●変わらぬ予報日 「せんきょーよほー、するよっ!」 今日も元気な『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)が笑顔でリベリスタを向かえ、兄、紳護は無愛想な表情で歓迎した。 「今日はね、あの……」 何を思い出したか、ノエルは急に怯え始め、紳護の裾をつかむ。 大丈夫と諭すように頭を撫でられ、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。 「こ、これをたおしてきてほしいの」 コンとテーブルに立てられたスケッチブックには、何時もの絵とは違う崩れ方をした人型の絵が幾つも。 そして泣いている人が何人も。 二つが入り混じった、奇妙な絵である。 「土の中からお化けさんがたくさん出てきて、みんなに危ないことしようとするの」 大まかな話をしたところで、詳細の説明に紳護が口を開く。 「ただのE・アンデッドの事件ではない、どうやらケイオスの一味が起こそうとしている未来のようだ」 その名は既に知れ渡っているだろう。 53年前にポーランドのリベリスタ達を壊滅させた、恐るべき敵である。 彼等は死霊を操り、数では圧倒的有利だ。 静まるリベリスタ達を一瞥すると、紳護はスクリーンに作戦ポイントの地図を映し出す。 「この山中にある合宿所のポイントで事件は起きる、丁度墓地が近くにあったのが災難と言うところか。作戦としては近くまで車両で移動、その後、合宿所まで一気に向かい、ゾンビ達から一般人を保護、車両で撤退する」 ゾンビは放置か? という声に紳護の顔が曇る。 「下手に交戦を続けても数では圧倒的に不利だ。むこうはほぼ無限だが、こちらのリベリスタは有限、天秤にかけるには差が大きすぎる」 追撃は後ほど行うとして、まずは人命救助を優先という事だろう。 地図を見ると合宿所から道路までは少々離れている、一気に進まなければ、囲まれずに辿り着けそうにも無い。 「今回は援護としてスカイウォーカーから二名同行する、車両の運転と回収ポイントの確保を担当する。退路は任せておいてくれ」 スカイウォーカーとは、偵察や援護等を主任務とするリベリスタのチームである。 スクリーンに投射されるデータを見る限り、直接の戦闘力は弱いが、サポートには心強いはずだ。 他に質問が無いか確かめると、作戦説明は完了。 紳護から敵情報の資料を受け取ったリベリスタ達は、作戦会議に入ろうとする。 「気をつけてね? 今回はあまりノエルもたくさんのこと、みえなかったから。ちゃんと、みんな帰ってきてね?」 大丈夫と微笑む彼らに、ノエルの不安は過ぎ去る。 ――この時だけは。 ●対処と運命の変化 夕暮れ時、一台のトラックが山道を進む。 運転席にはチーム最年長の男、OwlEが片手ハンドルで舵を切る。 助手席にはチームリーダの少年、EEが周囲を確認しつつ、ナビゲートを担当していた。 後ろの荷台となっている部分は人員を回収出来る様に改造が施されており、リベリスタ達はそこで待機している。 「酷い座席になって申し訳ない、あともう少しの辛抱だ」 EEは後ろの覗き窓を開き、リベリスタ達に間もなくの到着を伝えた。 各々最終準備に入る中、EEもライフルのボルトを引き、弾丸を装填する。 時刻は少し戻る。 何時もよりお茶の時間がずれてしまったノエルは、少々遅いお昼寝に沈んでいた。 どうしてか急に眠くなり、泥の様に沈む意識は彼女を夢へと誘う。 見えるのは……起きない兄の姿。 心を守るためのフィルターが、彼の姿に傷一つもつけず、ただ倒れているだけに見えるのだが眠っているように見えるだけ。 本当は事切れている。 それも分からぬノエルは、泣きじゃくりながら紳護をゆすり続け、違和感に気付く。 広げた掌には赤、滴る雫、そして外れたフィルターの世界は一気に彼女を覚醒させた。 車内に響く着信音、AFへ通信が入ったようだ。 EEはインカムのスイッチを押す。 『こちらスカイウォ――』 『おにいちゃん、帰ってきてっ!!』 応答を遮るノエルの叫びに、EE……もとい、紳護の顔色が変わった。 ちらりとその様子を見たOwlEも異変に気付く。 「天気が変わった! 一旦戻るぞ!」 「そいつぁやべぇな……っ!?」 後もう少しで到着と言うところで、車両にも異変が起きた。 唐突に車両のタイヤが破壊され、車両の前部が地面に擦れていく。 金属の悲鳴と強烈ない振動は凄まじく、後部で待機中のリベリスタからも素っ頓狂な声が聞えるほどに。 「……これで、より被害は大きくなる。音楽は生き物、常に同じ音色は奏でない……だからこそ、指揮を執らねばならない、例え私のような若輩者でも」 黒装束に身を包んだ青年の手には、クラリネットとブローガンの複合楽器が握られている。 そこから放たれた矢……それは死霊から作られた骨と呪いの矢、狂気の力がとてつもない一撃を生んだのだろうか? 道路を派手に転がるトラックを見やり、今度はクラリネットの音色を奏でる。 目覚めよ、今こそこの曲は最大の盛り上がりとなるのだ。 ●僅かな希望 横転したトラックから脱出したリベリスタ達は、合宿所へと走る。 しかし、OwlEが大怪我を追い、EE、もとい、紳護・S・アテニャンが肩を貸しながら後に続く。 リベリスタ達はゾンビを振り払いつつ合宿所へ到達するも、既にゾンビ達が仲間を増やそうと窓や壁の破壊を始めていた。 日は沈み、暗闇が辺りを包む。 だが、どうにか目標を確保し、別の建物へと避難に成功した。 「生存者に被害が無かったのは君等のおかげだ、さて……この先だが、先程連絡があり、車両が後3分程で到着する。恐らく回収地点の維持はそう長くは持たない、速やかに到着する必要がある。だが、早すぎても駄目だ、回収地点に死体共が溜まっていては、回収どころではない」 勿論回収ポイントにも別のリベリスタがいるだろう、しかし数では圧倒的に不利になるので待機はとても危険である。 紳護はこの先の作戦の説明を始めつつ、AFから出した小さなホワイトボードにマップを描いていく。 「回収ポイントは現在使用されていないキャンプ場だ、ここに向かうルートだが、最短の林のルートは見通しが悪い。不意打ちに十分警戒し、はぐれず、目標をしっかりと護衛する必要がある。川岸のルートは茂み側だけ警戒していれば問題ないはずだが……遠回りだ、恐らく時間もギリギリというところだ」 危険ながら確実なルートか、安全ではあるものの時間に余裕が無いルートか。 前者ならば目標を全員無事に逃がすには難しい、だが後者とならば全員を連れ出せるか、全員が逃げ遅れるかの二択だ。 「ルートはそちらに任せる、俺はOwlEを運ぶ事に専念する事になる、戦力として数えるのは難しいかもしれないな。しかし……最悪の場合、君等は生き残る必要がある」 残酷な言葉、だが紳護は落ち着き払って言葉を続けた。 「俺とOwlEに関してもだ、君達とは優先順位が違う。アークにとて戦力となるリベリスタを失う事は大きな痛手だ、場合によっては目標を囮に逃げる必要もあるかもしれない」 辛辣な現実を語り、今度はリベリスタ達と視線を合わせる。 「心配させ過ぎたな、最悪の事態から口にするのは悪いと思うが……忘れずにいれば、避けられる。それに君等なら大丈夫だ、ここまで目標に被害を出していない。その流れを続けてくれればいい、目標には俺が今後の流れを説明する、時間はないがプランをしっかりと決めてくれ」 紳護は別部屋にいる目標たちのところに向かう、開いた扉の向こうからは嘆きの声が聞えても、現実は変わらない。 この絶望に満ちた世界は。 しかし、小さな希望であっても、リベリスタならば掴むであろう事も。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月25日(火)00:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「そんな寂しい事を言わないで下さい。帰ってきてとお願いされたでしょう?」 部屋を出ようとした紳護に『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の言葉が引き止める。 振り返ると、目元が見えないものの笑みを浮かべているのは分かった。 併せてOwlEに親近感を覚えており、同族として守りたいという思いもあるのだ。 「勿論そのつもりだが……万が一の時は君等の生存が優先」 「そんなのはね、知ったことじゃないの」 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が紳護の言葉を遮る。 近い年に近い視線の高さ、鋭い視線が飛び込み、紳護は思わず一歩たじろぐ。 「命を張って守りたい人たちがいる。だからあたしたちはリベリスタなの。死なせる気はない、見捨てる気もない」 自分は彼等という存在を優先しなければいけないと、思った事を告げたはず。 何故どやされなければいけないのか? 思わず顔に困惑の色が出てしまう。 「あーEEつったか、お前」 今度は『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)が声を掛ける。 問いの言葉に紳護は小さく頷く。 「最初に指示出しておくわ――――死ぬなよ」 彼女にとって、紳護は自分を投影する様に思えるのかもしれない。 異世界の戦いで、彼女の妹は散った。 沢山の希望を繋ぐ為に。 (「可愛い女の子がそんな思いをするのは、まだ早い」) ドンと胸板を拳で小突き、視線が想いを語る。 全てが読み取れるわけではないが、意味を感じる。 「分かった」 紳護は小さく頷くと部屋を後にした。 「はじめまして、自分は桐月院 七海と申します」 紳護に連れられるがままリベリスタ達の前へやってきた一般人達。 挨拶を切り出した七海の異形をみれば、目を丸くしている。 一人ずつ握手をされる間も、心ここにあらずだ。 「この通り人間ではありませんが貴女方を守る事ができます。その為にも協力頂きたいことがあります」 ゾンビ達を安全に避けるのであれば避けたほうがいい。 そこで考えられたのは、翼の加護で飛んでしまおうという作戦だ。 「あまり時間が無いの、早速始めるよ?」 光を集める詠唱と共に、それは翼となって彼等の背中に宿る。 驚きばかりが続く中、突貫工事の訓練が始まった。 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は建物の中にあった地図を開き、目的地までのルートを確認していた。 万が一の事を考え、林のルートも細かくチェックをしていき、なるべくの最短ルートや危険そうなポイントを頭に叩き込んでいく。 地図に影が掛かり、顔を上げれば『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)の姿。 彼女の曇った表情に、どうした? と視線で問い返す。 「川岸のルート、難しそうだぜ」 翼を与える事ができても、それをコントロールする事ができなければ意味が無い。 どうにか浮かび上がれても、不安定な動きを見せ、急激に高度が落ちたり、操作不能なまま四方八方にふらついたりと短時間のレクチャーで覚え込ませるには難しい。 戦いを知らぬ彼らがいきなり生死を掛けた場所に放り込まれ、落ち着いて理解し、平常心で事を成し遂げるのは不可能だ。 それが大きな枷となり、飛行ルートは潰えた。 (「俺様は一般人には普通の…少なくとも、こんな怖い思いをせずに人生を送ってほしいんだ」) 早く助けだしたい、心は焦れる。 「スポーツの鍛錬の為の合宿とは言え、ゾンビの群を薙ぎ倒す事などメニューにあるはずもない」 仕方ない事だと納得しつつ、彼女の心の内も分かるのか励ます様にポンと肩を叩く。 「さあ、任務開始だ」 成すべき事を成す、誰一人欠かさぬ脱出劇が幕を開ける。 ● 「……いってくるぜ龍治、そっちも頑張ってな!」 前衛のポジションに向かう木蓮。 「あぁ、そっちもな」 龍治もうなづき、彼女の武運を祈る。 「それと、お前らも気をつけてな」 ふと、傍にいた紳護とOwlEに掛かった言葉。 特に紳護は唐突な言葉に訝しげな表情を見せる。 「同じ射手として信頼してるし、全部終わったらお疲れさまって言いたいからな。それと、特に紳護はノエルを悲しませないように!」 にっと笑う彼女に、紳護の表情が緩む。 「期待に応えるとしよう」 彼女を見送り、準備完了。 あとは地上ルートでの行動と注意を素早く終わらせると、リベリスタと一般人達は建物を後にした。 「私達が、必ず皆さんをお家に帰してみせますから」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が、絶望的な表情を浮かべる一般人達へ笑顔で力づける。 飛行ルートという最大の安全策がないが、欠けさせることなく連れ帰りたい。 怯えて縮こまった心を解き解そうと、明るい表情で彼等の背を押す。 「そうそう。こんな状況ヨユーだよ、ヨユー。私達はこう言うの何度も出くわしてんだ」 ノアノアは笑い、前向きに前向きにと笑い飛ばす。 「でも、そっちのオジサン怪我を」 OwlEの具合をみて、不安そうする少女へノアノアがニヤッと笑う。 「こいつか? こいつ来る前に崖から滑り落ちてな、ミイラ取りがミイラになり掛けたって奴だよハハッ! 笑えるな!」 笑って見せたものの、つられて笑う様子はない。 徐々に笑いが落ち着くと、そっか……と呟いてしょぼくれていた。 こんな状況でも笑い飛ばす彼女の雰囲気に徐々に当てられてきたか、沸き立つ様に小さく笑い声が浮かぶ。 落ち着いたところへ早速、腐乱死体の出迎えが現れた。 正面から2体、右には1体、左には3体。呻き声は一般人達を再び恐怖のどん底へ突き落とそうとする。 「気分の悪いコンサートだ」 『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)は、ショルダーキーボードに指を走らせ、生きた音楽を奏でていく。 彼にとって、今回の敵ほど胸糞悪い輩はいないだろう。 愛する音楽を屍を操る手段や様にあてがって表現するのだ、人を楽します世界とは程遠い。 許さぬという気迫がオーラの光となり、槍の様に束ねていくと一気に弾け、ゾンビ達の四肢を狙う。 直撃のダメージが彼等の動きを鈍らせれば、最早脅威ではない。 「ビビってる暇があるなら、生きるために全力を出しきってください」 『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が鋭い言葉で一喝をいれ、一般人達の正気を保たせようとする。 壱和とてこの状況は恐ろしい、トラックをひっくり返されてから震えがとまらなかった。 それでも己を律して戦えるのは、レイザータクトとして誰一人欠けさせない、その思いをこの一投に込める。 特殊な力を充填させた筒を投げ込めば、正面のゾンビ達の前で炸裂。 神秘の光が腐った目を塞ぎ、更には体の自由を奪う。 よりいっそう動きが鈍くなったところで前衛を勤めるノアノアと木蓮が突っ込み、蹴り退かして進路を開く。 「右から5体来るぞ」 「左からは4体です」 龍治と七海の索敵網にゾンビの群れが引っかかる。 更に正面には3体、しっかりと歓迎してくれそうだ。 「右のはまだ遠いな、そっちはどうだ?」 「かなり近いです、突破しても後ろを取られます」 火縄銃と弓を構えたまま、二人は情報を仲間に伝えていく。 「左は私が抑えます!」 ミリィがフラッシュバンを手に握り、狙いを定める。 茂みからのそのそと腐肉の行進が見えたところへ投擲。 地面を転がり、真下から浴びせられる閃光は痛烈で、ゾンビ達がよろめく。 目標を失ったゾンビ達は転げ、ぶつかりと完全に制御を失っていた。 「正面は俺が弱らせる、シメを頼むぜ!」 木蓮がセミオートライフルを構える。 連続でトリガーを引きながら標的を順々に狙い、手当たり次第に弾丸を撃ち込む。 構えを崩さず弾倉を交換し、直ぐに発射と絶え間ない弾丸の嵐が吹き荒ぶ。 体力が弱まったところへ、1体はノアノアのナイフで足の腱を破壊され地面に転がる。 残り二体、近寄ったノアノアを狙ったゾンビの関節を二つの銃声が砕く。 「こういう時、何ていうんだったか?」 「Sit Downだ。覚えときなぁ、アテニャン」 木蓮の期待に腕前で応える紳護とOwlE、切り開かれた進路をリベリスタ達は進む。 ● ゾンビ達の防衛線は激しく、正面を固めたと思いきや次は左右と波状攻撃が続く。 正面に展開したゾンビ達は4体へ、レイチェルが先制攻撃をかけた。 「退いて!」 回復要員の彼女も今は攻撃に参加し、とにかく前へ前へと突き進む。 弱ったところを更に木蓮の一斉発射、続けて達也のオーラの槍がピンポイントに脆くなった場所を穿ち、身動きを封じる。 一般人に被害が及ばぬ様、転がったゾンビは蹴り飛ばし、林の中を駆けていく。 「正面からまた4体です!」 「フラッシュバン、行きます!」 七海の情報に直ぐにミリィが反応し、投擲を行う。 真っ白な花火がゾンビ達を歓迎し、動きを止めたところへ攻撃が重なる。 「どきな!」 「邪魔だ!」 ノアノアが切り捨て、蹴り飛ばし、木蓮が膝を貫き、よろめいたゾンビをストックで打ち払い、掃除しつつも進む。 もだえるゾンビの脇をすり抜けようとしたが、ギリギリで持ち直した2体が左右から同時に襲い掛かる。 「来るなっ!」 「退け」 七海の炎の矢が腐肉を焼き尽くし、龍治の火縄銃が正確に脆い場所を破壊していく。 まさに最高の突破陣形、そう思えるのだが。 (「このペースだとキツイですね」) ミリィが心の中で呟いた危惧、それはこの流れ。 一見順調にも思えるが、毎度フラッシュバンを要求させられているのも事実だ。 「大丈夫か、二人とも」 達也がミリィと意識をシンクロさせ、エネルギーを回復させていく。 これで二人にそれぞれ1度ずつ使用、消耗の早さも回復する側として気になるのだろう。 「まだ大丈夫です、でも何というか……じっくりと様子を見られているような気はします」 「ボクもです。強引に押しつぶしにくるかと思っていたけど」 ミリィと壱和の共通した答えに、達也にも嫌な予感というものを感じる。 得てして、それは事態に直面した時に答えを知る、今から思い知るのだ。 「また正面から5体……」 「右、こっちも先程同じく4体」 「左も同じ、3体だ」 山場のようなラッシュを一度抜け、これで大丈夫だと安心したところを狙い済ましたかの如く、大きな波が押し寄せていた。 「フラッシュバンで突破しましょう!」 まずはミリィが先制して投げ込むが、狙いが外れてしまい、足止めに失敗する。 「次はボクが……!」 二投目、しかし、これも若干飛距離が足りず手前で炸裂し失敗。 最大の突破能力が失敗した以上、強引に突き抜ける他ない。 しかし左右のゾンビ達も足早に距離を詰め、正面に気を取られすぎれば横から潰されそうだ。 「マズイな……後ろの奴まで追いつきそうだ」 龍治が見つけたのは後方から迫る敵である。 強引に突破し、追いかけてきた死体の群れが闇の中に蠢く。 いくつも揺れる丸い頭、砂をこする足音、四方から囲まれたリベリスタ達。 血に塗れた攻防戦が始まる。 ● 「作戦通り行くぞ、ここで殲滅戦を始めたら思うつぼだ」 達也の言うとおりだ。 敵が狙っているのは一般人と、手負いOwlE。そして庇おうとするリベリスタ達の隙である。 達也はキーボードを奏で、戦いのメロディでオーラの槍を構築していく。 「正面突破でいくよ!」 レイチェルが魔力を拡散させ、浄化の光がゾンビ達を焼き払う。 反発しあう様な存在同士のぶつかり合いは体力を大きく消耗させる筈だが、倒れる様子はない。 「ありったけ撃ち込むんだ」 龍治の火縄銃が火を噴き、放たれた神秘の弾丸がまっすぐゾンビへと向かう。 途中で砕け、分裂すれば、流星群の如くゾンビ達を連続で貫き、ダメージを重ねるがまだ足りない。 「このっ!」 木蓮も何度目か分からぬ連続射撃を叩き込み、ゾンビ達をズタズタにしていく。 「いまならいけるか!」 ゾンビ達の体はボロボロ、今なら関節も容易く破壊できるはずと一気にキーボードを弾き鳴らす。 余韻を残す電子音、的確に狙い済ました攻撃は関節を貫くが――耐えた。 「ぶっ倒れろ!」 「トドメ!」 力強く地面を踏み切り、足払いの如くナイフで切り裂くノアノアの追撃と、七海の全力で引き絞った業火の矢がサポート。 1体は地面に転がり、1体は消し炭となって土に還る。 猛攻を耐え切ったゾンビ達が復讐に転じていく。 一番近くまで踏み込んでしまったノアノアへ2体のゾンビが襲い掛かる。 痛みに顔を顰めながらも振り払うが、鈍く痛みが圧し掛かる。 木蓮も腕を強打されたが、大事には至らない。しかし、危険なのは左右から来る無傷のゾンビ達。 「くぅ……っ!?」 小柄な点を活かし、うまく攻撃を潜り抜けるミリィだが、骨の突き出した指が彼女の背中を抉ったのだ。 意図して当ててきたものではなかったらしいが、人のリミットを外れた筋力で振るえば破壊力は並大抵ではない。 「……っ!」 体よりも大きな大戦旗を振るい、ゾンビを押しのける壱和ではあるが、数が多い。 横一列に並んだゾンビが、そのまま囲むようにして襲い掛かったところへ横に構えた大戦旗を押し出し、払いのけようと試みる、が。 「うぁっ!?」 予想以上に力は強く、じわじわと押され、最後は派手に転がされてしまう。 ゾンビ達はそのまま馬乗りに壱和に圧し掛かると、無防備な壱和の体へ牙を突き立てる。 「ぐっ!? ぅぐあぁぁぁぁぁっ!?」 引き千切れる肉の音、飛び散る鮮血。 傍から見れば、ホラー映画の哀れな被害者にしか見えないだろう。 耳にした事がない、してはいけない音が体を伝って壱和に届く。 その度に激痛が彼女の意識を焼き焦がし、体が痙攣する。 背中に生暖かく流れる感触が伝い、ぼやける意識の中、腐った顔が壱和を見下ろす。 可愛らしい顔すら彼らには肉にしか思えないのだ、勢いよく飛びつこうとしていた。 「離れろ」 しかし龍治の射撃がそれを制す。 「伊呂波、しっかりして!」 一瞬の隙をついて木蓮がレイチェルが壱和の襟首をつかみ、引きずり出す。 悟られぬ様に龍治は一般人達の視線を遮る形で壱和の傍に立ち、周りの警戒を続ける。 助け出された壱和はどうにか、意識は保っていたが、あと一撃でも受けていたらどうなっていたか分からない。 「今、回復するからね……!」 詠唱と共に白い光が紡ぎ出され、壱和の体を包む。 徐々に全身を包む白き糸は、さながら包帯のようにも見える。 事実、効力としてはそれ以上だ。壱和の傷口を糸が塞ぎ、癒し、そして身を守る神秘の鎧として構築されていくのだ。 大きな傷はあらかたふさがり、失われた体力も半分近くは取り戻す。 エコーが掛かって聞こえていた周りの音が落ち着き、壱和の意識のブレが消えていく。 「すみません、助かりました」 ぐっと旗を杖に壱和は起き上がると、丁度木蓮と達也の広範囲攻撃が活路を切り開き、正面に道が生まれる。 どうにか死地を突破すれば、リベリスタ達は更に走った。 林の終わりが近づき、最後の門と1体のゾンビがリベリスタ達を遮るが、銃声と共にゾンビは派手に後ろへ倒れる。 明瞭になった視野の先には、トラック。運転席には対物ライフルを構えた女が座っていた。 急げと顎でしゃくり、促されるままトラックへとなだれ込む。 トラックに近づこうとしていたゾンビも少数いた様だが、護衛にいたリベリスタが始末済み。 先に一般人達トラックに乗り込ませる最中、七海はどこにいるか分からぬ楽団員へ中指を突き立てた。 『よう、私は魔王。ノアノアだ、お前の名前聞かせろよ』 戦った相手の名を問うも、楽団員からの返事はない。 肩を竦め、ため息を零すノアノアをみる達也は、訝しげな表情を見せる。 「ハイテレパスで問いかけたんだけどな、名前言わないんだ」 納得した様子を見せた達也は、息を大きく吸い込む。 「観客が演奏者の名を聞きたいと言っているんだ。リクエストに応えられないようであれば三流だな。その程度の実力ならばお前の上司とやらもド三流なんだろう?」 聞こえる様に声を張り上げて叫ぶ、それは今までの怒りも篭っているかのようだ。 『私の名に価値などないが、答えてやろう。サラザールだ、お前も名を名乗れ、演奏者よ』 「サラザールっていうんだってよ、あと、お前の名前も聞いてる」 「僕は如月・達哉。パティシエ兼キーボーディストだ」 ノアノアは言われたとおり、サラザールへ達也の言葉を伝える。 『覚えておこう、次は我が兵の参列に入れてやる』 捨て台詞と共に、サラザールはこの地を去る。 全員を乗せ、けたたましいエンジン音と共に走り去るトラック。 彼らが希望をあきらめない限り、未来を勝ち取り続けるだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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