●狂信たる無骨性 男の胴は、腕は、確かに鍛えあげられ、樹木のそれに喩えられることも成る程、確かな整合性を持っていると言わしめるレベルだった。 だが、革醒者と呼ぶにはそれは貧相な部類に入ると言われても仕様のないレベルではある。少なくとも、狂気と殺戮を主とするその組織では。 だが、それでも尚、男は無骨に鍛え上げた肉体を戦場に晒し続けた。 雨ざらしの石や、川底の岩が何れ洗練されて行くように、その男はただ立つことを研ぎ澄ませた。 倒れない。 それは、彼を示す至極当然たる称号であり認識である。 だが、それでも彼は奢らず甘んじず腐らず零さず、語らうことをも護ることに注ぎ込んだ。 「……鞍州木ィ、TEメェまた出歩く気か」 「逆真、他人、無視する。俺も、そうする」 背後から響く盟友・逆真の軽く咎めるような声に、鞍洲木と呼ばれたその男は単語の羅列で応じた。 ただ出歩くにしては随分と装備が整っている。最近は確かに夜気が濃くなったが――そこまで、この男が警戒するものだろうかと逆真は思う。 だが、彼の単調な言葉の羅列から、そして自分たちの有り様から、その言葉の意味を推察した彼は軽く、笑う。 「Nだよ、そういう面白ェことに噛んでるNAら俺も混ぜろよ鞍洲木ィ。お前ェアREだろ、どうせどこぞNOリベリスタ共に無理難題ふっかけTEンだろ? 『俺を動かしてみろ』とか、ンなくっだらねェ命題で!」 「半分、正解、だ」 逆真の言葉に、僅かに鞍洲木は動きを止めて振り返る。その懐から現れたのは、ただひとつの塊である。卵、に類似しているだろうか。 おどろおどろしい色合いをしたそれは、しかし対峙するフィクサードを笑わせるに足る狂気を孕んでいた。 「『俺を退かせ、砕いて、みせろ』……悪くない、賭」 「BACCA野郎、そんな――面白すぎンだろ!」 騒ぎ立て、或いは静かに。やはり彼らは狂っていて。 その胸に掻き抱く狂気の象徴は、誰に頼るでもなく護られていた。ただ、戦闘を望むものの狂気に触れて。 ●マルチバッドエンドメイカー 「世界はどう転んでも不幸になるように作られています。少なくとも、一部のケースに関しては」 「それをハッピーエンドにするのが俺たちだろ。最初から諦めんな」 小さな卵――塗装されているから、イースターエッグの類だろうか――に軽く指を向け、そんなことをのたまう『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)に対し、リベリスタが向けた渋面は苛立ちにまみれている。 ハッピーエンドにしてみせろ、とでも言いそうなこの男がこれである。一体何を持ち込んだのか……答えは、その卵の存在意義か。 「主流七派『裏野部』エージェント、逆真(さかま)、鞍洲木(くらすき)。本来は彼らと組んでいる一名が居るようですが、その手合いは関係ないので今回は置いておきましょう。 問題は、彼らが行おうとしている『ゲーム』について、です。何か理由を付けて殴りたい、それを理解している彼らであるが故のくだらない話ですが……アザーバイドの卵を、彼らは保持しています。 毒の特性が強いそれは、単に孵化することも相当に危険ではありますが、問題は孵化を許さず破壊した場合です。破壊時に撒き散らす毒ガスは周囲一帯を覆い、死毒クラスの毒を与えるでしょう。 ある意味、神秘性の爆弾のようなものです。どう転んでも、辺り構わず被害を撒き散らす。鞍洲木は、これを持ち出すことでここ数日リベリスタを翻弄し、強制している」 「ああ、つまり『壊してみろ、壊しても壊さなくても地獄だぞ』と。そういうことか? っていうか『毎晩』?」 「ええ、毎晩。大体の場合、彼一人で出陣し、彼一人で蹂躙し、その卵を持ち帰るわけで。未だ孵化に至っていないのは、恐らくそれに足る条件が整ってないからでしょう」 「で、それが整いそうだから行って来いと? それで、どうすうるんだ」 事情はまあ、ある程度理解できる。だが、そこに逆真が絡んでくるのは……やはり遊興目的ということか。 どちらにしろ、聞くにつけ解決法を何処に求めているのかが解らない。焦れるようにリベリスタが問う。 「……正直なところ、これといった解決策というものはありません。少なくとも、彼ら二人以外に配下ぐらいは連れているでしょうから、そう容易というわけでもありません。 ただ、一つだけ言えるのは、どちらに転んでも解決のしようはある、ということでしょうか」 アークのリベリスタであれば。 求めるものが分かっているのなら。 可能ではないか、と彼は問うた。 「ああ、そうそう……二人についてのデータはまだ不十分です。無理だけはなさらぬよう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月21日(金)23:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●バッドエンドルート回避パターンA-1 「合言葉はブリッツ・クリーク!!! 余計な時間が惜しい,迅速に行動せよ!!」 心底楽しげに、狂った笑顔を見せる『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の言葉は、その場に居るフィクサードほぼ全員の不興を買うに十分な言葉であったことは、疑いようのない事実だった。 無論、本人は意識してやっているのだろうからタチが悪い。銃口を向けて開く口元の笑みは、どうあったって目の前の相手を挑発にきているとしか思えない。 「……言う、只、だ」 僅かに色めき立つ部下たちを窘めるように静かに声を向けた鞍洲木の表情に、動きはない。あたかも最初から、その程度想定していたと言わんばかりに。 (今ここで決着を着ける、と行きたいが……事はそう単純でもない) 『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)は、感情と思考の切り分けに於いて優秀な人間であると言える。 少なくとも、ここで感情を叩きつける事と任務を遂行することの板挟みに遭った場合、任務の遂行が第一目的であることくらいは、理解できよう。 いずれ何らかの決着を付けることを望むのは、当然だ。だが、今やるべきを確実に行う……動き出しはゆっくりと。繊細に、隠れ動く姿がそこにあった。 「逆真さんでしたか? あぁ、いえ、あなたとは初対面です。ただヘクスが個人的に知っていただけです」 「……噂半分にHA聞いてるGaなァ、俺NAんて知ってMO面白くねえZO小娘」 唐突な言葉に何ら感慨を示さず、呆れたように声を返した逆真に『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)は笑って応じる。 ただ、その笑みは明るさや朗らかさとは全く違う。不敵さや打算を秘めて戦場に現れた少女のそれである。戦いに来た、引いては『競り勝ちに』来たと言わんばかりの表情は、面倒なものに遭ったとばかりに表情の陰りを与えるに相応しい口上だ。 「アークの鉄壁を名乗る人を壱度倒していると聞いていたのですよ」 「……知らNE。欲深とKA、蹴散らSHIたクズの名前なんTE覚えてる訳無ェ」 再びに紡がれた彼女の言葉も、しかし逆真には毛ほどにも届かなかった。守りに長けた者だろうと、戦いに殉じた者だろうと、彼にとって取るに足らぬなら覚える義理もない。尤も、名前が通っていれば否応なしに見聞きはするだろうが、狂人が興味以外を向けるだろうか? 「正々堂々、姑息に狡猾にズルして美味しくつまみ食いっしょ」 「…………」 正面から正々堂々、その言葉を吐き出す『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)の表情は心底愉快そうだった。鞍洲木ですらも、それを本気で言っていると理解する程度には。 故に、彼は呆れるように首を振った。姑息さを明言する人間の厄介さは、彼の短くはない革醒者としての人生で重々承知だと言わんばかりである。 言葉ではどうとでも取り繕える。その深淵で真正面からの戦いを向けてくる意外性をこそ、警戒すべきと彼は知っている。 「裏野部にも面白い事を考える奴が居るじゃない!」 「Ha、アークにも冗句NO分かる奴がIルって事かァ! こりゃ――」 「アンタじゃないわよ馬鹿」 心の底からの笑いを上げかけた逆真の機先を制し切って捨てたのは『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)。 自らの可能性を進んで掴み、己のあり方を戦いに見出し、戦いの本質を見出そうとする視線の先には鞍洲木が居る。 「っTAく。鞍洲木ィ! ご指名入っTEんじゃねeか! 精々潰(や)っCHIまえよォ」 「相手次第、だ」 苛立たしげに逆真が叫ぶと、鞍洲木の表情は僅かに歪んだようにも見えた。やはりこの男、戦いに笑い殺戮に是を見出す裏野部の構成員として十分すぎる気質を持っている。 (流石は裏野部と言ったところ、狂人だ) 確認できるかぎりのデータでは、裏野部の構成員が毒を打ち消すに足る手段を持っていないことだけは確実であろう、と『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は踏んでいた。 クレバーに回避手段を持たず、目的達成のためなら多少なりの被害を顧みず戦いに挑む姿勢はある種賢く、底がない。 戦闘狂の集まりが故に、目的と狂乱が全てを左右する彼らの行動は決して看過できるものではないことを禅次郎は理解しているのである。 ――故に、リベリスタ達の策はどこまでもクレバーである。 刻限を遡る。 「ギャンブルは親が勝つ様に出来てるものだが、随分こっちの分が悪かないか」 ダクトテープを銜え、トラックに密封処理を施しながら『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が零した言葉は、正しくこの依頼の本質を衝いていた。 この作戦も打算で行なっているとは言え、あらゆる点に於いてリベリスタが不利だ。挑戦者の立場だから、というレベルではなく、どっちに転んでもアウトと言う点において。 故に、準備が欠ければ大幅な損耗は確実だ。おめおめとやられる性質ではないのは当然のことである。考えられる点に於いて最大効率を目指し、泥臭くも勝利をつかもうとする点はとても彼らしい。 幻想纏いに消えるそれが、後々機能すれば――成功も遠く無い、と思いたい。 「お望み通り、砕いて差し上げるとしましょうか」 「……ふん」 拳を固め、覚悟を決めた『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)に向けた鞍洲木の目は、暗い色を湛えていた。 まるで、何かを見透かす様に。そして、何事か決めたかのように。 その威圧感に、しかし五月が理解や恐れを抱く気配はない。当然といえば、当然か。 知らぬ者に怯える道理も、勝利を前にして恐怖する道理も、格上に遠慮する道理も彼女にはないのだから。 「さぁ、ねじ伏せて見せて下さい。砕いて見せて下さい。この絶対鉄壁を!」 「武で語れよ阿呆がっ!」 盾を打合せ、或いは手元のメスを振るい、構え、戦いに挑むリベリスタ達を見る目は……とても、澄んだ色した子供のような。 ●バッドエンドルート回避パターンA-2-α 詩人の腕が閃き、円筒の物体がフィクサード達の中に転がり落ちる。炸裂音と閃光は確かに二名ほどを巻き込み、その動きを制限する。 出だしは上等、とばかりに口元を歪めた彼の表情は、右肩上がりになるテンションを制すには愉快過ぎる状況だ。 動きを極力制限し、気配を隠すべく息を殺す葛葉は動かない。確実な一瞬のためには、戦いに加わることを耐える度胸も必要だ。 彼には、それが出来る程度の覚悟が備わっているということでもある。 「ちょっと付き合ってやるよ」 閃光の影――矛盾するそれを縫って現れた義衛郎は、神聖術師の胴に更に深く刃を刻み込む。既に行動が制限されていたとは言え、それ以上のダメージは確かに『まずい』部類に入る。 倒されるか否かで言えばまだ耐えられる様子を見せるが、しかしただ事ではないのは確かということか。 「あははははhhhhh」 続けざまに降り注ぐのは、手近な後衛の間合いに飛び込んだエーデルワイスの銃弾の雨。 最初から全力で全員を狙いに来ている彼女の速射は、確かに四方へと突き刺さり体力を奪いに行く……だが、タイミングか、もしくは僅かな内心の焦りが出たか。 思いの外多くを捉えることは出来ていない。それでも、掠っただけでその威力を理解させるそれは十分に抑止力足りうるものだ、とも言えるだろう。 「調子に乗るなよリベ公がァ!」 狂乱めいた声を上げたのは、後方に布陣していたフィクサードの一人だった。 苛立たしげに振るわれたナイフとその声の波長、動作、それら全てに感じられるのは――ただただ苛立ちを募らせる『何か』。 ダメージその他を一切顧みず、相手をただ挑発する為だけに練り上げたであろうそのレイザータクトの動きは、数名のリベリスタの足を止めるには十分な働きだった、と言えるだろう。 重ねようとした集中への感触が霧散する。握りしめた銃剣が軋みを上げ、禅次郎の足を動かした。 戦うこと、倒すことを目的としてはいたが、将来性の話と切り捨てた焔の感情を男の声が逆撫でする。 完全なる意趣返し――それに気付いていようと、抗えぬなら同じ事だ。 両者が一気に距離を詰め、禅次郎の一撃がその手合いを痛めつけ、焔が拳を固めたところで……横合いから、銀の拳がそれを弾き飛ばした。 「狙って、る、だろう。来て、やった」 鞍洲木が、レイザータクトへの進路を塞ぐ。身を包む白光が、戦場を包み破魔の波長をもたらしていく。 ブレイクフィアーに移動を交え、ブロックされた。ただ、それだけの行為の筈が、焔には途方も無い感覚に思える。 「言葉、責任、重い」 「――わかってるわよ。言ったでしょ。アンタの賭けに乗るって。勝負よ!」 無骨な声に、しかし応じない理由はなく、止める瀬もなし。 荷が勝っているなど既に知っている。足を止めたら負けるだろうというのだって知っている。であれば、一足飛びでの勝負に応じない理由もない。 叩き落された拳の角度を大きく跳ね上げ、鞍洲木の顎を狙う。割って入った『極防鉄槌』が、乙女の拳に穿たれて膨大な音が、衝撃が、爆ぜた。 「GAキィ、言ったYOな俺を止めRUってェ……!」 「はい。どの辺りに立てば一番殴りやすいですか?」 踏み込んだ逆真に応じるように前に出たヘクスは、明らかに挑発的な言葉を交え間合いに入る。 両者の思考は、実のところ共通している。『より楽しませる敵との邂逅』を、共に望んでいるのである。 間合いに踏み込み、力の限りねじ伏せる事を何より尊ぶ逆真と。 最大の一撃を全力で弾き、ねじ伏せるヘクス。 両者の行いのベクトルこそ違えど、その根幹の何処に相違があるというのだろうか。 「硬くて重い、そういうタイプの相手は得意ですよ」 「……童、め」 ブロックに向かい、出来るだけリベリスタ側の動きの散開を狙う……五月の策は、或いは可能性として悪いものではなかったのかもしれない。 だが、どれ程優れた作戦であってもタイミングが整わなければ凡策として戦場を動かすことは適わない。 同時に、戦場を動かすのは純然たる戦力のみではなく、個々の覚悟と能力であることもまた道理。 防御など関係なく、防御をも貫いて倒す。その覚悟で拳を固めた時点で、五月は彼女なりの『覚悟』でここに来ている。彼女なりに、全力である。 「私の拳も棘も、防御なんて関係ありませんから」 「精々、『重い拳』、を、向ける、ことだ」 茨に包まれた拳を、しかし拳や盾ではなく指先を開いて添え、受け流す鞍洲木。指先から神秘の破壊力が流れ込み、確実にその身を苛んでいるのは確かだが……それでも、想像以上に徹りが悪いのは五月とて明白に理解している。 「いーぃ的じゃねぇ、のッ……?」 余裕を持って、トドメのために、確実に。 最大効率を叩きだすために、トドメとして使われるべきだった詩人のメスがレイザータクトを貫く。 既に戦場に復帰した神聖術師の癒しが連続し、インヤンマスターが呪印を切り、構える状況では、それは止めになり得ない。 相応量のダメージではあるが、足りるを得るにはやや、浅いか。 「まだまだ、倒すまで倒れられまいよ!」 わざと大仰に、挑発的に、挑戦的に、義衛郎が吼える。戦えるという矜持と、狙うに足る強者であると感じさせる理解力をフィクサードに求める状況下。 それは神聖術師にとっても重く、激しい勢いを叩きつけていく……戦いとしては、優位性は高い。 少なくとも、各個の戦力に於いては十二分な戦いを進めていた、と言えるだろう。 だが、各個で上回ったとして総合力ではどうか? 数差を覆すに足る状況を作り出せるか? ――その結論が、結実するまでに大凡四十秒。 守るに足る状況がないリベリスタ達にとって、ダメージレースは死活問題となる。既に、フェイトの加護を消耗した者すら居る。 状況が待ってはくれない。その現実を前に、リベリスタは賭けに出る必要があった。 ●バッドエンドルート・A 幻想纏いに、ノック音が響く。 身を隠し、タイミングをはかっていた葛葉が、軽い動作から戦場に踊り出た。 「……このチャンス、逃しはせん……!」 「野郎ォ!」 葛葉を視界の端に捉えたレイザータクトが再び挑発を試みようとするが、既に五回目の挑発をして一度として徹らなかったそれが、ここで運良く彼に利する筈がないのは事実だった。 とは言え、彼の前に立つ鞍洲木のブロックと合わせれば、倒れた分の数差を対にする程度の状況は変わらない。 膠着させる事を目的としている以上、これ以上の状況は―― 「義桜さん、早く!」 そこで、レイザータクトは声を失った。 この状況下で堂々と、トラックを持ち出すというその暴挙。 数差を確実に覆しつつあるとはいえ、流石にそれは大胆だろう……そう、彼が意識し、意識を失う直前。 「ッMEェ……!」 「困った、性分」 片や、逆真が状況を理解し吼え猛り。 片や、鞍洲木がブロックしていた片一方――五月が崩れ落ちるのを一顧だにせず焔、そして自らの間合いに居た禅次郎を見据えた状況に、心の底から恐怖した。 「機動力を奪ってあげる、死になさ」 戦況を更に混沌たらしめるように、エーデルワイスが銃を掲げる。だが、トリガーを弾く指が上滑りし、続けざまに降ってきた氷の雨を避ける術もないまま、見上げる他無かった。 挑発を与えようとしたタイミングで、致命的に、振り上げられる生き残りの――ダークナイトの、闇の一撃。 「ヘクスは、鞍州木さんが結構好きなんです。初めて見ましたが……あの姿勢は憧れるものがあります」 だが、その激昂に水を差すようにヘクスが唐突に言葉を紡ぐ。 「私の拳が砕けるか、アンタの盾が砕けるか。楽しいわよね?」 指先の痺れが終ぞ止まらなくなったのを感じながら、焔は苛烈に啖呵を切る。 鞍洲木の盾――もはやアームガードでしかないそれが禅次郎へ振り下ろされる寸前、割って入った第三者が、笑う。 「私が前に出ないといけないとか! 狂気の沙汰こそ面白いってか。いてぇYO!」 「済まない、今行く!」 「いいから! 早いとこ行ってください!」 詩人が、片膝を付きながら禅次郎に意識を向ける。 奇策万策にしてリベリスタが状況を作り出す。荷台に乗り込んだ葛葉が、エンジン音の駆動を待たずして拳を卵に振り下ろし―― 「……あa。KOりゃァ」 「敢闘、だ」 やれやれ、と逆真がバスタードソードを掲げ、ヘクスに踏み込む。 鞍洲木が両手に備えられた盾を打ち合わせ、振り上げる。 トラックが、炸裂弾でも受けたかのように大きく跳ねる。 縦の力ならいざ知らず、側面から叩き込まれる様に跳ねあげた一撃がトラックのサイドパネルを凹ませる。 「――!」 「興味、ありますねぇ。魅せてくださいよ、その力!」 信頼すると決めている。背中を向けぬと言い切った。だから、目の前の男が振り下ろす一撃を受け止めると焔は、詩人は決めている。 「……あああァ!」 おざなりに見えて全力。一撃の重みが明らかに異質なそれを、ヘクスは全身これ防壁とばかりに踏み込み、受け止めた。 鉄壁に相応しい防御すら貫き、ちりちりと肌を焦がす破壊力は確かに恐るべきものだ。だが、耐えられないものではない……弾いた刃を翻した、二撃目ですらも。 乙女の拳は敢え無く砕け、胴を穿つ一撃となる。 絶対防壁は限界点を以て弾き、最駆動する血脈の修復力が立たせ続ける。 白衣は僅かに鮮血に染まった。しかし、倒れるにはまだ早い。 「悪Iが、終いDA。あいつGA無力化されたなら用はNEェ」 「……機会、見る、養え」 遠雷のように、閃いた。 数瞬を置いて横転したトラックは静かに、そこにある。回収されれば、然るべき場所で処理できることだろう。 それまで、毒の坩堝にありながら。達成感と毒の不快感の循環の中、葛葉はまどろみに堕ちていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|