● 「ところで……貴方達はラーメンの出前って、良く利用する方かしら」 ブリーフィングルームへとリベリスタ達を迎え入れる『硝子の城壁』八重垣・泪(nBNE000221)。 その第一声がそれであった。普段お決まりの文句とでも言うべきものが存在するだけに、リベリスタ達は数秒訝しげな表情で口を閉じる。 「いえ、別にそれが、今回の依頼に必要な事ってわけじゃないのだけれど。ちなみに私は一度だけね。量が多くて食べ切れなかったから」 ぼそぼそと言いながら、泪は端末を操作する。 モニターには簡易な地図と、良くラーメン屋が出前に使う原付バイクが映し出されていた。 「依頼内容はE・ゴーレム3体の殲滅。事件の経緯は、馴染みの場所へ出前に向かう途中だったラーメン屋店員の乗るバイクが、後部に固定されていた岡持ちを中心に爆発。革醒したE・ゴーレムが付近で暴れているってところ。幸いにして犠牲者は1名だけみたいね」 「……あのさ、そのE・ゴーレムってのは、もしかして」 「ええ。ラーメン、ギョウザ、レバニラ炒めの3種。いずれも巨大化して皿とどんぶりの直径がだいたい2メートル前後。それらの革醒地点には、近くにフェンスで囲まれたごく一般的な駐車場があって、何故か3体ともそこに留まって荒ぶっている」 笑い事ではない、笑い事ではないのだが、なにやら喉の奥から変なものがこみ上げて来るのを否定はできなかった。 この状況、一言で言い表すならこれであろう。「なんだそれ」 「私に訊かれても困る」と泪は言っていた。尤もなことだ。 さて、E・ゴーレム達の戦闘能力だが、大体見た目通りの攻撃を行ってくる。麺で絡みついたりメンマで殴りかかって来たり、熱々の汁をぶっかけて来たり。 またギョウザはそれぞれが浮遊し、突撃やタレによるオールレンジ攻撃を仕掛けてくるらしい。 それらに比べてレバニラ炒めは、ニラがべったんべったんこちらの手足に張り付いて行動を封じて来るだけとシンプルなものだが、まぁ元がレバニラ炒めじゃ仕方が無いか。 「しかしこれ、何処を攻撃すれば有効打になるんだ?」 「その辺りは特に迷う事も無いと思うわ。それら三体の周囲には靄のようなものが纏わりついていて、どちらかと言えばそれが本体と言ってしまって良い。ある程度大雑把に攻撃しても、ダメージは入るでしょう」 また、比較的物理防御よりも神秘防御が低い傾向にあるが、然程の差でもないのだという。 「と、こんな物ね……それじゃあこの依頼、宜しく頼むわ」 泪はそう言って、リベリスタ達を送り出す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:RM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月19日(水)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● アスファルトの上には黒々と爆破痕が残っている。 付近には原付の破片が散乱していた。岡持ちを中心に爆発したのだという言葉の通りに、原付の前半分は比較的原型を留めたまま、その場に転がっていた。 だが、目を引くものはそれらではない。 辺りには何やら、ガソリンとは異なる液体が撒き散らされていたのだ。それは点々と尾を引き、すぐ傍の駐車場へと消えていた。そして、何という事であろうか。そちらの方角からはびったんびったんという水気を帯びた冒涜的な音が、リベリスタ達の耳にその活動の証を明瞭に告げていたのである。 「……なんでずっと駐車場居るんだろ」 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)はぽつりと呟いていた。その目線の先には、竜巻の如く麺を巻き上げるラーメン(直径a2m)とびゅんびゅん飛び回るギョウザ(人間の太腿大)そして何故だか一体だけヒッソリとしているレバニラ炒めが映っている。 彼らが何故こんな場所で、そして荒ぶっているのかは誰にもわからないが、巨大化し自ら動き出した理由については明白である。エリューション化。元が食べ物だとかそういった事は関係なく、今やそれらが倒さなければならない敵である事だけが、今この場にある事実だ。 「それにしても、もったいないなぁ……」 葉月・綾乃(BNE003850)は苦い笑みを漏らしていた。貧乏ジャーナリストとしてカップラーメンばかりが主食であった頃を思い出すと、一応まともなラーメンがこのように化け物と化してしまった事に対しては、やはりその一言に尽きようか。 「むしろ量が増えたのではないのカッ!?」 ラーメンのつゆと土埃やら何やらでまだら模様となった店員を助け起こしながら、『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)は言う。うわやっぱ食べるんだみたいな数人の視線を浴びつつ、彼は店員の息を確かめた。 「普段食べてるモノにやられるとハ……さぞや無念だったろウ、出前の人ヨ!」 「や、やはり、駄目だったのでしょうか」 駆け寄る『紫苑の癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)。しかしカイは表情の読めない鳥頭でくるくると首を振ってみせた。 「イヤ! 全くもって命に別状はナイ!」 「……カイさんよ、その顔だと本当に良く分からないんで、やめてくんねぇかな」 ぼやく『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)。しかし特に治癒の必要もないほどの軽傷という事で、懸念の一つは消え失せた。後は適当に巻き込まれない所にでも転がしておけば良かろう。 リベリスタ達は結界を張り、駐車場の中へと踏み込む。E・ゴーレム達もその姿に気付いたのか、無秩序に飛び回っていた動きは徐々に小さくなり、じわりとその輪を狭めて彼らに向き直ったようであった。 「中華食べたいなー、生中つけてさ。無事これが終わったら食べに行こっか」 空気が戦場のそれへと変わりつつある中、『呪印彫刻士』志賀倉 はぜり(BNE002609)はそう告げる。 「いいですねぇ。……ラーメン屋の取材とか、仕事で来ないかな。経費全額クライアント持ちで」 綾乃はそう応えていた。そして、幻想纏いから各々の得物が引き出される。 しゅるりしゅるりと触手が如く麺を撓らせ、どんぶりのふちから汁を零すラーメンを睨んで、『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)は両手に構えた戦斧を静かに握り直す。 「俺は怒っている。始めは、食べ物がE化してしまう事への悲しみだった」 軋るような息を吐くランディ。 「しかし今は違う、ラーメン……貴様等を許すわけには行かねぇ」 何が――いったい彼の神経をそこまで逆撫でしたのか。ともあれ明確な敵意を向けられたエリューション達は元が食べ物とは思えぬほどの俊敏な動作で散開し、それを合図とするかのように戦闘は開始されていた。 ● 虞風となって突撃するランディ。適切な間合いを取るべく後退するギョウザとレバニラの間に、彼はその身を滑り込ませる。グレイヴディガー・カミレが風音と共に旋回し、巻き起こる烈風がラーメンのどんぶりを叩きつける。渦を巻いていたスープは何故か収まり、零れ落ちるのをやめていた。 うん、何を言っているのか分からないと思うが私もわからない。 「汁を飛ばす食べ方はアウトだ、マナーを覚えな!」 「許せない事があるって、それですか……?」 「当然重要な事だ。しかも、それだけじゃねぇ!」 ぶつかり合うリベリスタ側前衛とE・ゴーレム。その後方にて和弓を揺らめかせるのは『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)である。翼の加護を付与され、リベリスタ達の背には小さな羽が現れる。 それにしても――と小夜は考えていた。 「ラーメン大盛りにレバニラとギョウザを注文って、かなり大食いな人だったんでしょうか」 「そこそこ若い男性なら普通だと思うのダ!」 普段、ギョウザ一つを付けるにも友達と二人でなければ完食出来ない身としては、とても一人前とは信じ難いメニューである。しかしそういうものかと思い直し、小夜は前を向く。 視界に踊るは緑の一線。 鋭くは無い。むしろ、はっきりとその姿が目で捉えられるほどに鈍い。だが、その数は――! 山なりの軌道を描いて次々と、否、弾けるように発射されるニラの網が、リベリスタ達の頭上を覆う。 前転して回避、ままにギョウザへと肉薄するノアノアと旭。背後ではびたびたと嫌な音が鳴り響いていた。 「うぅ~、レバニラ炒め……!」 まるで仇を見るような目でレバニラ炒めを、いやレバーを睨む旭。 レバーだけはダメなのだ。これがもしニラでなく、レバスプラッシュだったらと思うと寒気がした。 「貰った! 不当なる配当を得る――インカムゲイン!」 ギョウザに深々と埋まり、生命力を吸い上げるノアノアの拳。 「流石餃子、ニンニクパワーが計り知れないぜ!」 そのニンニクパワーは吐き出した彼女の息にまで影響を及ぼしていたような気もするが、別段気にする事でもないか。戦闘中のどさくさだし。 さて反撃とばかりに宙を舞ったギョウザは、それぞれが僅かにタイミングをずらした突進を仕掛けていた。 標的と選んだのは目前の二人ではなく、ラーメンの抑えに回ったランディである。 初撃を回避。だがこれは元から狙いをずらした牽制か、と舌打ちを漏らす彼に、残り4発が突き刺さる。 柔らかそうな外見からは想像もつかぬ重い一撃に血を吐き零すランディに、シエルの天使の息が飛んだ。 「っち……ギョウザが5つか。せめて6つだろうがっ!」 吼えるランディ。そして空中のギョウザを、手足にへばりつくニラを強引に振るい落としたカイのジャスティスキャノンが撃ち抜いてゆく。 「うち、木彫りは得意だけど料理はからっきしでね。ざっくざく切り刻んじゃうよ!」 浮遊する剣を曳いて、はぜりは車のボンネットを駆け上がった。その指先から踊る鴉型の式は、側面からギョウザの一つを穿っていた。 だが、瞬間不吉な風音を聞く。 沈ませた背をかすめ、車のピラーを切り裂いて、二枚のナルトが旋回してゆく。 「危、なっ」 「気をつけて。ラーメン相手にやられるなんて、恥ずかしいですからね」 再び発射されたニラスプラッシュに手足を絡めとられながらも、小夜は天使の歌を歌い上げていた。 この時点でリベリスタ側にさしたるダメージは見られない。対してエリューションの側は、集中砲火を浴びたギョウザが既に瀕死の体をみせている。 倒す前に味を覚えておかなければならないと、旭はギョウザに吸血を試みる。 「がぶがぶ……あ、おいしー」 ボリューム的には確かにどれも通常サイズへ戻せば微妙と言わざるをえまい。しかしだからこそ、と言うべきか。味の方はそれなりしっかりとしているようだった。 同様の賛辞はついに、ランディの口からも漏れる。 「麺のコシは中々だ……だからこそ惜しい」 メンバインドによって縛り上げられながら、彼は口走っていた。 「チャーシューがたったの一枚だと? 学生が作るインスタントみたいな安っぽいトッピングしてんじゃねぇ! 大盛りだろが!」 「お前はチャーシューメン素直に頼んでおけよ!」 突っ込みを入れるノアノア。そして最早用済みとばかりにギョウザを破砕し、次なる標的、レバニラ炒めへと向かう。 ● ブレイクフィアーを放つ綾乃。戒めから解き放たれたランディが、アスファルトへと転がる。 「やれやれ、助かったぜ。男の緊縛プレイなんて本当誰得だからな。しかも何かちょっと恍惚としやがって」 「抜かせ!」 移動のついでとばかりに軽口を叩くノアノア。ブレスケアを口に放り込み、レバニラ炒めへと拳を振り上げた彼女はしかし、はっと身体を強張らせていた。 「もしかして、ノアノアさんもレバー苦手?」 追いついた旭が小首を傾げてみせる。暫し共感の笑みを浮かべ合った二人は、前後に体を入れ替えてレバニラ炒めに対峙していた。ノアノアはレバニラ炒めの移動を阻害しながら全力防御の構え。そして旭は魔力鉄甲を構えて、容赦なしの焔腕を繰り出す。 「嫌いだけど、だから、念入りに殴るよう!」 「油で揚げてあってもダメなのカ。苦手な人の感覚は良く分からないのダ」 突き刺さるカイのジャスティスキャノン。そしてシエルの神気閃光が、レバニラ炒めを白く染めた。 「聖なる光……世の理外れし出前の品達を…焼き払、こほん……香ばしく焼き直して!!」 何やら美味しそうな匂いが辺りに立ち込める。戦闘開始前から若干の不満を訴えていた胃袋には、思わぬダイレクトアタック。はぜりは再び、この戦いが終わったら食べに行こうとの決意を固める。その際頼むのはレバニラではなく麻婆豆腐かエビチリだが。 その時鳴り響いたのは、ビターンという軽快な音である。ちょっとした角材レベルのメンマがランディを張り倒していた。すかさず小夜の天使の息が飛ぶが、かなり良い角度で貰ったか未だダメージの深いランディに代わってカイがラーメンの抑えに回る。 「このメニュー……できますね」 シエルが呟きを零す。同意に首肯した綾乃は、しかし続く言葉に首を捻っていた。 「餃子は5つ。これは儒教の教え【五常】を象徴し、ラーメンは守り(具)を最小限に留めた背水の陣。更には肝(レバニラ)を据える! 正に古来の名将韓信の如き……」 「うん、考えすぎだと思います」 ばっさりだよ。 そして無言で天使の息を用いるシエル。再び旭の焔腕がレバニラ炒めを捉え、綾乃の操る真空刃が山の頂点にあった揚げレバーを切り裂いて、それを沈黙せしめる。 リベリスタ達は総勢がラーメンに向き直っていた。具とのバランス的な意味でだいたい炭水化物、主食の風格を必要以上に漂わせたそのE・ゴーレムは、配下二人がやられてなおその圧力を増したかのように思える。 「さあRMのおでましだ!」 おいその略称やめろ。 ラーメンへと突進するノアノア。しかしこれは、先程初めて見たラーメンとは違う。圧力を増したかと思えたのは錯覚ではなかった。どんぶりからはみ出した麺は明らかに、先よりも太―― 「びょんびょんじゃん!!」 「そりゃさぁ、ずっと放っといたら麺はのびるよね……」 「だから最初に叩くべきだと言ったのダ!」 怒りのインカムゲインがラーメンに炸裂する。理不尽、まさに理不尽。 ぶるんぶるんとのびた麺を振り回すラーメンに、はぜりの式符・鴉が突き刺さった。 「わたし麺とトッピングの量が釣り合ってないラーメンは認めないの。出直して来ていーよ!」 旭の焔腕がどんぶりを揺らし、ランディは斧を振り上げる。 「せめてゆで卵くらい入れやがれ!」 渾身の一撃。 ごしゃあ、という音と共にどんぶりのふちが粉砕。纏いついていた靄のような物が払われる。 地に落ちたラーメンは、最早動かなかった。 残骸と負傷した一般人の回収を行って欲しいとの本部への連絡を済ませ、カイとノアノアはえらい有様となったE・ゴーレム達のなれの果てに視線を戻していた。 「さテ……食べ物は残さず美味しく頂かねバ」 ぱきりと箸を割る。 「しかし、今更なんだが大丈夫なのかね、これ」 「なに、元は食べ物ダ」 無論のこと、E化しているからどう、という話ではない。その程度であれば普通に食ってきた猛者がリベリスタ達の中には少なからず居る。問題は、暴れまくった挙句焼かれたり砕かれたりした食べ物が、果たして元の味を保っているかという事なのだが。 「アクセス・ファンタズムに調理道具と材料一式入れてきたのですが、どうされます?」 シエルはそう呼びかけていた。 「再現して届けるか。そういう事なら手伝ってもいいぜ」 応じるランディ。そんな二人を見ながら、はぜりはむしろそんじょそこらの料理人よりも彼らの方が上手いのではないかと感じていた。そして、自分にも配達程度なら協力は出来るだろうと素直に待つ事とする。 「お恥ずかしながら料理苦手なので、後学のために見物を……」 いそいそと近づいてゆく綾乃。 「お店の方には連絡した方がいいのかな?」 「……そう、ですね。今のままでは何処へ届けるかも分からないでしょうから」 旭の言葉に小夜は軽く首をかしげて、笑んでみせる。そして直径2メートルのラーメンに挑んだカイとノアノアは、流石に胃袋をパンパンに膨らませてその場に転がっていた。 「まだ……食べるのダ。五目チャーハンと固焼きソバを食べるのダ……」 「へっ、お前はリベリスタの腹を舐め過ぎた……それが敗因だ!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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