●回想 ~白紙に刻む追憶~ 「ピッツァ食べてたんデースよ。チーズたっぷりでぐにーと伸びるやつ」 「――いや待ってくれ」 軽い口調で語り始めた『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)に待ったをかけるリベリスタ。 「姿を見るのがずいぶん久しぶりだけど、どうしてたんだと聞いたんだが」 「だからその説明じゃないデースか」 慌てなさんなよとドヤ顔で語りだす話はこんなことだった。 その日、依頼でリベリスタを送り出したロイヤーは、いつもどおり脇にバケツコーラ抱えつつピザを食べていた。 いつもと違っていたのは、滴り落ちたコーラの水滴に足を滑らせてしまったこと。 飛んでいくバケツコーラ。宙に投げ出されたピッツァ。すべてがスローモーション。そしてロイヤーは―― チーズだけは落とすまいと空中で半回転。口で拾いにいきそのまま床で後頭部を打った。強く。 ――今から4ヶ月ほど前のことである。 「いやーワタシ救急車って始めて乗りマーシたよ。意識なかったンデ覚えてないけど」 「……生還おめでとう」 微妙な顔でそう答えるしかなかった。 ちなみに気絶しているロイヤーを発見したフォーチュナの某ギロギロさんによると、「顔で受け止めたチーズがまるで例の白い布のようでした」のだとか。 ●回想 ~害獣の丘~ 「ワタシの大切なトモダチを助けたい。その為に出来るお仕事をさせて貰いマースよ」 九人目の仲間がいた。直接の戦闘力は無くても、剣戟には加わらずとも、同じ戦場に立ち予見によって皆を援けてくれる頼もしい仲間が。 彼女は――ロイヤーは、変わらず曇り等無い晴れやかな笑顔を向けてくれていた。 「Yes! お任せしマシタよ、ヒーロー!」 疑い無き確固たる信頼が其処にはあった。ならば、応えねばなるまい。それが“仲間”というものだ。 ●回想 ~そんなことよりピッツァ食べたい~ 「デ、この直後にピザで滑って入院したわけなのデースが」 「西条さんに謝れ」 「落ち着けリベリスタ。メタ発言はワタシの仕事デース」 そのドヤ顔を殴りたい。 「マァそんなわけデー、アークからたっぷり労災も降りたので全額使って食べ損ねたピッツァをたんまり用意しマーシた。ミンナでピッツァパーティしまショー」 なんて甘いんだアーク。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月02日(水)00:02 |
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■メイン参加者 34人■ | |||||
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●楽しいを食べよう! 寒空の中をご苦労様です。 扉を開ければ温かな空気と美味しい匂いが包み込む。 コートを脱いで、テーブルに向かおう。 探しているのは至宝のピッツァ? それとも大切な人の顔? ――ピッツァパーティ開幕! 「宜しくな。じっくり楽しませて貰うよ」 弥千代はまずはとスポンサーのロイヤーにしっかり挨拶。 「まだ小さいのに礼儀正しい良い子ネ」 「小さくねぇよ」 見た目は子供でも三十路です。 「ピザ食ってて怪我とかさ……マジ足元には気ィつけろよ。流石に2回目は無いよな?」 能天気な笑顔にもう一度念押し。 「小さいのに心配性デースね」 「小さくねぇってば」 ゆるゆるのもち肌でも三十路です。 室内に焼きたての匂いが強まってきたところで弥千代はメニューに目を通す。 「ピザ美味ぇよなピザ。マルゲリータと……マリナーラは抑えとくべきだよな」 革醒して子供の身体に戻った弥千代は、尚更慎重に選んでいく。 なにせこのサイズではあまり量は食べれないのだ。限られた選択で後悔はしたくない。 「1ピース単位で頼めるかな。せっかくなら色々食べたいし」 弥千代の質問に、余ったらあそこに置けばいいと指差した先―― 職人が石窯から大きなピザを取り出した! ピザピールの上でカニとエビが湯気と共に踊っている。焼きたてのピザは格段に味が違うのだ。さあ熱々のクリームピザが大皿に―― 載ったか載らずかのタイミングでピザは瞬時に消え去った。 ピザ釜にもっとも近い席。戦地に例えるならばここは間違いなく最前線。迷うな躊躇うな。冷ますは無粋、灼熱こそ真髄。ピザの作法はただ一つ、ただただ出来立てを一気に食え! 熱々のクリームピザを一気に喰らい尽くしたのはアラストール。感じろ。ここは戦地であり、かの者は騎士なのだ。 戦いにあって初めから全力全開で最前線を獲りに行った。すでに山と重なる大皿がその戦果を物語っている。 そのあまりの食べっぷりを、同席していた快はあっけにとられて眺めていた。 その視線に気付き、アラストールが口を開く。 「はんへふはかいぼの」 「あ、気にせず食べて」 ビール片手に促して。頷き食事に戻る同行者の、その食べっぷりを観察する。 (この小さい身体のどこにこれだけのピザが入るんだか) ふと気になって、快はアラストールの好みを分析しようと思い立つ。数え切れぬほど存在するピザの種類。けれど肉系か魚介系か、好みの傾向くらいはあるだろう、と。エネミースキャンならぬ好みスキャン開始! ――ビスマルク、完食! ――ペスカトーレ、完食! ――プロシュート、完食! ――パターテ、完食! 全部同じペースで平らげている。 具を選んでいるのか、そもそもイタリアンかアメリカンかも判別しているのか怪しい。 食べ物なら何でもいいのか――浮かんだ言葉を快は否定する。 これはあれだ。正に『美味ければどうでも良い』ということだろう。 自身の出した結論に満足げに頷く――と、ここでアラストールが自分を見返していることに気付いた。 「いや、相変わらず気持ちのいい食べっぷりだね」 「……その腕」 言い訳を遮られ、何の事かと自分の腕を見る。無意識にか快の腕は、自分のピザをアラストールから隠すようにして護っていた。 その食べっぷりに、ついつい自分の分まで食べられてしまうと感じたらしい。 「失礼な。私は人の食物を略奪等しませぬ」 騎士の矜持を傷つける行為はしないと憤慨するアラストール。 「ごめんごめん」 「食べればよろしい」 素直に謝り、快は促されるようにピザを取ろうとするが―― 「ところでそれはまだ私が食べていないピザですね」 「……あげるよ」 一連の流れを見やり、ロイヤーが弥千代に言う。 「あそこに置けばすぐ無くなりマースよ」 「……違いねーな」 頷いて、弥千代はまだこれからなのに、すでに満腹感でいっぱいになってしまった胃を誤魔化すようにピザを口に運んだ。 「……ピザうめぇ」 どこか殺伐とした空間を抜ければ、一転して甘い空気が漂っていく。 「ふふっ、ルヴィちゃんとピザデートですぅ♪」 どんなドルチェよりも甘い声。イタリアンカフェの一画で、櫻子は嬉しげに声をあげてルヴィアの腕に頬擦りした。 「彼氏は良いのか。まあオレは誘われりゃ行くけどさ」 苦笑混じりに櫻子の頭をわしわしかきあげる。気持ち良さげに目を細めて、櫻子は届いたシーフードピザをルヴィアの皿に取り分けた。 「ピザってとろけたチーズが美味しいですよね」 「食えりゃなんでも」 黙々とピザを平らげるルヴィアをにこやかに見つめ、せっせとピザを載せていく。 「……っておい、流石に一気には食えねーよ。盛り過ぎだ」 一枚食べてるうちに二枚が置かれる。置いていく本人はまだ食べてもいないとくれば止めもしよう。 「渡してばっかじゃ来た意味ねーだろうに」 一緒に美味しくまったりしようと誘ってきたのは櫻子ならば、こちらばかり食べさせられても困る。 だが、当の櫻子はというと猫耳をぺたりと垂れさせて声を震わせた。 「ぐすん、櫻子のピザはお嫌ですの……?」 涙目の訴えに一瞬怯むも、ルヴィアの目の端がそれを捉えた。櫻子の尻尾が嬉しそうにくねっている。反省していない。 「……よーし良い度胸だ櫻子、さあ食え」 顎を掴み、強制的に口にピザを一枚つっこむ。 「――むぐっ!?」 目を白黒させて必死にむぐむぐする櫻子。唇についたチーズをそっと押し込む。 「ん。ルヴィちゃんの味がします……」 「気のせいだ」 コーヒーを一気に飲み干して一息つく。まだパーティは始まったばかりだと言うのに、こうも連続で食べさせられてはたまったものじゃない。こなれるまでの休憩だと、ルヴィアはすでに満腹感のあるお腹をさすった。 「にゃぅぅ~っ、チーズさんが切れないですぅぅっ」 まだ必死でピザと格闘する櫻子を尻目に、ルヴィアはうんと背伸びする。 「やー食いすぎた、こりゃまた仕事頑張らないとねえ。怠けてばっかもいられねーわ」 そう呟いて――ルヴィアは櫻子の皿に新しく焼きあがったピザを取り分けた。 「偶にはこうやって出掛けるのだって悪くないだろ?」 五月が向ける無邪気な笑みに、そうっすねと軽く答えたフラウの口元にも自然な笑みが浮かんでいる。 慣れないカフェの内装に落ち着かなげに目を動かす五月。ドキドキうるさい自身の高揚を誤魔化すように、会話を途切れさせることなくフラウに話しかけていた。 その様子を楽しげに見やって。嬉しそうにはしゃぐお姫様の姿に―― (誰かと出掛けるってーのは悪くないっすね) そう独りごちて、フラウは目を通していたピッツァのメニューを閉じた。 「メイ、食べたい物は決まったっすか?」 言われた五月が慌ててメニューに目を落とす。どんなものでも用意できますと言わんばかりに、ずらりと並ぶピッツァの種類が余計に彼女を悩ませる。 迷い唸る五月に、遠慮せず好きなものをどんどん頼めばいいとフラウが笑った。 「なんせ、今日は財布の中身気にする必要もないみたいっすから」 フラウの言葉にそうだなと頷いて。 「マルゲリータとパターテ、プロシュート……」 次々と名前を読み上げ注文していく。選ぶのが困難ならば選ばないのも選択である、とは誰の言葉か。 「あとはドルチェ系かな。フラウは甘いもの大丈夫?」 五月の言葉に当然と微笑んで。 「ティラミスにパンナ・コッタ?」 「それに、ジェラートも!」 二人笑いあって。好きなものを二人でたらふく食べてしまうのだ! 気付けばテーブルを狭しと皿が置かれていく。焼きたてのピッツァの香りが鼻孔を刺激する。複数のピザがそれぞれの匂いを漂わせ、けれど織り交じっても対立しない、イタリアンカフェの不思議な空間。 「フラウの選んだ物もオレが選んだ物も、全部頂きますだぞ」 こういうのもいいよなと笑う五月にピザが差し出される。 「メイ、コレとか美味しいっすよ。ほらほら、あーんっすよ!」 慌てて開いた五月の口に、ふんわりと優しい味が広がっていく。五月の至福の笑顔にフラウも満足な顔を見せた。 「フラウもほら、あーん。これとっても美味しいのだぞ」 お返しのあーん。美味しいを分け合うことは、美味しさを半減させることではないのだ。 「どんどん食べるっすよ! 財布を空にする勢いで行くっすよーっ!」 「沢山食べて、いっぱい想い出を作るのだ。フラウ、これからも一杯遊びに行こうな!」 頷き、二人は幾度も笑顔を見せ合った。自然と笑みが浮かぶのはきっと―― ――大切な人と一緒だから。 「これはあれだよね。ピッツァを食い尽くしてイタリア野郎共に引導わたしちゃれっていう、ロイヤーさん的なエールだよね!」 「え? あ、うん。ソーダヨ」 とらの勢いに素の表情で答えるロイヤー。嘘か本当かは知らない。 「だよねー! あいつらぜってー、脳みそボロネーゼにしてやんし」 怖い。さっきまでの甘さカムバック。 てなわけで、ロイヤーの元にふわふわ漂ってきたとらなのだけれど。おしゃべりをしにきたわけなのだけれども。 「ロイヤーさん、ピッツァパックでお肌が綺麗になったんじゃなーい? 知らんけど。あ、とらはマルゲリータがいいなー。飲み物はねー、レモネードね♪ とりあえずロイヤーさん、そろそろ厚着したほうがいいんじゃなーい? それで風邪ひいても労災降りないと思うよォ?」 マシンガンの如くとらワールド大展開。これが……陣地作成、か。 「何はともあれ、おかえり~☆ 遠慮なく食べなよー」 「――ありがとうございます」 お礼言っちゃった。お前の金なのに。 ああそうそう、と。これだけは言っておかねばととらはくるりとカメラ目線。 「とらと! とらっとりあ☆」 あざとい。誰か助けて。 そこをコーヒー片手に通りかかった救援者。軽く会釈し通り過ぎようとするのを引き止める。 「先日歪曲を発動させてフェイト残5になったMr.美散ではないデースか」 「ほう、先制パンチか。やるな東谷山」 メタらすにも建て前ってものがいるんだよ! 「そうか、それは悪かった。しかし東谷山も死に損なったか。俺も危うくフェイトが燃え尽きて灰になる所だった」 美散の言葉は聞く者にとって重い響きがあった。……そりゃあフェイト5じゃなぁ。 「ともあれ、無事で何よりだ。今日は快気祝いに奢らせて貰うとしよう」 いや、すでに契約金で払ってあるから。ここにある分は全部無料だから。 「この特大ピザを5枚……いや、10枚だな。遠慮無く食うと良い」 やだ、この子人の話聞かない。 「何、同じ死に損ない同士だ。気にするな」 貴方のそれはまだまだ不安でいっぱいです。回復しろ。 「四ヶ月か――当時は何事かと思ったものだ。うちの当主も心配していたぞ? 奇しくもうちの一族が3連続で西条STの――」 「ヘイstop そこでstop」 神妙に頷く美散。 「ああ、判っている。メタ発言は東谷山の仕事だ」 なんだこれ。終始なんだこれ。 作注:トラットリア――イタリアン食堂 どうでもよかったね、うん。 斃れし害獣その骸踏み越えて。 凱旋し、彼等の無事を――そして勝利を信じて待つ“九人目の仲間”に事の顛末を告げるまで―― → 九人目の仲間は、白目をむいて気を失っていました。 「あの時は、びっくりしました」 自身の胸に手をあてて、スペードはゆっくり噛み締めるように言葉を紡ぐ。快勝と言えたあの戦場の外で、最も大きな被害が発生していたなどと誰が思おうか。 「けれど、こうしてまたお会いすることができて、本当によかった」 はにかみの表情で、その手をとって。 「おかえりなさい、ロイヤーさん」 それはかつてと似た繰り返し。あの時と違うのは、それが逆の立場であること。 おかえりなさい。それはとても素敵な言葉。とても嬉しいトモダチの声。 「ただいまデースよ。トモダチ」 素敵なトモダチに言葉を贈り合って。再会に心から感謝を―― ――がつがつもぐもぐばりむしゃぁ―― 「……Miss.唯々。ムードが続かないのデースけど」 ロイヤーの抗議にぴたりと手を止め、向けた視線はそれ以上に剣呑なもの。 「イーちゃんは今日は只管食べるってー決めてんです……文句は受け付けねーですから、諦めるとイイと思うですよ?」 言って食事を再開する。鬼気迫る様子は自棄食いのよう。 「てーか、ですね。あの時のイーちゃんの覚悟を返せ!」 ピザで足滑らせて入院ってどんなギャグ展開かとぷりぷり怒る唯々。 その様子にしばし考え、覚悟ってあれのことデースかとロイヤーは笑顔で咳払い一つ。 『イーちゃんヒーローかどうか分かんねーですが、アンタの想いも、覚悟も、確かに受け取った――だから、イーちゃん達に任せるがイイと思うですよ?』 「ギャオーッ!」 火を吹かんばかりに顔を真っ赤にした唯々に、くすくすとスペードが微笑んだ。 「いいじゃないですか。かっこよかったですよヒーロー」 「そうデースよヒーロー」 怒りの抗議ももはや言葉にならず――ぜーはー言いながら水を一口。 「……まっ今更ですけどね。マッタク何も無かったってー訳じゃねーですけど、こうして生きてる」 視線が一瞬絡んで。言いたいことは多々ある。けれど伝えることは一つで十分なのだ。 「――オカエリ。これからも宜しく頼むのですよ、もう一人のヒーローさん?」 さて。会話の最中もピザはどんどん焼けてるわけで。 ――やっぱりピザはマルゲリータが一番だよね。新鮮なトマトソースにもっちりモッツァレラと目に鮮やかなバジル。このシンプルさがたまらない。 焼きたての香ばしさを口に運ぶ。音を立てて口の中で幸せが弾ける! 「ん~美味しい!」 幸せ(>▽<) ← こんな顔で至福のひと時を過ごしている終。両手にピザを抱えてご機嫌である。 続いてゴルゴンゾーラピザ! ティラミスもいいけどやっぱりデザートピザ! 焼いただけのピザに蜂蜜とバニラジェラート…… 至福(><)* ← 浮かれて小粋なステップを踏みつつテーブルを回れば、先ほどの一同が目に入ったわけで。 「新しいピザを貰ってきますね!」 二人にピザを運ぼうとスペードが走る。足元の違和感に気付かぬままに。 えっ―― カフェで走ってはいけない。ここがアメリカなら足元にバケツコーラが転がっているのは日常である。 スペードの身体が引っくり返る。哀れ、後頭部が無造作に―― 「――っと!」 終の腕がスペードの身体を抱きかかえた。見事なダイビングキャッチ! 「わわっ、あ、ありがとうございます!」 「転ぶのはロイヤーさんだと思ってたけど……準備万全で結果オーライだねっ☆」 ドヤッと振り返り――表情が素に戻る。 その視線の先―― チーズまみれのロイヤーとジェラートまみれの唯々。新たなピザの完成であった。 ●美味しいを食べよう! 「救急車って始めて乗りマーシたよ。意識なかったンデ覚えてないけど」 「……生還おめでとう」 君だったのか。なぜかドヤ顔のロイヤーに微妙な顔で祝辞を送った疾風、その手にはカロリーゼロのダイエットコーラが握られている。まぁムダな抵抗と取るかピッツァに全力を尽くす所存と取るか。 談笑する二人のそばに、とたとたと駆け寄る小さな影。 「本当に食べちゃっていいんだよね? ね?」 左右のオッドアイを同じようにキラキラ輝かせて。期待いっぱいのアメリアに二人は笑いかけた。 「もちろんデースよ」 「ほら、少し辛いけど平気?」 いやっほーと歓声をあげるアメリアに、疾風がピザを取り分ける。 「うん平気だよ、あたし辛いの大好きだもん。よーし、思いっきり食べちゃうぞー!」 タバスコたっぷりのスパイシーピッツァも、激辛マニアのアメリアにはご褒美ピザ。隣に座って次々にピザを口に放り込んでいく。 その食べっぷりに負けられないなと微笑んで。疾風もタバスコを振りながらピザを平らげていく。 「辛いものは消化を活発化させるんだ」 「オウ、そんなにグッドな体つきでも気になりマースか?」 そりゃあねと苦笑して。アクションスターは身体が資本なのである。 「この後トレーニングに精を出さないと不味いかもなあ」 それでもピザは美味いのだ。この『美味しい』のために、少しばかりの苦労は厭うべきではないとそう考えて。疾風はピッツァの全種類制覇を誓う。 「そっちこそ、毎回ピッツァとコーラでカロリーは大丈夫なの?」 「革醒してから暴食してもナイスバディを維持できるようになりマーシたね」 ドヤ顔がむかつく。 と、ここで目を向ければひたすら食べ続けるアメリアの姿が映った。次々と積み上げられるわんこピザの皿がその小さな身体を隠している。 「――何事もまずはぶつかるべし。そのためならば命を燃やすことも辞さない。それが、あたしの、血の掟――!」 うわーい、命がけでピザ食ってる。 「ほら、そんな無理して食べるとロイヤーみたいになるよ」 「ちょ、おま」 疾風の言葉に抗議しつつ、ロイヤーがそっとアメリアの身体を抱きかかえる。驚いたアメリアが小さく声を上げた。 膝の上に座らされる感覚は、むず痒くて気恥ずかしくて――あたたかい。 どこかほっとするこの感覚。優しさに包まれた心地よさ。 こういうのが……家族なのかな? 胸に抱いた想いの正体を探しながら、アメリアはピザを頬張った。 イタリアンカフェ独特のピザの香ばしさとコーヒーの香り、それにドルチェの甘い匂い。 調和とは不思議なもので、それらが一切ぶつかりあわず混じり合う。 音もそう。騒がしいのに落ち着ける。多数の賑やかさも一人の静けさも、決して争いはしない。 だから、一人だって、平気! ――もぐもぐ。 カフェの片隅で虎鐵は一人ピザを食べている。静かで、孤独で、救われてる感じで。 「ピザは結構なんでも合うでござるよなー」 独り言だ。 ――もぐもぐ。 「キノコも行けるでござるし魚介類なんかも行けるでござるし……あとこのチーズがいいでござるよなー」 勿論独り言だ。 ――もぐもぐ。 「あ、拙者はクリスピーより厚めの生地の方が好きでござる」 誰も聞いてないよ。 「故人いわく――」 さてその隣のテーブルで。 ――強くなりたくば喰らえッ! ――腹満たされずして心もまた満たされず。 ――そんなことよりピッツァ食べたい。 「と言う事なので食べるとしよう」 ベルカが(いつも)騒がしい。 「さあわんこピザである!」 わんこだから。 「いざっ!」 ピザもぐー。 コーラぐびー。 タバスコがばー。 ピザもぐー。 タバスコぐびー。ごふっ、違った。 ベルカ、ナプキンでお口ふきふき。故郷を見つめるかのごとく遠い目をする。 ……ピザってさ……いざ独り占めしようとすると、意外と入らないよね…… 魂が故郷に帰ったわんこ。静かにその様子を眺めながらコーヒーを飲んでいた虎鐵は―― 「……わんこピザもいいでござるよな。拙者も限界まで挑むことにするでござるか」 どうしてその結論におちいったのだろうか。 『殺人鬼なう! 殺人鬼なう!』 「何やってるの霧島ちゃん?」 外部ツールの送信を終え、携帯を閉じた俊介は葬識の質問になんでもーと答え、お互いにっこり。 その4人席のテーブルは賑やかだ。ピッツァを待ち談笑する羽音たちは、チーズの焼ける香ばしい匂いに鼻をひくつかせる。 「ん、焼きたての良い香り♪」 「おぉ、悪くねぇな。イタリアンは結構好きだ」 量あるし美味ぇしな――火車が笑って相槌を打つ。 ――今日は皆笑顔だね。 ピザの食べ放題と聞いて、育ち盛りの3人を誘ったのは羽音だ。楽しげな彼らを微笑ましく見守る。 「風強ぇなぁ。うるさくて敵わねぇ」 「風じゃないです! 聞いてよ! 遊んでよ!」 絶え間なく喋り続ける俊介に辟易し無視を決め込む火車。余計に構ってオーラを出す俊介に、炎を纏わせた拳を見せ付ける。 「……食う前に何か腹に入れとくと、沢山食えるって聞くぜ……」 「拳は食べたくないです!」 喧騒が一層騒がしさを増し、もはや大騒ぎ一歩手前。 「元気いっぱいなのは、いいことだ♪」 羽音さんはそんなおおらかなお姉さんです。 焼きたてのピザが到着して、まずはと皆の飲み物を用意していく羽音。意外と細やかだねと声がする。 「蘭ちゃんとゆっくりお話するのは初めてだよね」 羽音の気配りに目を細めて。手馴れた動作でピザを切り分けていた葬識がにっこり笑った。 「そうちゃんおいこらまて。笑顔で何してん」 「おい殺人鬼。何だソレ……美味くなさそうだから止めろ!」 それぞれ烏龍茶と白湯を受け取っていた俊介と火車が叫ぶ。言われた本人はきょとんとして。 「あ、このハサミ血みどろだけどちゃんと消毒はしてるから」 ――朗らかに言い放った。とんだデスソースである。 ぎゃーぎゃー騒ぐ男衆。その様子をまた朗らかに見つめて。 「葬識の鋏は、便利だなぁ……」 消毒してるのならいいと思う、羽音さんはとってもおおらかなお姉さんです。 「んんー、チーズが伸びるっ」 熱々のピザの美味しいこと! とろけたチーズに顔をほころばせる羽音。 ――おいひぃ♪ そんな恋人の至福の表情を目に焼き付けてから――俊介は葬識にそっと耳打ちした。 「ん? 霧島ちゃん、何?」 ――なあ、例のサービスって死後も有効? 言葉を理解し、葬識は笑みで答える。 「勿論! アフターサービス充実、殺伐キャッシュが俺様ちゃんのモットーだよ☆ 死後までた~っぷり愛してあげるよ」 そっか――呟いた俊介の腕が引っ張られ。 「俊介、もっと食べていいのよ?」 羽音が柔らかく笑ってピザを差し出した。 ――瞬間、満面の笑顔を浮かべた俊介が大口を開けてピザをくわえる! 指先ごと口に包まれ、ひゃっと思わず声をあげて。羽音はくすくすと笑い出す。 「ふふ、俊介、ハムスターみたいで可愛い……♪」 頬っぺをパンパンに膨らませて、咀嚼し飲み込んでいく。ついで手渡された烏龍茶に、流石羽音は気が利くなぁと笑いかけ。 「ありがとな羽音」 「ふふー、いっぱい食べてね俊介」 せっせと俊介の口にピザを運ぶ羽音。親鳥の如く見えるけれど、最愛の人の世話をする彼女は実に楽しそうで。 ――殺す相手の約束は守るのが美学。美しくなければ殺す価値なんてない。 葬識は静かに二人を見つめ、すぐに笑い出した。 「二人共仲良しこよし☆ 宮部之宮ちゃん、俺様ちゃんたちはお邪魔虫?」 と、ここで火車を振り返れば。 「そのシーフードピザ焼きたてだよな? よし、こっちによこせ」 通りすがりのウェスタンガールからピザを巻き上げている。何をしようとしているか理解し「俺様ちゃんも~」とこちらはたっぷりチーズのベーコンバジル。 「俊介ちゃんと食えよ。だからでかくなれんねーんだよ」 「お? くわしゃんが珍しく優しい……あっつ! 待ってエビが踊ってる――あつぅ!」 熱々のシーフードは大変危険になっております。 「俺様ちゃんのもよろしく~」 「待って待ってむぐ、ん、むぐぐ……」 涙目の俊介にもお構いなしと、二人で次々とピザを口に突っ込んでいく。 「さっきの威勢はどこやった。食って食って大きくなって、アークビルより大きく育て」 「ハムスターみたいで楽しい~☆」 もはや悲鳴すらあげれず埋もれていく俊介。その姿を見やって―― 「誰と食べるかってのが、大事だよね。とっても、楽しいな……♪」 羽音さんは素敵におおらかなお姉さんです。 ●君と食べよう! てれれてててっ♪ てれれてってって♪ てれれれってれってれってって♪ カフェとは少し離れたスペースがお料理教室。明るいミュージックと楽しげな声がBGM。……言っとくけどこの音楽はオリジナルだからね。ほんとだよ。 さて、まずはぼっち――じゃなかった、お一人様を集めたグループです。大まかな流れを先生に教わり、いざフリーにピッツァタイム。 「ふふ、一度本格的なピザを作りたかったのです」 まずは一番出来そうな子代表、亘。伸びるチーズとベーコンのガッツリピザを目標に掲げ、いざ生地を作っていく。 ――生地を回転させ、中央は薄く、ふちを厚く―― 頭に叩き込んだ流れを参照し、オーブン皿を回し始める。 「旨みを殺さない様に回あっー!」 生地がオーブン皿から吹き飛んだー! よくあるんだよねこれ。 飛んでいく生地。あわれせっかくの生地は床に―― いや……亘が飛んだ! ダイビングキャッチだー! 少年には羽があるって本当だったんだ!(元々ある) 「あ、危うく大惨事に……」 気をつけようね! 「孤児院にいた頃から料理してたけれど、ピッツァはまだ作った事無いんだ」 だからとっても楽しみと微笑んで、セラフィーナは具材の下ごしらえ。 りんごと蜂蜜をたっぷり用意すれば、作るのは勿論アップルパイならぬアップルピザ! 大好きなりんごを散りばめて、ハチミツと一緒に愛情を――美味しいピザになりますように。 さて最後のぼっちはちゃんとすればやれるのにやらない子代表、竜一。クッキングな鼻歌を響かせて器用にピザを焼き上げる。 意外や意外、てきぱきと手馴れた様子で作ったピザは、プロ顔負けの完成度。 香ばしい匂いと共に、出てきたピザはチーズの上でニンニクに赤唐辛子、ハラペーニョが踊っており――あれ? 更に竜一、ここでおもむろにピザの前に立つと――ばしばしばしばしばしばしばし! タバスコだ! タバスコかけてる! 「ふぅ……完成だ! 食べ物で遊ぶのはいけないことだからね!」 食えるよ。あくまで食える……ぎりぎりだがな! 「さあロイヤーはどこかな」 悪魔がおる。 「美味しいピッツァをいただきにきマーシたよ」 呼ばれてきましたロイヤーさん。亘のピザを早速平らげていく。 「……ン、ベリーグーですよMr.亘!」 「本当ですか!」 緊張の表情を解し、嬉しさのあまりハイタッチ。 「いやぁ上手くできて良かった」 美味しいという言葉は本当に嬉しいことだから。作った甲斐があったというもの。 と、ここで新手の竜一登場。 「んじゃ次はこっちで」 「だがお前のは食わない」 …… 「ロイヤー! 害獣を俺たちがしっかり退治してやっただろ! 仲間として!」 「ゼッテー食わネー! フォーチュナ舐めんじゃネーゾ!」 そしてピザの押し付け合い。 「食え! セクシーに! そしてはだけろ!」 「二刀流は卑怯――っ!」 ――パリッと優しい音を響かせて。 「セラフィーナさんのアップルピザ、美味しいですよ」 「亘さんのベーコンピザも美味しいです」 美味しいピザを、さあ召し上がれ♪ 「慧美さん、今日は楽しんで食いましょう!」 「勿論! アメリカじこみのピザを見せてあげます!」 ピザ食い放題のパーティーと聞いて、青春を楽しく過ごすがモットーの守夜はそれならばと慧美をピザ作りに誘ってみた。 その結果がこの妙にやる気のあるグループの誕生である。 ピザ作りのコツを口を揃えて気合と言い放った二人は、仲良く並んでピザ作り! さて、日頃は『スーパーサトミ』として奇抜なコスチュームに身を包んでいる慧美だが、今日は普通のジャージ姿。ある意味でピザ作りへの気合の高さが伺える。 「オーソドックスにマルガリータでいきますよ」 流石は本場、手馴れた動作でてきぱき作る。 一方の守夜は気合と努力。先生の教えを参考にして、自分らしくアレンジしていく。 焼きあがったピザは、シンプルながら良い出来だ。 「うん、悪くない出来だと思いますが」 満足げに頷き、守夜は慧美に自分のピザを差し出した。 「慧美さんにプレゼントします。是非食べてください」 「ではこのピザは守夜さんに!」 自慢の逸品をお互いに。手作りの楽しさの集大成がここにある。 二人はテーブルにつき、黒いお茶を添えて行儀正しくいただきます。 「――美味い!」 「本場の味ですよ!」 守夜の言葉に機嫌良く慧美が反応する。そちらはどうですかと問いかければ、満足げな笑顔を守夜に向ける。 大満足の手作りピザ。そのまま互いの好みのピザ談義を続ければ、食べ比べに行きましょうと守夜が声をかけた。 二人並んで歩き出し――ふと気づく。 (こういうのって……デートって言うんでしょうか?) 慧美の内心の問いに、答える声はどこにもなく。 「マルゲリータは基本中の基本だよね。イタリアの国旗を表してる。トマト、バジル、チーズってね」 ちょっとした知識をひけらかし、夏栖斗は軽く彼女にアピールジャブ。 「今日は、ピザを作ります」 視線を向けることすらなくこじりは正面固定で説明口調。つまりスルー。 ――うん大丈夫。いつものことで慣れてる。 一瞬暗い目になった気がしたが、夏栖斗君持ち前の折れない心をフル活用。 「ぺいじま先生のお料理教室!」 二人はエプロンをしっかり着込み、イメージは完全にお料理番組。 「クラフト生地は薄くサクサクした軽やかな口当たりが特徴です」 ――バジルとトマト、オリーブをトッピング―― こじりが説明を続けると、夏栖斗が走り回り材料をかき集める。つまりそういう立場。 「炊飯器でパンはよくするのだけれど、ピザは初めて。凄くもちもちになって美味しいのよ」 下ごしらえをしながらへぇーと感心する夏栖斗。今度食べさせてよとおねだりしながらお手伝い(という主労働) そんな夏栖斗をこじりは満足げに見やり―― 「そんなこんなをしている間に出来た物が、ハイ、こちらです」 ドンと音をたて、後ろから用意しちゃった。 「ちょ、僕のお手伝い全部ムダ!?」 「一度してみたかったのよ。料理番組のノリ」 抗議の声にも一切悪びれない。 後は窯に入れて焼くだけよと設置。そして腕組待機。 …… 「暇」 ――この待ち期間の間、命令を受けて色黒少年はまた恥を一つ晒しました。 そして焼きあがったマルゲリータを取り出せば、チーズの香ばしい匂いが二人の鼻孔をくすぐった。嗚呼なんて素晴らしい焼きたてピッツァ! 「よっし! 出来立て! 早速食べよう!」 「ダメよ」 ばっさりだった。冗談かと思いきやこじりは出来たてピザをすぐに包装してしまう。それを手渡され、捨てられた子犬よろしくうなだれる夏栖斗。さっさと歩き出すこじりを慌てて追いかけ、どこに行くのさと問いかければ。 「私の部屋」 意味を掴めずぼんやりする彼に、そちらを見もせずに繰り返す。 「どうせだから、私の部屋で食べましょう」 ――コーラと、フライドポテトも用意して。炬燵でのんびりピザと言うのもまた、面白いでしょう? みるみるその表情を生き返らせて。 「うん行こう! 今度は監禁しないよね?」 わんと鳴けと言われれば鳴きそうな浮かれた表情。口元に笑みを浮かべて先を行く彼女を追いかけて―― 「こういうお預けなら大歓迎!」 「ピザ作りだよM・G・K大集合!」 号令により集結するミタカダイラ・ガード・ナイツの皆さん(+1) 「さぁ美味いピザを作るぜ! そこの喰う専門はあまり飲みすぎるなよ!」 「イエー」 ツァインの指が示す先で、七海とロイヤーはすでに顔が赤い。そもそもテーブルについて最初の発言が「とりビー」(とりあえずビール)だった人たちだし。 「ロイヤーさん退院おめでとうございます。ささっ、一杯どうぞ」 手作りピッツァが出てくるまではと七海がエスコート役を買って出る。いや飲みたいだけかも。 「センキューMr.七海。やっぱり日本人なら焼酎デースね」 「突っ込まないぞっと。で、早速なんだがそこの『ナイト・オブ・ナイト』の新しい称号ないか?」 ツァインを示し翔太がお約束を問えば。 「ンー……『名を刻む者』でどうでショー」 ロイヤーがドヤッと答える。 「あら、名は名乗るものじゃなくて刻むものって? らしいかも」 「また称号が増えましたね。いいぞ、この調子だ」 「お前らなー!」 無責任に笑う祥子、煽る七海を怒鳴りつけ、顔は真っ赤だけど仲間との時間はこんなにも楽しい。沢山の笑顔の中心で、ツァインは全員の顔を見渡した。 「さあそろそろ作ろうぜ。皆でオリジナルの美味いピザをな!」 ――思わぬ災難っつーか自業自得の人災っつーか。 入院の原因に一瞬遠い目をするも、何はともあれ退院祝い。エルヴィンが作るのはマルゲリータベースのオリジナルピザだ。 何事にも器用な彼らしい流麗な手際。生地を整え土台にトマトソース、さてさて具材をどうするか。 ――トマトに合うものなら大体なんでもイケるはず。 「よし、シーフードっぽくするか」 方針が決まれば尚更手際良く。細かく刻んだ野菜を降らせ、イカエビホタテを躍らせる。 「最後にモッツァレラチーズとバジルを載っけて――よしOK」 後は焼くだけとエルヴィンさすがの一番乗り。さて他の連中はどうだと隣に目を向ければ―― ベーコントマトにピーマンチキン、更にコーンを散りばめて。華やかな具材の合間にたっぷりチーズを敷いていく。 ほうと思わず感心する。色鮮やかで華やかな見目、実に美味しそうな豪華な具材。焼きたてを想像するだけで生唾を飲み込んでしまう出来だ。 後は焼くだけだなと声をかけようとして――エルヴィンはその目を見開いた。 ――水のごとく流麗に。雷のごとく降り注ぐ。その動きの芸術性は、幾度も幾度も繰り返してきた証。 音が振る。音が振る。そのたび鮮やかだったピザを一つの色に染め上げて。 赤に、朱に、紅に、赫に、緋に――っ! 身体を震わせる。これを食べるのか、と……テーブルに置かれた空のタバスコ瓶から目が離せない。 視線に気付き、ピザの主がうむと唸った。 「そちらはもう焼くだけのようだな。こちらも後は刻み唐辛子を敷いてもう一度タバスコを振るだけだぞ」 満足げに頷いて、優希は懐からもう一本秘蔵のタバスコを取り出した。 チーズを載せ終わり、後は焼くだけと一息する。 零児はM・G・Kのメンバーではない。依頼で会うことはあるが、こうして彼らと遊ぶのは初めてのことだ。 少しばかり緊張はあるが―― 「わ、美味しそう! どんなピザなの?」 横から声をかけられる。可愛らしいエプロン姿で、祥子が興味深げに金の瞳を瞬かせた。 「ああ、先日食べて旨かったピザの再現でな。4種のチーズをふんだんに使っている」 へぇーと頷いてから、目ざとく見つけたものに瞳を輝かせる。 「この蜂蜜は?」 「最後に蜂蜜を掛けて食べる。この蜂蜜が絶妙で、濃厚なチーズの旨みを引き立てるんだ」 チーズに蜂蜜! 表情を緩ませて美味に想いを馳せる祥子。そちらのピザはと問われれば。 「あたしは茄子とミートソースのピザよ。チェーン店で食べたのだけど、これが美味しかったのよね」 だから作ってみたくってと屈託なく笑う。そこに翔太がひょこっと顔を出した。 「おー皆本格的だな」 美味しそうで何よりだと笑顔を見せて。自分のはと問われても、後のお楽しみと一言で終わらせた。 「なんだそれは。ずるいぞ」 飄々と流す翔太に食って掛かり――笑顔の零児に最早遠慮というものはない。その姿を眺め、今日零児を誘った本人である優希が小さく笑った。 零児が馴染めて居ないようなら背中を押すつもりだった。余計な気遣いだったなと今は知る。 日頃訓練ばかりで仲間と遊びに行く機会のない零児。今回のことはいい機会になると思った。大勢で食事を摂る楽しさを知ることは、危険と隣り合わせの日常だからこその大切な鋭気を養うことに繋がるから。 テーブルについた彼らの元に、焼きたてのピッツァが届けられた。テーブルを支配する香ばしい匂いに誰もが喉を鳴らした。 「さぁ皆で食うぞ!」 全員揃っていただきます! 賑やかなピザパーティが始まった。 「あ、エビだ。エビとチーズ最高ね」 「ふむ、悪くはねーな。おっと、そっちの美味そうだな!」 「祥子のはオーソドックスでありながら良い味だ。エルヴィンのシーフードも良いね」 「うむ、エルヴィンは中々の料理人であるな」 「飛鳥のピザ美味そう……意外過ぎる!」 6種のピザを取り囲み、談笑と共に平らげる。 「七さん、酒で腹膨らませようとすんな! ピザ食えピザ!」 「何を言ってるんですかツァインさん。これは食欲を増すためです」 「七さんふらふらしてるけど……あたしもお酒ちょっぴりもらうね」 すでに顔真っ赤の酔っ払い。 「これって……てめぇこらツァイン! 失敗部分は自分で食え!」 「いやこう……チーズで隠して闇ピザ的な?」 「うわぁ……」 普通にまずいのもたまにはある。 「これは見たことないピザですね。どんな味でしょうか」 「おお、翔太のピザは油で揚げてあるのか」 「ジューシーで美味しいわよね、なんて名前だっけ」 「パンツェロットかな? 中のチーズがとろけて美味しくなるんだよね」 物は試しとナイフとフォークが音を立て。ふんわり湯気が包み込む。 「皆上手に作りすぎじゃないかー? ……よし、行け優希ぃ! 今こそお前の本気の料理を見せてやるのだぁー!」 「任せておけ」 ここでラスボス登場。遣り遂げた男はいつになく爽やかな微笑だ。 「この赤いピザは間違いなく焔スペシャル……飛鳥さんお先にどうですか?」 「焔のは明らかに真っ赤だが……実は辛いの苦手の甘党なんだが……いや、最後まで必死に食いきろう」 食事を取るのに決死の覚悟を見せる人たち。遠慮なく食うがいいとせかされて、いっせーのーでで同時に食べる。 「おや、優希が作ったにしてはそんなに……ぐ、ヤベ、コレあとから来る……!」 「……優希さんのは相変わらずスパイシーね。何だか、目にしみるわ……」 泣き出した人もいます。 「もっとタバスコをかけたらどうだ?」 「すまん無理だ」 これ以上は致死量です。 「いやー食った食った! 人の金で喰うピザは最高だな!」 ツァインさん、その財布はテーブルに突っ伏して白目剥いてますが。 「楽しかった。こうやって集まるのもいいものだな」 ――ピザをきっかけに、楽しく笑って過ごせた。たまにはこういう日があってもいいよな―― 飛鳥の肩を、優希と翔太が軽く叩いた。 「やっぱり美味いピザは満足感が違うなー」 「お腹いっぱいになりましたね」 エルヴィンと七海の談笑に。 「あれ、もう満腹? デザートピザも作ってみたんだけど」 祥子が持ってきたのはフルーツとクリームチーズのピザ。 「バニラアイスと一緒に食べたら美味しいと思うんだけど」 どうする? と問いかければ、一同は笑顔で口を揃えた。 「勿論食べる!」 さてさて、パーティはまだこれからだけどピックアップはこのへんで。 まだまだ皆騒いでる。楽しく、美味しく、笑顔の君と。 ここで楽しく過ごす作法。たった一つの合言葉。 「ピッツァ食べたい!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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