● フィクサード主流七派『六道』首領六道羅刹の異母兄妹・『六道の兇姫』こと六道紫杏、彼女が造り上げたエリューション生物兵器『キマイラ』。 それらが神秘界隈の闇で蠢き始めて早半年以上。時間の流れと共に戦闘力・完成度を上げていったキマイラと交戦した者も多いだろう。 そのキマイラ達が、大将である紫杏と共に三ッ池公園へ大挙して押し寄せてきた。 直前に三ッ池公園は『楽団』の攻撃を受けており、アークが警戒を強化したのが幸いして、奇襲の効果は今回殆ど無かった。競合する『ライバル』の存在が彼女を焦らせたのはあるだろう。しかし、自信を強める彼女には『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)曰く、「バロックナイツのモリアーティ教授の組織が援軍を派遣している」という。 加えて、アークも『楽団』一派の攻勢に苦労させられているから好都合という話でも無い。紫杏の狙いはおそらく『閉じない穴』。キマイラ研究の向上の為、六道紫杏の更なる野望の為に穴を使って手っ取り早く崩界度を上げるつもりのようだ。 大規模な部隊を編成して『本気で攻め落とす』心算の紫杏派に少数で対抗するのは困難だ。アークも大きな動きを余儀なくされる。 そして、第一バイオリンのバレット、歌姫シアー以下『楽団員』が、六道、アーク問わず『強力な死者が生まれ得る状況』を見逃す事はあるまい。 必然的に三ツ池公園には三つの勢力が集う事になるだろう。どう転んでも良い事は起こらないのは火を見るよりも明らかだ。 斯くして、紫杏派と教授の連合軍に先んじて三ツ池公園に布陣したリベリスタ達。敵はキマイラ、そして虎視眈々と機会を伺う『楽団』も然りである。何の因果か、かつてここを占領したジャック・ザ・リッパー達と同じく聖夜を前に敵の迎撃をする事になるのだった。 ● 「みんな、集まってくれたな。今日は緊急事態だ」 集まったリベリスタ達に対して、真剣な表情で『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は切り出す。その気配にリベリスタ達は尋常ならざるものを感じた。 「あんた達もご存じの、『六道の兇姫』六道紫杏が開発した生物兵器『キマイラ』。それが三ツ池公園に大挙して攻めてくることが判明した。あんた達にお願いしたいのは、三ツ池公園の防衛だ」 『キマイラ』――リベリスタ達にとっては耳に馴染んでしまった名前だ。 複数のエリューションの特質を併せ持つ、最悪の怪物だ。この化け物を作るために、様々な場所で悲劇が引き起こされた。 「先日、ケイオス一派『楽団』の木管パートリーダー『モーゼス・“インスティゲーター”・マカライネン』の襲撃があってな。警戒を強化していたのが功を奏した。何でこのタイミングを選んだのかは定かじゃないけどな」 しかし、状況的に有利なのは不意打ちを避けることが出来、防衛戦の準備が出来ることだけだ。アシュレイによると、六道紫杏の背後にはバロックナイツのモリアーティー教授がいる。彼の組織、『倫敦の蜘蛛の巣』が援軍として付いているのだという。 「おそらく、彼女の狙いは『閉じない穴』。キマイラ研究の向上の為、穴を使って手っ取り早く崩界度を上げるつもりのみたいだな。己が道を究める為に妥協を許さいっていうのは如何にも六道らしい話だぜ。もちろん、こんなことを見逃すわけには行かない」 そこまで言って、守生は機器を操作すると三ツ池公園の地図が表示される。 「あんた達に守ってもらいたいのはここ。テニスコート脇にある十字路だ。ここに向かってくる敵を撃退して欲しい」 十字路を抑えておけば、相手の進軍を止めるのにかなり有利になる。逆に相手に抑えられると、自由な攻撃を許してしまう大事な場所だ。 そして、次に表示させたのはメガネをかけた小太りの白人男性だった。年の頃は30を過ぎているだろう。一見すると冴えない男だが、裏社会を生きる者が持つ油断の無さを感じさせた。 「ここにやって来るのはこいつ。『暴食の猟犬』デイブ=バスカヴィルという男だ。『倫敦の蜘蛛の巣』の一員で、イギリスではそれなりに評判のあるフィクサードらしい。それにこいつが持っている『ダートムアの魔犬』ってアーティファクトも厄介だ」 『倫敦の蜘蛛の巣』の中で殺し屋として知られているらしい。加えて、『ダートムアの魔犬』は強力なエリューション複数を召喚・支配する能力を持つ。召喚した魔物とのコンビネーションはロンドンでも知られているという噂だ。 「これだけでも厄介な状況だが、加えて『強力な死者が生まれ得る状況』を聞きつけて、『楽団』の連中も紛れ込んできている。正直、かなりやばい状況だ」 守生のただでさえ鋭い目付きが一層鋭くなる。 放置すれば六道紫杏は『閉じない大穴』を手に入れる。 戦えば『楽団』に死体を提供する結果になる可能性は高い。 それでも、リベリスタ達は戦わなくてはいけない。この世界を護るために。 「説明はこんな所だ。資料も纏めてあるので目を通しておいてくれ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 ● 「噂には聞いていたけど、やっぱり日本は食べ物が美味しいデブね」 温かい肉まんを小太りの白人は美味そうに頬張る。しかし、食べ方は汚く、口元に喰いかすが付いていてみっともない。言葉に訛りが強いのは日本語に慣れていないからだろうか。 増援としてやって来た男に対する嫌悪と苛立ちの表情を隠さずに、六道のフィクサードは男を呼ぶ。 「デブ……もとい、デイブさん……でしたっけ? そろそろ突入の時間です。準備して下さい」 「あー、うん。ちょっと待っててね。いやぁ、仕事で日本来られるなんて最高デブね」 言われて男、デイブ=バスカヴィルは肉まんを飲み込み、手に付いていた脂を舐め取る。 「さて、そろそろ始めよっかな」 そして、服で拭き取ると、武装として持ち込んだボウガンと一冊の魔道書を取り出す。 出でよ、死の門番。黒き猟犬、呪われた死の運び手。 お前達の贄はここにある! 流れるような詠唱の言葉を読み上げるデイブ。 すると、その周囲に魔法陣が展開され、漆黒の皮膚に身を包み、赤い目を爛々と輝かせた獣が姿を現わす。 「さぁて、始めるよっかな。極東の特異点、楽しみデブね。ブッヒッヒッヒ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月28日(金)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● おいおい、そんなにいきり立つなよ、ハイエナ共。 てめぇらはハイエナらしく、死肉が出来るのを待っていやがれ。 安心しろよ。俺はてめぇらに手は出さねぇし、てめぇらもうちと事を構えたって仕方ねぇだろ? なに、てめぇらの欲しいものはくれてやるさ。 それに……今日の主役は『箱舟』と『お姫様』だ。 俺達は精々、舞台を盛り上げてやろうぜ? ● 「来たみたいだな」 テニスコートの先からやって来る敵の気配を『ピンポイント』廬原・碧衣(BNE002820)はいち早く察する。人の数が5、巨大なものが1。情報通りだ。 「全く休まる暇が無いな。ま、仕事納めとしては丁度良い相手か」 年の瀬が迫る時期だというのに、のんびりすることも出来やしない。師走とはよく言ったものだ。ここを抑えれば、静かな新年を迎えることが出来るのだろうか。 (ここを通すわけにはいかないぜ!) 「クソッ、こんな所でデートするバカップルに味方する奴はみんな敵だ、クソッ!」 「逆じゃない、それ?」 「おっと、本音が」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)の口からぽろりと本音と若さが毀れ出る。三ツ池公園から逢瀬を交わす恋人達が姿を消し、百鬼夜行の怪物達が姿を現わす空間に変貌したのは昨年のことだ。その中で強引にデートを約束した恋人達も今頃園内をうろついている訳だがそれはさておき。近くに誕生日を控えた少年としては、恋人に祝われることも無く、こんなクソ寒い所にいなくてはいけないことが業腹なのである。 「戯れはその辺にしておこうか。来るぞ」 敵の来る方角を注視していた『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が合図をする。すると、闇の中から真紅の双眸を輝かせて、巨大な妖犬が駆けてくる。そして、猛烈な勢いでリベリスタ達の中へと突っ込んでくる。予備動作が長かったために余裕を持って躱せたが、巻き込まれたらただ事ではすまないだろう。 だが、 「まだだ」 オーウェンは警戒の声を上げる。 すると、駆け抜けて行った妖犬が唸りを上げて再び引き返してきた。 「ふうん……バスカヴィルの犬、ね。ま、犬だと思えば愛嬌があって可愛いんじゃない?」 『SCAVENGER』茜日・暁(BNE004041)は難なく回避すると闇のオーラをその身に纏う。手には長い鉄の塊を握り締め、戦意は旺盛だ。 その時だ。 ぽふっぽふっぽふっぽふっ 妖犬が戻って行った先から乾いた何かを叩く音が聞こえてくる。多分拍手のつもりだ。 そして、リベリスタ達が目をやると、そこから数名のフィクサードが姿を現わす。 「今の位じゃ倒れてくれないよね。出来ればさっさと終わらせて、蕎麦でも食べに行きたかったんデブけどね。日本の料理美味しいし、日本じゃ年末に食べるんでしょ?」 フィクサード達の後方で、ボウガンを構えた男がのん気そうな声を上げる。『倫敦』のフィクサード、デイブ=バスカヴィルだ。『六道』のフィクサード達はあまりにも空気を読まない発言に苛立ちを隠しきれない。『倫敦』に属する他のフィクサードはいつものこと、といった感じだが。 「日本の食べ物が美味いと言う事には同意しよう。私などは、既に祖国で過ごした年月より長くこの国に居るからな」 一方、アークのリベリスタ、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は頷いた。 「もはや米の飯が主食になっている様な勢いだから、来日したい気持ちは分かる」 故郷にいた頃は、それこそ犬のように、肉の缶詰ばかり食べていた気がする。変われば変わるものだ。しかし、それ程日本に愛着が湧いたからこそ言える言葉がある。 「しかし、その様な駄犬連れでは、断固入国拒否だな。もちろん、躾の出来ない飼い主も同様だ。早々にお帰り願おうか! デブのデイブ!」 銃剣を構えてベルカは状況の分析を開始する。 「左様。この街の明日の平和の為、ここは決して通さぬ!」 独特の忍者装束に身を包んだ『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)が身を屈めて、ナイフを構える。身を切るような冬の寒さも、熱い正義の炎に燃える彼の心を凍えさせることは出来ない。 この冬になって、バロックナイツが大きな動きを見せた。 アークとしても対応に大わらわと言うのが実情だ。 「斯様な忙しい時期に、襲撃を仕掛けてくる卑劣漢に、我々は負けぬ!」 「ボクとしてももっと暖かい時期が良かったんだけどね。『教授』の計算通り、お姫様が焦っちゃったからね。でも、こういう騒がしいのも良いデブよ?」 軽薄な笑みを浮かべる『倫敦』のフィクサード。 その表情にジョニーはギリッと奥歯を噛んで怒りを堪える。 しかし、『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)はけらけらと笑い出す。 「それは分かる。ぶっちゃけ世界が崩壊しようが私としちゃあ何でもいいんだけどな」 豊かな胸を震わせ、この戦いの全てを嘲笑うかのように。 しかし、その笑いは突然ぴたりと止まり、鋭い目付きでノアノアはフィクサード達を睨む。 「まあ、墓守としちゃあ墓荒らしは放っておけねーだろ? おけねーのさ」 その瞳に一瞬過った哀しみは誰を思ってか。その表情は墓守の使命と言うだけではない何かを感じさせる。 「だから、丁重にお引取り願うとしよう。……アーク流でな」 「そういうこった。何だか知らねぇがてめぇは随分大層なデブらしいじゃねえか。バスカヴィルの黒妖犬ってのも、相手にとって不足はねえ」 気だるげな表情を浮かべていた『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)は、金色の短剣を抜き放つと、自分の身体のギアを解き放っていく。 「でもま、一つだけ言わせて貰うぜ」 戦いへの集中力を高め、身体が速さそのものに作り替えられていく。 「狐より優れた豚なんざ、居やしねえ」 言葉と共にアッシュの身体が夜空に舞う。 「ぶひひっ、『教授』の立てたプランから逃げられる狐もいないデブけどね」 そして、デイブもエリューションに指示を飛ばすと、妖犬は勢い良くリベリスタ達に襲い掛かってくる。すると、脚甲のブースターを入れようとしていたオーウェンが、何かを思い出したかのように呟く。 「そう言えば『教授』の手下か。同じ号を持つ者として、調査せぬ訳には行かんな」 スイッチが入り、オーウェンは強力な加速と共に飛び出した。 「神秘探求同盟が第一位『魔術師』。……『奇術教授』オーウェン……お相手しよう!」 ● ベルカの銃剣が火を噴く。 放たれた呪いの弾丸に貫かれ、妖犬は怒りの咆哮を上げる。 (私達の作戦目的は十字路の防衛。その為には敵の脅威を排除せねばならない) ベルカの頭脳がフル回転する。 これこそ戦闘を的確に管理、展開する『戦闘官僚』たる所以である。 (優先すべきは『六道』及びビーストの撃破。これを為せば、目的は為る) 彼女に与えられた任務は敵を殲滅することではない。ならば、焦らず確実にそれを為せばいいだけの話だ。そのための一手がまずこれだ。 そして、そのための二手目。碧衣の放った閃光が戦場を焼き尽くす。彼女と比べて実力の劣る『六道』のフィクサードは元より、『倫敦』のフィクサード達も思わず目を覆ってしまう。 しかし、碧衣の顔には悔しそうな表情が浮かんでいる。 「やれやれ……厄介な相手だ」 相手の中で最大戦力の1つ、デイブは射程外に逃れていた。 発想は大体分かる。 自分だって耐久力に劣るから、後衛にいるのだ。もっとも、アイツの場合には違う。戦い慣れている以上、この場の中でもタフな部類に入るはずである。にも関わらず距離を取る理由は2つある。 碧衣が踏み出すとそれを察知して、わずかに下がっている。拘束系のスキルの怖さは承知しているのだろう。だから極力、的にされない位置を取る。そして、あの様子から言えることが1つある。あれは自分が傷つくことを恐れ、安全な場所にいたがる人種の動きだ。 腹立たしいが、いつまでもそれを気にしている場合ではない。 「グォォォォォォッォォォ!!」 妖犬は一声吠えると大きく息を吸い込み、リベリスタ達へ向かって炎を吐き出す。業炎はあっと言う間に広がり、リベリスタ達の身を焼く。 「すげぇな、こいつを何体も出せるのか」 感心したような表情を見せる影継。 思った以上に高い攻撃力だ。生命力が旺盛と言う話も聞いているし、これを複数並べられたら負けはしないまでも厄介なことになるだろう。幸い、こちらを甘く見ているのか、本気を出す必要を感じていないのか、1体だけだ。だったら、本気を出される前にケリを付けてやる。 「ぶれいくひゃー!」 両手を上げたポーズで『おかしけいさぽーとにょてい!』テテロ・ミーノ(BNE000011)が可愛い声と共に、戦場を目映い光で埋め尽くす。その光は地獄より漏れ出た炎を打ち払う。 さらに、『ぴゅあわんこ』悠木・そあら(BNE000020)が呼び出した癒しの福音が、見る見るうちにリベリスタ達の怪我を癒して行った。 「あたし達が支えるのです。頑張って下さいです」 「あぁ、任せておけ」 癒しの風を受けて影継は『六道』のフィクサードとの距離を詰める。 そして、気合一閃。 剣に込められた破壊のエネルギーが解放され、『六道』のフィクサードは切り伏せられる。その際にも影継はろにいる『倫敦』のフィクサードへの警戒も怠らない。今は後ろから銃を撃つのみだが、前に出てこられると厄介だ。 「マズい!」 「余所見をしている暇があるのでゴザルか?」 仲間がやられて焦る『六道』フィクサード。声がする方向を見ると、既にジョニーが肉薄していた。 「コォォォォォォォ」 ジョニーは腰を落すと、呼気と共に全身へ気を巡らす。 そして、放たれる掌打の嵐。 単に威力があるというだけではない。ジョニーの体内で練られた気は、一打ごとにフィクサードの内部へ伝わり、肉体の外では無く内側を破壊していく。 「お主が倒れるまで、殴るのを、止めぬ!」 一言一言に気合を込めて、ジョニーはフィクサードを殴りつける。 その勢いに圧されて、フィクサードはいつの間にやら退いていた。 「クッ……この程度で……!」 「ちょっと忙しい所悪いんだけど質問するよ?」 「なんだと!」 守りを固めていたフィクサードに暁が明るい声を掛ける。 「腕? 肩? 首? ドコがいい?」 「ふざけるな!」 「じゃ……ドコでもいっか。あは、いただきまーす♪」 激昂するフィクサードの首筋に噛み付くと、暁は血を啜り取る。 女装姿の少年が首筋に噛み付いているというのはなんとも背徳的な光景だ。 そして、暁は満足げに顔を上げる。口元は血でべったりだ。その時、『六道』のフィクサードは動かなくなっていた。前線に出ていたフィクサードが倒れることで、妖犬を抑えていたリベリスタ達に余裕が生まれる。にも関わらず、『倫敦』のフィクサード達はどこか余裕げな雰囲気だ。 「へー、噂にも聞いてたんだけど、やるんだね」 「あー、ああ! おいデブ。デブ・ブスデブ! 何、偉そうに踏ん反り返ってんだ、あ?」 ノアノアがデイブをがなり立てるように呼びつける。 「ひょっとして……僕のこと呼んでるつもりデブか?」 「そうだよ! ひょっとして、耳まで脂肪詰まってんのか? ただ太りすぎて動けねえだけの癖によ。おめー犬じゃなくてブタのビスハだろ、おい」 怒声と共に十字の光をデイブにぶつける。 デイブは矢で神秘の一撃を撃ち落そうとするが、威力を殺し切れるものでもない。 顔を十字の光に焼かれ、デイブはリベリスタ達を睨みつける。 「あははは、なるほどね。それじゃあ、六道ちゃん達もやられちゃったし、お姫様のためにも一頑張しよっか……!」 ● 矢が雨のように戦場へと降り注ぐ。 聞きしに勝るとはこのことか。 去年、この戦場での戦いに参加した者達は、1人の魔人の姿を思い出す。なるほど、考えてみればこいつらはあの化け物を生んだ国から来ているのだ。もちろん、『六道』のフィクサードが劣っているとは思わない。しかし、彼らが少数ながら精鋭であるのは事実だろう。妖犬の戦闘力も決して侮れないものだ。 「あっはっは。さっきまでの勢いはどうしたんデブかね? 逃げないと死んじゃうデブよ?」 台詞そのものは小悪党のそれでしかない。しかし、そう言う連中が力を手にするとろくなことが起きないことを、影継は経験として知っていた。 「外見に惑わされるな、こいつはイカした強さだぜ!」 「……んー、彼はなんかこう……脂が多くて血糖値高くて獣臭そうだから、あんまり食指が働かないというか。ありていに言うと、出来れば血を吸いたくないんだけどやるしかないか」 自分に刺さった矢を引き抜いて、暁は立ち上がる。そこから流れる自分の血を舐めたら、少し元気が出てきた気がする。 「やれやれ、もう一働きするとするか」 「うむ。心砕けぬ限り、拙者という刃は、決して折れぬ……!」 リベリスタ達の瞳が強い光を帯び、反撃が始まる。 犬を一部のメンバーが引き付け、フィクサード達に肉薄したのだ。 たしかにこの場にいる敵は手強いが、接近戦は不得手な連中が多い。そこに付け入る隙はある。そして、戦場を動かしたのは、アッシュの刃だった。 無数の光の飛沫を描く、雷獣の牙。 それを囮として、1本の長い棘を突き刺す。 「てめえは強いんだろうよ、だが俺様達の方がもっと強い」 妖犬が初めて悲鳴を上げる。痛みの王の名は伊達では無い。 「何せ、俺達はチームなんだからよ」 たとえ自分が倒れたとしても、後を託せる仲間がいる。だからこそリベリスタ達は無謀とも思える戦いに身を投じることが出来る。それは、自分の身を守ることに腐心する臆病な犬には分からない。 「ははっ、凄いね。これはちょっとやばくなってきたかな」 「その判断は少々遅かったようだ。我々はチームで戦っているものでね」 妖犬に対して円を描くような歩を踏み攻撃していたオーウェンが嗤う。 気付けば、アークの『教授』の巧みな誘導により、妖犬はフィクサードのいる場所を向いていた。 「……飼い犬に手を噛まれる、と言うのはどうかね?」 妖犬は何かに導かれるかのように妖犬は駆け出す。本来の主達を薙ぎ倒して。 そして、テニスコート近辺まで走り抜けた後に、先刻と同じように引き返してくる。待ち構えていたのはノアノアだ。 「それにしても、でけぇワンコロだな。何食ってんだピザか?」 拳を握り締めて、嘲笑うような表情を浮かべている。 「アォォォォォォォォォォン!」 「ヤンチャな奴の相手は慣れてんだよ、昔からな」 妖犬の眉間へノアノアの拳が吸い込まれる。そこから急速に生命力と精神力が吸い上げられていく。不当なる搾取とは正にこのことだ。 勘の鋭いものであれば、この時の彼女の表情が勝利への快哉では無く、失ったものに対する無念だったことを知っただろう。 「チッ」 舌打ちして逃げ去ろうとするデイブ。クリミナルスタア達も逃げる姿勢だ。 しかし、それをアッシュは見逃さない。 「てめぇが行くのはそっちじゃねぇ。そろそろ屠殺場へ行く時間だぜ、豚!」 無数の刺突でデイブを貫く。 どうやら、魔道書だけは守ろうとしているようで、逆に他の場所へは当たりやすい。 そして、一思いに心臓を貫こうとした時、どこからともなく小型の妖犬が姿を現わす。デイブは一歩先んじて、小型犬に乗ると、そのまま逃げ去って行く。 その背中にオーウェンが叫ぶ。 「Hey、Fatty. Tell your professor we will be waiting for him」 「It will kill, if it meets shortly!」 中指を立てて返してくるデイブ。 犬達が逃げ去る音が消えることで、ようやくリベリスタ達はこの場の戦闘が終わったことを確信する。ベルカだけが怪訝な表情を浮かべているが。 そこにアクセス・ファンタズムを通じて、連絡が入ってくる。 『六道紫杏が丘の上広場周辺に進撃。『無限回廊』を破壊したようです。可能なリベリスタは向かってください』 この場の勝利を収めたものの、状況はまだまだ芳しくないようだ。 頷き合うと、リベリスタ達はまた次の戦場へと向かっていく。 ベルカも心にしこりが残るが、移動を開始した。 (倒したはずの『六道』の連中が消えている……。あのデブめ、嫌がらせをしてくれる) そして、戦いは続く。 三ツ池公園をさらなる混沌の渦に呑み込みながら……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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