●キマイラ ナタク――『西遊記』『封神演義』等に出てくる神の名前だ。蓮の花や葉の形の衣服を身に着け、多数の武器を持ち、三面八臂の姿を得たという。 無論、想像上の存在である。だがしかし、仏像をはじめとしてそれをモチーフにした作品は多い。 六道の研究者達が生み出した『キマイラ』も、その作品のひとつだ。芸術品にして兵器。美しさと実用性を両立させた至高の作品。彼らはそう自負していた。 「お前等。『メインディッシュ』だぞ」 「了解です。最終調整も済んでいます」 「『兇姫』様にも満足してもらえる出来になりましたよ」 三つの顔に八つの腕。それらに相応の武装を持たせているのだ。『マギス』『サムライ』の結果を受けて改良されたものだ。純粋な戦闘力ではリベリスタなど敵にはならない。 「作戦は正面突破だ。研究の成果を見せると同時にリベリスタの目を引く。 我々の研究の成果を今見せ付けるときだ」 場所は三ッ池公園。目指すは『閉じない穴』。 最高のキマイラをもって、箱舟を打ち砕く。 ●アーク 「クリスマス前に三ッ池公園で決戦だぜ、お前達。最も相手のターンだがな」 『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。 「六道のフィクサードに大きな動きがあった。『キマイラ』の軍勢を率いて三ッ池公園を攻めてくる。目的は『閉じない穴』だ」 リベリスタは一様にどよめく。『キマイラ』を知るものも知らないものも、『閉じない穴』を知るものも知らないものも。それぞれが動揺を隠せないでいた。 「順を追って説明するぜ。 『キマイラ』ってのは六道が生みだした複数のエリューションを組み合わせたバケモノだ。戦闘力は高く、個体によっては再生能力も持っているものもいる。とにかく厄介な相手だ」 アークは『六道の兇姫』こと六道紫杏が作り出した研究結果と戦ってきた。勝利を収めたものもいれば、苦汁を舐めたものもいる。戦いのたびに『キマイラ』は進化し、その完成も間近という情報もあった。 「せめてきた理由は不明だが、とにかく数が多い。先日の『楽団』の襲撃もあって警備は強化したが、それ以上の勢力で攻めてくることが予知できた。箱舟総出で守る必要がある。 不意打ちは防げたが、楽観は出来ないぜ」 徹は端末を操作して、モニターに三ッ池公園の地図を映し出す。『閉じない穴』からそう遠くない場所。休憩中のような公園が映し出される。そこをまっすぐ突っ切る八本腕の存在。 「俺達が相手する『キマイラ』はこいつだ。顔が三つ、腕が八つ。三面八臂ってやつだ。死角はなく、八本の腕それぞれに武器がある。ここまでリベリスタの軍勢を突破して三ッ池公園の内部までやってきている。純粋な戦闘力では群を抜いているぜ」 『閉じない穴』までまっすぐに突き進む矢印。途中にはリベリスタが築いた防衛線があるというのに、それを物ともしない動きだ。徹の言葉も嘘ではないのだろう。 「なのであえて手薄にして突破させて、この休憩所に誘い込む。単純だが、戦力に限りがある以上、これ以上の策を練る余裕が無い。 メインで殴りあうのはお前達だが、援護をつける。ちょっとフダがついたりするが、戦力としては申し分ない」 幻想纏いに映し出される『援護グループ』の姿を見て、露骨に眉をひそめるリベリスタたち。そこに映し出されたのはかつて悪事を働いた革醒者たちだ。どういうことだと問い詰めれば、肩をすくめて徹は答える。 「司法取引だよ。協力する代わりに『楽団から保護してもらう』ってな」 「は?」 「アークに敗れて信用もコネもなく、今フリーでフィクサードに戻れば『楽団』に狙われて、死体になって操られるのがオチだ。シャバに戻るぐらいならアークで安全を確保したいんだとよ」 言って徹は呵呵大笑。 付き合いの長いリベリスタは知っている。こうなると分かっていて交渉を持ちかけたのだ、この元フィクサード。『楽団』が跋扈する中放り出すなんてほとんど脅迫だ。 「死なない程度にこき使ってやろうや。意気投合は出来ないだろうが、立派な戦力だ」 一部のリベリスタは納得できない顔をするが、相手は戦闘力が高い『キマイラ』だ。清濁併せ呑むのも必要か、と苦い顔をする。 「噂じゃケイオス以外にもバロックナイツが蠢いているってことらしい。気合入れていこうぜ。日本の革醒者の強さ、見せてつけてろうや」 徹のその言葉に、リベリスタたちは応と答えて決戦の場に向かうのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月29日(土)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 金磚が天で輝けば光の矢が雨のように降り注ぎ、乾坤圏が遠くにいるものを打ち据える。隙を見て突き出される火尖槍がナタクのそばにいるリベリスタを突き、燃やす。 「大昔に存在していた奴の名前を受け継いでるっか……」 『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)は燃えるように熱いわき腹を押さえながら、刃を振るう。剣に乗るのは翔太の速度。止まることなき速度の刃が何度も交差する。翔太は速度も回避もかなり自身があるのだが、それでもギアをあげてなお、避けきれるかどうかは半々だ。 「偽者には違いないが、油断はできねぇってことか」 「Ready Fight!」 格闘ゲームの開始さながらに声を出しながら、ナタクに迫る『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)。振り下ろした赤い宝玉を埋め込んだ斧槍が疾風を生む。風が刃となってナタクを傷つけた。 「こいつがこの間のサムライの後継機ー? 確かに強そうかなー」 「ツクリモノとはいえ、神に挑めるとはね」 『論理決闘専用チェーンソー』を起動させて回転数を上げながら『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)がナタクに近づく。ナタクの纏っている混天綾と風火輪の機能を潰そうと、三枚刃のチェーンソーを横なぎに払う。 「チェーンソーでバラバラに引き裂いてやろうか!」 「ナタク……まさかそんな名前のヤツとやりあうことになるとは。いやはや」 『女好き』李 腕鍛(BNE002775)からすれば、その名前は子供の英雄的な存在である。あきれていたのは一瞬。すぐに拳に炎を宿してナタクに殴りかかる。重心をずらさず、流れるような動きで構え、打つ。ナタクの肌を炎が焼いた。 「あ、サーシャ殿は久しぶりでござる。何の因果か今回は味方同士でござるがよろしくでござるよ」 「……どうも」 腕鍛の言葉に不機嫌そうな声で答えるサーシャ。元々アークに敵対していたこともあり、味方ではあるがアークのリベリスタに友好的な態度とはいえなかった。それはサーシャだけではなく、楠木や瀬戸口も似た態度であった。 そしてリベリスタの彼らに対する態度も様々だ。 「…………」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は口にこそしないが、彼等に警戒心を解くことはない。身勝手なフィクサードに家族を奪われた彼女からすれば、当然といえよう。ましてや瀬戸口や楠木はその我欲ゆえにアークと何度も交戦していた相手のだ。 「敵前逃亡などしたら……どうなるか分かるわよね?」 銃口をナタクに向けたまま威圧するミュゼーヌ。もっとも殺す気はないのだが。 「些か虫が良いのは否めないが、大樹に身を寄せるのを責めるべきではなかろう」 ため息をつきながら『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)がフィンガーバレットを構える。初仕事でたいした地獄を見せてくれるものだ、と心の中で悪態をつき……楠木の方を見る。互いに初面識。だが、伊吹はその顔に見覚えがあった。何かを言いかけて、口をつむぐ。 (あの羽付きが妙に気に入らないはきっと気のせいだ) 「にしても人数集めたねー。そんだけヤバイって事かー……嫌だねー」 「そういうこった。まぁ、気合いれていきな」 『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)の軽口に『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)が答える。徹を含めた箱舟のリベリスタが十三人。収容中の革醒者を三人ほど引っ張り出して合計で十六人。頭をかきながらその『ヤバさ』を再確認し、甚内はフィクサードたちに向かって手を振った。 「慣れちゃえばアークはとってもEー組織だよ」 「フッ、呉越同舟、結構じゃないか。嫌いじゃないぜ、そう言うの」 白のスーツから銃を抜き、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)がシニカルな笑みを浮かべる。黄金のダブルアクションリボルバーを回転させてからナタクに銃口を向け、続けざまにトリガーを三回引く。小気味いい音と共に、ナタクが着弾の衝撃でゆれた。 「オレは『糾える縄』。清濁撚って中道と為す、さ」 などと、この状況を受け入れるものもいる。 ナタクの動きは変わらない。敵あらば滅ぼす。その無言の圧力に気圧されることなく、リベリスタは破界器を構えた。 ● リベリスタの作戦は『ナタクへの火力一点集中』である。持てる火力をふんだんに使い、各個人が全力で出来ることを行う。掛け値なしの総力戦だ。 「徹さん。私は貴方が安心して戦えるような指揮者になれているでしょうか?」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が戦場を奏でる。攻勢の指揮。防御の指揮も行いたかったが、準備不足か間に合わなかったようだ。 徹はその言葉に親指を立てて、棍を手にナタクに向かう。 瀬戸口が放つ弾丸がナタクの顔面を穿つ。 「合わせるぜ! レッツダンス!」 福松が瀬戸口が穿った場所に合わせるように弾丸を炊き込む。出来れば陰陽剣も巻き込みたかったが、二本の剣はすでに福松の視界の外にあった。高速で宙を舞い、はるか頭上に。 「俺の炎を食らいやがれ!」 楠木の術が展開され、炎が宙に浮かぶ陰陽剣を襲う。回避困難な状況で炎が直撃し、大きなダメージを与える。が―― 「おまえ、これ以降は後衛の盾役な」 「畜生! 俺は『龍炎』なんだぞ!」 なにぶんこのフィクサード、前衛を盾にして一気に範囲殲滅するのが常なのだ。そしてその戦い方は全員一致で良しとしなかった。まぁ、当然なのだが。 とまれ空を移動した陰陽剣は後衛にたどり着く。一本は楠木が押さえ込み、もう一本は回復を行っている『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)に迫る。その間にミリィが割って入った。 「かかってきやがれ!」 エルヴィンはサーシャと共にリベリスタを回復していく。 「サポートは任せてください」 火尖槍や九竜神火罩が与える炎は『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が癒す。乾坤圏の動きに注意しながらナタクと一定の距離を保ちつつ、癒しに集中する。 「仮にも神の名を冠するとは、不遜といいますか、相当な自信がおありなのですね」 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)の白銀の騎士槍がナタクの火尖槍と交差する。全力で突き放った槍は赤く燃える槍と交差し、火花を散らす。 「どうやら、混天綾の類はもう使わないようね」 ミュゼーヌがマスケット型の中折れ式リボルバーを操作しながら、ナタクの行動の変化に気づく。付与系のものを使えば即ブレイクする戦術に気づいたのか、火力一辺倒になってきている。この思考はエリューションのものとは思えない。人間のような、思考。 「頭を潰せば死角も生まれるでしょう」 時間にすれば一秒に満たない時間の集中。その間ミュゼーヌは多くの演算を繰り返し、多くの思考を繰り返す。それをベースに銃を向け、引き金を引く。衝撃でゆれるナタクの頭。 「戦人の羨むその力、そぎ落としてやろう」 伊吹もまた、ナタクの視界を奪おうと瞳を狙う。何度も繰り返してきたフィンガーバレットの動作。所定の位置まで挙げて、銃口を向ける。繰り返しにより生まれた高速の抜き打ち。心を落ち着かせ、変わらぬ動作で、抜き、撃つ。 「地獄に舞い降りた神か。なるほど、醜悪なまでに美しい」 まるで破壊されるために生まれてきたようだ。伊吹は鋭い眼光でナタクを睨んだ。 「折角の祭りです。最後まで愉しませてくださいな」 チェーンソーを回転させながら弐升がナタクを攻める。相手の動きを予測し、最高の一打を計算しながら動く。その挙動から次の攻撃を予測し、そのときは防御に徹しようとするが……。 (相手の動きを見てからじゃ、間に合わないか) 来ると思ったときにはすでにその攻撃は放たれている。観が鋭くとも行動が間に合うかどうかは問題なのだ。しかたねぇ、と弐升は伊達眼鏡の位置を直す。 「八本の腕、そこから繰り出される攻撃は厄介だな」 同じく挙動から次の攻撃を予測しようとしていた翔太も、ため息をつく。無理なら変わらず攻めるだけだ。疾く駆けて、切り裂く。速度こそが我が武器。相手の攻撃を避けながら、縦横無尽に駆け巡り刃を振るう。 「俺にはこれしかねぇんだ」 「そんなに色々一つの体につけてたらー、邪魔っくさいっしょー!」 甚内の矛とナタクの槍が打ち合わされる。けん制するように軽く、時折踏み込んで突き刺す。回転と直進。長柄ゆえに慎重に、しかしためらいない動き。 「そんじゃ、いただきまーす」 その矛先がナタクを傷つける。そこから甚内はキマイラのエナジーを吸い取って体力を回復した。吸血による高い経戦能力。それはじわりじわりとナタクを追い詰める。 「三面六臂……あれ、八臂だと腕二本余るー」 岬はナタクの腕を数えて、宙を舞っている陰陽剣を思い出す。ああ、アレ持ってたのか。納得した顔で『アンタレス』を振り上げる。 「打神鞭とはいかないけどボクの一撃を見せてやるぜー」 梃子の原理などを利用してその重量を振り回す岬。見た目は子供っぽいが、その一撃は歴戦のリベリスタのもの。容赦なくキマイラを傷つけていく。 「恋人が同じ敷地内で頑張ってるのに、拙者だけ倒れるわけにもいかんでござるからな」 腕鍛が拳を突き出し、構える。その手に燃える赤い炎。体の虎の因子が声なく咆哮をあげる。鍛え上げられた肉体が火尖槍の炎を弾き、拳の炎をナタクの胸に叩き込んだ。味方の位置を確認しながら、邪魔にならないような位置に移動しながら、腕鍛は笑みを浮かべた。 「かならず成功させるでござるよ」 その言葉にリベリスタが同意する。偽者の神様などに負ける道理はないと気合を入れなおした。 三面八臂のキマイラは、闘神の如くその気合を受け止めて立ち尽くす。 ● リベリスタと徹が連れてきた援護グループとの間には、微妙な空気が流れていた。戦力として信頼はするが、手放しで信用は出来ない。 「アークは良い女の子が沢山居るんよー。上手い事やったら紹介するで」 「お、マジか」 「マジマジ」 「やる気出てきたぜ!」 甚内が楠木に語りかけ、瀬戸口も興味津々にそれに乗る。 「まあ、今は共同戦線を張っているからな」 福松がその様子に肩をすくめる。どうあれやる気があるのはいいことだ。 「とりあえず、死んでくれるなよ? 一応味方ですし、死に様なんざ見たかねぇんですよ」 「お互い様だ。おまえ等が倒れると戦線が崩れてでこっちまで死んじまうからな」 弐升の言葉に瀬戸口が答える。そうならないためにも必死で戦うし、援護もする。その言葉にうそはなかった。 「せいぜい箱船の信頼を勝ち取るよう努力しようか、ご同輩」 アークに来たばかりの伊吹が瀬戸口に言葉をかける。 「今後を考えるなら、努々ここで手を抜こうなどと考えないことだ」 「アークに長居する気はないが、ここで手を抜けばゾンビの仲間入りだ。そいつは御免だぜ」 今共闘するだけ。そのスタンスを崩すつもりはないらしい。 「私はフィクサードという物が大嫌いなの」 そんな相手に背中を預けながらミュゼーヌはきっぱりと言い放つ。 信用はしない。理解しあう気も無い。 「そうね。私もアークの人間は嫌い。世界の為に犠牲を認めない守護者は」 その言葉に答えたのはサーシャだ。 「それでも私達の力だけでは足りないなら」 「世界を守るために力が必要だから」 ミュゼーヌとサーシャは同時に同時に言葉を告げた。 「「今だけ力を借りてあげる」」 この二人が交わした会話はたったそれだけ。それだけで互いを理解し、背中を任せる。 ● 『ナタクー……聞こえますかー……? 上上、上に攻撃するんだー……』 甚内がハイテレパスでかく乱しようとするが、キマイラの動きは変わらない。どうやらテレパス系以外の何らかの手段で命令されているようだ。 八本の腕で火尖槍を回転させるように振るい、金磚を投げ上げて金の雨を降らす。 「さすがにきついやねー」 「今のダウンじゃなくてスリップだよー。ノーカンねー」 最前衛で戦っている甚内と岬とノエルが、金の光に力尽きる。自らの運命を燃やして痛みをこらえて立ち上がった。それぞれの破界器を杖にして立ち上がり、ナタクに振り上げる。 「まだまだまだまだ! バラバラにするまで止まれねぇ」 「さすがにきついでござるなぁ」 矢次に突き出される炎槍で弐升と腕鍛も運命を削る。朦朧とする視界でナタクを見た。かなりダメージを与えているのだが、動きが止まる様子はない。それでも戦意は消えることなく、ナタクを睨む。 そして乾坤圏が稲妻のように飛来してエルヴィンの頭部を穿ち、九竜神火罩が慧架を捕らえ炎の籠で燃やす。不調と傷の回復を行う二人を集中的に狙っていた。二人ともに運命を代償にして戦場にとどまる。 陰陽剣を押さえていた楠木が地に伏す。剣はそのままサーシャに向かった。回復を絶ち、火力源を落とす。ナタクの戦術は基本に忠実だ。知性あるものならこうするだろうという戦術。 無論、リベリスタもそれを理解していた。エルヴィンを守るため甚内が庇い、サーシャを守るために福松が庇いに入る。 「何、気にするな。呉越同舟というヤツだろう? それより早く回復してくれ」 驚きの表情を浮かべるサーシャに、福松はニヒルに笑いながら答える。 「跪きなさい、キマイラ!」 「ここまでくれば正面から押しつぶすのみ」 ミュゼーヌが弾雨の如くナタクと陰陽剣を打ち続ければ、伊吹がナタクの一点を狙うような射撃を行う。繰り返される射撃がナタクの顔の一面を潰した。 「ここでナタクの進軍はお終いとなるんだよ」 翔太がナタクの攻撃で膝を折る。もはや速度を上げての攻撃もできず、ただ剣を振るうのみの状態だ。それでも心は折れていない。自らの運命を燃やして立ち上がる。 ミリィの光がナタクと陰陽剣の動きをとらえて痺れを与えれば、それに合わせるように剣が舞いそれを取り除く。その行動分だけ攻撃の手が減り、リベリスタに与えるダメージを減らしていた。 金磚の光がリベリスタを襲う。圧倒的な破壊の光。ミュゼーヌと伊吹とミリィが運命を削り、エルヴィンとサーシャを庇っていた甚内と福松が力尽きる。 すべてを捨ててナタクに集中砲火をすれば回復役が倒れおり、この光で壊滅的な打撃を受けていただろう。また陰陽剣に気をとられていれば、手数の差で押し切られていたかもしれない。 勝敗を分けたのは、攻防のバランス。 「過去の話に存在した奴だろうが、偽者は偽者だ。今この場に居る俺達の強さは本物だぜ」 「相手としては十分、ってね。強敵を打ち倒してこその誉れってものです」 翔太の剣と弐升のチェーンソーがナタクを襲う。もう神秘の技を武器に載せる余裕は無い。震える足で絶ちながら翔太が剣を振るい、機械化した右腕でチェーンソーを握り、弐升は力に任せた一撃を叩き込む。 「ここが正念場でござる」 「はああああ!」 腕鍛の炎の拳が叩き込まれる。踏み込みざまに一発。相手の周りを回るように移動しながら一発。槍を払いざまに一発。攻撃と防御を同時に行う。これこそが武術。その基本にのっとった腕鍛の動き。一撃必殺を信条としたノエルの動きと重なり、ナタクを傷つける。 「あいつが見てきたのはこの風景か。年甲斐もなく血が騒ぐ」 伊吹が死線の中で戦士の血を滾らせる。アークに来たのはこの前戦死した同僚に思うところがあったため。滾る心を経験で制御し、しかし戦意は熱く燃やしたままに弾丸を放つ。 「ヒトに造られたモノが神の名を騙るなど、滑稽にも程があるわね!」 ミュゼーヌの弾丸が戦場に降り注ぐ。フランスの銃士隊で名を成した三条寺の名に恥じぬ射撃の腕。その裏には絶え間ない努力と研鑽がある。血統に驕るのではなく誇る。努力あっての家の名。だからただ神の名を騙るものは、滑稽でしかない。 「行くぞー。アンタレス!」 岬のハルバードが大上段に振り上げられる。自らの体を軸として、回転するように振り下ろす一撃。岬の持つ『アンタレス』はまだ目覚めていないアーティファクト。ゆえにこの一撃は岬の努力の結果。 紅の宝玉をもった禍々しい刃が、炎の槍ごとナタクを両断した。 ● ナタクが完全に動かなくなったのを確認してから、リベリスタたちは脱力したように膝を突いた。傷を癒そうにもエルヴィンとサーシャはもう神秘による回復を行えないほど消耗している。他の者も似たり寄ったりの消耗だ。 「陰陽剣は……砕けたか」 ナタクの後を追う様に砕け散った陰陽剣をみて翔太がため息をつく。この状態で襲われれば、まず勝ち目はない。 伊吹がナタクの遺体を回収する。『楽団』に奪われないようにするためだ。その際にナタクの白い腕輪が転がり、掌に収まった。それは運命なのだろうか。 はるか遠くで戦いの号砲が聞こえる。三ッ池公園は今、どこも戦闘中だ。助けに行けるなら応援に行った方がいいだろう。 援護をしてくれた人たちを徹に任せて、リベリスタたちは次の戦場に向かう。キマイラ、六道紫杏、凪聖四郎、『楽団』、そして『倫敦の蜘蛛の巣』。不安要素は沢山だ。足を止めている暇はない。 三ッ池公園大迎撃。戦いは少しずつ、収束に向かっていた。 女神が微笑むのは、果たしてどちらか―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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