●寸劇開幕 「結構簡単だったじゃない。ホントにイタリアで働いてたヤツらなの?」 フルートから唇を離しながら赤毛の少女がバカにしたような口調で呟いた。 (微温湯に浸かっていて勘が鈍ったんでしょう) 対象的に冷めきった調子の言葉が、少女の頭に響く。 「普通にしゃべれば良いのに」 (この方が私の好みなので) テレパスを使って語りかける女性に少女が燃えるような視線を向ければ、彼女は氷のような瞳を瞬かせた。 「まだ包囲しただけよ、これで失敗したら私たちの方こそ嘲られるわ」 そう言って、最も年上という様子の女が嗜めるように言葉を紡ぐ。 「隙があれば逃げられる。それだけの力の持ち主よ。だからこそ加えたい……そうじゃなかったかしら」 (確かに) 「まあ、数揃えれば簡単にって相手じゃないものね」 「けど、端役ばかりでは演劇に興も何もないでしょう?」 そう言って頷き合って、3人は再び吹奏楽器に唇付し音色を響かせた。 それに従うように、無数の人間たち……かつて人間であったモノたちが静かに従い動き始める。 道路だけではなく、狭い路地や生け垣でさえ塞ぐように死者たちは拡がり、その内に獲物達を封じ込めてゆく。 幾つかの悲鳴らしものも響きはしたものの、すぐに声は途絶え死者たちの軍勢は数を増した。 包囲は既に完成している。 それでも、万全を期するように死者たちは周囲を固めてゆく。 (箱舟は来ると思う?) (来ない、と普通なら考える処) けど……と、3人は吹奏楽器から再び唇を離した。 「これで開幕に遅れるような者たちじゃないでしょう?」 その言葉に、ふたりが頷いた。 「私、あんなケイオス様を見た事がないわ」 「同じく。そんな相手が気付かない筈がない、遅れる筈がない」 「……貴女たちはそのままになさいな。周りは私が気を付けるから」 その言葉に、もう一度ふたりは頷いた。 「トラモンターナ(北風)のカルプルニア」 「シロッコ(南東風)、クラウディア」 ふたりに応えるように、もう一人の女も頷いてみせた。 「マエストラーレ(北西風)のポンペイア」 すべては唯、ひとつの楽曲の為に。 『すべては、ケイオス様の為に』 ●死を呼ぶフルートの響き 「ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ指揮下の楽団員たちの出現が感知されました」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)が表示させたのは、市街地の一画を示す地図だった。 「複数の店舗が連なる区画ですが、時間の方は夜なので人通りは殆んどありません」 幸い空は晴れて月が出ている上、所々に街灯もあるので視界の方は悪くない。 「ただ、路地裏とか灯かりの届かない場所もありますので御注意下さい」 そういった場所を利用しているのかも知れないが……その区画に楽団員たちと、彼女らが操る多数の死体が現れる。 「実はその場所に数人のフィクサードがいるらしいんです」 その場で何かをしていたのか通りかかっただけなのかは詳しく分からないが、楽団員たちの狙いはそのフィクサード達のようだ。 「フィクサードたちを殺害し、戦力に加えようというのが彼女たちの狙いみたいです」 そう言ってフォーチュナの少女は、楽団員たちについてのデータを表示させた。 「現れる楽団員は3名。全員女性のフルート奏者です」 全員が楽器を使用する事で死者を操る能力を持っている。 ネクロマンサーと言われているが、その能力の詳細は不明。 彼女たちが持つ楽器、アーティファクトの能力もハッキリした事は分からない。 「……それでも、何とか楽団の動きは阻止しなければなりません」 そう言ってマルガレーテは表示された内の1人、銀髪の女性を指し示した。 「とりあえず風の称号を名乗ってますので、北風を名乗っている方から説明します」 カルプルニアと呼ばれる銀髪の女性は、死者を操りはするものの自身も能力を使用して攻撃を行うようである。 「ただ、好戦的というには大袈裟かもしれません。寧ろ冷静で無闇に攻撃したり前に出たりとかはしなさそうです」 それだけに、考えて的確な攻撃を行ってくる可能性が高そうだ。 主に使用するのは、霊魂を弾丸にして複数の敵を狙い撃つという遠距離攻撃。 「これには対象を麻痺させる効果もあるみたいです」 充分に注意して下さいと言って、少女は2人目の説明に入る。 シロッコのクラウディアと名乗る赤い瞳を持つ少女。 「彼女の能力なのか楽器……アーティファクトの力なのかは分かりませんが、彼女が操る死者たちは他の者たちと比べて攻撃能力が向上しているみたいです」 その死者たちを操って、果敢に攻撃を行わせるというのが彼女の戦い方のようだ。 「どちらかといえば感情的ですが、彼女も今回は無理をする気はないみたいです」 この2人はフィクサードたちの殺害を目的として死者たちを操っているようだ。 「対して最後の1人は、アークが来る可能性を考えて周囲を警戒しているみたいです」 3人目は、マエストラーレのポンペイア。 フォーチュナは栗色の髪の女性を指して説明した。 「3人の中では一番年上っぽい外見で、精神的にも年長なのか一番落ち着いている感じです」 周囲に適度な間隔を開け、広めの範囲に死者たちを配置しアークの来襲に注意しているようだ。 「本人は姿を隠しているみたいですが、こちらを確認して死者たちをある程度集中させたり、正確に動かさないといけなくなったりした場合は……目視できる距離に姿を現すと思います」 逆に前述の2人は、おそらくフィクサードたちを確認できる場所に姿を現していることだろう。 「皆さんが到着した時点で、死体たちはフィクサードの包囲を完成させています」 死者たちは、ある程度の距離を置いて標的であるフィクサードたちを囲むように道路や路地等を塞ぎ……その輪を少しずつ狭めてゆく。 途中に運悪く通りかかった一般人がいれば、それを殺して戦力へと加えながら。 「死者たちの数は、最初はおよそ70です」 個々の戦闘能力はそれほど高くないが、多少の破損は気にせずに動き続ける。 両断されても上半身と下半身が、それぞれ敵を求めるだろう。 吹き飛んだ腕だけが襲い掛かってくるかもしれない。 そんな存在が70体だ。 放っておけばフィクサードたちは殺され、十数体の損害……もっと多数であったとしても、それと引き換えに……死者の軍勢に強力な駒が誕生する事になる。 「情報が少ない中で申し訳ないですが……何とかそれを、阻止して下さい」 ある程度の損害を与えれば、楽団員たちは撤退する事だろう。 あるいはフィクサードたちに何とか包囲を突破させられれば、楽団員たちは今回の目的を達成できなくなる。 「皆さんが死体たちと戦えば、包囲網内のフィクサードたちも気付くと思います」 こちらがリベリスタとはいえこの状況であれば、此方を疑うという事もないだろう。 「此方からわざと敵対するような事でもしない限り、協力は可能だと思います」 そう言ってからマルガレーテは、最後に襲われているフィクサードたちについて説明した。 「組織の名前はソレッレ。アークとも幾度が接触した事がある組織です」 全員が女性で、メタルフレームのスターサジタリー。 ただ、それぞれ役割を分担しているようで戦闘能力の低い者も複数存在している。 「戦える人もいるでしょうが、皆さんの到着した時点で戦いが始まっている可能性も考えますと……戦力として期待するのは厳しいかも知れません」 救助する対象、くらいに考えておいた方が良いかも知れない。 「フィクサードという事で、思う処がある方もいるかもしれませんが……放っておく訳にはいきません」 フォーチュナの少女はそう言って、リベリスタたちを見回した。 「危険な相手です……どうか、充分にお気をつけて……」 ●包囲網突破 ワンダー「これ、不味そうだなぁ」 リチェルカ「もう完全に包囲されちゃってるっぽいかな~迂闊過ぎる」 シルト「仕方ありません。自分も……警戒が不足していました」 リチェルカ「て言っても、この中なら私が異常に気付かないといけないのに……」 エスカ「まあまあ、シルとん言うように仕方ないよ」 シルト「……何か毎回変わっていませんか? 呼び方が」 エスカ「や、そんな事ないって。何種類かでローテしてるけど」 シルト「…………先輩……」 ワンダー「ま、それは置いといて。時間も無いからね? 大事なのは今、如何するか」 エスカ「まあ、最初は私かな。ワンダー先輩、1人でイけます?」 ワンダー「や、多分見境なしっぽいから怪盗は意味無いね。紙だけど壁になった方がまだ良さそうだ」 リチェルカ「あの、2人共? 何を……?」 ワンダー「小声でね? シルト、絶対リチェを守れって事さ」 エスカ「私が囮、先輩にまあ……弱いけど第2の囮になってもらって、その間に何とか突破しなってコト」 シルト「先輩っ!!」 エスカ「私の名前を言ってみろ」 シルト「……エスカ、先輩です」 エスカ「そう囮(エスカ)さ。それが私。『ソレッレ』の『エスカ』って事さ」 ワンダー「因みに私はそこの囮しかできない不器用な子と違って、何でも出来る万能だから生き延びちゃうかもしれないけケドね?」 エスカ「日本には器用貧乏って言葉があるの知ってます?」 リチェルカ「……けど……」 ワンダー「リチェは今回、瞬間記憶あっただろ? それを利用して皆にできるだけ情報を届けて欲しい」 エスカ「携帯も何もかも通じないとはね~ツィオじゃなくても、ヴィヴ居れば気付けたかな~」 ワンダー「まあ、いなくて良かったさ。あと、おばちゃんとか御年寄連中も。絶対に歳の順だとか言ってカッコ付けられちゃうからね」 エスカ「年寄りの冷や水だってのにね?」 ワンダー「知った途端に使いたがるなぁ、ホント。もうちょっと隠せばいいのに」 エスカ「や、だって使う機会がもう無さそうだし」 そう口にした彼女の頭の片隅に、幾つかの光景が浮かんだ。 (できれば私も茶でも飲みたかったけどね) 「時間もない、さっさと動こうか?」 1人でいい。包囲を突破し、情報を仲間たちへと持ち帰るのだ。 4人のフィクサードたちは頷き合った。 『すべては、ソレッレの為に』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月20日(木)23:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●アークのリベリスタ (ふむ、フィクサードとは言え見殺しには出来ぬ) 「ソレッレの面々とは一緒に茶ァしばいた仲じゃしのぅ」 いつもと変わらぬ様子で『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は呟いた。 (腹の探り合いもし足りんし、まだまだ遊び足りんのじゃ) 「んで、其処に退屈なフルート演奏なんぞ要らんのじゃよ」 死者同伴とあらば尚の事。 「勧誘・押し売りお断りってのぅ」 おどけた調子で口にしながら、瞳は彼方を見据えるように瞬く。 (救えるものは救う、それが俺のスタンスだ) 「だが、俺に救えるものなんて限られている」 (見方を変えれば、救えないものは救わないわけだ) 救えるかどうかは……俺の実力が基準になっている。 「バロックナイツのように逸脱できれば、あるいはより多くの人を救えるのだろうか?」 その自問の後……『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が次の一言を発するまでに……少し、間が空いた。 「……無理だろうね」 俺に才能は無い。 (だからこそ) 守ると決めた存在だけは守る。 「ソレッレの四人全て救ってみせる」 (この身に代えても) 言葉は、不要だ。 彼女らは自分らの力をよく推し量っていた。 「俺もまた、彼女たちのことは知っている」 だから、きっと。必ず。 「ソレッソか」 フィクサードとはいえ楽団員にされると厄介だ。 「そうなる前に救出し、離脱する」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)はいつもと変わらぬ口調で、淡々と口にした。 「任務を開始する」 「そう、今回のこの依頼、勝つ必要は無いのさ」 そう言ってから『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)は表情を歪めた。 「死者を操る、ねぇ……悪趣味だよ全く」 (そんなやつらの思い通りにしてやるもんかい) 「アタシがその自慢げにくみ上げた組曲、叩き壊してあげるよっ」 そのためにも。 (何があってもソレッレ達を助けてあげないとねっ) 無事に助け出す、それさえ出来てしまえばこっちのものだ。 「ソ~レソレソレ。ソレッレ救出のお祭りじゃ~」 この救出劇が契機となって、アークの仲間入り……等が無理だったとしても。 「共闘・情報の提供など得になる方向へ強力関係が進展してほしいものじゃ」 それが『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)の素直な気持ちだ。 「まずはソレッレの人達を助けて、彼女達の鼻を明かそうか」 四条・理央(BNE000319)も落ち着いた口調で言葉を紡ぐ。 無論、それが容易ではない事は理解している。 (死者を率いる者達) 「今度の相手も一筋縄では行かないよね」 しかも彼女たちは、楽団は……まだ全力を出していない様なのだ。 「序曲は紡がれそろそろ、メインディッシュを頂きたいところだけど」 まだまだ屍人のパレードは続くのかな? 「ああ、憂鬱だ」 肩を竦めでもするかのように呟くと、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は彼方に視線を向けた。 「さてと殺し直しにいこう」 ●包囲網突入 葬識が確認した状況を基に、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)はルートを算出した。 メアリが全員に翼の加護を施すと一行は直ちに行動を開始する。 葬識は身軽な動きで屋根を伝うようにして進んでゆく。 ポンペイアの姿は確認できなかったが……まあ、それはそれ。 どうせその内、向こうから姿を現わしてくれるだろう。 メアリとミリィも屋根の上を伝い、竜一も騒がず静かに、富子も翼を利用して隠密行動を心掛ける。 極力目立たない格好で消音にも注意したウラジミールは、到着前に瑠琵と一帯の地勢について確認し合っていた。 今は仲間たちと共に移動しつつ、イーグルアイを使用して実際の地勢を、周囲を確認する。 逃走を成功させる為には入手した情報を充分に活用しなければならない。 屋根や屋上を駆け抜けるように理央が進み、瑠琵も最短ルートでソレッレの許へと急ぐ。 死者たちは最初は地上にしか居なかったが、途中まで進んだ所で壁や屋根にも姿を現し始めた。 ソレッレの者たちも死者から逃れる為に建物の上等へ移動したのかも知れない。 敵に発見されたのを確認した瑠琵は、手早く懐中電灯を使用して周囲を見渡した。 途中で打った式符の影人は、少しは逃げ回ったものの囲まれ倒されている。 あまり規則的にならないように瑠琵は気分で影人を創成し、その間を利用してミリィとメアリも強結界を展開する。 ここからは強行突破になるだろうが、それでも此方の位置を絞らせない工夫は有効だろう。 竜一とメアリがタイミングを計り、ウラジミールが鏡等を利用して建物下を確認した。 急ぐつもりではあるが、長期戦の可能性も充分に考慮しなければならない。 葬識が包囲の薄そうな箇所を確認し終えると、不意の攻撃等に注意しながら一行は突破を敢行した。 理央は敵の遠距離攻撃に対し必要に応じて味方を庇えるように周囲を警戒する。 一般人を発見した場合の事を考え魔眼は常に発動できるように気を配ってもいたものの、今のところはその必要は無さそうだった。 敵の抵抗は軽微だった。 だが、通り過ぎた箇所の死人たちは……まるでリベリスタたちの通った道筋を封鎖するように移動し始める。 屋根や塀の上などにも死者たちが次々と登り始めた。 現時点で既に突入より離脱の阻止を行う為に動き始めたのかも知れない。 もっとも、包囲網中央付近では激しい戦いが続いているようだった。 ウラジミールや葬識の視界も頼りに8人は屋根の上を急ぎ……やがて、同じように屋根の上に逃れたらしい2つの人影を発見した。 ●ソレッレ救出 瞬間記憶に賭けメモを掲げつつ、メアリがジャミングを発動させた。 人影、驚きの表情を浮かべたソレッレのリチェルカとシルトは、突然現れた人物の中に見知った顔を見つけ……更に表情を驚愕へと変える。 ミリィが作り出した神秘の閃光弾で死体の一部を足止めするのに合わせるように、竜一が一気に前進した。 葬識が、建物の下にワンダーが、少し離れた位置にエスカが居るのを確認している。 得物を振るって烈風を生みだしながら、竜一は突破役として死体の群へと斬り込んだ。 自身に再生能力を施したウラジミールも、武器へと破邪の輝きを宿して突破を敢行する。 富子は後衛達の壁になれるように位置を取り、理央も敵の対応を確認して行動を強行突破へと切り替えた。 「あのさぁ~☆活きのいいフィクサードを肉人形にされたら困る訳、それすごく厄介だし強いし」 何より、命が入ってない。 「そんなのは食傷なんだよ」 姿を見せている楽団の2人、クラウディアとカルプルニアに向かって葬識は語りかけた。 「そんなの、すぐ気にならなくしてあげるわよ」 「……其方のジャミング女も含めて」 赤毛の少女が睨むように紡ぎ、銀髪の女性は青い瞳を不愉快そうにメアリに向ける。 一方で。 「うぃーっす、助けに来たのじゃ。皆、無事かぇ?」 包囲を突破した瑠琵は2人に話し掛けながら、庇い役の影人を創りだした。 屋根の上にも既に死者たちは登って者は勿論、地上のいる死者たちも屋根の上へと攻撃を行い始めている。 投擲されているのは……リベリスタやソレッレの者たちが倒した、というか破壊した死体の一部だ。 しかも……投げつけられるそれらは、まだ動きを止めていなかった。 飛んできた腕がそのまま掴みかかり、近くに落ちた頭部が足元まで転がってから咬みついてくる。 瑠琵は先ずワンダーを庇いに影人を派遣したが、エスカの許まで向かわせるのは難しそうだった。 エスカは少し離れた所で死者たちの動きを避けつつ戦闘を続行中だった。 囮と察知され、少数の敵しか引き付ける事ができなかった為である。 そのまま離脱も出来そうだったにも関わらず、彼女は仲間を見捨てる事ができなかったのだ。 自分に対しては冷静になれても、それを仲間には適用できない。 それを完全に敵に読まれてしまったのだ。 もっともリベリスタたちにとっては幸いと言えた。 ソレッレの4人全てを助ける。 それが、彼ら彼女らの目的だから。 ●主旋律とノイズ達のシンフォニー 「御機嫌よう、ソレッレの皆さん」 ミリィは挨拶すると端的に告げた。 「今より貴女達を守り、死の群れを突破します。質問はありますか?」 守ることに、理由はいらない。 「誰かを失うのは、もう嫌ですから」 囮を使うには、まだ早いですよ? 死者たちに追い詰められた事より一行の出現に心乱された様子の彼女たちに短く言葉を送れば……瞳の奥を見つめるような視線を返した後、2人は頷いた。 「おうソレッレ! アークのナイト様が救出にきたぞよ~」 「この子らには指一本触れさせはしないよっ、さぁアンタ達、攻撃に専念しなっ」 メアリと富子がソレッレの者たちも巻き込んで、癒しの力を発動させる。 福音が一帯に響き渡り、高位存在の力の一部が具現化され……傷を癒し、身を侵す異常を浄化してゆく。 「ま、そういうわけで、逃げてよ。ソレッレちゃん。次は俺様ちゃんに殺されにきてね☆」 因みに彼らはバロックナイツケイオスちゃんの配下だね。あと攻撃には麻痺がついてる。それも気をつけてね? 暗黒の魔力を逸脱者のススメに注ぎ込み、近付いてくる1体を微塵切りにすると、葬識は笑顔で確認した。 「情報は大事だよ。ちゃんと覚えた?」 青年の言葉には、リチェルカが慌てた様子で頷いてみせる。 一方のシルトは瑠琵と共に、死者たちの攻撃に混じるようにして襲ってくる弾丸を警戒し位置を取っていた。 瑠琵の警戒通りカルプルニアは飛行しようとする、或いは高所に移動する目標を徹底的に狙い撃つ姿勢である。 「そのお手軽葬操曲厄介じゃのぅ。何と言うスキルかぇ?」 富子らと共に屋根上の2人を守るようにしながら問いを発せば、返答に死者たちが襲い掛かる。 ワンダーやエスカを援護する為に創り出そうとする影人が狙われ、消滅させられてしまう。 もっとも、そのお陰でカルプルニアの意識はそちらに向けられつつあった。 死体たちを踏み倒すように降下し、理央が力尽きて倒れたワンダーを庇うように位置を取る。 情報収集の暇は無かったが、これで3人の確保が完了した。 「……やれやれ、どんどんイイ女になっていくね? そして借りも増えるばかりだ」 満身創痍でも軽口を叩くワンダーに苦笑しつつも安堵し、理央は癒しの符を彼女へと貼り付ける。 竜一はエスカとの合流を行う為に猛攻を続け、それをウラジミールが援護する。 その2人に向けて、クラウディアが操る死人たちが襲いかかった。 カルプルニアに操られた死者たちも屋根上に集まり、残骸となった死者たちを武器にリベリスタたちを攻撃し続ける。 その外側で、ポンペイアが操っていると思われる死者たちも包囲の輪を狭めつつあった。 突入させた時とは違い、絶対に逃すまいとするような……厚みのある、包囲網が形成されてゆく。 「教えてください。今、貴女達は何を出来ますか?」 ミリィの問い掛けに、ワンダーが端的に簡潔に答えた。 自分は現状戦力外。リチェルカも自衛すら厳しいが満足に動ける分、マシ。 「シルトは護衛役としてなら充分頼りになる。エスカも精密機械じゃなくてスペシャルギアだから死者相手ならかなり保つ」 今は弾切れしてるっぽいけど、2~30秒稼げれば、薙ぎ払う一射ぐらいはできる筈と付け加えられ。 「作戦に付け加えますが宜しいですね?」 「敵の敵は味方だよ。少なくとも、今回は」 存分に役立てて欲しいとの言葉にミリィは頷き、矢継ぎ早に指示を出す。 薙ぎ払い引き裂いた死者たちに纏わり付かれながらも強引に、竜一はエスカの許へと合流した。 メアリは意志を籠めた聖光を周囲にはなって死人たちを攻撃しつつ、回復が不足すれば天使の歌を響かせる。 消耗に対しては近付いてきた死体へとヴァンパイアの力を振るう事で抑えつつ戦い続けた。 「ちょっと待ってるんだよ、今回復するからねぇ!!」 富子は傷付いた者たちを庇いながら癒しの力を揮い続ける。 聖神の息吹に加え、癒しの微風を使いながらではあったものの……回復に専念する彼女の消耗は激しかった。 「HAHAHA! そんなヘナチョコな攻撃がアタシに通用するとでも思ってるのかい?」 それでも、力の限界に近付いた彼女は天使の息を使用しつつ……その身体を張って、動けぬ者たちの壁になる。 「アタシは絶対に倒れない、そのためのこの無限の愛(体力)さっ!!」 無論、回避や守りの技術となれば……本職達には及ばない。 それでも、ことタフさという点において彼女は熟練の守り手たちに匹敵した。 「君たちに死なれると厄介だからな」 合流したエスカを庇いつつ再生の力を施したウラジミールが淡々と告げる。 他の3人と同じように驚きで言葉が見つからなかったのか……彼女は短く礼らしきものを述べた。 「君たち4人以上は助けるのは困難だが」 念の為にと確認すれば、この場には4人以外はいないとエスカが答える。 中型魔方陣を展開した理央が3人との間をマジックブラストの砲撃で貫くのを利用して、竜一とウラジミールは皆との合流を敢行した。 瑠琵の氷雨とメアリの聖光の援護を受け、カルプルニアからの攻撃も受けながらも竜一は運命の加護でそれらを乗り越えて。 「俺、この戦いが終わったらエスカたんシルトたんに膝枕してもらうんだ……だから、まだサボれねえ!」 「……揺るがな過ぎるね、キミはホントに……」 呆れるような感嘆を受けつつ、全員の合流が完了する。 だが同時に、楽団員たちの包囲網も完成した。 狙われぬようにと死体たちに自身を庇わせながら、楽団員2人が屋根上へと位置を移す。 そして……最後の1人、ポンペイアもその姿を現した。 ●撤退、排気音を響かせて 「それじゃ、突破口を開こう。すべてはソレッレちゃんの為に」 戦いつつ千里眼で周囲を確認した葬識が、あっけらかんと口にした。 クラウディアの操る死者からの攻撃によって受けた深い傷は、運命の加護で退ける。 飛行ルートは警戒が厳しく難しかった。 1人か2人撃ち落とされるのを覚悟すれば無論可能だが、それは最後の手段である。 下水から撤退も視野に入れつつ、葬識は仲間と背中合わせで死角を無くし、生命力を暗黒の瘴気へと変えて死者たちへと放ち牽制する。 「チームってのは結束力、そうチームワークが大事なんだよっ」 強行突破で深い傷を負った竜一を一喝したのち、富子は穏やかな微笑でそう諭した。 もっとも、諭す彼女が負っている傷も決して浅くは無い。 メアリは一応翼の加護をソレッレの4人にも与えたものの、彼女も空からの全員揃っての脱出は難しいと考えていた。 その為、地下からの脱出も考えリチェルカにマンホールの位置や下水道情報のないかを短く尋ねる。 これは彼女に意識を向けていたカルプルニアに察されてしまったが、その事が死人たちの動きに変化をもたらした。 ポンペイアが操る死体の一部が地下への警戒に向けられる。 少数だったものの、これによって敵の包囲網は三分割される形になった。 飛行しての逃走を最も警戒され、次点で地上。マンホール等も数体が足止めの為の位置を取る。 「気を抜くわけにはいくまい」 霊魂の弾丸による麻痺から味方を守るべく、ウラジミールが邪気を退ける光を放つ。 「何人か囮になれば逃げられる。私たちはこれで充分だ」 「拾える命は拾っておくが良い。『ソレッレの為に』、のぅ?」 「言ったでしょう? 貴女達を守ると」 瑠琵に続くように答えてから、ミリィは理央と頷き合った。 葬識も確認を終えている。 リベリスタたちはソレッレの4人を連れ一気に動いた。 選んだのは、死者の薄い所を狙って強行突破である。 理央は少しでも牽制になればと煙幕代わりの発煙筒に火を付け敵集団へと投げつけた。 竜一とウラジミールが殿を引き受け、それ以外の者が包囲網を破るべく攻撃を仕掛ける。 回復が不足したため、ダメージは一気に蓄積した。 富子、メアリ、ミリィ、理央ら4人が運命の加護に頼らざるを得なくなる。 だが、力が尽きかけていた者はそれすら利用して能力を揮った。 敵を攪乱させた瑠琵も深い傷を受けたものの、運命を手繰り寄せ何とか包囲を突破する。 殿の竜一は倒れたものの富子に抱えられ搬送された。 単独で殿を引き受ける形となったウラジミールもクラウディアの操る死人たちの猛攻を受け倒れたが、理央とシルトによって窮地を脱する。 かろうじて包囲網を突破した一行はそのまま負傷者を抱え、駆けた。 追い縋ろうとする死者たちを何とか引き離し、ミリィとメアリが幻想纏いから4WDを引き出す。 動けぬ者を放り込み、飛び乗って。 「それじゃあね、また遊ぼう☆」 消耗を見せぬ笑顔で葬識が言い切る前に、エンジンが唸りを上げた。 速度を重視した強引な運転で揺れる車内で、幾人かが意識を失う。 それでも……死者は一人もでなかった。 満身創痍で、それでも欠ける事なく。 12人を乗せた2台は、夜の闇を駆け抜けた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|