●交渉の結果 「全く何を考えているんだ。今まで独自に進めていた研究を」 「まあまあ、既に『平和的な話し合い』で決まった事ですから。むしろ貴方には以前より良い席が用意される筈ですよ?」 その言葉に初老の男は鼻を鳴らすと、乱暴に立ち上がった。 「どちらへ?」 「用件が終ったなら失礼させてもらおう。君と話していると、まるで『自分が得をしているように思えてくる』のでねっ!」 言い捨てるようにして、男は古めかしいドアを押し開け退室する。 「宜しいのですか?」 やれやれという仕草をした中年に、直立の姿勢で待機していたガッシリとした体格の壮年が不動のまま尋ねた。 「あいつの機嫌取りは僕の仕事じゃない。さっさと切り上げてくれて寧ろ好都合だ」 中年の言葉に、壮年は愛嬌を感じさせる苦笑いを浮かべてみせる。 「後は逆凪のが来たら、資料のコピーと、貴方とアーティファクトを引き渡して無事に終了。そういう事です」 中年、30を少し超えたばかりの恐山所属フィクサード、盾脇は目の前の老人にもう一度簡単に言ってみせた。 詳しい説明は既に終わっている。 六道が作成したエリューション作成用アーティファクトの実験量産品の1つと、それを使いこなす適性を持った老人。 加えて今までの実験データのコピー。 それらを受け取りに、引き受けに。此処に逆凪傘下のフィクサードたちが来るまで…… 「まあ、あと30分程で迎えが来る筈です」 「それで……私はどうなるんでしょうか?」 「厳しい話ですが、貴方の働き次第となります」 「……そうですか」 (……まあ、過程はともかく最終的には六道にいた時と変わらない可能性は高そうだな) 俯いた老人を眺めながら盾脇は考えた。 目の前の老人は確かにフェイトを得たエリューションではあるが、果たしてフィクサードと呼ぶべきか? リベリスタとは呼べないだろうが、詳しい事も知らされずにアーティファクトの適正があっただけで六道に利用されてきただけの存在だ。 (とはいえそれで被害が出ている事も考えれば、六道を利していると考えれば……か) 「……で、この時間のずれを利用して来るのですかな? 彼らは」 老人に聞こえないように壮年……彼の配下である大槌が囁いた。 「僕は期待している。ま、逆凪の失態には出来ない以上僕の失敗となるが……六道への牽制には為る、と良いんだが」 「偉そうな事を言えた義理ではありませんが、化け物になるまでこき使われるよりは賭けた方が良いでしょうなあ」 殺されるかも知れませんが、運が良ければさらって貰える訳ですから。 大槌の言葉に微かに頷いた後、盾脇は携帯を取り出し耳にあてた。 「ああ、すまないがそのまま待機してて欲しい。勿論……分かっている。宜しく頼むよ、クレイジーイワン」 ●アークの介入 「ある工場跡地に複数のE・ゴーレムが出現する事件があったんですが……」 その原因が、六道の実験である事が判明しました。 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう切り出した。 「六道の一部の研究者たちがE・ゴーレムを作成するアーティファクトの実験を行っていたようで、ゴーレムの基となったのは全てプラモデルだったみたいなんです」 プラスチックで作られた模型の事ですと説明したフォーチュナの少女は、E・ゴーレムのデータを表示させ、続いて地図と人物データを表示させた。 「アーティファクトを扱っていた人物は、田中作造さん。田中模型店の店主。エリューション化しましたがフェイトを得ています」 彼自身はそれらについての知識は全くない。 「ただ、六道が研究を進めていたアーティファクトへの適性があったみたいで……」 詳しい事や危険については知らされず、研究に協力していたらしい。 アーティファクトの呼称は『プラント』 「E・ゴーレムを造り出す装置ですが……使用にフェイトの消耗を伴う事もあるみたいです」 もちろん、田中氏はその事をしらない。 フェイトもエリューションも、世界についての真実も詳しくは知らないまま、教わらないまま……彼は六道の者たちに乞われるまま、アーティファクトを使用した。 幸い、まだノーフェイスとは成っていないようだが……このままの状態が続けば、先は長くないだろう。 「……その田中氏と、彼によって行われた実験データのコピー。そして実験的に複製された『プラント』が、逆凪の方に流れる事になったみたいで」 仲介は恐山所属のフィクサードで、盾脇という男らしい。 「皆さんには、これを妨害して頂きたいんです」 店とその周辺の地図が拡大される。 「田中模型店の方で交渉というか引き渡しが行われますが、田中氏と盾脇、他数名しか店の周辺にいない時間が存在します」 六道の者が引き上げ、逆凪傘下の者たちが到着するまでに存在する、およそ30分程の時間。 この時間は絶対に長くなる事は無いが、騒ぎなどを起こせば短くなる可能性は充分にある。 周囲には建物もあるし、夜中だが偶に人も通る。 「ですが、六道が引き上げる前や逆凪が到着した後ですとは妨害はいっそう困難になります……だから、この時間を利用して」 最優先は、田中氏がプラントを使えないようにする事だと、マルガレーテは説明した。 目標は、アーティファクトの奪取か破壊。もしくは田中氏の拉致か殺害。 「目的はアーティファクトの使用を阻止する事になります」 アーティファクトは複製品だし、適性を持つ者も探せば見つかる可能性はあるが、直ぐにE・ゴーレムを造られるのに比べれば確実に犠牲者は少なくできる筈だ。 もちろんアーティファクトを奪ったり田中氏を保護できれば、情報の入手という点で理想である。 それらを目標としつつ、最悪の事態、E・ゴーレムの即座の量産を避けるように動くことになるだろう。 「……盾脇氏は……何か、わざと……この時間の隙間を作ったような感じがします」 自身の視たものを思い出すようにしながら、フォーチュナの少女は口にした。 アーティファクトも実験データも使用者も、すべて逆凪に届くのが一番良い筈だが、それ以外を望むのだとしたら……目的は何なのか? 「盾脇氏の傍には頑丈そうなトランクが置かれていました。が、その中に資料やアーティファクトが入っているかは分かりません」 何者かの襲撃を警戒するならフェイクである可能性は高いが、その逆を突いてという可能性もある。 「六道のフィクサードが去った後は、店内は田中氏と盾脇氏、その部下と思われる男性が1人の計3人だけとなります」 ただ、店の外。店を確認できる位置に盾脇に雇われたらしいフィクサードが潜んでいるようだ。 「……申し訳ありません。そちらの詳しい位置までは分からなくて」 ただ、即座に動くつもりは無さそうですとマルガレーテは説明した。 もちろん問答無用で襲撃を仕掛ければ即座に相手側も仕掛けてくる可能性がある。 だが、騒ぎを起こさなければ時間が少々あるというのなら……別のアプローチも存在する筈だ。 威圧、交渉、etc. 急げば、六道のフィクサードが店内に居る内に近くに到着できる。 つまりは彼らが去った後の空き時間を、フルに活用できるという訳だ。 「如何するかは、皆さんにお任せします」 フォーチュナの少女はそう言って、皆に深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月28日(金)22:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●作戦の前 「さて、この件、誰が一番得をするのやら」 『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)は、誰に言うでもなく呟いた。 六道と逆凪を仲介する恐山、それに介入するアーク。 其々の思惑は分からないが、8人の目的はハッキリしている。 それらに対して、相手はどのように考えているのか? (脚本通りに動くもまた一興、というものでしょう) 「無論、キャラクターが勝手に動く、という現象もあるようですが、さて……」 模型店内部と周囲の確認は空き時間を利用して済ませている。 特に、道路に通じる部分は念入りに。 「では、ちゃっちゃと回収しますか」 (わたしの役目は文珠四郎さんと共に、田中さんを掻っ攫ってとっとと帰ること) 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は、できれば事を荒立てたくないけどなと付け加えた。 「なるたけ腹芸だけで済ませたいね」 盾脇さん乗ってくれるといいな、と……『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が続ける。 それから彼女は「お仕事だもの、やってくれるよね」の一言と共に、あばたにとメモをひとつ手渡した。 中には「逃げ切れなさそうなら、田中さん撃っちゃって」の一文。 「田中氏を殺して成功という方針は論外です」 一文に、あばたはそう答えた。 一般人を守るのはアークの至上命題であって、それを「アークの目的の為に危険に晒していい」ってんなら、アークなんか潰れてしまえばいいんです。 それが彼女の、偽らざる気持ちである。 (俺も一介のプラモファイターとして、田中さんを見捨てることはできない) 「あれだけバリエーションに富んだE・ゴーレムを相手にしてきたんだ」 工場跡地で戦った幾体ものE・ゴーレム達を思い出しながら、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は呟いた。 「俺にはわかる」 (元がプラモだったということは、その元を作ったヤツがいるということ) 素組みのプラモでなく、ちゃんと組上げたプラモ。 合わせ目をパテで埋めて消し、スミ入れをし、塗装の前にサーフェイサーで確り下地も作られていたように思う。 (おそらく、ただの素組みのプラモであれば、あれほどの脅威ではなかったはずだ) 「そこに愛があるのならば! 俺は彼を救わねばならない!」 (救って……ほら、魔改造した美少女フィギュアとかをE・ゴレーム化……) 「い、いや! いかん! 俺はリベリスタなんだ!」 慌てて頭を振り、頭の中の何かを片隅へと押しのける。 (色々過去の事件と繋がってきたけどよ、まーたアイツらは何か下らねェコト考えてンだな) 「何企んでるか知らねーが、今回はテメェらの策に乗ってやるぜ」 模型店の様子を窺いながら、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は口にした。 「代価はそのうち、キッチリ三倍返しで貰うけどな!」 「人の良いお爺ちゃんを利用するだけ利用して、後は人任せ……って、ふざけないで欲しいわよね」 『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)も憤慨した様子で言葉を続ける。 (でも、折角時間を用意してくれたんだもの) 「誘いに乗らない理由はないわよね?」 皆とは違う場所に隠れ、2人は作戦開始の時を待つ。 「戦闘になると田中さんも危険ですし……なるべく平和的な話し合いにしたいですね」 様子を窺いながら『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が呟いた。 『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)も、同意するように頷いてみせる。 彼としても、田中氏の救出が最優先だ。 とはいえ、相手は如何出るのか……? 既に打ち合わせも、それぞれの役割分担の確認も終っている。 8人は2人ずつ、役割を4分していた。 田中氏の保護、トランクの奪取、交渉、そして対イワンを含めた店の外側の対処。 自身の役割を果たすべく、8人は隠れたまま模型店の様子を窺い続けた。 ●作戦開始 六道の者たちが店を出て足早に離れてゆく。 フィクサードたちが此方に気付かぬ程度に離れたのを確認すると、イスタルテは武器を外し幻想纏いへと収納した。 「交渉だけで済めばラッキーなんだけど」 呟きつつ、寿々貴も静かに歩を進める。 あばたと零児も静かに、店の正面から……模型店へと侵入した。 イスタルテがドアを静かに開けて……4人が店内に入っていくのを確認すると、残った4人もそれぞれ活動を開始する。 焔がアクセスファンタズムの通信をONにし、ヘキサはそのまま静かに……焔と共に店の裏口へと回った。 竜一は気配を遮断したまま裏口方面へと慎重に移動し、気佐目も同じように気配遮断を使いながら……こちらは入口を視認可能な場所を探して移動する。 可能なら店内を確認できる場所をと考えていたのだが、それが少々難しそうだった。 ならば入口が確認でき、かつ直ぐに駆けつけられる位置を探して……難しい場合は、駆けつけられる事を優先して。 彼女は慎重に位置を取った。 その辺りは竜一も同じである。 イワンが出てくれば、すぐに自分がぶつかれるように。 他の者たちが、ぞれぞれの役割を充分果たせるように……援護できるように。 2人はいつでも動ける態勢を取って、些細な何事も見逃すまいと周囲を警戒した。 ●それぞれの思惑 「ごめん下さい。失礼します」 「どうも、不用品の回収に参りました」 短い挨拶の後、あばたは端的に切り出した。 慌てた様子でイスタルテが、戦う気はない事を告げる。 自分達がアークの者である事を伝え、フィクサードたちに自分の名前を告げて。 そんな状況の中で、零児はいつでも動けるようにと警戒していた。 恐山の目論見はどうあれ、相手の立場というのもある。 とはいえ彼としては、自分達から事を荒立てる気はない。 無論、相手が手を出す気なら迎え撃つ気概は充分にあるが。 あばたの内心も、それに近しいものがある。 (チンピラの掌で転がされてるとわかってるんですからやる気なんて出ないってもんです) 「あちらさんがヤル気なら、已むをえませんが」 誰にも聞こえぬよう、ちいさく呟く。 彼女としては『凶悪な能力者から善良な一般人を守るために』制圧行動に移る事に吝かではない。 そういう状況下でイスタルテは、田中さんがアーティファクトを使い続けると危険なのでアークの方で保護させて欲しいと彼らに自分たちの意見を伝えた。 「そちらも物的被害は最小限、こちらは人助け」 欲の皮突っ張らせて独占しようってのが出なければ、お利口に終わる話でしょ? 続いて寿々貴も、すぱっと田中氏を引き渡すよう要求する。 「彼と無意味でもやり合いたいなら止めないけど」 名の通っていそうな同行者の威光も、せっかくなので借りてみて。 (ちゃちい脅しでも使えそうな時は使わないと) 渡して貰えなければ強硬手段に訴えようと考えているのは彼女も同じある。 状況次第ではトランクを狙う2人にも協力してもらおうと寿々貴は考えていた。 「大人しく人質を解放しなさーい」 あばたも、最終手段を考えつつ……荒事の前にと意見を述べる。 「この状態でダメ、というのは難しそうだね?」 肩を竦めてそう言ってからフィクサードの男、盾脇順次は、其方がそれで素直に引いてくれるというのなら……と切り出した。 「フィクサードなら兎角、リベリスタ、しかもアークなら口約束でも信用できるしね」 一応と田中氏の意向をと聞けば、老人は少し考えてから質問した? 「こちらの皆さんが言われた事は事実なのですか?」 「はい、残念ながら」 でしたら、と。言い争いにすらならずに老人は同意する。 寿々貴、あばたの2人が田中氏を護衛するようにして退出し……それを確認したイスタルテが、アーティファクトも可能なら頂けますかとお願いした。 もちろん、それは出来ないと盾脇は即座に申し入れを拒否する。 この状態で……という先刻の発言からすれば矛盾はあるのだが、イスタルテは素直に頷いた。 「今回の件は恐山に一切メリットがないだろ?」 一方で、一間を置いて……零児はそう切り出した。 六道の牽制なら他に手段はあるはずだ。 盾脇の真の目的というのは…… 「アークに奪われた事にして、アーティファクトとデータを奪う気じゃないのか?」 そう言って彼は、盾脇の反応を窺う。 微かに表情が動いたようにも見えた。 「トランクもどうせ中身はなくて、奪われたとの理由付けなんだろ?」 だから、かまを掛けるように踏み込む。 「成程ね、よく考える」 「田中以外アークは連れ去ってないと逆凪・六道に報告できるぞ」 「それを誰かが信じると?」 「さあ、どうだかな?」 かわそうとする男に、単なる交渉材料が"一応"あると青年は意思表示をしてみせた。 「こっちの両取りは虫が良すぎるし、其方の利益が一切なくなる」 代替の利きづらいAFと適合者を分け合うのは妥当。 だから目的は残る研究データだ。 計画した盾脇優先で2対8程度ならどうか? 「実験データのうち、判明してる問題点の部分だけ知りたい。要は対抗する為の弱点さえわかればいいんだ」 それは六道だけでなく恐山への牽制でもある。 (だが俺等とは無関係の場面でなら十分用途はある筈) 「互いに利益のある提案だと思うが」 零児の言葉に、盾脇はわざとらしく肩を竦めてみせた。 「一応断っておくと、アーティファクトを強奪する気は全く無いよ」 そこまで逆凪に損失を与えると、恐山内での僕の立つ瀬がなくなってしまうかも知れない。 さり気なく、聞き流せそうな調子で盾脇は口にした。 「ま、取り分は減るけど仕方ない」 それらで零児も理解できる。 口に出せば言質を取られる、といった処か。 データのみが目的だったという事だろう。 その一部だけでも此方に渡すのを了解したのは……危険な橋ではあるが、アークの一員と交渉するという行為が布石になると考えたのかも知れない。 それじゃあその比率でと零児の言葉に肯定を返して…… 直後、盾脇は零児とイスタルテに鋭い視線を向け……大槌が巨体に似合わぬ機敏さで振り向いた。 ●トランク奪取 焔は4人が盾脇たちと話をしている時間を利用して、ヘキサと共に裏口から侵入していた。 店内に侵入後は念の為にハイテレパスでやり取りを行いながら、見つからぬように待機し……様子を窺っていたのである。 交渉が上手く進んでいない場合は田中氏の奪取に合わせて、上手く進んでいる場合は状況に合わせて。 状況を窺っていた2人は、タイミングを合わせるようにして同時に飛び出した。 一気にトランクを奪おうとするヘキサを妨害するように、振り向いた大槌が立ち塞がる。 「オラオラーッ! 蹴ッ飛ばされたくねーなら道を開けなッ!」 高速の蹴りを放つヘキサを狙って、大槌が銃口を彼の頭部へと向けた。 一方で、少なくとも盾脇は連絡を入れようとする素振りは見せなかった。 動こうとしつつ……零児とイスタルテの位置を考え、焔に対応しきれない。 そんな状況を利用するようにして、焔がトランクを奪う。 そのまま離脱しようとする2人に大槌が銃撃を浴びせた。 扉や壁が一瞬で砕け穴だらけになり、店内のガラスケースや積まれていたプラモデル等が粉々に壊れ、吹き飛び残骸と化す。 「やれやれ、油断はしてないつもりだったんだけど」 そう言いながら素早く閃光弾を創り出した盾脇に零児は口を開こうとしたが……結局、何も言えなかった。 或いは相手も察しているかもしれない。 例えば、零児の表情などから。 だが、正に……相手の立場、というものがあるのだ。 斬撃を放つ前に、周囲を閃光が満たす。 相手はそれを利用して攻勢に出ず、遮蔽を確保しようと移動したらしかった。 逆凪が来るまで持ち堪えるという心算なのだろう。 確かに合図などせずとも、これだけ派手にやれば充分だ。 此処まで……そう判断するしかない。 「あの老人を奪われたら、データの一部も盗まれたようなもんだ」 撤退しようとした矢先そんな一言を、耳に飛び込んできた吐き捨てるような口調の盾脇の言葉を聞いて。 零児は内心で一言呟くと、イスタルテと共にヘキサと焔に続くように後退した。 ●撤収 「……ストーカーとはいい趣味ですね」 「……この国には、口の達者なザコが多いな」 睨み合いの後に発した生佐目の誰何の言葉に、男は静かに答えた。 クレイジーイワン、その男に間違い無い。 竜一が、いつでも動ける姿勢で生佐目の前へと出る。 警戒すべきは、田中氏確保後の奇襲だった。 (影潜みや上空、壁に張り付いてたりとか) 警戒すべき場所はいくらでもあった。 逆凪の到着を早めるために何かするかもしれない可能性もあった。 だからこそ、2人は店の付近に潜んでいるらしいフィクサードを探していたのである。 アクセスファンタズムを利用して連絡を取りながら。 「誰であろうとも、店へは行かせない」 生佐目も戦闘態勢を取ったものの、自分から仕掛ける気は無かった。 相手も、少なくとも今の処はそうなのだろう。 互いに攻撃範囲には踏み込まず、距離を取って睨み合うようなその状態で……あばたと寿々貴が田中氏を連れて外へと姿を現す。 すぐに生佐目はフォローするように、2人の傍に、イワンから庇うように位置を取った。 その間に2人は急ぎ、寿々貴が用意した車に田中を乗せる。 「はいはい、頭下げて」 あばたがそう言って狙撃に警戒した姿勢を取らせ、寿々貴は急いで車を出発させた。 「安心してください。わたしらはこの界隈でも珍しい、カタギに手を出さないヤクザなんで」 走り出す車の内で周囲を警戒しつつ、あばたはそんな自己紹介をする。 そんな3人を乗せた車が完全に姿を消す前に、店内から争うような音と声が聞こえ、続いて銃声と爆発音が響いた。 其方に向かおうとするイワンを牽制するように、竜一と生佐目が動く。 竜一は妨害に徹し、生佐目が生命を蝕む漆黒の光をフィクサードへ放てば、イワンは反撃とばかりに2人に激しい銃撃を浴びせた。 だが直ぐに、何か指示があったのか2人から素早く距離を取る。 2人がそれにリアクションを起こす前に、店内から焔とヘキサが、続くようにイスタルテと零児も姿を現した。 先刻の爆発や銃撃は周囲に響き渡っている。 逆凪が急行してくる可能性は高い。 「下手に相手をするのもバカらしいし、逃げるわよ」 「よかったじゃねーか、捕まるまでの猶予ができてよ」 イワンに向かってそう口にしたヘキサを促すようにして、焔が駆ける。 (コレでお次は逆凪が来たら笑うところだけどね) 続くようにヘキサも背を向け、零児とイスタルテも2人に続いた。 生佐目と竜一も、4人をカバーできるように位置を取りながら店から離れる。 イワンからの追撃は無かった。 用意していた車に飛び乗り、6人も逃走を開始する。 負傷はしたものの深い傷を負った者はいなかった。 その負傷者の方も、イスタルテによって万全の状態に回復する。 「とりま、トランクの中身拝見といくか」 普通に考えてニセモノ……ヘキサのそんな予想通り、トランクの中に入っていたのはダミーだった。 念の為にと焔がトランクを破棄する。 先に田中氏を保護して撤退した2人へと連絡を取れば、襲撃は無く、追跡等も行われていないようだった。 どうやら当初の目的の方は果たせたようである。 「田中さんはエリューション化、フェイトとその喪失などに関して、どの程度知っておられるのでしょうか……?」 差し支えがないようなら、本人にその辺りの説明をしたい。 そう思うイスタルテを、皆を乗せて……4WDは先を行く2人に合流すべく、速度を上げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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