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枯木花咲

●太陽の花びら
「枯れ木に花を咲かせましょうっ!」
 それは、一つの花だった。
「笑顔の花を咲かせましょうっ!」
 その少女はそこにいるだけで、周囲の人間を笑顔にすることができた。
「笑う門には福来るですよっ!」
 その少女は太陽の花だった。
 世界に祝福されて生まれ、人々に愛され育ち、動物の声に耳を傾け、植物の芽吹きを尊んだ。
 少女の辿った軌跡は幸せに溢れていた。
 生まれる生命に笑顔を授け、消え逝く生命に笑顔を捧げた。
 生まれた子に、おめでとうを。
 消え逝く全てに、ありがとうを。
 時には泣くこともあったけれど、その涙も全て笑顔で包み込む。
「枯れ木に花を咲かせましょうっ!」
 それは一つの花だった。
「笑顔の花を咲かせましょうっ!」
 太陽のように、強く優しい花だった。
「笑う門には福来るですよっ!」
 ――だからこれは、きっと神様からの贈り物。
 少女は手にした灰を振りまく。
 枯れ木はその枝に花を実らせ、花は人々に笑顔を宿らせ、笑顔は少女の世界を彩った。
 これは、消えて逝ったものをほんの少しだけでも蘇らせてくれる魔法の粉。
 草や、花や、木。それにきっと――

●月の花びら
「おとぎ話と違って、現実の魔法の粉はいつも劇薬……」
 タイトル「花咲か智親」と書かれた紙芝居をぱらぱらとめくりながら、『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)が言う。
「今回、皆に行ってきてもらいたいのはアーティファクトの奪還」
 曰く、それは植物に元気を与える粉らしい。
 ……否。植物に限らず、万物の生命を再び灯すことができる粉らしい。
 ただし、使用者の生命力を引き替えにして奇跡は行使されるという。
「幸い、今はまだ正確な使い方がわからずに枯れ木に花を咲かせる程度。だからそんなに負担は大きくないみたいだけれど……」
 しかし、彼女は気がつき始めているという。
 植物以外のものも、生き返らせることができるんじゃないかと。
 その身を削りさえすれば。その覚悟さえあれば。
「彼女は今夜、それを確かめるために最後の実験をするわ」
 枯れ木に、その粉とその血を以て再び息吹を吹き還らせる。
「それで完成。木はエリューションゴーレム化して、彼女に襲いかかるでしょう」
 それは初めて故の失敗。血を多く与えすぎたために、木が暴走するのだという。
 より多くの生命力を求めて彼女の生き血を啜ろうとするらしい。
「……もっとも。たとえ適切な量を与えたとしても、彼女の命がすり減るのは変わらない。蘇ったものがエリューション化することも変わらない。――世界は何も変わらない」
 だから。
「エリューションゴーレムを撃破して、彼女を説得して、アーティファクトを回収してきて」
 ――彼女が死者を蘇らせようとしている理由は?
 リベリスタの一人がイヴに問いかける。
「……彼女は聡明で、優しい、太陽の花。死、それ自体を受け入れていないわけじゃない。ただ一言……ありがとうと伝えたいだけ。自分だけじゃなく、他の人にもその僅かな一瞬のチャンスをあげたいだけ」
 たとえそれが、生者のエゴだとしても。
 そのエゴが、明日へと進む力に成り得ることもあると、彼女は知っているから。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:葉月 司  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月22日(水)23:33
 花咲か智親な紙芝居をちょっと読んでみたい。どうも、葉月司です。
 今回の依頼はアーティファクトの奪還です。
 アーティファクトは魔法の粉を生成する壷。
 この壷で生成される粉は所有者の生命力そのもので、全ての粉を使い切れば所有者は息絶えるというちょっと物騒な代物です。
 アーティファクトは現在少女が所持しており、少女は木のエリューションゴーレムに襲われています。
 少女の生死自体は成否判定に含まれませんが、もし何らかの手違いで少女の血を大量に吸った粉が大量に舞い散れば周囲はエリューションゴーレムだらけになり難易度は跳ね上がります。
 またその際に壷が割れていれば依頼は失敗ですので、なるべくなら少女も助けてあげてください。
 ちなみに今時点では少女は手に平に一筋の傷を作り、握りこんだ粉に血を吸わせて撒いていたため壷の中にまで血は滲んでいません。

 では、前置きが長くなりましたが敵詳細情報です。

【戦域情報】
 人が寝静まった真夜中の寂れた公園です。
 周囲に街頭はなく、空は雲が覆っているため月明かりも期待できない暗闇です。

・エリューションゴーレム
 元はそれぞれ梅、桜、藤の三本の木です。
 攻撃方法は主に、
枝:枝をぶんぶんと振り回します。近接単体に大ダメージ
花:舞い散る花は綺麗ですが、鋭く周囲の人間を切り裂きます。近接範囲に小ダメージ
根:地を這い、また地中へ潜る根が襲い掛かり巻き付きます。遠距離単体に中ダメージ+麻痺相当の締め付けBS。(ただし物理的に巻き付いているので、ブレイクフィアーでは回復しません。)

・花咲か少女
 笑顔が可愛らしい少女。
 陽だまりのようなのほほんとした性格ながら聡明で、事情を説明すれば快く壷を譲ってくれるでしょう。


 月の花びらが微笑むのは、皆さんが無事にアーティファクトを回収できたときのみです。
 それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
本条 沙由理(BNE000078)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
龍音寺・陽子(BNE001870)
ホーリーメイガス
李・灰蝠(BNE001880)
プロアデプト
八雲 蒼夜(BNE002384)

●花咲か少女の魔法
 走れ、走れ。
 街灯が仄かに照らす夜道を8人の人影が走り抜ける。
「俺はバカだけどよ……」
 常人の全速力にも近い速度を、息も切らさずに走り抜けながら集団の一人が呟く。
「わかるぜ、その心の強さは……だから、絶対に殺させねぇ!」
 それが男――ツァイン・ウォーレス(BNE001520)の偽らざる気持ち。
「絶対に助けてみせるよ。同じ思いを持つ者として」
 その言葉に頷くように、『戦うアイドル女優』龍音寺・陽子(BNE001870)が代表して全員の気持ちを言葉にする。
「亡くなった方に最後に言いたかった事を言わせてあげたい。残った人の感謝の言葉を聞かせてあげたい……。優しさからの思いですが、世界はそんなに優しくないのが現実なのですよね」
「……あるいはだからこそ、なのかもしれないわね。人は留まることなく知を深め、そして新たな未知を識る。彼女はこの優しくない世界に、その未知でもって反抗したかったのかもしれないわね」
 だから、助ける。その未知の探求の果て。その世界の変容を少女に見せるためにも。
 雪白・桐(BNE000185)の言葉を受け、『プラグマティック』本条・沙由理(BNE000078)が返す。
「ふふ、アレなおっさんは正直いたたまれないアルけどね。でもそーゆー優しさでしか救われない人間も確かにいるアル」
『肉恋い蝙蝠』李・灰蝠(BNE001880)がその表情にわずかに苦笑を浮かべる。
 ――街灯の数が極端に少なくなる。
 それは一種のスポットのように、無意識に意識を逸らさせる。
 その周囲のみが照らされないという違和感を感じさせないほど自然に、闇は世界に溶け込み。
「……実験をするのにも都合がよかった、のかな」
 意識的にせよ無意識的にせよ、ここを選んだ少女。
 人々を引き寄せる少女が今宵引き寄せるのは超常。その不思議な巡り合わせに、何か因果的な物を感じながら、『素兎』天月・光(BNE000490)がさらに速度を上げる。
 少女がいるだろう公園は、もう目の前だ。

●魔法の代償
 ――少女は三本の木に挟まれて尚、凛とした雰囲気を醸し出していた。
 普段は笑顔に包まれているだろうその優しい面立ちをわずかに引き締め――木々との対話を試みていた。
「お久しぶりです。……私のこと、覚えてくれていますか?」
 その迫る殺気に、狂気に気がつかない訳がない。
 その異常の気配に、当事者たる少女が気がつかない訳がない。
 だと言うのに、少女は優しく語りかけ続ける。
「――私の声は、貴方達にきちんと届いていますか?」
 木々からの返答はない。だがそれは声帯がないのだから当然だ。だから少女はその挙動から読みとろうとする。
 木の根が地を這い少女に近づく。
 しゅるり。しゅるり。
 そしてそれが少女へと狙いを定めて飛びかかる瞬間、
「危ない――!」
『侠気の盾』祭・義弘(BNE000763)の振り降ろしたメイスが根を地へと叩きつけ、その隙に陽子が少女を抱きかかえ、後方へと緊急避難する。
「――え?」
 少女を木々から守るように抱きしめた陽子の腕の中からくぐもった、困惑気味に声が上がる。
「……生憎、ここは行き止まりだ」
 少女が戸惑う間にもリベリスタ達は次々と現れ、『夜より暗い闇』八雲・蒼夜(BNE002384)がカタールで地面を線引き、木々へ向けて宣戦布告をする。
 その事態の急転に思考が追いついていない少女をそっと解放し、陽子がにこりと微笑む。
「ボク達はキミを助けに来たんだよ」
 木々の攻撃は未だ少女に届く。
 その危機的状況の中、ただ少女を安心させるためにその言葉を告げる。
 短く、だけどこちらの誠意が伝わるように。
「……あぁ。私、助けられたんですね」
 ぐるぐるとうねる根や枝、舞い散る花。一撃でも浴びれば常人では致命傷は免れないとわかるそれを掻い潜り、あるいは受け流すリベリスタ達の背中を見て、少女はようやくその事実を認識する。
「さ、ここは危ないから向こうの方へ行こう?」
 少女の手を引き、木々との距離を広げようと駆け出す瞬間、「陽子ちゃん!」と声を掛けられる。
 振り向けば、灰蝠が大きめの絆創膏を持ってこちらへやってきていた。
「スキルで治しゃ早いケド、自分で付けた傷は自分で治すのがホントは一番アルからね」
 それを手早く少女の手のひらに貼り、手を振りながら二人に背を向け自らの戦場へと赴く灰蝠。
「それじゃあ、いこっか?」
 改めて少女の手を握り、その場を離れる。
「詳しくは言えないんだけど……ボク達は、この状況について大体把握してると思う。キミが何を思ってこんな行動に出たのかまではわからないけれど……でもその壷は、きっとキミの想像以上に危険な物だってことだけはわかる」
 その道すがら、陽子は少女に簡単に事情を言って聞かせる。
「――その壷の中身はキミの命そのもの」
 その言葉に、壷を抱える少女の片腕がわずかに強ばるのがわかる。
「やっぱり、そうなんですね……」
 推測が確信に代わり、その声に落胆が色濃く落ちる。
「だから絶対にこれ以上使っちゃダメだよ?」
 その落胆が何を意味するかまでは読み取れないが、とにかく使用を禁止させ、その手に携帯を握らせる。
「これ、さっきの人と繋がった携帯だから……何かあったら、これで助けを求めてね」
 ボクは行かなくちゃいけないから、と。
「どこへですか?」
「決まってるよ。――仲間を助けるために、だよ。大丈夫、ボク達はああいった事から笑顔を守るために戦っているから。そうそう簡単に負けないよ!」
 腕まくりの仕草と笑顔、そして本心からの言葉で少女を安心させ、陽子は仲間が待つ戦地へと駆ける。
「戦況は!?」
「ほぼ計画通りです。陽子さんは予定通りこちらの攻めに参加してください……はっ!」
 気合い一閃。全身に闘気を纏わせた一撃で梅を吹き飛ばす桐。
 痛覚なく襲いかかる木も純粋な衝撃には耐えられず、仰け反るように体勢を崩す。
「光さん!」
「任せて!」
 その隙を逃さず、光がその身のこなしを活かした高速で梅に切りかかる――!
 だが梅も、枝葉を切り落とされながらもただではやられまいと根を地下から忍ばせ光に巻き付く。
「――!」
 そして雄叫びを上げるように、大きく大きく体を揺らし、その花をまき散らす。
「させません!」
 身動きを封じられた光を庇うようにそのマンボウのような幅広の剣を振るい、鋭利な凶器と化した花を打ち払う。
 その間に陽子が生み出した鎌鼬が光に巻き付く根を切断し、自由の身となった光と桐が頷きあう。
 後一押しを押し切るため、二人で一気に片をつける――!
「仮初めの命なのですから、散ってくださいませ!」
 光が描く幾重もの剣筋がその枝をすべて伐採し、何物も邪魔することのなくなった幹を桐の剛剣が両断する。
「まずは一体……いや、一本だね。次は……」
 ノックバックの効果で多少離れてはいるが、目視に支障はない。
「藤……は、ちょっと形勢不利っぽいかな?」
「ですね。急ぎましょう!」
 藤の足止めを担当するのはツァインと沙由理だ。
 当初ツァインが前衛を務め、沙由理が後方より張り巡らせた気糸によって有利に進めていた戦局は、藤が沙由理を警戒しだしたことにより傾き始めていた。
「すまん! やばいわ! 回復頼めるかっ!?」
 その手に持った斧で沙由理に巻き付く根を切り落とし、沙由理を庇うように前に立ちながら灰蝠に回復を要請する。
「任せるアルよー!」
 回復を一手に担う状況で、特に体力にやや不安が残る沙由理と蒼夜を気にかけていた灰蝠の行動は迅速だった。
 ツァインの要請とほぼ同時に生み出された癒しの風が沙由理を優しく包み、その傷を癒す。
「ごめんなさい……助かったわ」
「なんの。沙由理さんのトラップネストにはそれ以上に助けられてるからな」
「ふふ……なら、そのご期待には応えないとね――!」
 まだかすかに血の滲む腕を振るい、気糸を紡ぐ。
 沙由理の高められた集中力は、この木々の特徴をほぼ正確に捉えていた。
「まず一点。防御に特化する反面、回避は不得手」
 故におもしろいように罠に引っかかる。
「二点目。所詮は偽りの生命。その意志は脆く、ほぼ力任せにしか罠から抜け出せない」
 だからこそ、その微量な本能が沙由理を警戒する。
「ならば、そのまま虚ろに還りなさい」
 気糸を、藤の動きに合わせて思い切り引く。
「かかった!」
「うぉおおー! 木は大人しく! 伐採されてろっ!!」
 ツァインが重心の乗った斧にさらに遠心力を加えて攻撃する。
 そこへ3人も合流し、畳みかけるように攻撃を重ねる。
「ふぅ、どうやらあちもどうにかなりそうアルね~」
 あともう一、二手合流が遅れれば回復が追いつかず危うかったかもしれないが。
 祝福の吐息を義弘へと吹きかけながら、灰蝠が手にした携帯に笑いかける。
「そっちは異常ないアルか?」
『あ、はい。特に異常なしです。ご心配ありがとうございます』
「……あまり動揺してないアルね?」
『――それは、あの動く木に関してですか?それとも貴方達に対してですか?』
「どっちもアルね」
『少し、驚きはしましたけど……多分、それと同時になんとなくわかったから、でしょうか』
 わかっタ? 蒼夜の傷を癒しながら、その言葉に首を傾げる。
『わかったというより……腑に落ちた、でしょうか。私にはわからない出来事が世界にはたくさんあって、でもわからないままでも過ごしていける、その理由に』
 本当に聡い子だ。声には出さず苦笑を浮かべる。
「出来れば、そのまま知らないでいて欲しかたアルけどね」
 まぁ、もう少し詳しいことは後に話そう。
「――もうすぐ終わるカラ、ちょとだけ待っててアルね~」
 目を向ければ、戦いは既に終盤へと差し掛かっていた。
「お前達にも、怒りという状態があるんだな」
 怒り狂うように襲いくる桜に、蒼夜が感心するように呟く。
 その猛攻を蒼夜が防御態勢でひたすらに凌ぎ、義弘が桜の側面から強打を加える。
「蒼夜の兄さん、大丈夫かい?」
「あぁ、なんとか……。だが抑えとして守りに徹しているとはいえ、弱る気配さえないな」
 バックステップで桜との距離を取りつつぼやく蒼夜。
 それに「そうだな」と答えつつ義弘が続ける。
「だが泣き言ばかり言ってもいられんさ。それにこの状況も直に崩れる」
 ちらりと視線を横へ向ければ、5人の総攻撃を受けて今にも崩れ落ちそうな藤の木の姿。
「それまでに、もう少し格好をつけておくか――!」
「そうだな……!」
 ランタンの光に照らされた桜吹雪の中を突っ切り、二人の攻撃が重なる。
「この桜吹雪のように、貴様らに暴力沙汰は似合わないだろう? だから……あるべき姿に、戻ってくれ」
 このエリューションゴーレムに、聴覚があるかはわからない。だが、聞かせずにはいられない想いを込めて斬撃を振るう。
「右だっ!」
 義弘の超直感に訪れた予感。義弘が叫ぶのと同時に蒼夜もまた回避行動に移っていた。
 同じ感覚を持つ者同士、必要最低限の言葉だけで通じあう。
 空を切る根。その悔しさを代弁するようにずしん、と重い音が公園に響く。
 それはツァインの会心の一撃が藤を仕留めた音だった。
「年年歳歳花相似。まぁ、意味は少し違うが……お前も、梅や藤と同じように散ってくれ」
 駆け寄る仲間達の姿にかすかに笑みを浮かべ、蒼夜がそっと勝利宣言を告げながら、桜の枝を切り落とす。
 勝利はもう目前だ。

●笑顔の魔法
「もうこっち来てだいじょぶよー♪」
 灰蝠が電話越しに少女を呼び戻すと、まもなく少女が壷を抱えながらやってきた。
 8人の視線に晒されて、少しだけ緊張した様子の少女の前に、まず光が進み出て挨拶を交わす。
「ぼくは天月光。きみは?」
「あ、すみません。そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね」
 光の自己紹介を受けて、少女がわたわたとお辞儀をする。
「日向、咲桜と申します。この度は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
「いや、こちらこそ。本当はもっと早くに助けに来られたらよかったんだが……怖い思いをさせてすまなかったな」
「いえ、とんでもありません。……あれは、身から出た錆ですから」
「それがわかってるってことは、もうそれが危ない道具だってことも気付いてるよね?」
「えぇ。先ほど、この粉が単に枯れた木々や死者を甦らせる魔法の粉ではないと教えていただきました。――これは、私の命そのものだと」
 あの木々達は単に仮初めの命を吹き込まれただけ。
「そこに彼らの本当の魂は宿ってはいない――」
 彼らへの一方通行の話しかけを思い返し、咲桜は少し寂しげに笑む。
 そして倒れた木々にそっと歩み寄り、愛しげにその幹を撫でていく。
「私の我侭に付き合わせちゃってごめんなさいね」
 撫でるその指先に、ぽつり、ぽつりと滴が落ちる。
「……雨が、降ってきたな」
 義弘の呟き通り、それは雨だった。
 一粒、二粒。次第に強くなるそれは倒れた幹に当たり、わずかに煙を立ててその身を溶かしていく。
「……死した者は決して生き返らない」
 だからこそ命は尊くて。
「己の命を削るような真似をしてはいけない。如何なる理由があっても」
「……はい」
「それじゃあ、この壷は回収させてもらうわね?やせ細った太陽なんて、ちっとも魅力的じゃないもの」
「はい、お願いします」
「――ふふ。本当なら手段は選ぶべきだって一発殴りたかったんだけどね」
 役目を取られちゃった、と苦笑する光。
 そして木々を撫でていた少女の手に、お守りを握らせる。
「何か困った時はぼくたちに連絡して。その時は力になるよ」
「そーそ、また怪しーの見つけた時はアークに遊びにおいで~♪」
 灰蝠がおどけて、その笑顔が次第に伝播して広がっていく。
「うんうん、その粉は魔法の粉じゃなかったけど……でも、笑顔こそ本当の魔法だよ♪」
 陽子が咲桜の手を引き立ち上がらせる。
 その咲桜の前に、あー、と言葉を濁したツァインが立つ。
「そのなんだ……届いてると思うぜ? あんたの笑顔と感謝。……そんだけだ!」
 少しだけぶっきらぼうな、その言葉。
 その言葉を受けて――
「ありがとうございます」
 咲桜の顔に、とびきりの花が浮かんだ。
「あ、あと!」
 そして最後に思い出したように桐が声を上げ、
「今日見た事は内緒にしてくださいね?」
 それだけは念押しに確認して、リベリスタ達は咲桜と分かれる。
 その後姿を見送りながら、誰ともなく光が呟く。
「万人が憧れで終わる事が多いあの娘の願いが絶望に沈まず貫けることを願うばかりだよ」
「大丈夫だろうさ。歳歳年年人不同……それでも、心には留めているのだから。それさえ忘れなければ、きっと――」
 ――枯れ木に花を咲かせましょう。
   笑顔の花を咲かせましょう。
   笑う門には福来る。
   今日も人々に幸せを与える少女の花が咲く。 ――

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 皆様、お疲れ様でした。
 今回、皆様の心理描写がすばらしく、気が付いたら余裕で文字制限をオーバーするという嬉しい悲鳴をあげさせていただきました。
 咲桜が魔法の粉に何を求めていたのか。その本当の目的は何だったのか。
 それはリプレイの中ではあえて描写しませんでした。
 人の心は千差万別。わからないからこそ、わかろうと努力し歩み寄るもの。
 その答えは、皆様自身で見つけていただければ幸いです。
 それでは、今回はこれで失礼します。