●Fall In Love 純白の丘稜を赤い光が優しく染める――夕暮れのゲレンデはロマンティックの世界だ。 「でも、それは相手がいる人の話よね……」 沈む夕陽を見ながら、明子(24歳独身彼氏なし)は一人握り拳を作る。 そりゃあそうだ。周囲はカップルだらけなのだ。ラブラブハネムーンビーム空間なのだ。 「どいつもこいつもイチャイチャと……羨ましい」 週末のスキー場。 遊びに来たのは嘘じゃない――けど、出会いに期待していたのも、事実。 「星占いの恋愛運、最高だったんだけどなあ……」 結果はもちろんなしのつぶて。 出会いどころか他人との会話すらもほとんど無いまま、ついにパラレルターンをマスターしてしまった。 「恋の神様なんてのがいるなら、私はよっぽど嫌われてるんだわ」 愚痴と一緒に涙までこぼれそうになり、あわててわたわたとスキー板を外した足を動かした。――周りに腐るほどいるカップル達に、泣き顔なんて晒したくない。 人目につかないログハウスの影に入って、ようやく一息ついた。 「……ふう。あーあ、本当、何やってるんだろ私……何で、こんななんだろ……」 隅でこそこそと泣き言を言う自分が惨めで、どんどん気分が沈んでくる。 もうこうなったら八つ当たりでも何でもいいから、あいつ等のロマンスを台無しにしてやりたい―― 『駄目だよ』 ――ついついよぎったカゲキな思考に、返事が返ってきた。口になんかしてないのに。 「えっ!?」 思わず振り返る。そして絶句した。 その優しさ、暖かさに。 「な、何? なんなのこれ……光?」 それは言うなれば柔らかい光の塊――いや。 眩しさに慣れ始めてようやく気付く。その中心に何かがいる。 『待ってばかりいるから出会いがないの。ロマンスは、自分で掴まなくちゃ』 諭すような声。そこから理屈抜きの慈愛を感じて、明子は思わず身を振るわせた。 まさか、これは。 「……ま、まさか、あなたは、ひょっとして……ロマンスの……」 明子の言葉をそっと諌める様に、優しい光は光量を落とす。 そして姿を現したソレは、穏やかにこう言った。 口も無いのに。 「とんでもない! あたしゃシメサバだよ!」 ●またおまえか 「「帰って良いか」」 大半のリベリスタが一斉に席を立った。 「駄目」 が、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は即切って捨てた。 「確かに一見した所は皿に乗ったシメサバだけど、実際にはとても危険なE・フォース」 淡々と説明する天才少女の言葉に、リベリスタ達は渋々座りなおす。 今回現れたこのエリューションは、実の所過去にも似た存在が出現した例がある。 ――と言うか、姿だけならほぼ同じだ。 それは『神頼み』の思いが凝縮されて生まれたエリューションフォース。他力による願いの成就や幸せを願う思いを苗床として産声を上げたその存在は、その起源とは裏腹に……いや、それゆえにこそか……人頼みの願いを嫌い、単純な暴力と死を持って戒めようとする危険な存在だった。 「今回現れたE・フォースは、姿こそ殆ど一緒だけど少し違う。神頼みは神頼みでも、恋愛に関する願い事の思いを元にしているの」 「恋愛成就のお守りとか、おまじないとかか……」 リベリスタの1人が返した言葉に、イヴは頷く。 「そう、だから見て。添え物の人参の煮物がハートマークに切られてる」 「うわあ、ほんとにどうでも良い」 また別の1人が思わず漏らした言葉に、イヴはフルフルと首を振る。 「それだけじゃないよ。今回のエリューションは、前回のそれに比べれば穏やかで神頼みをしても怒らないの。それ所か、恋する皆を積極的に応援して、守ろうとする」 「え、それじゃ無害なんじゃ――」 イヴは再び首を横に振った。 「それが駄目なの。その守ろうとするって言うのが問題で。恋人達に少しでも悪意や害意を持った相手を諌めようとする。……物理的な暴力で」 腐ってもシメサバE・フォースの武威、一般人では一撃で即死だろう。 実際、先の映像の彼女も、この直後降ってきた鉄アレイによって撲殺されることがわかっている。 今から行けば、彼女がシメサバ様を召喚するより先に呼び出し、倒すことが可能なはずだ。 「放置はできない。行って、倒して来て」 馬鹿馬鹿しいとか、言っちゃいけないお約束。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月23日(水)22:19 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「冬山のときめきを守るべく戦う秘密結社! その名も『浪漫巣の〆鯖どうもありが党』、その実働部隊『メレンゲがとけるほど恋し隊』隊長、ベルカである! 構成員は隊長以下1名! 同志は大絶賛募集中だぞ!」 カメラ目線でビシっと決めポーズの『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829) 。 「…………」 「…………」 冬空の下、極北の夜がごとき沈黙が落ちた。 仕切り直し。 「レジャーを邪魔するのもなんだしね。範囲を絞って……よし、結界張れましたんで、後はお願いします」 ログハウスの裏、強結界を展開し終わった『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が仲間に準備完了の旨を伝えつつ、なにやらスムーズに持参の七輪に火を起こし始めた。 「シメサバ食べたいな……あ、違った。恋愛したいなぁ」 それを見た『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746) が思わず本音を零したりもする。取り繕うように言った後半だって別の方向性で取り繕えてない。 「身を焦がすほどの熱い恋愛。羨ましいなぁ妬ましいなぁ」 リスキーがしみじみ言いながら見た先は、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797) と『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)のカップルだ。 「ふふ、夫婦って良いもんだな。普段とそう変わらないけど凄く幸せになる」 木蓮が幸せ一杯の笑顔で呟く。2人は今回、しめ鯖召喚の補助となるべく夫婦を装っているのだ。 (周りにもカップルが多いのだから、こちらが身体を張る必要はない、とは思うのだが……。 公衆の面前でなど、気恥ずかしいにも程があるが……木蓮も乗り気だから……仕方ない) 龍治の懊悩は深かった。何だかんだおずおずと背後から木蓮を抱き締めてる辺り言い訳にしか聞こえない気もするがともかく悩んでいるのだ彼は。信じよう! 「……寒くはないか、木蓮」 「大丈夫だぜ。けど少しマフラーが緩んだかも……巻き直してくれるか?」 (は、早く出現せんかっ……!) 手に手を重ね甘える木蓮。じわじわと赤面しながら内心で焦燥に駆られた叫びを上げる龍治。 微笑ましいね。らっぶらぶだね。心が暖かくなるね。ばくはつしろ。 「羨ましいね、本当に。何処からどう見ても夫婦でしょ? ――しかしあれだね、マクガイア嬢の目が怖いね。 おにーさんの嫉妬心が霞んじゃうくらいの迫力だ。キレイなのに勿体ないねぇ」 リスキーが苦笑して続けた言葉の向け先。そこに立つ女性は確かにキレイと言って差し支えなかった。クールに着こなしたスノボウェア。服でも隠し切れないセクシーダイナマイトバディ! 『アメリカンサイファイ』レイ・マクガイア(BNE001078)のその色気と魅力に、 「引っかかる男なんていねえ! ログハウス裏だし全然目立たないじゃないですか!」 結界の完成を、目を閉じ気息を整え無の境地を保って待ったのだ。その抑圧から、今は全てが解き放たれている。まさに殺気と呼ぶにふさわしい、そのオーラ。 「つーか、あれだ。目の前でいちゃいちゃしているカップルを見てイラッと来ない独り身がいるだろうか……いやいない! 断言してもいいね! それを許せるやつぁ非リアじゃねぇんだよ!!」 反語を駆使して嫉妬の炎を燃やす者がここにもう1人。レイと同じく結界が張られるまでの間「ふぅ、落ち着けまだ早い、まだだ……」と己を律し続けていた『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)だ。 「全くです! カップル、カップル、カップル! 見渡せばカップルばかり! 雪山の何が恋人を惹き付けるのか!」 レイが同調し、二人のボルテージは青天井。 「あぁ、聞こえてくる、聞こえてくるぞ……リア充爆発の声が! そうだ聞こえてくるぜ、この世界に満ちる怨嗟の声が、非リアの魂の慟哭が!」 ちょっと何言ってるのかよく分からなくなってきてるが、ともかく感情を炸裂させているのは間違いない。というか二人ともこれだけ負の感情背負っておきながらそのリア爆精神を押さえ込むという苦行によく絶えた。 「寒いし足痛いし髪冷たいし! さっさと終わらせますよ!」 生体金属製であるが故に触れば痛いほどに冷え切った己の髪を振り乱し、レイは仲間達を鼓舞、 「――よ、よし巻きなおしたぞ。これで良いか?」 「うん、有難う。……ふふ、照れてる龍治も可愛いなぁ。さすが俺様の旦那さまだ」 しようとしたが龍治と木蓮は大絶賛イチャつき中だった。 (あっカップルいるじゃんふざけんな依頼でまでイチャイチャかよおお!!) レイの叫びは声にならなかったが、その顔は――あ、やめとこう、女性だしね、うん。 「あひるも、嫉妬する! 一緒にスキーしたかった……! スノボしてる彼の姿が見たかった……! ずるい!!」 その横で恋人と一緒に来れなかった『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166) がスキー場のカップル達への嫉妬を燃やす。でもそれ事実上のリア充宣言ですよね? ――ぶちん。 何かが切れる音が聞こえた。 「ターゲット補足。戦闘行動を開始します!」 「燃えろ俺の心に眠る緑の炎! 緑眼の怪物よ! 俺にリア充を誅する力を与えたまえええええ!!」 リベリスタはターゲット違うから落ち着こうか。 「……黙っておいた良かった」 燃え盛る嫉妬の炎を横目に、七輪に起こした普通の炎を調整しつつ義衛郎が呟いた。実は彼にも、雪山で任務だと告げたら温かい物用意して待ってると言ってくれた恋人がいる。黙っておいて正解だった。 「嫉妬の炎は恐ろしいなあ」 「全くだねえ」 しみじみ呟く義衛郎の横で。ロマンスのシメサバもまたしみじみと答える。 「…………あれ?」 「でも邪魔しちゃ悪い気もするし、もう少し落ち着くまで待っておくね」 空気の読めるシメサバだった。 ● 「来たかシメサバッ! はぁはぁ、危ないところだった……! あと出現が数秒遅かったら味方に殴りかかるところだったぜ……」 隆明が呻く。それは本当に危なかった。 「いかな神様…いやさ、シメサバとは言え、だ。それが崩界を招くならば、撃滅!」 ベルカの放った神秘の閃光弾が戦場を照らし出す。 視覚と聴覚に衝撃を受けたシメサバ(しかし目も耳も無い)が怯み、その隙を逃さず義衛郎が走る。空から降り注ぐ鉄と肉のうち、シメサバのみを選出して皿にて受け止める義衛郎! こら待て。 「焼けた端から食べちゃってくださいね」 あまつさえ七輪で炙り始めた。どうしようこの人。 「君は色気より食い気なんだね。あ、でももう相手がいるならそれも良いよね」 シメサバがうんうんと気にした様子もなく頷く。理解あるシメサバだった。 「その余裕のある佇まいも! 暖かな光も! ナンセンスな存在も! 私が、全てを、否定してやる!」 魔力の篭もった鉄甲をガツンと打ち鳴らし、レイが宣言する。 「そんなに肩肘はってちゃ、駄目だよ。一方的な否定ばっかりじゃあ、恋人所か友達も中々できないよ?」 上から目線なシメサバだった――あ、レイの燃え盛る拳が直撃した。 「ええい、そこなロシアーネ(※ベルカの事らしい)! もっとシベリアンブリザード(※シャイニングウィザードのことらしい)で急速冷凍しなさい!」 熱したり冷やしたりで皿でも砕くつもりだろうか。 「く、早く木蓮から離れて戦闘に…………、その気にならんのは、何故だ」 「何時も冷静な龍治がくっついて離れない……普段は逆なのに……。 この……な、なんだこれ……嬉しい!」 龍治と木蓮は大絶賛イチャつき中だった。(45行ぶり2回目) これぞロマンスのシメサバの『優しき愛の光』。その影響下にあるカップルは視野狭窄を起こし二人の世界に入って――ぶっちゃけ非常にこう、あれだ。ばくはつしろ。 「まあ、諸々は他の者に任せておいても問題ないだろう。 今夜は近辺に泊まれるのだろうか、温泉でもあれば良いな」 「温泉かぁ、あるといいなぁ。また一緒に入ろうぜ、背中洗ったげるぞ。もちろん尻尾もな!」 言いながら木蓮は龍治の尻尾をもふもふする。 「仲良き事は美しいね。あ、温泉ならあそこに見える赤い屋根の旅館が評判良いみたい」 親切なシメサバだった。 「恋愛成就のお守り……ロマンスのシメサバ、あひるにもお守りくださいな……!」 「良いよー。一切れと人参で良い? そんなに日持ちしなくて申し訳ないけど」 人の良いシメサバだった。 「いいわ……! おみやげに、持ってくのっ。ウン……!? なんか、生臭い……!」 シメサバはシメサバ、生物(なまもの)だ。 鼻をくすぐる甘酸っぱい匂いが、なぜかどこかの坊主頭を心に想起させる(BS『恋の予感』)。あひるは胸に疼く小さく甘い痛みと生臭さに耐えつつ仲間達に小さき翼を与え、足場対策を完成させるのだった。 「受け止めろ俺の拳! つまりこれはやつ当たりだ文句あるかオラアアアアア!」 隆明マジ男前。この上なくシンプルに真っ直ぐ走り込み、ナックルダスターとして使えるように改造した大口径リボルバーを握り込み、殴る! 「――良いパンチだね。その情熱を相手に向ければきっと成就すると思うよ」 殴られつつも偉そうなアドバイスを忘れないシメサバだった。 「いやぁ……まさかシメサバと戦う日が来るとはね。 シメサバに恋愛についてどうこう言われるとも思ってもみなかった」 後方で魔弾の魔法陣を展開するリスキーがそう呟いたのを耳にしたリベリスタは、心中で一斉に頷く。 「よし! シャイニングウィザードで降り注ぐ色んな物も疎らになっている! 後はシャイニング、次がシャイニング、最後はシャイニングだ!」 その効果に、握りこぶしを作って快哉をあげたベルカが次々と閃光弾を投げまくりはじめた。 「ぐう、しかし……湧きあがるこの黒い気持ち……馬鹿な。私も独り身の辛さが無意識の内に!? だが認めん! 認めてなるものか!」 投げる手を止め、苦しみ始めるベルカ。 「え? あれ? 寧ろ独り身の辛さは減る筈なんだけど……」 「私が敬愛してやまない教官は常々言っておられた……!」 シメサバのツッコミを華麗にスルーし、回想を始めるベルカ。 ――パントマイムの『壁』のように右手と左手を交互に示した教官がおもむろに口を開く。 『シメサバとラッキョウは、最──』 (※この回想は鼠の国の黒服さんが怖いので強制終了されました) 「そんな教官の薫陶を受けた私だ! 勇気を持って挑むのだ! 己の弱さをこえろー! うおおー! 行くぞ、同志マッケンロー(※レイの事らしい)!」 弱さとか強さとかとは全く関係ない所に蛮勇を奮った気もするが、ともかくベルカの気合は充分だった。それを受けて、レイもまた気合を入れ直す。 「了解しました。皿が割れて粉々になるまで! 炙りシメサバになって香ばしい匂いを漂わせるまで! 私は攻撃をやめない!!」 「……涙拭きなよ。綺麗な顔が台無しだよ?」 気遣いを頑張るシメサバだった。結果は火に油だが。 「無表情キャラだし泣いてねえし! 出会いの予感なんて欠片もねえし! 大きな声で言えないような仕事だし! 一般人ともうかうか恋を温められないんですよ!?」 「職場恋愛は?」 龍治と木蓮を指さして(しかし指はない)首を傾げる(しかし首はない)シメサバだった。 ところで義衛郎だが。 「うーん、予想以上に美味しいなあ」 ――などと、炙りシメサバに舌鼓を打っていた。炙ることで脂がとろけ、噛み締めるたびに溢れだして舌の上で広がる旨味と酸味のハーモニー。降り注ぐ鉄アレイが時々直撃するけど気にしない。一応、炙ったり仲間に薦めたりする合間に実体を持つ幻惑の鮪斬を振るったりと、シメサバに攻撃もしつつなのだが。 「恋も仕事も食事も、ながらは良くないよ?」 手厳しいシメサバだった。 「食べるのは室内の方が良いんじゃないかな?」 「仕方ない……」 炙りシメサバの匂いに心惹かれつつも、ゆっくり食べたいと訴える木蓮。何故かその話題に反応した龍治が渋々ながら木蓮から手を離し、愛用の火縄銃を構えた。 四肢がないのに不条理な動きをするシメサバの動きを、しかし完全に補足しての狙撃。 ガチャンと手馴れた手つきで次弾を装填し、狙ったように飛来したシメサバをビニール袋でぱしりとキャッチ。恋人との触れ合いで気合の充填は満タンな様だ。ばくはつしろ。 勿論、シメサバとて一方的に攻撃されるばかりではない。 ベルカの先行により抑制されてるとは言え、戦場は鉄アレイが昔のゲームのごとく降り狂って居る。 「可愛い見た目でかなり痛い……それに、優しい愛の光と、ギャップがありすぎだわ……! 怖い!」 こぶになった頭を撫でさすりながら、あひるがううと呻く。 愛の光は相変わらず輝き続けてるだけに、逆に(ある意味)恐ろしい。そして臭い。 あひるの視線の先では隆明がシメサバに思い切り殴り飛ばされていた(しかし手はない)。 「うぉっ生臭っ!」 ガスマスク越しでも尚臭う生臭さに眉を顰める隆明。 だがそれで引くほど彼の意地は安くない。 「俺の気が、晴れるまでっ、殴るのを止めないっ!」 殴り返す。殴り返され、殴り返す。単純明快にして究極の戦い。 「おっと――」 眼鏡にべちりと張り付いたシメサバ。それを剥がしていたリスキーの心によぎるとある衝動。 「……『生臭い』はいらない! 『恋の予感』大歓迎! 戦闘中とかどうでもいいから恋がしたい!!」 吼えた。 ぐるん、と周囲を見回す。妙齢の女性は周囲に複数名居れど、その半分が彼氏持ち(しかも一人は彼氏同伴)。フリーなひとを見る。レイ嬢22歳。ベルカ嬢21歳。ところでふたりとも、防寒着越しでもわかる巨乳だよ! あと木蓮嬢も巨乳だね! あひる嬢は――それも大事な需要だよ! 「いや、ごめんなさい……真面目に戦います」 脳内が何かに汚染されたっぽくなったあたりで周囲の視線に気が付き、リスキーは頭を振り、 「あ、ところでロマンスのシメサバってオス? メス?」 「え? なんで?」 振った拍子にふと思い至ったらしい突然の質問に、シメサバが首(無いけど)を傾げる。 「メスだったら一応……ね? シメサバとはいえ女性を攻撃するのって気がひけるじゃない?」 「……なっ。な、何を言い出すの。あたしゃシメサバだよ? そんな気なんか使う必要なんて……な、ないんだからねっ」 女の子みたいですよ。と言うか乙女みたいですよ。頬染めてるよ(しかし頬はない)。 一層激しくなるシメサバと鉄アレイの雨。 「ワッ!? しめ鯖くさい! 息吹で痛いのも、生臭いのも飛んでけ! これは、あひるの愛の光……!」 あひるは負けない。仲間を、自分を、癒しの息吹で癒し戦線を助け続ける。 ――ロマンスのシメサバの昇天には、さほど時間を必要としなかった――。 ● ジャッ! と鋭い音を立ててフロントサイド720を決めるレイに注目が集まるのは、早かった。しかし――声をかけようとした若い男が、無言、かつ無表情系のレイの迫力に押されて引き返す。 (同情なんて要りません。私は恋人が欲しいのです、父親や妹ではなく!) 自らチャンスを逸している――自覚はあるらしいが、性分なのだろう。 その様子に苦笑を浮かべたリスキーは周囲を見回し、目的の人物を見つけ出した。 「スキー場で一人でいる女性とか見かけたら、声かけざるを得ないでしょ。 ――あなたほどの女性が1人だなんてオレはラッキーだ。どうです? 今からいっしょにひと滑り」 慣れた様子でナンパを始めたリスキーの、その相手は、明子――エリューションの被害を受けるはずだった、例の女性だった。 「あひるもロマンスのシメサバも、恋に生きる乙女を応援だよ……!」 物陰から、あひるは「ネガティブに負けるなっ! えいえいお!」と小声で応援している。本当は明子に直接言いに行きたかったところだが――幻視なしではどうしても、背中の翼が目立ってしまう。 「差し当たっては交換日記の申し込みから始めると良いと聞く。 意中の相手を見つけたら、とりあえずハポニカ学習帳を投げつければ良い、と思ったのだが」 買ったばかりのノートは水分を吸って膨らみ、その上生臭い。交換日記以前の問題で、これどうしよう。 「一通り片付けたし、オレも一滑りしましょうかね。 せっかくゲレンデに来たんだし。彼女へのお土産も選ばないとなあ」 ぽつりと呟き、義衛郎もストックを持ち出し、スキー板を抱えて歩きはじめた。ところで七輪どうするの。 「凄い敵だったが楽しかったっ。……ふふ、シメサバの影響がなくても言っとこう」 木蓮がタッパーの中のシメサバ(切り身)を確認してしまい込み、傍の人物を見上げる。 「愛してるぜ龍治!」 「……!」 それに龍治が言葉を返――そうとするよりわずかに早く、木蓮と逆側の龍治の腕がぐいと押された。 隆明だった。 何故か無言でシメサバに合いそうな酒を押し付けて、隆明はその場をダッシュで逃走する。 「恋、か。ああ、そういうの今まで無かったなぁ……はぁ……。 もういい遊ぶ! 気が晴れるまで遊ぶ! 心の炎の鎮火作業だ! 混ぜろや、遊ぶぞオラァアアア!」 ――そう叫びながら義衛郎に突撃ぶちかました隆明の目に涙が光っていたかどうかは、定かでない。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|