● 高校を見上げて、華やかな金髪の少女はため息を吐いた。 荷が重い仕事を任されたと、吐いても吐いても吐き足りない。 「で、何人なんですか、エリューションの餌は?」 『ああ、二十人くらいですね? 捕まえたのなら、運んでください。その運んだのを全部餌にするので』 電話の奥の相手は、軽い口調で誘拐だなんて言う。これでも父親。またの名を『Crimson magician』。 いくら『できるから』とか、『大丈夫だ』だなんて言われたって、齢十四の少女の心は震えていた。 「……だって二十人ですよ!? 私の馬鹿力を宛てにしてくれたり、部下を手配してくれたのは感謝しますけどぉ、私はこういう汚い仕事よりかは、舞台でお人形になってたほうが良いんですけどッッ!」 『やれっていったら、やんのですよ、愛しの愛娘。 『サーカス』の団員になったのなら、サーカスが操る獣の餌くらいは用意しないと。下っ端の仕事ですけどね。 凜子ちゃんも言う事聞かない子は折檻だねって言っちゃいますよ? ね? 俺もそっちに向かっていますので』 娘は携帯を握りしめた。その力に耐えきれず、携帯は音を立ててヒビが入る。もう少しで、壊れる程までに。 「愛娘言うな!! 授業参観にも来ない父親は父親じゃないもん!! まあ……来てくれるなら解りましたけどぉ!! できるだけ早くきてよぉ!! いいね!?」 『そこそこ解りました。そこまで言うならちゃんと行きますので……めんどくさい』 「もう、いいっ!」 力任せに通話切るボタンを押したら、指が携帯に貫通した。そのまま握り潰し、携帯はおじゃん。 再び、ため息ひとつ。金髪の少女は泣きそうな顔で、お空を見上げた。 「む、無理ですよぉ~っ!! 馬鹿父~!! うわーーーーーーん、こうなったらやってやる、親父が来る前に全部終わらせる……!!」 金髪の少女と、その背後に並んだ十四人は休日の校舎を見上げた。 数十分後には、薬や魔眼で眠らせた学徒が、神隠しする事件を作り上げる主役と成る。 ● 「あ、揃いましたね! 今回の依頼は三尋木フィクサードの誘拐を止めてください」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)はいつも以上に真っ白な顔で、集まったリベリスタを見た。今回の依頼の内容は杏里が言った通りだ。 早々に、杏里の口は依頼の説明に変わる。時間が無いのはいつもの事、か。 「今回は高校が舞台です。一般人対策は不要です。 私たちが向かう時には学徒は全て魔眼や薬で眠らされています。その学徒を三尋木フィクサードがトラックに詰めている所でやっと現場に着けるでしょうね……」 学校と言えばその面積は広い。だが、トラックに入れるということは、トラックに学徒を持ってこなければいけないという訳だ。 「この学校は正面の門と、裏門があります。三尋木は、人気の無い裏門にトラックを止めて、此処に学徒を連れてきます。なので、裏門のトラックを襲撃すれば、おのずと一般人を抱えている、または一般人を魔眼で操ったフィクサードが集合してくると思います。ゲリラで撃つも、裏門で少しずつ敵が増えるも、作戦はお任せします」 敵の総数は十五名。 そして、トラックは二台。 そこには運転手二名と、護衛の六名が待機している。残りの数は、おそらく校舎で眠った学徒を持ってくるか、魔眼で洗脳した学徒を連れてきているかだろう。 「個人個人のフィクサードの能力は資料の通りです。アークの精鋭よりかは劣りますので、大丈夫でしょう。 ただ一人……金髪の少女にはお気をつけて。彼女は、アークの精鋭を上回る力を持っています。名前は朱里と呼ばれています。 ただ……この子、強い割には小心者の様で、命の危険が解ると逃げようとしますので、それを利用するのも手ですかね」 先ほどの杏里が見た未来の映像では、増援の可能性を明らかにしていた。 「時間をかけ過ぎた場合、正面の門から来ます。敵も、その到着を待つでしょうね……正直、何が来るか杏里……知っています……」 したがって、それが来る前に仕事を終えた方が良いだろう。その敵はモニターに映された。幾度と無く戦場で出会う彼――。杏里の、最大にトラウマ。 「クリム・メイディル……と、そのペット……ライオン型のエリューションビースト」 杏里はもう一つ、資料を渡した。そこに記されていたのは『サーカス』の文字。 「クリムが仕切る、サーカス団。エリューションや、捕獲されたリベリスタ、一般人による危険な芸を見せて、荒稼ぎをする……一団」 きっと、此処で誘拐される一般人も『そういう事』のために利用されるのだ。 「だから……お願いします。一人でも多く助けて下さい」 そうか、杏里も昔はクリムに捕らわれていて――そこでアークのリベリスタに助けられた。 杏里も、サーカスに捕えられた一人だったという訳だ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月21日(金)23:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「あいつの事まだ怖いか? 俺はあいつが憎いよ」 資料作り。紙を纏めて、端と端を合わせて。左斜め上の隅に、ホチキスを。 かちん。 「……あ」 噛んだのは、紙では無くて己の指。震えた手は、いつもの作業をいつも通りにさせてはくれない。 「サーカス? ふざけんな。人の命を何だと思ってんだよ」 「ジースさん……」 貴方が生きていてくれれば、それでいいと。伝えたら貴方はどうするのでしょう。 少女は夢(みらい)を視る。いつだって、探してる。その夢に、幸せな彼の姿を視つけるために。 何度も、何度も、繰り返す事を止めない。 ● 「何よ。全然来ないじゃないの!!」 「朱里ちゃん、落ち着いて……」 此処は高校の、裏側の門前。Crimson magicianの娘だという金髪の少女、朱里は苛立ちを隠せないでいた。 それもそう、父親が来る前に仕事を全て終わらすと強気に啖呵を切っておきながらも、部下のフィクサードがなかなかやって来ないのだ。 「これじゃあ、親父が来ちゃうよぅ……ど、どうしよ……いや、あんなの父親じゃないから今の無し!!」 半泣き状態の、半べそ状態。もはや心臓の鼓動が耳のすぐ横で聞こえる程に。 それからしばらくも経っていない頃だった。携帯が振動しながら、けたたましく音を鳴らしたのは。慣れた手つきで通話のボタンを一押し、 「遅いですぅ!! 今、何処で道草喰っているのですか!!」 だがその奥からは予想外の答えが返ってきた。 『す、すまない、リベリスタ……アークが来』 ガッ!! 『ゲルトさん、煙草は我慢してくださいねー幻影がばれてしまいますー』 『ああ』 『じゃあ次は二階に行くぜ!』 『あ、この携帯。通話中になってるな……消しとくか』 ブッツ。 ……。 朱里は、再び慣れた手つきで着信履歴を漁った。そして。 「お父さん早く来て! なんか呼んじゃった!」 『……素直に助けてって言えば助けてあげますのに』 「いや! それは駄目! やっぱり来ないで! 朱里一人で頑張る!!」 『そうですね、頑張って下さい。母親みたいに、繁殖用の雌豚には成り下がりたく無いでしょう?』 ● リベリスタの手際は良い。どれ程まで時間をかけずに、餌を物色しているフィクサードを抑えるか?それは、ほぼ予定通りに行われていた。 トラック側に居る人員は八人ならば、校舎に向かったフィクサードの数の七人。例え七人であっても、固まって作業している訳では無いため、個人個人で動くフィクサードを撃破していく事は簡単だ。 ただし、魔眼を脅しに使う者は居る。 「近づくな!! 生徒を殺したくねぇだろ……?」 「ルビコン川を渡れば、賽は投げられ死闘が始まる。覚悟は宜しいですか?」 後方より煌めく、月明かり。『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)は詠唱を組み上げていく。溢れる魔力から漏れ出るのは未だ小さな静電気達。 その間にも『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)が、盾にされた一般人の前へと出た。 何者でも無いと語る仮面の奥には、この世界の人々と同じ、二つの眼を持ったエルヴィン。その眼を盾(一般人)へと合わせ、一つの命令を下す。 『正門から脱出しろ』 そうすれば、上書きはいとも簡単に完成した。 歩き出した一般人と交差するように、アーデルハイトの雷電はフィクサードを射抜き、その身体を痙攣させる。 無様に足下に転がった敵は、リベリスタを見上げながら血の気が引いていった。 「くそっ、アークが来るなんて聞いてない……!」 「そりゃあそうだろうな」 こっちには、最強の神秘事件を探る眼があるのだから。見つけられないはずは無い。 『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)は、Gazaniaと名付けられたハルバードの刃を廊下に引きずりながら敵へと迫った。その一歩一歩の音が近づく度に、フィクサードの息は荒くなる。殺される、と。 そして――デュランダルらしい火力をもって、フィクサードの背中を打ち、骨の擦れる音を間近で聞きながら、ジースはその意識をもぎ取るのだった。 再び走り出せば、廊下の前方から見知った顔が迫ってきた。 「きゃっほー! 皆さっきぶりー!!」 『Trompe-l'?il』歪 ぐるぐ(BNE000001)を先頭に、三人のリベリスタが続く。 この作戦。一階廊下の両端から二班が向かい合って走り、交差し、両端をゴールとしながらフィクサードを潰していくもの。 もう一班と交差しながら、『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は歌を奏でた。その演奏は、八人のリベリスタを包む。 「皆、まだ十分に戦えそうなの。だからそちらも頑張って!」 「ありがとう。そっちもな」 『俺の中のウルフが叫んでる』璃鋼 塔矢(BNE003926)とルーメリアが交わした言葉は一瞬。お互いに目線が合う事も無かったが、彼女の気遣いはきちんと受け取ったはず。 「あ」 後方に消えていく二つのリベリスタの班。ふと……もう一班が階段でも上ったのか見えなくなった所で塔矢は思い出したかの様に言う。 「そういや、さっきの敵の携帯で俺らの存在バレた事言った方が良かったか?」 その言葉に、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)と『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は顔を見合わせた。 バレたのか、バレていないか。それは正直言って解らない。あの電話が繋がっていた相手も、此方は知らない状態なのだ。 だが待って欲しい。例えどちらであっても、今は目立って何か状況が不利に傾いているという事は無いのだ。 「大丈夫でしょう!!」 その大丈夫が何処からの根拠からは知らぬとも、ぐるぐは両手の拳を前に出し、親指を上に向けて空中を漂う。 その言葉と行動に、塔矢は軽いなーと呟きながら、くすりと小さく笑った。 「どうする、どうする……っくそ」 此方は朱里。親指の爪を噛みながら、大して暑くも無いのに汗が止まらない。 状況的にはリベリスタ達が、校舎内のフィクサードを下から順にヒャッハー!している所で、その作業はそろそろ終わりを向かる程時間が経っている頃。 ならば対抗策を練らなければならない。 今から餌を取りに、何処に居るか解らないリベリスタが蔓延る場所へ行くか? このまま待つという手も、アリと言えばアリかもしれない。さあ、どうする? 「う、ぅぅうっっ」 朱里には実力はあれど、経験が無かった。 決断を下せぬまま、待っていればリベリスタは目の前にやって来るのだろう。それは解っていても、『撤退』だけはする事ができない。 重すぎる親の愛が、朱里を縛っているのだ。 「……何が来たって、迎え撃ってやろうじゃないの」 ● それからの時間はさほど経過していない。カップラーメンでも作っていれば終わる程度だ。 「う、うわぁああ!!」 校舎内、最後の一人(フィクサード)が裏の玄関から出てきたと同時に、銃声一つ。木蓮の弾丸が奴の片口を射抜いて黙らしたのだ。 ――堂々、リベリスタは現れる。武器を持ち、若干血に染まった服やらに身を包み。 「お前がクリムの娘の朱里か。少々付き合って貰うぞ」 ゲルトの眼は一点。金髪赤目の少女、朱里だけを捕らえて離さない。その瞳に映った彼女はぎこちなく震えている。 それは恐怖か、楽しさか。判別はゲルトにはつかないものの。 「ふ、ふふ……来たわね、リィィィイベェェエリスタァアァァァァア!!」 朱里は掴む。裏門の、門である部分の鋼鉄のソレを。軽い物であるだなんて誰が認識しているか? バキバキメキメキと音を立てながら、裏門は朱里によって容易く『引き千切られた』。 縦長の鋼鉄の端を持ち上げながら、朱里は奥を見た。狙いはルーメリア。なんでかってひ弱そうに見えたから。だがしかし、ゲルトはそれを許さない。ルーメリアと朱里の間に身を置き、その鋼鉄を見上げた。 「悪いな、お前の相手は俺だ……女の子はそんなもの千切ったりしない方が良いな」 「……っ邪魔なんですよぉ!!」 振り落とされたそれは、直撃は確かに避けた。が、身体を捻って避けたために犠牲になったゲルトの右腕の中身が、綺麗にプレスされた程度の威力は持っていた。 右腕の痛覚を感じる通り越して感覚が無い。歪めた眉のままゲルトは見上げれば、もう一発行こうか? そう持ち上がった裏門。 「ハローハロー。あそぼー。ちゅーする?」 「ぃぐっ?!!!」 しかし裏門が再び落ちる事は無い。ぐるぐが朱里の背後斜め右から、小さな拳を肋骨の間にめり込ませる。突然の死角からの攻撃に朱里は勢いのままに跳ね飛ばされては転がった。 「今の痛い所ですよねーにっぱー★」 「っく、っく!!」 何故知っているのだろう。数日前に父親に肋骨を圧し折られたそこを。何故、解ったのだろう――!! 恐るべき、ノックダウンコンボ。放った主犯は、ただただ天使の如く笑っていた。それが父親と重なって、朱里には一段と恐ろしく見えていた。 ひとつ、命令を下そう。 「殺せ……こいつらみんな殺せぇえええええ!!!!!!」 敵のタクトが攻撃力を底上げした様に見える。だからと言って止まる事は無いが。 やられる前に、やれ。それが後衛職のあり方か。アーデルハイトは何度目の雷電を組み上げていた。詠唱していても眼は周囲を見渡す。線を引く葬送曲を撃てないものかと周りを見ていたからこそ見えるものがあった。 それは、ゲルトの背だけでは足りない、ブロックを乗り越えた二人の覇界闘士が祈り手で神の吐息を吹雪かせるルーメリアへと迫っている姿だ。 当の本人、ルーメリアは眼を瞑って詠唱に集中し過ぎていて攻撃に気付いていない。 「ルメッ……」 名前を呼んで、回避させるのが早いか。 否。そう考える間にアーデルハイトの身体は前に向かっていた。このパーティの生命線が途切れるよりは、自らを盾にせんと。 「……大丈夫、なの」 目の前で、鈍い音がした。拳から放たれた烈火と、迅雷がルーメリアの肌に当たりそうで掠る。少し眼を開けば、血に濡れた銀髪のカーテン。 「治す、の」 小さな小さなリベリスタは、大きな大きな上位の存在の力呼び出し、をアーデルハイトの傷を埋めていった。 人の犠牲ともってして、大きな金とする。思っただけでも反吐が出よう。 イラつく思いを武器に託し、エルヴィンは敵方の神秘術師の前へと出た。 「やらせますか」 「はっ、奇怪なサーカスの犬か」 対抗せんと飛んできたナイトクリークだが、速度では遥かにエルヴィンが勝る。そのままメイガスを狩るかと思ったが、エルヴィンは冷静にナイトクリークの身体を零距離からの弾丸でノックバック。 そのまま吹き飛んだナイトクリークの身体は更に一撃が加えられた。遠くから、木蓮が狙ったのだ。 空中でもう一度跳ねた敵。丁度、額の中心に数センチ大の穴を開け――それが最初の一発とし、複数の銃声音と共にナイトクリークは蜂の巣になって転がった。 「や……やりすぎたか?」 「いや、惨殺ショーが好きな奴等だ。自分が惨殺されるのも好きだろう」 皮肉気に、エルヴィンは今度こそ回復役を狙う。その背の先で、ナイトクリークはフェイトを燃やし、一命は取り留めたのは木蓮が見えており、内心殺してなかったとホッとした。勿論、その敵が今の戦場で返り咲く事は無い。 「こっち来ないで!!」 隣に居た回復役が血溜りの中で転がっている。その光景を目にすれば、次の自分の番だと嫌という程解るだろう。 マグメイガスがこれでもかと葬送曲を奏でた。それはリベリスタの足止めにはかなり役に立っている。 「……っ」 身体に何本と突き刺さった毒の鎖の中でジースはもがく。もがいて、もがいて、傷口さえ広げて。 特に回避が低いジースと塔矢は鎖の恰好の餌食だ。塔矢こそ、治す術を持っていたとしても、使えなければ意味が無い。 「……弱いな」 自分はなんて弱いのだろう。これでは役立たずでは無いか。鎖に穿かれている右手を、塔矢は見つめた。変な笑いさえ出てくる始末だ。 このまま倒れてしまえば楽なものを。 「こんなのに、負けて……られっかよ」 声が隣から聞こえた。 ジースが、歯を力いっぱい噛み合わせて、呪縛に抵抗していた。それどころか、絡む鎖が音を立てて崩壊し始めている。 「杏里は言ったんだ、復讐なんてしないで生きていてほしいって」 血走った眼を持っていても、いたって冷静。そんな彼を、塔矢は口を開けたまま見ていた。 「でも、俺はそれでも奴が憎いから」 奴――とは誰だろうか。おそらく今、鼻歌でも歌いながら此処へ向かってきている奴だ。 「俺の意思で、奴を倒すから」 だから、だから――。 「こんな所で、止まってられねえから!!!」 咆哮し、右腕を前に出す。これ以上に伸びられない鎖は、引き千切れて消えていった。目の前、マグメイガスはぞっとした面持ちで、一歩、二歩、三歩と後退りしていく。 強さの形はどうであれ、塔矢の中にも根付くものはある。思い出してみれば、校舎内レースをしていた時に、ぐったりと倒れいた非能力者の群れが心の奥底に刺さっているじゃないか。 「そうだよな」 彼等が、何もしていない彼等が、此方の事情で利用されるのは塔矢の正義がけして許しはしない。 「じゃあジース。一緒に強くなろうな」 「……ああ!!」 千切れた鎖は、計二つ。即座に武器を振り上げた二人はマグメイガスを逃がす事はけして無い――。 ● 戦場の時間はかなり進んで。周辺には人気無く、とは言え一人だけ気長に残っていた。 「会うまで永遠、そこに居るつもりですか?」 ルーメリアは声のした方向を見る。言わずとも待ちわびた彼の来訪。むしろリベリスタを純粋に心配するフィクサードは、世界中探しても希少価値かもしれない。重ねた逢瀬から、彼は彼女を何処かしら大切に思っているのだ。 という訳で、Crimson magicianは堂々、校舎の屋上で紳士らしくお辞儀をしていた。その背後に首輪の着いたライオンが、絶えず涎を口から出しながら食事の時間を待っている。 「お久しぶり、会いたかったの!」 「数ヶ月ぶりでしょうか? 小さなリベリスタ。強くなられましたね」 鎌は無い。 クリムはルーメリアへと歩を進めた。 敵意は無い。 だから、向かってこられても怖くない。戦闘は既に終わっているのだから。 だから、だから――大丈夫。したい事は、ただ、話をしたいだけ。 「また一般人を巻き込むんだね、クリムさん……今度は何を企んでるのかな」 「何も企んではいませんよ。言える事があれば、ただのコストパフォーマンスと、『愛の鞭()』ですよ」 進んで来られて、今や目の前。ルーメリアとクリムの間は1メートルさえ無い。 「そのライオンは、サーカスの団員さん、かな?」 ライオンを指さし、できる限り情報を引き出そうとする。なんでも良いのだ、彼に近づける情報であれば。 ふと、彼の手が、指が、ルーメリアの顎を恋人にするように優しく持ち上げた。近づく、顔と顔。 「……駄目ですねぇ、それ以上は有料です。身体で払うなら……考えてあげても良いですけど?」 「ん」 傍から見れば、キスをしている二人。 吐息がかかる程近いけれど、唇はけして触れていない距離。ぶっちゃければ吸血だけでお前を殺せるという表示。 それ以上は、ルーメリアは何も聞けなかった。近くで見えた真っ赤な眼の奥で、真っ黒が見えたものだから。 「今日はもう、帰りなさい。これ以上道草食べたら、猛獣に喰われますよ」 ● 後衛の部下が崩れた事によって、支援は途切れた。いよいよ朱里の顔は真っ青に染まる。 とはいえ掠っても馬鹿力である朱里の威力は、ゲルトの体力を一人でフェイトを飛ばすまでに至った事が語っている。 「引き際を見極めるのも司令塔に仕事だ……っつっても、もう遅いか……?」 「う、うるさい、うるさいっ!!!」 持ち上げた校門は既に圧し折れ、へし曲り、元の形をすっかり忘れている。 構えたゲルトに、何回も何回も何回も何回もデッドラデッドラデッドラデッドラし続け、その息は上がる。加えて。 「そぉーい!」 「がっっぁぃぎ!!?」 背後からのぐるぐの拳は何回も何回も何回も何回も以下略。それに当たり続けて立っている朱里の体力も化け物だが。 「く、くそっっ!! どうしてお父さんみたいに上手く殺せないの!!?」 力任せ。再び校門がゲルトの胴を直撃した所で、へし曲がった格子が真っ二つに折れ、ついに武器さえ壊れた。 折れ、突き刺さるくらいに尖った鋼鉄をゲルトは掴み。 「嘘だよ……なんで立ち上がってくるのよ……」 立ち上がり、真っ直ぐにゲルトは朱里を見た。たった一言――。 「何度来ても無駄だ。俺がお前を止めてみせる」 ゲルトに捕らえられた鋼鉄を、いくら引っ張っても微動だにしない。むしろ、朱里の腕に力が入らない。 気が付けば、周りにはリベリスタしか立っていない。木蓮の銃口がこちらを向いていた。 恋人の眼を奪った敵の娘。フィクサードにだって家族は居て、でも家族を奪うという事はしたくない。迷う木蓮だが、撃てるか撃てないかは別として、銃口(敵意)を向けられている時点で朱里には最大の脅しになっていた。 「こ……殺さない、で、お願い……っ」 戦意喪失。 完全に敗北を迎えた少女は、少女らしく震えながら戦場を放棄した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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