●動かない時計 街の外れに建っているその家には、数日前まで一人の老人が住んでいた。老人に家族はなく、友もいなかった。百歳を超える高齢。家族や友人は、皆彼を残して死んでいった。寿命、事故、病気。理由は様々だが、結果として老人は皆の死を見送って、1人きりになった。 晩年の彼の趣味は、友人や家族達の形見を眺めて過ごす事。 形見として彼が貰ってくるのは決まって時計ばかり。時計の針は、持ち主の亡くなった時刻で止めてある。時計の裏には、年号と日付。持ち主の亡くなった日だ。 老人の家にある時計のほとんどは、時を刻む事はない。 そんな老人も、数日前に亡くなった。だから、この屋敷の持ち主は既に居ない。誰も立ち入ることのない屋敷で、時を刻むものもない。 老人の家で動いていた時計は、全て老人が亡くなったその日に動くのを辞めてしまった。 その屋敷に生者はいない。時を刻む時計もない。 だから、これから先の物語は誰も知らない物語となる。 老人の大事にしていた大きな置き時計と、形見の時計の傍に薄ぼんやりとした人影が立っている。その数、実に20体ほどだろうか。 何も語らず、身動きもせず……。 その人影は、この屋敷を守っているのだろう。 老人が帰ってくる、その日をずっと……。 ●時よ止まれ 「屋敷全体の時が止まっている。20体のE・エレメント(思い出)によるものだと思われる」 モニターに映った、なんの変哲もない家の外観を見つめながら『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう呟いた。 一見すると、なんの変哲もない家ではあるが、なるほど確かに、よく見ると、屋根の上にある風見鶏や玄関に干されたタオルが、一切揺れていないことに気付くだろう。 周囲に生えた木や草は揺れている、というのに。 「思い出は、帰ってこない老人を待っているみたい。だけど、このまま放っておくわけにもいかないから」 殲滅してきて、とイヴは言う。 「特に思い出(古時計)には、対象一体の時間を一時的に止めてしまう能力がある。無効化することは不可能みたい。思い出(古時計)は老人の部屋に置かれた大きな時計の傍にいる。移動することも可能みたいだけど……」 家の庭や、家の中には無数の思い出が歩いているようだ。 家自体も、それなりに広く特に家の最奥にある食堂はかなり広い。 「元々は、といっても数十年も昔だけど……。元々は民宿を経営していたみたいね。部屋が多いから、気をつけて」 それから、とイヴは人差指を立てて更に付け加える。 「思い出の攻撃は、遠距離のものが多いから注意して。不意打ちにもね」 それじゃあ、行ってきて。 そう言って、イヴは仲間達を送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月27日(木)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●思い出に囚われて……。 チクタクチクタク……。 秒針が時を刻む音だけが薄暗い屋敷の中に響き渡る。時の止まった屋敷の中で、動くのは時計だけ。僅かにでもカーテンが揺れることもなく、屋敷の時間は止まったまま。 帰る事のない屋敷の主を、時計達はずっと待ち続けている。 チクタクチクタク……。 秒針が時を刻む音だけが響く。 時計達の針は、一秒たりとも動いてはいないのに。 ただ、時を刻む音だけは響き続ける。 ●時を刻む音……。 「ひゃっは~! 思い出を消毒だァ~!」 屋敷の敷地内に跳び込むと同時に『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)の掲げた手の平から、眩い閃光が放たれる。視界を埋め尽くす白い光が、屋敷の前に立っていた数体の人影を包み込む。 人影は、時計から発生したE・フォース(思い出)だ。 「外から侵入できないのか? だれかチャレンジ!」 ツインテールを振り乱し、メアリは叫ぶ。それを受け『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が、翼を広げ宙へと舞い上がった。矢のように、一直線に向かう先は二階の窓だ。 「素敵な人生の思い出が、悪いものに姿を変えてしまうのは、悲しいものね」 決意を秘めた強い眼差し。二階の窓に貼り付き、こじ開けようと引っ張るが、窓はビクともしない。 「翡翠さん! 逃げて!」 そう叫んだのは、和服に身を包んだ少女『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)だ。紫月の声を聞いて、視線を下げるあひる。そんなあひるの眼前に、ぼんやりとした人影が姿を現す。 「くわわっ!?」 悲鳴を上げるあひる。人影が腕を振るう。現れた無数の時計の針が、あひるの翼に突き刺さる。バランスを崩し、真っ逆さまに落下するあひる。空中では、僅かなベクトルの変化でも、大きな影響を及ぼし、姿勢を保てなくなる。 落下するあひるを受け止める為にメアリが駆ける。しかし、メアリの正面に人影が立ち塞がる。ちっ、と舌打ちしメアリは足を止めた。鉄甲に包まれた拳で、人影に殴りかかるも、届かない。時計の針に阻まれ、勢いを殺されてしまった。 メアリに変わって、落下してきたあひるを受け止めたのは『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)だった。半ば跳ぶようにしてあひるの真下にまわり込み、その身を受けと める。全力疾走の勢いを、地面に槍を突き刺すことで殺し、土煙りを巻き上げる。 「ゆく河の流れは絶えずして、しかし元の流れに非ず……。なれば、時もまた然り」 ふっ、と前髪を掻き上げてポーズを決める生佐目。生佐目の腕の中で、あひるはぽかんと口 を開けて、生佐目の顔を見上げた。 「えっと……ありがとう、ございます?」 なんて、ちょっとだけ疑問形。あひるを地面に降ろすと、生佐目は槍を引き抜いて、頭上で何度も旋回させる。 「さて……。思い出に浸るのも悪くはないと思うけれども、エリューション化したのなら仕方ないね」 あひるが無事地上に降り立ったのを確認し『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)が弓を構える。キリリ、と弦を引き絞り、屋敷の入口付近に立つ思い出に狙いを付ける。 「申しわけないが、排除させてもらうとしよう」 弦から指を離す。放たれた矢は、まっすぐ飛んで、思い出の首を貫いていった。人影が揺らぐ。更に追い打ちをかけるように『呪印彫刻師』志賀倉 はぜり(BNE002609)が人影に飛び付いた。逆手に握った、長方形の苦無を人影に叩きつけるようにして、刺し込んだ。人影は、そのまま霞のように消えていった。 「なるほど、時を止めて永遠にそのまんまってか?」 にひひ、と独特の笑い声を漏らし苦無を宙に放り投げた。苦無は一瞬で、鴉へと姿を変え、別の思い出へと襲いかかっていった。鴉に続く形で『ジュエルシスター』ブッチャ・ベルガモット(BNE004195)が駆ける。身体中に突き刺さった結晶石が、怪しい光を放っているのが特徴の、まだ幼い少女である。手にしたマジックシンボルを中心に、闇を展開させる。 「いくら秒針を止めようと、流れゆく時を止める事は出来ない」 鴉が、人影を貫いた。揺らぐ人影。そこに、闇を叩きつけようとするブッチャ。だが、彼女の眼前で、人影は揺らぎ、その姿を変えていく。ぎょ、っと目を見開くブッチャ。人影が時計塔へと姿を変え、ブッチャを巻き込み天を貫くように伸びあがる。 「うわ……っと!?」 空中に投げ出されるブッチャの身体。ショック状態にあるのか、そのまま受け身も取れず、地面に叩きつけられた。地面に倒れたブッチャへ巨大な時計の針が迫る。 「危ないっ!」 ふさふさの狐色の尻尾と耳を振り乱し『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)が、ブッチャの身体を抱え、地面を転がる。先ほどまでブッチャの居た場所に、針が突き刺さった。間一髪、ブッチャを救い出した小夜は、ほっと小さな溜め息を吐く。 「色々と思い出が残るのは、ちょっと羨ましいというか凄いな、って思いますね。逝った人への思い出が純粋だった、ということですし」 ブッチャの状態異常を治療する小夜。2人を守るように、生佐目が前に立ちはだかる。槍を構え、思い出達と向かい会うリベリスタ達。コチコチと、時を刻む音だけが耳をくすぐる。思い出は、一旦攻撃の手を止めて、ジリジリと屋敷の入口に集まり始めた。全部で4体。思い出達が入口を塞ぐ。 「何か……おかしくないですか?」 異常を感じ、首を傾げる小夜。 「そうですね。嫌な予感がします」 超直感によるものか、浮かない表情を顔に浮かべて紫月も警戒するように思い出達に視線を向けた。思い出の能力で、屋敷を破壊することができないため、入口を塞がれては、中に入れない。それを知ってか、思い出達は一か所に固まって、こちらの動向を窺っているようだ。 「くわわっ!?」 突然、あひるが悲鳴を上げた。何事かと疑問に思った仲間達だが、すぐに答えは分かる。入口の扉がゆっくりと開いて、更に4体、思い出が外に出て来たのだ。 「まずは庭から順番に、確実に数を減らすとしよう」 溜め息混じりに、彩音が呟く。 「うん。全部全部、受け止めるよ」 そう言って、あひるはぐ、っと拳を握りしめた。入口の前に並んだ8体の思い出が、身体の前に無数の時計針を展開させる。一斉にそれを、こちらへ向けて撃ち出すつもりなのだろう。 リベリスタ達の間に、緊張が走る。 突風が吹き荒れる。それが合図だったように、思い出達は一斉に針を撃ち出しだ。風を切って、無数の針が襲いかかる。蜂の群か、マシンガンの一斉掃射のようでもあった。 「うえ~い! 邪魔になるものはどかすのみ!」 サングラスを押し上げ、メアリが叫ぶ。両手を前に掲げ、放つのは神気閃光だ。眩い光が針の嵐を焼き尽くす。完全に打ち消すことはできなかったようで、半数ほどの針が光を吐き抜け、迫りくる。 そんな針の中へと、駆けていく影が1つ。長身に長い槍を構えた生佐目である。地を這うような低姿勢で、針の間を縫って駆ける。 「総力戦ですね……。無理にショートカットすることもないでしょうし」 確実に、と槍を前に突き出す。迎撃するように展開する巨大な針。生佐目に迫る巨大針を、彩音と小夜の放った矢が打ち消した。生佐目の援護をすべく、更に弓に矢を番え、弦を引く2人。攻撃の予兆を感じると同時に、矢を放ち生佐目の進路を開く。 針の消えた隙に、生佐目は思い出たちの前に辿り着く。突き出す槍で、手近な1体を貫いた。そのまま、槍を引き抜いて返す刀で更に1体、切り裂いた。槍の先端から、禍々しいオーラが溢れだす。溢れた闇が、2体の思い出を包み込み、消し去った。 「危ういですね」 そう呟いたのは、紫月だった。新手を警戒し、攻撃には加わらないでいる紫月だが、いつでも放てるように、矢を弓に番え背筋を伸ばしたまま、戦況を見守っていた。そんな彼女が危うい、と言ったのは生佐目の事だ。最前線に出ていった生佐目の真横、攻撃を逃れた思い出の1体が、その身を変じさせる。 時計塔へと姿を変える思い出が1体。 だが……。 「任せてください」 そう言って、生佐目の背を押し突き飛ばしたのは、ブッチャだ。生佐目を庇い、時計塔に弾かれる。口の端から血の滴を流しながら、ブッチャは拳を握った。空中で器用に姿勢を整え、今し方自分を弾き飛ばした時計塔へ、収束した闇のオーラを放つ。時計塔は闇に貫かれ、消え去っていった。 これで3体。残りの思い出は5体だ。 そんな中、低空飛行であひるが迫る。思い出達の間を抜けて、背後にまわり込んだ。絵本を胸に抱き、目を閉じる。彼女の周囲に光弾が展開する。 「アナタはどんな思い出? あひるに教えて?」 一斉に放った、無数の光弾が、思い出を貫く。あひるが撃ち抜いたのは1体。あひるを庇うように、生佐目とブッチャが移動し、瘴気を滲ませる闇で思い出たちを包み込んでいく。 「何もかもそのまんまでいられるモノなんて、この世界にゃないんだよ」 いつの間にか近寄っていたはぜりが、自身の周りに愛用の苦無を展開させる。苦無はグルグルと高速で回転し、闇に囚われた思い出達を切り刻んでいった。瘴気が散って、思い出達の身体が揺らぐ。まるで、蜃気楼かなにかのように、思い出達は消えてしまった……。 「それじゃぁ、行こう」 守るものの居なくなった玄関を開け放ち、あひるを先頭にリベリスタ達は屋敷に入っていった。 「まぁ、予想通りだよね?」 はぜりが苦笑いを浮かべて、そう呟いた。 あひるを先頭に、8人が廊下を駆ける。屋敷に入るなり、数体の思い出に襲われ、現在食堂目がけて逃走中である。 「その先、右です!」 隊列の真ん中、弓を手に駆ける紫月が叫ぶ。あひる、はぜり、ブッチャの順に角を曲がる。角を曲がってすぐ、食堂があった。ドアを開け放ち、跳び込むようにそこへと入っていく。最後尾で生佐目とメアリが、思い出を受け止めた。 思い出の撃ち出す針を、メアリの巻き起こす光と、生佐目の放った闇が飲み込む。 2人は、転がるようにして食堂へと跳び込んだ。2人と入れ替わるように、弓を構えた紫月が前に出る。真摯な眼差しを敵に向け、諭すように告げた。 「貴方達の望むご老人は、もう戻ってこられません。彼は天寿を全うしたのですから……」 矢を番え、弦を引き絞る。番えられた矢に、ぼう、っと炎が巻きついた。 「それでも戻って欲しいと言うのは、残される側の我儘です。会いたいというのなら、追いかけなさい!」 弦から指を離す。空気を震わせ、矢が放たれる。放たれた矢は、空中で無数に増え、展開した。それぞれが業火を宿す、神秘の矢だ。雨のように思い出達に降り注ぐ。 矢に貫かれ、炎に焼かれ、思い出たちは消えていった。後に残ったものは無く、しかし、彼らの存在はリベリスタ達の記憶に色濃く残る。恐らくそれが、思い出と言うものなのだろう。 ふぅ、と重たい溜め息を吐いて紫月はそっと、弓を下げた。 「この人だったのでしょうか?」 食堂のカウンターに置かれていた写真立てを手に取り、小夜が呟く。写真に映っているのは、眼鏡をかけた紳士然とした老人だった。厳しい目をしている。悲しみも、楽しさも、色々なものを経験し、乗り越えた者の目だ。 暫くその写真を眺め、元の位置に戻す。積もった埃を袖で拭って、その場をそっと立ち去った。向かう先は2階にあるという老人の部屋だ。このまま食堂で待っていても、敵はこちらには向かって来ることはないだろう。 残る敵は、古時計1体。最後に残った思い出は、老人の愛用していた古時計から発生したものだ。 ●時は止まり、動き出す そこは、老人の寝室だったのだろう。整理された机の上には、無数の時計が並べられている。机の隣には、大きな置き時計。カチカチと時を刻む音はするものの、その部屋にある時計は、どれ一つとして、動いてはいない。 机の時計を手に、そっと目を細める半透明の老人が1人。 「沢山の思い出と、悲しみがこの屋敷には詰まっている。忘れたくないのだ、私は」 部屋に踏み込んできたリベリスタ達にそう告げて、老人は笑ってみせた。その姿は、老人から元の半透明の人影へと変わる。さっきまでの老人の姿は、古時計の思い出だろうか。 す、っと古時計が手を上げた。掲げた手の前に、豪奢な飾りの付いた時計の針が現れる。 嫌な気配を感じ、紫月は一歩後ろへ下がった。紫月に釣られる形で、はぜりと彩音も、警戒を強める。瞬間、針が投げられた。針の先には、生佐目が居る。最初こそ、槍で針を受け止めようとしたものの……。 「下がって!」 紫月の声を聞いて、咄嗟に身を捻って床に転がる。針は生佐目の頭上を通過し、背後にいたメアリに突き刺さった。刺さった瞬間、針は消失する。 「メアリさん!」 「くわわっ!?」 メアリの左右に立っていた小夜とあひるが悲鳴を上げた。メアリの肩に手を伸ばすものの、メアリはピクリとも動かない。目を見開いたまま、固まっている。 「時よ止まれ……」 古時計が、そう呟いた。メアリの時間は、一時的に停止させられたのだ。ちっ、と舌打ちして生佐目が立ち上がる。槍を構え、駆けだそうとした所で、その動きが止まった。 足元に展開する、巨大な文字盤の存在に気付いたのだ。 ひっ、と小夜の表情が引きつった。文字盤の針が高速で回転。盤の上にいた者たちを弾き飛ばす。針から逃れ得たのは、初めから固まっていたメアリと、背後に下がっていた紫月、それから咄嗟に空を飛んで回避したあひるの3名だけだ。 残りは、針に巻き込まれ部屋のあちこちに投げ出される。 「ここに留まらなくても、大丈夫……。あひるが全部、覚えているから」 あひるが光弾を射出する。撃ち出され光弾を、出現させた時計の針で受け止める古時計。その隙を付いて、紫月が矢を放つ。正確無比な一矢が、古時計の腕を貫いた。 「手加減はなし、です」 元より、そんな暇はない。彼女達に出来るのは、ただ必死に終わりから逃れようとする古時計を、終わらせることだけ。矢に貫かれ、古時計が大きく傾いだ。 その間に、吹き飛ばされた仲間に治療を施すあひる。淡い光が室内を駆け廻り、仲間達の傷を癒す。しかし……。 「くわ」 光の間を縫うように飛んできた豪奢な針が、あひるの胴を貫いた。あひるの悲鳴が途中で途切れる。翼を大きく開いたままの姿勢で、あひるの身体が空中で停止する。停止したあひるに、針が迫る。針があひるに突き刺さる寸前、間に割り込んだ影が1つ。 「思い出の住人よ。刻々と過ぎ行く記憶の中で永久にお眠り下さい」 あひるの代わりに、針を受け止めたのはブッチャだった。針に貫かれたブッチャが、床に倒れる。意識はあるようだが、呪縛に囚われ動けない。それでも、床に爪をたて、必死に前へと進もうとする。じわり、とその手から闇が溢れるが、それだけだ。呪縛を受けた身体では、まともに動く事もできない。 そんなブッチャの前に、生佐目が立つ。ブッチャを庇うようにして、槍を水平に掲げた。 後は任せろ、とでもいう風に、チラとブッチャに視線をやって薄く笑って見せた。 「主亡き今、屋敷もまた辿るべき道は一つ……。メアリさん、動けますか?」 たった今、時間停止から解放されたばかりのメアリに声をかける。メアリは、おう、と返事をして、生佐目の横に並んだ。その手に宿すのは、眩い閃光。 「おじいさんの古時計……。いい加減、解放されろっ!」 大きく手を振って、閃光を投げつけるメアリ。部屋の中が、光に包まれる。光の間を縫うように生佐目が飛び出す。槍をまっすぐ、両手で持って古時計に突き立てる。槍を受け止める時計の針。しかし、生佐目の突進は止まらない。針をいなし、そのまま古時計の胴を槍で貫いた。押しのけた針が、生佐目の胴を貫く。血を吐いて、生佐目が床に膝を付いた。 「終わったら、弔ってあげるから……。君、街多米君の治療を」 「えぇ。お任せを」 数本の矢を、正確に古時計に当てて、進路を塞ぐ彩音と、その隙に生佐目を回収に走る小夜。生佐目とブッチャを並べ、治療を施す。 一方、彩音の矢に紛れるようにしてはぜりが壁を蹴って、古時計の背後にまわり込んだ。古時計は、身体を反転させようとするが、胴に刺さったままの槍が邪魔になって、上手く行かない。にひひ、っと奇妙な笑い声をあげるはぜり。 「時間の流れない世界なんて、うちは御免だね。この世界ってのは、楽しい事や美味いモンで満ち溢れてんだからさ!」 両手で握った苦無を、高く振りあげるはぜり。強引に、古時計の間合いに割って入り、気合を込めた一撃を振り下ろす。後先考えない思い切りのいい一撃。気合い一閃、振り降ろされた苦無が、古時計の頭部から、胸にかけてを打ち抜いた。 「そんじゃ、さよならっ」 胸に突き立てた苦無の柄を、握りこぶしで叩き込む。振り抜いた拳は、そのまま古時計の身体を付き抜け、背後にあった時計本体にぶつかった。 カチ、っと音がして衝撃で時計の針が進む。 古時計の身体が、薄れ、消えていく中。 リンゴン、リンゴンと何度も時計が鳴り響く。全部で12回、時計は盛大な音を響かせ、そしてピタリと、針を止めた。それっきり、時計が動き出す気配はない。 人影は消え去り、残ったのは無数の時計。 そのどれもが、二度と動き出すことはないだろう……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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