●彼の想い出 二度とない、絶対の誓い。 指切りとキスの儀式。 愛してる、愛されてる。 互いの存在を独り占めしあって、薄暗い世界で繋がりあう。 鮮血の契りに君は笑っていた。 不安も、焦りも、現実感の無さも一気に消えて君を求める。 俺にお前がいて、お前には俺がいて、それだけで十分。 そう、十分だった……。 ●彼女の想い出 貴方に逢いたい。 奥行きの無いメディアじゃもう満たされないの。 胸に感じる温もりも、頬に感じた掌も、唇に感じた貴方も色あせていく。 目の前にいる誰かが私を求める。 違うと何度も呟いた。 駄目と何度も鏡に叫んだ。 それでも、分からない。 どうして私は違う鼓動に包まれてるの……? ●表裏一体の世界 今日の出迎えの挨拶はない。 そこには確かに『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)と兄、紳護の姿があったが、何時もとはまったく違う雰囲気だ。 ノエルはぺたんと床に座り込んだまま泣きじゃくっていた。 スケッチブックを放り捨て、顔を押さえ込んだまま体を震わせ、嗚咽と共に小さな掌から雫が零れ落ちる。 兄は心配そうに背を撫でるだけ、そしてやや反応が送れ、リベリスタ達の方へと顔を向けた。 「あぁ、これは……今回は予知の映像がショックだったらしい」 未だに泣き止まぬ妹を見やり、その間にと紳護はスクリーンに情報を映す。 「今回はこのノーフェイスを対処してくれ」 風祭 拓人、18歳。 何処にでもいるような人間が運悪く、革醒したという事。 だが、紳護の言い回しに何か引っ掛かるものがあった。 対処という妙な表現をしているからだろう。 「風祭がこの後、エリューションとなり続けるのか、フェイトを得るのかが分からない……いや、どちらにもなるという事らしい」 予知とは可能性だ。 だからこそ、フォーチュナーは未来を覗き、最悪の事態を避けるべくリベリスタ達を導く。 つまり、可能性という選択肢は幾つもある。 「何故そうなったかは、風祭のターゲットにある。土方 雛子、つい最近まで恋仲だった相手らしい」 今は違う。 その先は皆まで言わずとも理解し、ブリーフィングルームは静まる。 「ふられた事に憎しみを抱いて暴走状態といったところか、彼女を殺す事だけに執着している。と、言う事で土方の保護も目標に含まれるから注意してくれ。土方の方は最近リベリスタとして活動を開始したばかりだが、一般人に比べればマシだろう」 投影される情報では土方の腕前はまだ未熟だ、風祭とぶつかり合えば簡単にやられてしまう。 一般人ほどではないがしっかりと守らねば、あっという間に失敗となりそうだ。 「後は……風祭だな、フェイトが得られなければ始末するしかない。得られれば別だが」 説明が進む中、泣き声がゆっくりと落ち着き、ノエルが立ち上がる。 目元が赤く腫れ、涙でぐしゃぐしゃのまま声を絞り出す。 「ずっと聞こえたの、いたい、つらい、ころしたい、こわしたい、けしたい、ぜんぶぜんぶ……って」 純真無垢な心に狂気の憎悪はあまりにも凶悪で、自然と掛かっていたフィルターすらも突き破ってノエルに襲い掛かったのだろう。 テーブルの上に置いたスケッチブックには、黒いクレヨンで殴りかかれた呪いの言葉ばかり。 彼女が受け止めた、どす黒い世界が具現化していた。 「でもね、ずっとこわい声ばっかりなのに、たまにすごく幸せなのがみえるの……笑って、すきって、だいすきって、くるくる変わって、こわいのと きれいなの……さいごもくるくるかわるの、悪いおばけになっちゃうのと、ふつうなのと」 未来は定まらない、どちらともなる答えは希望と共に同じ両の絶望を見せつけ、心臓が締め付けられるような痛みがノエルを蝕む。 「あとね……きらいの感情にのみこまれちゃ駄目なの、飲み込まれちゃったらもう、駄目なの……」 ひとしきり吐き出したノエルは再び顔を伏せる。 「土方の位置は既に補足してある。とにかく、彼女を保護しつつ、風祭をどうにかしてくれ。……殺す事になろうとも、生かす事になろうとも」 決断を求められるリベリスタ達、紳護は作戦に必要な資料を彼らに渡すとノエルの肩を抱き、ブリーフィングルームを後にする。 暗闇の中で彼等は選ばねばならない、一つの命の結末を。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月20日(木)23:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●真っ黒な心 「拓人……」 少女の前に現れたのは、変わり果てた愛しかった人。 紅く光る瞳、荒い息、奇妙な音を響かせ力をみなぎらす四肢。 放たれる憎悪の気配は、真っ黒な靄の様になって彼を包んでいるように思えるぐらいだ。 風祭 拓人、今、人と獣の狭間を彷徨う哀れな革醒を迎えていた。 「ア゛ァァァァッ!!」 おおよそ人の発する音ではない叫びに、少女の体がビクリと強張る。 一瞬の遅れは、命がけの戦いでは死と同意だ。 彼の拳が振り上げられた瞬間、雛子の傍へ滑り込む影があった。 「っ!?」 『心に秘めた想い』日野原 M 祥子(BNE003389)の霜月ノ盾が重ねられ、一つの円となって守りを固める。 だが、予想よりも高密度な破壊力は、盾を握る手を痺れさせていく。 負けじと盾で彼を押しやり、距離を保つ。 「俺が相手するぜ!」 怨念達の攻撃を掻い潜り、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が割り入ると赤い瞳を睨み返す。 (「本当は、後ろのアイツにガンくれてやりたいんだけどな」) 土方 雛子、今回の保護対象の事だ。 結果として待ち続けた拓人の心を裏切った彼女の事を、彼はどうしても認める事が出来ない。 悪い事に変わりないが、本当に彼女だけが悪であろうか? (「ティリテス、やっぱり土方ちゃんが気に食わないか」) 前衛の一人、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)は、彼の雰囲気に苦笑いを零す。 勿論、理解できないわけではなく、ヘキサの考えも理解もしている。 (「自分が愛してれば、相手もずっと愛してくれる。そんな甘ーい青ーい事考えてた時期が、俺にもありました」) だから言ってやりたいのだ。 人を取り戻した拓人に、現実と言う苦渋を。 光る刃で怨霊を切り裂きながら、彼はその時を待つ。 「これの相手は私がします。他のを優先して攻撃を!」 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)は、手近な敵に全身全霊の一閃を放つ。 白鳥の羽を思わせる刃は白き闘気を放ち、破壊の力となって怨念を砕く。 一撃では落ちぬが、切り込みの一撃としては十分だ。 「そっちは任せたぜ!」 『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319)が応え、別のエリューションに取り付く。 魔力を宿したナイフを素早く振るい、小さな動きながら切っ先は音速を超える。 大気を切り裂く音波と共に、エリューションを追いたて、勢いを繋げる。 (「愛と憎しみは表裏一体、とはよく言ったものだが……」) ブロックや迎撃、バックアップを担当する『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は、怨念から零れる憎しみの声を耳にし、思考を巡らす。 聞える声は心臓を突き破る様な叫びばかりだが、どれも根底は正の感情から生まれているのを感じる。 伝えさせねば。すれ違ったまま終っていいものではない。 ●本当に正しい事 「土方さん、あなたの言葉を、気持ちをぶつけてください」 エリューションの進路を塞ぐ様に赤い閃光の刃を振るい、『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)は雛子に呼びかける。 あっという間に展開されたリベリスタ達の姿を呆気にとられてみつめていた彼女を、その言葉が呼び戻す。 「私達だけでは、彼を助ける事は出来ませんから……」 戦う作戦と違い、人の心を救う作戦。 佐里にはどれが最適手なのか分からない、だができる事をすべきだと考えを伝える。 深く繋がった雛子だからこそ、拓人の心に触れる事が出来るはずと呼び掛けたのだ。 しかし、彼女の顔は上がらず、視線は地面に向けられたまま。 「私、貴女の事が嫌いだわ。」 容赦ない反感を示したのは、『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)である。 彼女の隣をすり抜ける一瞬、向けた視線はとても焼け付くようなキツイもの。 「彼の一途な思いを裏切った、それが許せない……でもね」 手近なエリューションへ一投足で詰め寄り、炎の拳を叩き込む。 憎しみの炎を炎で浄化し、焔は黒い気配が弱まるのを手と気配で感じていた。 「もっと嫌いなものがある。それはね、誰も救われないエンディングよ」 先程までの憤りも拳と共に抜けたのか、彼女の表情は晴れやかだ。 焔の言葉に、ヘキサも小さく笑いつつ、拓人の拳をぐんと身を屈ませて潜る。 「俺もお前の怒りはわかるぜ。4年連れ添った女に、信じてたのに……ひっでェ裏切りだ、土方ってヤツはサイテーだな?」 自身の行動の結果、それを今一度思い知らされ、罪悪感の枷が雛子の心を締め付ける。 「今のままじゃ彼苦しそうじゃない? どっちにしても気持ちを伝えた方がお互いすっきりすると思うわよ」 俯いたままの彼女へ祥子が優しく背を押す。 しかし、何故ヘキサは感情を煽り立てるような言葉を連ねたのか? 憎しみの炎がより燃え出しそうなものだが、続ける言葉が全てを打ち消す。 「……けどさ、そんなサイテーなヤツでも、一度惚れた女なんだろ? そいつの幸せを心から願えねーなら……テメェの愛も、その程度だったんだろうぜ」 遠まわしながらも救おうと言う想いを繋げる。 (「私は……」) 踏み出すしかない、今まさに、目の前では仲間達が彼女の為に盾となっているのだ。 「ぐっ!」 怨念の呪縛が、暴れまわる和人を封じ込める。 しかし、直ぐに義弘のメイスから放つ浄化の光が束縛を打ち払い、前線を支える。 崩れた陣形を埋めようと吹雪と佐里が防御網を繋ぎ、エリューションの突破を防ぐ。 「何でもいいから言ってやりな!」 吹雪からも心強い声が掛かる。 雛子は彼等の本気を受け取り、ゆっくりと言葉をつむぐ。 「ごめんね……もっと、何を言えばいいのか分からないけど……ごめんねとしか、いえないよ。――ごめんなさい」 だが、その言葉だけで収まるはずはない。 真っ黒な気配は更に膨れ上がり、目の前のヘキサへ拳を繰り出す。 身を逸らして避ける彼を手が追い、殴打と思われたそれは掴みに変わる。 がっちりと肩を掴む力は小さな肩に指が埋没せん勢いだ。 肉を握りつぶされる痛みに、ヘキサは顔を顰めながらも振り払おうと試みるも容易く外れるものではない。 「憎しみだけで、戦うな」 ヘキサを掴んだまま雛子の方へ突破しようとする拓人を、義弘が遮る。 「憎しみだけで、殺そうとするな。彼女に伝えたい言葉があれば、ちゃんと伝えるんだ」 自分が伝えたかった想い、それは何か。 「――ア゛ァァァァッ!!」 傷口に触れた瞬間、それは激痛を伴って彼を叫ばせた。 「憎しみを持つなとは言いません。誰彼構わず許せとも言いません。ただ、もう一度考えてみてください……貴方は本当に恨みたいんですか?」 佳恋が言葉を重ね、傷口が広がる。 悪化するように感じるのは彼だけだろう、それでも彼女は続ける。 「たとえ大切な人を失うことがあっても、生きることから逃げなければ、また良い出会いがあるのですから! 足りないかもしれませんが、私が保証します!」 佳恋の叫びがより一層の痛みとなって彼の心を焼き尽くす。 それでも拓人は止まる様子が無い。 「だから! 憎しみに逃げないでください! そして、生きることから逃げないでください!」 「ダマレェェェッ!!」 目標変更、傷を抉る喧しい存在を消し去る。 佳恋へと目標を変えても、変わらず義弘の壁が行く手を遮った。 「……そう簡単に割り切れとはいわない、だが言葉で伝えるんだ。今は恨み辛みの言葉しか出なくとも、その想いは確かなもののはずだ」 土方もと、最後に続ければ彼女へ一瞬だけ視線を送る。 (「わかんないよ、何を言えばいいの? 私が……悪かっただけ、二人が行ってた通り、裏切ったから」) 「一条、ここを頼むぜ?」 沈黙が続く雛子の傍へ和人が向かう。 「分かりました!」 唐突にポジションを任された佐里だが、狙い済ました縦一線でエリューションに挨拶を仕掛け、ラインを崩させない。 「土方ちゃんだけが悪いわけじゃないさ、いない間どんな思いをしたか言ってやりな?」 短い言葉ではあったが、再び雛子は背中を押される。 罪悪感ではなく、彼がいない間の自分、それを伝えるべく少女の心が蘇った。 ●愛ゆえに 「寂しかった……寂しかったんだよ、何時もあったものが、直ぐ傍になくて、ずっとずっと触れられなくて。声が聞けても、顔を見れても、寂しくて壊れちゃいそうだった」 エリューションたちを蹴散らされ、一人残った拓人へ雛子の悲痛な声が届く。 「愛してるよ、多分今でも。それでも、それが辛かった……」 分からないと、憎しみが彼女の言葉を焼き払ってしまい、激情だけが彼を動かす。 捕まえたままだったヘキサへ唐突に拳を振り下ろし、八つ当たり同然の攻撃が始まる。 「っ、どうした!? 全力で攻撃してきやがれ! 恨みも憎しみも、オレに吐き出してみろっ!」 痩せ我慢に拓人を煽るヘキサ、だが最早この憎しみは膿と変わらない。 一度全て抜き出さなければ、治らないのだろうと悟る。 煽られるがまま今度は蹴りを脇腹に見舞う、軋む骨の音、おおよそ人が聞く事が無さそうな嫌な響きが体の振動を通してヘキサに届く。 「うぉらっ!」 「そろそろ離してもらうぜ」 肩を掴む手にヘキサの音速の脚と、和人の眩い刃が叩き込まれる。 拘束が緩んだ瞬間、自重を支える片足にその力も無く、ヘキサはダメージに流されるまましりもちをつく。 「佐里さん、ここをお願いします」 祥子が前衛の方へ動き、代わりに雛子の守りを佐里が受け持つ。 ヘキサの回復に詠唱を始めようとした瞬間、それを打ち消すような雄叫びが響いた。 「っ!?」 彼女の目に映ったのは、より濃い黒をまとう拓人の姿。 そして傍には憎しみの塊が再び漂い、彼等に襲い掛かる。 「どうして……? 風祭さんも土方さんも、気持ちは相手に向いてるじゃないですか! 謝って、許して、それで気持ちは繋がるはずじゃないですか!」 どれだけ言葉を並べても、憎しみの途切れぬ拓人に佐里の胸は張り裂けそうな思いだ。 確かに裏切ったかもしれない、でも互いに好きなのは変わらないはずだ。 なのに何故、こんなに捩れてしまったのか? 理解しきれぬ感情が、涙となって頬を伝う。 「それは簡単な事じゃないですけど……だけど……! お互いに、好きなんじゃないですか……っ」 リベリスタ達はノエルの予知を知っているからこそ、拓人に彼女への想いが残っているのを確証を持ち、理解している。 だが、情報の無い雛子は、自身の齎した結果を目の当たりにして、今だ愛されていると理解しきれない。 「ねぇ、貴女。彼の事、怖い?」 焔の声、彼女の方を見れば、視線に促されるまま拓人を捉える。 恐怖とは違う、それだけは確かで首を振った。 「アレが彼の想いよ。 貴女のことが好きで好きで堪らなくて――裏切られて。裏切られても、貴女が好き、大好きって。笑っていて欲しいって思っていた筈なのに捩れたの。貴方の事が好き過ぎて」 届かぬ想いが欲望を通り過ぎ、嫉妬も黒く包み、憎しみで覆ってしまった。 だから、拓人は苦しいのだと雛子はやっと辿り着く。 「叫んでも届かないなら、力ずくで受け取ってもらう他無いわ。土方……いえ、雛子。コレ、使えるわよね?」 炎を纏った拳、その技は知っている。 こくりと頷く雛子へにやりと笑みを浮かべ、今度は拓人を見据えた。 「行くわよ!」 佐里が制止を求めるより早く走り出す二人。 本当なら後ろで守られている筈の雛子が、前衛に飛び出そうとする予想外な出来事に、仲間達も一瞬呆気に取られてしまう。 「目ぇ覚ましなさいっ!」 炎の拳が二つ同時に彼の腹に叩き込まれ、炎が一気に広がる。 ダメージこそすこぶるものではないが、彼に動揺ぐらいは与えたらしい。 紅く光る目からとげとげしさが消え、きょとんとしている。 「私が悪かったけど、私の話も聞きなさいよっ! アンタも何かいいなさいよっ!」 彼女の想いは吐き出し終えた、返事が来なければ続かない。 そう、次は返事の時間だ。 ●それでも彼は 「ははっ! 凄い伝え方だな」 大胆な告白方法に吹雪は噴出すように笑い、今度は拓人を見やる。 勿論、様子の変化も見逃さない。 「おい風祭、お前はまだ土方のことが好きなんだろ、愛してるんだろ!」 心の壁に出来た皹へ、突き刺さる言葉が胸を高鳴らす。 再び瞳に憎しみが戻れば、視線の先に彼を定めた。 「だったら憎しみなんてくだらねぇもんに呑まれてんじゃねぇよ! 取り返すぐらいの根性見せて見やがれ!」 怨霊達の矛先は希望を撒き散らす彼を狙う。 かすかな光すらも嫌う陰気な者共からすれば、彼の全てが疎ましい。 だが、そんなものは取るに足らずと煌くナイフが切り捨てる。 「略奪愛おおいに結構、もう一度彼女を取り戻してみせろ!」 ぐっと握りこぶしを突き出せば、拓人を睨みつけ、吹雪は叫ぶ。 「だからその為にも運命なんかに負けるんじゃねぇ、戻って来いよ!」 運命より勝るもの、それは。 「俺は信じてるぜ、愛の力は奇跡を起こすってな」 憎い、何故? 嫌いだ、何故? 壊したい、どうして? 消したい、本当に? たった数分間の間に起きた戦いの中、たくさんの言葉が彼を叩き起こそうとした。 目を逸らした、逃げ出した『何か』を思い出させようと。 最後の言葉は吹雪がいってくれた。 (「あぁ、そうか、俺は……」) 切り捨てられ、一人になって、寂しくて、苦しくて、嫉妬して、涙を零しても。 どれだけどれだけ忘れたくても忘れられない。 だから逃げた、その痛みも苦しみも、全ては憎いからと。 憎しみの元を消せばきっと消える筈。 それこそ嘘だ。 本当は、本当は……。 (「今でも愛してるんだ」) 「……っ、ぐぁあぁぁぁっ!?」 胸を抱え、よろめく拓人。 それと同じくして辺りに漂っていた怨霊たちも悲鳴を上げながら消えていく。 (「貴方の事を討たなくていいのですね……」) 嫌な気配が消えていく、それは成功を意味していた。 佳恋はほっと胸を撫で下ろす。 (「私は、この身を崩界からこの世を守るために捧げると決めました。そのことに後悔はありません。でも、貴方のような存在を討ちたくはなかったのです」) 一緒に手を取り合い、戦う仲間となるであろう者を斬る。 それと戦う覚悟は別だ。 最悪の結末を避けれたのは、最高の結果である。 黒いオーラが消えた拓人は人に戻っていた。 運命に祝福され、希望を掴み取った一人としてここに生まれ変わったのだ。 (「これでよかったわね? チビっ子ちゃん」) 守りの構えを解き、祥子も安堵の息をつく。 (「他人の恋愛トラブルに首突っ込むのはおせっかいかなって思ってたけど、チビっ子ちゃんに泣かれちゃったら断れないしね」) とは心の中で思うものの、彼女の表情はとても穏やかだ。 他人の為に割り込んだのもあるが、彼女自身も子の結末は望んでいなかった。 「あとは思う存分ケンカしなさい? 言葉だけでね」 泣き崩れる雛子に振り返り、再び背を押す。 頷くだけで精一杯な彼女に、祥子は嬉しそうに笑みを零した。 革醒の状態も落ち着いた拓人へ歩み寄る和人。 途中途中で見せた、彼の考えがやっと伝わる時が来た。 「人の心ってさ、お前が思うよりずっと強欲なんだよ。どーせ愛し合ってた思い出に胡座掻いて、それさえあれば何時までも想っててくれるとか考えてたんだろ?」 反論など求めていない、ただ彼は言葉を続ける。 「鋼の心持ってる訳でもねーフツーの女にゃ無理ですから、それ」 雛子だけが悪いわけではないと、彼女の背を押した。 だからこそ、今があるのが事実だ。 「いいか、恋愛ってのはな、相手が余所の奴に目を向けちまった時点で負けなんだよ。親の事情だから仕方なかった? お前本当に関係を続ける気あった訳?」 あるなら死ぬ気でバイトして旅費を作ればいい。 自転車でこようがヒッチハイクで来ようが、どんな手段を使っても彼女に何度も会いに来ればよかった。 そんな必死の努力も無く招いた結果、そして一人被害者と暴れる彼が許せなかったのだろう。 「ま、次があるんならちゃんと相手を愛してやんな。愛に酔うんじゃなくてさ」 経験者は語る。 厳しいかもしれないが、これが和人なりの手向けという事だろう。 ぐうの音も出ない程、納得させられた拓人へ雛子が駆け寄る。 「あとでアークに来なさいよ? まだ貴方達駆け出しなんだからね?」 焔の言葉を最後に、彼等は二人の元を離れる。 リベリスタ達が手助けするのはここまで。 後は、当人達の話と心の救世主は帰路へと着くのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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