み込みます。

 飲み込まれたものを救うには『呑口のHPを0にする』か『部位狙いで<核>にある程度のダメージを与える』かです。
 飲み込まれた者は『死毒』相応のダメージを受けます。オーバーダメージが最大HPを超えたとき、骨まで溶けて消え去ります。
 飲み込まれた者にはスキルなどは届きません。

・『チャプスィ』(ビーストハーフ(コウモリ)×ナイトクリーク)
 六道フィクサード。拙作『<六趣に於いて蠢くモノ>形なき襲撃者』『<兇姫遊戯>その癒しは届かない』等に登場。これらの作品を知らなくても問題ありません。要は『キマイラを操ってる』『変身能力所持』『性格悪い』『えろい』フィクサードです。
 本名不明のフィクサードです。その二つ名のみが知れ渡っています。 チャイナ服を着た10歳の少女です。ナイフ所持。CT値高め。性格が悪く、奸智に長けています。リベリスタが嫌がるような動きをするでしょう。
 自分の命が大事なので、不利を察すれば『キマイラ』を見捨てて撤退します。


 活性化スキル(わかってる範囲)
「ダンシングリッパー」
「メルティーキス」
「ルージュエノアール」
「怪盗」
 EX 奇門遁甲(P 何人にブロックされてようとも、囲みから逃げ出すことができます)

◆リベリスタチーム『四元素』
『土谷愛美(デュランダル)』『木下嵐(ソードミラージュ)』『二野辺ほむら(マグメイガス)』『岡村洋子(ホーリーメイガス)』の四人チーム。全員ジーニアス。男一人女三人のプチハーレムパーティ。平均レベル20ぐらいとそこそこ強め。
 戦闘開始時、全員意識を失い飲み込まれています。

◆場所情報
 三ッ池公園内部。広さは十分。足場も安定。
 戦闘開始時、『キマイラ』二体が前衛。『チャプスィ』が後衛にいます。
 事前行動を行うことは可能ですが、その分時間は流れます。それが有利になるか不利になるかは分かりません。
 到着時、リベリスタと『キマイラ』の距離は10メートル、『チャプスィ』までは15メートルとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
 
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
ホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
ホーリーメイガス
ヘルガ・オルトリープ(BNE002365)
ホーリーメイガス
救慈 冥真(BNE002380)
インヤンマスター
志賀倉 はぜり(BNE002609)
プロアデプト
ヤマ・ヤガ(BNE003943)


「やれやれ、相変わらず姑息なえろい幼女じゃのぅ」
「噂に聞いとった性悪コウモリか」
『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が緑色の呑口に接近すると同時に『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)が杖を構える。
「お久しぶりです、姐姐。こちらお急ぎなので挨拶は略式で」
「喧嘩なら買うよ。にひひ」
『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が灰色の呑口に破界器を持って迫り、『呪印彫刻士』志賀倉 はぜり(BNE002609)が『呪印彫刻刀』を展開させる。
「六道、滅ぶべし」
「ああ、とっとと倒してあいつ等を助けよう」
『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が二丁の拳銃を構え、『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)が『三鈷の霊刀』を握り締める。
「このキマイラ……ヌメヌメしてて、気持ち悪い」
「あんな怖いものに呑み込まれるなんて、考えただけで不安になるわ」
『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が『絵本 みにくいアヒルの子』を抱きしめ、『月色の娘』ヘルガ・オルトリープ(BNE002365)が呑口の異様さに震えながら呼吸を整える。
「ケタケタケタ、ご苦労様だぜリベリスタ!
 こっちはオトリだゼ。『兇姫』サマは今頃目的の場所にたどり着いているだろうヨ!」
 やってきたリベリスタに笑い声を上げる少女。六道のフィクサードで二つ名を『チャプスィ』と言う。
 六道紫杏と凪聖四郎の件は、通信でも聞いていた。そちらには別のリベリスタが向かっている。そちらに駆けつけたい思いもあるが、
「問題ありません。ここであなたを潰すこともこの戦いの勝利への道。
 さあ、『お祈り』を始めましょう」
 リリを始め、リベリスタの顔に動揺の色はない。
 戦う意思を破界器に乗せて、三ッ池公園の戦いは幕を開ける。


 アークの指示は『呑口の打破』である。
 しかしリベリスタたちは『呑口にとらわれたリベリスタの救出』を目標としていた。呑口の核を狙い撃ち、捕らわれている彼等を救おうと。
「おおっと、志賀倉前だぜ。呑口のブロックが足りない」
「あれ? ごめんごめん」
 そんな一幕もありましたが。
「両の手に教義を、この胸に信仰を」
 右手に持つ銃の名は『十戒』。左手に持つ銃の名は『Dies irae』。祈りであり罰である銃を呑口に向け、その核を見る。放たれた弾丸はまっすぐに緑色の呑口の核をうがった。
「神の使途として、道を外れた者に裁きを」
「かか、徹底して意地の悪いのはある意味見所だの」
 ヤマの黒瞳が呑口二体と『チャプスィ』を捕らえる。さて、自分がアヤツと同じ年のころは『ヤマ』の生業をしておったか。そんなことを想いながら気の糸を放つ。細く鋭い糸は呑口二体の核を傷つける。
「温いな。児戯に等しいわ」
 人殺しを生業としていた彼女にとって、鈍重な呑口の動きをとられることなど容易い。その中の小さな核であっても、はずす道理はなかった。
「うへー、何かつい先日取り込まれてきたアレを思い出すなぁ……」
 はぜりは震える灰色の呑口をみて、身震いする。忘れろ忘れろ、と二重の意味で首を振る。風の刻印を刻んだ彫刻刀を手にして、横薙ぎに振るった。生まれる風の刃が呑口を削る。
「アレもいろんな意味でヤバかったけど、命の危険度って点じゃこっちはマジでヤバいレベルだねぇ」
 命の危険もあるが。取り込んでいる人間の分だけ呑口は傷を回復する。下手をするとジリ貧だ。
「そうですね。とにかく早い救出を」
 うさぎがはぜりと同じ灰色の呑口を押さえながら『11人の鬼』を振るう。様々な角度に向けられた刃が呑口を裂いていく。刻まれるのは死の刻印。じわりじわりと死に追いやる武技。
(呑口も厄介ですが、正直『チャプスィ』さんも面倒なんですよね)
 うさぎの視線の先でナイフを構える『チャプスィ』。リベリスタの構成と作戦、そしてキモとなる人物を見極めようと様子を見ながら、今は緑色の呑口を押さえているリベリスタにナイフを振るっていた。
「イカれた『兇姫サマ』に尻尾振るのも大変じゃのぅ?」
 瑠琵は近づいてきた『チャプスィ』に挑発を交えながら、印を切って呑口を指差す。幸運の流れを停滞させ、呑口に不吉を告げた。戦いにおいて実力以外の要素である『ツキ』を狂わせ、結果リベリスタに戦いの流れを呼び込む。
「精々キマイラにされぬよう御機嫌取りに励むが良い」
「ケケッ! そんじゃお答えに甘えて戦功をあげさせてもらうゼ。オメーラを捧げてナ!」
 ナイフが踊る。味方である呑口すら巻き込んで『チャプスィ』は周りにいるものを切り刻んでいく。
「話にゃ聞いてたけど本当、あの小娘は洒落になってねえ」
 冥真はナイフの傷を癒しながら悪態をつく。防御力には自身があるが、体力は高くない。プロテクターの隙を突くようなナイトクリークの一撃は、冥真には相性が悪いと言ってもいいだろう。いや、洒落にならないのはそこだけではない。
「『楽団』を言い訳にするその性根が腐っている。自らの趣味にうちらの同僚を巻き込んだ事が許せない」
「利害の一致サ。六道も『楽団』には迷惑受けてるんでナ」
「何より、そのトシで触手プレイとか言い出すその不浄には全くもって頭が痛い限りだ!」
「アンタ、乙女を穢したいクチか。スマないネ、ケタケタケタ!」
『チャプスィ』の切り返しに歯をかみ締める冥真。確かにこの小娘は洒落になってない。
「救出の時に少し痛い思いをさせてしまうかもしれないけれど、ちょっとの間だけ我慢してね」
 ヘルガがグリモワールを展開して呑口の毒を払うための光を放つ。絶えず呑口に接している前衛は、常に毒に晒される。麻痺毒も含めて一気に前衛の毒を吹き飛ばす。仲間達の傷の家具合を確認した後で、呑口の中にいる『四元素』のメンバーを見た。
「早く四元素さんたちを助けましょう……!」
「こんな所で死なせない……全員、助けるんだから……!」
 肺いっぱいに息を吸い、声に魔力を乗せてあひるが童話を謡う。リズムカルに響くあひるの声。それはホーリーメイガスの技。癒しは肉体だけではなく心まで。物語による心の癒しと神秘による傷の癒し。
「死体を操る楽団対策には、とても賢い選択だとは、思う」
「そりゃドーモ」
「でも、チャプスィは今、彼らの命で、遊んでいるだけよね……? そんな悪趣味な遊び、あひるたちが終わらせる……!」
「ケケッ! 出来るものならやってミナ!」
 戦いは加速する。呑口の闇は、深い。


 複数敵がいるときは、片側を集中砲火して数を減らすのが定石である。
 しかし呑口に飲み込まれた者を助けようとすれば、自然と殲滅速度も遅くなる。ましてや面倒なフィクサードまでついているのだ。リベリスタのダメージは自然と多くなる。
「はっ! この程度の酸でやられてたまるか」
 最初に限界が来たのは冥真だ。呑口の酸と『チャプスィ』のナイフを何度も食らい、運命を燃やす。返す刀とばかりに魔力の矢を放つ。灰色のゼリーが爆ぜて空気に消えた。
「あいたー。きついきつい」
 物理的な防護の薄いはぜりの足がよろめく。途切れてしまいそうになる意識を運命を燃やして留め、頭を振った。そして浮かぶのはいつもの笑み。にひひと笑って風の刃を振るう。
「ところでお主、運命削って立ち上がったそうじゃが、あと何回堕ちずに立ち上がれるか試してやろうかぇ?」
「物騒ダナ、リベリスタ。ソー言ウはお前らの特権ダロ。
 それに私を攻撃する余裕なんテないだろうガ。早くしないと仲間が溶けちゃうゼ」
 瑠琵の挑発を笑って流す『チャプスィ』。リベリスタの狙いは読めた。自分よりもキマイラ殲滅を優先するのなら、自由に動ける。 独特のステップを踏み、『チャプスィ』が動いた。癒し手たちの間に立っていたリリを通過し、あひるのほうに迫る。
「悪趣味な遊びの時間ダゼ」
「……っ! まだ、大丈夫……!」
 ナイフが走り、あひるの胸に朱が走る。傷の痛みに耐えながら、あひるはリベリスタたちを癒すために神秘を行使する。
「戦いに犠牲はつき物だゼ。あの四人を見捨てればもうちょっと楽に戦えるのにナァ」
「それでも、あひるは……見捨てない。あひるだけじゃない、ここにいるリベリスタはみんな……!」
「ケケッ! それで自分が傷ツイテりゃ、世話ねーゼ!」
 翻るナイフ。刻まれる死の刻印があひるの体力を奪い取る。物理の加護も薄いあひるは、その連撃に膝を突く。それでもなお、あひるの歌は止まらない。
「あの不思議な歩き方は……じつは臆病者だったりするのかしら?」
 ヘルガも回復の旋律を奏でながら、『チャプスィ』の動向を見る。自分とひとつしか違わないフィクサードの少女。その少女の視線がヘルガに突き刺さる。
「ソーサ、臆病なんだよオネーチャン。だからその歌をやめてくれネーカナ」
「ふざけないでっ! 四元素達は、必ず助けるんだから」
 恐怖を隠しながらヘルガは答える。おそらくあひるが倒れれば次の目標は自分だ。ナイフの痛みを想像し、ヘルガは体を震わせる。
「ふん。やはり回復の方を狙うたか」
 ヤマが呑口の核を見据えながら『チャプスィ』に語りかける。狙うなら呑口を狙う自分か、回復役か。そのどちらかだと睨んでいた。
「あの四人を吐き出させルより前ニ、お前らを倒せばいいだけだからナ」
「確かに。じゃがヤマを侮ったな。あの程度の的、はずす道理もないわ」
 言葉と同時にヤマから放たれる気の糸。それが緑色の呑口の核を貫く。その痛みに耐え切れないとばかりに、捕らわれてい三人のリベリスタが吐き出される。すぐさま三人を後方に投げるうさぎ。
「イーノカ、そんな所に投げ捨てて? しっかり抱えておかネーと、私が殺しに行くかもしれネーゼ」
「そりゃ出来る限り助けたいですが彼らもリベリスタだ。過保護にする理由も無い」
 うさぎは『チャプスィ』にそう答える。
 うさぎからすれば苦肉の策だが、『チャプスィ』からすれば舌打ちをしたくなる判断だった。彼女は四元素自体に興味はない。『リベリスタの足かせ』以上の認識はないのだ。拘らないのなら、時間を割いて殺しに行く理由はない。戦場の時間は金に匹敵する。
 だが、まだ策はあった。
「なら呑ませにいくまでヨ!」
『チャプスィ』の言葉と同時に、呑口の触手が動く。灰色の触手が緑色の呑口の前にいる冥真を弾きとばした。
「……しまった、呑口の押さえが!」
 冥真は『チャプスィ』の作戦を看破する。巨体ゆえに呑口を複数で押さえ込んでいたが、その数を減らすことで押さえを不十分にされたのだ。緑色の呑口は冥真のいた場所に自分の体をねじりこむようにして強引に突破しようとする。狙いは――リベリスタの後衛に控えるホーリーメイガスたち。勝利を選ぶなら、当然の選択。四元素はコイツラの後で取り込めばいい。
「させません。十字の加護をここに」
 そこに、リリが割りこむ。元々前衛が倒れたときの押さえに入るつもりだったため、その判断は早かった。二丁拳銃をゼラチン状の体に押し当て、ゼロ距離から弾丸を叩き込む。回避などできようはずがない。核を傷つけられ、呑み込んでいたリベリスタを吐き出してしまう。
「我が身は御心と箱舟の剣、そして盾です」
「……ケッ! 面倒だな、アーク。そんなに死にたいのカ?」
「にひひ。それはこっちのセリフだぜ」
 はぜりが笑みを浮かべる。これで憂いはなくなった。
 あとはキマイラ二体とフィクサードをやっつけるだけだ。
「無駄じゃ。趨勢は見えた」
「楽団の戦力を拡大させぬ為に呑口を連れて来た癖に、呑口を失った挙句死体も残しましたと報告したいかぇ?」
 ヤマと瑠琵が挑発を重ねる。
 傷が深い者もいるが、リベリスタの表情は目的を一つ達したため明るい。
「ともあれ、呑口の回復はなくなりました。さぁスパートです」
「今すぐ、この場から去りなさい……!」
 うさぎとあひるの言葉と同時、リベリスタたちは一斉にキマイラに破界器を向けた。
「守りが厚く癒しが多く、これで救えぬ道理なんてない」
「この弾丸は天罰。御心に背く者に呪いよあれ――Amen」
 冥真とリリが呑口を傷つける。天罰の弾丸と魔力の矢が至近距離から叩き込まれる。
「みんな一緒に帰るんだから……!」
 ヘルガの言葉はリベリスタ共通の気持ち。そのためにここまでがんばってきたのだ。 
 呑口の闇はまだ閉じない。だが――


「ふん、この程度は想定内じゃ!」
「さすがに厳しいですが、確かに趨勢は見えました」
 瑠琵とうさぎが呑口の毒で運命を削って立ち上がる。ともに持久力には自信があるが、それでも度重なる呑口の攻撃に耐えるのは難しかった。
 うさぎの破界器が横なぎに一閃する。11の名前のついた刃が傷口を広げるように灰色の呑口を裂く。ぐちゃりと気持ちの悪い音とともに呑口が崩れた。
「きゃあ……!」
『チャプスィ』のナイフであひるが力尽きる。
 力なくずれるあひるを呑口に投げ込もうと手を伸ばす『チャプスィ』だが、
「させぬよ。行け、影人」
 瑠琵の生み出した式がそれを阻む。あひるの間に割って入り、その手を弾いた。
「クッソ……ッ!」
「お主がキマイラ候補になる日もそう遠くなさそうじゃのぅ? いっそ、ヤられる前に『兇姫サマ』を始末したら如何じゃ? ソレが一番安全じゃろう?」
「もっと安全な道があるゼ。アークを滅ぼすことサ!」
「ぬかせ。ヌシの動き、封じさせてもらうぞ」
 生まれた一瞬の隙を突いてヤマの糸が、見事『チャプスィ』に絡まった。『チャプスィ』も会話をしていたとはいえ、油断をしていたわけではない。純粋にヤマの腕が『チャプスィ』の回避性能を上回ったのだ。
「縛られて悦ぶ趣味は、ねーゼ」
「その軽口、どこまで続くか? ヌシに余裕などなかろう?」
『チャプスィ』を封じる糸を握りながら、ヤマが笑みを浮かべた。
「ちっ……! ここまでか」
「あいた! そんじゃ、後は任せた……よ」
 呑口の一撃で冥真が倒れ、触手の一撃ではぜりが力尽きる。
 しかし、キマイラの奮闘もここまで。
「神の威光よあれ」
 リリの放つ弾丸が蒼の軌跡を描く。祈りと共に放たれた弾丸が、緑色の呑口の命を奪う。
「ケッ。ここまでのヨーダナ」
 歯軋みをして『チャプスィ』が大きく後ろに下がる。傷ついたリベリスタとほぼ無傷の自分。勝率はフィフティフィフティだろう。ならば逃げる。チップが自分の命ならなおさらだ。ヤマの放った糸を振り払い、闇の方に向かう。
「貴女って何の為に生きてんです? 人生の目標的な意味で」
 逃げる『チャプスィ』にうさぎが問いかける。
「自分の命以外に執着が見えないんですよ。でもそれだけならフィクサード家業やってる意味が無い」
「そりゃ――」
「あ、答えなくて結構です。どうせ下らない事でしょ」
 答えようとした『チャプスィ』を遮ってうさぎは答える。
「ソーサ、ツマラネーことダ」
 にぃ、と舌を出して笑みを浮かべる『チャプスィ』。そのまま闇に消えていった。
「……ふむ、好い加減悪感情の一欠けらでも持って貰えんと付け入る隙が無いのですが」
 躊躇なく逃げた『チャプスィ』を見てため息をつくうさぎ。幾度となく交戦しているが、どうもあの女は捉えどころがない。
「人の命を弄んでおきながら、自分の命は大事なのですね」
 リリが逃げた『チャプスィ』の方を見て、怒りの声を上げる。
「良かった……みんな無事で」
 ヘルガが倒れた人たちの傷を癒していく。四元素の生存を確認してため息をつく。他のリベリスタも、命に別状はなさそうだ。
 遠くの方で戦いの音が聞こえる。三ッ池公園の迎撃戦は、まだ予断を許さぬ状況だ。
 リベリスタたちは頷きあい、新たな戦いに足を向ける――


『お主がキマイラ候補になる日もそう遠くなさそうじゃのぅ?』
 瑠琵の言葉が脳裏を過ぎる。
 くだらない挑発だが、機嫌の悪い時の紫杏はそれをやりかねない。少なくともその危険性を完全に排除できない。
「……チッ!」
 このまま逃げても良かったが、せめて一泡吹かせてやろうと足を止めた。リベリスタの誰かに変身し、奇襲してそのまま逃げる。混戦状態の中において、『チャプスィ』の変身能力は如何なく発揮される。
 がさり、と目の前の茂みが揺れた。
 そこから現れたのは『倫敦の蜘蛛の巣』のメンバー。六道の人間ではないが紫杏の要請で英国からやってきたフィクサード集団だ。
「六道フィクサードの『チャプスィ』ですね。リベリスタと交戦中と聞いてやってきました」
「ケッ! 手駒を失ったがリベリスタにはダメージを与えたゼ。追撃するから、手を貸しナ」
 ツイてるぜ、とほそくえんで『チャプスィ』は自らの胸から生えた剣を――

「……ハ?」
『チャプスィ』は自らの胸から生えた剣を、見る。
 背中から刺された剣が貫通し、自分の胸を突き破っていた。

「ツイてます。貴方を葬り去るには一番いいタイミングで駆けつけれたようで」
 背後から聞こえる『倫敦の蜘蛛の巣』のフィクサードの声。確かな殺意をこめて、自分を貫く剣が引き抜かれた。肺から口に上ってくる血液。脱力し、膝をつく。
「……ナルホド。お前ラ……ツーカ『教授』の目的は――」
「そういうことです」
 剣が翻る。自らの血を滴らせた刃が迫る。

「……逃げられたか。あの状態で動けるとはな」
「あの傷で池に飛び込めば生きてはいまい。窒息死か失血死だ」
「骸を晒すか『楽団』の駒になるか。どの道『死人に口なし』だ」
「撤収だ。プランHに以降する。アークの戦闘情報を――」



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 作戦に多少齟齬などがありましたが、フォローも十分でした。
 怪我人が多いですが、無事キマイラ打破です。

 三ッ池公園の戦いは続きます。六道紫杏、凪聖四郎、『楽団』、そして『倫敦の蜘蛛の巣』。複雑に絡み合う思惑の中、皆様が紡ぐ物語を期待しながら、筆……キーボードを置きます。

 それではまた、三高平で。