● だれかいませんか。 ぼくたちの声がきこえますか。 手をとってくれませんか。 ぼくたちは寂しいです。 真夜中の空はノットゥルノが聞こえてきそうな程、穏やかなネイヴィブルー。 ちいさな身体をめいいっぱい動かして『うぶごえ』をあげたのは黒い猫 「にゃぁ」 一つ小さく鳴いた。 「にゃぁ」 二つ小さく鳴いた。 真っ黒の空に真っ黒の猫の、ちいさな泣き声が広がった。 生れ落ちたのはディメンションホールの向こう側。おもちゃの国の聖なるタマゴから。 その国では生まれてすぐに、ご主人様と巡り会える。 世界で一番大切で素敵な人に手を取って、抱きしめてもらえる。 おとぎ話の様なとっても幸せで穏やかな世界。たくさんのお菓子とおもちゃが浮かんでいる世界。 めいいっぱいの色が満ちあふれた世界。色彩のゆめの世界。 そこで自分のご主人様を楽しみに待っていた。 「ぼくの御主人様はどんな人かな? かわいいかな? かっこいいかな?」 「ぼくはきれいなご主人様がいいな」 「ぼくは背の高い人がいいな」 「でも、どんな人でもぜったいに大好きになるよね!」 「そうだね! だって、ぼくたちのご主人様だもの」 「そうだよ! だから、はやく会いたいなぁ」 きゃぁ、きゃぁと小さくはしゃぎながら、黒い猫たちはタマゴのゆりかごの中で待っていた。 ――それなのに、一度も抱きしめてもらえないまま、こちら側に転がり落ちた。 ここはどこですか。 ぼくたちはどうなってしまうんですか。 とても、とても寂しいです。だから、どうか。 ぼくたちを抱きしめてください。 一度でいいから。 ぼくたちを抱きしめてほしいんです。 ご主人様はやく、ぼくたちを迎えにきてください。 ● 「暗黒の夜空に舞い降りたチルドレン。ぬくもりを求めるウィンターハーツ。分るだろ?」 分かる訳が、ない。 『駆ける黒猫』将門 伸暁(nBNE000006)はフロスティ・シルバーの髪を掻き上げ、ブリーフィングルームの巨大モニターから斜め45度の方向に視線を向けていた。 リベリスタを見て、いない。 きっと彼はNOBUであった。 「必要なのは、ただチルドレンのシルクの肌を抱きしめてやることだけさ」 ブリーフィングルームの巨大モニターに映し出されているのは、小さな黒い猫だった。 白くはなかった。 空調から吐き出される温風がリベリスタの心をそっと撫でて行く。 目の前のフォーチュナの髪もついでの様に少しだけ撫でて行った。 温かい風が吹いているというのに何故か寒い。気のせいだろうか。 いつのまにか此方を見ていたNOBUと目が合った。 ――逸らした。 「寒さに凍えて本物のエンジェルになる前に、最高にハッピーなエンドをギフトしてやってくれよ」 あ、はい……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:もみじ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月17日(月)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ネイヴィブルーの夜空に輝く星たちの煌めきがほんの少しの素敵なひとときを優しく照らしてくれる。 白い雪がちらちらと降ったり止んだりを繰り返す。 ぴゅう。と冷たい師走の風がリベリスタの間をすり抜ける。 それでも、皆温かい格好をしていたし、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)がくれたカイロをさすりながらであれば、雪と枯葉の山道も寒くはない。 自分たちの寒さより、この先に待つ小さな命の方が暖かさを欲しがっているだろうから。 各人は子猫たちが落ちたと思われる場所で散開する。 椎名 真(BNE003832)は音を頼りに暗がりを歩いていた。 「大丈夫、怖くないよ。こっちおいで」 見つけた子猫に優しく手を伸ばして語りかける。 心から気持ちを込めて、撫でたり抱きしめてあげれば きっとそれは伝わるはずだから。 最初はゆっくりと撫でて、慣れてきたら包み込むように抱きしめた。 子猫は安心したように真に頬をすり寄せる。 「よかったよー見つけれて。寂しかったよね、もう大丈夫」 雪の積もっていない枯葉の上に仰向けになり、胸の上でそっと抱きしめた。 慣れてきた猫は真を遊びに誘う。一緒になってふたりは走っていた。まるで、兄弟の様に。 疲れてきたら「ふぃー、疲れたねー きゅうけいー」と元の場所に戻ってきて腰を下ろす。 仲間の歌声が聞こえてきた。 「良い響きだなぁ」 ふたりは横になりネイヴィブルーの空に心地よく響く歌声を聞いている。 声を発する事もなく、ただ静かに耳を傾けていた。 子猫は今、この時のご主人様の事を知りたかったのだが、真は最後まで自分の事を語ることは無かった。 それでも、この一緒に過ごした時間はきっとかけがえのないものになるはず。 否、語らないからこそこの時間をただ楽しめたのかもしれない。 こんな寒くて寂しい場所に落ちてしまうなんて、とっても寂しかったですよね…… でも、大丈夫です。沢山抱き締めて、沢山お話を聞かせてあげますから。 『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)は金糸雀の唄とお揃いの深いオリーブグリーンのロングコートを羽織り、懐中電灯の光に寄せられて来た甘えん坊の子猫を見つけた。 足元でちょこんと座っている黒猫にぬくもりを与えたいから、手袋は外してそっと微笑みながら手をのばす。 「寒かったでしょう?おいでおいで…♪」 その声に甘えん坊の子猫は嬉しそうに手に擦り寄った。 櫻子はふわりと小さな命を抱き上げて、持ってきたブランケットを平らな場所に敷く。 もう一枚で自分と黒猫を包み込んで 「ほら、こうすれば暖かいですから…」潰れないように優しく抱き込んだ。 そして、ご主人様は小さな子供に色々なお話を紡いでいく。 自分には弟が居ること、恋人も居て一緒に暮らしていること。前は花屋で仕事をしていた事。 綺麗に手入れがされた庭の奥に小さくて可愛い雑貨屋を営んでいること。 今度大好きなお茶のセットを並べたいのだと櫻子は子猫の頭を撫でながら、ゆっくりと話していく。 特にホワイトペール・ラベンダーの髪を持つ恋人の話をする時は嬉しそうで。 「他の人にはそっけないけど、私にはとても優しい人なんです」 子猫と同じ色の尻尾を恥ずかしげにユラユラと揺らし。 「だから…ずっと、ずっと傍で幸せにしてあげたいって思えるんですわ」 そう、小さな命に語りかけた。 サクサク。雪の上を歩きながら『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)は静かに進んで行く。 すぐに友達を作るって、私には出来そうにないから。 自分と同じ様に社交的ではない子も居るであろうから。彼女は影になった場所を中心に探して回った。 見つけた子猫から少し離れた場所で、じっとその子を見つめるイーゼリット。 そのイーゼリットの後ろでは『残念な』山田・珍粘(BNE002078)がこっそりと後をつけて着ていたのだが、子猫に夢中な彼女は気づいていなかった。 イーゼリットはアンティーク・アイリスの瞳を持った少しそっけない子猫に声を掛ける。 「綺麗な目……」 怖がらせない様に少しずつ近づいて行くイーゼリット。 「ね。怖くないから……」 子猫が緊張していたのは、イーゼリットに差し出された手が怖かったからではない。 彼女の後方で、こっそりとこちらを観察している珍n……那由多の視線に畏怖を感じたからである。 しかも、とても奇妙な格好をしている。キノコが頭から生えていたのだ。 子猫はイーゼリットの手の中に収まって、那由多の視線から逃れる。 「私が、主人……なのかな」 この小さな命は後ろに控える那由多ではなくイーゼリットを選んだのだ。だって、怖いし。 イーゼリットはドーン・ミストの髪を揺らして黒猫を抱き上げる。 「あなたもよく見ると少しだけ模様が見えるのね。真っ黒じゃなくって」 くすくす……。と笑ったご主人様に一匹だけ模様のある黒猫はきょとんと首をかしげた。 「ううん、なんでもないの」 ふと、聞こえてきた歌声は仲間の素敵な声だった。楽しげにはしゃぐ様子も。 けれど、子猫はそちらへ行こうとはしない。所在なさげなアイリスの瞳。 「あなたは、まざらない?」 その言葉に黒猫は視線を下に、でも尻尾はイーゼリットにぴったりとくっつけて。 一緒に居るほうがいいのだと控えめに主張した。 ご主人様は一撫でして石の上に座る。 「私ね、お姉さんと、妹が居て、どっちも綺麗な金の巻き毛なの」 私だけこんな色で、強情にまっすぐ。家族はみんな同じ明るくて、活発で、運動が出来て……。私だけ一人ぼっち、体も弱くて……。 表情に陰りを落とした彼女を不安げに見つめる子猫。 慣れっこだというご主人様の頬をペロリと舐めてみた。 「もしかして、あなたも同じなのかな……」 家族の中で自分だけが違うという違和感を抱きながら生きてきたイーゼリット。 子猫も同じ事を思っていたから。共感し合ったのだろう。 でももう、あなたは一人じゃないから……きっと…… 膝の上でぎゅっと抱きしめた子猫の体温は暖かかった。 遠くに見える楽しげな仲間の様子を二人でじっと眺めていた。時折、そっと触れ合いながら。 那由多はイーゼリットの後をこっそりと付けていた。猫そっちのけである。 はあ…イーゼリットさんは可愛いなあ。そんな彼女を見ているだけで、満たされて……。 それでも、今回の目的はアザーバイドの送還である。目的を見失ってはいけない。 「いえ、ちゃんと猫さん達も探しますよ?」 後ろを振り向いて弁解する。 ただ、私にとっては彼女の姿を心のメモリーに保存することも重要な案件なのです。 「猫と戯れる姿も素敵だなあ」 ふふふふふ。とグラファイトの黒が暗闇の中で小さく笑う。 神秘探求同盟第六位・恋人の座は神秘探求同盟第十八位・月の座を愛していた。 だから、彼女が奇妙な服で探し当てた黒猫は、そっけない子だった。 イーゼリットによく似ていると思ったのだ。 「出てこないとしゃみせんにするところでした。よかったですね~」 うっふっふっふ。 子猫が少し震えていた。 「さむいんですか~?」 多分、震える理由は別の所にあったのだが。那由多はオータム・グローリーのマフラーを黒猫に巻いてあげる。 そして、抱き上げ、もみくちゃにした。子猫は何が起こったか分からずびっくりして、目を白黒させている。 それでもそこから伝わる気持ちは悪いものではない。『可愛い可愛い可愛い』と。 子猫に抱くこの感情は庇護欲であり、愛玩心である。月の座にも素直にこう出来たなら関係は少しは違っていたのだろうか。 けれど、那由多はそれで良いのだと思っていた。 今のこの関係も心地よいものですしね~。 くすくす……。 グラファイトの黒は子猫を頭上に持ち上げ、クルクルと一緒に舞う。 「あのね、私は君みたいな可愛い子が大好物なの」 子猫がビクリと震えた。那由多の唇が三日月みたいに微笑みを浮かべる。 物理的に食べたいという意味ではない。大好きだから抱きしめたい、一緒にいたい。 しかし、リベリスタなら斬らねばならぬ敵が居る。それがどんなに好きな相手であっても。 「そんな時は、本当に心が震えて…嬉しくて。ああ、この子をずっと私のものに出来るって思って」 子猫は蒼白だ。なぜ、このご主人様を選んだのか。後悔し始めたのだが。 「君達は倒さなくて良い子で良かったよ」 その言葉に胸をなでおろした。 「本当は連れて帰りたいけど駄目なんだー」 子猫はブンブンと首を振り、けれど、このどこか奇妙なご主人様の事を大好きになった。 しっぽをわざと、ぺたり、ぺたりと那由多の体に触れさせる。 すぐ離れる事は薄々感じていたから。そっけない子猫の精一杯の愛情表現だった。 「うん、離れ離れになっても君のこと大好きだよ」 ネイヴィブルーの森の中彷徨える子猫を探して雷音は目と耳を凝らす。 子猫が数匹冷たい雪の上にちょこんと座っていた。 雷音は怖がらせないようにゆっくりと彼らの言葉で話しかける。 「君達は迷子だね、この世界はボトム。君達の世界ではないんだ。だけれども時間はある。少しお話をしよう」 数匹がそれぞれのご主人様の元へ行ったあと、残った一番小さな子猫をふわりとデーデルワイスのストールの中に包み優しく壊さないように抱き上げた。 「こんにちは猫さん」 「こんにちは、ぼくのご主人様?」 その子猫の言葉に雷音は少し眉を下げて答える。 「ボクはね、本当のご主人様には成れないんだ」 「どうして?」 だけど、帰るまでに少しだけ時間があるのだ。雷音は子猫をそっと撫でて 「ほんの少しだけご主人様になっていいかな?」と問いかける。 子猫は嬉しげに「うん!」と頷いた。 雷音は腰掛けて沢山の星が浮かぶ空を見上げる。つられて子猫も上を見る。 「この世界は悲しいことや不幸なこと辛いことで満ち溢れているんだ」 その言葉に黒猫はぷるぷると震えた。 「怖がらなくてもいい。そんな世界でもボクはこの世界が大切で愛おしい」 「そんなに怖い世界なのに?」 それでも、そんな世界だったとしても、確かに救いも暖かさもあるのだと。 雷音は大切な人達が居るこの世界が、少しでも優しいモノになればいいと願っているのだ。 「君みたいに小さな手だけど救いたいんだ色々なものを」 一つずつ、丁寧に、ゆっくりと。 自分の手と子猫のにくきゅうを重ねあわせて、優しく語りかける。 子猫にはその話は壮大すぎて分からなかったが、ご主人様が真剣にはなしてくれるから、今の自分にとって世界は雷音だけだったから。 「難しい話だったかな?」 「ううん、すごく楽しいよ!」 ご主人様の事が大好きになってしまった。 聞こえてきた仲間の歌声を聞きながら、ふたりは手作りのクッキーを二つに割って食べる。 美味しそうに、にこやかに。 名前はつけないと、そう雷音は決めていた。 自分に縛り付けることはしたくないから、本当のご主人様のためにとっておこうと。 それでも、小さな黒猫は雷音の事が大好きになってしまった。 ちっちゃなにゃんさん、いまいくよ。待ってて。きっとみつけるから 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)のグラデーションショコラの髪の間に見えるのは可愛いウサギのイヤーマフ。 子猫が眩しく無いように光を拡散するランタンを手に雪がちらつく森の中を歩く。 旭と同じキャンパスグリーンの瞳をした子猫と目があった。 落葉を払い優しく抱き上げた旭は尋ねる。 「はじめまして、わたしは旭っていうの。あなたは…きっとお名前、まだないよね。わたしがつけてもいーい?」 旭はここに来るまでに考えていたのだ。海の向こうでは色彩をコロレというらしい。 だから、「よろしくねぇ、コロちゃん」 コートの内側に招き入れ、抱きしめられた子猫は嬉しそうに旭と同じ瞳で笑った。 いっぱいいっぱい、名前を呼ぶよ。わたしが残せる、最初で最後かもしれない贈り物だから。 旭はコロに語りかける。 「あのね、わたしにはおにーちゃんが居るの。最近は意地悪ばっかり言うんだけど」 少し寂しげな表情で旭は子猫を撫でた。 「わたしが苛められてた頃はね、いつも助けに来てくれたの。だから、だいすきなんだぁ」 コロちゃんはあの子たちがきょうだいになるのかなあ?仲良くできるといーね。 次の瞬間には素敵な笑顔になった彼女を見てコロもつられて笑う。 仲間の歌声を聞きながらふたりはゆったりと体を揺らす。 旭の暖かさと歌の心地よさににコロは少しだけ居眠りをしてしまった。 ぱっと起きたら、旭がこっちを見ていて「あわわっ」となって、それでも楽しくて。 二人で笑顔になってしまった。 歌い終わった仲間にぱちぱちと拍手を送りながらふたりの時間も過ぎていく。 『ネガティブ系アイドル候補生』氷室・竜胆(BNE004170)と『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は歌に想いを乗せる。 竜胆はそっけない子猫に声をかけて、プロデューサーが「時期も近いし雰囲気でそうだからGO」と言ったサンタコートの中にしまいこんでいた。 黒歴史と呼ぶべき過去等正直語れない竜胆だったが、子猫に伝えたい想いがあった。 歌に全てを乗せて語る。 運命という悪戯は意地悪で 貴方はここに落ちてきた 寂しいよ寂しいよ その声が私に届く 惹きよせる様に私を誘う 貴方に温もりを伝えたくて 寂しさを癒やしてあげたくて 雪降る夜と孤独の時間 待たせてごめんね でも、見つけたよ 私の声は心は貴方に届く? もし届くなら さぁ、一緒に歌おう 父さんの温もりも 母さんの優しさも知らなくて 寂しかったボクにあの人が教えてくれた 暖かい愛を教えてくれた そして今度は君達が 泣き虫で甘えん坊な君達が 新たな命の輝きを 新たな命の温もりを ボクに教えてくれたんだ 生まれて来てくれて有難う この世界を訪れてくれて有難う 大丈夫 怖くないよ 皆君達が大好きだから 皆君達を愛してるから だから聞かせて?君達の思い さぁ、一緒に歌おう! アンジェリカは生まれたばかりの命を慈しむ様に抱きしめていた。 泣き虫で甘えん坊で、触れると壊れそうな儚い姿が愛おしいと思ったのだ。 だから、竜胆の歌声に応えるようにして自分の気持ちを連ねた。 想いを重ね、歌っているうちに雷音の歌声も聞こえてきた。子猫達の声を歌っているのだ。 雷音の声を通して伝わってくる黒猫達の想い。ここまでしか無かった筈の歌詞に続きが紡がれる。 寒くて暗い暗闇の中 ぼく達を見つけてくれたご主人様に 心を込めた声を届けるよ ぼく達は小さい存在だけど この一時、大切な時間を忘れない 新しいご主人様が来ても ぼく達は覚えている 素敵で大切な時間を かけがえのない宝物を 歌を声を届けてくれたご主人様たちに ありがとう ありがとうと伝えたい だから、一緒に歌おう アンジェリカのビクトリアン・ローズの瞳から一筋の涙が零れ落ちる。 心が通じ合っていた。そう、感じた瞬間に零れ落ちた涙はとても綺麗で黒猫はペロリとその流れ星を舐めとった。 ●お別れの時 ディメンションホールの向こうに消えていこうとする子猫達。 小さな命がご主人様の為に作り出す最初で最後のカラーの魔法。 真には『絆のストア・ブラック』を作り出した。 「そろそろお別れしなくちゃだね 寂しいけど、大丈夫。あっちが、君の本当の居場所。家なんだよ。本当のご主人様が居る。抱きしめてもらいなね」 最後にぎゅうと抱きしめて真は黒猫を送り出した。 アンジェリカにそっくりな泣き虫で甘えん坊の子猫は『愛情のフェアリー・ローズ』を花咲かせる。 「ボクにしてくれたように、今度は君達の世界で誰かを幸せにしてあげてね。君達を待ってる人がきっといるから」 アンジェリカはそっと子猫を送り出した。 櫻子には『梟姫のエンジェル・ブルー』をとどけた子猫。 少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、しかし直ぐに笑顔を作り頭を撫でて 「……バイバイ」 イーゼリットには『静輝のペール・アイリス』が降り注ぐ。 静かにだがしっかりと輝いているのだと。それを、見つけて欲しいと。 子猫にリボンを巻いた那由多が貰ったのは『グラファイトの黒』 霧の様に不確かで絶対的存在を誇るリベリスタの名前だった。 旭は名残惜しそうに子猫を撫でた。目を閉じたコロが見せたのは『聖母のクリストローゼ』 優しさと慈愛に満ちた眩しい色だった。 「ばいばい、またねぇ! ずっとずっと、コロちゃんがだいすきだよ」 竜胆が見た色は『歌声のアラベスク・ターク』だった。 お別れは寂しい。でもあっちでも幸せになれると分かっているから、私はそれで充分。 そっと黒猫をディメンションホールに送り出す。 雷音と淋しげな小さな子猫。 「大丈夫、君とボクとここに大切な思い出として残そう」 胸を指さして笑顔でさよならした。 本当のご主人様が君を愛してくれるようにずっと祈ってるよ。 残すものは無いけれど、最後に見た色は『新緑のマラカイトグリーン』 静かにディメンションホールが閉じられる。 その瞬間、八色の色彩が一瞬だけ夜空を覆った。 とても綺麗な夜だった。 本当に素敵な出会いだった。 心に残る歌は――ありがとうと響いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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