●にやりと笑って 『本日休館日』 入り口には、そう書かれた看板が立てられていた。 ここはとある地方都市の美術館で、看板に書かれている通り、本日は休館日だ。 なので、もちろん館内に人の姿はないのだが……それはつい、今し方までの話。 なんの変哲もない空間に、通常ではありえないであろう穴が空き、『別世界』と『この世界』とを繋ぐ道が開かれた。 そして穴から、一つの小さな影が降り立つ。 この世界へと足を踏み入れた『それ』は、館内へと視線を巡らせ……にやりと口端を歪ませた――。 ●青空の下でブリーフィング 十二月にしては、今日は日差しが暖かいなぁ……などとリベリスタ達が物思いに耽っていると、待ち人である『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がこちらへ向けてやって来た。 「お待たせしました。それではブリーフィングを始めます」 いつも通りの調子でそう言うと、和泉は今回の依頼について語り始める。 通りがかりのアーク関係者達が、なんでこんな青空の下でブリーフィングを行っているのだろう……と不思議そうな顔を向けてくる。 それについては、この場で説明を受けているリベリスタ達にしても同意するところではあるが、「本日のブリーフィングは広場で行いましょう」と言われたからには仕方がない。 ちなみに余談ではあるが、後に「なぜあんな屋外でブリーフィングを行っていたのか?」とその理由を尋ねてみたところ「あの日は天気が良かったので、たまには良いかなと思って」との返事だったらしい。 和泉は仕事に関してはプロフェッショナルであり、新しい冬服を披露したかったからだとか、そういう個人的な理由では決してないのだ。 「……さて、今回の任務はとある美術館に現れたアザーバイドの送還となります」 和泉がそう言って手にした携帯端末を操作すると、リベリスタ達の携帯端末に送還対象の画像が送られてきた。 「……子供?」 誰かが、思わずそう呟いた。 腕白そうな女の子が、カメラ目線でにやりと笑みを浮かべている。 ただその容姿は少々特殊で、額に角が二本、背中には羽が二枚、そしておしりの辺りにはしっぽのようなものが覗いていた。 手にはクレヨンらしきものを持ち、壁に掛けられたいかにも高そうな絵画に、なにやら拙い絵を描き込んでいるところのようだ。 「アークのコンピュータにあったデータによりますと、対象は『ギーグル』と呼ばれる異世界の住人です。少々異なる部分もありますが、比較的人間に近い種のようですね」 和泉の説明によると、人の命を奪うような危険なタイプではないらしい。 単純に、いたずらが好きなだけのアザーバイドとのことだ。 「……ただ、多少やっかいな性質があります」 やはりそうきたか……と、リベリスタ達は溜息をつく。 「まず、言葉が通じません。全く意志の疎通が出来ないというわけではないのですが、ご覧の画像での印象通り、簡単にこちらの指示に従ってくれる相手ではないようです」 なるほど、確かに画像を見る限り素直な性格ではなさそうだ。 「ですので、送還を行うには……」 「行うには……?」 そこで一拍置くと、和泉は真剣な表情で言葉を続けた。 「おしりぺんぺんする必要があります」 ……あっけに取られるリベリスタ達。 和泉は再度真剣な声色で「おしりぺんぺんする必要があります」と言い直した。 和泉が説明するところによると、ギーグルには特定の箇所以外には全く攻撃が通らない。そして、その特定の箇所が『おしり』なのだ。 おしりに攻撃――といっても相手は子供なので素手で行うわけだが、とにかくある程度の回数をヒットさせると、ギーグルは涙ぐんで動きが鈍るらしい。 「……ですが、そこで気を抜いてはいけません。動きが鈍くなったところで、だれでも良いので十発ほど連続でおしりぺんぺんして下さい。そうすれば、言葉は通じずともこちらの意図をくみ取って、自分の世界に帰ってくれるはずですから」 要するに、とにかくおしりぺんぺんすれば解決に向かうという、ある意味単純な依頼ということだ。 「皆さんなら、出来るはずだと信じています。どうかよろしくお願いします」 最後まで真剣な調子を崩さずそう締めくくると、和泉はリベリスタ達を送り出した――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:外河家々 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月19日(水)22:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「絵画は巨匠、この世界の天才が己が人生を賭して遺した人類の遺産なのだ。それに落書きとはいかんともしがたい!」 美術館内で『ギーグル』と接触したリベリスタ達。まずは自分がどれだけ大変なことをしているのかを知るが良いと、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)が芸術の尊さを説き始める。 「さあ、分かったら早くその手を止――」 「私は魔王だ! 悪戯で勝とうなど片腹痛いわ!」 その言葉を遮るように、というかむしろ台無しにするかのように『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)が挑発的な言葉を投げる。 しかもノアノアは、『人類の遺産』であるはずの銅像の臀部に穴を開け、カラースプレーで《ご自由にお掘り下さい》などと書き加えていた。 「誤解して貰っちゃ困るぜ? これは奴を越える悪戯で注意を私に惹き、被害を拡散させないため泣く泣くしている事だ!」 ノアノアは得意げに、この行為がいかに重要なものかを語り出す。 「どこが泣く泣くだ?! 顔が笑っているぞ! 一体それがいくらすると思っているのだ!」 ……そんなてんやわんやの騒動の最中、奇妙な踊りを舞いながら『邪王』ブラッディー・たかし(BNE004181)が前へ出た。 「そいや! そいや! そーれそれ!」 その唐突さ故か、それとも邪王特有の強烈な威圧感を感じ取ったからか――ごくりと息を飲む仲間達。 「年末の裸祭りの特訓中だが、失礼。俺の名はブラッディー・たかし、知っていると思うが邪王だ。かなりヤバいと評判の男だから気を付けたほうがいい、俺は喧嘩もかなり強い。あと裸祭りの特訓の後だからズボンの下にかなり下着とか履いてない。俺は甘くない、甘くないと同時に子供の悪戯には怒らない寛容な心を持つ。あーん! たか様やさしい、先生のカバッ!」 一気に言い放つと、たかしはノアノアが傷物にした銅像の胸板を叩き涙を流した。 「ブラッディー・たかし……一体何者なんだ!?」 驚愕の表情を浮かべるノアノア、陸駆とは対象的に、残りのメンバーは「あ、うん……」と言うのが精一杯だった。 ● 「やあ、悪戯好きのお嬢さん。そろそろお仕置きの時間だぜ、覚悟は良いかい?」 ここまでの仲間達の暴走を無かったこととし、此奴等一体なにしに来たんだ? と訝しげな表情を浮かべるギーグルへと『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が言葉を掛けた。 (悪戯好きの異世界人と博物館での鬼ごっこ、か。なかなか少年心をくすぐられるシチュエーションだな。思いっきり遊んで、暴れて……この世界を好きだと思ってもらえるよう頑張ろう) そう決心し、エルヴィンはにやりと笑みを浮かべてみせた。 「ギーグルちゃん、こんにちはっ。ここは君の住む世界ではないのだ、おうちに帰らないとお母さんが心配するぞ?」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)もエルヴィンと同じく『タワー・オブ・バベル』『異界共感』を駆使し語りかける。 そこに今度は『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)が口を開いた。 こノ幼女の名前ハなんだったのダ? と仲間から名を聞き出し、 「あア、プールで目に付けル……」 と言ったあと、チラ、チラと仲間達にツッコミプリーズ! という視線を送る。 仲間からの「……ゴーグル?」との答えに満足そうに頷き返し、 「ネット検索便利だナ♪」 「○ーグルなのだ?」 「雪のコブを華麗に滑ル、スキー競技……」 「モーグルか?」 「鷲……」 「イーグル」 「ドーナツ状に焼いたパン……」 「ベーグル」 というベタベタな親父ギャグを披露してみせた。もちろんとんでもなく滑った。 そしてその言葉はギーグルには通じないが、大丈夫、それは折り込み済みだ。カイは雷音へと、 「今ノやり取りヲ、翻訳して伝えテ欲しいのダ!」 と頼み込んだ。 他人の思いっきり滑ったネタを第三者に説明するという苦行を任された雷音は、気乗りしない表情でギーグルに先程のやり取りを伝える。 ギーグルはふんふん頷いた後に「――・――・」と返事を返した。 自信満々な笑みを浮かべるカイに、雷音は返事を伝える。 「次下らねぇ台詞吐きやがったら、もぎ取るぞ? とのことなのだ」 一体なにをもぎ取るのか……とギーグルを見ると、その視線は完全にカイの下半身をロックしている。つまりそういうことだ。 そんな攻撃、説明なかったし大丈夫なはず……。頭で理解していても、全身に鳥肌が浮かび上がった(トリだけに)。 ● 「悪ガキのお尻を叩いて追い返す、といえば簡単そうに聞こえるけど……なんで私は、こうも癖があるというか変な事件ばかり……」 いい加減進まぬ展開に業を煮やしたのか、または恐怖に撃ち震えるカイを哀れに思い助け船を出したのか……。『黒猫』篠崎 エレン(BNE003269)は紫煙と共に溜息を付き、咥え煙草で臨戦態勢を取る。 「おしりぺんぺん、か……懐かしいな。私も姉様たちに良くぺんぺんされたものだ、末っ子だったからな。そして今ならば分かる、悪い子にはぺんぺんが必要なのだ!」 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)もそう続き、やる気満々の表情を向けた。 「ギーグルちゃんはわんぱく、すぎるかな? とにかく悪い子にはお仕置きが必よ……う?」 雷音が言葉を述べている最中、ギーグルはテクテクと彼女の前まで歩み寄るとおもむろにそのスカートを捲り上げた。 「ひゃあ!」 可愛らしい声を上げ、雷音はその場へしゃがみ込む。 下にスパッツを履いてはいたが、それでも恥ずかしさは相当なものだ。 頬を染めスカートを押さえる雷音を見下ろし、ギーグルはさも楽しそうに言い放った。 「・――――(訳:ヌルいこと食っちゃべってねぇで、さっさとかかって来いよ)」 その幼女とは思えぬ物言いに絶句するリベリスタ達。ギーグルは彼等の予想以上に腕白だったのだ。 そして、やっとこさ戦闘が始まる。 ● 小さな体とすばしっこい動きはおしりを狙うことを難しくし、攻撃の命中精度を下げる。 「はぁぁァー! ぺんぺんぺんぺん!! ……何ィ! ほとんど外しただト!?」 三児の父であり小悪魔達の扱いに慣れているはずのカイのおしりぺんぺん力さえも、簡単には通じない。 そんな彼等の苦戦具合とは裏腹に、ギーグルはリベリスタ達を次々と毒牙にかけていった。 「ふふふふふ……貴様の武器はクレヨンだな! だがしかし、私の眉毛は既に太いのだ! 描くまでも無く、な! さあ、このナチュラルボーンふとまゆに対してどう出る、ワンパクよ」 余裕綽々なベルカへ、ギーグルがクレヨンを振るう。 某亀有公園前辺りの警察官の如く彼女の眉がMの字の形に繋げられ、そのまま顔から胴体へと縦に、 『Mっ気有り、あと躯がエロい』 と書かれた。 「貴様ー! 誰がM奴隷だ! あと別に、体も言うほどエロくないだろー!!」 とベルカは震え声で抗議する。さらにその被害は彼女だけに留まらなかった。 「そんなことしちゃだめだぞ。紙ならいくらでもあるだろう、ここに落書きを……」 と持参した紙を差し出す雷音。ギーグルはその紙に素早くなにかを書き込み突き返した。 『根暗だしなんか背中が煤けてるし、盆栽が趣味とかジジくさいしあとやっぱり根暗』 「……いや、そうだ、ボクは根暗ではあると思う……それは認めよう。で、でも、少しでも明るくしようと努力はしてるんだ! あと、盆栽趣味がジジくさいとかいうな! 盆栽は愛情をそのまま返してくれる優しいものなのだぞ! 盆栽はよいものなのだあぁ!」 誰に宛てるでもない弁明の最後に絶叫すると、雷音はいじけた感じで地面に『の』の字を書き始めた。 その様子を見た一同の感想は一つ。本人に伝えることは憚られるが、なんというかその、本当に暗かった。 そしてエレンも、ギーグルのラクガキのターゲットとなってしまう。元はシンプルな無地のTシャツだったエレンの身に着けるそれは、 『萌え萌えニャン☆ エレンたんって呼んで欲しいニャン♪』 という吹き出しと共に、彼女がモチーフであろう銀髪猫耳娘が、いかにもなポーズを取ったイラストが描かれた恥ずかしい感じのTシャツへと様変わりしていた。絶句するエレン。 彼女は、ある一点を除けばいわゆる『ハードボイルド』を地でいく女だ。その一点とは、革醒の影響で生えてきた猫耳と猫尻尾。 それが生えているせいで、どうしても『それっぽい』キャラクターに見られ弄られることも多い。とはいえいちいち腹を立てていてはキリがないため、うんざりしつつも半ば諦めてはいたのだが……。 それでも大変な衝撃だったのか、その口元から煙草がこぼれ落ちた。 そんな感じで仲間達が大ダメージを受けるなか、全く動じなかったのはエルヴィンただ一人だ。 『教員目指してるロリコンとか……お巡りさんこの人です』 背中に書かれた文字を確認し、 「はっはっは、何とでも書くが良いさ! これしきの事で凹んでたらナンパなんてできねぇよ!」 と余裕の笑みを浮かべる。それどころか「この世界の文字を書けるなんて凄いな!」と褒め言葉を掛けつつ、ギーグルの頭を撫でようとさえした。 「――・――――・!(訳:触んじゃねぇよ、このペド野郎!)」 暴言を吐かれても、エルヴィンの笑みは揺らぐことがない。 「…………ちっ」 その変わらぬ笑みに興が削がれたのか、ギーグルはクレヨンをポシェットにしまい次の攻撃へと移った。 ● 「うわっはっはー! どうだ、このズボン!めくれるものならばめくってみるがいいわー! ……てうわ、ちょっと引っ張るな! 引っ張るなって!」 今度こそはどうすることも出来まいと、自身満々のベルカのズボンを、容赦なくずり下ろそうとするギーグル。 やめろよー! 見えちゃうだろー! と涙目で、必死にズボンを上に引っ張るベルカの姿は、まるでセクハラされてるOLのようで……やはりどうにもエロかった。ギーグルもギーグルで「ここがええのんか?」とでも言いたげな、幼女とは思えぬ邪悪な笑みでお楽しみのご様子だ。 そんなわけで、今度はスカートめくり&ズボンずり下げ攻撃へと移ったギーグル。リベリスタ達はまたもやその餌食とされていく。 「き、貴様、ふざけおって! ふ、婦女子の前で下着を見せさせるなんぞ、不届き千万!」 ズボンを急いではき直しながら、メガネの奥の瞳に涙を浮かべ抗議の言葉を放つ陸駆。 天才も ズボン下ろせば 普通の子――その様子を見ていた誰かの頭に、そんな一句が浮かんだ。 「大人しく悪戯されるだけだと思うなよ!」 エルヴィンだけは相変わらずで、ズボンを下げられても動揺をみせることなく、逆にギーグルのワンピースをめくり返す。 これが【電撃無効】【精神無効】の力なのか――。このロリコンまじパネェ……という視線をギーグルを含む全員から向けられるも、彼の心は波立たない。 そんなすったもんだの末、多大な被害を受けつつもリベリスタ達も少しずつではあるがおしりぺんぺんを加えていった。 平穏とはいえないが、このまま最後のぺんぺんまで持ち込めるか……とそう都合良くはいかない。 心理ダメージを狙うのダ! と、ズボンの下にTバックを履いていたカイ。 「攻撃は最大の防御なリ」 ずらしたズボンを手にしたまま固まるギーグルに向かって、得意げに言い放つ。 しかしその心理攻撃は、強力な逆襲を生むこととなった。 次のターン、ギーグルはまだTバック状態のままのカイの背後へと回り込む。 そして両手を合わせ溜める仕草から間髪入れずに、突き上げるようにカンチョーを叩き込んだ。 そのあまりの衝撃に、一瞬カイの体が宙に浮く。 「……ぬ、ぬかったのダ……オ……女の子はそんな事しなイ……のダ」 そしてその場に崩れ落ちたカイだったが、辛うじてフェイトを燃やし立ち上がることが出来た。 いや、立ち上がってはいるのだが、若干ぷるぷるして歩き方も内股で、残念な感じだ。 そんな一部始終を目にした仲間達の顔に、恐怖の色が浮かぶ。だが、無情にも次のターンもギーグルは溜めの姿勢を取った。 「待て! 此処は私が行く……」 そう言って、なんとノアノアはギーグルへと背中を向け仁王立ちになった。 「天才が思うに、ノアノアにはなにか策があるのかもしれない、ここは彼女に譲ろう。やつならなにか為してくれるはずだ」 信じようと、陸駆は仲間達へと頷いてみせる。 「ふっ、小さなガキを従わせる方法を教えてやろうか? それは、そいつの最も自信のある攻撃を甘んじて受け、そして耐える事だ! 全力防御?チャンチャラ可笑しいね! ノーガード以外考えられないッ!! 来いやぐえあぁぁぁああアア!!」 気合いを入れて、臀部を突き出すノアノア。 その突き出された目標に向けて、ギーグルは怯むことなく抉り込むように強烈な一撃を撃ち込んだ。 ズバシューンッと、まるでカンチョーの効果音とは思えない音が響く。そしてしばしの静寂のあと、ノアノアは前のめりに倒れ込んだ。臀部からは、血飛沫が吹き上げ、周囲へと赤い血溜まりを作り上げた――。 ● 「全く策なかったあああ! まて、ここだ! お前の妹の記憶はここにあるんだ! おちつけ! そっちに行ってはいけない! その渡し守に銭を払うな!!」 陸駆は狼狽しながらも持っていた『ルカルカの記憶』をノアノアへと握らせる。 一方ノアノアはというと、意識の海の中を漂っていた。川の向こうで、妹が呼んでいる……。 ダメだ、私はまだそちらへは行けない――。 もう少し、そちらで待っていてくれ……と妹へと別れを告げ、ノアノアはフェイトの力で息を吹き返す。 「ケツがクロスイージスからアスタリスクイージスになり掛けたが……これで分かっただろう、どちらが格上か」 ノアノアはそう言って勝ち誇ってみせる――ぷるぷると子ヤギのように震えたままで。 「カンチョーを使うだとぉーっ!? えんがちょだぜ、こいつぅーっ!俺はよぉーっ! 潔癖症なんだ! その汚い手で俺に触るんじゃないぜ! よせーっ! 来るなー! やめろー! 俺はたかしだ! ブラッディー・たかしだーっ!」 指から返り血を滴らせるギーグルに、たかしは怯えるような仕草をみせる。その表情から嫌がっていることを察したのか、ギーグルはたかしへと素早く近づく。しかし彼女が近づいた瞬間、たかしはかかったなとばかりに表情を変えた。 「信じたか? 俺はブラッディー・たかし、ブラッディーは血だ! 血が好きな俺が潔癖症なわけがねぇーだろぉー!! 俺はレベル1だから明らかに弱そうなヤツを攻撃した方が楽しいんだろ! 調子に乗りやがってっ! 俺は邪王だぞ! 俺はカンチョーも好きだしケツを掘られるのも叩――」 台詞が長かったので、たかしはケツを丸出しにして折りたたまれた。 ギーグルは次のターゲットへと移る。威力の高さ故に消耗が激しいのかカンチョーを使う様子はないものの、相変わらず心理的ダメージの大きい攻撃を繰り出してくる。 とはいえ彼女の涙腺もそろそろ限界らしく、泣くのを必死に堪えているようだ。 そしてギーグルがエレンへとズボンずらしを仕掛けたことで、決着のフラグが立つ。 エレンのジーンズをずらし、表れた下着へと『見ちゃ嫌ニャーン♪』と吹き出し付きのイラストを書き込んだそのとき、エレンの中でなにかがプツンと音を立てた。 「……キレた、本気出す」 言葉と共にギーグルの首根っこを掴み、本気のおしりぺんぺんを叩き込む。 一発目でギーグルの瞳からは涙が零れたが、容赦なく止めの十発を叩き込んでいく。 「躾の! なってない! 子供には! 容赦! しない!!」 エレンも半泣きになっているように見えるのは、恐らく気のせいだろう。とにかく鬼気迫る程の迫力で、彼女はぺんぺんを完遂した。 ● 「悪いことをしたら叱られる、わかったなら道草をせずにおうちにかえるのだ」 未だにベソをかいているギーグルへと、雷音が優しくそう告げる。 「駄賃だ、よかったら食べてくれ。美味しいとは、思うの、だぞ?」 そして持ってきたペロペロキャンディを差し出した。 「ほら、俺からもお土産だ、食べてみな?」 ギーグルの掌を開き、エルヴィンはその上にチョコレートをひとつ乗せる。 「次に来るときは悪戯なしで遊びに来いよ。その時は、もっとたくさんのあまーいお菓子で歓迎してやるからさ」 そう言って優しく頭を撫でようとするが、ギーグルは差し出された手に噛みつこうとした。 「ははっ、まだまだ修行が足りねーな!」 ギリギリのところで手を引っ込め、楽しそうに笑うエルヴィン。ギーグルは悔しそうに涙の残る瞳で一睨みしたあと、素早い動きで雷音の手からペロペロキャンディをつかみ取り、最後にあっかんべーをしてD・ホールの先へと帰っていった。 「ちゃんと迷わずおうちに帰れよー。言う事聞くんだぞー。歯みがけよー」 と、ベルカがその背中に声を掛ける。 エレンはゲートを閉じ「凄く疲れた……」と溜息を付いた。 「10年後、立派なレディになって戻ってくるのダ……」 カイが、D・ホールの消えた空間へと小さく呟く。 (その時はカンチョーがご褒美になるのダ?) その一言は、空気を台無しにしそうなので自分の胸だけに仕舞っておいた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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