● 「ねぇ皆さん、近頃ちょっとお疲れじゃないですか? 気遣う皆さんのお口の恋人、断頭台ギロチンです。ついでに寝るのとかお好きですか?」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタに、『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は開口一番そんな事を口にした。疑問符を浮かべた彼らに、フォーチュナは笑い、モニターに映像を映し出す。 山奥、だろうか。 薄く雪の積もる地に、一つの雪山が――いや、あれは生き物だ。 真っ白で巨大な……なんだろう。 白うさぎや狐にも似て見えるが、耳は丸っこく狸や狐のようだ。 ただ一つ言えるのは、ともかく巨大。子供ならば二十人くらいは乗れるだろう。 それが体を丸めて、鼻と思わしき場所を時折ひくつかせて眠っている。 「はい、アザーバイドです。凶暴性は低く、攻撃を受ければ逃げ出すような性質なので直接何か、或いは誰かに被害を与える心配はありません。ご覧の通り、山奥で雪とほぼ同化して眠っているような状態なので、大きいですが誰かに見付かる可能性もほぼ皆無とみていいでしょう」 ならば、自分達は何を行うのか。 虫食いへの追い込みか、或いはそれが閉じたから討伐しろ、という事か。 問うリベリスタに、ギロチンは首を振る。 「いえいえ。この種は自力で穴を開けてチャンネルを移動できる様子なので、討伐の必要性はありません。ただまあ、仰る通りあまり長居されるとボトムチャンネルへの影響はありますからね」 だから、このアザーバイドが早目に帰還するように手伝って欲しい。 「このアザーバイドは、色々なチャンネルを回っては……この世界で言う所の『プラスの感情』に近いものですかね、嬉しい、楽しい、しあわせ……そういうものを蓄えては糧としています。満たされれば元の世界、或いは次のチャンネルへ、という訳です」 ま、となれば大体お分かりでしょう、とモニターを振り返った。 「このアザーバイドの付近は、そういったプラスの感情を誘発する何かが発生している様子です。アザーバイド自身がそういった感情を糧として生きる塊みたいなものだからでしょうかね。攻撃とかをしなければ基本おきませんから、上に乗っかって一緒にお昼寝してきて下さい」 プラスの感情というだけならば、別に眠らずとも構わない。 が、どうしても、起きている状態では思考による憂いや不安がセットで付き纏うだろう。 眠りの中に入れば、そういったものが排除できるので都合が良いのだ、とギロチンは赤ペンを振る。 「幸せな夢が見られると思いますよ。……きっとね」 アザーバイドの影響下で見た夢を、覚えていられるかは分からない。 それでも恐らく、『しあわせ』であったという気持ちは残るから。 「どうぞ少しだけ、息抜きをしてきて下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月19日(水)22:52 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●『紫苑の癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)と幸せな猫 それはふわふわのもふもふだった。 うっとりと目を細めて横たわれば綿よりも温かくその身を包み込む。 「これは……もう既に幸せのような?」 呟いたシエルの耳に、とくん、とくん、鼓動の音と、規則正しい寝息が届いた。柔らかな毛は雪の降る季節にありながら温かく、午後のまどろみへと速やかに誘う。 「私、結構疲れていたのでしょう……か……」 自分の声さえも、急速に薄れていった。 それは、猫だった。黒い猫。白い靴下を履いた猫。何故かバナナを抱き締めた猫。 『吾輩はバナナ猫にゃ』 小柄なシエルが何人並べば届くだろうか。巨大な猫は巨大なバナナを抱き締めながらシエルに問う。 『一緒にバナナを抱きしめないかにゃ?』 かくり、と首を傾げて、可愛い顔で。何を躊躇うこともない。 「はい」 微笑んだシエルは、傍らにあるバナナ――巨大なそれではなく、1m程のサイズのそれを抱き締めた。 本物のバナナではなく、抱き枕の様なふわふわのぬいぐるみ。 抱き締めたシエルが倒れ込んだ先は、布団の海。 柔らかく、どこか甘い香りのするバナナを抱き締めながら、ふわふわの布団の上をころりころり。 『楽しいかにゃ?』 柔らかい尻尾でくすぐり尋ねる靴下猫に、シエルは頷く。 「はい♪ 楽しいですっ! 幸せです~」 ころころぽすん、ころころころ。 温かい白い海で、彼女は靴下猫と視線を合わせて笑った。 ●『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)と幸せな家庭 もっふもっふふっかふか。 確かに気持ちいい。だけれど午睡の習慣もないのにいきなり寝ろと言われても困る。 とはいえ気持ちいいのだから、冴えた目をまどろみに誘う事をすれば良いのだろう。 羊か? ただ羊を数えてもつまらないかも知れない。なら。 「同志ギロチンが一人……笑顔の同志ギロチンが一人……」 なんでそれにした。 「完璧なムーンウォークでこっちに歩いて来る笑顔の同志ギロチンが一人……あのポーズのまま上半身を固定しつつ完璧なムーンウォークでこっちに歩いて来る笑顔の同志ギロチンが一人……」 想像したら割と悪夢じゃなかろうかという事を口走るベルカに突っ込む役がいない。 こんなんで眠りに入って大丈夫だろうかと思う状態で目を閉じたベルカの、夢は。 「ん……?」 騒がしい。誰だ。自分を呼ぶのは誰だ。ぼんやりと開いた目に飛び込んできたのは、子供の顔。 起きた起きた! とけらけら笑う甥と姪の耳を、誰かが抓んだ。 「姉様」 自分の睡眠を妨げた事を叱ったのだろう。それに微かに笑いつつ、まあまあ、と宥める。 子供達は得意げな顔でベルカの上に乗っかってくる。 遊ぼう外行こうよええやだお家でお絵かきしようボールがいい! 矢継ぎ早、口々に伝えられる希望に、ベルカはデコピン。 「一つずつ! 何しろ私の体は一つしかないのだからな!」 遊びたい盛りの彼らを御するのは難しい。 ベルカは午睡の分、今日は夕方まで全力で遊び切らないといけないな、と笑った。 十二姉妹とその子供と、時間はいくらあっても足りやしない! ●『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)と幸せな幻想 柔らかな毛に触れた大和は考える。 幸せな夢を見る。それ自体は悪くはない。 けれど、今に不満がある訳ではない。大和自身は恵まれていると言ってもいいと考えている。 決して不幸ではないのに、今を否定する『もしも』の幸福を夢見るのは罰当たりなのだろうか。 けれど……。 「今は小難しいことは置いておきましょうか」 微かな笑みを浮かべ、身を横たえる。 そういう思考を省くため、大和らには『眠れ』という指示が与えられたのだから。 「それでは、おやすみなさい」 白い毛に埋もれた仲間らに呼びかけて、彼女は目を閉じる。 「良い夢を」 大和は布団から起き上がった。 準備を整えて部屋を移れば、既に母は起きて朝食の支度をしている。 おはよう、と微笑んだ母に挨拶を返しふと外を見れば、庭にある梅の蕾が膨らみ始めていた。 もうじき咲くだろうな。 声に振り向けば、父が同じ木を見て笑っている。 梅は蕾より香あり、と言う諺もあってな。蕾の頃から香りがするんだ、と、教えてくれた。 頷いた大和の手の甲に、涙が落ちる。 何だろう、と思う間もない。流れ出る涙が止まらない。 どこかで誰かが言っている。これを見たかった、と。 突然泣き出した娘に目を丸くした父と母が、傍らに寄る。 そっと抱き締め、あやすように背中を撫でるその腕は、暖かかった。 ●『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)と幸せな箱庭 「幸せ……」 リンシードはもふもふの中で悩んでいた。 自分の幸せとはなんだろう。まず幸せとはなんだろう。 そもそも自分は罪深い。幸せになってはいけない程。 けれど眠気はやってくる。 幸せ、は、なんだろう。夢の中であれば、許されるの、だろうか。 ソファのまどろみから醒めた目に映ったのは、ティーポットと微笑むお姉様。 「お茶にしましょう、リンシード」 「……はい!」 銀の綺麗な髪を柔らかな陽光に照らしてそう言うから、リンシードも綻ぶように笑った。 数段のレースとフリルで飾られた白いワンピースの胸元に、お揃いの蝶々が止まる。 シフォンでできた花の髪飾り、ずれたそれを指先でちょん、と直してくれる大好きなお姉様。 「今日来るのは誰だったかしらね」 「ええーと」 頬に手を当てて考える。この間は誰だったか。日傘を差した紺色の淑女か、金の髪が眩しい少年か。 はたまたこの洋館には少しだけ似つかわしくない、赤い肌を持った彼らだっただろうか? まあいいわ、とお姉様は首を振った。 ここに来たならば、誰でも皆で楽しくお喋りをしていくのだから。 そうして気が付けば日が暮れて、また同じ夜が来るに違いない。 「一生、離れませんからね、お姉様」 リンシードがおまじないのように告げれば、お姉様も微笑んで続きを唱える。 「えぇ、ずっと一緒よ、リンシード」 ●『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)と幸せな誕生日 「もふもふある所あたしあり。なんてね」 真面目な……というかいつもの微かな笑みを浮かべた顔で言ったエレオノーラは、掌で白いもこもこを撫でる。幸せな夢、がどんなのかは分からないが、例え苦しみに満ちた夢であってももふもふの為ならば甘受したであろう事を思えばなんて事はない。それに、何処か故国を思わせる一面の雪景色も悪くはなかった。 「わーいふかふかーしあわせー」 もふん。軽い体を横たえて、目を閉じる。 その日、家にいるのは自分一人だけであるはずだった。 七つを数える誕生日、母は出張。帰ってきたのは、いつも仕事で忙しい父。 母のお眼鏡に適ったその顔立ちは良かったが、表情に乏しく、鋭い目付きもあって少々怖い父であった。 いつも纏っていた硬い雰囲気の軍服もそれに一役買っていたのかも知れない。 そんな父が、誕生日に帰ってきたのは偶然だったのだろう。けれど、自分を外に連れ出してくれた。 背の高い父の歩幅に合わせるように時折小走りになりながら、顔を眺める。 仕事ばかりの父の顔をこんなに近くでまじまじと見るのは、初めてかも知れない。 次に会えるのがいつだかも分からない父の面影を、焼き付けようとしたのだろう。 「папа」 父は呼べば顔に微笑みさえ浮かべて振り返ってくれた。そして母に教えてもらった敬語を使い、スカートの裾も踏まず歩けるようになった自分の頭を撫でてくれる。 「Умница」 優しい声音で告げられた言葉。 抱き上げてくれた温もりも、少しだけ豪華な食事も、口元に指を立てて内緒だ、と言いながらくれたウサギのぬいぐるみも、どれも嬉しかったけれど。 七度目の誕生日に、怖いと思っていた父が優しかった事を知れたのが、嬉しかった。 柔らかい金の髪を撫でた、大きくて無骨な手の感触が、ベッドでウサギを抱き締める今も残っている。 とても、幸せな誕生日。 ●『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)と幸せな食卓 「おはよう、パパ、ママ!」 美月がリビングの扉を開けば、父と母が揃って笑顔で迎えてくれる。 ご飯、味噌汁、卵焼き……食器を広げるその食卓は、三人だと少し狭い。 「パパが出張で出てる時は広いのにね」 「あ。――そうだね」 母の言葉に、美月は頷く。 そうだ。その時はこの食卓は、ちょっと広くて、少し寂しい。 並ぶ料理は、全て父のお手製だ。忙しいというのに、毎日早起きして作っていた。 「ママが料理できればねえ……ってこらママ、目を逸らさない、口笛吹かない!」 美月の言葉に誤魔化すように目を逸らした母に、父は笑っている。 もう、と膨らませた頬を、母が突く。あなたもできないくせに。 「ぐっ、れ、練習はしてるし、そそそそそもそもママからの遺伝じゃないか僕が不器用なのは!」 それは畑がどうの、いやいや撒き手がどうの。 頭上で繰り広げられる会話に美月は両手を振り回す。 「いや朝っぱらからそういうの止めようね皿投げるよ!? もー二人して何でそんな下品なのさ!?」 笑うなー! そんな叫びも、父母には通じない。 もう、とようやく落ち着いた食卓で箸を取りながら、美月は両親の顔を窺った。 いつもこんな騒ぎだけれど、朝と夜はできる限り家族全員。三人で。 そう、三人で、が、いつもの事。 だからこれは何も変わらない毎日だ。 明日も巡ってくるはずの今日だ。 けれど美月の心は、弾んでいる。いつも通りの日なのに。とても嬉しい。うれしい。うれしい。 ぱたりと、涙が落ちた。 嬉しくて愛しい、『いつも』だった。 ●『エンプティ』街野・イド(BNE003880)と幸せな01101 イドには幸せが分からない。楽しい、嬉しい、それも分からない。 事実に基づく学習データ、記憶と論理に従い構成される己の現実。 その中に、『幸せ』と名付けられた感情は、未だない。 幸せとは、なんですか? 黒い髪に黒い目をした、小さな女の子。両手を目一杯に広げて、両親の間の橋渡し。 ごく一般的な、日本の家族。 夜。 父親の帰りを待ちわびる少女がいた。 眠ってしまった少女を撫でる父親を見た。 誕生日。 父親がビデオを回している。 目の前にあったのはケーキだった。大きなそれを机に置く。 瞬いた先に、またケーキがあった。幾つも灯った蝋燭を吹き消した。 夕飯前。 大きな椅子に座って足を揺らし、母の料理を待っていた。 まな板。人参を刻む。規則正しいリズムで、少女の為に料理を作る。 買い物。 袖が短くなってしまった服の代わりに、新しい服を試着する。薄手の春物。 春物を着た少女の手を取り、鏡の前でくるりと回らせた。 写真。 新しい服を着た、あどけない笑顔の少女がいる。 彼女に似た、優しい笑みを浮かべる母親がいる。 それを見て、穏やかに笑いカメラを向ける父親がいる。 「あなたが生まれてよかった」 「おとうさん、おかあさん、だいすき」 重なる言葉。暖かい感情。 知らない。いや、知っている。イドはそれを、知っている。 けれどこれは、だれだ。 エラー。 ●アメリア・アルカディア(BNE004168) と幸せな家族 「誰かー。もふもふに到着するまでくっつかせてー」 この寒い時期に薄着のアメリアは、くっ付いていたベルカの背中からアザーバイドへとダイブする。 もふもふはあったかい。すごくあったかい。いや本当あったかい。 雪山で寝ると危ない、なんていうけれど、これは幻覚とかを見る事もなくすんなり眠れそうだ。 「崩界しないようなのだったら連れて帰りたいくらいだよー」 しみじみ呟いたアメリアは、柔らかな毛と暖かな体温が伝わる場所で、目を閉じる。 見開いた時には、そこは見慣れた施設だった。 仲の良い仲間、そしてシスター。 施設を駆け回り、時に叱られ褒められた日々。 彼らは血こそ繋がっていなかったけれど、家族と一緒だった。 「新しい家族?」 首を傾げたアメリアに、シスターは笑って頷いた。 ここの家族は家族のままだけれど、新しい家族ができるのだと。 アメリアは家族を沢山もてるのだと。 瞬いた彼女の手を、シスターは引いていく。 彼女が開いた扉の先には、人がいた。 「こんにちは、アメリアさん」 眼鏡をかけた女性が、屈んで微笑む。 アメリアと同じ、左右違う目の色をした少女がその後ろから覗き込み、軽く頷いた。 「よろしくね」 家族。これが、新しい家族なのか。問うたアメリアに、二人は首を振る。 「違うよ。もっとたくさんいる」 「アメリアさんも、今日からアークの一員ですからね」 みんなみんな、家族だと思って下さい。 騒がしいから、覚悟しておいて。 口々に告げる彼女達の瞳は、優しかった。 ●『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)と幸せな兄妹 寝不足の体を抱えた優希は、柔らかい毛に包まれると同時に眠りに落ちた。 まどろみから引き戻したのは、衝撃。 「計画通り!」 「庭に罠を張るな!」 響いた望の声に、優希も声を張り上げる。 少々育ちの悪い体格に真面目な頭を乗せた優希は、いつだって破天荒な兄に振り回されっぱなしだ。 「怪我だけはしちゃダメだよ?」 兄達に、窓から覗いた妹、真菜が笑って呼びかける。 望のマイブームであるゲリラ戦術の罠にかかり、ロープで片足吊りにされた優希は妹を逆さまに眺めながら十得ナイフでロープを切った。 望と日々付き合っていれば、この程度は朝飯前だ。 「その横暴をここで止める!」 地面に着地し、望へダッシュ。一発お返ししてやろうと振り被った拳は笑って避けられ――足が踏み抜いたのは、宙。広がったのは、カラフルな風船。 次の瞬間、風船が連続して割れる軽快な音と優希の悲鳴が響き渡る。 「弱ぇなぁ」 「お兄ちゃん……学校サボって穴掘りしてたんだね」 「くっ、この暇人が……!」 無闇に深い穴の底、割れた風船の残骸を叩きつけた優希の目に箱が入る。 自分宛のそれに首を傾げながら開けば、それはロケットペンダント。三兄妹の名と写真。 穴を覗き込んだ真菜が、微笑んだ。 「お誕生日おめでとう、お兄ちゃん!」 「来年までにはも少し強くなっとけよ?」 兄が笑う。いざとなったら優希も真菜も、俺が守ってやるけどな! 笑顔。笑顔。母の呼ぶ声に穴から顔を引っ込めた兄を慌てて呼びながらも、優希は笑っていた。 手の中には、希望と勇気と愛がある。 ●『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)と幸せな世界 「おや、こんにちは。灯屋さんに等活さん」 うさぎが呼びかければ、男達は笑みを返した。こんにちは。散歩かな。 「カントーリオさんの演奏会の帰りです」 多種多様な楽器を纏め上げる指揮者の名を挙げ、うさぎは首を傾げる。 「また実験で? どうせまたグロ、ああいやナンデモナイデス」 「……これでも子供には人気なんだけどねぇ」 「子供は悪趣味も好みですからね」 遠い目をする白衣に、スーツの男は肩を竦めた。 「てか。貴方達何時も一緒にいますよね。ホモですか?」 「「違う」」 「はっはっは冗談ですよじょーだん怒らない怒らないいやあのマジすいませんでした」 「……全く」 「どうして若者はすぐに色恋に結びつけるのかね」 零れる溜息。だけれどそこに、悪意はなく。敵意はなく。 今日はよく、知り合いに会う日だ。 コンサート会場には、渡部望と雄太。 雄太を抱き上げた望は、うさぎを見ればにっこり笑って手を振った。 後は時雨と、亜麻音。喧嘩した、と聞いたのはいつだったか。まあ、喧嘩と言っても、誤解から来る擦れ違いとしかうさぎには思えなかったから、きっとそれが解けたのだろう。 手を繫ぐ二人も、うさぎに向けて笑いながらアイスを持った手を振った。 「ん?」 視線を動かした先には、威嚇する心臓食い。棘付き尻尾を上げた六本足の前には、大きな鋏をしょんぼりと下げたアシキリサマがいる。 「警戒されるの、絶対にあの大ハサミのせいだと思いますけどねえ」 呟きを漏らしながら、うさぎは男達に手を振った。 それではまた。 また今度。 平和だった。狂気も誤解も運命も執着も死別も悲劇も何もなく、馬鹿みたいに平和だった。 そして何故だかとても、とても楽しかった。 「ははは、あははははは!」 だからうさぎは、大きく声を上げる。 満面の笑みで。 ● ふるり。 身を起こしたアザーバイドが軽く身を振るわせれば、ぽてぽてとリベリスタが地に落ちた。 半分まどろみの中にいるリベリスタ達を、白いもこもこは鼻先で軽く撫でて溶ける様に地に消えていく。 大和が赤くなった目蓋を指先で抑えた。美月が泣いている。理由も分からず泣いている。 優希は目元を隠しながら、ぎゅっとペンダントを握った。笑っているけれど、涙が止まらない。 「ありがとうございます」 エレオノーラが名残惜しげに撫でる地に向けて、シエルが微笑んだ。 「リブート完了。記憶は残っていません」 「……なあ、同志イド。帰りに食事でもして行こうか」 「あっ、それならさ、みんなで何か食べに行こうよ、ね、いいでしょ?」 イドとベルカの会話に、アメリアが笑う。 誰も、何も、覚えてはいないけれど。 アザーバイドが寝ていたそこだけ、雪は積もっていない。 柔らかな春の広場のような暖かさが、残っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|