●しあわせのふうけい ぐるぐると、まわる。 くるくると、めぐる。 光の下で絶えず回り続けるそれは、絶えず幸せであり続ける運命そのものといえるだろうか。 幸せであることがどれだけ幸せだったろう。 失うことはどれほど辛いことだろう。 失う悲しみがあるなら幸せなどなくてもよい、と言う者が居る。 失わずに済むなら幸せでありつづけたい、と言う者も居る。 ずっと幸せで、何も変わらず、どこにも行かずここにある。 馬車馬のように幸せで在り続けることと、墓石の下で眠り続けることに、何の違いがあるというのだろうか? ●幸福幻想 「メリーゴーランドって、実際大人が乗ると少しジョークめいてますよね。夢を見せる舞台装置としては優秀ですが、周囲を見てしまったら終わってしまいそうな刹那感とか、その辺りで」 メリーゴーランドの模型に軽く視線を向け、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は小さく頭を振った。 「……詮のない話ですね。今回の皆さんの撃破目標はフェーズ1のE・ゴーレム、『ハピネス・ラウンド』の撃破です。現時点では外部への能動攻撃はありませんが、今後の状況によってはそうも言い切れません。この機に撃破しておきたい」 「攻撃してこないなら、ただぶん殴れば壊れるんだろ? そんなの」 「……実際、そうだったら皆さんをお呼びすることもないのですが。これ、外部からの一切の攻撃を受け付けないんです。破壊条件として、『これに乗り、無事に降りられた後に攻撃を行う』ことでしかダメージを与えられないと、そういう」 「乗るだけ? 乗ってる間に何か仕掛けでも動くのか?」 乗ることが条件、ということは、そうしなければ条件付けが発生しないということだろう。そして、降りてから攻撃するなら、乗っている間に何か起きて、「それができなくなる」からリベリスタが呼び出されたわけだが。 「このメリーゴーランドに乗っている間、皆さんは『幸せな記憶』と対峙します」 「……幸せならいいんじゃねえか。何でいきなり」 「そう、思いますか? 『当たり前の不幸』を経験してきた皆さんが、『当たり前の幸せ』を得たあの日を一瞬でも取り戻して、果たして放棄できますか?」 リベリスタが、小さく唸る。幸福なことなんてなかった、と言える人間は居ない。 リベリスタとしての幸福、『人』としての幸福。それらを否定できることはできないはずなのだ。 「例えば日常。例えば現在。現実の幸福と対峙するというのはなかなか、難しいと思うんですけどね……」 「……出来なかったら、どうなる」 「放棄できなかったリベリスタは、犠牲になりかけて……何とか救出できました。再起は難しいでしょう。それだけ、幸福というのは重いのですよ」 それでも戦うか、と問う。 それでも勝ち取るか、と問う。 不幸に塗れる今とその先を。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月13日(木)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●幸福という世界常識 「……ファンシーすぎる!」 記憶を得ることで何らかのルーツを得ようと考え、エリューションと対峙した『超過機動』フィーネ・イニティウム(BNE004169)の口から零れたのは、目の前に鎮座する『エリューション』を見たが故の素直な感想だった。 ファンシー、という表現は強ち間違っては居ない。集められたリベリスタ達の眼前に在るのは、誰がどう見ても一見して明らかに、『メリーゴーランド』である。 ファンタジー世界の代弁者であるその回転機械は、確かに人々の幻想を背負ってあり続けることを宿命付けられた存在だ。確かに、一見してとても、世界崩壊に関わる悪鬼羅刹のひとつとは思えない。 「なんて優しく、そしてなんて残酷なんでしょうか」 そんな彼女の脇をすり抜け、ほぼ同じ色合いの服に身を包んだ『Sword Maiden』羽々希・輝(BNE004157)は躊躇なくそちらへと乗り込んでいく。 神秘事件に挑むのは、彼女とて経験は少ない。だが、目の前の存在に恐れているようではこれからの戦いは生き残れないだろうし、事実として求められるのは幸福すらも組み伏せる覚悟である。 だから、ここで踏み留まればそれだけで、覚悟の一端は嘘になる。それだけは、避けなければならないのだ。 「どちらにしろ乗らないと始まらないなら、乗るしかないですネ」 飄々とした空気を漂わせ、ふらりと馬の背に指をかけたのは『超絶甘党』姫柳 蒼司郎(BNE004093)。緊張感の欠片もなく、当たり前のように馬の背に体を横にして乗り込む。 分かりやすく述べれば、乙女乗りとでも言おうそれである。まあ、確かにそれなりの安定性が……いやあるってことでいいんじゃないだろうか。 割と、この状況に適応しているようですらある。 「……あたしは」 幸福なんて無かった、とアメリア・アルカディア(BNE004168)は口を開こうとした。だが、それは嘘だと知っても居た。 全くのゼロではない。未だ多感な時期にある少女が、一つ一つの記憶に巧妙に蓋をし、当然のように無視して生きていけるなら、それはどれだけ残酷な世界の律動だったのかと。 それは真実である。彼女が『そう』育てられたのであれば、幸福を思い返せぬほどに崩れた世界であっても仕様のないことなのだろう。それでも、得るものがあればと。 「オレおじいちゃんだからね……何かあったらホント……」 「SHOGOは僕と同い年だろ」 よぼよぼとした老人のように語る(或いは騙る)『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は実際のところ、若々しいにも程があった。 考えてみればわかる。三十絡みではあろうが、三高平で言えば若い年代でもある。彼なりの冗句なのだろうが、まあこんな言葉が出てくるだけの色々があるのだろう、とは思われた。 それを傍らで窘める『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)の冷静な指摘は、恐らく彼には届いていまい。届いていても、彼は何時も通りなのだろうけれど……それ以上に。 寧ろ、彼は――そういう、表に出さない諸々を隠しもしないが故に、誰も気付こうとはしないわけだが。 「……人間だからこその幸せってあるでしょうに」 他方で、『無殺人のグランギニョラー』愛敬 京介(BNE004131)の言葉は冷ややかであったように思われる。 人並みの幸せというのは、彼の分類するところでは『食って増やして寝て』ぐらいだろう、というところ。 そんなものが家畜とどう違うのか。そんな価値観にどれほどの値がつくのか。彼には理解できないと、言う。それだけの人生だっただけに、か。それほどの人生だったが為に、だろうか。 そんな当たり前の幸福論は、彼を満たすには虚ろすぎた。 「あなたにとっては、そうかもしれないわね」 何を以って幸せと呼ぶのかは、人それぞれであるのかもしれない。であれば、『モンマルトルの白猫』セシル・クロード・カミュ(BNE004055)にとってはその「くだらないこと」こそが幸福であったのだろう。 自らを否定されることに関して、彼女に感傷らしきものは感じられなかった。寧ろ、自らのそれは取るに足らぬものである、と彼女自身が理解しているかのようでもあった。 何処にでも転がっている幸福の一端を、ありがちな結論を、しかし彼女は大切に思っていたからこそ自ら断ずる事ができるのかもしれない。悠然と歩を進める姿に、躊躇いの色はない。 フィーネは、眼前に鎮座するメリーゴーランドを再び眺める。そこにあるのは現実であり、戦いを挑む敵である。 戦士に求められる戦いは時に意に沿わぬ非情を与えるものなのだと、理解し折り合わねばならない。 故に、彼女の身はその戦場に身を投じる。何より優しく、何より痛々しい戦いへと。 ●幸福論は甘い毒 「彼らなら彼女を蘇らせてくれるだろうかとふと思ってしまったが……」 眼前で、柔らかい笑みを湛える女性に視線を向け、詮ない事だと達哉は頭を振った。『楽団』を名乗る死者の操り手が、自らの妻を蘇らせてくれるなど、どう足掻いても無理な話である。 だからこそ、記憶に縋る事を選択したとも言えようか。 想起される二十年来の記憶は、決して遠くにあるものではなかった。たとえ二人が結ばれるきっかけが政略的なものであっても、ともにいることを当然のものとして受け入れていた彼にとって、彼女というのは人生そのものだったのかもしれない。 眼鏡で、人よりもドジで、巨乳で)、つまるところは彼にとっての理想だったと言うべきか、想い人が理想になったと言うべきか。 そんな日々が、幸福ではないと言えようか。 「恥ずかしながら告白致しますけど……人間を殺害したことないのです」 仮初の空間で大仰に手を広げ、京介は告白する。 人生五十年、と現代においては余りに割り切っている死生観を持つ彼にとって、殺すことは現実的な行為であり、望むべきそれであった。 だが、彼の『現実』は満たされたことがない。人を殺したことなど、只の一度もありはしないのだ。 ……というのも、だ。彼の幸福は『妄想』であったが故だ。 一度として人間を殺したことがない彼に許される幸福は、闇の底で延々と殺戮を妄想する行為そのものだった。 そして、妄想が過ぎる余りに、彼は殺傷に対して美食家に過ぎた。 生存本能を殊更に強調する存在など人間の皮を被った家畜であると。革醒者の類など、人外であると。 だから、人を殺したことも無いし想像はどこまでも翼をひろげていられるのだと、彼は幸福の妄想の波間に浸る。 「……ううん、確かに幸せはあったよ」 理性は幸福を否定しようとした。だが、アメリアの『真実』は確かに幸福を許容していた。だからこそ、その場に現れた幸福は鮮烈だったと言えるだろう。 殺し屋であり捨て駒。幼いアメリアが育てられる理由が如何な打算によってであれ、彼女の居るべき場所はどこまでも彼女に優しかった。 本当の兄弟のような同志と、自らを育ててくれたシスターは確かに彼女にとっての幸福であった。 相対的に見れば彼女は人並み以上に不幸だったのかもしれない。何時死ぬともしれない運命は確かに凄絶だったのだろう。 それでも、だからこそ輝く日常があり、触れ合う幸福があり、刹那の感情を輝かせる日々があった。 だからこそ、笑い合えるその時間は彼女の精神と肉体を真綿で締め上げるように感じさせるのだろう。 幸福だと、魂の底から信じられるその時間が、遠く愛おしい。 蒼司郎の眼前には、彼が失った筈の日常が広がっている。幸福なあの日が横たわっている。 家族が揃っている状況はそれだけでも貴重だった。だから、その記憶だけでも彼にとっては幸福だったといえるだろう。 それが、両親の夢が叶ったタイミングだったなら尚の事幸福であったに違いあるまい。 「だと思った」 対する彼は冷静だった。否、初めからこの記憶が現れることは予想していたのだろう。これ以上の幸福なんて無いのだ。 新しい住まいは両親の夢の結晶で、離れるべき家はしかし、過去が染み付いた大切な場所だった。 でも、これからの未来を思えばその別れも愛おしいと思える程度には、彼は幸せであり。 笑い合う家族を前に、金縛りに遭ったように動けない足は、現実を見据えてのものだったのだろうか。 「どう? いかにもありがちな話でしょう?」 その姿は夢幻だとわかっていても、セシルの胸に込み上げる多幸感は決して嘘偽りの類ではないことは、彼女自身が分かっていた。 刹那的な感情や快楽や嗜好では決して抗いきれないそれは、明らかに一人の少女の絶頂期であったと言えなくもないだろう。 人生が輝きを増すことを知った日、感情全てを幸福に塗り替えて未だ足らぬほどの想いは、たしかにその時存在していたのだ。 幸福とはそんな風に、日常を彩るもの。身も心も固く強く結ぶ絆が、巡り巡って楔となるとは終ぞ思わなかったろう。 それ以外の幸福を思い返す前に多幸感が押し寄せ、疑問を押し流す。静かに、だが確実に。 翔護は、今までの人生を適当に生きてきたと思っている。 そして、これからもそれは変わることはないのだろう。だから、たった一瞬でも輝けた自分というのはどこまでも幸福であったはずである。 たとえ、それがどのような結末を迎えるか、今は知っていたとしても。 幸福である『瞬間』は、彼にとって忘れ難く得難い過去であることに変わりはない。 ボランティア――といっても。目的を達成するためには人も資金も必要で、足りないものを補うには何を使ってでも達すべき先があった。 『ヤスクニは俺達の誇りだ』 そう言ってくれた人々の顔を、彼は忘れない。忘れるわけがないのだ。 褒められる事を多くは知らない彼を、家族同然となった者達が受け入れ、褒めてくれている。たとえそれが自身以外の功績であったとしても、それを成し遂げたのは誰でもなく翔護自身。 だから、手を伸ばさずにはいられない。輝ける日々の残り香に。 フィーネの眼前に広がる風景は、祭りの喧騒だった。 自らの身を鑑みれば、十に満たぬ姿であることを意識しただろう。 大人も子供も笑っていた。特別、とは人の心の拠り所となる言葉である。二度とないだろうと言われたその祭りの中で、花を抱えて歩く自分。 友人と歩いている風景は確かに幸福だった。今となってはその記憶も遠く、はしゃぐことも出来はしない。 幸福な記憶は、飽くまでも自らの奥底にあるそれだ。 記憶のない自身に滑りこむ幸福が、どれだけの重みを示しているかは自身で気づいているであろう。 記憶の中の笑顔が、いつ自らが湛えることができるのかは解らない。 ただ、一秒でも長くこの幸福を味わいたいと願うのは必然だった。心の中に滑りこむ感情を、否定するほど彼女の感情は練達に至っていない。 輝の幸福は、ただ平凡な日常の中にあった。 少し前までは当たり前だと思っていた日常が、形質を変えて自らに牙を剥く。 だから、その寸前までは、彼女の誕生日までは、確かに幸せだったのだ。 誕生日を祝う家族。その日その最中、確かに自分が世界の中心だったことは理解している。 誰よりも幸福であることが出来たあの瞬間は、彼女を縛る楔でもある。 鮮烈な不幸を何より覚えている。だからこそ、その幸せは輝きを増す。次の瞬間、悲劇のページを開く手は、確実に止まるであろうことを彼女は誰より知っていた。 人の心の中、幸福は最も重く深い感情として蟠る。 そして、彼らはソレに抗う術を知っている筈だ。知っているからこそ、葛藤はより深い。 ……幸福を享受することは容易く、切り離すことは難しい。それは、覚悟の証明であるのだから。 ●決意、血の味に塗れ 「僕が料理を始めたきっかけも、音楽を始めたきっかけも彼女だったな」 幸福な時間が繰り返し流れ、次々と現れては達哉の感情を刺激する。 彼女の為に料理を覚え、彼女のセンスを引き継ぐように音楽を学んだ。 その時の出来事が自身にある種の性癖を植えつけたことは否めないが、或いはそれは亡き妻の影を追う行為にも等しいのではないか。 体から失われる力と熱を感じながら、震える足で立ちながら、それでも『幸福』であることを願った彼は疑いようもなく、感情的で、ここではとても、『愚か』だった。 「『知的感情を満たす人の殺害』が楽しいでしょう!」 京介の妄執は、頂点に達しようとしていた。 ただ生存本能に従う人間は駄目だ。家畜に過ぎない。眼前に立ちはだかる革醒者は駄目だ。人を超え過ぎていて殺しても価値はない。 ならば、彼の求める『人間らしい人間』とは……即ち、矛盾を孕む感情そのものである。 無意味に殺人を犯す者を殺す。矛盾を理解しながら行動し、知識と感情の鬩ぎ合いを続けるものを殺す。想いを切り捨てようとする者を殺す。 感情だけでは動物と同じだ。そこに知的な位置を得ることで、それは人を人たらしめる部分となる。 ……それでも。それは結局の処妄想に過ぎない。彼の想いの中で切り刻まれた肉塊など、質感の無い情動の身動ぎに過ぎない。 そんなものは美学でも何でもない。終わらせよう、と彼は笑った。 アメリアが、静かに背中に指を伸ばす。 確か、この傷を作った時もみんなが看病してくれた。 喜びも悲しみも分け合えた、その幸福……それが終わった時のことも、確かに覚えていたのだ。 いけないことをしていたのだから、何時か終る幸せだったから、それを手放す日が来ることも彼女は最初から知っていた。 だから、今はそこから出ていかなければならない。「いけない幸せ」を「有益な不幸」に変えるために、今を掴まなければならない。 「行ってきます」 幸せが崩れていく音を背に、静かに少女は歩き出す。 助けられなかった過去を打ち消すために、他の誰かを助けたいと思った。 助けられなかった過去を掻き抱く己の心は、どこまでも汚れているのだろうか。 忘れられないその記憶が、自らを縛り付けることを彼は知っている。 そして、その感情の端に産まれた……誰かの幸福を共有できた自身の感情。 そう、誰かを救うことを喜びとするのは、自らの失ったものの重さを弁えているからである。 なら、自らの不幸さえも未来への喜びへと昇華出来る事を、彼は理解していたのだ。 「俺は生きるよ。……だから」 別れを告げよう。自らの想いを胸に残して。 「愛さえあれば他に何も要らない。そう信じて疑わなかった頃の私は、もうこの世の何処にもいないの」 世界全てが二人だけのものであれば、それは幸福と呼べたのだろう。 幸福な日々は、幸福な現在を産むことは無かった。 フィクサード同志の抗争であっけなく死んだ相手のことを、思い返す暇がある程彼女は余裕がなかったのは確かだ。 思い出が与えてくれる幸福は、彼女にとって既に重要ではなかった。思い返すことすら、勿体無いと思うほどに。 過去の多幸感よりも、今そこにある悦楽が上回ったことは……果たして、幸福だったろうか。 「でも、オレもう行かなきゃ」 仮初の酔いを身に纏い、翔護はガジャと呼ばれた男の肩に手をやった。 駆け寄ってきた少女――ナラのことも片手で制止し、離れたところで惜しむように頬を歪めた老婆、パンムという名の彼女へも視線を向けた。 吐き気がする。幸福を自ら捨て、切り離す作業は最悪の苦痛が伴うことは理解した。 結局、自分は何もしちゃいなかったこと。彼らの命に、僅かな間仮初の幸福を与えたのは自分だったこと。 みんな自分がやった。自分が殺した。だから、幻影に引き金を引くことなど、造作も無い筈なのだ。 声なき絶叫が、幻想の闇を劈いた。 思い返された記憶が、フィーネの胸で反響する。 確かにそこに幸福があったこと。世界は確かに自分に優しかったこと。 はしゃぐ感性が、確かに根付いていたことを思い出す。 だから、その記憶だけは確かに抱きしめていたいと思う。そして、立ち止まってはいけない、とも。 拠り所は、いつでも戻れる場所なのだ。留まるための場所ではないのだ。だから、何時か戻るために。 今に、指をかける。 指を掛けたその先から、輝は先へ進めない。 絶望が待っている。血と瓦礫と涙と後悔。世界の中心が遠くへと置き去りにされた感覚は、指をかけられず止まっている。 なんで生きているのだろうか。なんで死ぬことが出来なかったのか。 運命が自分を生かした理由なんて知りたくなかったと、あの日の自分は泣き叫んだ。 それでも囚われていられないことを、彼女は理解している。そうでなければ、その翼は小さく折りたたまれたままだったろう。 広げるに値する戦いをするために。目の前の風景を塗り替えるために。立ち上がることしか、許されない。 過去に、想いに、心に、幸福に弓を引く。 決して、それらを軽視するためにではない。 それらに対し、誠意を以て叩き潰す為に、である。 崩れて行く夢の欠片の向こうで、体を引きずるように出てきた達哉が息も絶え絶えに崩れ落ちる。 伸ばした指先にはもう、何も残されては居ない。残されたのは、先に伸びる未来への階、ただそれだけ。 余談ではあるが。 「……あ、キャッシュからのパニッシュ? アレは居酒屋で考えました」 だそうである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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