●異世界から来た不幸な男……。 「嫌なことばかりだ。何が嫌だって、俺の身体が嫌だなぁ」 寒い寒いと震えながら、その男は歩道橋の上から、足元を行き交う車を眺めている。一見すると、普通の青年でしかないその男だが、しかし、よくよく目を凝らしてみればその身の異常が見受けられる。 はぁ、と男が吐き出した息は白い。冬だから、白い息を吐いている光景などはよく見受けられるが、しかしその男の場合、その息は少々異常だった。男が息を吐きだした瞬間、男の周囲の気温が一気に低下したのである。歩道橋には薄く氷が張り付いている。 「っていうか、ここは何処だよ……? はぁ、寒い」 男は、自分が今どこに居るのか分かっていないらしい。男は、気付いたらこの世界に迷いこんでいたアザ―バイドと呼ばれる存在である。 男の皮膚は、真っ白でよく見れば氷と雪でできていることが窺える。そんな男の視線の先、店先に飾られていたサンタクロースと雪だるまの等身大の人形が、突如として動き始めた。 「なんだ……ありゃあ?」 動く人形など見た事もない男は、歩道橋を降りて現場へ近づいていく。男が到着した時、現場は大混乱だった。サンタクロースが袋の中から取り出し放り投げるプレゼントは、空中で爆発し、雪だるまは巨大な氷塊を作ってふらせている。 「あ……?」 男がポカンと口を開ける。その時、男とサンタクロースの目が合った。アザ―バイドである男から何か感じ取ったのか、サンタクロースと雪だるまは男めがけて疾走する。 「おいおいおいおい。ふざけるなよ。なんで俺がこんな目に合わなきゃなんねぇんだ?」 咄嗟に踵を返し、男は逃げ出す。街の人混みを抜け、辿り着いたのは人気のない学校のグラウンドだった。男はグラウンドの光景に見おぼえがあるのを感じた。確か、この世界に迷い込んではじめに見たのが、この光景だったから。このグラウンドの何処かに、元の世界に帰るためのゲートがある筈。 だが……。 「まずは、こっちの人形を片づけないとな」 はぁぁ、と男は盛大な溜め息を吐いた。これは、男なりの儀式である。溜め息を吐いて、俯いて、地面に座り込む。しばらくそうしていると、次第に男の身体は白く白く染まっていった。同時に、男自身の纏うオーラも変質していく。先ほどまでより、暗く不気味で冷たい雰囲気を纏う。 そして、ゆっくりと顔を上げた。男の顔は、氷でできた鬼の面で覆われている。 「………」 トランス状態、というものだ。自我を極限まで排除し、空っぽにする。こうすることで、この男はより強い力を手に入れる。代わりに、目標を排除するまでは戦闘行為を辞めることは出来なくなるのだが。 「………」 不気味な鬼面で顔を覆った男が腕を振る。すると、腕の周りには氷が纏わりついて、爪のようになった。 自我と引き換えに、男はアイスマンの真の力を行使する。 ●不幸な男と、降りしきる雪 「アザ―バイド(アイスマン)及び、E・ゴーレム(サンタクロース)と(雪だるま)が今回のターゲット。現在男に自我や理性は残っていない。近づく者を皆、敵だと認識して排除しに来るみたい」 異世界でいきなり変な人形に襲われては、それも当然かも……と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜め息を吐いた。 「本来は、決して好戦的な性格ではないのだけど……現状は間逆と言ってもいい。むしろ、自身の身を守るために積極的に戦闘に興じている節もあるわ」 要注意、とイヴは言う。今回は、アイスマンに加えて、E・ゴーレムも2体ほど存在している。 「とりあえず、E・ゴーレムを撃破すればアイスマンも冷静に為る筈。その後は、グラウンドの何処かにあるディメンション・ホールを見つけて送り返すなり、殲滅するなり、お任せするけど」 それまでは、積極的に攻撃してくるだろう、とのこと。 「アイスマンは氷の爪を使った格闘を得意としているみたい。サンタクロースに関しては、爆弾を使った攻撃を、雪だるまは氷塊を使った攻撃を使用」 隠れる場所はないから、注意してね、とイヴは言う。 「実質、今回の戦闘は三竦みといった感じ。上手く誘導すれば楽ができるかもだけど……」 それは、逆もまた在り得るということだ。 アイスマンと、サンタクロース&雪だるまに同時に攻撃されては少々面倒だろう。 「寒いから気を付けてね。なお、トランス状態ではないアイスマンは非常に(不運)で、寒さにも弱いみたい。トランス状態である現在は、クリティカル率があがっているみたいだけど」 そこも注意ね、とイヴは言う。 「ディメンションホールの破壊も忘れずに」 それじゃあ、と小さな手をふってイヴは仲間たちを送り出すのだった……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月21日(金)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●寒い夜……。 吹く風が肌を刺す。冷たい、冷たい風だった。 この凍えるような風を巻き起こしているのは、深夜の学校、そのグラウンドで戦う2体のE・ゴーレムと、1人の男だった。サンタクロースと雪だるま。それから、氷ででいた身体を持つ鬼面の男(アイスマン)が、グラウンドを縦横無尽に駆けまわり、激しい戦闘を繰り広げている。 その様子を、遠巻きに、木陰から眺める影が8つ。 「この世界へようこそ……と言って差し上げたいのは山々ですが……。冷静さを欠いてしまってはいけませんね」 白い猫耳をピコピコと動かし『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)がそう呟いた。垂れた目尻で、アイスマンを見つめている。 「異邦人、ですか。歓迎したいところですが、どうにも事態は許してくれない」 杏子同様、戦場を眺める『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)が、傍らに置いた槍を握りしめる。 「出来るなら、そりゃあ帰ってもらいたいしね。他は倒しちゃわないと」 ううん、と唸る『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が戦場を見渡す。 「そうですね。元の世界に送り返しましょう」 拳を握り『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)がそう言った。同時に、彼女の周囲に燐光が瞬いて、仲間達の背に光の翼を付与していく。 「それにしても、最近寒くなりましたよね。地球温暖化とか本当なんでしょうか?」 ぶる、っと身を震わせ『親不知』秋月・仁身(BNE004092)が手を擦り合わせる。吐く息が白いのは、その場の寒さのせいだろう。よく見ると、グラウンドはカチカチに凍結している。 ●吹く風は凍え、吐く息は白く……。 ボン、と地面が爆発した。否、爆発したのはE・ゴーレム(サンタクロース)の投げた箱型の爆弾だ。それを避けるため、アイスマンが後方に飛び下がる。それを負って、更に複数の爆弾と、E・ゴーレム(雪だるま)の放つつららが迫る。 アイスマンの避けたつららと爆弾が、リベリスタ達の潜んでいた木を吹き飛ばした。 咄嗟に逃げ出し、被害は0だが代わりにアイスマン達の前にその姿を晒す事になってしまう。 「……」 鬼面がリベリスタ達を捕らえた。氷で出来た爪を振りかざし、跳びかかる。 「私達は敵ではありません、落ち着かれよ!」 その爪を剣の鞘で受け止め『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が叫ぶ。しかし、アイスマンの動きは止まらない。流れるような連続攻撃。 それを鞘で捌きながら、アラストールは後退していく。 「いやはやホントに運がねーなぁアンタ。同情するぜ」 「ほんとにね。常時不運ってどういうことなの?」 ニヤリ、と笑う『ティンダロス』ルヴィア・マグノリア・リーリフローラ(BNE002446)が弓を引く。逆方向からは、『ハティ・フローズヴィトニルソン』遊佐・司朗(BNE004072)が拳に炎を灯し駆け寄っていった。 「………」 無言のまま、アイスマンは攻撃の手を止め、地面を殴りつける。瞬間、アイスマンを囲むように地面から突き出した氷の壁が、矢と拳を阻む。 氷の壁が砕け散った時には、既にその場にアイスマンの姿はなかった。大きく背後に飛び、戦場を離脱していたのだ。そんなアイスマンにサンタクロースが迫る。背負った袋から取り出した箱を、アイスマンへと放り投げた。 アイスマンは転がるように地面に倒れ込み、伸ばした足で箱を蹴り飛ばす。蹴られた箱は、まっすぐ上へ。運悪く、というか、丁度イスタルテの真下へと飛んでいった。 「え、ちょっと……!?」 焦りの声を上げるイスタルテ。そんなイスタルテを庇うように、間に割り込んできたのは生佐目だった。槍を振るって、箱を弾く。 「せいぜい、心安らかに帰る道を示したいものですが……」 なんて、呟いた次の瞬間。 ブツ、っと鈍い音をたて生佐目の肩につららが突き刺さった。バランスを崩し、落下する生佐目。つららを放ったのは雪だるまだった。 落下する生佐目を、レイチェルが受け止める。 「おっとと。危ない」 凍った地面に滑りながらも、なんとか体勢を立て直し生佐目を地に降ろすことに成功。そんなレイチェルの前に、アイスマンが迫る。氷の爪を振り下ろすアイスマン。しかし、地面から突き出した巨木に阻まれ、爪はレイチェルに届かない。 「アイスマンの相手は私が」 「私もいますよ!」 剣を抜き、アイスマンに斬りかかるアラストール。アイスマンとサンタクロースの間を分けるように、空中からはイスタルテが無数の弾丸をばら撒いている。 アイスマンを戦場から離し、その隙にE・ゴーレムを片づける算段となっている。とはいえ、サンタクロースはアイスマンに固執しているようで、その後を追って行こうとする。 そんなサンタクロースの前に魔術書を胸に抱いた杏子が立ちはだかった。 「サンタクロースに雪だるまとは、クリスマス一色な敵ですわね」 はぁ、と呆れたような溜め息を吐く杏子の周囲に、無数の魔弾が展開、射出される。サンタクロースが放った箱と魔弾がぶつかり、弾ける。 地面を覆った氷が蒸発し、蒸気が視界を埋め尽くす。蒸気を割って、飛び出してきた何かが杏子の肩を貫いていった。飛び散る血液。しかし、飛び出した何かは勢いを緩めず、そのまま背後にいた仁身に激突する。 「うっ……」 弓を手放し、受け止めたそれはトナカイの人形だった。仁身の手の中で、トナカイが爆ぜ、周囲に不吉なオーラを撒き散らす。 「生憎と、生まれてこの方クリスマスを祝ったことなんて無いんで、楽しみですね。プレゼントを貰えるなんて。例えそれが毒でも呪いでも、ありがたく頂きますよ」 手の平を血で汚しながらも、仁身はそう言う。 そんな仁身に向かって、更にサンタクロースは箱型の爆弾を放り投げる。魔弾で撃ち落とそうとする杏子だが、いかんせん数が多い。 だが……。 無数に降り注いだ矢が、杏子の撃ち漏らした分の箱を貫き、空中で爆発させた。 「やーこんなサンタが居たら世のお子様に悪影響がでるね」 「ルヴィアさん、悪影響どころか子供の夢が一気に壊れますわ」 撃ち落としたのは、犬歯を剥き出しにして笑うルヴィアだった。サンタクロースに矢を向けて、前へと出る。移動しながら矢を射るのはかなりの技術が必要なのだが、それを難なくやってのける辺り、スターサジタリーの面目躍如と言ったところか。ちなみに、徒弓と呼ばれる技である。 そんなルヴィアの背後に、氷塊を抱えた雪だるまが迫る。風に乗り、宙を滑空する雪だるま。だが、そんな雪だるまに横からぶつかる影が一つ。 炎を纏った拳で、雪だるまを殴り飛ばし、地面に叩きつけたのは司朗だった。 「さてそれじゃあお仕事を始めようか」 司朗は自身も地面に降りたって、拳を鳴らす。 「それでは、さっさと片付けましょうか」 槍を掲げ、司朗の隣に並んだのは生佐目だ。ハ虫類のようなその目に気力がないのは、寒すぎるからだろうか。それでも、戦意を喪失しているわけではないようで、槍にはどす黒いオーラが巻きついている。 「アイスマン以外は、倒しちゃわないとまずいよね」 白い杖を手に、レイチェルが言う。空中から戦場を見降ろし、戦況を確認しているようだ。 だが……。 「うえっ!?」 吹雪に煽られ、バランスを崩す。地面に叩きつけられる寸前で体勢を立て直したレイチェルの眼前に、鬼面のアイスマンが現れた。振るった爪がレイチェルを弾き飛ばした。吹雪に紛れ、溶けて消えるアイスマン。どうやらアイスマン本体の作りだした分身のようだ。 アイスマンを押さえていたアラストールとイスタルテもまた、分身に弾かれ地面に倒れていた……。 「いたたた……」 弾き飛ばされ、ぶつけた頭を押さえて起き上がるレイチェル。グラウンドの外れ、フェンスの真下に落下したレイチェルだったが、ふと顔をあげると、そこには人間大の大きさの穴が1つ。アイスマンが通ってきたらしい、ディメンションホールのようだ。 「おぉ、皆で探すまでもなく見つかった」 とはいえ、戦場は荒れているようで。 まずはアイスマンを大人しくさせないことには、どうしようもないのであった……。 「う、わァ!?」 地面から氷山が突き出した。氷山に押され、宙へと投げ出される司朗と、槍を突き刺しかろうじて氷山に貼りつく生佐目。そんな2人に無数のつららが襲い掛かる。仕掛け暗器でつららを弾く遊佐だが、回避しきれない。その隙に再び宙へと雪だるまが飛び上がった。風に乗り、宙を舞う雪だるま。そんな雪だるまに氷山の上から生佐目が飛びかかる。 槍を前に突き出し、雪だるまへと迫る。雪だるまを貫き、そのまま地面へ。素早く槍を引き抜いて、生佐目は背後へ飛び退いた。 駆けよってきた司朗と、雪だるまが交差する。雪だるまの胴に、炎を纏った拳が突き刺さった。 雪だるまが、背後へと弾き飛ばされる。 「まだ! 足元に気を付けて!」 戦場に復帰したレイチェルが叫ぶ。瞬間、司朗の足元から再び氷山が突き出した。宙へと弾かれる司朗。雪だるまが笑ったように見えた。 司朗の身体が、少しずつ凍りついていく。身動きが取れなくなるのも時間の問題だろうか。司朗を治療するために、レイチェルが杖を掲げる。杖の先に、淡い光が灯る。 「生佐目さん。投げるよ!」 凍りはじめた身体で、生佐目の足を掴む司朗。氷山を足場に、身を捻って生佐目を投げ飛ばす。投げた先には、空中で体勢を立て直したばかりの雪だるまの姿。生佐目の接近に気付き、つららを生み出すが……。 「遅いですね。これで終わりです」 前へ伸ばされた生佐目の手に、不吉なオーラが集まり、渦を巻いている。生佐目が投げつけるようにしてオーラを放出する。放たれたオーラが、つららごと雪だるまを撃ち抜き、消し飛ばす。 元の人形へ戻り、そのまま雪だるまは地面に落下。凍ったグラウンドに叩きつけられ、砕けて消えた。 雪だるまの消滅より、数分ほど時間は巻き戻る。 アイスマンとサンタクロースは、激しい攻防を繰り広げていた。遠巻きのその戦場を見つめながら、リベリスタ達は防御に徹している。氷の壁と、サンタクロースの爆弾がぶつかり、周囲に蒸気を撒き散らす。凍ったグラウンドの上で繰り広げられる激闘は規模を広げ、リベリスタ達もそれに巻き込まれていく。 「止めた方が、良いのでしょうね」 アラストールが呟く。それなら、と頷いて杏子が一歩、前に出た。魔術書を胸に抱き、左腕を前に突き出す。その手から、血液が滲みだした。とめどなく溢れだす血液は、一瞬で黒い鎖へと形を変える。杏子の顔色が次第に悪くなっていった。 血液によって生み出された無数の鎖は、濁流のような勢いでアイスマンとサンタクロースへと迫る。蒸気を撒き散らし、戦闘中の2体へと襲い掛かった。 「其処で大人しくしていただけると、助かるのですけれど……」 蒸気が掻き消された時、その場に残っていたのは鎖に巻かれたサンタクロースだけだった。アイスマンは鎖を逃れ、グラウンドの端へと逃げ出していたようだ。それを追って、アラストールとセイジが駆けていく。 残った3人、杏子とルヴィア、仁身はサンタクロースへと向き直る。 地面から突き出した巨木が、鎖を払う。自由になったサンタクロースは標的を変え、3人目がけ箱型の爆弾を投げつけて来た。箱は全て、3人の放った矢と魔弾で迎撃される。それならば、と今度はトナカイの形をした爆弾が襲いかかる。 「いい加減、落ちてくんねーかなぁ?」 やれやれ、とため息を吐きながらトナカイ目がけ矢を放つルヴィア。しかし、トナカイの勢いは止まらない。矢の弾幕を吐き抜け、トナカイはルヴィアに命中。爆発する。 しかし……。 「……もう少しならいけそうですね」 再びばら撒かれた爆弾を、四色の魔弾で撃ち落とす杏子。顔色が悪いのは、今まで受けたダメージの蓄積によるものだろうか。杏子の張った弾幕の間を、仁身が駆け抜けていく。爆発の余波が、彼の身にも襲いかかるが、それでも足を止める事はしない。 魔弾の間を抜け、飛び出した仁身。弓を引き、矢をサンタクロースの眉間に向ける。 「僕からもプレゼントです。僕の痛みも上乗せして返しますよ、っと」 キリリ、と弓が引き絞られる。番えた矢の先に、禍々しい黒い光が灯る。サンタクロースの足元から、ツリ―が姿を現すが……。 「とりあえず逝っとけ!」 ルヴィアの放った無数の矢が、ツリ―を打ち消した。 仁身の矢が放たれる。矢はまっすぐにサンタクロースの眉間を撃ち抜いた。サンタクロースの頭部が砕け散る。 「今度はもう少し夢のある役どころでお願いしたいですねぇ……次があればですけど」 足元に転がった、プレゼントの箱を拾い上げ、杏子はそう呟いたのだった……。 ●凍える夜のお別れ……。 「くっ……。敵ではないと言うのに」 剣で、アイスマンの爪を受けながらアラストールが呻く。アラストールとアイスマンの頭上では、イスタルテが落ち着きなく旋回していた。 「やーん。攻撃が激しいですよぅ」 フィンガーバレットをアイスマンに向けるものの、傷つけることを恐れ、撃てないでいる。 アイスマンが、地面を殴りつけ凍りの壁を出現させた。壁を避け、背後に下がるアラストール。それと入れ替わるようにして、イスタルテは前へ出る。 「これなら撃てますよ」 弾丸をばら撒くイスタルテ。氷の壁は砕けて消えた。瞬間、再びアラストールは前へ飛び出す。アイスマンの爪を剣で捌き、逃がさないよう肉薄する。 「……」 鬼面がアラストールの姿を捕らえる。方腕でアラストールの剣を受けながら、もう片方の手を地面に突き刺した。瞬間、アイスマンの足元から花のような形の氷が現れる。 氷に身体を貫かれながらも、アラストールはその場を引かない。仲間がサンタクロースと雪だるまを倒すことを信じ、身を張ってアイスマンのブロックに徹しているのだ。 「雪だるまは倒れたみたいです! あと少しですよ!」 イスタルテが叫ぶ。頷く事でそれに答え、アラストールは剣で氷の爪を弾き飛ばした。アイスマンが拳を振るう。吹雪が吹き荒れ、氷で出来たアイスマンの分身が姿を現す。 咄嗟に前へでたイスタルテが、両手を翳す。放たれた眩い閃光が氷で出来た分身を溶かしていく。予想外の事態にアイスマンの動きが止まった。 「今宵の演目は異邦人の救済、帰郷の道案内」 剣を鞘にしまい、アラストールが身体を前に倒す。鞘を両手でつかみ、柄の先端をアイスマンの顔面に叩きつけた。ピシ、と音がして鬼面に罅が走る。 丁度、アラストールの鞘が鬼面に当たったその時、サンタクロースも倒れたようだ。 氷で出来ていた、アイスマンの鬼面が砕けて消えた。そこには、目の焦点の定まらない青年の顔と、紅い目がある。 つ、とアイスマンの額から血が垂れた。だが、それ以外に目立った外傷は見受けられない。 「大した怪我がないなら重畳」 アラストールがそう呟く。同時に、アイスマンの身体が揺れて、その場に倒れ伏した。 近づいてきたイスタルテが、アイスマンの額に手を翳す。傷を手当しているのだろう。 凍りついていたグラウンドも溶け、周囲は白い霧に包まれた……。 「すまないね。手間をかけたみたいで」 申しわけなさそうに、アイスマンが言う。サンタクロースと雪だるまが消えてしまったので、正気を取り戻したのだろう。気弱そうな、極々普通の青年だった。 「それじゃあ、そろそろお別れだね」 小さく手を振って、レイチェルは言う。 「次は迷い込んでくるなよー。対処が面倒だからな」 手を差し出し、アイスマンと握手を交わしているのはルヴィアだ。笑みの形にした口の端から、犬歯が覗いている。 「機会があれば、荒事以外で会いたいものです。これは、友好の証として受け取っていただきたい」 そっと、アイスマンの手にビスケットを握らせる生佐目。アイスマンは困ったような苦笑いを浮かべていた。それでも受け取ったビスケットを大切にポケットに仕舞うと、皆に向かって頭を下げる。 「ありがとう。本当に、迷惑をかけた」 それじゃあ、そろそろ失礼するよ。 そう言って、アイスマンはディメンションホールへと向かっていった。最後に一度、小さく手を振って、ホールへと飛び込む。 「じゃあねっ!」 大きく手を振って、レイチェルはアイスマンにそう告げた。アイスマンが帰っていったのを確認して、ホールを壊す。 いつの間にか、しとしとと雪が降り始めていた。 このまま順調に降り続ければ、明日の朝にはすっかり辺りは雪に包まれているかもしれない。 そんなことを考えながら、リベリスタ達は帰り支度を進めるのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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