●弾丸 引き金を引いた。 弾丸で抉りこむ様に引き金を引いたのだ。叶わぬものに終止符を。 己の胸は張り裂けそうであった。むしろ裂けてしまったのだろうか。 痛みは自然と失われる。 嗚呼、何処かで、『彼女』が泣いている気がする。 今一度で良い。彼女の手に触れることだけでも叶えば。 ●『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は恋愛小説を嗜む ブリーフィングルームに集まったリベリスタを見回して、予見者は恋愛小説を机の上に置いて微笑む。 「誰かが『こうしたい』と願う事全てが罷り通る世の中で有ればいいのだけど」 そうはいかないのよね、と困った様に笑った予見者はお願いしたい事があるの、と紡いだ。 彼女が詩的に謳う様に喋るのは常の事ながら、其処に含まれる色は何処か不思議な意味合いを持っている様にも思える。 「誰かを愛して、叶わぬ事に苦悩し、死んでしまった人がいる。――まあ、良くある『悲劇』ね。 その後が問題ね。E・アンデッドになった男はその愛した人と駆け落ちをしようとしている」 「駆け落ち」 その言葉に予見者は頷いた。古今東西、その関係を認められないからと二人で愛の逃避行というのは良くある話と言ってしまっても構わないだろう。 彼女が手にしていた恋愛小説のオチも丁度駆け落ち物だったのではないか。 「問題点はいくつか。お願い事はその駆け落ちを止めて欲しい――という事なんだけど。 E・アンデッドはフェーズ1。名前は雪路。彼の愛する女性の名前は万里。 雪路には困った能力があるの――増殖性革醒現象って、ご存知かしら?」 増殖性革醒現象。周囲に影響を与え革醒を促してしまうソレ。雪路はその困った力があるのだ。このままでは彼の愛する万里もノーフェイスになってしまう。 「……と、これがまず一つ目の問題点ね。万里をノーフェイスにしないでほしい。制限時間は1分。 二つ目の問題点。彼らの駆け落ちを阻害する影があるの」 「阻害って、駆け落ちを止めて欲しいんだろ?」 其れのどこが問題なのか、キョトンとするリベリスタ達に世恋は首を振る。 「阻害するのはノーフェイスの男。巷では連続殺人を行っている奴らしいわ。 このままじゃ万里さんが殺されてしまう。雪路さんが懸命に護るだろうけれど長くは持たない」 首を振る。持って、1分程度だろう。雪路は懸命に万里を守るのだ。 自身が死んでしまっている自覚がある。駆け落ちをしようと連れだしたのは自分だから、死んでしまった自分はどうなっても良いけれど、彼女が傷つく事は避けたいのだ。 1度目の死は彼女の所為で。2度目の死は彼女の為に。 其れがきっと彼の幸せなのだ。 ――けれど、彼が彼女を庇っている間に彼女はノーフェイスへと変化してしまう。 そうなる事は必ず避けて欲しいと予見者は頭を垂れた。 「それと、雪路さんが命を絶った罪悪感に万里さんは苦しんでるの」 「それは、何故……?」 駆け落ちをする位だから好き合っている――訳ではないと世恋は苦笑を漏らす。 「あのね、彼女には婚約者がいるの。雪路さんも知っている人よ。万里さんと婚約者はもうすぐ結婚する。 それで、身を焦がす思いに耐えられなくて、雪路さんは――」 自身で引き金を引いたのだ。耐えられぬ想いと裂けそうな胸が辛くて。 「よくある悲劇。けれど、誰が悪いでもないのかもしれない。どうか、万里さんを護って頂戴。 彼にとっての幸せは彼女の幸せと、彼女の無事。彼女が笑ってくれればそれでいい。 さあ、目を開けて。哀しい夢を醒まして頂戴――?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月22日(土)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 淡々と、何処かで読んだ『在り来たり』な悲劇を紡いで。 『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)の鮮やかな赤い瞳は、宙を彷徨った。 若きウェルテルは恋に悩んだ挙句、自らの命を銃声と共に手放したのです。 ――而して、それは救い? 「新たな生の始まり。苦悩の再開。銃弾如きでは止める事が出来ないのね」 深すぎた愛情は、『銃弾』では止められない苦悩の日々を与えるのみ。鈍く銀に煌めいた糾華の髪を眺めながら『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は白い吐息を吐く。 「わたし達なら、殺してあげれるんだ」 グラデーションがかった甘いチョコレイト色の髪を揺らし、少女は目を伏せる。雑木林を進みながら、差し込む月の光が少女の横顔を照らした。 もう一度、殺さないといけない。其れは彼女がリベリスタであるからしての現実だ。変わることない、変わりようのない現実。 『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)は予見者の言葉を想いだして、勝気そうな瞳を伏せる。彼女は一言で言うなれば壁だった。護を第一とし、自身を高める少女は視線を揺らがせる。 「確かに、誰が悪いでもないのかもしれませんのデス」 何処か特徴的な口調で紡ぐ。自称騎士にも思う所があるのだろうか、きゅ、と拳を固める。 「思う所はあります」 「全く……世の中どうにも上手くいかないものだ」 心の言葉に呼応するようにハイディ・アレンス(BNE000603)は溜め息交じりに言葉を吐き出した。冬の風に紛れたその言葉は、駆け落ちしようとした結果が――幸せが為に行う行為が、どう転んでも想い人にとっては禍に転じるしかないのだ。せめて、最期の言葉だけでも交わさせてやりたいと思う。 よくある喜劇なれば、其処で彼は紡ぐのだろう。愛しているよと。その猶予すら与えられないと言うなれば。 「本当にうまくいかないものだな」 「そうですね。皆が等しく幸福になれれば夢の様なお話しですけれど……」 誰かの幸福と言う者は大なり小なり他の誰かの不幸の上に成り立つものだ。『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は空色の瞳を揺らがせて雷牙に包まれた掌を見つめる。 多くの社員を有する自身の父親の会社を思い出し、彼らの幸せを想う。ふと、脳裏に浮かんだ親友の顔で心に湧き上がる思いに豊かな胸に手を当てる。 息を吐く。燃え上る様な恋する気持ちはどの様なものなのか。 「私は、未だ知らないのです。……彼らの気持ちを本当に理解する事など、出来ないのかもしれませんね」 きっと、恐らく――推測的にでも思う。本当に理解できないかもしれない。だからこそ『最高の結末』は望めないのだと彩花は小さく紡いだ。 「今ある最善へは、彼らを導いて差し上げましょう」 最善、それは何処にあるのだろう。 彼は彼女を愛し、彼女は他の誰かを愛していた。彼が彼女を愛しているからこその一つの過ちは彼女を苦しめたのだろう。彩花が言う燃え上る程に熱い恋は彼の過ちに繋がっていたのだろうか。 「何で、愛しい人を連れて駆け落ちするって行動力を、自分のコト撃つ前に出せなかったんでしょーね」 彼らにとっての最高の結末(トゥルーエンド)は、『若きウェルテル』が、雪路が死なない事だったのかもしれない。 桃色の髪が『奔放さてぃすふぁくしょん』千賀 サイケデリ子(BNE004150)の頬を撫でる。最善の結末(ハッピーエンド)より至高で、至上で、何よりも尊い未来は彼の死によって閉じられてしまっている。 「死ななければ、また違う終りがあったのかもしれないのに…… まあ、実らぬ恋に心を焦がして、死を選んでしまうまでの痛々しいまでの純粋さって」 其処まで言葉を紡いで、自身の仕事を想いだす。純粋でないとしても、其れでも『自分の仕事』であるから。雪路とは違う方向を向いたある意味での純粋さ。 アタシ。アタシは。一言ずつ漏らしていく。サイケデリ子は帽子を深く被りなおす。 「純粋さ、アタシは嫌いじゃないですよ。 けど、起こってしまった事象に対して『何でこんなコトしたの』とか責めても何にもなりませんしね」 言いやしないし、責めやしないけれど、心に募る気持ちは、仄暗い想いを寒空の下に晒すしかない。 「嗚呼、切ないですねぃ」 吐き出す様に、呟いた。足は雑木林の中を歩いていく。照らす月明かりが少女達に影を落とす。 「つーか、懐かしいな。俺も昔は恋に全力投球だったなあ」 思い出す様に『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)が紡いだ声に、恋かあ、と旭は小さく笑う。 恋。人間の感情として誰かを思う事のできる出来そこないであり最上級の言葉。 「好きって気持ちは、だいじだよ」 ぎゅ、と固めた拳を胸に当てて、確かめる様に紡ぐ。嗚呼、好きだと思える事は、どれほど幸せなのだろう。 ――すごく、だいじだよ―― ● 「未だ知らぬ想いを……私は、何を出来るのでしょうか」 愛読書を想いだし『紫苑の癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は小さく溜め息をつく。 そんな自分が自身の恋人との未来に、親愛なる友人の死に纏わる物語に苦しめられる現実に手を差し伸べる事が出来るのか。 目を上げる。目の前で手を取り合っている男女二人。男の姿は生前のままではあるが、所々、やはり『生気』を感じられない物だった。 幾度か見た死者を操る事件が糾華の脳裏を過ぎる。死者の冒涜だと彼女は告げていた。 「……笑えない冗談ね。喜劇にすら、なりゃしないじゃない」 どれにしたって、それはロスタイムだ。駆け落ちが青春だと言うなれば、そのロスタイムさえも終りにしてしまわなければならない。 「噂の、殺人鬼様でございますね……」 ぽそり、シエルが零した言葉に、生気を纏わない男はぴくりと反応する。殺人鬼、彼らの街で噂になっていた男だろう。背に隠した最愛の人(万里)の事を気にしながら、男は現れたリベリスタへと視線を送る。 「――無粋な方が紛れこんでるようデスね」 其方はお任せしましたと背を向けて、心は愛用の超硬いフルアーマに包まれた己の体を盾にし、殺人鬼へと向かう。誰かが、雪路を納得させる。其れを信じての行動だった。 何も気にしない。説得の経過も過程も。全て気にしない。自分は一人ではないのだ。私は何故ここに居るのか。私とは何か――騎士であるとそう思う。 その背に目をやって髪を掻き上げた和人は加え煙草のまま雪路と万里へと目をやる。 「なあ、お前、その子の事救いてーの? それとも、死なせてーの?」 和人の声に雪路は目を剥く。死なせたいのか――そんなことはない。そんな筈は無いけれど、自分が護らなければ。 「あのね、雪路さん。聞いて。傍にいるとね、万里さんも貴方と同じになっちゃうんだ」 真っ直ぐに見据える。たどたどしい言葉は何かを説明するにはハッキリとしていただろう。だが、雪路は元は一般人だ。革醒者たる彼女たちとは知り得る神秘が知らない。 魔力鉄甲に包まれた拳で灯した作業灯の下で鴉を呼ぶ。鴉を繰り出しながら旭の言葉を補佐する様にハイディは言葉を繋げる。 「君は蘇った事で得意な体質を得てしまったんだ。このまま万里さんと君が一緒にいると、彼女だって――」 「そう。人としての幸せを望めなくなるの。……だから、連れてくね」 ぎゅ、と旭は万里の手を引く。雪路は旭へと手を伸ばす。行かせたくない。このまま行かせてしまったら彼女が居なくなってしまう。 その想いが、ぐるぐると渦巻くその手を糾華は取った。 「彼女を逃がして、貴方はこの男を倒すのに協力してほしいの。 死の延長線上の命なのだから彼女のために使うのが良い命の掛け所でしょ?」 「あなたを庇いながら戦うんじゃ、雪路さんが危ないの。だから、一度安全な所へ行こ?」 大丈夫と励ましの言葉を送る。其れを補佐する様にシエルは旭につき従う。足場を考慮した動きを見せる彼女はその背に背負った翼を揺らめかせる。 シエルと旭に手を引かれ、暗い想いを抱えたままの万里は縺れる足でその場を後にする。 ハイディに襲い掛かってくる殺人鬼の目の前でサイケデリ子はへにゃりと笑う。倒錯的な雰囲気を纏った彼女はクンダリーニを片手に殺人鬼を見据えた。絡み合う蛇がその杖の魔力の源なのか。胸の切なさと、其れさえも乗り越えて自身の行為を是とする想いの絡み合いを表す様にその杖は緩く光る。 「おっと、そこまでです。ヒトの恋路を邪魔する奴ぁ、ウマに蹴られて三千世界の彼方ですよ」 殺人鬼を誘う様に。艶やかな笑みは普段の真面目さを何処かに落としてきたかのように仕事モードに変化する。体内を蠢くのはその魔力だ。 「今は、あいつらに任せとけよ」 その体は護りを固めている。心と並び、痩身の割に頑丈な体を武器に和人は嗤う。 「硬ぇだけじゃ良い声で啼かせらんねぇだろ? おら、来いよ」 ● 夢を見てたの。雪路君が一緒に居た。万里と呼ばれた。 ――ごめん。 「雪路さんは一度死んだひとなの。生き返った人じゃないよ……時間制限があるんだよ」 紡ぐ旭の声は優しいままだ。きゅ、と手を握るシエルの掌の暖かさを感じながら万里は俯く。走り出そうとするその手を握る二人の少女に万里は口を開く。 声は出ない、問いは零れないままだった。 「でもね、行っちゃダメ。雪路さんはね、望んでないの。 あなたが同じものになって、死んでいくことなんて、望んでない」 震える様に旭が絞り出す声は、何か。万里と雪路が呼ぶ声が聞こえた気がして、万里は目を伏せる。 羽を揺らしたシエルの指先は寒さに晒されて驚くばかりに白い。ちらりと向けられた視線にシエルは指先を唇へと当てて微笑む。 「蘇りが在る様に、天使が現れる奇跡もあるのですよ」 けれど、秘匿すべき神秘の事を彼女に教えないままで居たいから。 「何故、望まないの? 彼は」 「だって、好きな人なんだもん。しあわせに、なって欲しいよ」 それはどれ程辛い言葉なのか。旭が口に出した言葉が万里の心を苦しめるには容易かった。 万里は何と言おうとしたのか。 解っていた。愛されてる事も、その想いを胸に抱いている事も。もし自分が婚約者と出逢ってなかったら彼と共に在る未来が存在したかもしれないのだ。 優しい嘘。小さな優しい嘘だったのだ。 (ちょっとだけ嘘をついてごめんね。小さな嘘なの――) その心に憎しみも恨みも撒きたくない。ただ、傷つくかもしれないその言葉を吐き出したのだ。 好きだから、幸せになって欲しい。俯いたまま万里は何も紡がずに瞳を伏せる。優しく掛けられたシエルの声が遠く聞こえてくるようだった。 「但し、寒さで観た貴方の夢でございますが……」 嗚呼、夢を見ていたの。 ――何故、望まないの?彼は私を連れていきたいんでしょう? ● 殺人鬼たる男の行く先を阻む様に布陣した心と和人、彩花は彼を雪路の元へは近づけなかった。 「私の実力、とくと御覧なさい!」 とんと地面を蹴る。彩花が踏み込む度に機械化した体はずっしりと地面に食い込んだ。一気に間合いを詰めて、彩花は殺人鬼の体を地面へと叩きつける。不安定な足場であれど、彼女の体は転ぶ事は無かった。 叩きつけられたその体に焦りを浮かべる殺人鬼に猶予は無い。ふわりと浮きあがる様に体を反転させて、蝶々を投擲する。雪路の行く手を阻む様に立っていた糾華はその位置から動く心算はない。 もしも彼が万里の後を追ってしまったら――嗚呼、それは何て言う悲劇だ。 「この世界には存在するだけで世界を蝕む命があるの」 投擲されるダガーは蝶々の羽が如く鋭かった。彼女の言う言葉も優しさに孕む厳しさが鋭く雪路の体を抉る。 「人を踏み出した者、獣の成れの果て、暴れ出す器物、荒ぶる自然の権化、歪み存在する事象。 それからね……それから、動き出す死者。己が狂い周囲を狂わせ、世界を破滅へとゆっくり軋ませていく」 彼女はそれ以上は言葉を紡がない。それが、何であるかを明確には語らなかった。ただ、彼女の蝶々は常に来る夜を思う様に蝶々を羽ばたかせた。もしも、彼女が雪路や万里の隣で鴉が付随させる効果を与えていたとしたらハイディ達の思惑は失敗していた。幸運か、巻き込むことなく前衛に躍り出て、氷を纏った拳をつきつける。一手、与えたその手は殺人鬼の腹を狙うが、さらりと避けられてしまう。 「部外者さんは邪魔なのデス!」 攻撃を行わず、攻撃全てを受け続ける心は、和人の補佐として立ち回った。ただ傷つくのみ。彼女にも思う所は有る。しかし、何も紡がないままだった。 其処に悪意があるならば世界の敵だとでも罵ったのだろうか。其処に確かに悪意は存在してないから。 「死してなお、彼女への想いを貫くその決意、素晴らしい物なのデス!」 背後に対して声を向ける。彼女は最終防衛線だ。固めた決意と同じ位に鍛えた体で一生懸命に其処に立つ。 刃が、肌を裂く。頬から血が流れる。痛い、と頭は理解しても守り手たる少女は息を吸う。 「その決意に敬意を表し! 境界最終防衛機構が一員、姫宮心! ここから先はいかせません!」 殺人鬼の目の前で両手を広げる。その声は雪路へも向けられていた。万里の方へは行かせはしない。彼の望みは只、彼女の笑顔だから。それが分かっているから――私は、其れを守る最終防衛線。 「雪路、もうあの子の傍にはいられねーんだ。解るだろ? ……人とは違うんだよ」 綺麗事で片付けはできなかった。和人の光輝く武器が斬り刻む。糾華の繰り出す蝶々の群れが襲う。彩花が力の限りを込めて放つ攻撃は殺人鬼の体を地へと落とすのみ。 「これが私です。これが、大御堂です」 癒してたるサイケデリ子が少しずつでも癒し続ける。サイケデリ子は瞬く。まずい、と瞬時に思う。雪路のフェーズ進行が近付いているのだと、近くに居る事で気付いたのだ。 「んじゃ、そろそろフィニッシュじゃないですかね」 彼女の声にこたえる様に、彩花が繰り出す攻撃が、和人の繰り出す攻撃が次々に殺人鬼を抉りこむ。静かに横たわる其れはただ、言葉を失い過ちを犯す事を二度と出来ない様になっていた。 ● もう会えないんだ、言葉がリフレインする。駄々をこねる様に射る様に見据える雪路に和人は小さくため息をつく。 「お前さ。何処まで彼女を傷つければ気が済む訳? 彼女が幸せなら其れで幸せなんだろ? ――誰が一番ソレを壊してんだよ。 自殺で、何の罪もねー彼女の心を縛りつけて、挙句の果てに其れに付け込んで想いのままにってか?」 「違う、俺は――」 「ま、テメーの心ん中ならいくらでも綺麗事に出来らぁな」 吐き捨てる様な和人の声に心は息を吐いて、アクセスファンタズムを手渡す。 「言いますか」 その、想いを。 「私ね、ただの悲劇にしたくない。ハッピーエンドが一番好きなの。きっと、皆そうだよ」 お願い。どうか一瞬で良い。しあわせをくださいと祈った。 ――お願い、間に合って。 聞こえた通信の声に、旭はゆっくりと目を開き、安堵したように胸をなでおろした。 どれ位経っただろう。電話先に対してぽつりと和人は声を漏らす。 「雪路が消えてもさ、罪悪感とかは暫く心に残っちまうだろ。 けどそれは、未来と引き換えにしなきゃなんねーものじゃねーよ。決してな」 『え……』 マリッジブルー。未来を思う様に憂う彼女に和人は小さく笑って、電話先へとハッキリと紡いだ。 「幸せになりな」 漏れた声を聞いて、電話先に存在する旭は空を見る。月明かりが、眩いばかりに照らしていた。 (――どうか幸せ掴めます様に。ねえ、これでいーんだよね?) 嗚呼、貴方の幸せが、叶えられています様に。 「万里様、私に言乃葉を下さい。離す中で己が心の整理が付く事もございましょう?」 悪い夢なのだ。夢が醒めたなら、その時に彼女に微笑みが戻れます様にと祈る。 しんしんと降る雪は様々な音や言乃葉を優しく抱いて地に重なり降る。自分だってそうでありたい。きっと、この先の幸せが不安だから、雪路の甘言に乗ったのではないかと、そう思うけれどそれは言葉にはしなかった。 介錯を受け入れるようなら黙って見届けようとサイケデリ子は小さく息を吐く。 (……引導は寄って集って渡すもんじゃないですからね) 静かに息を吐く。糾華はそっと視線を合わせる。雪路の介錯を請け負っている彩花は視線を彷徨わせた。ハイディは何も言わず、月を眺める。 「彼女は結婚し幸せになれるわ。貴方の存命も、連続殺人鬼と言う化け物も、彼女の窮地をも見越した私たちの目が保証するわ」 方便だけれど、それでも笑ってくれるなら。若きウェルテルの事を想いながら糾華は小さく息を吐く。 ――ごめん。有難う 私こそ、ごめんなさい―― 鼓動は聞こえない。嗚呼、その目から零れ落ちる物は何か。 「大丈夫、アナタが望むのなら万里さんはきっと誰よりも……」 何よりも。其処からの言葉は紡げなかった。痛々しいまでの純情。実らぬ恋に心を焦がす。 遣る瀬無く、唯、二度目の死を受け入れた男の体をそっと抱きしめた。サイケデリ子が回した腕は、青年の体を支える前にぐらりと軋む。 重みが、その腕に落ちた。 「さよなら、ウェルテル」 若きウェルテルは恋に悩んだ挙句、二度も命を差し出した。死を齎す銃弾はその心を唯、抉ったのだ。 何処かで、銃弾が抉る気がした。この身か、この心か。俯き気味で呑み込んで。 「嗚呼――ホント、切ないですねぃ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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