●犬のおまわりさん これはとある名物警官の話だ。 彼女の名前は『犬沢 巴(いぬさわ ともえ)』、通称『犬のおまわりさん』の名で親しまれる、下町勤務の警察官だ。 権力の犬でありながら下町の名物犬、もとい看板娘として親しまれているのは、彼女の人柄故か。 しかしそんな彼女には、ひとつ知られていない秘密があった。 そう、それは彼女が、ビーストハーフのリベリスタである事だ――。 ●下町警察官の事件簿 リベリスタ達が部屋に入ると、板チョコを持った『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)と見慣れない女性がいた。 「こんにちは!」 「こ、こんにちは」 シャキハキとした清々しい挨拶だ。婦人警官だろうか、実に様になっている。 問題は元気よく跳ねまわる尻尾と耳だ。柴犬のそれを無理やりとっつけたような姿は、もはや安直すぎて滑稽。 見たまんまの犬のおまわりさんである。 「彼女は下町勤務の『犬のおまわりさん』こと、『犬沢 巴(いぬさわ ともえ)』、ビーストハーフ。今回は彼女からの要請もあり、任務に同行する事になったわ」 「犬沢巴です! よろしくおねがいします! わふっ」 イヴは巴をなだめるように尻尾を撫でると、尻尾の振り幅が心なしか大人しくなっていく。 本当に犬みたいな人なんだなと誰となく思わされるが、実際犬なのだから仕方もない。 「……、で、今回の任務ってなんです?」 「それは私が説明しましょう! 本官が参りましたのは、私の勤務先で、エリューション絡みの不可解な事件が起こっているからです!」 急にキリリッとした表情で巴は話始める。揺れる尻尾の動きが止まるあたり、彼女も真剣なのだろう。 チョコを頬張るイヴも神妙な面持ちだ。 「ここ最近、本官の勤務する区内を中心に、立て続けに金品の窃盗事件が起こっているのです。聞き込みによる情報を元に、本官がハリコミを行った所、そこに現れたのは真っ黒な姿をした犯人でした……!」 「犯人出てきたのかよ、捕まえられなかったのか?」 「それが、現れたのはカラスだったんですよ。カラスは光るものを集める習性があるらしいので、なるほどなぁ、と思っていたのですが……」 巴が急に静かになった。まるで怪談話でもったいぶるようにしながら呟く、「見たんです」と。 「な、何を見たんだ……?」 「それは……あっ、ちょっと失礼」 中断。巴はイヴの口元に付いたチョコをハンカチで拭い始めた。 「んむ……」 世話好きなのだろうか。一方のイヴはどうにも迷惑そうだ。 「こほん」と咳払いをし、再び巴は語り始める。 「本官は泥棒カラスの巣を見つけようと後を追ったのですが、なんとそこに、ガラスでできたカラスがいたんです!」 「ガラスのカラス? なんだそりゃ」 「カレイド・システムの見解としては、E・ビースト、フェーズ2、通称を『カラスガラス』。全身を透明化する力を持つ。加えてE・ビースト、フェーズ1、通称『カミカゼ』という鴉を従えているわ」 板チョコを口に咥え、両手で資料をテーブルへと並べるイヴ。 ガラスの身体のせいで姿が良く見えないカラスガラスと、背景に飛ぶ鴉。 一見すると黒が目立ちすぎて、黒い影が蠢いているようにしか見えないほどだ。 資料にはアクセサリーを盗まれたおばさんの悲痛な叫びや、お小遣いの500円を取られた子供の無念が何件にも渡って書き記されている。 エリューション絡みの事件に関わらず、幸いにも軽度なけが人が出ているだけで、死傷者がいない事は幸いだろうか。 「ホシは身体の弱いお年寄りだけに留まらず、国の宝である子供まで襲ったのです! その悪逆非道の数々、決して許すわけには行きません! わふっ!」 「まぁというわけだから、彼女と協力して敵を撃破。数は多いけど、貴方達ならできるはずよ」 イヴはパキンと板チョコを噛み割ってみせる。 「……食べる?」 「いえ、本官チョコレートはちょっと」 「あぁ、犬だもんな」 ●硝子の鴉 黒い影が一つ、キラリと輝くネックレスを咥えて山へと飛んでいく。 カミカゼだ。カミカゼは獲物を自分の巣ではなく、あるところへ運ぶ。 山の中でも一際大きく育った木に、巨大な巣が作られていた。 巣には大量の光りモノが貯めこまれている。カミカゼもまた、ネックレスを大きな巣の中へ投げ入れた。 しかし投げ入れられたネックレスは宙に浮いたままだ。一向に落ちる気配がない。 その時だ。透明な水に絵の具を垂らしたかのように、ネックレスの周囲が色づいてゆく。 ネックレスを口に咥えた黒い影。その瞳は水晶のように透き通っていた。 美しい輝きを放つソレらを見つめる硝子の瞳は、欲望に塗れ曇りきっているというのに――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月25日(火)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●市民の平和は 作戦司令部にて。 「今回作戦に同行させていただく犬沢 巴です! よろしくおねがいします! わふっ!」 巴は背筋をピシっと伸ばして一同に敬礼してみせた。 婦警帽を脱ぐと犬耳がぴこぴこ、くりんとカールした尻尾はふわんふわん左右している。 「犬吠埼 守です。市民の安全を守るため、共に頑張りましょう! よろしく、犬沢巡査!」 『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)。現在は警備会社に務める彼も、元は巴と同じ警察官である。 角度が美しい敬礼を返す守。はためには自然な警官同士のやり取りにみえる。 「麗葉・ノアであります。犬沢先任! 必ず盗まれた品を取り戻し、困っている人達に届けましょう!」 『ギャロップスピナー』麗葉・ノア(BNE001116)が加わると、先輩警官二人と後輩一人の図が完成だ。三人並んだ統一感はじつに素晴らしい。 だが、その空間は一瞬にして混沌へと誘われる。 「拙者は正義のニンジャ! ジョニー・オートン! 老人や子供を狙った悪行、決してゆるしてはおけない!」 「わうっ?! なんですかこの怪しい人は!?」 忍者だ。否、忍者とは異次元の何かだ。そのはちきれんばかりの筋肉は、アメコミヒーローの其れにしか見えない。 『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)の登場により、清く正しい日本の風景は砕け散った。イヴはこう所感を吐露する。 「今日は初めからかっ飛ばしてるのね……」 ●カミカゼ特攻! 夜の山中は暗く、光源に乏しい。 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が握る懐中電灯の光は、足元を照らしだすので精一杯だ。 「暗いわね。敵を探すなら動物達の声に耳を傾ける方が早そうだわ」 こんな暗い中であっても、夜行性の動物達の声が聞こえてくる。その声は雑多で取るに足らないものばかりだが、中には気になる物が含まれていた。 『オルフェウス、オルフェウス……!』 『なんだ……、アキレウス……』 『奴らだ、人間たちが来たぞ……!』 『人間? フッ、ついに来たか』 声の出処は不明瞭だ。だが確実にこちらを見つめ、出方を伺っている。 氷璃は辺りを警戒するよう仲間に合図を送る。全員は木々の影に隠れ、『足らずの』晦 烏(BNE002858)は集音装置を頼りに動物達の鳴き声に耳を傾けた。 暗視ゴーグルでその動物の姿を確認すれば、その正体がカラスである事がわかった。 「アタリだ……。確認できるだけでも、かなりの数が待ち伏せてる。気をつけた方がよさそうだ」 「犬沢殿、カミカゼがいるかわかるでゴザルか?」 「はい、ちょっと待って下さいね」 巴は軽く鼻先をヒクつかせて匂いを確かめるが、すぐに表情を曇らせた。 カミカゼは火薬の臭いを放つ。その特性を考慮し、注意深く鼻を鳴らして。 「……二時方向、および五時、九時、十一時方向。囲まれてますね。ガッツリさんなら見えませんか?」 「おっ? 任せるお」 鋭敏な鼻を持つ巴が頼ったのは、『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)というなんとも変わった名前のリベリスタだ。 彼女は『幻想殺し』の異能を持つ。その力はあらゆる隠蔽系能力に絶対の優位性を持つ。さらにガッツリは千里眼を持つ。彼女は本作戦における要だ。 「おー。十二時に親玉っぽいの発見。それにカミカゼっぽいのもウジャウジャ、全部で十一匹だおん」 「十一匹?」 リベリスタ達は首を傾げた。一匹足りない、残りの一匹はどこに行ったのだろうか。 『ふっ、愚かな人間どもめ』 「……! マズい! 散れ!」 その時だ、誰よりも先に『何か』に気づいた晦 烏が叫ぶ。 とっさに一同はその場から飛び退く。その場を離れようとした瞬間、背後でロケット砲でも打ち込まれたかのような爆発が起こった。 カミカゼによる自爆特攻である。 『勇敢なる十二星座の戦士に続け! 人間どもを追い払え!』 ●放たれた閃光 カミカゼの着弾地点は木々が吹き飛ばされ、随分と視界が開けていた。 一撃の破壊力はかなりの物だ。幸いにもリベリスタ達は直撃を避けたが、脚の遅い守、烏、そしてノアの三人は爆風に巻き込まれていた。 丈夫な守や晦 烏は問題ない。しかし三人の中で一番脆いノアへのダメージは大きく、ノア自慢の脚を負傷していた。 「あっ……、脚が……っ」 「麗葉さん!」 慌てて『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)がノアに駆け寄る。凛子がノアの状態を伺うと、彼女は満足に歩けそうにないような状態であった。 治療が必要だが、凛子には先にやらなければならない事がある。翼の加護によって味方が空中戦をできるようにしてやる事だ。 ここで応戦が遅れればより多くの負傷者を出す事になる。凛子はそう考えると巴を呼びつけた。 「犬沢さん! こっちへ!」 「わふっ! なんですか!?」 「少しの間、この子をお願いします!」 巴がノアを庇い樹の間に隠れる。凛子が翼の加護を準備する一方、他のリベリスタ達はすでに応戦を始めていた。 飛来する夥しいカラスの群れ。敵の動きは早く、いくらガッツリが敵を捕捉できても、それを味方に随時伝える暇はない。 ガッツリはジョニーと共に、敵の司令塔であるカラスガラスを狙う。カラスガラスに手持ちのペイントガンを当てることさえできれば、戦局はこちらに傾くだろう。 「助忍! アイツを何とかしないと長引くおん、さっさと片付けた方がいいお」 「わかったでゴザル。部下に戦わせて自分は安全な所でふんぞり返っているなど許すまじ! 拙者が成敗してくれるわ!」 二人がカラスガラスを狙おうとすれば、カラスの大群が二人の元へ飛来する。 『奴らを行かせるな! いくぞアキレウス!』 『あぁ、我らの神をお守りするのだ!』 晦 烏はそのタイミングを見逃さなった。 「後で手当はしてやっから、しばらく寝てろ!」 晦 烏の手に光が収束していく。拳を握ればさらにその光は小さく圧縮され、溢れんばかりの輝きを内に秘める。 『神気閃光』、晦 烏は太陽のように眩いソレをカラスの大群目掛けて放り投げた。 閃光瞬く。 『なんだ?! この光は!?』 『これがメギドの火……! 世界が終焉を迎えようとしている……!』 『グワァァァァァーーーーー!!!』 バタバタと夥しい数のカラスが墜落する中、少数だけが依然として飛び回っている。カミカゼだ。 「飛んでるのがカミカゼだ! 近づいてくる前に撃ち落せ!」 「やたらキャラの濃いカラス達も落ちたことだし……、すぐに貴方達も撃ち落としてあげるわ」 戦場は混乱している。氷璃は味方を巻き込まぬようマジックミサイル用の魔法陣を展開し、カミカゼに狙いを定めた。 魔力の塊が名の通りミサイルのように尾を引いてカミカゼを追尾する。カミカゼは魔弾から逃れようと木々の間をすり抜けていく。 だがマジックミサイルはその背中を追い回し、ついに逃げ切れなくなったカミカゼを捉えた。 魔弾が炸裂し片羽がはじけ飛び、墜落するカミカゼ。その落下地点では爆風の後、火の手が上がった。 ●イージスの盾 ようやく凛子がノアの治療に回ろうかという中、身動きの取れない二人を狙ってカミカゼが迫る。 「危ない!」 巴は二人を守ろうと身を挺して前に出る、無謀だ。 「おいおい、無茶すんなよ」 何かが巴の視界を遮る。カミカゼ特攻。爆音が轟いた。 「あっ、貴方は……!」 巴の目の前に立っていたのは、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)。巴達は彼の大きな背中に守られていた。 和人の上着は焼けて灰となり、身に纏う装甲も表面が黒く焦げてしまっている。だが和人はカミカゼの自爆特攻を受けてもなお、膝をつくことすらない。 これもすべてクロスイージスの耐久力とタフさがなせる技である。 「無茶してるのは貴方じゃないですか……!」 「心配すんなよ、俺頑丈だからさ。あ、俺が倒れたら今度スイーツでも奢ってあげる感じで」 和人はジョークを言う程度に余裕があるのか、そう笑ってみせた。 「和人さん前! 前!」 「げっ」 一匹ではダメだと分かれば、カミカゼ達は何匹も束になって和人に迫る。硬さに定評のあるクロスイージスでも、流石にそう何匹も耐えられる物ではない。 『ちょっと待ったぁー!!』 そんな時だ、守は大声を張り上げカミカゼの注意を自分に向けさせた。 ただ声を張り上げたのではない。敵の注意を自分に集め、相手の精神をかき乱す技、アッパーユアハートによる挑発だ。 カミカゼ達は旋回し、守を追いかける。 「さあ来い、カラスども!ご町内の治安を乱す輩は、この俺が許さん!」 「ナイスだ守! そのまま引きつけててくれよ!」 「……! 待ってください! カミカゼの様子が……!」 守の挑発に乗って好き勝手に動いていたカミカゼが、急に隊列を綺麗に整えて飛行をはじめた。 カミカゼ単体でこのような芸当ができるとは思えない。カミカゼを指揮できる者がいるとするなら、それはカラスガラスだけだ。 ●ペインティングオペレーション 「おっおっ、逃さないおん!」 ガッツリはペイントガンを構えると、カラスガラスに狙いを定める。だがカラスガラスはペイント弾をひらりと避けて飛び上がり、木々すら届かない高さに出た。 凛子が翼の加護を授けていたことで、ガッツリはカラスガラスを追って森の上空まで飛翔する。 空中では葉っぱに触れて、僅かな音を立てることもない。透明化したカラスガラスは、どこに居るのか全くわからないほどあたりに溶け込んでいる。 だがガッツリの眼には見えるのだ、カラスガラスの姿が、動きが。その眼を頼りに、ジョニーもペイントガンをガッツリと同じ方向へ向ける。 「! じょ忍逃げるお!」 「むっ! ぐあっ!?」 ジョニーの身体に無数の硝子の羽根が突き刺さる。敵の攻撃を確認してからガッツリが声を出したのでは、避けることは困難だ。カラスガラスもソレに気づいたのか、攻撃がジョニーに集中する。 鋭利な硝子の羽根による見えない攻撃に、ジョニーはただ耐える他なかった。 「グッ、今のうちにカラスガラスを!」 ジョニーは叫ぶ。カラスガラスはジョニーへ攻撃するため動きが止まる、それは敵の攻撃してくる方向が同じ事からすぐに解った。 ガッツリはジョニーが的になっている間に狙いを定め、ペイントガンのトリガーを引く。 べちゃり。ペイント弾がカラスガラスに命中した。すかさずガッツリはAFでペイント弾が付着した事を仲間に伝える。 『やったおみんな! これでカラスガラスを倒せるお!』 『でかした!』 『わふっ! やりましたね!』 その報告を聞くと、早速リベリスタ達は動き出した。ノアも十分に傷が癒えた事で戦線に復帰する。 「さっきの借りは返すであります!」 脚の調子は良好だ。ノアは素早く敵を仕留められる位置に移動すると、手首に装着された一二式多目的投射器を展開する。 「スターライトシュート!」 放たれた光弾がカミカゼを襲う。無数に分かれた光の線はカミカゼを貫き、着弾地点から火花が散る。 カミカゼの耐久力は低い。たとえその一撃が急所を反れても、カミカゼを撃ち落とすには十分だ。 「私も負けていられませんね! わふっ! 犬沢 巴、行きます!」 「マテ」 「わんっ!」 巴が勢いのままに前線に出ようとすると、凛子がそれを呼び止めた。 反射的に巴は動きを止める、掛け声が犬なのはもはやビーストハーフの宿命だろうか。 「お座り、お手!」 「わんわん!」 そのまま凛子はついついお手までさせてしまう。反射的に応える巴も巴だが、我に返った凛子の方が恥ずかしそうな顔をするのは不思議な話だ。 「コホン。むやみに近づくと爆風に巻き込まれかねません、ここは堅実に遠くから攻めましょう」 「りょ、了解です。わぅ」 『ホントは自分がお手をさせたかったのに』そんなリベリスタ達の羨望のまなざしが自分に向けられていた事を、凛子は知るよしもない。 ●本日も晴天なり 戦局は傾いた。ペイント弾によってその姿を晒したカラスガラスは、すでに翼をもがれたも同然だ。 カラスガラスは持ち前のスピードを活かして戦闘を続けているが、数人掛かりで捕らえられない相手ではない。 それにリベリスタ達の攻撃から逃げるので精一杯になれば、カミカゼへの指示もおろそかになっている。命令が突然途絶えて混乱しているカミカゼを落とすことは容易だ。 「逃さないお! じょ忍!」 「御意!」 ガッポリが牽制しカラスガラスの注意を引く中、ジョニーは身体に突き刺さった無数のガラス片を引き抜く。そして深呼吸をすると、カラスガラス目掛け飛翔した。 わずかにジョニーの接近に気づくのが遅くなったカラスガラスは、ジョニーから逃げようと旋回する。 遅い。ジョニーは一条の飛矢と化す。 「ジャスティス、ナックル!」 拳に気を集中させ、その胴体に拳打を打ち込む。土砕掌だ。 打ち込まれた拳がカラスガラスの表面に亀裂を生む。それだけではない、拳の纏っていた闘気が体内に流れ込み、弾けた。 硝子の彫像めいた鴉の造形美が砕け散る。飛散した破片は月光によって綺羅々と光り輝き、粉塵に帰す。 カラスガラスは一番好きなモノになれたのだ。不本意な皮肉か、あるいは本望であったことだろうか。 完全に司令塔を失ったカミカゼを駆逐する事は、リベリスタ達にとってそう難しいことではなかった。 「十一……、十二……。これですべてですね」 「わふぅ……、結構捕まえるのに苦労しました」 凛子が今まで倒したカミカゼの数を数えると、ちょうど十二匹。 これで帰れると誰と無く思う中、巴は何かを思い出したのか尻尾をピンっと立てる。 「あっ、そうだ。盗まれた物を探さないと」 「そうだったな。氷河君、また翼の加護を頼めるか」 「えぇ。そのために私たちに頼みに来たのでしたら、そこまでお付き合いしますよ」 烏が凛子に翼の加護を頼むと、凛子は快くそれに応えてくれた。巣は高いところにあるため、飛べる事は非常に役に立つ。 カラスガラスの巣は光りモノを蒐集するための作ったかのように広く、あたかも宝石箱のようである。 「犬沢巡査ー。本官もお供するでありますー!」 ノアも加わって巣からの荷降ろしが始まった。巴は盗難届の数からどの程度の荷物を持ち運べればいいか考え、大きなリュックサックを持ってきていた。 しかし実際入れてみると全然足りない。明らかに盗難届が出ていない物もたくさん入っていたからだ。 仕方なく各自持ち合わせた荷物入れやビニール袋などに詰め込んでみたが、それこそ一人で持って帰るなど不可能な量。こんな時にもリベリスタ達が八人居ることが役に立つ事となる。 「いやぁすみません、何から何まで」 「なんで私まで荷物持ちなんか……」 帰り道、偶然にも氷璃は巴と隣合う事があった。ふと暇な帰り道である事を思い出したのか、氷璃は前方にいた和人と守を見る。 「ああ、そうだわ――。恋人なら和人、結婚相手なら守が良いと思うわよ?」 「えっ?! な、なんですかいきなり!?」 巴の尻尾がぞわりと逆立つ。脳裏に浮かぶのは今年も実家から送られてきた見合い写真と、母のお小言。 「なにって、貴方のプロフィールデータを見て少しね。まぁ、守はあの顔でまだ二七だけど――」 「私より年下?!」 こんな他愛無い話をしながらリベリスタ達は帰還した。持ち主に失せ物を返す事になったのは、その翌日の事となる。 失せ物を持ち主に返す手伝いに守が駆けつけ、二人っきりで交流を深めるかに見えた。 だがそこにダークホースが現れる。晦 烏だ。彼もまたわざわざ手伝いに来てくれた物好きの一人であり、結局三人で返却していく事となったとか。 その日の出来事は、アークの報告書にも載ってはいない。 ●5% 「遺失ぶっぽー鉄人28条に基づき、拾いもんの5%~20%の報労金を請求するお」 ガッツリ=モウケールの爆弾発言に作戦司令部は凍りついた。 テーブルの上には唐草模様の風呂敷の上に、指輪や宝石類がざっくざく。 「……はい?」 イヴはもひもひと食んでいた板チョコを、ぽろりと床に落とした。 「名は鯛を洗わずにゴザル」 「やけに張り切って事後処理こなしてると思ったら」 ジョニーと和人は呆れる以上に、一周めぐって納得していた。 にこにこ笑顔のガッツリにイヴは頭痛が痛い(誤字にあらず)と言わんばかりに頭を抱えて。 「はい、ごほうび」 ひょいと拾いあげた食べかけの板チョコを、ガッツリに手渡した。 「お?」 「ソレはダイアモンドより高価よ。メリークリスマス」 すっと風呂敷ごと宝石類をかっさらい、イヴはほんのり小悪魔チックに笑った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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