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<晦冥の道>ad libitum


 権威と実力の中では生きられない弱虫なワタシ達は逆凪ではなくて、金銭に塗れる事のない子供のワタシ達は三尋木にもなれなかった。謀略と合理に身を任せる恐山になれないワタシ達は、玩具(アーティファクト)の魅力に溺れる六道にも自分に溺れる剣林でもなかった。ただ、その身を武器に残酷なまでに殺戮し暴力の限りを尽くしたって裏野部になりきれない『理解されない』ワタシ達は確かに、黄泉ヶ辻だったのだろう。
 生まれながらの黄泉ヶ辻は、そんな私たちと違って『普通』だった。彼女は悪党にすらなりきれない、子供だったから生まれが違えば『正義(アーク)』になることだってできたのだろう。
 ――ワタシたちとは、違うんだ。

「親愛なる我らが『フツウちゃん』は、一生懸命に狂おうとしてる。
 嗚呼、ナンセンス。普通は如何足掻いても普通でしかないのに!
 此処で『樂落奏者』たるあたしは可愛い可愛いリウちゃんにお願いがあるんよ。聞いてくれる?」
 舞台へと誘う様に、『樂落奏者』仇野・縁破は語る。
 黄泉ヶ辻糾未の『親愛なる友人』は明るい青の瞳を明るい桃色の瞳をした幼い少女へと向ける。
「じゃじゃーん。名付けて『仮初トリガー』やで! 『殺し愛コロシアム』の舞台装置には上出来やろ?
 リウちゃんはハルトから貰って玩具を使って遊んで、阿国サンにプレゼントしておいで」
 彼女の手から渡されるネックレス。リウの首を飾る其れは糾未の瞳の色の様に赤い色をしていた。


「焦がれれば焦がれるほどに、必要となっていくものがあるの」
 紡ぎ、謳う様に告げる『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)の瞳が不安げに揺れる。
「お願いしたいのは主流七派のひとつ、黄泉ヶ辻のフィクサードの対応よ」
 黄泉ヶ辻首領の妹君である『黄泉ヶ辻糾未』関連の話よ、とフォーチュナは付け足す。その一言でブリーフィングルームを一気に緊張が支配した。
「とある場所で洗脳セミナーが行われてるのよ。そこでは糾未さんの『お人形』を選んでいるみたいなの」
「お人形?」
「――『お人形遊び』って女の子の夢よね?」
 にこりと笑って、幸せそうに紡ぐ様子に何ら狂気は孕まない。だが、其処に狂気を孕ませるのは『黄泉ヶ辻』だ。閉鎖的であるが上で謎が多く気味の悪い気狂い集団。
「『お人形』はセミナーで選ばれて、検品されて、不純物を取り除いて、改造する」
 一般的な製造過程の様になぞる予見者の表情が段々と曇っていく。
 普通のぬいぐるみやお人形であれば良かったのだけど、と紡いだ後にモニターに映し出されたのは『異様な光景の廃工場』だった。
「此方、皆に対応して貰いたい『お人形製造過程』の一つ、『検品』作業の現場よ。
 この検品作業はセミナーで選ばれた人間を殺し合わせているみたい」
「殺し合わせる……?」
 頷いて、予見者は桃色の瞳に困惑を浮かべる。
 モニターに映った様子は『異様』。二人組を組んだ一般人は互いに武器を持って向き合っている。よくよく見れば血溜まりや肉片が広がっている。嗚呼、何て光景だろうか――
「お人形の材料は一般人。一般人を殺し合わせて、一番イイ材料を選び出す。
 その検品作業をフィクサードは『殺し愛コロシアム』と呼んである種のゲーム感覚で行っているわ」
 ――ゲーム。単純作業ではない、ある種のゲームだ。彼女らは一般人の命を重んじる事もなく『殺し愛コロシアム』と名付けたソレで誰が生き残るかを賭けている。
「助けられる命があるならば、助けない訳にはいかないわ。
 このゲームを終了させて頂けるかしら……悪い夢を、醒まして頂戴」


「名付けて、殺し合いコロシアム! 誰が生き残るかなあ?
 でも今日は特別ゲストがいるの! リベリスタ! ゲームだよ!
 ルールは簡単ッ!
 リウとお友達――6人の中から1人が持っているアーティファクトを奪い取ってね?
 ふふふ、『仮初トリガー』を手に入れたらそちらの勝ち!
 負けは――……殺し愛コロシアムの参加者が半数になったら、かな?
 嗚呼、でも、お嬢様の為に質の良い子を沢山作ってあげた方がいいのかなあ。
 リウ、考えたの。とってもいい方法よ!

 ――ねえ、リベリスタを殺しちゃおうよ。
 一般人だって、数うちゃ当たるよ、大丈夫。リウ達もお手伝いするから。
 ほら、コレこそが『殺し愛』だよね!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月09日(日)23:16
それ故、彼女達は自分を定義する。
こんにちは、椿です。 よみよみ。麻子ST、ガンマSTとの連動。
拙作『<黄泉ヶ辻>Alea jacta est』の流れを汲んでおりますが、ご存じなくともお楽しみ頂けます。

◆成功条件
アーティファクト『仮初トリガー』の確保
(フィクサード生死逃亡はこれに含みません)

◆『殺し愛コロシアム』
深夜のぼんやりとした明りが設置された廃工場。工場自体の広さは其れなりですが一般人(50人)の存在の為にかなり狭く、戦いづらくなっています。
『洗脳済み』の一般人50人が二人組を組み、互いに殺し合っている場面にリベリスタは到着します。
一般人はフィクサードの指示に従い其処に介入するリベリスタに襲いかかります。積極的にペアの相手に止めを刺そうともしています。
目的は『目の前の相手を殺して生き残る』ことであり『何もしなくても』勝手に一般人同士は殺し合うでしょう。一般人にはぼんやりと或る程度の自我は存在しているようです。殺さなきゃ殺されるの潜在意識の元の行動とも考えられます。
 戦場に存在しているフィクサード6人のうち1人が首から下げている『仮初トリガー』が彼らを操っているようです。

◆アーティファクト『仮初トリガー』
黄泉ヶ辻の余興の遊びとして用意されたアーティファクト。赤い石のネックレスの形状をしています。
『殺し合いコロシアム』の参加者を操る事ができます。
フィクサードはリウをはじめとして6人とも首から赤い石のネックレス(ダミー)をつけており、どれが本物かは分かりません。

◆フィクサード『篁・理得』(たかむら・りう)
黄泉ヶ辻のフィクサード。メタルフレーム×ナイトクリーク。
余興の主催。 自らの生きる意味を探し、ブラックコードを振るう年若い少女です。
リベリスタ到着時は一般人らの中に紛れて姿を隠しています。
『樂落奏者』仇野・縁破と呼ばれる少女と深いつながりがあるようです。
 ・Ex:生存エクスキューズ 致命、麻痺

◆黄泉ヶ辻のフィクサード×5
マオト、チタル、ソノ、トモエ、カガリの五人。
種族ジョブ雑多ですが全員が少年少女。『黄泉ヶ辻・糾未』については何か知っている様子もあります。
リベリスタ到着時は一般人らの中に紛れて姿を隠しています。
※フィクサードは危険を感じるorゲームが終了すると撤退します。

どうぞ宜しくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
デュランダル
兎登 都斗(BNE001673)
クロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
デュランダル
ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ダークナイト
街多米 生佐目(BNE004013)


 ぼんやりとした明りが照らす中で荒い息が耳についた。廃工場の中では一般人が、性別も年齢もバラバラの『洗脳』された一般人たちが殺し合っている。
 血が、流れ出る。指が飛んだ。臓腑が抉れた。ぐちゅりと気色悪い音を立てて。
『殺し愛コロシアム』なんて、趣味が悪い名前のゲーム。犇めき合う一般人の中で、くすくすと笑い声が漏れていた。
 嫌だ、怖い、痛い、痛い、イタイ――叫び声が、耳を劈く。
 此処は地獄だろうか。だが、其れを考える脳味噌など存在してなかった。『洗脳セミナー』。行われた洗脳は深い。そしてその中からより良い素材を選び取るのがこの『殺し愛コロシアム』だ。
 開かれた扉の向こう。八人のリベリスタに対して黄泉ヶ辻のフィクサードは笑う。
「いらっしゃいませ、リベリスタ! ようこそ、リウたちのゲームへ」
「人殺しをゲーム感覚とはな。正直まったく分からない……」
 鋭く射る『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の眼差しに篁・理得は桃色の瞳を細めて笑う。理解できない、それが彼女たちの決定的差なのだろうか。リベリスタとフィクサード。
「ゲーム、楽しみにしてきたよ。狙うはハイスコア。パーフェクトゲームだけど」
 こてりと首を傾げて『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)は大鎌を手にくすくすと笑う。ゲームは大好きだ。この廃工場で行われるゲームでリベリスタが完全勝利を収めるなれば。
「一つ、アーティファクトを見つける。二つ、一般人に被害を出さない。三つ、フィクサードをぶちのめす」
「素敵な条件ね」
 疎らな拍手。彼女らが首から下げる赤い飾りの効果か、拍手の数が増えていく。武器を構えた一般人が虚ろな瞳で彼らを見つめた。異様な光景でしかない。へらへらと笑い、飽きた様に武器を構え合う一般人達。
 地面には血溜まりが広がり、今までもこの場所で『選別』が行われていたという事がハッキリと分かった。
「まったく良い趣味をしてるな! 黄泉ヶ辻!」
「本当にね。キサには理解できない」
 言葉を吐き捨てた『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)の隣で呆れたように『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は呟いた。
 理解できない。分からない。その言葉は黄泉ヶ辻のフィクサードにとっては『当たり前』であった。気色が悪いほどに『普通』と掛け離れた彼ら。歪んだ生を受けて、誰にも必要とされないままの彼らは理解者が欲しい訳ではなかった。
 ただ、一人の優しげな面差しの女を除いては。
「黄泉ヶ辻京介の妹、か」
「……黄泉ヶ辻、糾未……」
 唇をゆっくりと動かして、差し金であろうフィクサードを確かめるように呼ぶ『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)の呟きに『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は視線を揺らす。彼女は『妹』であるから、同じ『妹』である糾未の事が少しだけ分かる気がするのだ。
 理解できない事こそが黄泉ヶ辻であったとしても、狂う事を強いられる黄泉ヶ辻のお姫様はきっと『兄』に理解されたいのだろう。
「殺し合う事の何処に、愛があるのだ……」
 その言葉に、理得は笑った。己の存在理由こそが『その答え』だとでもいう様に。


 一般人が殺し合う中で『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が手にしたスタンガンがびり、と音を立てた。
 フィクサード達は一般人に紛れてくすくすと笑みを浮かべている。
 全身のエネルギーを特化させながらも彼女は動き出す。目の前で一般人たちが血に塗れながら殺し合う。運命を得た自分たちなればまだしも、神秘に触れた事のない彼らの体は余りに脆い。
「本当に趣味が悪いな。……趣味に口出しする気もないが!」
 鋭い桃色の瞳を細め、言葉を吐き出した『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)は透明化し、周囲を見回していた。ばちばちと音を立てるスタンガンを片手に彼女はフィクサードを探す。一般人の中に紛れて過ごす彼らは簡単な視認だけでは見分けられなかった。
「お楽しみいただけてる?」
 呻き声、叫び声、抉る音の中で理得の声だけが響いた。この現場が楽しい等と言える人間がいるのだろうか。
「いいえ、全く。一般人を巻き込んだ非道な行為。私は看過できません」
 唇を噛み締めて、近場の一般人にスタンガンを浴びせる。ばちばちと音を立てるソレが首筋に当たり、気を失う一般人にペアは襲いかかろうとするが、真琴はそれを盾で受け流す。
 何もしなくたって殺し合いは続くのだ。其れが洗脳の所為か『仮初トリガー』の所為かはさて置いても、スタンガンを握りしめたリベリスタを『敵だ』と認識してしまった一般人たちは襲い来る。
 神秘を得た者に振るわれるにしては非力なナイフは簡単に一般人を殺してしまうのだろう。抵抗はできない。一般人の奇襲を侠気の鉄で受け流しながら義弘は小さく舌打ちを漏らす。
「侠気の盾、祭義弘。自称するだけの働きはさせて貰う!」
 彼の盾へ一般人ががつん、とぶつかる。だが、その動きが一般人らしからぬものだと彼の超直観が、ESPが告げる。にんまりと『一般人』が笑う。
「お前――ッ!」
 其れがフィクサードであると気付き、彼がメイスを振るおうとする所へと一般人は押し寄せる。人ごみに紛れてしまっては見分けがつかない。都斗は最善を、と歌う。必要となるのはあくまで癒しだ。この場を保つための癒しは、リベリスタ達の身を励まし続けた。
「なあ、知ってるか、この手の趣味に耽る連中に限って、自分も同じ状況に為り得る可能性があるんだ」
「趣味じゃあないけれど!」
 ゲームだし、と笑い声を上げる幼い少女の目は、楽しげだ。役割を得れた事がまるで幸せだとでも言わんばかりの笑み。水を得た魚は、存在の『理』由を『得』た少女は生佐目を見据える。
「さて、あなた達は何人生き残れるのだろうな」
 その言葉に、少女が紡いだ言葉は叫び声とうめき声の中に隠れてうまく聞き取れない。瞬いて、再度聞きなおす前に綺沙羅がキーボードから指先を話した。かち、と軽い音を立てて情報(ソース)を打ち終わった少女は面倒そうに髪を掻き上げる。
「ねえ、一般人が半数切るより前にトリガー回収して、尚且つあんたらを半数以上倒せばキサ達の勝ちだよね」
 綺沙羅の紫の瞳が煌めいた。アークの協力者たる魔女が脳裏で笑った気がする。嗚呼、薄気味悪い。
 背筋に走る悪寒は何なのか。目を伏せる。
「――ほら、これでもう逃げられないでしょ」
 貴女の負けだと言わんばかりに綺沙羅が笑った。幼い少女には思えない笑みは乾ききっている。彼女の瞳には一般人の姿は映らない、右を見る。左を見る。
 うまく分離できたことに小さなため息を零して、彼女の隣で雷音が頷いた。魔術知識を持つ二人のインヤンマスターは互いに『役割』を分担していた。
 深淵を探る様にその新緑が如き鮮やかな瞳はじっとフィクサードの首で揺れるアクセサリーを見つめた。鮮やかな赤色。其れは『黄泉ヶ辻のお姫様』――そんな可愛らしいものではない、もっと歪んで澱んだ普通のナレノハテ――糾未の瞳と同じ色。
「……兄が好きで、兄に近づきたい」
 好きだと思う。痛いほど、分かる。自身の兄の笑顔が浮かぶ。誰かに為りたいなんて誰でも思うだろう。
 曰く、クリエイターは自身の理想を、想いを『作品』に込めるそうだ。なれば綺沙羅のなりたいものだって、そこにあるのだろうか。
「兄に対する愛情か、歪んでるな……」
 黄泉ヶ辻である事を捨てれば、幸せになれるのではないのかと零されたゲルトの言葉にフィクサードが顔を上げる。
 嗚呼、そうだ、何にもなれないから黄泉ヶ辻なのだ。だん、と一気に地面を踏みしめる音がした。ブラックコードがその身に巻きつけられる。一歩、揺れる。二歩、刻みつける。
「捨てられるなら、誰だって……!」
 フィクサードの言葉に雷音は頷く。嗚呼、そうだ。変わりたいと願っても届かないことだってある。叶わないから、憧れる。
 自分だって、糾未だって。
(――でも、どれだけ兄に近づきたくても、ボクはボクでしかないんだ)
 生佐目の暗闇が、綺沙羅の雨が、真琴の鉄槌がフィクサードへと襲いかかる。この場所で有れば、もはやフィクサードが攻撃を仕掛けない理由はなかった。
 黄泉ヶ辻を辞めればというゲルトの言葉に激昂する理得は彼へ向かって黒い糸を振るう。絡め取る、逃がさないとでも言わんばかりに。
 隔離された空間で、外では一般人が殺し合っているのだろうか。懸命に目を凝らして目の前の六人の少年少女の胸元を見つめる。
 ――一つ、違う。
「貴女方の身柄の確保だって、私は考えてるんです。アーティファクトを渡してください」
「それが、救いになるとでも」
 焼き払う様に放たれたマオトの閃光がリベリスタを包み込む。
 ――二つ、違う。
「俺にはお前たちのその『感覚』を認めて遣る理解力も、赦してやる程の度量もない」
「認めてなんていいませんしぃ」
「やれる事をさせてもらおう」
 一点の曇りも帯びぬメイスがトモエの腹へと突き刺さる。其れを受け流しながらも少年は剣を振るう。腹に突き刺さったものを其の侭に、踏み込んで、一閃。
 だが、義弘は怯まない。鋭い赤い瞳を細めて、全身の筋肉を一気に動かした。その場から足が滑る。だが、耐えしのぐようにコンクリートの床を蹴り、輝く武器を突き刺す。
「ほらよ、外の奴らは俺とやりたいんだろう! お前も、恐れずにかかって来いよ!」
 其れが、殺し愛だ。認めて遣れない愛情でも、受け流してやろう。
 ――三つ、違う。
「俺は仲間を守り抜く。俺は、俺達は、お前たちの遊びを打ち砕く!」
「砕いてよ、リウたちの遊びを!」
 踏んでいた。ゲームだというなら彼女の首には掛かっていないと。雷音は目を逸らす。
 輝く武器は切り裂く。彼女が今相手にすべき『敵』でない事に気づいても、幼い少女は挑発に乗るかのように怒り狂い、地面を踏みしめ切り裂く。
「リウは、黄泉ヶ辻でしかないんだッ! 普通のお嬢様は黄泉ヶ辻がいいんだッ!
 生きる場所を選べる喜びを、その身に刻めばいい」
「――お前ッ」
 踏み込む。地面を踏みしめて、舞う。伸びあがったブラックコードが切り裂く。生存エクスキューズ。彼女が生きる上で彼女の存在証明のために生み出した技。身体が、痛む。びりびりと、じりじりと。
 ――四つ、違う。
「今、癒します!」
 真琴が声を荒げて仲間達へと癒しを齎す。自身の身体を傷つけるものを彼女は気にしない。仲間達へともたらし続ける癒しの術に目の前の少女はへらりと笑った。
「優しいんだね、オネーサン」
「これが、私ですから」
 笑みを浮かべて、ブロードソードで受け流す。魔法の矢は彼女のスモールシールドに弾かれる。チタルはくすくすと笑った。
 ――五つ。
「それなのだっ! ……っ、ここは、任せたのだ」
 指さす、其れはディートリッヒの目の前でゆるく笑みを浮かべた少年。光の飛沫を上げて武器を振るう。芸術的な其れを受け流し、彼は息を吸い込んだ。
「俺はさ、お前らとは到底気が合わないんだ。その趣味も、その考えも」
「そう!」
 強烈な踏み込みが、相手との間合いを奪いさる。気合いが、その想いが、圧倒しようとソノの体へと与えられる。だが、ソノはへらりと笑った。
 たん、と地面を蹴った。くるりとその身を回転させながら大鎌を都斗は振るう。都斗のその背中に向かって放たれる魔力の矢は抉る。抉りながらもカガリは笑う。
「お前の相手は、こっちじゃないの?」
「――でも、ゲームのルールにはかんけいないよ?」
 くすくす。笑みを浮かべたままに都斗はその大鎌を大きく振るった。
 首筋で揺れる紅い石。ネックレスは糾未の瞳と同じ色。まるで彼女を『異端』の中から奪い去る事を望むかのようなプレゼント。
「篁・理得。一つ良いだろうか。ボクの兄が君の友達と知り合いなのだ。奇妙な縁なのだな」
「運命の赤い糸でも結んでおく?」
 でも、縁を破るで『ヨリハ』ちゃんだけれど。くすくすと笑う。笑いながらリベリスタへと向けられた攻撃は鋭い。一人、自身の知識を手繰り寄せて雷音はその場から抜けだした。
 今は、まだ、やるべき事があるから。
 影人に庇われながらも綺沙羅はキーボードに指を滑らせた。この空間を維持し続ける事で彼女が狙われることなんて百も承知であった。ゲームは『殺す為』には行われていなかった。
「キサの目はごまかせられない」
 何処に紛れたって、絶対に逃がさない。彼女は雨を降らせる。涙雨、其れは誰が泣いているのだろうか。
『黄泉ヶ辻』のゲーム。首領たる京介が行うソレには程遠い幼稚な行為。まるで、そうなりたい妹に見せつけるが如く樂落奏者は『ゲーム』と称するのだ。
 彼女曰く――分かり合えないのは美徳。
 リベリスタとフィクサードが分かり合えないのだって、其れは『当然』なのだ。けれど、分かる事は一つだけ。
「このゲーム、キサ達の勝ちだね?」


 陣地の中から一人飛び出して、目にした者は一般人の殺し合い。人が死んでいる。
 生きている人だけでもと雷音は歌う。紡ぐ天使の歌声は、響き渡って、傷を癒し続ける。仲間達は未だ戦闘を行っているのだろう。血に塗れた殺し合い――殺し愛を行っているのだろう。
「ボクの手は小さくても少しくらいは助けられる筈……ッ!
 ひとりでも、一人でも多く……多く助けたいんだ!」
 百獣の王の名を冠した少女は一人で歌った。癒しを謳い続ける。全部を、とは言わなかった。一人でも多く。
 その両手は短い。兄の顔がちらついた。
 ヒーローじゃなくったって、良いんだよ。救えるなら。

 一人、死んだ。
 二人、死んだ。

 目の前で、一般人同士の殺し合いが苛烈に行われて行く。洋服の中に隠したスタンガンがばちり、と音を立てる。
 嗚呼、其れで動きを封じる手間さえ今は惜しい。癒すだけ、癒し続けて、救いたい。
(信じさせて。ボクでも、救えるって……!)
 養父へメールを送る文面さえ今は思いつかなかった。救う事にだけ懸命になった。

 人が、死んだ。
 沢山、沢山、護り切れずに――死んでしまった。

 涙が滲む。翡翠の瞳が揺れる。早く。早く早く!
「――アハハ」
 耳朶を擽る笑い声に、雷音は振り向く。綺沙羅の陣地形成が解かれたのだと気付いた。
 六対七。無論、奪われない事を目的としている為に互角の戦いを――それでもアークのリベリスタの方が上手ではあったのだが――行っていた。
 彼女たちのゲームに勝利したのだろう。義弘の手に握られたのは鮮やかな赤い石のネックレス。
 震える膝で何とか立ちながらも篁・理得の虚ろな桃色の瞳は、リベリスタを射る。震える唇は噛み締められて白くなっている。色白の頬は紅潮する。
 彼女たちは黄泉ヶ辻だった。『普通』にはなれなかった。受け入れて欲しかった、生きる意味が、欲しかったから。
「いっそ、殺してよ」
 雷音の目が、ゆるく見開かれる。殺し合う一般人は洗脳が深かった。仲間達が『仮初トリガー』を手に入れてゲームが終了するまでの間、彼女は何をしたのか。
 癒した。確かに其れは救うための第一歩だった。だが、足りない癒しはさらなる痛みを強要した。怪我は増える。癒しを得ても、その身は確かに傷ついているのだ。傷口が抉れる。呻き声が鼓膜を揺さぶる。
「有難う、更に生き伸びさせて良い素材を選んでくれるなんて、優しい『リベリスタ』だね」
 ブラックコードが、ひゅん、と振るわれた。ゲームは都斗の望むフルコンプリートを不可としている。確かに、彼女たちはゲームには勝ったのだろう。
『ゲーム』への勝利は確かだった。一般人は生きている、けれど、其れは果たして一番良い結末だったのだろうか。
「なあ、篁。いい趣だな。このゲーム。……このゲームを計画した屑について全て話せ」
 生佐目の目つきが鋭くなる。こてん、と首を傾げて少女はブラックコードを――引いた。
 雷音の目が見開かれる。綺沙羅が目を伏せる。義弘が拳を固めた。
 とん、と一般人の首が落ちる。見開いた目を其の侭に、震える拳で「ボクは救うのだ」と呟きを漏らす。
 癒しても、癒しても、叶わない。叶えるために、喪わない。けれど、失えば、戻らない。
「全ては『血濡れの薊』を咲かせる為に! 惨めな運命に愛された醜いあひるの子を救うために!」
 鮮やかな桃色の瞳が細められる。黄泉ヶ辻は閉鎖的だ。何を考えてるか分からない――気色悪い場所。
 逸脱を望んだ女はきっと生まれが違えば正義(アーク)にだって行けた。彼女は普通だったから。
「……黄泉ヶ辻糾未の無意味な凶行を止めろと言っても無駄なのか」
 ゲルトの言葉にくすくすと笑う。無意味だと、誰が決めるのか。兄へ向けられた愛情を誰が定義するのか。形ない物は自身達のものさしでは測れない。その想いの歪みを誰も認める事はできない。
 だからこその『逸脱』だ。だからこその――『普通』だ。
「黄泉ヶ辻糾未に伝えろ。俺の命は仲間を、人を守る為にある! 命ある限り膝を屈する事はない!」
 彼の言葉に、少女は笑った。生きる意味さえ見つけられない彼女の前で、生きる意味を示した青年。ゲームのオーナーは樂落奏者。黄泉ヶ辻糾未の『親愛なる友人』はこの場に居ない。

 ――女は一人、泣き笑い。この晦冥の道をただ、突き進むのみ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでございました。
 晦冥の道。黄泉ヶ辻糾未が歩むその道の一つでした。
 護り切る事は叶わずとも、『ゲーム』には勝利で御座います。

 お気に召します様。ご参加有難うございました。